病室に閉じ込められたミカが運動をしようとするが、静かに本を読みたいセイアとしてはたまらない。
これはもう本を読むのを諦めて話で意識を逸らそうとしたら、話が終わると同時にまた運動を始めようとしたミカ。
「待ちたまえ、この狭い……狭くないかもしれないが、病室で暴れるのは勘弁願おう。……そうだね、他の手段で痩せてもらうとしようか」
「他の? って」
セイアがやれやれと肩をすくめたふうを装っているのに、ミカは気付く。まあ、もう少しすればナギちゃんも来るだろうし三人で遊びたいのだろうと内心ほっこりする。
「実際は運動では脂肪はそれほど燃焼しないよ。まあ、運動も出来ないクラスの肥満児であればそれから始める必要があるのだがね。幸い君はそうではない。ゆえに、ただ運動をするよりもカロリーを使うには――頭を使うのだよ」
「頭? お勉強はもうたくさんなんだけど。ナギちゃんが一杯宿題を寄こすし、静養中のセイアちゃんと違って私は政治のお仕事もさせられてるんだよ」
「気にするな、そろそろ私の方にも仕事が降ってくるはずだ。まあ、時間があるうちにできるだけ趣味の読書を楽しんでおきたかったのだがね。筋肉馬鹿が風を起こしている中ではそれもままならない。というわけで、トランプをしよう」
「トランプ? なんで?」
「腕を動かすより頭を動かした方が痩せられる……と私は説明したつもりだったのだがね」
「へえ、そうなんだ。じゃ、二人でやるやつの定番と言えば。スピードでもやる?」
けらけらと笑うミカに対して、セイアは降参とでも言うように両手をひらひら振る。
「――それでは反射神経の勝負になってしまうだろう、このか弱い私ではゴリラに勝てるわけないし……そもそもそれは頭を使う勝負ではないだろう」
「ええ? でも、ほらこっちを出したら相手に有利になっちゃうとか。相手が気付かないうちにこっちを出しとこうとか、色々あるじゃん?」
「そこも含めて反射神経では? しかし、スピードが高速思考の訓練となるのか。……いや、やはり私が不利だな。やめよう」
「あれれー? セイアちゃん、逃げちゃう? 速さでは私には敵わないのかなー?」
「ふ、なんとでも言うがいい。私に負ける趣味はない。頭を使う勝負と言えば、ポーカーだな。ポーカーをしよう」
「ポーカーねえ。それ、未来が見えるセイアちゃんが有利じゃない?」
セイアは正気かコイツという目でミカを見る。
「私の未来視を何だと思っているのだね? そんな馬券を予想できるような便利なものではないよ。ゆえに、これは頭の勝負だ」
「あはは。でも、ポーカーは本当に頭の勝負かな? ね、大丈夫? 私、けっこう運の良い方だよ」
「ふん。運など、確率の偏りが見せる幻想に過ぎない。結局は頭の良い方が勝つのだよ」
「さて、それはどうかな。ところで、トランプとか言い出すからには、もちろんセイアちゃんが持ってるんだよね」
「なければ言わないよ。さあ、やろうか」
「ちょっと待って。私が切る。セイアちゃんが何かしないとも限らないし」
「そんなことはしないよ。まあ、出来ないとは言わないけれど。――良いとも。君が不正をしようとも、私は見落とさないからね」
「ふふん。言ってなさい」
セイアがミカにトランプを放り、ミカはそのトランプをシャッフルする。そして、カードを配る。
「……ふむ」
「おや、良くない顔かな?」
くすくすと笑うミカに対し、セイアはいつもの仏頂面。とはいえ、二人はいつもこんな感じだから、表情で配られたカードを見通せはしないけど。
じゃんけんをして、ミカが勝つ。
「ふふん。ジャンケンも、ポーカーも運が良い方が勝つじゃんね。さて、私は……うん。これが来る気がする!」
1枚だけ残して総とっかえ。来た手札を見てニヤリと笑う。……が。
「ふむ。期待していたカードは来なかったようだね。君は嘘の笑いをするとき、まぶたが二度ぴくぴくと動く」
「……うそっ!」
パッとまぶたを抑える。その仕草を見て、セイアはニヤリと笑う。
「うむ、嘘だが……間抜けは見つかったようだね」
「うぐぐっ……! やられた。でも、手札運まで良いとは限らない……! どうせ、セイアちゃんだってカス札でしょ」
「さて……では、私は三枚交換させてもらおうかな」
引いた手札を見ても表情を変えないポーカーフェイス。だが、確実に相手にプレッシャーを与えている。
「そういえば、これ何回で終わり?」
「一般的なポーカーの手札交換数は二回だから、それで良いのではないかね?」
「オッケ。じゃ、これで終わりね。では、次は――うん。君に決めた!」
そして、また4枚を交換するミカ。セイアはちらりと捨て札を確認する。前回も、捨て札は確認していた。
「ふむ。君はあまりに情緒的だね。まあ、君らしい打ち方と言える。……私も、私らしく確率を信じることにしよう」
そして、セイアも前と同じく3枚を捨てた。そして、わずかに笑む。
「キングのワンペアだ。適当にやっていれば揃わないか、それかワンペアが限界だ。……12以下のワンペアでは君の負けだ」
「あはは、ご高説どうも。……でもね、こういうのって信じる者が勝つものなんだよ。……4の、スリーカードだよ」
「なにっ……!」
「あはは。私の勝ちだね」
「ぐ……だが、こんなものは外れ値に過ぎない。勝負を重ねれば、勝つのは私だ」
「ふふん。セイアちゃんに自分を信じ切ることができるかな?」
悔しがるセイアに、勝ち誇るミカ。そのほんわかとした雰囲気に、一人の女の子が入ってくる。
「……こんばんは、ミカちゃん、セイアちゃん。何をやっておられるのですか?」
仕事を途中で切り上げたナギサが遊びに来た。悲しいかな、終わらせるには物量が多すぎた。
それでも、息抜きをしなければ生きている意味もない。
「ふふ、ポーカーだよ。今ね、私が勝ったところ」
「ナギちゃん、君もここに座りたまえ。さあ、二回目の勝負だ」
なにやら燃え上がっている様子。何をやっているのだとため息を吐きそうになるが、これはこれで面白そうと思いなおす。
きっと、失敗した未来の自分たちに足りなかったのはこういう時間だと思うから。
「ええ。良いでしょう。何やらセイアさんは理屈だのを言っておられるようですが……一発屋のお二人とは違って、私はこの手腕でトリニティを治めて来たのだと見せつけてあげましょう」
ふわりと笑って自信気なナギサ。対等な条件の勝負であれば自分が勝つと。確かにミカとセイアにはあまりにも目立つ特色がある。
過激派としてのミカ、神秘としてのセイア。特別さ、という点では確実にナギサは劣るが――だからこそ、もっとも実力があるのは自分だと。悪く言えば地味な中で、それでも生徒会長の地位にあるのだから。
「……ふむ。まあ、大した反論は出来ないね。特に私は未来視などという不確定なものでこの地位に来てしまったから。まあ、それでも負けるのは気に食わないから本気でやらせてもらおう」
「ううん。まあ、腕力と……あとは過激思想がうまい具合に絡まり合って得た地位だから、あまり反論は出来ない。ま、負けるつもりもないけどね☆」
そして、その後は白熱した試合が続く。
「ふ、私はこうなることを予想していた。運の良い悪いなど、所詮は一過性なのだよ」
一発逆転を思い描いて、逆に良い役を揃えられない二人を下すセイア。
「あはは。やっぱり私って運がいいね☆ 来るって語りかけてたんだよ、この子が」
そして、ミカはというと勘がいい。見事に良い役を揃えて勝利を掴む。そして、そればかりではない。
「――ふふ。今回も、私の勝ちのようだね」
と、口八丁で場をかき乱す。1枚だけを交換して二人の焦りを誘って見事にカス手で勝利を収めたり。
ただのポーカーでも、トリニティのトップに立つ者である。確率計算、そして他人を欺く手練手管。
全ての陰謀を使い尽くして――
「さて、勝利数は……え? ちょっと、待って」
「ふむ。君の数え方はおそらく合っているよ。――まさかまさかというところだ。しかし、まあ考えてみれば結果は当然だったのかな」
ミカは指折り数えて青ざめていく。え? もしかして、勝ち星の数が一番少ないのは私なのかと。
そして、セイアが勝者を知らせる。
それは、決して華々しくなかった。観戦している者が居れば、間違いなくミカにMVPをあげていた。
場をかき乱し、口で相手の動揺を誘う戦法は見事だった。セイアだって健闘していた。けれど、最後に勝利を収めたのはこの女。
「ふふふ。私の面目躍如と言ったところですね」
満足げに微笑むナギサ。勝ち誇っている顔をしているのも当然だろう。地味な勝ち星を重ねていき、最終的な勝者になったのだから。
「あーあ。ナギちゃんの勝ちかー。ま、最後に勝つのはナギちゃんだよねー」
「私の確率計算など所詮は付け焼刃か。さすがだね、ナギちゃん」
「ふふ。……頭も使ったことですし、紅茶とお菓子を頂きましょうか」
そして、三人はテーブルについて舌鼓を打った。