聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第66話 決着

 

 

 走り出したのはいいものの、ミカはうるさい声に気付く。

 

「ん? あれ、どうしたの。こんなに集まっちゃってさ」

 

 パテル分派で見た顔と、あとは見たこともない顔。いや、実は分派でも結構覚えていない顔はあるけど、制服が違うから見て分かる。

 

「――おお、ミカ様!」

「そこに居ましたか!」

 

 なにか騒ぎ出した。

 

「特異現象だのなんだの言っていますが、ゲヘナの奴らが悪いに決まってます!」

「そうだそうだ、ゲヘナが悪い!」

「なのにティーパーティーも正義実現委員会もゲヘナに派兵しない!」

 

 言っていることは文句のオンパレード。まあ、ミカだってこういうものを利用してティーパーティーのホストに成り上がったのではないかと指摘されればぐうの音も出ないけど。

 

「ミカ様! 今こそ私たちの旗印に!」

「いけすかないゲヘナの奴らをぶっ潰すのです!」

「倒せ! 倒せ! ゲヘナを倒せ!」

 

 ゲヘナに対する憎しみのシュプレヒコール。自分もこんなんだったのかと思うと、ミカとしてもため息が出てくる。

 ゲヘナが嫌いなのは仕方ない、自分もそうだ。

 

 ――だが、これは。

 

「だから何? やりたければやればいいじゃん。別に今の状況って宣戦布告なんて要らないよね? そもそもナギちゃんを飛び越えて宣戦布告って何? って話だし」

「あのような平和主義者の言葉など関係ありません! ゲヘナさえ攻め滅ぼしてしまえば、奴だって我々を無下には出来ません!」

 

「いや、我々って何さ。私を入れないでよ。好きにすればいいじゃん。誰かに命令されないと憎むことすら出来ないの?」

「「「……」」」

 

 あまりに鋭い言葉に、群衆は言葉を失った。

 

「あのさあ、暴れたいなら暴れれば? ゲヘナはそうしてる。あなたたちは誰かに命令してもらいたがってるけど、それ責任取りたくないってだけじゃん。自分は言われただけ、やらされただけって……ゲヘナでもそんな言い訳しないと思うな」

「――ふざけるな!」

 

 激発した言葉、そして銃撃が撃たれる。

 

「おっと」

 

 ミカはひらりとかわした。

 

「私たちがゲヘナと同等……いや、それ以下だと!? ティーパーティーだからと言って、そんな侮辱を人にして許されると思うな!」

「そうだ! 聖園ミカを引き吊り落とせ!」

「あの魔女を磔にしてしまえ!」

 

 だが、激高する群衆はもはやミカを戦闘の対象として戦闘が始まる雰囲気だ。

 

「ああ――なんか凄いことになっちゃった。でも、ごめんね。用事があって、あなたたちに構ってあげる時間はないの。じゃあねっ!」

 

 パルクールじみた動きで門の上をつたって駆け抜けていってしまった。怒りに燃える群衆はそこに取り残される。

 

 

 

 そして、聞いていた場所に向かって走る。声が聞こえてくる。どうやら、間に合ったらしい。

 

「なんだ、お前は?」

「普通の、トリニティの生徒です」

 

 膝を着いたアズサに銃を向けるサオリ。そして、そのサオリは乱入した一人の少女を誰何している。

 

「確かに私は普通で、何のとりえもない生徒です。でも!! アズサちゃんは、一つ大きな間違いをしています!!!」

 

 だが、問いかけられたヒフミはアズサに向かって言葉を紡ぐ。

 

「今ここで、私の本当の姿をお見せします!!! 私の正体、それは……『覆面水着団』のリーダー、ファウストです!!」

 

 バっと6の番号が書かれた紙袋を被った。

 

「え?」

 

 アズサは呆気に取られた顔でヒフミを見る。なんだ、そのおふざけはと。

 

「見てください、この恐ろしさ! アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしないほど不気味でしょう! こっちの方が恐ろしくて怖いという人だっているはずです!」

「ひ、ヒフミ……? ヒフミ、いったい何を――」

 

「だからっ!」

 

 戸惑うアズサに、ヒフミは必死に声をかける。

 

「だから私たちは、違う世界に居るなんてことはありません。同じです! 隣にだっていられます!」

「だから世界が違うだなんて、一緒にいられないだなんて……そんなことを言わないでください!」

「拒絶されても、すぐ近くに行って見せます! 私は……! 私は、アズサちゃんの傍に居ます! こうやって、すぐ触れるところに……!」

 

 万感の思いを込めて、言い放った。

 

「ヒフミ……でも、私のためにそんな嘘を言ってくれたところで……」

 

 だが、アズサは目を伏せる。全て嘘だと、そんなことは疑うまでもない。確かに思い込んだら一直線なきらいはあるけれど、まさかブラックマーケットに侵入するような危険人物なはずがない。

 ヘイローを壊したような人間未満が辿るお似合いの末路、闇が凝るごみ捨て場。ヒフミは、そんなブラックマーケットのブの字も知らないはずだから。

 

「誰が嘘だって!?」

 

 けれど、後から響いたのは知らない声。トリニティのそれとは違う、しかし鉄火場を知る者の声だ。

 それだけで強者と分かる、自負の裏付けがある声だった。

 

 ――アビドス対策委員会。ヒフミと、そしてミカが紡いで来た絆。

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道のごとく魔境を行く」

「ん、それが私たちのモットー」

「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしてるグループなんです♧」

「別にそれ私たちのモットーじゃないから!? あと変な設定付けないで!」

「覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!」

 

 がやがやと騒がしくお茶らける声。

 だが、それははったりなどではなく――キヴォトス屈指の危険人物である錠前サオリの前でそれをしても問題ないほどの強者達であった。

 

「なーにうちのリーダーを泣かせようとしてるのかな~? ねえ、そこの君たち? どこの誰だか知らないけど、知らないよ? うちのファウストさんは怒ると怖いんだから」

「何せファウストちゃんは最終的に、カイザーコーポレーションの幹部を倒しちゃったようなものなんですよ」

「ブラックマーケットの銀行だって襲える。朝飯前みたいに」

「それにこの間なんて、カイザーPMCを砲撃で吹っ飛ばしたんだからね!」

「そうだよ、恐ろしいんだよ~? 生きて動く災いと言っても過言じゃないし、暗黒街を支配するボスみたいなものなんだから!」

「うん、それがファウスト」

「ファウスト! ファウスト!! ファウスト!!!」

 

 アズサはぽかんと口を開けた。いや、確かに彼女たちは実力者なのだろう。だが、アズサの知る強者とは言わずと知れた錠前サオリに、正義実現委員長やシスターフッドを襲うミカ。

 シリアスの極みだったそれらと比べて、空気感が違いすぎる。

 

「――ッ!」

 

 ヒフミは恥ずかしくなったのか、紙袋を取ってしまった。

 

「知ったことか。無限に増殖する『ユスティナ聖徒会』の前では等しく無意味! 無為に砕け散るがいい、アンブロシウス!」

 

 アンブロシウスが巨大な手をアビドス対策委員会に伸ばす。けれど、相対する面々は恐怖に顔を歪めることもなく、なんてこともないように振り下ろされる手を見る。

 攻撃どころか、防御すらしない。そんなことをする必要などないと言わんばかりに。

 

「――おっと、忘れられちゃ困るな。伝説のNo7は、その姿を見せてないんだから」

 

 そして、ミカがその腕を撃ち落とした。

 

「聖園ミカだと!? ここで来るのか! このおふざけ集団は、貴様が主ということか!」

「いやいや、ボスはヒフミちゃ……ファウストだって言ったでしょ」

「ミカちゃん!? なんで言い直したんですか!」

 

「っは! ……むしろ好都合だ。アズサだけではなく、この場の全員に知らせてやれ」

 

 アビドス対策委員会はターゲットではないが、見れば強者とは知れる。だが、古聖堂の時よりは与しやすしと笑みを浮かべる。

 なにせ、ウザかった聖園ミカがここに居る。正義実現委員会と合流される前に潰せるのは望外の幸運だ。

 

「この世界の真実を……殺意と憎しみに満ちたこの世界で、あらゆる努力は無駄なのだと。あがこうと何の意味もない、全ては無駄なのだということを!」

「それでも、私は……!」 

 

 力のない少女。ヒフミは今この場にいる人間の中では、場違いと呼べるほどに弱い。だから、ただの一般人と自称している。

 けれど、これだけの戦力が集まったのはヒフミだからで――ヒフミでなければ、こうはなっていなかった。

 

「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です。そんな苦しくて憂鬱な話、私は好きじゃないんです!」

「私には、好きなものがあります。平凡で、大した個性も無い私ですが、ゆずれません」

「苦しいことがあっても……誰もが最後が笑顔になれるような……そんなハッピーエンドが、私は好きなんです」

「私たちが決めるんです。終わりになんてさせません。私たちの物語……私たちの、青春の物語を!」

 

 宣言した。それと同時に、重苦しい雨の中に温かな光が差す。

 

「天候が……」

「気象の操作……いや、これは……?」

「き、奇跡、ですか……?」

「奇跡なんてない! 何これ……! まさか、戒律が……?」

 

 戸惑うアリウススクワッド。そんな特異現象など知らない。それどころか、自分が手にしていたはずの特異現象まで様子がおかしくなっている。

 

「ここに宣言する。私たちが、新しいエデン条約機構」

 

 そして、先生が言葉を紡ぐ。

 

 シャーレが連邦生徒会長を代行する。そう解釈できるように捻じ曲げた理屈は、トリニティやアビドスには分からない。

 

 だけど、先生が居てくれれば何とかなると――それだけは信じられる。

 

「アリウスと、同じ……条約の主体であるゲヘナ、ティーパーティー、正義実現委員会、そして風紀委員会たちが集まって……かつて古聖堂があった廃墟で……」

 

 サオリが、呆然と先生を見つめる。起きた事象、その理解を脳が拒んでいる。理解できるが、したくない。

 それは、自分の手駒が奪われたということ。……勝ち目が消え失せたという事実。

 

「条約の発起人である連邦生徒会長の代わりに、先生が……楽園の名を冠する約束を、再現した……?」

「……」

 

 先生は、ただ優しくサオリを見返している。

 

「契約を曲解し、歪曲し、望み通りの結果を捏造する……大人のやり方には大人のやり方で、か」

 

 だが、対するサオリは同情かと吐き捨てる。そんなものは要らない、叩き返してやると。

 

「っ、知ったことか!!!! ハッピーエンドだと!? ふざけるな! そんな言葉で、世界が変わるとでも!? それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでもいうつもりか!? 何を夢のような話を……!」

「生徒たちの夢を……その実現を助けるのは、大人の義務だから。私は生徒たちが願う夢を信じて、それを支える。生徒たち自身が心から願う夢を」

 

「その様な夢など、全て壊してくれる! この冷たい現実で、絶望のうちに儚く消え果てよ! 立ち上がれ、アンブロシスゥゥゥ!」

 

 サオリは無駄と分かってもその憎悪に身を任せる。勝ち目などないと頭の冷静な部分が囁いているが、怒りの業火が脳を焼くのだ。

 この炎をとどめておくことなどできはしない。

 

「……皆、頼むよ」

 

 先生が、悲し気に受けて立つ。生徒たちが、号令の下に集合する。

 

「「「――はい」」」

 

 戦闘を開始する。

 

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