聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第34話 ヒフミ、突撃します

 

 

 そして、次の日。ナギサはやはり書類仕事をしていた。

 当初喧嘩腰だった正義実現委員会との話は予想外の方向へ吹っ飛んでいき、そして大団円を迎えた。ナギサも、そしてミカも大いに救われるような結果だった。

 それはそれとして、仕事が消える訳ではない。そもそもティーパーティーと正義実現委員会の間が改善されたかと言えばそうではない。結局それは組織の問題で、ボスだからと言って下の人間たちの気持ちまで変えられる訳ではないのだ。

 

「――」

 

 そう言う訳で、ナギサは人でも殺しそうな様子から一転、穏やかな雰囲気で仕事を続けていた。

 流石と言えばいいのかは分からないが、仕事のスピードは変わっていない。感情に左右されないという意味では、組織の長としては素晴らしい素質なのだろうけど。

 

「ナギサ様、表にナギサ様に会わせろと――その、一般生徒が押しかけてきていますが。あの……銃を抜きかねない勢いですが、まだ撃ってはいません」

「そうですか。一応誰か聞いておきましょうか」

 

 ナギサは報告を聞いても眉一つ動かさずに書類仕事を続けている。

 

「はい。……その、2年の阿慈谷ヒフミですので一応ナギサ様のお耳に入れておいた方が良いかと」

「……ヒフミさんが? 何の御用でしょう」

 

 そして、ヒフミの名を聞いたとたんに手が止まった。いそいそと手にしていた書類を片づける。

 

「どうしましょうか。追い返しますか?」

「いえ、会いましょう。通してください。あなたはヒフミさんを通した後は退出していただいてかまいません」

 

「はい、承知いたしました」

 

 彼女が扉の方まで歩いて行って扉を開ける。待ちきれないとばかりにヒフミはドアを押し開けて、扉を開けた彼女は入れ替わりで出て行って扉の前に立つ。

 

「――おひさしぶり、というほどでもありませんか。カイザーとのこと以来ですね、ヒフミさん。今日はどのような御用……で……?」

 

 つかつかと歩み寄って来たヒフミはナギサの机をバンと叩く。

 

「どういうことですか!? なんでミカちゃんを捕まえているんですか!? ミカちゃんは何も悪い事なんてしていないんです! 出してあげてください」

 

 入るや否や、激高してまくしたてた。

 

「うえっ? え? えっ? ミカちゃ……え?」

 

 そして、対するナギサは混乱の最中だった。まずもってヒフミの言い分を理解するどころか、なぜミカのことをちゃん付けで呼んでいるのか。

 

「ひどいです! ナギサ様は無実の罪で人を牢獄に入れるような人じゃないと信じてたのに! どうしてこんな凶行を……こんなことまでしてしまうなんて。一体、ナギサ様に何が……」

 

 涙ながらに訴えるヒフミ。放心中で何も聞こえていないナギサ。

 なお、外の護衛には声が届いているのだが。けれど彼女はナギサ様は無実の罪でも政敵を投獄するし、割とエゲつない手を使うのはいつものことだけど。などと思っていた。

 

「……は。……はい?」

「あっ? 聞こえていませんか? ナギサ様、本当に一体どうされたのですか。以前のあなたはこんな風ではありませんでした。あの頃の優しいナギサ様の心を取り戻してください」

 

「……あの、ヒフミさん。最初から……詳しく……」

 

 目をぱちくりさせたナギサが訴えて、ようやくヒートアップが収まるヒフミ。

 

「はい。近頃、ミカちゃんの姿が見えないんです。そうしたら、噂ではナギサ様に幽閉されたと……」

「――ミカちゃん!? ヒフミさん、あなたとミカさんの間に何があったというのですか? あなたとミカさんには特に交流はなかったですが」

 

「……えと。あはは。ちょっと奇遇で偶然にもアビドスで会ったんです。そこで話す機会があって仲良くさせてもらったんです」

「そんな……それにしても一回か二回会ったくらいで……」

 

「時間は関係ないです。ミカちゃんはとっても良い人だと分かったので」

「いえ……それでは、私が悪い人だと……? いえ、そのように言われているのも知っていますが……他ならぬヒフミさんにそう思われていたとは……」

 

「あ、いえ! 違います! ナギサ様を悪い人だと思っていたわけではないんです。でも、偉い人だからあまり無礼なことは言ってはいけないかと思って……」

「ミカさんはどうなのですか?」

 

「えと……ミカちゃんなら、まあいいかなって。あ……悪い意味じゃないんですよ。親しみやすいと言いますか……」

「……親しみやすい。確かにその点では私はミカさんに勝てませんし、私が堅物なのは自覚もありますが。それでも……いえ、悪い人と思われるくらいならいっそ……」

 

 落ち込むナギサにあわあわと慌てるヒフミ。問いただす気で来たのに、何か関係のないことでいきなり気落ちされては牙も向けられない。

 

「でも、だからこそ驚いたんです。ナギサ様がミカちゃんを幽閉したこと。きっと、誤解があったんです。ミカちゃんは色々破天荒な人ですけど、悪い人じゃありません。閉じ込めなきゃいけないだなんて、そんなことはないと思うんです」

 

 ヒフミはふわりと微笑んだ。

 一度はナギサのことを疑いはしたが、しかし話してみて自分の知っているナギサだと言うことが確認できた。

 ミカが悪い人な訳がない。友達のためにあんなに頑張れる人が閉じ込められなくてはいけない理由なんてないはずだ。

 ナギサなら分かってくれる、そう信じているから。

 

「……ヒフミさん。ありがとうございます、私とミカさんを信じてくださって。――ですが、ミカさんを出すわけにはいきません」

 

 だから、その言葉に衝撃を受けた。

 

「何でですか!? ミカちゃんを疑っているんですか? ミカちゃんは――」

「いいえ、守るためです」

 

 ナギサは立ち上がって、ヒフミの手を取る。そっと、耳元に呟く。怪しげな雰囲気に顔を赤らめたヒフミだが、耳に入ってきた言葉に身体をこわばらせた。

 

「ミカさんを狙う敵が居ます。彼女の身を守るためには、あそこが最も都合が良かったのです」

「……え!? そんな、敵って。でも正義実現委員会の方が守ってくれるんじゃ……」

 

「それは無理です。正義実現委員会はあくまで犯罪者を処罰し治安を守る組織。ティーパーティーの目すら欺く敵が相手では、出し抜かれてしまう。ええ、当然ですね。今私たちが直面している敵はテロリストや企業を操れるほどの相手でしょうから」

「――ッ!」

 

 ヒフミはただただ声を失った。

 誰にも言えないことだが、ヒフミはブラックマーケット……犯罪者の中でもその蟲毒で生き残ったヤバい場所でペロログッズ集めをしている。

 彼らも十分恐ろしい相手だが、それらと比べてすら”格が違う”と言うのだから。

 

「ヒフミさん、あなたも気を付けてください。あなたがミカさんと親しいと知られれば、何らかの手が打たれる可能性がありますので」

「……そんな。そんなのって。……そうだ、先生に相談すれば!」

 

「先生……ミカさんと親しいというシャーレの方ですか。ですが、ミカさんは今は頼れないとおっしゃっていました」

「え? でも……ミカちゃんは先生のこと、すっごく信頼してたはずで」

 

「何かの事情があるのでしょう。私にすら話していただけませんが。ミカさんの幽閉は必要な事です。……ですが、ヒフミさんなら特別にミカさんに会わせてあげても」

「あ……いえ。大丈夫です」

 

「そう……ですか?」

「ミカちゃんが無事で安心しました。ごめんなさい、ナギサ様。いきなり訪ねてしまって。こんな……喧嘩腰みたいに」

 

「いえ、気にしないでください」

「では。また機会がありましたらお茶会にでも招いてください」

 

「あ……はい。分かりました。では、ごきげんよう」

「はい! ごきげんよう、です。ナギサ様!」

 

 ヒフミは嵐のように帰って行った。

 

「帰りましたね。あの……よろしかったのでしょうか?」

 

 護衛が戻ってきてナギサに伺いをたてる。

 

「はい。大丈夫ですよ。……それと、新しい紅茶をお願いできますか」

「承知しました。すぐにお持ちします」

 

 ナギサは書類仕事を再開した。

 

 

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