聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第57話 秘密会談

 

 

 そして、夜。ナギサはミカとセイアの部屋に来ていた。頻繁に泊っているので、良からぬ噂になったりもするのだがあずかり知らぬは本人だけだった。

 

「……ところで、エデン条約締結の日について話さなくて良かったのでしょうか。もう時間がありませんよ」

 

 ナギサが不安をこぼす。トリニティで一番偉いとはいえ、年若い女の子だ。表情を取り繕う術を心得ていても、内心はそうもいかない。

 

「でも、無理だよ。先生は出席するよ。『締結式に出ると撃たれちゃうから欠席してって言ったらやめてくれる?』って聞いたら、無理だって言ってたもん」

「……ミカちゃん。なんか、すごい直球に聞きましたね。まあ、先生は未来など知らないでしょうが」

 

 はあ、とため息を吐く。まあ、先生はそういうお人だと知っている。トリニティとゲヘナの和平、その歴史的事件の前に多少の危険など気にする人じゃない。

 なにせ、生徒同士の大規模な争いが一つ収まると言った出来事だ。そのための力を惜しむなどありえない。

 

「しかしね、ナギちゃん。では周囲を説得するかと言うと、これは我々にとって都合が悪いのだよ。締結式が取りやめられることになれば、マダムを倒せなくなる恐れがある。……締結式は『ユスティナ聖徒会』顕現のために必要な儀式である可能性が高いが、しかしこれを取りこぼすこともできない」

「うん。セイアちゃんの言うことは正しいと思うよ。元々、未来はセイアちゃんの領域だもんね。まあ、私は変えることも思いつかなかったけど」

 

 これは何度も相談したこと。だが、やはり未来視の不確定さが出た。未来の出来事を観測しても、正しいルートが分かるわけではない。

 間違っていそうでも、何がきっかけで最悪に転ぶか分からないから出来るだけ見た未来と同じにしたいのだ。……やりたいのは未来を変えることだと言うのに。

 

「未来を知っているとは――やはり、なんとももどかしいものですね。なんでも好き勝手にやれるように思えて、制約ばかりでにっちもさっちも行かなくなることばかりです」

「ふふふ。私の普段の悩みを思い知ったかね? なにやら素晴らしい力のように言う者も多いが、実際にその力を宿す身としてはこんな力は要らなかったとすら思えてくるぞ」

 

「……でも、私は未来を知ったおかげでナギちゃんとセイアちゃんと仲直りできたから」

「そうだね。それは、良い力の使い道だったのだと思うよ」

 

「使い道?」

 

 きょとん、とミカが聞き返した。必死でやってきて、でも今があるのは皆がうまいことやってくれたからとしか思えない。

 それを、使い道など。

 

「ああ、君はその力を悪いようにも使えた。君が自分のためにその知識を使うのであれば、私が目覚める理由はなかった。ナギちゃんもうまいこと騙し、その手にかけることもできただろう。……私たち三人で、今こうしていられるのは君のおかげなんだよ」

「そうです、ミカちゃん。確かにミカちゃんは悪いことをしたかもしれないですけど、謝れば済むことです。その、マダムとか言うのさえ居なかったなら。だから、そいつを倒しましょう。先生も、皆も私たちの手で守るのです」

 

「そうだね。うん……ツルギちゃんとハスミちゃんも手伝ってくれる。絶対に、良い未来に到達するために」

 

 決意を新たに。三人が頷き合った。

 

「しかしだね。ミカちゃん、君はどれだけのことを先生に伝えている?」

「あまり話せてはないよ。だって、条件も揃わずにトリニティに来ちゃったら先生が危ないじゃんね? カタコンベが奴らの根城……これだけ知っていても、どうしようもないでしょ」

 

「まあ、その通りですね。カタコンベ全域を戦闘対象に指定した軍事作戦など前代未聞です。それに、なにかやろうとすればシスターフッドをはじめとした保守派の勢力がうるさくなります」

「ああ、やはり最後は先生に頼らざるを得ない。そのためには未来を一つずつ進めていくことが肝要だ。すでに私たちは二つの未来を変えてしまった。私の目覚めと、ミカの投獄。実を言うと、マダムにとって都合が悪いのは私の復活だろうがね」

 

「……そういえば、大丈夫なんですか? セイアちゃん、ミカちゃんの話では何かの神秘? だとかによって魂だとかを牢獄に囚われたという話が」

「まあ、私の気持ちに区切りがついたのが切っ掛けなのか、最近はあまり予知が発動していない。だが、やはり夢で何者かの意思を感じることがある。……悪い状況ではないが、油断は出来ないね」

 

「うん、本当に気を付けて。何か酷いことをされて……後遺症がどうとか? 私には教えてもらえなかったけど、危ない事になったみたい」

「君のせいではないとはいえ、情報が曖昧だね。まあ、できるだけ気を付けよう。私にとっても、時間が消えるのは何よりも苦痛だからね」

 

「では……やはり襲撃について先生に知らせるべきでは? 正義実現委員会にも……」

「いや、先生に話すのはやめておこう。それに、彼女たちだってミカちゃんの不用意な発言で薄々勘づいている。これ以上は締結式中止のリスクが大きいと判断するよ。正義実現委員会には、式の前に話せばいい」

 

「ですが……」

「ミカちゃんが錠前サオリに渡した弾丸のこともある。流れ弾は……先生のことだから、おそらく問題はないよ」

 

「彼女、信用できるのですか?」

「白洲アズサを育てたのは彼女だと言う。彼女のことを信じたい。それに、彼女を救いたいのだろう? ミカちゃん」

 

「……うん。あの子は、私と同じ。鏡映しだから、幸せになってほしい。それが、私も幸せになれるという証だから」

「ならば、このまま行くべきだ。未来は絶対のモノ、感情一つで不用意に変えるべきではない」

 

 そして、議論の末はいつも同じ結論。未来は、変えるべきではないと。

 

 

 

「では、ゲヘナの方はどうなっていますか?」

 

 ナギサが話を変える。

 

「ゲヘナ? ゲヘナがどうかしたの?」

「話を聞いていますよ。ミカちゃんは風紀委員会の空崎ヒナさんと会話をしたのでしょう? 悪い関係ではないのでは」

 

 うぐっ、とミカが痛いところを突かれたような顔をする。ヒナについては複雑な気持ちがある。

 だから、それは悪い気持ちではない。なぜなら、ミカがゲヘナに抱くのは悪感情。好ましい、という気持ちでなければ複雑にはならない。

 

「……そうだね。ヒナちゃんはいい子だったよ」

「おやまあ! ミカちゃんがゲヘナの子をそう言うのは初めてではありませんか!?」

 

 ナギサが嬉しそうにミカの顔を覗き込む。ゲヘナとの平和条約を進めたのはナギサ、メリットとデメリットを秤にかけた選択とは言え、互いに許し合えるのなら悪い気がしない。

 それも、過激派トップのミカが。

 

「ま、そうね。ヒナちゃんはゲヘナとは違うから。あのゲヘナで無法者に風紀と言う枷を嵌めている。――信用できるとは、思っているよ」

「ならば、締結式の前に少し話しておいてはどうだね」

 

 そして、セイアが会話を提案する。話をするのは大切なことだ。なぜなら、ミカはそうやって未来を変えてきたのだと信じているから。

 

「話す? 話してどうかなることがあるとは思えないけど」

「君らしくないな。君は未来を知って以降、体当たりでものごとを変えてきたじゃないか。アビドスに単身乗り込み、正義実現委員会と真正面から対話し――ならば、このタイミングでもう一度彼女と話してみても良いと思うね」

 

「ううん。まあ、話しても良いけどさ。……どうするの? さすがにティーパーティーから直電かけても出なくない? というか、直通とか機密でしょ。こっちから電話かけるにしてもハードルが高いよ」

「なに、問題ない。少し君の手法を真似してね。多少の裏工作、そして数撃ちゃ当たるというやり方。百のうち一つでも、届きさえすれば問題ない。これが君のやり方の一つだっただろう」

 

 ニヤリと笑ったセイアは電話をかける。少し話して満足げに頷いて電話を切る。また電話をかけて――三人の中央に置く。

 かけた先には、誰も知らない電話番号が表示されていた。

 

 

 

 風紀委員会、空崎ヒナはいつものようにゲヘナの見回りをしていた。エデン条約締結が近かろうが関係なく騒いで銃撃戦をやらかす不良どもを制圧する代わり映えのない日常だ。

 いつもやっていることだ。ただエデン条約と言う差し迫る脅威があるためか、いつにもまして件数が多い。

 このままではまた日が暮れても終わらないな、と内心憂鬱になっている。

 

「あれ、委員長。こいつの携帯が鳴っていますね」

 

 ついてきた風紀委員会の子が、倒れた不良の横で鳴っているスマホを指差す。そこには獅志香 モモという名前が表示されていた。

 

「うるさいですね。撃ち壊しておきますか?」

「駄目よ。せめて電源を切るくらいにしておきなさい」

 

 ヒナが、そのスマホを拾って――その手を止めた。

 

「委員長、どうしました? 握りつぶすんですか?」

「そんなことしないわ。……聖園ミカ」

 

「聖園ミカ? ティーパーティーですか? でも、いきなりなんで」

「アナグラムよ」

 

 そう言って、通話ボタンを押して電話に出る。

 

「……私よ」

 

 声を抑えて口火を切った。

 

「やっほー。私、私。聖園ミカだよ。久しぶりだね、覚えていてくれたかな? あ、挨拶はこんばんはの時間だね。でも、ごきげんようはないよね。今は電話大丈夫? 寝る前だったりしない?」

「問題ないわ、仕事中よ」

 

 風紀委員会の子をジェスチャーで遠くにやって、誰にも話を聞かれない場所へ移動する。ミカはその間もぺらぺらとおしゃべりしている。

 

「そっかそっか。ヒナちゃんは大変だねー。ゲヘナなんて他人の迷惑を顧みないおバカさんばかりで大変でしょ? ま、かくいうトリニティも形式ばった書類書類で色々と大変だったりするけど!」

「そう。あなたも仕事を頑張っているのね」

 

「でさでさ、今日はエデン条約について……あ、その前に紹介しておかないと。今スピーカーモードで話してるの。あと、これを考えたのも別の子でさ。まず主犯の百合園セイアちゃん」

「どうも。君とは一度顔を会わせたことがあったかな? ご壮健のようで何よりだ」

 

「恢復したという話を聞いたわ。おめでとう、身体には気を付けて」

 

「それと、こっちはけっこう会ってると思うんだけど。桐藤ナギサちゃん、紹介するまでもなかったかな?」

「お久しぶりです、空崎さん。私たちで進めてきたエデン条約の締結も目前となりましたね」

 

「久しぶりね、桐藤さん。ええ、エデン条約が無事に締結できるように私も努力するわ」

「――そのことなんだけどさ。驚かないで聞いてね。当日、巡航ミサイルを撃ち込まれてパアになっちゃうんだ」

 

「……は?」

 

 その場に風紀委員会の子が居たら驚いていただろう。委員長の呆気にとられた顔など見たことが無いに違いない。

 それこそ、万魔殿当たりが期待を下回る馬鹿をやったのを見る呆れ顔なら機会は何度もあっただろうけど。

 

「いやさあ、信じられないかもしれないけど――あなたのところの情報部、セイアちゃんの力は知ってるよね?」

「眉唾ものと一笑に付すことは出来ないわね。キヴォトスの神秘は何でも有りだもの。……つまり、エデン条約の崩壊を予知したの?」

 

「実はコトがコトで正義実現委員会にも話せてないんだけどねー。でも、ヒナちゃんがこれを知ったところでどうしようもないし」

「そうね。情報源が百合園セイアだなどと話せば笑いものになること間違いないわね。現場で対応する以外にないわ」

 

「そういうわけで、当日はお願いね? なんかよくわからない敵が襲ってくるけど、先生を守ってね」

「……言われるまでもないけれど。ねえ、先生には出席してもらわなきゃいけないの? せめてあの人にだけは下がっていてもらえば」

 

「ヒナちゃんから言ってもいいけど。でも無駄だと思うなー。私も言ったから分かるじゃんね。ヒナちゃんだってさ、先生の性格はそれなりに知ってるんじゃない?」

「そうね、先生はそういう人ね。その時に万魔殿はどうなるのか聞いても?」

 

「飛行船で脱出するけど撃墜されるね。でも、あれ? なんで逃げられたんだろ。ナギちゃんなんて聖堂でずっと気絶してるのに」

「それについては私の方でも調査しておく。教えてくれてありがとう」

 

「あはは、役に立ったんなら良かったよ。救急医学部の子に、素早く動けるよう前もって準備してもらって。こっちも、救護騎士団の子達には用意して貰っておく」

「了解したわ。準備しておく」

 

 彼女の言葉には迷いがなかった。もちろん何でも出来はしないから、苦い表情は浮かべるけど。けれど、ミカの言葉を信じて行動しようとしているのが伝わってくる。

 

「……ねえ、ヒナちゃん。疑わないの? トリニティとゲヘナはまだ戦争状態。敵をそんなに信用するものじゃないと思うよ」

「ミカ、そして桐藤さんは声を聞けば本人と分かるわ。そして私は、あなたたち二人のことを信用している。特にミカは、先生のことについて嘘を言う人じゃないわ。これでもし襲撃がなかったとしても、私は事前の準備がそれを予防したのだと思う」

 

 その言葉は真摯だった。ウソ偽りなく、ヒナはミカのことを信じている。”信じられる人”なのだと、そう思っているのだ。

 

「あはは。本当にヒナちゃんはゲヘナらしくないなあ。本当に良い子なんだから。尊敬しちゃうくらいに」

「ミカ、あなたも。陰謀渦巻くトリニティには相応しくないくらいに純真で、真摯ね。トリニティらしい口数の多さは欠点だけど」

 

「ううん。でも、これは私の個性だし。アイスブレイクを挟んだ方が相手の口もすべりやすくなるじゃんね?」

 

 釘を刺されてもミカの軽口には蓋を出来ない。立て板に水のごとく話し続けるミカを無視して、ナギサへと話しかける。

 

「”ナギサ”さん、あなたもどうか気を付けて。私やミカと違い、あなたは弱い。自分の身を守ることを優先して欲しいわ」

「ありがとうございます、”ヒナ”さん。そうですね、私が前線に居ても役に立たなさそうですし。コトが起こればすぐに下がって後方から皆さんのことを援護します」

 

「……ああ、そうだ。これも伝えておかねばなるまいね。おそらく、敵の狙いは先生だ。まあ、ミサイルなどを撃ち込めば条約は破壊できたも同然だ。それならば、もはやナギサごときでは無く先生を狙うのが一番だ。彼こそキヴォトスで最も重要な人と言っても過言ではないからね」

「百合園さん。ええ、そのとおりね。筋は通っているわ。元々、一番危険なのが外の人な先生なのも確かだし。肝に銘じておくわね」

 

「ああ、頼むよ。二番目が居るとしたら私だが、さすがに相変わらずドクターストップ状態なので、現場には行けないのだ」

「さすがの私も病人に向かって盾になれと言うほど鬼じゃないわ。ゆっくり休んで頂戴。情報を貰えただけで十分よ」

 

 通信記録すら残せない秘密会議。ティーパーティーと風紀委員会のありえざるはずだった会議はこうして終わる。

 

「では、最善を尽くしましょう。空崎さんも、私たちも」

「ええ。先生を失うわけにはいかないものね」

 

 

 

 

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