聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第43話 ティーパーティー会議

 

 

 3人+ツルギの秘密会議でミカは全ての罪を告白した。ナギサとセイアはミカの罪を許し、そしてツルギは話が見えていなかったが許す雰囲気だったので特に口を挟まなかった。

 セイアが口を開く。

 

「さて、大まかな話は聞けたね。我々の目的は”マダムを倒すこと”で良いだろう。そして、そのためにはミカの知る未来をできるだけ変えないことが条件だ。けれど、ミカの罪を内々で処理できるだけの権力を保持することも必要だね」

 

「ええ。ですが、ツルギさんが居る以上はそこまで難しいことではないでしょう」

「キヒッ!?」

 

 いきなりナギサに自分の名前を呼ばれて驚くツルギ。何が何だか分からないが、とりあえず重々しく頷いておいた。

 とりあえず正義実現委員会さえ引き込んでおけばどうにかなるという目論見だ。トリニティの治安を維持しているのは彼女たちなのだから。

 

「――やる気は十分のようですね。トリニティの敵を倒すことも、アリウスの保護も正義実現委員会の理念に沿いますから。ことによると、救護騎士団やシスターフッドに頭を下げる必要もなくなるかもしれません」

「むしろ、そこが我々の変えるべき”些末な未来”だろうね。まあ、そこは私の働き次第かな。私が目覚めている分、他に頼ることもないのだ。借りを作らなければ、ティーパーティーの権力弱体化も防げる」

 

 ナギサとセイアが話を進めていく。裏取引に関するなら、ミカの手腕など軽く上回るのがこの二人だ。

 もちろん、ミカはミカで暗躍と実力行使という持ち味はあるけれど。しかし、頭では敵わないのは認めているから聞き役になっている。ものの、口を挟まなければいけないことがある。

 

「そのことなんだけど、補習授業部の第二回試験……ナギちゃんはあの子たちをゲヘナ領地で吹き飛ばすことを考えてるよね?」

「な……なぜそれを!? いえ、予知があったのですね」

 

 ナギサはギクリと背筋を震わせる。”準備”を誰かに知られるようなヘマはしてないはず、と思いきや予知があれば仕方ない。

 どんなに隠したとしても知られてしまうから予知はズルい。もちろん、証拠にはならないが。

 

「吹き飛ばす? ゲヘナで? ナギサ、君は何を考えているのだ?」

 

 セイアがナギサを横目で見る。何を馬鹿なことを、とその目に書いてあった。しかも、呆れたといわんばかりにわざとらしく大きなため息を吐いている。

 

「……いえ。ちょっと、試験の場所をゲヘナに指定して、裏から手を回して爆破されるような仕掛けを。――あの、爆弾は私には関係ないものなので、そこからは辿れないようにはなっているんですよ……?」

 

 ナギサは気まずくなったのか、目を逸らして机の下で手をもじもじし始めた。言われて気付いたが、まあとんでもないことだ。

 自分の頭がどれほど茹っていたか自覚した。

 

「ナギサ、聡明な君なら敢えて言う必要はあるまいね?」

「はい、やめます。私の指示で正義実現委員会の人間をゲヘナに派遣するのはどう考えてもマズいことでしたね。いえ、今のコハルさんの所属はそこではありませんが……特攻のためのアリバイ工作でしかないですね、はい」

 

 ナギサはうなだれた。これは自分の責だ。しかも、思い返せばなぜそんなことをしたかも分からない愚行なのだから。

 

「うん。それだけは止めてもらわなきゃならなかった。前も、まあなぜか先生も無事だったみたいだけど。でも、偶然に頼る訳には行かないもの」

「ああ、先生は外の人間ですものね。爆発に巻き込まれて怪我しては大変ですね。……ええ、止めますのでこの話はおしまいにしてください!」

 

 やけくそとばかりにナギサは大きな声を出す。ミカの方は、ただ先生が心配なだけだけれど。

 

「うん、わざわざゲヘナで何かを起こす必要はないよね。でもね、爆破でなくても何かのテコ入れは必要だと思うの。……補習授業部の絆を結ぶための試練が」

「ミカちゃん……もしかして、またあなたが傷を背負うつもりですか?」

 

 暗く瞳を落としたミカに、ナギサは食らいつく。テーブルから身を乗り出して、ミカの落とした視線を真正面から見返して。

 

「ゲヘナでの戦闘、荒事の経験値は……まあどうでもいい。本当に必要なのは――絶望を乗り越えた絆。窮地を与える必要がある、敵がいないといけないんだ。だから、まあ私が試験用紙を燃やしてしまえばいいかと思ってた」

「いえ……ミカちゃんの部屋には鍵がかかっているはずですけど。ああ、いえ、どうにかできる算段があるのでしょうね」

 

 ナギサが呆れたようにため息を吐く。ミカを閉じ込めておいた牢獄のカギはナギサしか持っていないが……今日ミカに壊された。

 

「しかしまあ――それでも予知との齟齬が出ることは確かだね。試験中に燃やされるか、試験の後に燃やされるか。それでは心持ちが幾分か違ってしまうだろう」

「むむ。じゃあ、セイアちゃんには何か策があるの? 先生が危険なことは駄目だよ」

 

 セイアが予知との違いを指摘して、ミカが口を尖らせる。未来を変えていいのか……予知をする人間には永遠の命題だろう。

 変えたい未来を変えなければ意味はない、しかし大筋は一致させなければ未来が読めなくなるジレンマだ。

 

「書き込んだ瞬間に燃えるような仕掛けを施しておけば良いだろう。こちらで用意した試験用紙と、不正防止とでも言って仕掛け済の筆記具を使わせれば容易いことだ。キヴォトスの人間なら燃える紙を握っても火傷もしないだろうからね」

「……あ、そんな手があったんだ。いや……でも……」

 

「ミカ、あえて苦しむことはないのだよ。それで済むのだから、それで良い」

「そう? でも……ううん、セイアちゃんが言うなら、そうなんだね」

 

 セイアが生きていてミカの気持ちも軽くなったのか、微笑する。心からこぼれてしまった自然な笑みは、今まではナギサにもほとんど見せていなかった。

 

「では、そのように準備を進めましょう。試験範囲を前日の深夜に変更してしまおうと思っていたのですが、こちらは実行しても問題ありませんね?」

「うん。そこは予知通りだから問題ないよ」

 

 こくりと頷き合う。第2回の方はそれでいい。そして、本命の第3回。これに落ちれば補習授業部は全員退学……だからこそ、”何か”がある。

 それを、ミカは知っている。

 

「では、第3回の方はどうしますか? マダムが仕掛けて来るとしたらそこでしょう。白洲アズサが退学になる前に”使う”はず。試験に合格するなどと思わないでしょうからね。――奴は、何を仕掛けて来ますか」

「……ナギちゃんの暗殺を。ちなみにセイアちゃんは寝てたからね、このイベントは不参加だったよ」

 

 いつ、何を仕掛けてくるか全部わかるのだから予知は反則だろう。いつ襲撃されるか分からないから政府側は不利なのだが、分かっていればその分の戦力を置いておけば何とでもできる。

 

「なるほど。ですが、正義実現委員会の護衛があるはずでは?」

「だってナギちゃん、疑心暗鬼で頭がおかしくなってたもん。補習授業部を目の敵にして、自分の護衛戦力まで減らしてたし。それに、残りの正義実現委員会と他の勢力には私から戒厳令を出しておいたから」

 

 からかうような笑み。よくやったでしょ? と、言わんばかりだが……まあ未来の自分はそれにやられてしまったのだから、ナギサはため息を吐くしかない。

 もう少し何とかならなかったのかと、未来の自分に言いたくなる。けれど、少しだけ反論を。

 

「……まあ、私がミカちゃんを疑うことはありませんからね。それで、私はどのようにして助かりましたか?」

「補習授業部が前もって攫った――助けたよ。それに『シスターフッド』が協力した」

 

「仕掛け人は浦和ハナコだね? それに、君もその場に居たようだ。ナギサの命を守るために監視として出張ったかね? 黒幕としての利点を投げ捨てる行為、よくよく愚かな真似をするものだ」

「あは、セイアちゃん名探偵だね。可愛い名探偵ちゃんには何も言い返せなくなっちゃうよ。ちなみにけっこう破れかぶれでね。そこでセイアちゃんが生きてることを知ったから、”頑張るのはもういいや”って思っちゃった」

 

「……なるほどね。まあ、直情的な君らしい。だが、”今回”は私たちが君にもういいやなどとは思わせんよ」

「はい。私が、絶対に、そんなことはさせません。ミカちゃんは思いつめたら退学になっても構わないとまで思い詰めてしまうでしょうから。ティーパーティーのコントロールが利かない状況なら、諮問会はホストの権力をもってしても止められない。ふてくされて欠席する様が目に浮かびます」

 

「……ナギちゃん。もしかしてナギちゃんも予知したの?」

「まさか。ミカちゃんが分かりやすいだけですよ」

 

 ナギサのからかう様な笑み。沈み込んだ会議の雰囲気の中では清涼剤のような一幕だ。

 

「ミカの分かりやすさなど、議論するまでもあるまいがね。もっとも、この世の中に”ちゃんと考える”ということが可能な者がどれほど居るかは分からんがね」

「……セイアちゃん」

 

「さて、補習授業部の方はそれで良いだろう。ナギサの襲撃については予知をなぞり、しかしミカの責についてはティーパーティーの内々で済ませるだけだ。我々が曲げるべき未来はそう多くないのだから」

「……そうですね。その様に私も準備を進めましょう。構いませんね、ツルギさん」

「キヒ。はい、問題ありません」

 

(問題ない……って何が問題ないのだろう?)

 

 と、ツルギは考えて……後でハスミに相談することに決めた。

 

「あ、ツルギちゃん。このこと、ハスミちゃん以外には話さないでね。それと、先生にも伝わらないように。……これは、トリニティの問題だからね」

「あ、はい」

 

 ツルギとミカのやり取りを見てくすりと笑ったセイアは、背もたれに身を預ける。

 

「だが……さすがに疲れてしまったよ。ミネ団長の背中で運ばれたと思ったら、すぐ後にこの会議だ。舌を回すのにもくたびれてしまった」

「――あは。セイアちゃん、ずっと寝てたんでしょ? それであれだけしゃべれるんだから、セイアちゃんって感じだね。予知だと……舌を回すこともできてなかったけど☆」

 

「気力の問題だろうね。病は気からとはよく言ったものだ」

「ぷぷっ。病は気からなんて自分で言っちゃうなんて……! それに、セイアちゃんの調子が悪いのは、そんな理由だけじゃないと思うなあ」

 

 ニヤニヤと笑いながら、手をわきわきさせてセイアの方に近寄ってくる。セイアの方は猫でも放るようにしっしと手を振っている。

 

「なんだね、ミカ? 君ごときに笑われるような覚えはないのだがね」

「いや、セイアちゃん。寒くない? そんな脇も背中もがばっと開いた服なんて着ちゃってさ。誰に見せてるの? 病弱なのにその恰好はどうかと思うよ。温めてあげる」

 

 ひょいと、セイアを抱き上げた。

 

「む。この高尚なファッションはゴリラには理解できなかったようだね。だが……ああ、久しく忘れていたが人の体温は心地よいものだな」

「あはは☆ 私で良かったらいくらでも」

 

「では、ナギサ。君も来るかい? そんな顔をして、痴情のもつれで刺されてはたまらないからね」

「なっ!? 私がどんな顔をしたというのですか、セイアさん?」

 

「ふむ、自覚はないのか。だが、君のことだ。ミカのやかましい口にロールケーキを詰めたがる悪癖があったが、まさかロールケーキの代わりに口で塞ぐなどするまいね?」

「な……ッ! あ……! その……」

 

 ぱくぱくと、口を開けて何も反論できなくなった。その様子を見て、セイアは目を剥いた。

 

「……なに? ナギサ、君は本当にやったのかね?」

「やってません! 未遂です!」

 

「なるほど。日和ったか」

「そ、ナギちゃん奥手なんだから☆」

 

 そして、なぜか被害者であるはずのミカにまでからかわれる始末だった。

 

「なに、私は病弱でこの有様だ。そして、上手くいってもミカの権力は元通りとはならんだろうよ。つまり、君が最高権力者で……我々のことなど好きにできてしまうという訳だ」

「うう……私とセイアちゃんの身体、ナギちゃんに好き勝手されちゃうんだね。抵抗することも許されずにあんなことやこんなことを……」

 

 セイアとミカがよよよ、と泣き崩れる真似をして抱き合った。まるで権力者に手籠めにされるのを慰め合っているような弱弱しい姿だった。

 

「――やりません!」

 

 叫んだ。

 

 

 

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