シロコと出会い、アビドス本校まで連れてきてもらった先生とミカ。そこで残りのアビドスのメンバーと出会うことになる。
他のメンバーは先に登校していた。彼女たちは最後に登校したシロコに声をかけようとするが、まず背負っている先生を見て驚いた。
「おはよう。シロコせんぱ……い?」
「うわっ!? 何っ!? そのおんぶしてるの誰!?」
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
そして、先生が縛り付けられているのを見て騒ぎ出した。客人など久しく見ないし、よりにもよって学校に来ることなど想像していない。
観光地は……まあ一応はあるのだが、学校はそうではない。拉致を疑うのは仕方のないことであった。しかも、彼はピクリとも動かないのだから。
「拉致!? もしかして死体!? シロコ先輩がついに犯罪に手を……!!」
「みんな落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ! 体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを……」
きゃあきゃあ喚いて、ついにはスコップを手にする。まあ、アビドスも昔はともかく今は砂漠の自治区。――どこかに埋めてしまえば死体も見つからない。
まあ、友人が犯罪を犯したのなら一緒に隠そうと言うのは美しい友情と言えるかもしれないが。
「……」
当のシロコは憮然とした顔で縛っていた先生を床に下ろす。ぐえっ、と音が出た。
さすがに一目で犯罪を疑われるのは心外だった。なお、普段の己の言動は振り返らない。清廉潔白な人間だと信じているのだ、自分だけは。
「いや……普通に生きてる大人だから。うちの学校に用があるんだって」
やれやれと言わんばかりの呆れ顔。狼耳はぺたんと伏せられていた。
「えっ? 死体じゃ、なかったんですか……?」
「拉致したんじゃなくて、お客さん?」
「そうみたい……」
ひそひそと話していたが、ノノミが先んじて先生を介抱しようと近づく。……が。その時を狙っていた者が動き出す。
「先生、大丈夫? 膝枕してあげようか☆」
ぱっとミカが動いて先生を抱きしめ、さり気に自分のものだと主張する。
「拉致したんじゃなくて、お客さん?」
「そうみたい……でも……カップル……なのかな……?」
胡乱気に二人を見てひそひそと話し出す。
「……ん。二人は初対面だったからカップルじゃない。それに、先生は膝の上より私の背中で匂いを嗅ぐ方がお気に入り」
シロコが水を差す。
「ちょっと聞き捨てならないかな? 先生は負担を減らそうと背負われるより自転車を選んだだけだよ。ね、先生? 私のふとももの感触を感じる方が好きだよね? あいつの細くて硬い背中よりも」
「……ふ」
鼻で笑うシロコ。
いや、私が心配していたのは自分の身なのだけどと苦笑する先生。なお、この先生はミカの膝の上で香りを堪能している。甲乙は付けられないな、との感想は胸の中に秘めておく。
「その反応はなにかな? ねえ、無視って酷くない? 正妻の余裕って感じ。感じ悪い。ちょっとだけ怒っちゃうよ」
「イイ女に必要なのは、胸の大きさよりも度量の大きさ」
「あはははは☆ 私、結構我慢強い方だと思ってたんだけどなあ。シロコちゃん、無口なのにお話がうまいね……?」
「ん……先生、私の事を頼ってくれていい」
バチバチと、二人の間で火花が散った。
「うわあ……女の戦いね。シロコ先輩の意外な一面を見ちゃったかも」
「取り合ってるのが浮浪者みたいな男の人だけど……そんな甲斐性のある方には見えませんが……」
セリカとアヤネがひそひそ話をしている。
まあ、仕方ないかと先生が立ち上がる。ミカの膝の上から離れるのは残念だが、しっかりと味わって記憶した。
「やあ、みんなこんにちは!」
ぴょんとバネ仕掛けのように立ち上がってニコニコと笑いかける。その姿にはミカの膝枕でデレデレしていた面影など欠片も見えない。
「わあ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんて、とっても久しぶりですね」
「そ、それもそうですね……でも来客の予定ってありましたっけ……」
「『シャーレ』の顧問先生です。よろしくね」
疑問の声に、名札を掲げながら答える。そして、タブレット端末を弄ると空中から補給物資が転送されてきた。
「……え、ええっ!? まさか!?」
「連邦捜査部『シャーレ』の先生!? 補給物資まで!」
まさか、と喜びながらも疑う二人。
「わあ。支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」
そしてノノミがぽんと手を打つ。
「はい! 弾薬や補給品の援助が受けられました。凄い事ですよ」
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ? ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」
そして、セリカが部屋から出て行った。その瞬間。
銃撃の音が響いた。そして、たたき割られた窓が割れて砕け落ちる音が連続する。アビドス、いやキヴォトスでは世紀末なこの様相はいつものことであった。
もっとも強い人間に喧嘩を売る度胸のある不良は中々いないが、そういう意味ではアビドスは”弱い”。
「じゅ、銃声!?」
ノノミがおっとりとした顔を青くした。
「!!」
シロコが背中の銃を手に、叩き割られた窓からそっと敵を覗く。
「ひゃーっははははは!」
「攻撃、攻撃だ! 奴らは既に弾薬の補給を絶たれている! 襲撃せよ!! 学校を占領するのだ!!」
下手人の声がここにまで届く。訓練されているようには見えない、ただの銃を持った素人だ。どこでも売っている何の変哲もない銃を掲げてげらげら笑っている。
「わわっ! 武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」
「あいつら……!! 性懲りもなく!」
忌々し気な声を吐く。そしてすぐに追加メンバーを連れてきたセリカが合流する。
「ホシノ先輩を連れてきたよ! 先輩! 寝ぼけてないで、起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」
彼女に抱えられているのは小学生にも間違えられそうな女の子だった。金と蒼のオッドアイ、どことなく神秘的な雰囲気を纏う彼女だが、年相応? にお昼寝をしたそうに眠たげなまなこをこすっている。
「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃を! こちらの方はシャーレの先生です」
「ありゃーそりゃ大変だね……あ、先生? よろしくー、むにゃ」
ホシノと呼ばれたオッドアイの少女はやはりふにゃふにゃの声で、かたわらに置いてあったショットガンを重そうに抱える。
「先輩、しっかりして! 出動だよ! 装備持って! 学校を守らないと!」
「ふああー……むにゃ。おちおち昼寝もできないじゃないかー、ヘルメット団めー。……て、え? なに、どういうこと」
がくがくと肩を揺らされて目を開けさせられたホシノ。起きてミカを見つけると驚愕の表情に変わる。す、と目を細めヘルメット団よりも彼女のことを警戒する。
本当の敵はこちらだ、とでもいうような雰囲気の変化。だが、地獄の底から響いたような怨嗟の声の前に誰も気付かなかった。
「あいつら、よくも……! 先生は外の人なんだよ? 傷ついたら、死んじゃったらどうしてくれるの? ねえ、なんでそんなことも分からないのかな。馬鹿なのかな」
膝枕をしていたミカは先生を押し倒して自分の身体を盾にしていた。幸い窓ガラスからも離れていたので、攻撃などミカ本人にすらかすってもいないのだが。
……そんなことは関係がない。
「どこの誰だか知らない。ゲヘナかどうかも関係ない」
アビドスメンバーはその異様な気配に押されて一歩下がる。
「先生、ここに隠れていて? 私が、先生の敵を全部やっつけてくるから」
胸に抱えた先生の頭をそっと地面に下ろして、幽鬼のように立ち上がる。その禍々しい空気を前に誰も何も言えない。いや。
「ミカ、これを付けておいて」
「……? うん」
先生はいつもどおりの恐怖など感じていないかのようなへらへらした笑顔を浮かべている。彼から投げ渡されたイヤホン型のヘッドセットをミカは耳に着ける。
これで彼の声は聞こえるし、ミカの声は彼に届く。
「行ってくるね、先生」
「うん、気を付けて」
窓に足をかけ、そのまま飛ぶ。墜落する。
「ちょ、ここ2階……!」
心配した声は誰のものだったか。
「――」
ミカは微笑すら浮かべながら、背の羽を広げて優雅に着地する。舞い降りる羽根、美しい金の瞳が開かれる。
――断罪の瞳だ。
「え? 天使……」
「天使……『トリニティ』か?」
ヘルメット団は呆気にとられる。絵画のように美しい情景、しかもそれは全く予想もしていなかった。
トリニティが来るなんてことはありえない。アビドスに救援なんて来ることはないのに、それがトリニティなどどんな冗談だ。
「は! だが、好都合だ! テメエら、あいつをぶちのめせ! ふん捕まえちまえ!」
「応よ! その制服、コスプレじゃなけりゃ身代金をたっぷりむしり取れるぜ」
「そうと決まれば、やっちまうしかねえよなあ!?」
動きが止まったのもわずか。相手を獲物だと勘違いして下卑た冷笑を浮かべる。撃ちまくって気絶させてやると各々の銃を構えて。
「……あは。あなたたちの言うことはいつも変わらないね? ゲヘナと同じ、ただ無秩序に破壊を楽しみ、誰かに迷惑をかけることだけを考えるクズども。生かす価値もないけれど、駆除するにも手間がかかるから生かされてるだけなのに」
そこで初めて彼女たちはミカの目を見た。それは、害虫を処分する行政官の視線。およそ人間を見るものではない瞳。
「人里に入った害獣は処分される。”先生”に手を出そうとしたあなたたちは――連邦矯正局すら生温い」
「……ひ!」
誰かが小さく悲鳴を上げた。
「だから――掃除してあげる」
ミカが銃を上げる。それはトリニティの一般的な正式サブマシンガン、その銃種の特徴は威力が低い代わりに面での制圧が可能になる連射だ。
喰らっても耐えて数で押せばボコボコにできると、ヘルメット団は覚悟を決める。狙われた運の悪いやつが倒れようとも知らない。そいつを囮に攻撃してやろうと。
「……」
銃声が連続する。それがサブマシンガンの特徴、手数が多い代わりに威力が低い。……そう、”低い”はずだった。
「――っがは!」
「ぎゃん! ……」
運の悪い二人は声も上げられずに吹き飛ばされた。
「……は? 嘘だろ」
「おい、なんで即二人も落ちてんだよ……!」
ヘルメット団は飛んで行った二人を見る。耐えて反撃を仕掛けるつもりが……こんなに簡単にぶっ飛ばされると、無理だ。
誰かが
もはや”いつものやり方”は崩壊した。この敵を倒す方法など、ない。
「ひぃ! やってられっか!」
「誰だよ、トリニティは世間知らずのお嬢様学校とか言ったの!? ゴリラじゃねえか!」
敵に向けて上げた銃をそのまま腕で抱え込んで逃げ出す者が続出する。
「あは。ゴミは景観に悪いし、転がってるのもイケナイことだよねえ?」
その背中を狙って撃った。そいつは吹っ飛んで行ってピクピクと痙攣していた。
「おい……どうすんだよ、これ」
「だ、だれか……」
攻撃しても敵わない。だが、逃げたところで背中を撃たれる。にっちもさっちも行かなくなったヘルメット団は、絶望して手に持った銃を取り落としてしまう。
「あれ、観念したんだ? ちょっと意外かも。ゴミにも学習能力があったんだね……」
戦意を失ったヘルメット団を抹殺しようと、光のない目で銃を向けるミカ。
〈駄目だよ。戻っておいで、ミカ〉
イヤホンから聞こえた声。この上なく愛しい、先生の声だった。
「せ、先生? でも、こいつらは先生の居るところを撃ったんだよ。すぐに始末するから、少しだけ待ってて」
〈……ミカ〉
「うう……分かったよ」
聞こえてきた声に肩を落とすミカ。だが逃げ足だけは速いヘルメット団は、ミカが先生に気を取られた瞬間にすでに仲間を連れて撤退済だった。
何よりも大切なはずの銃を捨ててまでの逃走劇なのだから、恐怖は髄まで染み込んでいるに違いない。
「あは、先生。私の戦いはどうだった? こう見えても、私結構強いんだ☆」
後ろを振り向いてわざとお茶らけた笑みをこぼすミカ。あまりにも強すぎるその姿には、アビドスメンバーもドン引きだった。
「うへ。そんなに強いなんて、すごいね。やっぱりそれだけ強くないといけないのかな? ねえ、キヴォトス最大規模の『トリニティ』を支配する『ティーパーティー』の人は」
ホシノが軽やかに着地する。だが、既に臨戦態勢。銃は上に向けているとはいえ照準を合わせれば撃てる。
表情こそ笑っているが目が笑っていない。怪しい態度を取れば撃つと、その目が言っていた。
「ううん……私、けっこう有名みたいだね☆ でも、信じて欲しいなあ。私もトリニティも、アビドスなんて田舎校に用なんてないよ?」
「……」
戦いが始まりそうな緊迫した雰囲気。アビドスメンバーも、ホシノに協力した方が良いのかと躊躇いながらも銃は手にしている。
「待って。二人とも落ち着いて」
「……先生! なんで……!」
「うへ。いや、本当になんでシロコちゃんに運ばれてるのさ」
「ああ、いや。だって私が二階から飛び降りたら怪我をしてしまうから」
先生はシロコにお姫様抱っこされていた。
「ん。先生の顔に免じて銃を収めると良い」
「ああ、ミカは『シャーレ』の所属だ。私に付いてきてくれただけだよ」
シロコはなぜかドヤ顔をしている。そして先生は生徒をかばうかっこいいセリフを、お姫様抱っこされたまま話しているものだから……実に恰好がついていなかった。
「ねえ、先生が二階から飛び降りると怪我をするから仕方ないけど。でも、なんでまだお姫様抱っこしているの?」
「……あ、うん。シロコ、そろそろ下ろしてくれると」
「仕方ない」
ホシノは目の前にあるよくわからない攻防を眺めて、嘆息して。
「まあ、今のところは信用しておいてあげる」
ミカの俺tueeeでした。まあ、三章ラスボス? 主人公? が第1ステージで手間取るわけないよね、と言う。