聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第46話 第二次試験

 

 

 そして、やってきた第二次試験の前夜……補習授業部の4人は不安を抑えきれずに先生の部屋に押しかけていた。

 

「うふふ♡ みんな、先生の部屋に集まっちゃいましたね」

「……ええと、私としてはちゃんと寝て欲しいのだけどね。せっかくの頑張りが寝不足で実力を出せなかったらもったいないでしょう?」

 

 中でも楽し気にしているのがハナコだ。まあ、実際にテストに関する不安などない。どんなテストであろうと満点を取れるだけの自信はある。

 四人も女子高生もいるぜ、ぐへへ。などと言い出さないというくらいは先生を信用しているし、仲間内で集まって夜更かしと言うのも楽しい。

 だが、逆に自信のない者も居る。明日のテストが不安で、欠片も余裕がなくて楽しむどころではなくなって震えている。

 

「ううう……赤点とったら退学なんて。足引っ張っちゃったらどうしよう……!」

 

 いつもは元気よくハナコに突っ込みを入れるコハルだが、今ばかりはいつもの元気が失われていた。

 実際に、赤点を取る可能性があるのは自分とアズサ。けれど、アズサの方が地頭が良いのはこれまでの合宿で分かっている。

 つまりは、まあ――合否は自分にかかっていると言っても過言ではないのを理解してしまっているわけで。

 

「問題ない、コハルはたくさん勉強を頑張った。一緒に合格しよう」

「アズサ……でも、不合格だったら……」

 

 コハルの肩に手をやる、むふんと気合十分な様子のアズサ。こいつだって不合格になる可能性があるくらいの模擬テストの点数だったのに、どうしてこんなに自信満々なの? と思った。

 

「大丈夫ですよ、コハルちゃん。まだチャンスは2回あります。今回が駄目でも次があります。リラックスして挑みましょう? 私はコハルちゃんは出来る子だって、信じてます!」

「ヒフミ……」

 

 もう片方の肩に手をやるヒフミ。柔らかな笑みに救われる。

 そうだ、補習授業部の皆はこれで落ちたからと言って虐めるような人じゃない。だからこそ、逆に奮起しなければと思い立つ。

 

「そうだ、ともに合格してペロロ博士のぬいぐるみを貰うんだ」

「はい! 頑張りましょう!」

 

 とはいえ、こいつらのペロロだかなんだかのキモイぬいぐるみへの情熱は理解出来ないのだが……

 とはいえ、不安になっていても仕方ない。勝負は明日なのだから。

 

「そうね! やる前から不安になったってしょうがない! やるからには――」

「……あっ!」

 

 気合を入れようとしたいいところに、ハナコの声が邪魔をした。

 

「なによ、ハナコ。あんたがそんな声を上げるなんて珍しいこともあったものね」

「……ハナコ? 何かあった?」

 

 先生が、不安そうに声をかける。そして、ハナコは負けず劣らずの固い表情で弄っていたスマホの画面を見せる。

 

「試験範囲と時間、さらに合格点の変更……それに、試験会場が変えられています」

「――」

 

 先生が、一瞬訳が分からないという表情を浮かべる。

 

「なんですって――――ッ!!」

 

 真っ先に爆発したのはコハルだった。

 

「あわわ。どうしましょう……ええと、場所は……ブラックマーケットの近く、トリニティの中でも外周に近いところにありますね。――けっこう遠いです」

 

 ヒフミも冷静ではいられず、あわあわと慌てながら何度もその試験要綱を眺める。嘘であってくれと思っても、その画面が変わることはない。

 

「え? このバラック、ブラックマーケットだったのですか。治安が悪く整備もされていない地区と聞いていましたが、そんな裏事情があったのですね」

「ど……どうすんのよ!? そんな呑気にしてる場合じゃないでしょ! そんな……こんな遠いところ、間に合わないわよ!」

 

 コハルが叫ぶ。普通に考えれば、もうどうしようもない。

 こんなことをされてしまえば、まともに戦う方がバカというものだ。なにがあろうが決してひっくり返らない権力というもの。

 ただの一般人では逆らうこともできやしない。それが権力と言うものだ。

 

「それに試験範囲の変更も……です。ハナコちゃんは大丈夫でしょうけど。これは、私も危ないかもしれません」

「だが、諦める理由にはならない。まだ試験までは時間がある。ここで足を止めはしない。今は、一刻も早く出発すべきだ」

 

 だが、それでもアズサは諦めない。

 相手が権力者で、決して勝てるような相手ではなくても……それは諦める理由にはならないと。

 結果が見えていても、反抗すべきだ。それが生きるということなのだから、と。

 

「はい、そうですね。では――走りましょうか♡」

 

 ゆえに――補習授業部は疾走する。

 

 車も戦車も、持ってないのだから足を使う以外に方法はないのだ。

 

 

 

「大丈夫ですか♡ 先生」

 

 そして、早々にバテた先生をヒフミが背負って走っている。ハナコはくすくすと怪しい笑みで見守っている。

 

「ごふっ。こひゅー。……大丈夫だったら良かったんだけどね」

「無理しないでください、先生。ペロロ様バッグ、結構ものを入れちゃってて。重いので、先生くらい背負っても大丈夫です。ハナコちゃんの方は大丈夫ですか?」

 

「問題ありませんよ。……ふふ、ヒフミちゃんの香りを感じますね」

「何言ってんのよ! ダメ!エッチなのは禁止!死刑! それは私が持つわ!」

 

 代わりにヒフミのペロロ様バッグをハナコが持ってあげていたのだが、コハルが奪うようにひったくった。

 ちなみに先生を背負うことはハナコが提案したのだが、コハルの反対でヒフミが背負うことになったのだった。

 

「……みんな、止まってくれ」

 

 先行していたアズサが鋭く声をかける。

 

「どうかしましたか?」

「ヘルメット団がたむろしている。迂回するか?」

 

 アズサは自ら索敵を買って出て、そしてその役割を果たした。敵を見つけた。……見つけてしまった。

 相手に見つかってしまうよりは良いのだが、しかし敵が居ること自体がマズイ状況だ。

 

「このルートは大丈夫だったはずなのですが……これは、ねこちゃんの手管でしょうかね」

「誰よ、それ。そもそもヘルメット団なんてぶっ飛ばして進めばいいじゃない。10秒で終わらせてやるわ」

 

 息まくコハル。自信過剰ではない、そこらのチンピラなど簡単に制圧できるだけの実力は持っている。

 ――けれど。

 

「コハルちゃん……他にも敵が居る可能性が高いんですよ。ヘルメット団は群れる習性がありますから」

「万が一見つかっちゃったら騒ぎになっちゃいますもんね。騒ぎに巻き込まれたら試験会場に辿り着けなくなっちゃうかもしれません」

 

 敵が見えるだけとは限らない。というよりも、ハナコとヒフミは他にもヘルメット団が居ることを確信している。

 それは音を聞いたとかではなく、ただの確信であり体験談だ。

 

「あそこに居る敵を処理したとしても、警戒しつつ進んで行くのでは時間がかかる。戦闘を避けるためには大きく迂回する必要がある」

 

 とはいえ、ヘルメット団の集団を回避するためには大きな回り道をする必要がある。そちらの選択肢でも、試験開始に間に合わなくなる可能性がある。

 

「ああ、もう! 分かったわよ。簡単には行かないんでしょう。どうするのよ?」

「……先生が指示していただけませんか?」

 

 ヒフミが、先生に任せる。

 

「私が?」

 

「私も、それでいいと思います」

「先生の指示に従う。指示をくれ」

 

 そして、ハナコもアズサも頷く。コハルは、ついさっき任せると言ったばかりだ。先生は一つ頷いて。

 

「分かった。じゃあ、突破しようか。……大丈夫、向こうにも地の利はない。だよね? ハナコ」

「そのはずです。向こうの方で自警団の活動が活発になって追い出されてきたヘルメット団です。ここを根城にしている訳じゃありません」

 

「――よし。やろう」

 

 先生がす、と目を細める。接続開始、と小さく呟いた。

 

「まずはアズサ、あの二人を処理してしまおう」

「了解」

 

 アズサは音もなく忍び寄り、1発ずつで気絶させた。耐久力と言っても、それは気力と関連がある。

 逃げてきて、ここは静かだから安心だと油断したところに一撃だ。ただのヘルメット団に耐えきれるはずがない。

 

「さあ、進んでいこう……!」

 

 そして進んでいく先生と、付いて行く4人。この世界で先生だけは銃弾の一発で死にかねないかよわい存在だ。

 なのに、誰よりも堂々と歩を進める。それはまるで、私を討てる者などいないと主張せんばかりだ。

 

「……ハナコ、2時方向に3人居る。頼めるかな?」

「はい♡ 問題ありませんよ」

 

 そして、アズサより先に敵を言い当てては補習授業部の各員が確実に処理していく。

 そもそも、そこに居るのは自警団に追い出されたヘルメット団。

 ――史実で会った、一般的なゲヘナ生徒とはものが違う。実力もなければ、戦意もない。そんなものでは相手にならなかった。

 

 軽快に進んで、しかし――試験会場まではあと一歩のところで。

 

「あいつら……邪魔すぎない!?」

 

 コハルが毒付いた。会場は広場の先にある。だが、その広場は開けていて……しかもヘルメット団がたむろしていた。

 酒ではあるまいが、思い思いに飲み物を持って管を巻いている。時間は明け方、一番油断する時間帯とも言うが、しかし起きだしているのがかなりの人数居るのだ。

 

「これは……強行突破しかありませんかね」

「問題ない。私が前に出る」

 

「みんな、待って。ここはヒフミにお願いするよ」

 

 血気盛んな3人に、先生は少し落ち着くように言う。そして、大抜擢されたヒフミは慌ててしまう。

 戦闘などとは程遠い、普通の女の子だと思っているのだ。……自分だけは。

 

「えっ!? 私ですか? 私みたいな普通の子にあれだけの人数を倒してしまう力はないですよ……!」

「倒す必要はないよ。少し注意が逸れてくれれば、それでいい」

 

「注意を?」

「ヒフミの奇跡で、あの辺りにペロロ人形を出してくれないかな。その子に騒いでもらっている内に通り抜けよう」

 

「だが……大丈夫なのか? ヒフミを疑う訳ではないが、敵に気付かれれば一斉放火を喰らう恐れがある」

「まあ、先生の言うことですから大丈夫でしょう。ヒフミちゃん、お願いしますね」

「うう……本当に頼むわよ。ヒフミ」

 

 4人から願われてしまったヒフミはやる気を燃やす。

 

「確かに私には自信がありません。しかし、ペロロ様なら大丈夫です! さあ――お願いします、ペロロ様! その華麗なるダンスであの人たちの目を釘付けです!」

 

 ヒフミがディスクを投げ、踊るペロロ人形が出現、ミュージックがかかる。それに紛れて、補習授業部は試験会場へと向かっていく。

 

 ――突破した。見事、試験開始時間までに間に合ったのだ。

 

 

 





 はぁ、はぁと――切羽詰まった息の音。だが、それを聞いている者はいない。本人であるミカも、自身の呼吸の音を聞いていない。
 そんな余裕がない。瞳は濁り切って、照明も落とした中で僅かなランプを頼りにその回答用紙を眺める。

「……これが、皆の第二次試験の回答用紙なんだよね」

 ふらふらと不安げに揺れる瞳で、その紙を見る。第二次試験――突破するための補習授業部の努力は伝え聞いている。
 いや、そんなものを聞かなくてもあの子達ならサボったりしないことは知っている。誰か一人でも落ちれば諸共に追放、だからどこまでも必死に食らいついたはず。
 ……そういう子達なのだ。自分のためよりも、誰かのために必死になれる優しい子達だ。

「――」

 願うように、祈るように採点する。……そんなことをしたとて無意味と知っているけど。なぜなら、未来を変えるわけにはいかないのだから。
 そのためにミカはここに居るのだから。結論なんて変わらない無駄なことを、ミカはする。

「……みんな、合格。……なんで?」

 その結果はあってはならないものだった。補習授業部が第二次試験で合格……そうなれば、後の展開が予想の付かなくなる。
 いや、最初から結論は一つだった。テストは燃やされる運命、その予知を変える訳にはいかないのだから。

「なんで……? なんで……?」

 もう一度始めから採点しなおしてみた。結果は同じ。当たり前だ。1年用のテストでミカが間違うことなどありえない。
 そもそも、定期試験ほどキチンとしたものではない。問題数も限られているたかが小テストだ。

「ごめん……ごめんね……」

 泣きながら、その回答用紙に火を付ける。ヒフミも、コハルも大切な人だと思っている。もちろん、アズサとハナコだって傷つけていいと思ってるわけじゃない。
 そんな人の頑張りを無に帰すようなこと、そんな酷いことはやってはいけないと分かっている。

 ――けれど、これから先の未来を想えばやめてしまう訳にはいかない。先生がマダムを倒す、その未来にたどり着くために。

「――ごめんね」

 聞かせるわけにはいかない。けれど、罪悪感に耐え切れなくて……ミカはただただ許しを乞うた。
 その手の中で、回答用紙は燃え尽きて灰となる。


 セイアちゃんが勝手なことをしてやりたかったルートに進めなかったので、ここで供養しておきます。
 ゲヘナ行きを阻止して普通にテストさせたので、無理やり落とすためのルートでした。
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