聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第32話 話し合い

 

 

 そして、三人はミカの部屋に直行する。牢獄にふさわしいいかつい石の通路を抜け、幾人が声をかける中に顔パスで通り抜ける。

 まあ、それでいいのかという疑問もあるだろうが正義実現委員会の委員長と副委員長、顔が分からない奴が居ればそれこそそいつがスパイだ。

 何かのイベントが起こるわけもなく、3人は扉の前にたどり着く。

 

「ミカさん、今よろしいでしょうか? 入りますよ」

「あれっ!? ナギちゃん、今日は早いね! あっ! ちょっと待って! 今、レースが……! ああっ、抜かれそう……!」

 

 部屋の中からは慌てた声が帰ってきた。そして漏れ聞こえてくる何かのBGM。

 

「はい……? 抜かれる……とは、何が?」

「いや、今は良いところだから……! ちょっと。ちょっとだけ待ってて……!」

 

 焦ったような声が牢獄の中から聞こえてくる。中はホテルだが、外はまんまシステマティックな監獄である。

 まあ、効率的に監視業務を行おうとしたらそうなるのだが。そこは色々と事情のある貴人を守るための監獄、そのための建造物だ。

 ただし、中に入れられた本人は至って気楽な様子なのがどうにも肩透かしの気分を味合わされる。

 

「……? まあ、いいです。入りますからね」

「え……待って、今いいとこ……! あ、負けちゃった」

 

 部屋に入ると、ミカは寝転がりながら真剣な様子で自分のスマホを見つめていた。

 

「いや……何をしているのですか?」

 

 ナギサが怖い顔をして聞いた。つかつかとベッドの隣まで靴音を立てながら歩いて行く。

 

「え? いやあ、まだナギちゃんは来ないと思ってたし……ちょっとね?」

 

 ミカは自分のスマホをすすっと後ろ手に隠した。少しはみ出ているのでバレバレだ。

 もちろん、計算づくでのことだが。そこに隠せば普通に見つかるのを分かってやっている。なにせ、本当に操作していたスマホはベッド脇の隠しポケットに入れた。ちょっと部屋を探索したくらいでは見つけられない隠し場所だ。

 前の世界でもナギサが殺されないように実行部隊を前線で見張るような馬鹿な真似さえしなければちゃんと黒幕をやれていた女だ。裏での動き方くらいは知っている。

 

「……これは、クラブ・ふわりん? なにか、かわいらしい動物さん? が泣いているようですが」

「あっあっ、返してよう。ナギちゃーん」

 

 ナギサは後ろ手から少しだけ突き出ているスマホを奪って画面を見る。ソシャゲというものくらいは分かるが、こういった知識には疎い。

 忙しくて手を出せない、ということで興味もなかった。

 

「ああ、クラブ・ふわりん。私も触ったことがありますよ」

「……きひひひひひっ!」

 

 くすくすと笑うハスミと、狂気的な笑みを浮かべるツルギ。ツルギに至ってはまるで動物の解体シーンでも見た猟奇殺人鬼のような笑みだった。

 

「おや? 有名なのですか?」

「ハスミちゃんはともかくツルギちゃんまでやってるとは思わなかったよ」

 

 ツルギのことは、ナギサは長い付き合いで気にしない処世術を身に着けている。ミカに至っては普通に接している。

 まあ、ヤバい上に強いというのが人付き合い上の問題で、ミカは強さでは同格と言う自負があるからという関係もあってうまくやれるのだろうが。

 

「えっ? ミカさん、今ツルギさんが何をおっしゃっていたか分かったのですか?」

「え? 頷いてたし今のは分かりやすくない?」

 

「いえ……ツルギさんはいつも意味不明な動作をしていらっしゃいますので」

「まあ、そこは適当に? 別にちょっとくらい間違っても気にしなければ問題ないし」

 

「政治の世界では僅かなニュアンスの違いが致命的になるのですよ? ミカさんはホストのお一人としての自覚が薄いようですね。……それに、いきなり訪れた私も悪かったですが、ベッドの上で寝転がってゲームなどどういう了見ですか? まったく、はしたない」

「え? いやあ、みんなやってない? だって、ほら……わざわざ部屋を明るくして椅子にお行儀よく座ってとか面倒臭いし」

 

「ミカさん? そのようなだらしない生活は態度に出ます。常にピンと背筋を張って、いつ人に見られても恥ずかしくないような礼節をですね」

「うえ? なんか面倒な説教モードに入っちゃったなあ」

 

「ミカさん、よく聞いてください。大体ですね、ミカさんはいつもそうです。ホスト足るもの、どのようなときにでも誇りを持って気高く……常に周囲の目を気にして……」

「うるっさーい! ナギちゃんは私のママなの!? そんな口うるさくしないでもいいじゃない! 私は200連で引いたくるくるちゃんを育てたいの!」

 

「200連? ミカさん、またそんなものにお金を使って! ガチャなんて、そんなものはただのデータでしょう。もっと価値あるものに投資をですね」

「ふんだ、ナギちゃんのは紅茶とかケーキ? それだって食べれば無くなっちゃうじゃん!」

 

「むっ!? ミカさん、この際だから言わせてもらいますと――」

 

 まるで親子みたいな口論を、至近距離で睨み合いながら続けている。とはいえ、険悪さなんてない。

 そう、本当に仲が良くて……

 

「あはははははははっ!」

 

 ハスミは笑ってしまった。

 

「……ハ、ハスミさん? 少し、お恥ずかしいところを見せてしまいましたね」

「もう、ナギちゃんのせいだよお。客が居る前でこんなこと……」

 

「私のせいと言うつもりですか? 大体、ミカさんは……」

「あーあーあー。聞こえなーい☆」

 

 またもや再燃しかけるのを。

 

「お二人、本当に仲が良いんですね」

「「ツルギさん(ちゃん)がしゃべった!?」」

 

 ツルギが止めたのだった。

 

「あー。くるくるちゃんに構うのは後にしようかな。ほら、ナギちゃん。紅茶を準備してよ。私はロールケーキを用意しておくから」

「ロールケーキは冷蔵庫に入っているものを取り出すだけですよね? ……いえ、まあ良いです。ミカさんに良い茶葉を台無しにされたくないですから」

 

「ひどい! 私だってパックの紅茶くらいは作れるよ」

「ここに置かせてもらったのは上等な茶葉ですので。私の方で淹れましょう。お二人はどうぞ椅子にお座りください」

 

「……ふふ、では遠慮なく」

「きひ。いひひひひっ!」

 

 ハスミとツルギが座って、二人を待つ。

 

「はい、どーぞ。ナギちゃんが選んだやつだから、おいしいよ。紅茶が入るまではあと5分くらいかな?」

「ええ、少しだけお待ちください」

 

 ミカが皿に乗せたロールケーキを四つ、机の上に並べる。ナギサは別の机で紅茶を淹れている。

 

「……ええと、それで今日は何の御用かな?」

 

 ミカが話を切り出した。

 

「ミカさんがナギサさんに幽閉されたと聞いて、心配で。最近は物騒な話も聞きますから」

「ま、そーだね。連邦生徒会長が消えて治安の悪化も目に見えて、それに乗じてカイザーも何かやってるみたいだし。……裏の勢力も動き出し始めてる。いやあ、本当に物騒な話ばかりだね?」

 

「――裏の勢力? ゲヘナとは別件と言うことですよね。そして、カイザーでもない。以前にお会いした時も思いましたが……ミカさん、あなたは何をご存じなのですか? 先生が見ているものより、広いものを見つめているようにも思います」

「……それは、私も聞きたかったことです。前も聞かせてはもらえませんでしたので」

 

 ナギサが紅茶をそれぞれの前に置いて自身も席に座る。

 

「ううん、まだ早いよ。それに、私なんかが話したところで……セイアちゃんでもないし……」

 

 す、とミカの瞳からハイライトが消えていく。ナギサはもちろん、ハスミやツルギだってミカとは長い付き合いだ。政治的に対立しかねない関係であっても、顔見知りであるのは間違いない。

 いつも自信満々なミカがこうなるとは、と改めて二人は空恐ろしいものを感じてしまう。けれど――ミカを助けてあげたいと思う。例え敵がどれだけ強大でも、友のために戦うのが正義実現委員会なのだから。

 

「大丈夫ですよ、ミカさん。私がなんとかします。あなたは心配せずにホストの仕事やお勉強に精を出せば良いのですよ」

「……ナギちゃん。……私、勉強キライ……」

 

 けれど、真っ先にミカを慰めたのはナギサだった。慣れている、というのもあるだろうが――でも、きっとそれは一番に想っているからということで。

 震えるミカの手を取ったナギサの手。その上に二人は優しく手を置く。

 

「ミカさん、私は正義実現委員会です。泣いている人を助けるのがお仕事です。ですから、遠慮なく私達を頼ってください」

「……うん。ミカさんのために、私も戦うから」

「ハスミちゃん、ツルギちゃん。――ありがとう。うん、二人が手伝ってくれるなら百人力だ。……ねえ、二人とも。私のことはミカちゃんでいいよ。同じ三年生でしょ?」

 

 ハスミとツルギは柔らかい笑みを浮かべている。その手はとても温かいと、ミカは感じる。

 

「あまり人をちゃん付けでは呼ばないので気恥ずかしいですが……宜しくお願いしますね、ミカちゃん」

「……ん、私もがんばる。ミカちゃん」

 

「こうなると、私が疎外感を感じてしまいますね」

「なら、ナギちゃんも私をミカちゃんって呼べばいいんだよ。ほら、呼んでみて」

 

 泣いているような、笑っているようなヘンテコな顔でミカはナギサをからかう。変な風に飛び火したナギサは顔を真っ赤にする。

 まるで公開処刑だ。まあ、悪い気はしないけれど。

 

「あの……それこそ気恥ずかしいというか。キャラではないと言うか。……それに、こんなに見られてしまうと」

「あは。照れてるナギちゃんも可愛いね。でも、ほら……私はミカちゃんって呼ばれたいな☆ ほかならぬナギちゃんには」

 

「……うう――。あ、後で……という訳には……」

「ナギちゃん、逃げられない」

「うふふ。ツルギもこう言っています。後に回すほど恥ずかしくなってきますよ」

 

「うぐぐ……! た、助けは……」

「ふふん。そんなものはないよ、観念することだね、ナギちゃん」

「はい。助けなんて来ませんよ。だから観念してください、ナギちゃん」

 

「うう……ミカ……ちゃん」

「え? なに? きこえなーい。人の名前を呼ぶときははっきり発音しないと失礼だって、いつもナギちゃんが言ってるじゃない」

 

「ぐぐ……! いい加減にしなさい。あまり人をからかうものではないですよ、ミカちゃん!」

「あはっ。ナギちゃんが私のこと、ミカちゃんって呼んでくれた。嬉しいなあ」

 

「……まったく、もう――。せっかくの紅茶がぬるくなってしまいます。ロールケーキもどうぞ」

 

 顔を真っ赤にしたナギサが紅茶を勧める。しばし、皆で舌鼓を打った。

 

 

 女の子らしく取り留めのない雑談をして、少しだけ沈黙が降りた。

 

「……ミカちゃんは、すごいですね」

「ナギちゃん、どうしたの? いつも私のこと叱ってばかりなのに」

 

「はい。確かにミカちゃんは考えなしで、お勉強も嫌いで、思ったことはすぐに実行してしまう癖に後でずっと後悔するような人です。……でも、ミカちゃんが居なければティーパーティーと正義実現委員会がこうして一緒に紅茶を楽しむこともありませんでした」

「……ええ、そうですね。私たちも、ミカちゃんの人柄に惹かれました。奔放なところがある方とは知っていましたが、けれど誰かのために頑張る方と分かりました」

「いひっ。私にも話しかけてくれたし。ミカちゃん、優しい」

 

「うえ? そ、そんな褒め殺しにされると……照れちゃうな」

「けれど、あなたはトリニティに迫る”敵”のことを知っているのでしょう?」

 

 す、と空気が冷える。何とも皮肉なことだが……やはり各派閥が手を取り合うのは”敵”に対抗するためだ。

 ミカが敵に対抗するための行動、それが互いの仲を取り持つ発端となった。そして、その敵はとても強大だ。ここに居る面子でもそれだけしかわからないことが恐ろしさをより増している。何せ、ミカも口を開かないし。

 

「……」

 

 無言で首肯するミカ。そして、ナギサは横で優しく首肯する。

 

「心配しないでください。その時が来れば、一緒に戦いましょう。私たちは、あなたのことを否定したりはしません。信じています」

「……ん」

 

 そして、ハスミも安心させるように優しく微笑む。

 この時ばかりはツルギもいつもの凶悪な微笑ではなく、柔らかい笑みを浮かべている。とても希少だ。

 

「ハスミちゃんとツルギちゃんまで。私のことを褒めても何も出ないよ?」

「いいえ。得難い友を一人……いいえ、二人も得ることができましたから」

 

「……ハスミちゃん。そのセリフ、ちょっと臭くない?」

「あら? そうですかね」

 

 くすりと笑い合った。

 

 

 

 

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