聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第65話 再起

 

 

 単身スクワッドの隠れ家に乗り込み、そして爆破したアズサは今……

 

「うう……ううう……ッ!」

 

 膝を抱えて泣いていた。ついに人殺しになってしまったという慟哭。そして、もう戻れないという悲しみ。

 自分は、あの優しい人達と関わってはいけない類の人間に堕したのだと。

 

「――」

 

 だが、自らの内で声が響く。

 

(まだ終わってはいない。ここで折れてはいけない)

 

 前へ前へと促す声。そう、まだ成し遂げたわけではないのだと。

 

「……終わっていなかったと言うのか」

 

 遠くから聞こえてくる戦車の音。それは聖徒会がまだ消えていないことを示す。サオリを殺せば止まると、本人から聞いた。

 そして、あの状況で嘘を吐ける人じゃない。つまり、生きている。

 

「ならば、動かなくては」

 

 殺すと決意するのは凄まじい覚悟がいる。そして、仕損じたからにはまた始めから決心はやり直しだ。

 むしろ、一度目の決意より熱量が必要かもしれない。けれど、アズサは立ち上がるのだ。

 

 昔、サオリに助けてもらった。恩を返すだなんて、口が裂けても言えやしない。けれど、助けてもらったことには感謝している。

 だからこそ、”人を助けるため”に行動する。損得なく人を助けたあの人のように……あの人を裏切ってでも。

 

「……百合園セイア」

 

 スマホから電話をかける。

 

「ああ、君か。その様子だと仕損じてしまったようだね?」

「起爆したのは確認した」

 

「ふむ。通常の兵器であれば使用期限を考えるがね。試作の最新兵器だと、1年ももたないこともあるかもしれない。それかもしや、前提条件でもあったのか」

「……」

 

「あれは百合園セイアのヘイローを壊す爆弾だったということかもね? 錠前サオリのためのチューニングがあるのかもしれない。いや、解析なんて出来なかったからあてずっぽうだけど」

「セイア、確認させてくれ。サオリは生きているのだな?」

 

「それを誰かの口から聞きたかったのかね? トリニティではまだ彼女を追い続けているよ。それと、とある場所の爆発痕には影も形もなかったことは教えておこう」

「……そうか」

 

 重苦しく黙りこくった。

 

「さて、君はまだやるかね? 実は残った装備弾薬は少ないと見ているのだが、どうだろうか。今日、君は補習授業部の皆と一緒に助けに来てくれたが事前の戦闘準備をする暇はなかったはずだ」

「それでもやる。諦めの良さを教わった覚えはない」

 

「……君の姉同然の人かね? しかし、彼女は無策で突入しろと言っていたかな」

「関係ない。それに、施しを受けたくて連絡した訳じゃない」

 

「教えた場所に補習授業部が居ては困るから、かな?」

「――あなたは、以前にテセウスの船について話してくれた」

 

「うん? ああ、話す機会があったときに話題にしたね。全ての構成材料が丸々入れ替わったとして、それは果たして以前と同じものであるのかどうか。私は、思い出が失われることはないと言った」

「それは修理だけではないはずだ。改造することだってある。……エンジンをもっとパワーの出るものに変える。塗料を塗り替えて耐久力を上げる。居住性を上げるために部屋を改造することだってあるかもしれない」

 

「確かにそうだね。修復やダウングレードのことばかり考えていたが、性能を上げることだってある。それを、前と同じく呼ぶか、それともカルネアデスの船Ⅱと呼ぶかはその人の思い入れ次第であろうと思うがね」

「それは、本当に良くなったのだろうか?」

 

「ふむ。と言うと?」

「エンジンのパワーを上げたばっかりに、船体に負荷がかかって折れる。他には部屋を改造したらそこから浸水が始まった。良くしたつもりが改悪だったことはよくある。……良くなっているのだろうか? 前と――アリウスが弾圧された数百年前と、そして今は」

 

「少なくとも、錠前サオリの野望が達成されればその数百年前よりもよほど状況が悪くなるのは間違いがないね。キヴォトス中が戦火に呑み込まれて、人々は飢えながら暴徒に怯えて暮らすようになる」

「では、今は? 野望はまだ達成されていない、地獄になっていない今の話だ。現代と比べて数百年前の方が良かったようなことがあれば……私は、何のために戦っているのだろう」

 

「以前は私は問いかけるのみだった。だが、今は回答者になるとしよう。私は私で、友でありたいと願う人が居るから戦っているのだから。……良くなっているとも。数百年前だと? そんな石器時代よりも今の文明社会の方が良いに決まっている。私はかよわいからクーラーの効いた部屋以外では過ごせないんだ」

「……セイア、身も蓋もない言葉だな。それに、さすがに石器時代は数百年前よりももっと大昔なのは私だって知ってるぞ」

 

「だが、事実だ。人は機械を捨てられない。それにだ、コンビニあたりでは毎日大量の弁当が棄てられているが……それは、裏を返せば棄てられるほど食料が余っているのだよ。確かに飢える人が居る事実は認めざるを得ないがね。しかしこれだけ棄てられているのだから、もうちょっと頑張れば――もっとたくさん棄てて、だが飢える人だって食べられるようになるのではないかな? まあ、実際には宗教など複雑な事情が絡んでくるのも事実だが」

「なるほど。ああ、その通りだと思う。実際、私は多くの教育を受けたが実際の数百年前など知らない。だけど、きっと現代の方が飢える人は少ないのだろう。さらに発展すれば餓死する子供なんて居なくなるはず、特殊な事情を除いて。……ああ、私はそのために戦うのだと、再確認できた」

 

「……まあ、その未来が残っていればの話だがね」

「セイア?」

 

「なんでもない。しかし、やはり君は一人で戦うのだね? 君が望めば、精鋭を集めた突入部隊にねじ込むことだって出来るのだよ」

「すまない。これは、家族の手で送ってやりたいと思う私の我儘だから」

 

「なに、気にすることはない。皆、自分の我儘で動いている。きっと――本当に、誰かのために動けるとしたらそれはミカちゃんだけなのかもしれない」

「それと、先生も」

 

「……くく、それもそうか。なんのかの言って、私はまだ先生のことをよく知らないらしい。この件が片付けば、ちゃんと話してみたいものだ」

「話せるさ。――私がそうする」

 

「何を言っても覚悟は揺らがないようだね。せめて、君のヘイローが失われることが無いように祈ろう」

「……それに意味はない。私に帰る場所はないのだから。刺し違えてでも、キヴォトスに平和をもたらすだけだ。その後は、なにもない」

 

「アズ……」

 

 答えは聞かずに通信を断った。

 

「――」

 

 通信を終えた後に見えたのは、大量の着信履歴。それは、補習授業部から来たもの。先生のも、入っている。

 

「私は、もう戻れないから……!」

 

 スマホを地面に叩きつけようとして、しかし出来ずにある番号に指をかける。

 

 

 

 そして、トリニティでは会議が行われていた。

 

「――さて、皆様集まっていただきありがとうございます」

 

 ナギサが集めた作戦会議の総本山。トリニティに存在する幾多の組織が説明を求めたり、抗議したりしていたがナギサは全て無視してこの場に来ていた。

 

 集めたのは正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッド。ここにミカのパテル分派と、セイアのサンクトゥス分派で6つの勢力だ。

 トリニティの行く末を決める権利を持つのはここであるのだと、内外に示していた。

 

「古聖堂での戦闘は終了、負傷者の収容も完了しました。ああ、先生も無事です。もしもの時を考えて医務室に居てもらっていますが、実際には入院の必要もありません」

 

 現状を総括、あと先生についてはかなりセンシティブなので公表されていることをもう一度言う。

 トリニティの性質上大本営発表と疑われることは避けられないが、さすがにこの場では嘘は言わないから二度目は必要だった。

 

「もし古聖堂から敵が攻めよせてきたときの防衛は、暫定的に正義実現委員会に担当してもらっています。今は各々、次の戦闘開始に向けて準備をしていただいているものと思っています」

 

 ナギサが朗々と話し、各勢力の長は無言で首を縦に振って答える。戦争は一旦膠着状態になった。ならば数時間程度で次の戦争準備の一つも整えられなければ、キヴォトスで大組織などやっていられない。

 

「では、現状を確認していきましょう。古聖堂の戦闘にて確認できたアリウススクワッドは3名。錠前サオリ、戒野ミサキ、槌永ヒヨリ。最後の秤アツコの姿は確認できませんでしたが、ミカさん?」

「ううん……それはツルギちゃんに聞いた方が良くない? 私が知ってる情報は皆知ってるでしょ」

 

 唯一知らなかったシスターフッドも、古聖堂から引き上げた後に資料は貰えていた。まあ、今も苦い顔はしているけれど。

 

「それでは、私から。現状、秤アツコはスクワッドの3名と行動をともにしているとの目撃情報がありました。何かしらの役割を終えたのでしょう」

「あの特異現象を操るための条件に必要だったのかな? ま、それももう終わったっぽいね。それでも、トリニティは滅んでない。――ふふん、希望は見えてきたね。ハスミちゃん」

 

「ええ、ミカさん。特異現象を操るためにも条件がある。自らは姿を隠し、古聖堂で湧いた戦力をそのままトリニティに差し向ければ壊滅は必死……なのにしていないということは、できないということに他ならない」

「――それについてはシスターフッドから報告が。ナギサ様から”依頼”を受けて偵察を行いました」

 

 サクラコが意味深な笑みを浮かべて口を挟む。その口調からは裏取引しか読み取れないが、まあ手柄に困っているシスターフッドに危険な役どころをお願いしただけだった。

 

「一団で古聖堂で戦闘を開始すると特異現象が湧きましたが、撤退してみたところ追いかけては来ませんでした。その時にスクワッドの姿は確認できておりません。なお、トリニティの方角へ撤退することもしておりませんので」

「誘因は難しいですが、逆に古聖堂から出るのも難しいか条件があるのでしょう。少なくとも、スクワッドは居る必要があるのでしょうね」

 

「じゃ、こういうことだね? ナギちゃん。あいつらが来る時はスクワッドが指示を下しているはず。だから特異現象を乗り越えて直接潰す必要があるわけだ」

「それに関してですが、ミカさん。奴らの切り札、アンブロシウスとやらの戦力についてはどうでしたか?」

 

「ああ、あの時は私が相手してたもんね。……うん、手強いよ。あいつは私かツルギちゃんが相手した方が良いと思う。でも、時間稼ぎなら一人で十分」

「それほどですか。幸いにも、まだ時間はあります。それに、トリニティの歴史でここまでの連携が出来ていたこともないでしょう。力を合わせれば、必ず――」

 

「遅い」

 

 ダン、とミネ団長が拳を振り下ろした。

 

「救護対象が目の前に居るのです! すぐに向かわなくてどうしますか!?」

「ああ、いえ。ミネ団長。その……スクワッドは目下捜索中で、こちらが見つけるか敵が攻めてくるかが先かの話をしているのですが」

 

「まだ行方不明者が居ます! 即座に古聖堂を制圧するべきです!」

「ええと……それは難しいかと。あの、攻めると特異現象が現れるので周囲から見張っている状況でして」

 

「シスターフッドは救護騎士団に賛成します。確かにトリニティ本部の守りを薄くすることはできないとはいえ、戦力を派遣することはできるはずです」

「いえ、正義実現委員会は反対です。こちらの弾が要救助者を傷つけることになっては本末転倒、あまり戦闘行為を前提に考えるのは……」

 

 紛糾する議論、決まらない結論。とはいえ、戦闘という方針は変わらない。ボスたちがここで口論を繰り広げている間、下の者は淡々と準備を進めている。

 

 そして、隙を伺ってミカ、ナギサ、セイアは一度議場を出た。

 

「……まったく、面倒なものだね。こんな会議は徒労だと言うのに」

「あはは。待ってれば先生が解決してくれるもんね。予知で知ってるのは変な気分だなあ」

 

「セイアちゃん、ミカちゃん。しっかりやってくださいよ。確かにこの会議は徒労かもしれませんが、この会議を開いたと言う意味は持ちます。というか、やらなかったらティーパーティー失格ですよ。万魔殿の羽沼会長じゃないんですから」

「うげ。あんなのと一緒にされるのは勘弁」

 

「ああ、そういえばアズサが錠前サオリと戦闘を行ったようだ」

「……どういうこと?」

 

「私を睨みつけないでくれ、ミカちゃん。彼女はそういう人間だろう? ああ、彼女については私の方が良く知っているのか」

「だね。予知でも、今でもあんまり話してないもん」

 

「ヘイロー破壊爆弾は効果を発揮しなかったようだ。だが、彼女はもう一度挑むようだ。おそらく、これが……」

「おや? ヒフミちゃんから着信?」

 

 ミカはセイアの話を聞かずに電話に出る。話を終えると、悪戯っぽくニヤリと笑う。

 

「皆、私は行ってくるね」

「……まったく、もうちょっと政治のことを考えてください。授業の早引きではないんですよ」

「だが、必要なことではあるだろう。君が変われたのは、彼女のおかげでもあるのだろうから」

 

「――じゃ、あとよろしく!」

 

 ミカは走り出し、ナギサとセイアはため息を吐いた。

 

 

 

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