聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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◆挿絵(セイアとの再会)

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第41話 ティーパーティー復活

 

 

 ミネ団長がセイアを連れて疾走している最中、ミカはベッドの上で予備のスマホを使って裏の作業を進めていた。

 外の音は完全防音なので伝わってこない。そこは偉い人用の牢獄のお約束だ。それをいいことに、いつもと同じように暗躍を進めている。

 

「――なに?」

 

 出し抜けに表用のスマホに通信が来た。……ミネがもうそこまで来ているのだ。何も聞こえてこないが、護衛の子達はわりと一杯一杯だった。

 通話ボタンを押すと、大慌ての声が飛んでくる。

 

「ミカ様! 大変です! ミネ団長がセイア様を連れて襲撃に!」

「……は?」

 

 やはり、意味が分からない。セイアが生きていることは知っている、ミネが匿っていたことも聞いた。もっともその姿を確認できていないので半信半疑のところもある。

 だけど、その言葉はやはり理解が難しい。いや、普通に考えればありえないことだ。病人を背負って走り出すなど、そんな……まともな医療知識を持った人間のすることではない。

 

「あ、駄目です! 反撃をしてはいけません! セイア様に当たる!」

「――ッ!」

 

 反撃を諫める怒鳴り声が聞こえてきて、居ても立ってもいられずにドアを開ける。

 ナギサしか持っていない鍵を使わなければ外からも内からも開けられない仕様だが、ミカのパワーの前には鍵など意味がなかった。

 呆気なく、鍵などかかっていなかったと見間違う様に鍵は破壊された。

 

「……あ」

 

 扉を開けたミカとセイアの目が合う。

 そして、その後ろでは殴り飛ばされた護衛の面々が地面に深々と突き刺さっていた。誰に顧みられることもなく、びくびくと震えている。

 

「――ミカ。まったく、因果なことだ。この悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……それでいて、ただただ後味だけが苦い。そんな話の中で、このコメディタッチな再会は場違いかもしれないね」

 

 セイアは青くなった顔に苦笑を乗せて、いつものように小難しい話をする。お茶目にウィンクをして見せた。

 重病人を背中に乗せて疾走した元凶は、そっとセイアをミカの前に下ろして横に立つ。

 

「セイアちゃん。……良かった。私の……私のせいで。……ごめんね」

 

 苦し気に涙を浮かべるミカは、セイアの前に跪いて――拒否されないのを確認するようにおどおどと……壊れものに触れるように抱きしめた。

 

「そうか。……そうだね。先に言われてしまったか。相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑う様な物語の中で――君は、素直に謝ることができた。異なる(しがらみ)に囚われる中で間違いを認めるのは、とても難しいことだと言うのにね。きっと、私たちにはそれが足りなかったのだろう」

 

 セイアは照れながらも満更ではなさそうだ。ミカを受け入れて、ぽんぽんと背中を叩く。

 

「……あはは。セイアちゃん、難しいことばっかでよく分かんない。でも、大好き!」

「ああ、私も。愚かで直情的で、時には自らすら傷付ける君だが……嫌いではないよ」

 

「まったく、セイアちゃんったら素直じゃないんだから! ほらっ!」

「うむむ……ミカ、私は病人なのだからあまり抱きつかれると苦し……」

 

 ニコニコと抱き合うミカとセイア。その様子を見守る周りの人間も微笑まし気だ。

 まあ、「ナギ×ミカも良いけれど、セイ×ミカも捨てがたいわね。いえ、これは三角関係……!? ミカ総受けの誘い受け。なんて恐ろしい方」などと呟くのがよりにもよってティーパーティーに居るので、もう終わりかもしれない。

 

「セイアさんがここに来ていると連絡を受けました! どういうことですか!?」

 

 息を切らせて到着したナギサが目の前の光景に目を剥いた。

 

「あ、ナギちゃん! ナギちゃんも大好きだよ!」

「なっ!? そ、そういうことは聞いていません、ミカちゃん! 私はセイアさんのことを確認しに……というか、扉壊しましたね!」

 

「こんな場所にミカを閉じ込めるからそうなるのだ。あんなドアでは障子紙と変わらんことくらい、君とて重々承知のことだろう」

「ぐっ! この物言い……確かにセイアさんなのですね。……セイアさん、良かった」

 

 状況はよくわからない。けれど、死んだはずのセイアは確かに生きているのだと実感できて安心した。

 今ではほとんど見ることのなくなった柔らかい笑みを浮かべている。

 

 そして、また部外者がやってくる。これではおちおち情報封鎖もできやしない。いかにティーパーティーと言えど、隠しきれない。

 

「……あの! ミネ団長が見つかったと聞いて」

「あなたは……えっと、誰だっけ?」

 

「救護騎士団の鷲見セリナです。行方不明だったうちの団長がお邪魔していると聞きまして」

「はい、私はここに居ますよ」

 

 すっと出てくるミネ。いや、ずっと隣で見守っていたのだが。私は正しいことをしていますと言わんばかりの自信満々な顔をしている。

 

「あっ、団長。あの……この惨状は団長が?」

「はい」

 

 断言した。

 

「あわわ。患者がたくさん。……救護を始めます!」

 

 どこからともなく現れたセリナだが、蹴散らされた護衛達を治療していく。団長が壊して騎士団が治す――いつもの光景だった。

 

「キヒヒ。到着、敵はどこだ……!?」

 

 そして、ツルギまでが現れてこの惨状を目にして――目が点になった。

 

「やれやれ、場が荒れてきたね。ミカが関わるとこうなってしまうのか」

「いや……私のせいじゃないよね? 今回悪いのはミネちゃんだと思うけど」

 

 いつものごとく厭世的な苦笑を浮かべるセイア、そして引き合いに出されたミカは自分のせいじゃないもんとぶーたれる。

 

「まあ、ミネさんはいつもこうですし」

「キヒッ?」

 

 ナギサとツルギはミネの突拍子のない行動には慣れている。ため息一つで感情を押し殺すのは……悲しいことだが習慣になってしまった。

 

「ツルギちゃんも、銃はしまっていいよ。こんなに戦力が揃ってるところに突っ込んでくる馬鹿は居ないでしょ」

「とはいえ、こんな場所では落ち着いて話も出来ませんね。どこか、都合の良いところに行きましょうか」

 

「そう? じゃ、ナギちゃんお願い」

「私ですか? いえ、ミカさんに任せても不安ですしいいのですが。では、さっそく移動しましょうか」

 

 

 

 そして、ミカがセイアをお姫様抱っこしてナギサの隠れ家の一つにやってきた。まさかセイアに歩かせるなどと自殺行為をさせることなどできない。

 

「では、話を始めましょうか」

 

 各々席に着く。ティーパーティーのホストが三人に、正義実現委員会の委員長、そして救護騎士団の団長。――凄まじい顔ぶれである。

 ナギサが自らハーブティーを淹れて配った。

 

「その前に私から勧告があります。セイアさんはこれまで寝たきりでした。ハーブティーくらいはともかく、医療的観点からクッキーなどの固形物を口にすることは認められません」

「そうかね。救護騎士団の言葉だ、従っておこう。これくらいは大丈夫かな?」

 

 セイアは苦笑を浮かべて配られたカップを持ち上げる。……手は重さに耐えきれずにぷるぷるしていた。

 

「一杯をゆっくり飲んでください。水でも大量に飲むと負担になりますので」

「了解した」

 

 大儀そうにカップを持ち上げて、わずかに口に含む。香りを楽しんで、ゆっくりと味わう。ふう、と優し気に微笑んだ。

 

「おやおや、大変そうだね。セイアちゃん? そんなに辛いなら、口移ししてあげよっか?」

「不要だ。ミカ、いつから君はそんな……」

 

 けらけらと笑うミカに、信じられないようなものを見るかのようなセイア。そして、ナギサはミカの言葉に目をきりきりと吊り上げて。

 

「ミカちゃん!? 口移しとはどういうことですか!? そんな破廉恥なこと私は認めません!」

 

「あれれ、ナギちゃんもしてほしいの?」

「おやおや、どうやら妙な三角関係に巻き込まれてしまったようだね。きっと、病床の身で力もない私は抵抗もできずに色々なことをされてしまうのだろう。唇を許したり、一緒にお風呂など……身体を好きにされてしまうのだね」

 

「――ミカちゃん!」

「いや、言ったの私じゃないし!」

 

 ミネ団長がごほんと咳払いをした。空気が凍る。

 

「患者を興奮させることは許しません」

 

 それは、純粋に医療的な観点からの言葉だ。そもそも話すことすら負担なセイアに、心拍数が高くなるようなことは謹んで欲しいとの言葉であるが。

 

「……興奮って。ミネちゃんもそういうことを言うんだね。……あははっ!」

「興奮……興奮なんて、そんな」

 

 くすくすと笑うミカ、そして猶更顔を真っ赤にしてしまったナギサがミネを信じられないようなものを見る目で見ている。

 

「? 何を言ってるのでしょうか」

「キヒ……そもそも、なぜミネ団長がセイアさんを背負っていたんだ?」

 

 3人が何を話しているのか分からないミネとツルギ。実は常識人なツルギは、初めて会議の場としてまともな発言をする。

 

「あ! それです、ツルギさん。ミネ団長、なぜセイアさんを? セイアさんは……ヘイローを破壊されたはずです。家も、爆破されて」

 

 そして、ふざけた話しは終わり。これからは、トリニティの秘密会議だ。

 

「ヘイローを!?」

「あ、ツルギちゃんは知らなかったね。ティーパーティーの中でも上層部しか知らない情報だよ。……ミネ団長は、どうやって知ったのかな。――ううん、違うね。助けてくれたんだね。ティーパーティーにも、秘密にして」

 

「その通りです、ミカさん。私は爆破されたセイアさんの邸宅の中で、気絶している彼女を見つけました。私は彼女が生きていることを隠すため、私自身も姿を隠してセイアさんをかくまったのです。そのうちに彼女が病床にあるとの噂が流布されました。……ツルギ委員長は、爆破の件もご存じないようですね。これもティーパーティーの隠ぺい体質ですか」

「あはは。まあ、言い訳はできないね。セイアちゃんの死を隠すために病床の噂を流したのはティーパーティーだもんね。それで、セイアちゃんを狙った犯人が私かナギちゃんって疑われても仕方ない状況なわけだ」

 

「はい、ですので私が外に出ることはありませんでした。誰がセイアさんを狙ったのかも分からない状況で、セイアさんも目覚めていませんでしたので。必要な措置だったと思っています」

「……はい、その通りですね。セイアさんを匿ってくれたことにはお礼を言います。それで、なぜトリニティの市道を走るようなことになったのでしょう?」

 

「はい、ナギサさん。それは救護のためです」

「……救護、と?」

 

 ナギサの鋭い目がミネに向く。そして、他の三人もミネを見つめる。

 

「はい」

「え? それで終わりですか?」

 

「ナギサ、私が頼んだのだよ。いや、頼んでいないが。いずれにせよ、私がミカに会いたいと言った願いを彼女が叶えてくれたのだよ」

 

 セイアはやれやれと補足する。まあ、ミネの言動はまったく予想も付かないものではあるが、この会議においてはミネの言動に対する理解は必ずしも必須ではない。

 意味が分からない行動でも、まあ事実だからと流して次の議題に移るべきだ。

 

「そうですか。そういうことなら、まあ。……あまり良くないことですが、いつものことと言えば――これが、いつものことでしたね」

 

 ナギサはため息を吐く。まあ、とりあえずの状況は把握した。

 

 セイアが生きていた……これは喜ばしいことだ。おそらく、”黒幕”もこれは予想外のはずだ。

 だが、それだけに今後のことは重要になる。ホストの中でも一番邪魔なのがセイアで、ゆえに狙われたはずなのだ。まあ、予知の力が邪魔だったのだろう。

 次の暗殺は近いと覚悟しなければならない。

 

「――ミネ団長。これ以降はティーパーティー内部の話となります。席を外していただけますか?」

「そのような隠ぺい体質が、この結果を生んだのではないですか? セイアさんが本当に死んでしまうことのないように、私はティーパーティーの内部事情にも干渉する必要があると感じています」

 

 ミネの瞳はまっすぐだ。まっすぐに――ティーパーティーへの不信感を宿らせている。こうも直球にお前が怪しいと言われれば、二の句も紡げない。

 

「直球ですね。ティーパーティーを信じてください……とは言えませんね。では、正義実現委員会を信じていただけませんか?」

「キヒッ?」

 

 というわけで、ナギサは会議の内容を理解しているかも怪しいツルギに振る。哀れにも振り回されている最近だが、ナギサは元々ホストとして辣腕を振るっていた。

 これくらいはやってのけるだけの政治敵手腕は有している。

 

「ツルギさんにはこのまま参加してもらいます。これで、どうでしょうか?」

「ツルギ委員長を……ですか。そうですね、彼女の正義を愛する心は知っています。ツルギさんが居れば、ティーパーティーの方も間違いを犯すことはないでしょう。では、私はセイアさんを受け入れる保健室の用意をしておきます」

 

 重々しく頷いて退出した。

 

「お願いします、ミネ団長」

 

 その彼女を見送り、ナギサは4人となった秘密会議を再開する。

 

「では、始めましょう」

「……まずは、現実を確認するとしよう」

 

 セイアが、予言者のごとく宣言する。部外者の居ない、裏そのものがむき出しとなった秘密会議だ。

 4人の眼光が鋭く光る。

 

「トリニティを貶めようとしている者。このトリニティの破壊を企む裏切り者を、ナギサは探していたね」

 

 セイアが各位を見渡した。ツルギとナギサはしっかりと見返したが、ミカは罪人のように俯いた。

 

「……その裏切り者は君だね、ミカ」

 

 糾弾した。

 

 

 

 

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