そして、明日。ミカとセイアは、ミネ団長とともに極秘の会議室に着く。
「……さて、顛末をお話しましょうか」
そこには円卓が鎮座している。
ナギサの隣にはミカとセイアが陣取り、少し離れたところに救護騎士団のミネ団長と2、3人、また離れて正義実現委員会のツルギとハスミが座る。
3勢力が、3すくみのように対峙する。
「一つ、質問です。先生はこちらへいらっしゃいますか?」
ミネ団長がまず立って声を上げた。まあ、内容はアレだが。
「あまりトリニティのことで先生の手をわずらわせるのも気が引けますので、呼んではおりません。ただし、この会議の内容は極秘の手段で先生に伝えることは約束します」
「極秘の手段とは?」
「口頭で。それ以上のことは申せません」
「了解しました。ならば良いでしょう」
引き下がって椅子に座りなおした。
「ツルギさんは何かありますか?」
ナギサはおとなしく座っているツルギに声をかける。
「まず、正義実現委員会からは謝罪を」
奇声を発するいつもとかけ離れた姿だった。まあ、それだけ責任を感じていると示す意味もある。
本当はまともな子なのだ。ただ、奇声を発して敵をビビらせるバトルスタイルと生来の挙動不審が嫌な具合に噛み合った結果として人に避けられているだけで。
「……はい。では今回みなさんを呼び出した件について、正義実現委員会から報告をお願いします」
「分かりました。ツルギは口下手なので、私の方から説明させていただきます」
ハスミが立ち上がる。
「ミカさんの手引きによりアリウス分校がトリニティに侵入、しかし補習授業部とミカさんに撃退されました。このときアリウスが使っていた経路は今もって判明していません。また、この騒動で投獄した数百名のアリウス生ですが――逃げられました。申し訳ありません」
頭を下げる。今回のは連邦生徒会に送ったわけではない。トリニティの内部で取り調べを行うために拘束していた。
まあ、担当したのが正義実現委員会と言うことであまり酷いこともできず、牢も足らないような有様だったのだが。
「それは、私の判断ミスでもあります。あれだけの数を管理することは大変だったでしょう。それに、彼女たちも酷い教育を受けていました。一朝一夕で考え方を変えさせることなど、誰にできないはずです」
ナギサも苦い顔をしている。
実のところ、この結果は予想していた。正義実現委員会に拷問など出来るはずもなく、アリウスの教育を考えれば上層部を売らせることなど望み薄だ。
そして、数。それだけの生徒を捕らえておける能力がないのは分かっていた。別に捕虜を養えるだけの食料がないわけではないのだが、管理となるともう圧倒的に人手が足りていない。
脱走を許したのは、半ば確信犯でもある。戦力としては『ユスティナ』に比べればものの役にも立たない。閉じ込めておくだけ、トリニティはその分のリリースを無駄に消耗し続ける。むしろ逃がした方がマシという冷酷な計算。
ただ、困ることもあった。
ナギサは苦々しい表情で言葉を続ける。
「外部からの助けが来ることも予想はしていたのですが、相手が上手でした。ティーパーティーの方で別に投獄したリーダー格の生徒にも脱走を許しています」
一般兵であれば、むしろ逃げられた方が良かった。どうせ盤上を動かすには力の足りない駒だ、マダムにとっても無いよりマシ程度の駒に違いない。
だが、情報は欲しかった。この点で、リーダー格を逃がしたのは痛手だった。十数名のリーダー格、それをティーパーティーと正義実現委員会で分けて投獄していたのだが。見事にしてやられたと言う訳だ。
「はは。流石だねえ、『アリウススクワッド』は隠密行動もお手のものってわけだ」
「……ミカさん。何か情報をお持ちでしたら、話していただけないでしょうか?」
「ま、私が知らなくて誰が知ってるのって話だし。ただ……そんなに詳しい訳じゃない。私は生徒会のようなものって思ってたけど、実際はどうかなあ。もしかしたら、噂に聞くミレニアムサイエンススクールの特殊部隊に近いものかもしれない。とにかく強くて、外交――いや私の相手だけど。を、していた子達が居るの。その子達が今回出てこなかったからには、まあアリウスも本気ってわけじゃなかった」
「本気でなかったのは、そのアリウススクワッドが捕らえたアリウス生を取り返すのを計算に入れていたから、ということですか?」
「そう考えるのが妥当じゃないかな。別にアズサちゃんに聞くまでもなく、地図なら私がサオリちゃんにあげたもの。それに、サオリちゃんならトリニティを出歩くのも難しくない。というか、顔写真もないでしょ? いえーい☆って写メろうとしたら危うくスマホを叩き壊されるところだったよー」
「分かっていたことですが、ミカさんも大分無茶をしますね。話を聞く限り、アリウスという学園は撮影機器を取り出しただけで叩きのめされても文句の言えないような場所のようですが」
「ふふん、この私を叩きのめせるかな?」
「いえ……まあ、実際にアリウス総軍の半分を叩き潰したのがミカさんなので、なんとも言えないところではありますが」
「ま、人相とデータについては後で送るよ。ナギちゃんが」
「あ……はあ。よろしくお願いします」
なんとも言えない雰囲気になって話が止まる。ティーパーティーが先に知っているのは当然のこと。ナギサが送るのは……まあサボったのか職務の領分の問題かは分からないけど。
そして正義実現委員会としても自分の失敗談だ。広げたい話ではないが、犯人についてはどんな情報も欲しい痛し痒し。
「今回来ていただいたのはこの件になります」
ナギサが静かにまとめる。
「アリウス分校のトリニティ中心部への襲撃――それは、ティーパーティーと正義実現委員会が仕込んだ『中に引き込んで倒す』と言う作戦だった。しかし、これは誰にも語られないのが望ましい。それも、捕虜にした生徒も闇に消えたというのなら都合が良い……そんな話に”したい”のです」
続ける。政治家としての冷酷な顔で、真実を捻じ曲げ都合の良いように流布するのとだと。
「ええ、リーダー格の生徒の身柄は握っておきたかったというのはありますが、しかしこれも別に致命的ではない。我々にとって、事態はそう悪い方向に転んではいません。真実をこの面子の心の内にとどめておくことは可能です」
「この襲撃が誰が計画したのか、ましてや何のために主導したのかを――トリニティの一般生徒に知られることさえなければ良いのです。しかし、ここに居る方には真実を知る権利があるでしょう」
そう、締めくくった。
独断専行、秘密主義。ティーパーティーの中で完結し、他の勢力を顧みない……それが従来のトリニティの慣習であった。
が、ミカを助けるために協力してもらった。ゆえに、彼女たちにだけは真実は包み隠さず話しておこうと、そういうことだ。
「では、ミネ団長。あなたからは何かありますか?」
「いえ、特に。アリウスの者達も怪我は完治していたので、救護の必要は無いと判断しました」
その言葉を聞いて、ミネ団長が連れて来た救護騎士団の者以外は皆「問題になるのはそこじゃないはずなんだけどなあ」と思った。
ただ、まあそれは外部勢力から口出しできることでもなく。
「……で、ではツルギさん。正義実現委員会からは、何かありますか?」
「キヒッ!?」
「では、一つよろしいでしょうか。議事録を先生にも渡すということなので、聞いておきたいのです」
動揺するツルギに代わってハスミが声を上げた。
「先生に関する質問でしょうかね。何でしょうか?」
「いえ、特にそうした質問ではないのですが一応。トリニティの勢力には、この三者以外にももう一つ欠かせない組織があるはずです。この場に参加させない理由を話していただけませんか。それと、後の処理についても詳細が知りたいのです」
「あはは。詳細と言われても……ねえ。ハスミちゃんが知ってるのと同じだよ? 向こうには壊した壁の修理代を請求して、ちゃんとお支払いを確認してそれで終わり。なんかあいつらは自分を権力の監視者とか言ってたけど、別に私たちの方にはお招きしなきゃいけない理由はないからねえ」
「それに、何か私たちに苦言を呈そうにも……ね。結局『シスターフッド』はミカちゃん一人に敗北している。止められたならば、それは責任追及の声も出ようものだが――負けては、ねえ。それで何かを言おうものなら、恥知らずということになるだろうねえ」
水を得た魚のようにミカとセイアがこき下ろす。まあ、ティーパーティーとして見るなら邪魔な奴ら以外の感想はありえない。
と、言うか……ここまでは目の前の2勢力にも話していないが、マダムの当てにする戦力は『ユスティナ聖徒会』、彼女たちの前身だ。無論、過去の亡霊、なんらかの形で利用されているだけなのは分かるが。
まあ、手心を加える気にはならない。
「ま、まあそうですね。このトリニティを守る方は他にも自警団の方など大勢いらっしゃいますが、全員呼ぶことは出来ませんものね。……ご回答、ありがとうございます」
鼻白んだハスミ。予想以上に当たりが強かった。が、まあ呼ばないことについては納得できる。
自分たちはミカを助けるために首を突っ込んだ。ただ、トリニティの秘密主義はそう簡単に変わるものではないと分かり切っていた。別にここでシスターフッドまで仲間に入れろと、そこまで肩入れするつもりはない。
「ただ、シスターフッドまで撃退したことについては苦情を貰うこともありますが――それもいつものことですし。ティーパーティーがやったことについて、文句を言うことを生きがいにしていらっしゃる方も少なくありませんから」
そして、ナギサもにっこりと素敵な笑顔を浮かべながら毒づいた。
「……それは、正義実現委員会の仕事をしていても時々感じます。ですが、トリニティの一般生徒の大多数はそんな方ではないので」
えへんと、変な空気になったハスミが話を変える。共感できるが、愚痴大会にしたいわけじゃない。
「そういえば」
ミネ団長が口を開く。皆が警戒する。
「補習授業部の皆さんが合格したらしいですね。おめでとうございます」
「あ、はい。ありがとう……ございます?」
ナギサがこれ自分が言っていいのかなと返答を返す。
「ありがとうございます。うちのコハルも無事に合格出来て喜んでいました」
ハスミは機嫌よく返す。
「皆さんについて、今後については?」
ミネ団長はナギサを睨みつける。相手のことを一切信用していない目だった。
「特には何も。もう終わったことです、彼女たちにはこれ以上の迷惑はかけられません。まあ、シスターフッドは浦和ハナコさんに接触しているようですが」
「……何をしているのでしょうか? 何かあるのなら、救護の必要があります。ティーパーティーも、シスターフッドも、一般生徒が関われば不幸にしかなりません」
「まあ、耳の痛い言葉ですね。ただ、ハナコさんの方もシスターフッドと密約を交わしていたようですし。なにより他のお三方ならともかく、ハナコさんは自分でなんとか出来る方だと思います。……本当に必要であれば、私か正義実現委員会を頼るでしょうし」
「――調査をする必要がありますね」
悲しいかな、シスターフッドをかばう人間はここには居なかった。きっと、ミネ団長は聖堂にでも
助ける義理はないと、全員が見捨てることにした。
「それでは、これで本日の会議を終わります。ミカさん、後で先生に伝える内容をまとめましょう」
「うん、オッケー」
三々五々解散して帰って行く。ミカとセイアはミネ団長が連れて来た救護騎士団の子と今の家に帰り、ナギサも同行する。
ツルギとハスミも、別の方向へ解散して仕事に戻って行く。
ミネ団長はどこかへと走り去っていった。