聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第50話 袋小路の補習授業部

 

 

 桐藤ナギサを抱えたままの補習授業部を、とある校舎にまで追い詰めたアリウス。もはや敵は袋小路だと、二つある入口のうちバリケードの方を爆破して侵入することにした。

 

「突入!」

 

 そして、開いた入口から侵入していく。けれど、そこに唐突にかけられる声がある。それはアリウスにとって聞き覚えのある声だった。

 

「だと思った」

「なぁっ!?」

 

 踏み込んだ瞬間、床が爆ぜた。それはバリケードを爆破して押し入ることを想定された罠だった。

 行動が読まれていた。片方の入口を開けておいたことすら罠のうちであったのだ。

 

「ぐうっ!」

 

 最初に突入した何人かはまともに爆圧を喰らって気絶した。

 

「くっ! 退くな退くな! 罠さえ突破すれば、数で勝るこちらが優位なのだ!」

 

 そして、倒れた仲間をも踏み越えて迫るアリウスという過去の亡霊たち。もしくは、利用される哀れな子供か。

 まだ戦意は失われていない。こんな罠などよりもよほど恐ろしいものがあるのだから。

 

 他方、増援側は。

 

「ぐわっ!」

「ま、まさか――クレイモア!?」

 

 開いている方から攻めてきた彼女たちも罠にやられていた。増援側はそちらの方から侵入するのもアズサの想定内だ。

 むしろ、逃げ道を塞ぐため手分けして全ての入口から追い詰めていくのは刈る側としては当然の戦法だから読めないはずもない。

 結局、どちらの道にも罠は仕掛けられていたということだった。

 

 

 

 だが、先に侵入したアリウスは仲間の犠牲と根性で罠に耐えながら進む。罠によって混乱する部下達。だが、無慈悲にその屍を踏み越えて進むのだ。

 

「よくもここまで追い詰めてくれたな、裏切り者め。貴様のせいでここまで戦力を失った。覚悟はできているのだろうな?」

「……」

 

 アズサはその声に答えない。戦いの前に、軽く銃を見てチェックしている。

 

「なるほど、大分減りましたねアズサちゃん」

 

 くすくすと笑うハナコを前に、アリウスの指揮官は激高しかける。だが、冷静になれと己に言い聞かせる。

 ここでキレれば向こうの思うつぼだと、つとめて冷静に問いかける。

 

「このまま行けば行き止まりか。ターゲットはどこだ?」

「隠した」

 

「早めに吐いた方がいい。増援が到着している。貴様らの抵抗は無意味だ」

「……増援?」

 

「ああ、それも部隊単位でな!」

「増援か。……『スクワッド』はどうした?」

 

「スクワッドが来るまでもないさ。それにどうやら、他にやることがあるみたいでね」

「なら問題ない」

 

 さっとアズサとハナコが身をひるがえす。……逃げた。

 

「その先には体育館しかないことは把握済だ! そして、これ以上トラップがないこともな! 逃がすか、追え!」

 

 そして追い詰められた補習授業部。残りの二人も、そこに居た。

 

「なるほど。逃亡ではなく待ち伏せだったか。……だが、たった四人で私たち相手に、何分耐えられると思っているのだ!?」

「その通り、もう退路はない。お前たちは逃げられない」

 

 静かに声を発するアズサ。

 

「ですね、一先ず仕上げと行きましょうか♡」

「待ってたよ」

 

 そして、満を持して声をかける先生。体育館の上の方に佇んでいる。流れ弾はあまり来ないかもしれないが、あまりにも不用心な姿だ。

 撃てば当たる、そんな場所で――先生は悲しそうにアリウスを見つめていた。

 

「ご存じの通り、シャーレの先生です」

「待ってた。指示を」

 

「じゃあ補習授業部、行こう」

 

 その声を皮切りに、全員が銃を構えた。

 

 ――激突する。

 

「ほざけ! お嬢様学校の劣等生、そしてシャーレの先生とやらごときに、数は減ったとはいえアリウスの軍が負けるものか!」

 

 指揮官が思い切り睨みつける。犠牲を払って罠を食い破った。そして、この体育館にまで補習授業部を追い詰めたのだ。

 退路はない? そんなことがあるわけがない。後方はがら空き、いくらでも撤退できるし――後から援軍だって到着する。

 そう、たったの四人を相手に軍が負けるはずがないのだと。

 

「それはどうかな? 確かにお前たちは戦争のプロで、補習授業部は素人なのだろう。……だが、私たちは大切なことを知っている!」

「裏切り者め! 大切なことだと!? そんなものが、銃の握り方以外にあるものか!」

 

「……悲しい人です。戦うこと以外に何もないなんて」

「そうよ。信念があるから戦えるの! ただ言われるがままに戦うだけ――それで勝てるなんて思わないで!」

 

 ヒフミ、そしてコハルが哀れみさえ交えながら、敵対しているはずの彼女たちを見る。彼女たちの境遇は、少しだけどアズサから聞いた。

 彼女たちだって、アズサと同じだった。そのように育てられて、それ以外を知らなかった。勉強のことも、おいしいお店も、おしゃれの仕方も……何も知らない哀れな子供。

 

「馬鹿め! だからこそ――負けんと言っている! そんなものは余計なものだ! 戦争には不要な不純物! でなければ、なぜ我々は……あんな場所で、飢えてまで……! 負けるものか!」

「指揮官、増援はもうすぐ到着します! 攻撃命令を!」

 

「ああ、奴らを叩きのめせ! 殺してしまえ! 我々こそがキヴォトスで唯一の、ヘイローを壊す方法を身に着けた最強の軍隊なのだ。素人に負けることなど……認められるか!」

「了解、戦闘を開始します」

 

「アズサ」

 

 そっと先生が呟いた。即座に反応してアズサが戦闘を開始すると言った彼女を撃つ。機先を制された。

 

「だが、一人倒されたところで……! アリウスは、貴様たちなど簡単に飲み込めるだけの戦力がある! ひるむな、撃て!」

「うん、みんな少し下がって」

 

 トラップに疲弊したアリウスの兵は、指揮官の怒りはさておいてぼろぼろだ。応援が来るという心の支えがなければ立っていることすら出来ないだろう。

 照準が滅茶苦茶で、まぐれ当たり以外は壁を叩いた。

 

「さあ、行くわよ!」

 

 掛け声とともに、コハルが手榴弾を投げる。

 

「うわああっ!」

「きゃあっ!」

 

 爆発。アリウスは右往左往して攻撃の手が緩まった。その瞬間を、アズサは逃さない。前に出て、ばったばったとなぎ倒して行く。

 

「……おのれ! 裏切り者がぁあああ!」

 

 指揮官は自ら前に出てアズサに向かって撃ちまくる。

 

「ぐっ! 避けきれない……!」

「貴様はトラップ戦法が本領! この距離の撃ち合いでは負けん! 決して!」

 

「アズサちゃん!」

「指揮官の邪魔はさせない!」

 

 駆け寄ろうとするヒフミだが、銃弾に遮られてそちらに行けない。それはハナコも同じ状況だった。

 

「ならば――私がお前を倒す!」

「倒されるものか! 貴様だけは! この裏切り者がァ!」

 

 撃つ撃つ撃つ。両者ともにキヴォトスの住人、5発や10発撃たれた程度で気絶したりしない。真正面から覚悟を決めて撃ち合っているのであればなお更に。

 指揮官の撃つ銃弾はアズサの身体を捉えるが、アズサの放った銃弾も指揮官の身体に撃ち込まれていく。

 もはや根性勝負の局面に陥っていた。

 

「ぐ……ぐぐぐ――ッ」

「は……やはりそんなものか、裏切り者め! 貴様には覚悟が足りん! 真の軍人と言うものがどういうものかを見せてやろう!」

 

「だが、それでも私は諦めない!」

「ならば、その奢りを抱えて暗闇に沈め! 貴様の後で、大事な仲間とやらも地獄に送ってくれる!」

 

 膝から崩れ落ちたアズサに、指揮官は銃弾を更に撃ち込む。ここからの逆転劇はない。……外部からの介入がなければ。

 

「アズサ、回復するわ!」

「……コハル、ありがとう。回復完了だ!」

 

 そう、補習授業部の言った大事なもの。信じられる仲間。――誰かを頼るという気持ち。それは、ただの軍人として育てられたアリウスにはないものだった。

 

「なんだと……ここで回復だとォ!?」

「そうだ、仲間が居るから……私は負けない!」

 

 立ち上がり、銃を撃ち放つ。指揮官も応戦するけれど、受けたダメージが回復していない。動きが鈍い。

 その勝利の要因は、信用できる『仲間』が居たことで。指揮官は、部下を信用してなければ逆でも同様だった。

 

「だ、誰か……こいつを、撃て!」

 

 震える腕。もう銃弾がアズサに当たらない。だから、部下にコイツを撃てと命じた。……でも。

 

「――む、無理だ。こいつら、強い……!」

「うわああっ!」

 

 しかし、応える声は悲鳴ばかり。手伝うどころか、むしろ助けてくれと言わんばかりの声だった。

 状況は補習授業部が優勢だった。

 

「これで、終わりだ!」

「……白洲アズサ。この――裏切り者めええええ!」

 

 恨みの言葉を叫び、銃弾に倒れた。

 

 

 そして勝ち取った休憩時間。だが、指揮官の言ったことは嘘ではない。それは増援が到着するまでの、僅かな時間でしかない。

 

「……何か食べましょうか」

 

 集まって、ヒフミが背中のペロロバッグを下ろしてごそごそやりだした。

 

「え? そんなのまで入ってるの。道理で重いはずよね」

「ふふ。ありがとうございます、ヒフミさん」

 

 夜通し戦い通しで、この休憩時間に空腹を思い出した。今なら何でもおいしく頂けそうな気分だった。

 

「では、どうぞ! ペロロ様がコラボしたペロロレインボーサイダー。それにペロロ様のイラストがついているグルーシリアル、グリッチベリーエクスプロージョン味です!」

 

 が――笑顔で差し出されたそれは、空腹でも食べたくならないような色とフレーバー名をしていた。

 いや……まあ目に眩しいその色はゲヘナ辺りでは売れるのだろうか?

 

「ええと……これ、食べれるの?」

「あはは。……個性的な名前ですね?」

 

「おお! なんとかわいい……!」

「え……? かわいい……?」

「……やっぱり個性的なセンスですね♡」

 

「そうです、とってもかわいらしいでしょう。アズサちゃん! 袋は保存しますので、綺麗に開けてくださいね」

「うう……私では破いてしまうかもしれん。ヒフミ、頼めるか?」

 

「はい、どうぞ! 皆さんも」

 

「――うん。あ、食べれないこともないね」

 

 真っ先に先生が、エグいピンク色をしているシリアルを掴んで食べた。意外そうな顔をしている。

 怖いもの見たさだったが意外と食べられる。

 

「え? 先生、舌は大丈夫?」

「はは、酷いな。まあ私はもうちょっと甘さ控えめが好みだけど、それでも舌が痺れるほどの甘さじゃないからね。サイダーも貰おうかな。……う、こっちも甘い。いや、飲めないほどじゃないけど」

 

「ええと……」

「大丈夫ですよ、コハルちゃん。私も食べられましたから。……まあ、改めて自分で購入しようとは思いませんが」

 

 戦々恐々とするコハルに、ハナコが優しく声をかける。もはやアリウスよりもそれらを恐れているような表情だった。

 

「――皆、今のうちに飲み物と食べ物を補給するんだ。敵の応援が来る前に」

 

 そして、僅かな休憩時間を堪能した補習授業部は敵の増援を迎えるのだった。

 

 

 

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