聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第72話 破滅の始まり

 

 

 キヴォトスの中でも最大規模を誇るトリニティですら糸口すらも掴めない闇。その名前すらも秘された『ゲマトリア』、その集会が開かれている。

 

「――さて、首尾はどうですかな? マダム」

「あなた達に公開する必要などありません。忘れましたか? 私たちは同じ研究テーマを持ちますが、本質的には競合です。敵にむざむざと情報を渡すとお思いで?」

 

 四人の異形、人外が話している。和やか、とまでは行かずとも敵意を剥き出しにすることもなく。

 踏み込めば噛むと威嚇するように3人を睥睨する、マダムと呼ばれた彼女を除いては。

 

「ですが、この場は情報交換のためにあるものでしょう。なにより、我らは同じく長年研究を続けながらも手が届いていない。――もはや、自分がどうのと言う段階は過ぎ去ったとも言えます」

「ならば、黙って見ていなさい。協力する振りをして私から成果をかすめ取ろうなどと考えぬことですよ、黒服」

 

「かすめ取るなどとめっそうもない。まさかマダムを相手にそのような真似はできませんよ。あなたの手腕は素晴らしい。国家を手に入れたのは、私たちの中であなただけだ」

「――黒服のアビドスは惜しかったがな。もちろん揶揄ではないぞ」

「ふん。くだらない。それで、何を言いたいのです? 黒服」

 

「ククッ……お気になさらず。たしかに惜しかったですが――あの先生の存在は私の計算に入ってなかったので。ですが、マダム、先生についてどうお考えか聞いても?」

「『シャーレ』、あの者のことですね。みなさん、相当に気になっているようで」

「そういうこった!」

 

 会議の流れをぶった切って写真の中で背を向けている男が大声を出す。

 

「いいえ。あの者とは敵対してはいけません。むしろ私たちの仲間に引き入れた方が良いでしょう」

「私としても大変気に入っている。あの者は、私たちの理解者になってくれるかもしれない」

「私はまだ判断を保留していますが……もしベアトリーチェのように私たちの一員になってくれるなら……」

 

 マダム以外の3人は先生に関して好意を示している。だが、マダムの目は冷え冷えと殺気をたたえている。

 

「愚かで怠惰な思考ですね。シャーレの先生は、必ず排除しなくてはなりません」

 

 マダムは威圧を籠めて他の三人へと冷たい視線を送った。

 

「「「……」」」

 

 反応は、特にない。好意的でもないが。

 

「説明が必要なようですね。ええ、せっかくなので少し説明しましょうか。まず聖園ミカ、彼女は私に多くのアイデアをもたらしました。太古の威厳の確保、予知夢の大天使の処分……珍しい技術を提供してくれたゴルコンダに感謝します」

「そういうこった!」

「私はテクストを提供しただけで、それを形にしたのはマダムですよ。それに、むしろその技術がマダムの足を引っ張っていませんでしたか?」

 

「ええ……ですが、生贄の身体にあらかじめ備えておいた防御システムのおかげで助かりました。感謝します、黒服」

「……クックックッ。無名の司祭たちの技術が役に立ってよかったです」

 

「そして、最後のインスピレーションが先生のこと。アリウスを支配したのは都合が良かったからで、子供達の怒りや憎悪などは私にとってはどうでもいいこと。ですが、先生の活躍をこの目で見てしまった」

 

 す、と目を細める。無数の目を。

 

「……アレが介入すると、私が持っているすべての意味が変わってしまいます。あの者は危険です」

「「……」」

 

 黙りこくるゲマトリア。『先生』の存在、いや個性は彼らにとっても無視できないものであるらしい。

 遠くからそれを見ているセイアの背に冷や汗が流れた。

 

「そこで気付いたのです。私の計画を果たすためには、真っ先に先生を消さなければならないことに」

「まさにアンタゴニスト(敵対者)ですね」

「ふむ……」

 

 始末しなければならないと主張するマダムに対し、他の三人は及び腰なのは間違いがない。

 とはいえ、強引に阻止しようという空気もまたなかった。

 

「私の決定が気に入らないようですが――どうせ私たちは各々の目的を追及するだけの存在。あなた方に私を妨害する権利はないでしょう」

「……ええ。そのような権利はありません。思うままになさってください、ベアトリーチェ」

 

「……」

「しかし、目的くらいは教えてくれてもいいのでは?」

 

 ベアトリーチェはわずかにためらった後に口を開く。

 

「祭壇を用意しています。あなたのように契約をするつもりはないですが」

「ほう、契約の代わりに儀式ですか……本来その二つは変わらないと考えることもできますが。それを実行する上で、先生の存在が必ず邪魔になると?」

 

「ええ、そうです。既に手は打ってあります。『スクワッド』が先生を処理してくれることでしょう」

「なるほど、スクワッドですか」

 

「廃棄しようとしていた消耗品ですが、先生を殺せば許す機会を与えると伝えました。彼女たちにとっては断ることができない提案ですから」

 

 得意げに自らの策略の一部を明かすマダム。そして、唐突に部屋の一画を睨みつける。

 

「――ああ、ネズミが罠にかかってくれていたようですね。間に合わないかと思っていましたが、しかし丁度いい」

 

「……!!」

「ここに? ここには我々以外誰も……」

 

 即座に目線を走らせるゲマトリア達。だが、他に何の存在も感じ取れない。しかし、実際にそこを見ているセイアにとっては肝が冷えるような体験だ。

 

「少々話し過ぎたようです。私はこれで帰るとします」

 

 

 

 そして、マダムは祭壇の場所までやってきた。駒を動かし始めた、儀式の時はもうすぐだ。

 スクワッドが先生の始末に成功しようが失敗しようが……それすらどうでもいい。どうせ、この場所にまで侵入できるはずなどないのだから。

 既に成功は約束されたものだとほくそ笑む。

 

「……さて、予言の大天使……いえ、百合園セイア」

 

 手こずらせてくれた敵に蔑みの笑みを向ける。マダムの耳にはガンガンと蹴りつける音が響いていた。

 どうにか逃げようと必死になって……しかし、それが出来ないという証だ。注目が向けられたセイアはしゃべりだす。

 

「何かね、私たちの敵よ。しかし、やはり愚かなことをするものだ。よりにもよってスクワッドを――先生に道案内を寄こしてやるなど、ね。いつものように隠れていたなら見つからなかっただろうに」

 

 周囲には見えない壁があって脱出できない。無理やりにこんなところまで連れてこられてしまった。

 だが、不安な顔を見せてやる義理はない。

 そう、ミカもナギサも戦っていると断言できる。ならば、ここで相応しい表情は――余裕の笑みだ。難しいことはない、なぜなら助けは来ると信じているから。

 

「ふむ。……絶望していると思ったのですが、その顔はどういうことでしょう。いえ、単なる強がりですね。夢の中だと思って油断していた事実は変わらない」

「ここが祭壇とやらだね、マダム」

 

「ええ。他のゲマトリアも訪れたことのない秘境です。光栄に思いなさい」

「なるほど。身に余る光栄だとでも言えばいいかね? ッ! なんだ……あれは……一体……!?」

 

 不吉な予感を感じたセイアが振り向く。祭壇のステンドグラスの更に向こう側に、何かがある。意思とも違う、何かエネルギーのようなもの。

 胸の内にじわりじわりと染み込むような不安が広がってくる。それだけの、おぞましい存在感があった。姿も、音もない。なのに、ただ伝わってくる存在感だけでこれだ。

 

「――ッ! 囚われた少女? 秤アツコ、彼女は。まさか、アレを呼ぶための生贄とでも……?」

「なるほど。やはりあなたを殺す判断は間違っていなかった。だが、やはり白洲アズサでは足りなかったということですね。あなたならば彼女を手玉に取ることは赤子の手をひねるよりも容易かったことでしょう。どいつもこいつも取るに足らぬ間抜けばかり。結局、役に立ったのはミメシスか……」

 

「は。忘れたか、マダムよ。アズサは自らの意思で私と歩むことを決めた。ミメシスは錠前サオリの策と秤アツコの献身がなければ掴めなかった。――私は弱いが、スクワッドは強いぞ」

「あれらに期待するのですか? しかし、ならばむしろ安心というもの。そのスクワッドが先生を殺すのですから」

 

「くくく。なるほど、まさに浅慮だな。それで成功したことがいくつあった? マダム、あなたにできることなど憎悪を利用して対立を煽ることくらいだ。人を頼るばかりだな」

「――ッ! この状況でよく減らず口を叩けますね。私があなたに何も出来ないとでも?」

 

 ガン、と何かを蹴った。それと同時にセイアは見えない壁に叩きつけられる。不可視の鳥かごだ、セイアは逃げられない。

 

「ぐっ! はは、こんなことしか出来ないのかね……マダム。ゲマトリアについて聞けば、一人は契約を、一人はテクストを、一人は記号を――それぞれ専門があるようだ。だが、そういえば、マダムよ。あなたにできることなど黒服の猿真似……」

「小賢しい挑発を」

 

 もう一度蹴る。

 

「ぐっ!」

「口しか出せない哀れな小鳥が、何をいい気になっているのか……!」

 

 蹴る。蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る――

 

「ううっ……ぐぐぐ――」

「確かに殺すことまでは難しい。ですが、この程度は簡単なことなのですよ」

 

 セイアはぼろぼろになって鳥かごに倒れ伏せた。だが、薄汚れてもその顔に浮かんでいるのは嘲笑。

 お前など先生の敵ではないと、マダムなど恐れていない。

 

「くははっ! やはりあなたに出来るのはこの程度だ、マダム! 分かっているのだろう? これが物語なら、あなた程度に務まるのはラスボスでもなければ黒幕でもない。……ただ踊るだけの哀れなピエロに過ぎない。ああ、本当の『生贄』は彼女などではなく――」

「よくもそれだけ口が回る」

 

 最期にもう一度蹴りつけてから、セイアをその手で掴む。

 

「――ならば、あなたに『崇高』を見せてあげましょう。あれこそが我々が望むもの。誰も感知しえない窮極にして、全てを統べる絶対であるのです。……そのような高位存在になるために、私は」

「マダム……あなたは何を」

 

 ここで初めて、セイアに恐怖がよぎる。マダムに何も出来なくても、ステンドグラスの向こうにあるものは恐ろしい。

 あれだけはダメだ。身体が拒否反応を起こしている。

 

「見せてあげると言ったでしょう? まあ、もっとも――それに晒された生徒は反転し『恐怖』に堕ちる。それは、おそらく生命の終わり……!」

「――やめろ。私は……ッ!」

 

 身体を震えさせるセイア。マダムはいい気になってその首根っこを掴んだまま歩いて行く。

 

「今さら後悔しましたか? ですが遅い。それはもう、あなたを認識した。絶望とともに、どこまでも堕ちて行くがいい。予言の大天使よ、もうその不愉快な顔を見ることもないでしょう」

「嫌……だ。ミカちゃん……ナギちゃん……!」

 

「安心なさい。きっと、それだけ大切に思っているなら反転してもまた会えるでしょう。……執着していた者を殺すためにね!」

「うあ。……ああああ!」

 

 セイアはステンドグラスの向こう側――虚空に放り出された。そして、そこに棲む”それ”を観測した。

 恐怖に、塗り潰されて……

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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