聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第6話 一旦解散

 

 そして、皆でアヤネの待っているアビドス本校に帰ってきた。

 

「みなさん、戦闘お疲れ様でした! 見事にヘルメット団の拠点を壊滅してくれましたね!」

「アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ」

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息付けそうです」

 

 アビドスの皆は手をたたいて喜び合う。

 

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

 

 シロコがクールに言い放ったところで、空気が沈みかける。できれば目を逸らしたい問題だったからだ。

 

「うん! 先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」

 

 セリカが焦って言ったところで、自分の失言に気付いてヤベって顔をする。

 

「借金返済って?」

 

 先生がいつものゆるゆるな顔で聞く。この声を聴くだけで安心してしまうような魔性の声だ。

 

「……あ、わわっ!」

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

 

 その魔性の声で顔を赤くしたセリカをホシノがとりなす。

 

「かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

「先生は信頼してもいいと思う」

 

 シロコが純粋な瞳で発言する。何も考えていなさそうだが、狼耳ならではの嗅覚とかがあるのだろうか。

 どちらかというと、後ろめたいところを見抜く観察眼の方か。怪しい人間は怪しい人間を知ると言うから。

 

「この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?」

 

 対して、ホシノはニヤニヤと笑っている。からかっている……ように”見せて”はいるが、その真意には疑いを隠している。

 借金など調べればわかること。そして調べられていないとも思っていない。ホシノは『シャーレ』が、この問題にどう介入する気なのかを問いている。ここに来た以上、不干渉はありえない。いや、ヘルメット団は壊滅させたんで失礼すると言えばそれが不干渉だが。

 

「この学校の問題は、ずっと私達だけでどうにかしてきたじゃん! なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……私は、認めない!」

 

 セリカが思わずと言った様子で拳を握り締め、瞼に涙を一杯にためて走り去った。

 

「私、様子を見てきます」

 

 ノノミが申し訳なさそうに手を合わせてから、走り去ったセリカを追いかける。常であればホシノも追いかけたかもしれないけど、先輩として果たすべき役割があった。

 『シャーレ』という外部組織に対して、『アビドス対策委員会』はどう対応するべきかを探る必要がある。

 

「えーと、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ」

 

 常の気だるげな声の裏に真意を隠して話を続ける。

 

「でも問題はその金額で……9億円ぐらいあるんだよねー」

「9億6235万円、です。アビドス……いえ、私達『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です」

 

 二人してため息を吐いた。

 

「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……殆どの生徒はあきらめて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました」

 

 しゅん、と肩を落とすアヤネの肩をシロコが叩く。思いは同じ、一緒に解決していこうと。

 

「そして私達だけが残った」

 

 シロコに勇気をもらってアヤネは話を続ける。直視したくない現実の話を。

 

「数十年前、この学校の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした」

「学区の至る所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂がたまり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした……」

「しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」

 

「――結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

 

「しかし砂嵐はそのあとも、毎年さらに巨大な規模で発生し……学校の努力もむなしく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途をたどりました……」

「そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」

 

「「……」」

 

 沈黙。

 

「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するのに精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています」

 

 やり切った、とアヤネが息をつく。

 

「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは……先生、あなたが初めて」

 

 シロコがよくやったとアヤネの頭を撫でる。

 

「……まあ、そういうつまらない話だよ」

 

 ホシノが嘆息して締めた。眠たげな瞳で先生のことを観察していた。ミカに関してはいい。『トリニティ』の内部事情は知らないが、あれで先生のことを利用しているのだとしたら大した役者だ。

 だから今は、ただ先生の付属品として見ておけばいい。信用はする、だがそれは先生の一言で簡単に銃を向ける紙一重のものだ。心からの信頼などできない。

 ――ゆえに、その先生こそがキーだ。

 

「対策委員会を見捨てて戻るなんてことはしない」

 

 先生は真顔で言い切った。

 救うべき生徒へ、そして眠たげな瞳に疑いを隠すホシノに向かって、はっきりと決意するように。

 

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」

 

 だはあ、と息を吐く。これで演技なのだとしたら先生こそが一番の役者なのかなと思って。ただ、まあ……この場は頼っても良さそうだと。

 

「ううん。話を聞かせてもらったけどさ。……ねえ、えっと。――いや、そういうのは言わない方がいいのかな」

「ああ、うん。分かってるよ、そんなの現実的じゃないって、自分でも分かってる。でも、それでも諦められないんだよ」

 

「そう? ……そういうもの? でも、後悔する前にやめた方がいいよ。ただ一緒に居たいだけなら、別の学校でも大丈夫でしょ?」

「あはは……そう言うわけにはいかないんだよねー。これがさ」

 

「ああ、退学になるとヘルメット団以下のチンピラですらない不法滞在者になっちゃうもんね。だけど、大丈夫だよ。ホシノちゃんは知ってるみたいだけど、私はけっこう偉いんだから。みんなのこと、『トリニティ』に入れてあげる」

 

 ミカはぽんと手を叩いて、それがいいと笑顔を見せる。

 

「そうすれば、みんなで一緒に居れるよ? 離れ離れにならなくて済むし、危ないことだってしなくていい」

 

 その言葉に、ホシノはどう返そうかと悩んで……それは、ただ好意を示してくれた相手を傷つけないためのもので。首を縦に振る選択肢はなかった。

 

「……うへ。それは駄目。それだと、結局私たちは『トリニティ』になっちゃう。それに、守るべきはこの”学校”だから」

 

 ミカは、むむむ、と眉をひそめる。

 

「別にアビドスを捨てろなんて言わないよ、この建物も残しておけばいいじゃない。うちで対策委員会を続ければいいよ。まあ、予算は付けられないけど、借金を返す今の状況よりよほどマシでしょ? まあ、少し手伝ってもらうこともあるかもしれないけどチンピラの相手とバイト漬けよりは良いと思うけどな」

「私たちに借りを作ってミカさんの派閥の戦力にすればそっちにも得がある。むしろそういうことがあった方が信用できるし、純粋な善意からの申し出だとも思うけど――私たちは『アビドス』だから、その選択肢にはすがれない」

 

 す、と目を細める二人。どちらにも譲れない大切なものがある。互いを尊重すれば、そこで引く大人の対応が取れたのかもしれないけど。

 それでも、大切なものを譲れはしないからこその子供だ。

 

「この『アビドス』は砂嵐に襲われてる。好転する見込みは、ない。……無責任な人は明日には砂嵐が止むかもしれないと言うこともあるけれど、責任を持つならそんなことは言えない。誰にもどうしようもない状況だから、このアビドスは砂に覆われているのでしょう? もし借金を返せたとしても、アビドスに未来はない」

「未来がない、そんなことは認めない。『アビドス』は対策委員会で何とかする。確かに有効な手立てなんて何もないよ? 借金返済どころかヘルメット団に追い詰められてこの様。だから借金の元になった砂漠化への対抗手段なんてあるはずないけど。でも、私たちはここを出ない」

 

「理解できないなあ。もはや学ぶことすらできない学び舎に何の意味があるのかな? そういう意味では、あなたたちは”生徒”ではないよね。この砂漠化はミレニアム(キヴォトス最高の技術)でもどうしようもないよ。少なくとも、現時点では」

「うん、『アビドス』はもう学び舎ではなくなってる。自治区すらもコントロールできず、ただ砂漠に変わりつつある現状を脱することができない。ミレニアムにも解決法はない。でもね、ここがアビドスで、ここから離れたら私たちは『対策委員会』ではなくなってしまうんだ」

 

「生徒だから学業を頑張れなんて言わないよ。そっちはどうでもいい。お金を稼ぐために色々やって、不幸を背負いこんで……それで――誰かが死んじゃったらどうするの? 一番大切なものはそれでしょう? ねえ、”二人目が出ない”なんて誰が保証してくれるの?」

「……ッ! 聖園ミカ! それをどこで聞いた!?」

 

 ホシノが今までの柔らかな態度から急変、抜き身のナイフのような視線でミカに喰いかかる。

 ミカはその急変に驚き、まあ私のせいだしと少しだけ目をそらす。

 

「アビドスの生徒会長が行方不明としか私は知らないよ。適当なことを言ったの。ごめんなさい」

「……そう、か。……うへ。ごめんね、ミカさん。急に怖い顔しちゃって。痣は付いてない? 救急箱、取ってこようか」

 

 つう、とミカの目から涙が溢れた。

 

「ごめんなさい」

「……え?」

 

 様子がおかしい、とホシノは訝しむ。怖かった? まさか、ヘルメット団を相手にあそこまで大立ち回りを見せた彼女は、この程度は柳と受け流せるはずだ。銃すら抜いていなかったのに、ただ襟首を掴んだだけで。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。私に偉いこと言う資格なんてないのに。結局、私は間違うばかりでみんなに迷惑をかけるだけなのに。……魔女が、あなたたちのことを悪し様に言うなんて。……ごめんなさい」

「ちょ……待って。ミカさん、そんなにショックだった? いやはや、おじさん土下座でも足を舐めるでも何でもするから泣き止んでくれると嬉しいなって……」

 

 ぽろぽろと涙を流すミカの前でホシノは右往左往する。アヤネは見てはいけないものを見てしまったような気がしてあわあわしていた。

 

「ミカは魔女なんかじゃないよ。私は君のことを信用している」

 

 先生が、ミカの頭を優しく撫でる。

 

「……先生?」

「大丈夫、私が君を魔女になんかさせない。ほら、ここにサインを」

 

「え……うん」

 

 さり気に差し出された『シャーレ』への加入書類を前に、ミカは何も読まずにサインをする。

 ホシノはこれ悪徳商法のやり方じゃね? と思ったが飲み込んだ。先生がやれば精神状態に関係なくミカはサインすると思ったから。

 

「よし。では――土下座も足舐めも先生に任せてくれ! 安心と実績から来る熟練の技を見せて上げよう!」

 

 力強く、少し変態なことを宣言した。

 

「あはは。ありがとう、先生。少し元気が出たよ。セリカちゃんは戻ってこないのかな? まあ、私もこれで失礼するね。さすがに明日も学校を休むのはマズいし。やりたいこともあるしね」

「そうか。私が送っていこう」

 

「そっかー。じゃあ、おじさんはここから見送るね。すぴー」

「ホシノ先輩! 言ったそばから寝ないでください!」

 

「じゃあね、ホシノちゃん、アヤネちゃん。セリカちゃんとノノミちゃんにも宜しく言っておいて。また来るから!」

「私はミカを駅まで送ったら帰ってくるから」

 

 そして、二人は外に出る。

 

「あ☆ ラーメン屋発見! 先生、お腹空いてない?」

「そういえば、襲撃に出る前に携帯食料を口にしただけだったね。寄って行こうか」

 

「うーん。じゃあ、先生は可愛い生徒におごってくれる?」

「もちろん、いいよ。好きなものを頼んで」

 

「何の臆面もなくそう言われちゃうと、ちょっと照れちゃうな」

「ミカは私の可愛い生徒だからね」

 

「……わーお。先生って人たらしって言われない?」

 

 そんなこんなで、先生にラーメンを奢ってもらったミカだった。

 

 

 





ミカ「BDが教室に置いてあった、なんてウソだよ。騙されて一人で来ちゃったね、先生?」

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