聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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◆挿絵(ナギサの覚悟)

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第31話 ナギサの揺れる心

 

 

 そして、ナギサは今まで以上に心を決めて政務に励んでいた。

 

(――ミカさん、あなたの想いは受け取りました。また……3人でお茶会をしたいと言ってくれたこと、嬉しかったです。……けれど、もうセイアさんは居ないのです。あなたも、それは知っているはず)

 

 まさに鬼気迫る、と言った様子で机に向かっている。彼女のやることには誰も口を挟めない。強権をもってエデン条約の実現に向かって諸々を進めていく。

 

(だから……あなたにホストの座が渡る前に私が全て整えて差し上げましょう。エデン条約の成立、さらには”敵”を倒すことまで。セイアさんを殺した、その敵を倒さなければあなたに安寧は訪れない)

 

 ゆえに、ナギサは自らが悪とそしられようとも全てを完遂することを決めていた。ミカもそういう気質があるが、やはり幼馴染では似たところも出てくるのだろう。

 鬼気迫る様子で、他のティーパーティー傘下もナギサには口出しできない。どれだけの軋轢を生もうと一顧だにしない。それさえ終わったならば、自分の結末がどうなろうと文句はないと断じるから。

 

「――少し、よろしいでしょうか?」

 

 そこに、無理やり入ってくる影が一つ。いや、更に後ろに幽鬼のようにのっそりと蠢いて続く影が続く。

 正義実現委員会の羽川ハスミと剣先ツルギだった。特にツルギは凶悪な気配を撒き散らして、まるで死神だ。

 

「今は忙しくて。後にして頂けると……」

「そういう訳には行きません」

 

 目線もくれずに書類に没頭するナギサに構わずに進んでいく。どうにか止めようとする護衛を無理やり押しのけてナギサの机の前に来る。

 

「……」

 

 それでもなおナギサは書類仕事を続けている。

 

「いい加減にしてください。いつもあなたはそうです。秘密主義で……人を信用しない。一人で全てを進め、他人の事情など斟酌しない」

「……」

 

 ナギサが書いていた書類をひったくる。そこで初めてナギサはハスミの方を見た。

 

「ですが、今回ばかりはそうもいきません。……ミカさんをどうするおつもりですか?」

「……ミカさん、を。どうする……とは?」

 

 睨みつけるハスミに対して、ナギサの方は顔色一つ変えずに冷たく睨み返している。

 立場はナギサの方が上だ。……けれど、ここで実力行使に出られたらナギサはどうしようもない。この場に居る護衛など、ハスミ一人すら倒せない。

 

(ですが、正義実現委員会は”敵”ではないでしょう。スパイの存在こそ考慮する必要がありますが、この二人がその気になれば私の始末など容易いですし。見逃していただけだったとしても、今その優位を捨てる理由はない)

 

 ナギサは冷徹に計算する。けれど、ミカの名前を出されたときに少しだけ顔色を変えてしまったのは、本人も気付いていない。

 

「とぼけないでください。あなたはミカさんを幽閉している。確かに彼女はあなたが推し進めているエデン条約にとって都合が悪い存在かもしれません。けれど、その機に乗じて彼女に何かをする気なら許しません」

 

 虚偽は許さないとばかりにぐい、と顔を近づける。

 ついぞなかった正義実現委員会とティーパーティーの衝突が起こりかけている。自分たちは治安を維持する側だと自らを戒めていた正義実現委員会が、政治に干渉する形になっても構わないと――今、敵意を向けている。

 

「……ハスミさん。なぜあなたがそこまでするのですか? これはティーパーティー内部の問題です」

「こちらの問題だから干渉するなと、ナギサさんはいつもそればかりです。……ですが、それは友人を見捨てる理由にはなりません」

 

「友人……ですか? 失礼ながら、あなたとミカさんは一度会っただけでは? それ以外の顔合わせという意味では、私の方がよほど回数は多いと思いますが」

「回数など関係ありません。あの人は良い人だと思います。……ツルギも、そこは同意見です」

「……あはあ」

 

 凶悪な笑みを浮かべて宙を見ているツルギに、ナギサはちょっと引いた。ここで襲われることはないだろうと理屈では分かっていても、ちょっと怖かった。

 そもそも、覚悟を決めたと言っても決めた気になっているだけだ。その時になれば、自分はきっと泣きわめいて命乞いをするのだろうと思っている。逆にぶちのめしてやるなどと言う様な武闘派ではないと自分が一番知っている。

 

「そうですか。ですがハスミさん、エデン条約についておっしゃっていましたが……あなたこそエデン条約は都合が悪いのではないですか? あなたたちを繋ぐものがあるとすれば、それは……」

「いえ、ミカさんにはエデン条約については何も伺っていませんよ。私たちが話していたのはシャーレについて、です。それに、先生はエデン条約を歓迎するでしょうから」

 

 シャーレの名を聞いて、ナギサは無自覚に瞳を吊り上げる。先生については、それほど快く思っていない。

 ミカがことあるごとに嬉しそうに話すのを嫉妬している、なんて認められるはずもないけれど。

 

「『シャーレ』……! ミカさんがおっしゃっていた先生とやらですが。あの方はそれほどの存在だと?」

「あ、いえ……私から見てもミカさんは先生に関しては行き過ぎた気持ちを持っていらっしゃると思いますが。ですが、先生はミカさんの気持ちを悪いようにはしませんよ。失恋くらいは、するかもしれませんが」

 

「なるほど。では、ツルギさんも同意見でしょうか? なにせ、あなたも会ったことはおありのようですから」

「――イヒヒヒヒ」

 

 なんで地獄の底から響くような声を上げたのかは分からないが、ナギサはツルギのことは放っておくことにした。

 

「なるほど。私からの観点では、トリニティの外の人間をそこまで信用するのも危険なように思いますが。……しかし、連邦生徒会長の指名した人物でしたね。なるほど、それだけの影響力を持つ人物ですか」

「ナギサさんの危惧するようなことはありません。先生は、トリニティに不利益をもたらす方ではありませんから」

 

「それはキヴォトスの、と言うことでは? 確かにあの連邦生徒会などよりもよほど信頼できるのでしょう。ですが、”みんな”のためになることが……トリニティのためになるとは限りませんので」

「先生は生徒みんなのために動いてくれます。あの方は信頼できる大人です。あなたのように、私利私欲のために動くような……!」

 

「――そう見えるかもしれませんね。なるほど、ハスミさんの気持ちは理解しました。ミカさんのことを心配しているのですね。それは先生に言われて……ということでしょうか?」

「いいえ、これは私の意思です。確かに先生もミカさんに連絡が取れなくて心配していたようですが」

 

「……連絡が、付かない?」

 

 ナギサは眉を潜めた。

 

「あなたの仕業ではないのですか? 彼女を幽閉して、誰にも会わせないように……などと」

 

 そして、これにはハスミも困惑する。普通は幽閉と通信手段の途絶はセットだ。というか、連絡が取れる状態ならなぜ幽閉しておくのかと疑問になる。

 

「はい。今は皆さんに彼女に会うのは遠慮してもらっています。ですが、連絡は付くはずですよ。スマホは返しましたし、通信制限もかけていません」

 

 互いにきょとんとした顔で、少し雰囲気が和らいだ。

 

「……では、なぜ先生はミカさんと連絡が付かないのでしょうか?」

「ミカさんが先生に愛想を尽かして着信拒否しているとかでは? ミカさんは大分きまぐれな方ですし。それか……いえ、なんでもありません」

 

「それか? 何か心当たりがあるのですか?」

「私はミカさんの友人ですし、彼女の性格も分かっていますから多少は想像が付くこともあります。先生のことについては、少し私の方でも話してみましょうか」

 

 のらりくらりと相手の質問をかわすナギサ。ミカがご執心の先生のことについては語気が荒くなるけど、それ以外では暖簾に腕押しだ。

 

「――あなたでは埒が開きません。ミカさんに直接会わせてください」

「ミカさんと? 連絡を取れば、別に直接顔を会わせる必要はないのでは?」

 

「私が直接会いたいのです。それではダメですか?」

「ミカさんは疲れているようですし、今はあまり人と会わせたくはないのですよ」

 

「疲れている……それは、もしかして――セイアさんと同じように」

「――ッ!」

 

 その名前を出したとたんに、ナギサはハスミのことを睨みつける。

 

「……」

「……」

 

 どちらも譲らないとばかりに睨み合いを続ける。基本、こういう場合は正実の方が引いていた。当たり前だ、立場として偉いのはティーパーティーなのだから。

 けれど、今回に限っては譲らない。友のために、そして自分の信じる正義のために。

 

「ぎひ」

 

 ツルギがひとつ笑い声を上げて服の中からショットガンを取り出す。2丁拳銃スタイル――だが、移動時などは一本しか持ってなかった。

 つまり、それは臨戦態勢になったということである。

 

「ツルギ委員長、ここはナギサ様の執務室です。お控えください!」

 

 傍で立っていた護衛がツルギに向けて銃を構える。そう、これは正しい行いだ。ここで悪いのは、こんな行動を取るツルギの方だ。”法”に、そして政府に逆らうに等しい行為だ。

 けれど、ハスミは止めもせずに静かにナギサを睨みつけている。

 

「やめてください。あなたは少し席を外してください」

「……ッ! ですが、ナギサ様!」

 

 そして、ナギサはそれを咎めず護衛に退席を促した。

 

「二度は言いません。良いですね?」

「……承知致しました。何かあればすぐに突入しますので」

 

 人払いを終えたナギサは席を立つ。机を回って、ハスミと目を合わせる。

 

「ミカさんとのこと、通話ではいけませんか? ハスミさんなら、ミカさんも出ていただけると思いますよ。なんなら、私の方からかけましょう」

「それは駄目です。通話なんて、いくらでも誤魔化せますから」

 

「……信用されていませんね」

「あなたの普段の行動を考えれば当然では? それに、最近は――」

 

 ナギサは宙に向けられたままの2丁のショットガンを見ながら考える。

 

(この方たちをミカさんに会わせても良いのでしょうか? ですが、状況証拠としてはこの二人はほぼ白。それに、ミカさんの護衛はティーパーティーでまかなえないから、正義実現委員会の力を借りない訳にはいかない)

 

(――そもそも、スパイがティーパーティーの中に居ないとも限らない。ミカさんの護衛は正義実現委員会とティーパーティーのローテーションで回して互いを監視させるしかない。それを考えれば、ミカさんに会わせないというのはデメリットばかりの選択ですね)

 

(あの護衛も、ツルギさんが相手では私が逃げる時間を稼ぐこともできなかったでしょう。正義実現委員会の方々の私に対する印象はよくないですが……その分ミカさんの株が上がっているように見えますね。都合は良いですが、少し癪ですね)

 

 一つ頷いて、そこで諸々の感情を飲み込んでいつもの胡散臭い笑みを作る。

 

「ええ、分かりました。ミカさんに会わせましょう」

「……本当に?」

 

「嘘を吐く理由がありますか? 私も同行しますので、すぐに行くとしましょうか」

「――嫌に決断が早いですね? いつもは後回しにするのに」

 

「いえいえ、やるべきことはすぐに取り掛かりませんとね?」

 

(――なんて。”この機会に”と不届きものが現れないように、ということですが。情報が漏れては4人での会談が利用されるかもしれません。それなら、即決で行ってすぐに終わらせた方が良い。”敵”に付け入られるような隙は、減らすにこしたことがないのですから)

 

 全ては”敵”に対抗するため。結局はエデン条約もそのための手段であり、未来の仕事を減らす仕事でしかない。

 ミカを殺させないと、決めたのだから。そのために全てを捧げると決めたからナギサは果断に動く。

 

「あなたがそのつもりなら都合がいいです。では、私の後ろをついてきてください。ナギサさん」

「場所は分かりますか?」

 

「警護しているのは正義実現委員会なので、場所は聞いています。鍵は持っていませんが」

「そうですか。鍵は私が持っています。行きましょうか」

 

 三人で歩き出した。

 

 

 

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