聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第64話 家族の絆

 

 

 古聖堂での戦闘が収束した後、サオリ達スクワッドは廃墟の一室で息を潜めていた。もちろん、無作為に選んでなどいない。

 ここは事前に選出しておいた潜入ポイントの一つ。トリニティとゲヘナ、二つの国が相手とはいえ、そう簡単には見つけられない場所だ。そして、人海戦術で見つけ出される前に移動する手筈になっている。

 

「……リーダー、大丈夫?」

 

 ミサキがどうでもよさそうに聞く。とはいえ、普段それほど口を利かない彼女のこと。それだけサオリの状況が危ういことを示している。

 先生を撃った精神ダメージ、は気取られないようにしているけれど。それ以前に、戦闘による肉体的な目に見えるダメージだけでも相当だ。

 もっとも危うい役どころを担当し、総大将ながらに最前線に居た。

 

 正義実現委員長と刺し違える形で撃退し、更に補習授業部の戦車まで相手していた。更に更に、そこから休みなく戦い続けていたのだ。

 ――ゆえに、消耗が目に余るのも当然と言えた。

 

「問題ない。それより、気を抜くなよ」

「……なんで? ここは安全だっていう話じゃなかったっけ」

 

「ここまで計算外が連続するのであれば。……もしここで、あいつが来れば致命傷になりえる」

「あいつ?」

 

 計画は計画通りには行かなかった。いや、結果良ければ全て良しと言うならば――先生を撃ったのが実弾であれば計画通りだったかもしれない。

 それにしても、補習授業部の介入のせいで敵に立て直しの時間を与えてしまった。こちらのダメージと疲労は重く、逆に敵には予定していたほどの損害を与えられていない。

 

「とはいえ、まだ誤差の範囲だ。そう、これからのことを予定通りに進めれば……任務を達成できるだろう」

「……リーダー、もしかして傷が」

 

「問題ない、まだ動けるし頭もはっきりしている。ヒヨリ、隠しておいた物資は……」

「はいはい、今持っていきますよ……と。あれ?」

 

 ごそごそと家探し、というか事前に準備した物資を取りに行っているヒヨリが不審な声を上げる。

 自分が置いておいたはずのものに、なんだか違和感がある。

 

「ヒヨリ!」

「……っわ! きゃあ――」

 

 爆発した。もちろん、ヒヨリのミスなどではありえない。この場所を、スクワッドが来る以前に掴んだ者が居る。

 そんな者が居るとすれば……

 

「ここにはトラップを仕掛けておいた。逃がさないよ」

 

 スクワッドの思考を読める人間は、元々スクワッドでもあった白洲アズサを置いて他に居ない。

 

「ここでお前が出てくるのか」

「まさか姿を現すとはね……そのまま逃げ出しても良かったのに」

 

 忌々し気に見るサオリとミサキ。普通であれば、遅れを取る気はない。だが、今はそれほどの疲労を抱えていて、更にここで負傷しても後で致命的になりかねない。

 スクワッドはトリニティとゲヘナを相手に戦争を仕掛けた。悠長に休んでいる暇などありはしないのだ。

 とはいえ、ミカではないのだ。予想した通りにあの暴力の化身が来れば全てがぺちゃんこにへし潰されたが、目の前の敵はたかがネズミ一匹……

 

「えへへ、お久しぶりですね……」

 

 トラップにひっかかったヒヨリはと言うと、気弱な笑みで銃を抱えている。攻撃されたことには何の感慨も抱いていない。むしろ、攻撃するのは気が引けるが、それでも命令されたら撃つと――それは思考停止した兵士の様子だ。

 

「ああ、本当に久しぶりだ。私は、あなたたちがここまでのことを出来るとは思っていなかった」

「ふん、愚かだな。『機構』に『条約』、付け入る隙はいくらでもあったのは一目瞭然だろう」

 

「……そう、それだ。私たちに出来るのは、こんなことくらいのはずだっただろう?」

「きゃんっ!」

 

 ヒヨリが撃たれて倒れる。

 

「ヒヨリ!? 狙撃か……しかも、狙撃手を先に狙うということは!」

「――残念だが、それも外れだ」

 

 サオリ達が即座にものかげに隠れる。それが、アズサが誘導した動きだとも気付かずに。

 ずん、と腹に重くのしかかるような音が響いた。直後に地響き――建物そのものが壊れていく。

 

「……」

「姫!? 分かった、任せる」

 

 アツコは倒れたヒヨリを連れて脱出。そして、サオリとミサキも命からがら建物の崩壊から脱するが――

 

「ミサキ、そこは踏むな!」

 

 サオリの警告も遅く、ミサキは地雷を踏んでノックダウンした。アツコはヒヨリを抱えているため行動不能、この場では後はサオリのみ。

 

「……戦闘に突入する」

「愚かな!」

 

 4対1だったものを、トラップを用いて1対1に追い込んだ。アズサは立て直す暇を与えず急襲し、サオリは受けて立つ。

 

「「――ッ!」」

 

 銃種は奇しくも同じ、アサルトライフル。いや、生い立ちを考えるのであれば同じであって不思議はない。

 サオリは飛び退いてかわした後に銃弾を放つが、アズサも鏡映しの同じ動きで飛び退いてかわす。

 

「……まだだ。行くぞ!」

「アズサ――その程度でこの私を倒せる気か!?」

 

 やはり動きはともに同じ。障害物を壁に見立てたパルクールで縦横無尽に疾走しつつ銃弾をばらまいて敵の体力を削る戦法だ。

 しかし、同じ戦法で1対1ならば経験が勝る方が勝利するのが当然である。アズサの決意は尊いかもしれないが、体は血肉でできている。師弟の絶対的な差は埋まらない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「……相変わらず未熟だ」

 

 アズサは膝を着き、サオリは油断なく敵の急所を狙っている。これがただの勝負であれば、サオリに1本が入っていた。

 

「何も考えずに突撃とは、正気かアズサ? お前の特技はゲリラ戦、その中で相手の隙を突くことだ。それを自覚しているだろうに、私と正面から戦って勝てると思ったのか?」

「ぐっ、うぅ……! サオリ……この状況、何が目的だ……!」

 

 膝を着いたまま、アズサは問いただす。確かにこんな行動に出てもおかしくないだけの動機はあった。

 だが、アズサは何も知らなかった。古聖堂、聖徒会――あんな”特異現象”など聞いたこともない。

 いや、もしかしたら動機ですらも。なぜなら予言者が見抜いたように……アズサだってサオリの憎悪がただの建前なのだと知っていた。ゆえに思うのは一つ、利用されているはずなのだ。

 

 特異現象を使っている立場ではなく、ただ踊らされているのだと言う確信を確かめに来た。

 

「……ミサキ、残りの時間は?」

「あと5分ぐらい。そろそろ状況を把握して、両学園の予備兵力が到達することだと思う」

 

「十分だな……姫、ヒヨリを起こしておいてくれ」

 

「お前がわざわざ来てくれて、手間が省けた」

「……」

 

 種明かし、とでも言うようにサオリは皮肉な笑みを見せる。ただの敵を前に冥途の土産などと無駄な時間を取る女ではない。

 サオリはサオリで、アズサには想うところが大きい。無視できないほどに。

 

「お前の裏切りによって、多少計画にずれは生じたが……まあ誤差の範疇だ。ミカはあらゆる意味で危険因子だったが、幸いにもあのバカは調印式を止めなかった。危険分子はナギサが残っているが、まあ時間が利するのは我々だ。無限の戦力で磨り潰してやるさ」

 

「シスターフッドまで一気に処理できたことは、まあ予想外の成果だったな。……何が起きているのか、教えてやろう。私たちは『エデン条約』を奪い去った」

「……」

 

 アズサは、まるで宇宙人の話を聞いているような顔だ。意味が分からないというより、それはどんな漫画の話だとでも言いたげな怪訝な表情。

 

「条約が締結される古聖堂に巡航ミサイルをねじ込み、邪魔者たちを片付けた、そして条約の内容を捻じ曲げたのさ。理解できない、という顔だな」

 

 そんなアズサを、サオリは小ばかにしたように笑う。スクワッドの仲間が、口々に補足をする。

 

「…………アズサ、忘れた? 私たちには『トリニティ』としての資格がある」

 

「この条約は『第一回公会議』の再現。あの時までは各派閥がそれぞれ権力を持っていた。そして公会議当日全ての派閥が集まって新たなトリニティとなった……ただし私たちアリウスを除いて」

 

「だから私たちは何も変わっていない。まだ形式としては、権限を持っている。トリニティとゲヘナの間で紛争が起きた時、『エデン条約機構』がそこに介入し、紛争を解決する。これがエデン条約。ただそこに、エデン条約機構はアリウススクワッドが担うと書き添えた。ただそれだけ」

 

「そ、それだけでは大して、意味がないようにも思えますが……戒律は本物なので、複製(ミメシス)できれば……」

 

「『ユスティナ聖徒会』。戒律の守護者にして、トリニティの伝説的な武力集団。正確にはその複製だが、戒律を守護する存在だ。すなわち、私たち『ETO』を助けることになる。トリニティとゲヘナの敵対行為は、神聖なる戒律への違反行為。つまり紛争の原因であり、鎮圧対象だ」

 

 三人の話を全て聞いて、アズサは天を仰ぐ。まさに宇宙人の論理といった意味の通らない話ばかりだが、分かる場所だけを繋げれば見えてくるものもある。

 それは、サオリの狙いだ。そして、摩訶不思議な論理も、顕現のために条件を満たす必要があったということだから無視して良い。

 

「……ようやく理解した。この襲撃は単に各学園の首脳部を狙ったものでもなければ、事態を混乱させるためのものでもない。エデン条約の書き換え……それによって、あの不可思議な兵力を確保することが目的だったのか……」

 

 アズサは4人を睨みつける。なんてことをしたのだと。

 

 そう、それはアズサにとって許せないことだ。無限の戦力、それで起こるのは終わりのない戦争。

 ――かつてのアリウスで見た光景がキヴォトス中に広がる。手に残るは銃のみ、皆が飢え果てる地獄の窯だ。

 

「……」

「やめておけ、姫。今は無駄だ。あいつの意地を折るのはそう簡単じゃない……前々からそうだろう? ……その意地を、思いを、すぐ傍で煽る存在がいたんだろうな」

 

「この世界の真実を隠し、事実を歪めて、嘘を教える……そんな悪い大人が。まあ、その先生も既に片づけた。だから後はもうゆっくり教えなおせば良い」

「……っ!」

 

 アズサが、息を呑んだ。許せなかった、先生と補習授業部を汚されるような気がして。

 

「……トリニティでは楽しそうだったな。あの生活は楽しかったか? 好きな人たちと一緒にいること、お前を理解してくれる人たちと一緒にいることは」

「……虚しいな。思い出せ。お前を理解して受け入れてくれるのは、私たちだけだ。ここがお前の居場所だ」

「お前はその真実から目をそらし、甘い嘘に目がくらんだ。そしてその弱さが、お前をこうして敗北させている。……私たちを止めたいか?」

「ならば私のヘイローを破壊してみろ、白洲アズサ」

 

「……!」

 

 サオリは自らの銃で、自分のヘイローを指し示す。

 

「条約の主体である私たちが存在する限り、この戒律は永続していくだろう。ヘイローを壊しでもしない限りはな」

 

「今のお前に足りないのは殺意だ……しかし、お前にそんなことができるか? あのセイア暗殺の任務からも逃げたお前が」

「……テセウスの船」

 

 ぽつりと呟いた。それは以前にセイアと話した時の話題。

 アドバイスを与えた責任として、もう一度話す機会を作ってくれた。セイアは、まだ病室の住人とは言え行動できるのだから。

 

「は? テセウス、だと? 古則の一つか。だが、聞いたことはないな」

「かの予言者が教えてくれた、昔の人が残した問いだ。修理して、繕って――その果てにオリジナルの一片すらも無くした”それ”は、果たしてテセウスの船と呼べるのだろうか?」

 

「感傷だな。名前などどうでもいい、道具はただ役目を果たせれば……それでいい。それだけでいい」

「いいや、それは違うさ。違うと、教えてくれた。全て入れ替わって、別物に成り果てようとそれはテセウスだ。なぜなら、思い出は裏切らないから。最後に虚無へ帰るものだとしても、それがあったという事実は消えない」

 

「だからなんだと? ああ、トリニティはあったさ。だが、私たちが無に帰してやろう。別物になる余地など微塵も残さず粉々にしてやる。ああ、セイア暗殺の失敗の尻ぬぐいも私がしてやろう。なに、トリニティを更地にすれば奴も終わりだ」

「分からないか? 例え目を覆いたくなる悲惨な結末になったとしても、私が補習授業部で過ごした日々は嘘にはならない。消えることはないんだ」

 

「私たちを騙そうとしてまで、綺麗な場所に残ろうとする……そんなお前には、トリニティを守るなど無理だよ。貴様の大切な三人も始末してやる。思い出が消えずとも、未来を虐殺することはできるのだから」

「違う! 嘘にならないのは、あなただ! 私はあなたを止めなければならない……けれど、それで過去が否定される訳じゃないんだ。――サオリ姉さん!」

 

 それは、アリウスの日々は無くならないという宣言。アズサは確かにトリニティに居る、けれど、昔の日々を消し去りはしない。

 敵になったとしても、家族の絆が断ち切られることはないと。

 

「……ッ!?」

 

 姉さんと呼ばれて、サオリの銃口が一瞬ブレた。

 

「おおおおお!」

 

 その隙を狙って、アズサが撃つ。

 

「ぐっ! だが、貴様ごときにやられる私ではない! いい加減に諦めてしまえ!」

 

 まともに当たるが、サオリは気合で耐えて反撃を返す。

 

「諦めるものか! 私は、私たちのような子供が二度と生まれないように……! 姉さんこそ、銃弾程度で私が止まると思っているのか! 私が、誰に育てられたと思ってる!?」

「――アズサァァ!」

 

 このままではやられると見たアズサは、銃撃に当たりながらも踵を返す。これ以上は他の三人まで参戦しかねない。

 けれど、逃げる途中で取り落としてしまったものがある。

 

「また逃げる気か、アズサ!?」

 

 サオリが追いかけようとするが、キャタピラの音が聞こえてくる。虱潰しに捜索されるのは読めていたが、タイミングが悪い。

 しかも戦車だ、ここで戦いたい相手ではなかった。

 

「リーダー、ティーパーティー傘下の砲撃部隊みたい。予想より早かった」

 

 ミサキの声に、サオリが足を止めてぬいぐるみだけ拾う。

 

「そうだ、追いかける必要はない。これがある限り、あいつは戻ってくる」

「それは……」

 

「テセウス……いや、大事な大事な友達の証だ。継ぎ接ぎして修理しようにも、本体が無ければどうしようもないだろうからな」

「……リーダー」

 

「――ん? なにか、音が」

 

 手に持つぬいぐるみに違和感を感じたサオリが、ナイフを取り出してそれの腹を裂いてみる。

 本来なら綿しか見えないはずだが、そこには見覚えのある爆弾が詰まっていた。

 

「……ッ!」

 

 その直後、爆発した。

 

「アズサ……」

「……」

 

 サオリは血を流しながら、傷ついたアツコを抱えている。爆発の直前にアツコが庇って、爆発の盾になった。生きてはいるが、傷は深い。

 

「よくも、よくも姫を……! 絶対に許さない……!」

 

 血涙を流しながら、誓いを立てた。

 

「お前にそんなことができるか!! 私たちの怒りに、憎しみに、恨みに! 耐えられるとでも思うのか!!」

 

 必ずや、姫の傷の代償をお前に払わせてやると――月夜に吠えた。

 

 

 

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