トリニティを支配する三人は、集まってトランプをやっていた。
「んー。セイアちゃん、そろそろ具合は良くなってきた?」
「……さて、ね」
セイアはまだ外を自由に出歩けるまで回復していない。どころか、一時期よりも顔色が悪くなっているように見える。
ミカも、ナギサも少し心配していた。救護騎士団も原因が何も分からないというのだから、余計に。
とはいえ療養のために静養させるのはセイア自身が反対する。そもそもセイアが起きているのは、こういう何気ない時間を過ごすためなのだから。
「しかし、それは悪手ではないかな、ミカちゃん」
「ふうん。仕込みは失敗かな。……ま――そっちは、ね」
だから、ミカは遠慮なくセイアを叩き潰すように複数の策を平行に張り巡らせるのだが――セイアはその策をかいくぐって鋭く切り込んでくる。
具合が悪くても、頭までは劣化していない。
「そうですね。では、私はこちらを」
「私も……これだな」
「あーッ! もう、隠し通せると思ったのになー。……? セイアちゃん」
舐めた瞬間にエグいやり方で急所を取りに来るミカ、しかしセイアも対抗できる手段を有している。
「ふふ。ですがお二人とも。熱くなって私のことをお忘れではないですか?」
そして大人しそうに見えるが一番油断できないのがナギサだ。ミカのように派手ではなく、セイアのように華麗でもない。
なのに最後には勝っている。それがナギサの手腕だ。
そんないつもの風景で遊びに興じていた。の、だが。
「……ぐっ」
セイアは顔を歪めて心臓のあたりを掴む。
「セイアちゃんっ!」
「どうしました!? あなたを害すものなど、ここには入って来られないはずなのに!」
倒れこみそうになるセイアを二人で支える。
常に救護騎士団の健康診断を受けていて健康面に問題はない。それに、ここは救護騎士団の館で正義実現委員会の護衛もあるのに。
敵の力は、それすら凌ぐのだと――二人は戦慄する。
「終わり……はは。あれ……忘れ……な……シスター……古聖堂」
「うん、分かるよ。古聖堂で見た”技術”、私たちに理解不可能なそれがあれば護衛なんて意味がない」
「では――やはり、これはマダムが!」
セイアの言葉に、以前のように悲観的になりはしない。前と違って、くだらないことも含めてたくさんたくさん話していた。
絆はあるのだと、信じられるから。
「滅び……動き……」
「マダムがキヴォトスを滅ぼす儀式の準備を始めたんだね。でも、大丈夫――まだ時間はあるはず」
セイアの震える手を取り、目を合わせた。ナギサも、同じようにもう片方の手を取ってセイアを見つめている。
「ミカ……君が……君の、ために……」
「うん。取り乱したりなんてしない。だからセイアちゃんも頑張って。死なないでね。――私も頑張るから」
ゲホゲホとセイアが咳き込み、血を吐いた。けれど目に力は失っていない。これだけは言わなくてはならないと、ナギサに顔を向ける。
「ナギサ……ミカを……頼む」
「はい。私がミカちゃんを一人になんてさせません」
「――」
ふ、と笑ってセイアが意識を失った。
「――誰か、セイアちゃんを運んでください!」
セイアを抱きかかえるナギサを後目に、ミカは一人立ち上がる。肩を怒らせて、殺気が立ち上っている。
……明らかに、暴走の兆候だった。
「ナギちゃん、後をお願い。私は――」
「待ってください、ミカちゃん。もしやアリウスに突撃するつもりですか?」
「だって、セイアちゃんが倒れたのはあいつのせいに決まって……!」
「それは私たちの持つ唯一のアドバンテージです。今使ってしまったら、私たちの未来にたどり着けなくなります。そもそも、彼女が今もアリウスの玉座に居るとの確信が? もし居たとしても、そこで待っているような方ですか?」
暴走するミカを論理で止める。直情的な面があるが、馬鹿なわけではない。それが今後を考えると致命的な事だと理解できるだけの頭はある。
やはり感情的には納得できないけれど。
「……ッ! それは、そう……かもしれないけど」
「ティーパーティによる錠前サオリの監視は続いています。それは、裏を返せばマダムの計画は始まっていないということ。……セイアちゃんは彼女にとって脅威です。まずはそちらを対処してから計画を始めるというのは想定通りでしょう。そして、それは未来でも同じだった」
「分かってる。これは計画通り。こうなることも織り込み済みだった。想定済だった……セイアちゃんだって、あいつの手を感じてた! 恐れてた!」
「暴走するな、冷静にナギサの言うことを聞け。と、そう言われていたじゃないですか――忘れましたか?」
「――ッ! 分かった。頭を冷やしてくる。”通路”は使わないから、それでいいでしょ?」
ミカはぶんぶんと頭を振ると、それでも耐えきれないとばかりに足を踏み鳴らす。それでも、理性は戻ってきた。
「そうですね。あなたの気が済むならそれで。……ただ、正義実現委員会の監視を振り切らないことは約束してください」
「うん。我慢する」
「……いい子ですね。セイアちゃんのことは私に任せてください」
「お願いね」
ミカはあてどなく走り出した。ただ焦燥に突き動かされて走り出さざるを得ないのだ。こんなもの、私には手段はありませんと言って回るのと同じことなのに。
「――」
だが、身体の内に湧き上がる熱を抑えきれない。これが何の意味もないことを、自身すらも理解しながら走っている。
まあ、それも何も益がないわけではない。少なくとも、それを見たマダムは溜飲を下げて油断するだろう。何もできないということを見せつけるのが目的などと妙なことになっているが、ミカは止まらなかった。
その裏で蠢く闇がある。キヴォトスに存在する闇は、マダムただ一人ではないのだから。いや、それは闇ではなくただの薄暗闇かもしれない。
不良でなくとも、銃撃戦くらい誰でも経験することだ。徒党を組んで気に入らない奴を襲撃することを狙う集団だって居る。実のところ、常に銃弾の音が絶えないキヴォトスを外の感性で見るなら地獄だろう。
「……くそっ! 聖園ミカ、調子に乗りやがって……!」
たむろしていた彼女たち。だが、不良と言うにはあまりにも所作が優雅に過ぎた。それもそのはず、彼女たちはティーパーティーの一員だった。
ミカに言い負かされて苦渋を飲んだ人間の一人で、だからこそ今のティーパーティには戻れない。区切りは3つだが、しかしその内にも無数に派閥が別れているのだ。
ゆえにこそ、現ホストに対立する勢力も居るわけなのだが――今はホストが三人だけで連合を組んでしまったようなものだ。ホストに着く主流派の権力が強すぎて、傍流が木っ端だ。
「あいつ、トリニティの裏切り者じゃなかったのかよ!」
「それがどうして……今も我が物顔でティーパーティーのホストに!」
「……ナギサ様と裏取引したに違いないわ。魂を売ってでも地位を確保しようとしてるのよ、あの魔女!」
「トリニティである誇りはどこに行ったのよ! エデン条約は無くなったけど、でも今もゲヘナとの戦線が開いてないじゃない」
口々に万の文句が飛び出てくるが、それが矛盾だらけなのは本人達は気付いていない。この集団が何かを達成したとして、次の瞬間には空中分解するのが目に見えている。
そう、彼女たちはただ聖園ミカが気に入らないというだけで寄り集まった烏合の衆。あの時に言われた言葉に我慢が出来ないから愚痴を言い合っているだけだ。ただそれだけの理由で徒党を組んでいる。
実は、機会さえなければここでこうして愚痴大会するだけで満足なのかもしれなかったが――不幸にも手段を手に入れてしまう。
「――あなたたち、力が欲しくはないですか?」
そこに、声をかける者が居る。利用しようとする、闇が。
「あなた、誰? 大人? もしかして、企業の――」
「はい、『黒服』と呼ばれております。どうぞお見知りおきを」
スーツをビシっと決めた、しかし人間ではない彼が管を巻くティーパーティの負け犬どもに声をかけた。
そいつは慇懃に頭を下げて相手の様子を伺う。
「何の用? 私たちは、別にあんたに用なんて……」
「企業、とおっしゃいましたね。ええ、そのようなものと捉えていただいてけっこう。なにせ私は営業に来たのですから。皆様には、強い武器がご入用かと思いましてね」
矢継ぎ早に言葉を出す。それも相手の言葉を潰すのではなく、相手の言うことをよく聞いて。
それを一言で言えば、上手い営業トークだ。
「……強い武器。それは、聖園ミカを倒せる武器?」
「さて? 正直に言わせてもらいますが、さすがにそこまでは保証できません。ただ、トリニティの中でも最強とも言われる彼女であっても――直撃させれば大きなダメージを与えられることは保証できます。わざわざ紹介に伺ったのです、それだけの威力はありますとも」
彼女は高校生で負け犬とは言えども……それでもトリニティなんぞで政治家をしているのだ。
ただ営業トークがうまい程度で丸めこまれるようなことはない。その効果を理解した上で、猜疑の視線を黒服に送る。
「へえ。で、裏とかあんじゃないの? だって、そんな強い武器ならあんたのところで使えばいいじゃない。ほら、企業の所属なんでしょアナタ」
「ハハハ、開発したはいいものの扱い辛くなってしまったものでしてねえ。企業で使うには、ちょっと都合が悪いのですよ。なので、皆様に高く売りつけられればと」
「あはは! 言うわね。ねえ、そこまで言うからには性能は保証してくれるんでしょうね」
「もちろん、カタログスペックは保証しますよ。私は取引というものを大切にしています。決して嘘を吐くことなどございません」
「いいわ。買ってあげる。契約書を寄こしなさい。……って、値段がすごいわね」
「特別仕様ですから」
「作ったのはいいものの、使い道がなかったポンコツでしょ。……ま、あの魔女に対抗するためには仕方ないか」
「お買い上げいただき、ありがとうございます」
「じゃ、私の住所はここだから送っておいて」
「承りました」
黒服は慇懃に客を見送り、含み笑いを漏らす。
「実証されない証明に意味はない。いえ、この場合は証明を行うための模索になるのでしょうか。要は企画倒れでは困るのですよ。……マダム、あなたは先生のことを舐めている。そしてトリニティ、桐藤ナギサ――彼女が動かせる戦力は少なくない」
「ですので、ここは少しばかり場を整えてあげましょう。動く前に潰されてしまうのは、私たちにとっても本意ではありませんので。どうか、『崇高』の影だけでも拝ませてくれることを心より願っておりますよ」
『ゲマトリア』も動く。彼らは探求者、見知らぬ誰かの命を薪と積み上げてでも”それ”に手をかけることだけが望みであるのだから。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)