計画は順調に進んでいたはずだった。
セイアの昏睡は都合が悪いけれど、しかし想定内だった。そして次に錠前サオリの失踪の報が届いた。これも、段階が次に進んだというだけ。
なぜなら、ティーパーティーとしてもマダムの儀式は進めてもらう必要がある。本当に必須かは分からないけど、その最終段階で野望を挫くことを決めたのだから。それは予知で見た”未来”のアドバンテージを崩さないためでもある。
よって、今は消化試合。どちらの立場でも、運命のレールに石ころが紛れ込んでは困る段階だった。
ならばこそ、計画はつつがなく進むはずだった。錠前サオリがトリニティの監視から姿を消した。次は先生の足取りを掴めなくなる――サオリを助けるために先生はそうする。そこを機にミカはアリウスに踏み込む手筈になっていた。
……予知でアリウスへの道は知っている。もちろん暗号を解きなおして変わっていないことも確認しているのだから問題が起こるはずもない。
――ここで、運命のレールに異物が紛れ込む。マダム、スクワッド、ティーパーティー……この三者の間に先生ではない別の者の悪意が混じる。
ミカは絆を繋げすぎた。マダムの計画の全てを砕きかねないほどの力を得たと、見破った者が居る。
「……なんで?」
予定調和で街を走り回っていたミカがそれを見る。足が震えて、立てなくなりそうだ。”それ”は終わったことだと思っていた。
未来が変わって起こらなくなるはずのそれが、目の前にある。
「なんで、私の家が燃えてるの?」
燃えていた。轟々と炎を上げて我が家が燃えているのを遠目に見やる。
予知では裏切りを糾弾されて家を燃やされてしまった。だが、その未来は変えたはずのものだった。
ナギサとセイアが、そうしてくれた。
――なのに、家は燃えている。
「未来の収束? 予知は変えられない?」
呆然と呟く。地頭は悪くない、セイアの繰り言を理解できるだけの素養はあるのだ。だからこそ、予知についても様々な知識を有していたのだが。
とはいえ、それらの知識は自分の家が燃えているという衝撃を和らげてはくれるほどのものではない。
「だから何?」
けれど地に膝を付けはしない。
一番大事なものは身に着けている。それに耐火製の金庫だって用意しているさ、アリウスと戦っているのだから。
最低限の対策は打っているのだ。トリニティで一番偉い人間の一人として、連邦生徒会長が姿を消して戦時下に入っただけの警備を用意した。
「敵なら潰す。それだけでしょ。……私の家を燃やした報いをあげるよ」
ゆえにこそ、ミカは止まらない。その方向に向けて走り出した。けれど、やはりミカは直情的で、それゆえに判断を間違えてしまったのかもしれない。
こんなものは正義実現委員会に任せておけば良かった。決戦はすぐそこにまで迫っている、なのに余計なダメージを貰うような真似は――
そして、ミカの家を燃やした者達はその場で快哉を叫んでいた。
「ハハハハ! 良い気味だ。聖園ミカ……奴め、私達のことをゲヘナ以下などほざきやがって! そんな酷いことを言うから、こうなるんだよ!」
口汚く叫ぶそいつは、黒服から武器を購入したティーパーティの人間だった。3人のホストにすり寄れるだけの器量すらなく、ただ政治の端っこにひっかかっているだけのつまらない人間。
だから踊るのだ。気に入らない奴を倒せば、自分は”上”に上がれるはずという下らない勘違いを信じてしまうから。
「……意外だね、ティーパーティの子か。みんな頭が良い子だと思ってたけど、馬鹿が紛れ込んでいたのかな? もしかしてパテル派だったり? 私ってそういうところあるよね。アリウスの子達だって、馬鹿と見抜けなかったし」
そこにミカがやってくる。家を燃やしてくれたのだ、叩きのめされる覚悟はあるのだろうなと烈火の怒りを視線に乗せて。
「は! 救いようのない馬鹿は貴様だ、聖園ミカァ! あの時はよくもあんなことを! 人に言って良い言葉ではないだろうが!」
「……えっと。ごめんね、あなた誰だっけ? なんか言っちゃったかな。ごめんね、私ってばモブの顔を覚えるの苦手なの」
あっけらかんと言葉を送るミカ。舌まで出したそれは馬鹿にしているのを隠していないが……覚えていないのは本当だと分かって、首謀者は青筋を立てる。
「ほ、本当に覚えていないのか? この私を、よもやゲヘナ等と比べたことを――」
「うん? ゲヘナに憧れて放火ごっこかな? じゃあ、叩きのめされるところまで実習しようか☆」
「貴様ァ!」
「派手に放火なんてしちゃって、テロリストに堕ちたクズは掃除してあげる……!」
この首謀者はクズでバカだと、そう一刀両断しても間違っていることはない。だが、これでもティーパーティーの一員なのだ。
バカに見えようが、頭が悪いわけではない。
――全て、計画のうちだ。
ティーパーティーの中でも規格外の武力を誇るミカ。ターゲットを彼女に定めておいてそれを知らないはずがない。
黒服から払い下げられた使いにくい超武装も、使う作戦くらいは立てられる。
この重要な時に行動を起こしたのは偶然ではない。もちろんアリウスのことなど何も知らないけど、それとは別に虎視眈々とミカの隙を狙っていた。
それは火事場泥棒と同じこと、非常事態には隙ができる。その時をずっと待っていて、今こそがその時なのだ。
「計画通りだ。……撃て!」
号令の下、それが動き出す。
「……は? 何それ、もしかして列車砲……ッ!?」
さしものミカも驚いた。なぜ彼女たちがその場から動かないのか疑問に思うべきだった。正しくは動けなかったのだ、そんなデカブツを抱えては。
4人でやっと動かせるような大砲、そもそも手で運ぶことを想定されていないそれを持ち上げた。
「今こそあの魔女に裁きを!」
「聖園ミカを、魔女を倒す鉄槌!」
「あの女は邪魔だ!」
「あの綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやるぅ!」
四人がそれぞれ恨み言を口にして、機構が作動する。ガシャン、と大きな音がして躯体が起動する。
大砲がレールの上を疾駆し砲弾を射出するのだ。
それはレールで初速を稼いだ上に、そこから88㎜の砲弾を吐き出すトンデモ兵器。デカいうえに走れば最強などと言う馬鹿が考えたみたいな暴論の上に作られたそれの威力は……天井知らずだ。
「――なッ!?」
その超威力は、ミカですら避けられない。スピードはイコールで破壊力、周辺の家を砕きながらもさらに破壊していく。
10棟ほどを瓦礫に変えて、ミカを瓦礫の底へと叩き落とした。
「うがっ……」
「ああッ!」
だが、威力が天井知らずならその負荷とて天井知らずだった。御託をほざいていた首謀者は、ぼけっと立っていただけだから涼しい顔をしているけれど。
撃った四人は、逆側の塀に叩きつけられて呻いていた。これは超威力と引き替えに使った人間すらも戦闘不能に追い込むポンコツだった。もちろん他の人間が代わりに砲身を引き上げようとも二発目は放てないほど自壊している。
「くくっ。くはははははっ! どうだ、聖園ミカ! これを喰らえば貴様とて立ち上がれまい! 貴様を倒し、私はパテル派のホストの座を掴むのだ……!」
痛みに喘ぎ苦しむ四人を知ったことかと無視して高笑いをする。
「……はあ?」
だが、崩壊した瓦礫の一つが内側から吹き飛ばされるのを見て顔色を変える。
「あははっ! あなたがホスト? 無理無理……私はナギちゃんやセイアちゃんにけっこう守ってもらったけど、二人ともあなたにはそんなことしてくれないよ。それにさ、何か勘違いしてない? ……この程度で倒されてちゃあ、パテル派のホストは勤まらない」
埃に塗れながらも優雅に瓦礫の上を歩くミカ。服の端には焦げ付きだって残っている。確かに当たっていた――のに、倒せない。
「――ヒッ! な、なぜ……あの男はあの武器ならばお前を倒せると言っていたのに!」
「あなたは勘違いしてるね。いや、ティーパーティーは軍隊じゃないけどさ。キヴォトスで本当に強いってのは武器じゃないよ。あなたさ、もしかしてツルギちゃんのことを知らなかったりする?」
「う、うそだ。だって、お前は私の策に嵌ったじゃないか!? ちゃんとくたばっておけよ! 撃ったのに倒れないなんて……反則だ!」
「ううん、まあ嵌っちゃったねえ。まったく、視野狭窄ってセイアちゃんに言われたけどその通り。こんな穴だらけの策に嵌るとか、やっぱり私も相当のおバカさん。――でも、策に嵌めてもそれで終わりじゃないのさ。”ちゃんと”当てないとね。詰めが甘すぎるよ、私にも反射神経ってものがある」
「反射神経? 当たっただろうが!?」
「当たったねえ。でも、見てみなよ。あなた達が壊したのは10棟、私が出てきたのは4棟め。避けることはできなくても逸らして威力を減衰することは出来るんだな。強い子は普通に防御力も高いけど、反射神経だって相当なものだよ?」
「まともに当たれば。……そうか、あの黒服め! 適当なことを言いやがって! だが――お前ら、撃て! 奴にはダメージが残っている! 無傷じゃない!」
「……ふうん。まだやる気なんだ?」
他の部下が一斉に銃を向ける。それを見て、ミカは嘲笑を向ける。
「遅い。一々銃を上げてから照準を定めるなんて、実戦経験が足りてない証だね。だから、こんな簡単に沈む」
そして機先を制した一斉射が部下たちを掃射した。
「はあ?」
取り残された首謀者は呆然としてぽかんと口を開けた。天と地ほどの実力差がある、それを理解することを脳が拒んでいる。
「反動で寝ちゃった子達を含めて12人、まあ集めた方だと思うよ? でもねえ、弱ければ何人居ても意味がないよねえ」
こつこつと、ミカは一定のリズムで歩き続ける。
「うわあっ!? ぎゃいっ!」
恐怖を感じた首謀者は逃げようとするけれど、その鼻先を銃弾がかすめていって首をすくめた。
今やられていないのは、いたぶるつもりなのだと理解した。
「ああ……ひっ! いいっ!? うわ……」
逃げようとしたらダメだった。では戦うかと言われれば、そんな度胸があるわけない。なのに、敵はコツコツと足音も高らかに近づいている。
「あああっ。あ――うわ……」
二進も三進も行かなくなって、泡を喰って――焦りに焦るが、この場をどうにかするようなアイデアはかけらも浮かんでこない。
謝れば、なんて外野は思うかもしれないが彼女にそんな発想はない。そんなことはあくまで”人にやらせる”ことで、自分がやることではないのだから。
「さあ、覚悟は良いかな?」
「あっ……!」
ミカが、目の前にまで来た。その首根っこを掴む。
「そこまでです。ミカさん」
それを、穏やかな声が止めた。
「……ハスミちゃん。来たんだ」
「そりゃ来ますよ。また派手にやらかしたものですね。いえ、もちろんミカさんに言うことでもないですけれど」
「もう少し黙って見ててくれない?」
「ダメです。彼女、もう気絶していますよ」
「……え? あ、ホントだ。ちぇっ」
あげる、と放り投げるとハスミがキャッチして手早く拘束して転がせておく。他の下手人も拘束していく。
「すぐに消防車も来ます。しかし、4人だけ酷い怪我を負っています。……なにやらヘルメット団でも使わないような酷い武器も見えますが」
「滅茶苦茶な威力だったよ。おかげで埃まみれ。こんな馬鹿みたいな武器を作るところといえばカイザーかな?」
「どうでしょうね。決めつけるのもどうかと思いますし、それにこれ自体は別に違法ではありませんしね」
「やだやだ。妙な武器ばかり増えちゃってまあ」
「……ところで、ミカさん。ティーパーティの中で少しばかり騒がしくなっているようですが」
「――気付いちゃうか」
ミカは目を細める。
「それに、あなたは自分で思うほど演技派ではありませんよ。心ここにあらず、と言った感じです」
「え? マジ? あちゃあ……ま、ハスミちゃんならいいか。もうすぐ動き出すよ」
「アリウス。……スクワッドが、また?」
「その上だね」
あっさりと言われて、ハスミは息を呑む。古聖堂、あれ以上の戦場が来るのかと悪い予感に身を震わせて。
「止めても、ミカさんには無駄ですね。ですのでこう言いましょう。どうかお気をつけて。私たちもすぐに駆け付けますので」
「……ふふっ。頼もしすぎてダメになっちゃいそう。でも、これは私がケリを付けなきゃいけない問題だから」
「ミカさ……」
「だから、ハスミちゃんはツルギちゃんと一緒にとっても面倒な制圧作業でもしてもらおうかな☆」
ミカはからかうようにニヤリと笑った。
「……まったくもう、ミカさんたら。頼られて嬉しいと言えばいいのか、何と言えばいいのやら」
ハスミはこれみよがしにため息をついて苦笑する。いわく言い難い感情が胸の内で渦巻くが、悪い気はしなかった。
「きっと、大丈夫だよ。先生も来てくれるはず」
「そうですね、先生も居るならまあ……」
アハトアハトと言えば、ヘルシングで婦警が撃っていましたね。アリスの光の剣と、どちらが反動が強いのでしょうか。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)