ハスミと別れたミカは、ナギサと連絡を取る。
『さて、ナギちゃん。おばかさんのせいで連絡が途切れて悪かったね。状況はどう?』
『少し、厳しくなっています』
血相を変えた。スマホからミシミシと音が鳴る。
『どういうこと? 先生に何か動きがあった?』
『いえ、先生の方はまだ動いていません。ですが、トリニティ内部でテロが起きています』
『テロ? どういうことかな。ここはゲヘナじゃない、今この時に起こるってことは』
『いいえ、マダムの仕業ではありません。アリウスとは関係のない、ヘルメット団が起こしているものですので。もっと言えば、物資援助を見返りに暴れさせているようです。マダムにはこの手口はできないはずでした』
『……こっちもそうだった』
『ミカちゃん?』
『私の家を燃やした奴も、どっかの企業のトンデモ兵器を持ち出した。マダムには企業との関わりなんてないはずなのに』
『おおよそ確定ですね。予知でもマダムを仕留め切れなかったのは、それは協力者が居たからでしょう。とはいえ、暫定――彼とでも呼びましょうか。彼とマダムは、おそらく同盟と言えるほどの関係ではないと推測できます』
『……ナギちゃん、私どうしたらいい? テロを片端から潰す? マダムに更なる戦力が増えるなんて、こんなの想定にはなかった』
『いいえ、不要です。なぜなら、それはマダムの使える戦力ではないからです。不利とみて少し協力しただけ、決戦までもつれこめば手出しをする意義はない』
『それは……えっと。どう?』
『私たちは戦力をどう出し惜しむか考えていました。アリウスの制圧が早すぎれば予知とずれますから。ですから、これは丁度いいのですよ。鎮圧してから行けばほどほどの時間になります』
『その、彼は邪魔してこない?』
『そこまで肩入れしているならば、予知でも手を出していたはずです。こちらの立場と同じく、儀式まで行ってもらえればそれだけで良いのでしょう。ご丁寧にお尻を拭いてあげるほどの関係ではありませんよ』
『そっか』
『儀式を見物したいなら見せてあげましょう。そこまでは我々も認めていますからね。暇つぶしがてら相手をしてあげることにしますよ。ミカちゃんは……ッ! 報告が』
『……ナギちゃん。いよいよ?』
『ええ。先生の行方がわからなくなりました。いよいよですね。ミカちゃんは計画通り一人で潜入して先生の露払いをお願いします』
『うん。サオリちゃんとも小競り合いをしておかないとね。それが、予知なんだから』
『どうか、お気をつけて。必ず、私も駆け付けますので』
『――先に行ってる。またね』
ミカはスマホを懐にしまう。実際、マダムがアリウスへの侵入手段が残っていることに気付いているかは分からない。
だが、確実にどうでもよいとは思っているのだ。あの女がトリニティを脅威に思うはずなどないのだから。
「今は大上段で笑ってなよ。……気付いた頃にはもう遅いんだからさ」
疾走する。
もし運命などというものがあれば、必ず錠前サオリに会えると確信している。まあ、会えなかったらそれはそれでアリウスの尖兵を撃破しつつ追いかけるからどっちでも同じことだが。
そして、定められたレールのごとく両者は衝突する。
「あはははははっ! いやいや……丁度いい時に来ちゃったみたいだね。きっぐうー☆」
薄汚れた廃坑道の上階で手を広げてミカは笑う。知っているのだ、錠前サオリはアツコを助けるためにここに姿を現すと。
「聖園ミカ……! なぜ、ここに」
錠前サオリは戦慄を心のうちに押しとどめて問う。傍らには二人のスクワッド、そして後ろに先生が居る。
この事態は想定外……というより、もはや状況はサオリの手におえる範囲を逸脱していた。作戦行動は準備が正否を決めるなどと言うが、今は何の準備も出来なかった。ゆえにこそ、これから起こるあらゆることは想定外に他ならない。
「へえ、私のことを馬鹿にしてる? 私にだってあなたたちの暗号くらい解けるもの。まあ、もうすぐ使えなくなるみたいだけど――あなたに会えたら十分だよ」
ミカは露悪的な嘲笑を浮かべている。
サオリの事情は知っている。予知で見たあれこれを考えれば、何の心構えもできていないと分かっている。ただ先生に頼るだけのこの状況で、心の中は不安で一杯のはずだ。
「待っていたと言うのか、私を」
「ううん、どうだろ。ちょっと待って来ないようならアリウスに入り込んで破壊活動でもしようかと思ってたところだよ。そうすれば誘い出せるでしょ? だから奇遇だって言ったの。運命を感じるね。それとも、誰かに操られてる……の、かもね?」
ミカは相変わらずおかしそうに笑っているが……それは気が触れたようにしか見えない。いや、もしくは怒りすぎて表情がバグりでもしたのか。
サオリとしては、こうなってしまえば自らの罪が追いかけてきたのかと歯噛みするしかない。
「操る……か。なるほど、お前は――そうだったな」
「うん?」
「我々はお前を操り、トリニティを陥れた。百合園セイア、桐藤ナギサの命を狙った。その罪を貴様に押し付けることも。なるほど、恨むのも当然だ。いや、我々の作戦は全てが失敗に終わっているのだから……顔に泥を塗られたと言うところか?」
「あはは! まあ、そうねえ――あれだけ手ひどく手を噛まれるとは思わなかったよ。しかも、何も反省せずに何度も何度も……! だからさあ、ここで潰れなさい?」
聖園ミカが殴りかかってくることについて否やはない。まあ、アリウスの作戦が何一つ成功していない以上恨みはあまり買っていないはずなのだが。
だからなかったことにしてくれと、頼むのは無駄だろうとサオリは自戒する。殴ったのだ、殴られもするだろう。
「――お前には何を言っても無駄だろうな」
目を伏せる。ああ、こんなことになっても何も不思議はない。自分たちは所詮アリウスの尖兵、悪い事ばかりをしてきたのだから。
殴られることはありこそすれ、助けてもらえることなんてない。だからこそ先生の行いは意味が分からないのだが。
「だからこそ、押し通るまで。この身体がどうなろうと、今度は……今回ばかりは失敗するわけには行かんのだ……!」
ただ黙って殴られなどしない。
助けたい人がいるのだ。そして、望外の幸運か先生の助力も得られている。ゆえにこそ、ここは相手を倒してでも先に進むしかない。
それで罪が増えようが、清算するのはこの後一人でやればいいと信じて。
「あはっ! だよねえ、そうするしかないよねえ。このキヴォトスで、
「――ミカ! それは違う。話し合えば、きっと変われる。想いを通じ合わせることができるはずだ。君は、いつだってそうしてたじゃないか!?」
「……先生。先生がそう思ってくれるのは嬉しい。でもね、一つ忘れてるよ。私は好き嫌いが激しくて――悪い子なんだよ!」
「ミカ、お願いだからそこをどいて……!」
今のミカには先生の声も届かない。ただ敵を叩きのめすために疾走する。
二回目の古聖堂、その時はスクワッドを見逃したじゃないか。とは……少なくとも神の視点で見物しているマダムはそう思わない。
なにせ、ミカは前から支離滅裂で場当たり的だった。
しかも黒服が援護のつもりでトリニティに騒ぎを起こした。これでナギサが正義実現委員会を使って儀式発動前にアリウスを制圧することが出来なくなったが、他人の目がなくなったことを機にスクワッドに襲い掛かることにも違和感がなくなってしまった。
「私は誰にも止められない!」
ミカがすさまじい脚力で跳躍する。
「どこに……!?」
サオリが目を走らせた瞬間。
「「「――ッ!?」」」
アリウスの小隊が近づいてきていた。それは実際のところサオリを、そして先生を殺すための部隊だったのだろうが。
「あはは! 甘い甘い! こんな程度の低い挟み撃ちが通じるとでも? 小突けば崩れる壁で誰を閉じ込めようって言うのさ!?」
ミカはその小隊のど真ん中に着弾、立ち上がりざまに掃射して一人残らず弾き飛ばした。……呻き声が上がるばかり、もはや彼女たちには戦意の欠片も残っていない。
「……先生、指示を頼む」
サオリとしてはそう勘違いしてくれるのは好都合と、戦闘に入る心構えを決めた。スクワッド以外は全て敵だ、減ってくれるに越したことはない。
だが、それ以上に聖園ミカは難敵だった。
「スクワッド、しかし馬鹿だねえ。私の力は知っているだろうにさあ」
実は、ミカだってそれを知っている。だから、これを見せているのはマダムに対してだ。予知の通りに事態を進めつつ、間違いが起こりえるアリウスの兵士はできる限り排除する。
手加減に関してはさあどうしようかと思いつつ、そこはアドリブだ。特に何も考えていないとも言う。
「さあ、蹂躙を開始しよう☆」
ミカが踏み込む。
「勘違い女。……全部無意味、お門違いの恨み言は他でやって」
「なっ!? っくぅ」
その瞬間にミサキのロケットランチャーが滑り込むように着弾する。油断はなかったはずだった。
なのに、気付いた瞬間には当たっていた。
「かはっ。痛い……ね、効いた。けど、この程度で――ンッ!?」
「えへへ……私には、このくらいしか出来ないので……」
当たった勢いで飛ばされた先に、ヒヨリの射撃が待っていた。しかも、この奇跡は相手の奇跡を削る。
簡単に言えば、防御力へのデバフだった。
「だけど、これくらいで――」
「塵は塵にかえるもの」
もう一度、ロケットランチャーが。相手の力量を考えれば当たるはずがない。スクワッドが精鋭であろうが所詮はアリウスのトップだ。平均点が低ければ上位陣だって大したことはない。なのに当たる。
ミカにも全く訳が分からない現象だが、覚えがある。先生の指示で戦えば面白いように銃弾が当たる。……原理も一切が不明だが、そういうものと思うしかない。
「ぐ……! 範囲継続ダメージの奇跡、でもこんなものは跳んで避ければ」
「させると思うか?」
だが、ここまで追い詰められるのであれば。2人の生徒が一つの生物のように完璧な連携を行うのであれば、3人目も。
範囲攻撃のダメージから逃れるために跳ぼうとしたその瞬間だけは無防備になる。先生の指揮が、その瞬間を見逃すはずがない。
「サオリ……!」
「私は、私の生きた意味を成すために。お前を……ッ!」
全力の奇跡を込めてミカを撃った。
「かはっ。げほっ」
ミカは力なく通路に横たわった。
「……ミカ。君は――」
「あーあ。先生にはこんな姿、見られたくなかったな。一度退いてあげる、けれど絶対にあなたのことを逃さないよ――サオリ」
ミカはバネのように跳んでその姿を消した。それはアリウスの方角、諦めていないことは間違いない。
「ミカっ!」
先生が止めるが、もうそこにミカはいない。
「リーダー、どうする? あの女、また仕掛けてくる気だよ」
「……進む。それ以外に方法はない」
だが、サオリにも選択肢はない。仲間を救うためには、恐れて立ち止まることなど許されていないのだから。
「先生、行こう」
「うん。そうだね」
スクワッドと先生は闇の中を進んでいく。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)