聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第5話 逆撃

 

 

 ホシノとミカは一応の和解を終えた後に教室に戻った。

 ちなみに窓はノノミが直しておいた。集めてスイッチ一つで元通りのナノテクだ。いつでもどこでも窓が割れるキヴォトスならではの、ミレニアムで生まれた超技術によるものである。

 

「いやぁー。まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」

「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩……ミカさんが何とかしてくれただけじゃないですか……」

 

 ホシノの抜き身の刃のような雰囲気は消え失せ、今は眠たげな子供そのもののあどけない顔で机に突っ伏している。

 横のアヤネが遠慮がちにゆらゆら揺らしているが、むしろ心地良さそうにしていて起きそうにない。

 

「ミカさんは凄かったね、それに先生も一言でミカさんを止めちゃいましたし」

「これが大人の力……凄い量の資源と装備、それに狂犬のあやし方まで」

「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ」

 

 わいのわいのと楽しそうにしている。ミカも私は狂犬じゃないよお、うえーんと先生に甘えられてご満悦だった。

 

「いやいや、変な冗談はやめて! 先生困っちゃうじゃん! それに委員長はその辺でしょっちゅう寝てるでしょ!」

「そうそう、先生もかわいそうでしょう」

「あはは……少し遅れちゃいましたけど、改めてご挨拶します。先生」

 

 改めて、アヤネが先生の前に出る。ちなみにミカは空気を読んで先生の隣におしとやかに座っている。

 

「私たちはアビドス対策委員会です。私は委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ……」

 

 エルフ耳のメガネっ子が自分を指差した。

 

「で、こちらは同じく1年のセリカ」

「どうも」

 

 猫耳のツンツン少女を手で指し示す。

 

「2年のノノミ先輩とシロコ先輩」

「よろしくお願いします、先生~」

 

 胸の大きい女の子がゆるふわな笑顔を向ける。なお、先生はその大きな胸を見ていた。

 

「背中に乗せてあげて匂いを嗅がれたのが私。あ、別にマウントを取ってるわけじゃない」

 

 ふふん、と狼耳少女はミカにしとやかな笑みを向ける。

 

「ふざけてるのかな? 先生はね――」

「そして!! こちらは委員長の、3年のホシノ先輩です」

「いやぁ~よろしく、先生ー」

 

 乙女の戦いが再燃しそうになったところは強引に打ち切られた。紹介されたホシノがとまどいがちに頭をかく。

 桃色の髪がふわりと舞う。だいぶ子供のような見た目だが、疲れ切った感じが年不相応なアンバランスな魅力を醸し出している。

 

「ご覧になった通り、わが校は現在危機にさらされています……そのため『シャーレ』に支援を要請しました。先生がいなかったら、さっきの人たちに学校を乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません……」

 

 そこでようやく本題を話せる空気になった。

 

「うん、助けになれたのなら良かったよ。ところで、対策委員会とは何かな?」

 

 先生が人を安心させる笑みで先を促す。随所でギャグのような変態のような姿を晒す先生だが、こういうところでは実に如才ない。

 

「ご説明します。対策委員会とは、このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活です」

「うんうん! 全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです! 全校生徒といっても、私たち5人だけなんですけどね」

「他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出て行った」

「学校がこのありさまだから、学園都市の住民もほとんどいなくなってカタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの」

「現状、私達だけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生として恥ずかしい限りだけど……」

「シャーレの補給がなければ万事休すでした」

「だねー。補給品も底をついてたし、さすがに覚悟したね。なかなかいいタイミングに現れてくれたよ、先生」

 

 とはいえ、本題に入っても少女たちは姦しい。先生は優しげな眼で彼女たちを見ていた。

 

「そういうわけで、私にちょっとした作戦があるのだ~」

 

 ホシノが起き上がり、ゆるゆるな声で話す。

 

「えっ! ホシノ先輩が!?」

 

 セリカが驚いた声を出すと、ホシノは子供のようにぶすっと唇を突き出した。それはとても子供らしくて愛らしい姿で、先生もつられて笑顔になってしまう。

 

「いやぁ~その反応はいくら私でも、ちょーっと傷ついちゃうかなー。おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさー」

「にゃはは、ホシノちゃんは好戦的だねえ。ま、私が散らしておいたゴミは本隊にも戻らずどこかに逃げ込むだろうから、攻め時と言えばそうかなあ」

 

「そうそう、このままならヘルメット団は数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いているからね~」

「おやおや、まあサルは仲間がイモを洗ってるのを見て真似するけど。ゴミは知能が猿以下だからチンピラだもんね? 虫みたいにどこにでも湧いてくる」

 

「うへ。そこまでは言わないけどさ~。このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗しているだろうからさー」

「うんうん、害虫は巣から駆除しないとね☆ あいつらの巣はここから近いのかな?」

 

 3年が悪い笑みを浮かべて相談する中で、シロコがいいところを取る。

 

「ん。ヘルメット団の前哨基地はここから30㎞ほど。……今から襲撃しよう」

「そうだね。私もそれがいいと思うよ」

 

「よっしゃ、先生のお墨付きももらったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」

「善は急げ、ってことだね」

「おお~。それでは、しゅっぱつー」

 

 手を上げて、それぞれ足を進める。

 

「じゃあ、先生は私の背中に乗る?」

「駄目だよ、シロコちゃん。それは『シャーレ』の、私がやるべきことだよ」

 

 またもや女の戦いが再発しかけたところを。

 

「それはミカさんにお願いしたいかな~。やっぱりヘルメット団の退治は私たちがやるべきことだからね」

「ホシノ先輩……」

 

「ま、そういうことね。あんたはこっちよ、シロコ」

「はい。では、ミカさんには先生のおんぶと護衛をお願いしますねー」

 

 ニコニコ顔でミカが先生を背中に乗せる。

 

「……すまない。皆に付いて行けない先生で本当にすまない」

 

 先生が頭を下げる。なお、背負われている状態でそれをやるものだから深くミカに抱き着くような形になるが。

 

「ひゃっ♡ 先生、大胆だね」

 

 ミカはくすぐったそうにしている。言い出しっぺになったホシノはうへ、と舌を出した。

 

「みなさん、出発! してください!!」

 

 アヤネが吠えた。

 

 

 

 そして、走ること1時間弱。

 

「うえ。……うっぷ」

 

 先生がグロッキーになっていた。

 

「大丈夫? 私の膝枕で休む?」

「いや、砂漠の真ん中で休んでいるわけにもいかないよ。敵の前線基地もすぐ近くだからね」

 

「じゃあ、先生はミカさんとここで待っててね~。おじさんたちはヘルメット団にカチコミだ~」

「待って、ホシノ。私が指揮を取る。アヤネも、それでいいね」

 

〈はい。オペレーターとして先生の指示に従います。ドローンの操作は私がやりますので〉

「うん、私の持ち込んだドローンもそんなに柔ではないけど……壊したらミレニアムのみんなに怒られてしまうからね」

 

 校舎に残してきたアヤネの声が届く。アヤネの回線を使って戦闘を開始する。

 

〈では、みなさん。アビドス出撃です!〉

「「「「おおー!」」」」

 

 駆け出していく。先生は影になっている場所に座り込んで、タブレット端末『シッテムの箱』を開く。

 

「さて、やっていこうか」

「うん。先生ならできるよ」

 

 ドローン回線に割り込み、情報を吸い上げる。そして画面には味方の位置、敵の位置が表示される。

 

〈ホシノ、シロコ。右から接近して見張りを攻撃。すぐに仕留めるよ〉

「了解」

「ん」

 

 二人は即座に行動、流れるように見張りの意識を刈り取った。

 

〈扉を蹴り破って手榴弾を投擲。ノノミ、5秒後に前に出てミニガン斉射。目につくものから片っ端に〉

 

 行動は迅速に。もともとアビドスメンバーは連携がとれている。そこに先生の指揮まで加われば、もはやヘルメット団に抵抗する術などない。

 好き勝手にやられたヘルメット団の生き残りがそれぞれ反撃を開始するが……

 

〈ホシノ、敵はノノミの斉射が途切れてからの反撃を狙ってるよ。弾切れの隙は、前に出て敵を牽制〉

〈シロコ、セリカ。ホシノが敵の気を引き付けているうちに一人ずつ対処して。ノノミは次の攻撃を準備。撃たなくていいよ〉

〈――うん、順調だ。敵も浮足立っている、今のうちに数を減らしておこう〉

 

 そして、轟音を伴って敵の切り札が現れる。壁を破壊しながら現れたのは……戦車。その装甲の威容は常のアビドスメンバーならば撤退するほどであるが。

 

「戦車!? 奴ら、そんなものまで……!」

「でも、屋内ならそこまで脅威ではないはず」

「――ッあいつら、撃ってきた!?」

 

 回線を通して生徒たちの戸惑う声が聞こえてくる。チンピラが持つにはあまりにも強力すぎる兵器。

 だが、それをチンピラが持っていたところで扱えるはずもない。潰し方はいくらでもある。

 

〈みんな、落ち着いて。目の前のことを一つずつ対処していこう〉

 

 回線から聞こえてくる先生の声で落ち着きを取り戻す。それは不思議な響きだった。配下を狂奔させることを将の才と呼ぶのなれば、それこそ王の器と呼ぶのだろう。

 

〈うん、ノノミのミニガンを撃ち続ければいつか壊せるかな。なら、まずは随伴から始末しよう。ホシノ、セリカ〉

 

「りょうか~い。セリカちゃん、おじさんが前に行くからどんどん撃っちゃって」

「ホシノ先輩も気を付けて!」

 

〈さて、注意が逸れた。ノノミ、お願い〉

 

「はい! どんどん撃っちゃいます」

 

 銃弾が戦車を叩く凄まじい轟音が響いてきた。たまらず中のヘルメット団は外に出てきてしまう。

 訓練を受けているのであれば冷静に反撃できたかもしれないが、ただのチンピラだ。冷静な対応ができるはずもなく。

 

〈おや、出てきたか。中に籠るならそのまま破壊してしまおうかと思ってたけど。ノノミ、射撃をやめて〉

 

「はい!」

「うへ。先生、出てきた奴らは仕留めたよ。戦車も無傷ってわけではないけど……足にはなるね」

 

 外に出てきた瞬間にホシノに狩られて転がった。

 

〈うん、ありがとう。では、残党を掃討しようか。まずは左の部屋に隠れている子から無力化して行こう〉

 

「ふふん! 先生が居ると不用意に反撃とか喰らわなくていいわね。さあ、どんどん狩って行きましょう!」

「セリカちゃん、先生が敵の動きを把握してくれてるとはいっても、一人で先に進まないでね。パパは迷子が出ないか心配です~」

「あはは。じゃあ、ママが付いて行ってあげますね?」

 

「ホシノ先輩、ノノミ先輩! ふざけてないでください!」

「うへ、怒られちった」

 

〈ヘルメット団、逃げ出してるようです。先生、どうですか?〉

〈室内に居て逃げられなくなった子達が残ってるだけだね。悪いけど、気絶させて縛っておこうか〉

 

「あ~。まだ仕事が残ってる……おじさんはもうくたくただよ~」

「じゃあ私がぶちのめしてやるわよ!」

 

 セリカが元気に走っていく。潰走したヘルメット団に士気など残っているはずもなく、簡単に捕まえて転がしておいた。

 とはいえ、捕らえておいても仕方ないので、先生が説教して野生に帰すことになる。ここはアビドス、まともな警察機構なんて残っていないから賞金首くらいでないと意味がない。

 

 喜んでいるところに先生とミカが来る。

 

「うん、皆よくやってくれたね。じゃあ戦利品を確保しようか。そこの戦車に乗せれば持って帰れるだろう。……走るくらいなら、何とかなるんじゃないかな」

「ん、私は運転できるけどさすがに整備までは無理。それにこれ砂漠仕様じゃないし。うちの戦力にはあまりならないかも」

 

「砂漠仕様じゃないものを、このアビドスでどうしようってつもりだったのよ。ってか、この装備も異常じゃない? こんな豪華な装備。というか思ったんだけど、ヘルメット団も多すぎない?」

「うんうん、それはちょっと私も思ったかな。私が蹴散らした奴らがここに戻って来てるはずないし。ヘルメット団と言っても、一つの組織じゃなくてチンピラがヘルメット被って名乗ってるだけ。連合じゃないんだよ。こんなに集まるかな?」

 

「うへ。じゃあ別の学校区でも見ないほどのヘルメット団の出現率ってわけ? うわ、面倒~。おじさん、いやんなってきちゃう」

「学校が欲しいからって集まるような数じゃないわよ……」

 

「皆、推理も良いけど今は戦利品を持ち帰ろう。もったいないけど、ここの施設は使えないように壊しておこうか」

「「はい!」」

 

 パン、と手を叩いた注目を集めた先生が先の行動を促すとそれぞれ行動を始めた。積める分の物資は戦車に乗せ、余った分は燃やして始末する。

 あとはシロコがここにあった火薬を使って発電機を爆破、もしまた別のヘルメット団が来た時用にトラップも仕掛けた。

 

「さて、みんな。忘れ物はないかな? 家に帰るまでが遠足だからね」

「は~い。ちゃんと確認しました、先生」

「はい! ハンカチも忘れてないよ☆」

 

 そうして、笑いながらアビドスへと帰還する。

 

 

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