聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第76話 聖徒会猛攻

 

 

 先生とスクワッド一行を見送ったミカは、歩いているところからだんだん走ってそのまま敵の集団へと突っ込んでいく。

 

「さて、やっていこうか」

 

 無限に湧き出るかのような聖徒会、種々の武器を持つ亡霊たちがミカに迫る。数えきれないほどの銃口が向けられる。

 

「無限の戦力。確かに支配者の夢だと思うし、まあ私だってトリニティのホストとして妄想したことは一度や二度じゃない。……でもさ、実際に見て思うのは――これ、私には使いこなせないなって」

 

 無数の銃口を前に、欠片も怯えることなく体勢を低くして猛獣のように飛び掛かる。恐怖のない聖徒会はそのまま銃火を撃ち放つが、そのほとんどはミカの頭上を通り抜ける。

 1発や2発当たろうが、その程度に意味はない。あくまで、数で押す兵器だ。

 

「そして、それはあなたも同じだよねえ――マダム! 自分は私なんかよりずっと頭が良いとか思ってそうだけどさあ! あなたは私を後ろから刺しただけ! 純粋で馬鹿な小娘を騙すだけのその手口! たかが小悪党に、無限戦力の運用などできはしない!」

 

 猛獣のように突っ込んで敵の一人の足を掴んだミカは、そいつをそのまま振り回す。ザクロのように弾け飛び、そこに空白地帯ができた。

 手榴弾を落として更に跳ぶ。

 

「だから、こんなふうに手玉に取られるのさ! 千載一遇のこの好機を、たった一発の手榴弾で潜り抜けられちゃってまあ――なんて下手なんだろうね、マダム! 謀略家気取りの陰険おばさん!」

 

 これでサオリと戦っていた時に作られた包囲網から抜けられた。手榴弾で吹っ飛んでいく聖徒会に一瞥もせずに走るミカに、マダムは怒りの声を届ける。

 

「何を下らない! あなたは自分の立場が分かっているのですか!? 無数の聖徒会を前に、あなたは勝利することなど出来はしない! ただただ逃げ惑い、恐怖のうちに死ぬ哀れな子供でしかない!」

「あは! 逃げ惑うって? それ逃がしてんじゃん! 私をここに釘付けにできれば始末は楽だったのにね!? あなたはやっぱりマヌケだよ。あそこはサオリちゃんのフィールドだった。全ての武器が使い尽くされていた!」

 

「スクワッドなど、何も役に立たないどころか飼い主の手を噛む使えない者達です。生かしておいたのが間違いでした。そして、あれらが無くてもバルバラがあれば問題ない。……さあ、その威容を目に焼き付けなさい」

 

 配下を差し向けていたバルバラがその銃口をミカに向ける。まあ、最初から居たのだから小手調べで配下を突っ込ませる必要などなかった。

 いくら無限に湧くと言っても、意味もなくそんなラスボスみたいなことをするから包囲網を突破される羽目になるのだ。

 

「……ッ!? なるほど、完成か――転がってる武器じゃ蚊に刺されたとも感じないだろうね」

「行きなさい、バルバラ!」

 

「さてさて、ピンチって奴じゃんね☆ ちょっと気合いれよっか……!」

 

 影のようにゆらりとそびえたつ異形。リボルバーカノンとバルカン、左は一撃必殺の威力、そして右はすべてを薙ぎ払う。

 強いことは見ただけで分かるそいつが、戦線に参加してきた。

 

「……」

 

 ”それ”が声を発することもなく敵意をミカに向ける。無数のバルカンがミカに向けて放たれる。

 

「――ッチィ! くっ」

 

 弾丸を喰らったミカが後方に吹き飛ぶ。もちろん、それはサオリが向かったのとは別方向だ。そのように調整した。

 

「やりなさい! その生意気な小娘を八つ裂きにするのです!」

 

 マダムが号令をかける。バルバラの背後には蹴散らしたはずの聖徒会が再集合していた。このアリウスに無数に存在する聖徒会は、時間をかければかけるほど集まってくる。

 

「あは。脳なしは大変だよね。こんな視界の悪い中を歩かされてさ」

 

 その戦力は、広がる煙を意にも介さず突破してミカにトドメを刺そうと隊列を組んで襲い掛かる。

 吹き飛ばされたミカは動けない。……いや、べったりと地に伏せて防御態勢を取っている。

 

「――バラバラになるのはあなたたち」

 

 どおん、と凄まじい音が響く。爆発を防御するためには、基本伏せるのだ。

 

「ねえ、マダム。見てなかった? サオリちゃんが使ってたサーモバリック手榴弾を私も使わせてもらったよ。本当にいくらでも落ちてるからねえ。起爆時には離れるのも、まあ私は巻き込むように動いてたけどそこは心がけるものでしょ?」

 

 煙は炸薬だ。炸薬を空間に満たして衝撃波で身体内部を破壊する手榴弾。ミカが耐えたその爆弾だが、聖徒会に耐えられるはずはなく木っ端みじんに消し飛んだ。

 

「……小賢しい! そんなものでバルバラを倒せるなどと思いあがるな!」

「もちろん、だからこそ――私の弾は取っておいたんだよ」

 

 そして、ミカは既に走り出している。空間を満たして爆破するから、離れれば効果は激減する。さらに伏せていれば、衝撃波は上方向からしか来ないからダメージも少ない。

 傷こそ残っているが、全力を出すのに支障はない。

 

「……ッ!?」

 

 しかし、敵もさすがにマダムの切り札。サーモバリック手榴弾でも、数秒の足止めにしかならないらしい。

 ダメージを振り払うかのようにかぶりを振れば、もう隙など見当たらない。

 

「さあ、これが私の――全力!」 

 

 愛用の銃に全力の奇跡を籠めて、バルバラへと撃ち放った。

 

「――」

 

 動けない、バルバラは疑問に思う。内側に、引きこまれていくような感覚が走った。

 

「潰れろォッ!」

 

 それはまるで銀河のように、溢れた奇跡が星を描いて――更に収束する。弾け飛んだ。

 

「……オオ」

 

 どさり、とバルバラが崩れ落ちる。

 

「……馬鹿な、貴様ごときがバルバラを」

「あは。ええと……うん……」

 

 気の抜けた顔で頬をかく。

 

「何を、言いたいのですか。聖園ミカ……!」

「え? 弱いなあって。うん、隠れてるのは良い判断だったね。私相手でこれならトリニティを攻めなかったのは大正解だよ。足止めされたら、後はねえ……言ってよかったのかな、これ」

 

 ケラケラと、嘲笑ってやった。

 

「貴様ァ……! 立ち上がるのです、バルバラ! その口の減らない小娘を八つ裂きにするのです! もはや楽には殺しません。じわじわと――」

「わあ☆ 怖ぁい……じゃ、逃げちゃお」

 

 立ち上がろうとぷるぷると震えているバルバラ。だが感覚で分かるが、追い打ちをかけても意味がない。

 貴重な弾丸を撃ち尽くしてもこいつは倒し切れない。それだけの非常識な強さを持っている。

 

「逃げられると思うな、ネズミが! ここは私の領域なのです、必ずやあなたに窮極の絶望と恐怖を与えて差し上げましょう……!」

「さて――悪いけど、罠にかかってあげるほど頭の悪いネズミじゃなくてね」

 

 そもそも目的は先生の援護。バルバラを倒すのは努力目標ですらない。ただ無数の聖徒会とバルバラをひっかきまわして、決戦の場にたどり着くことさえ防げればそれでいい。

 

「さてさて、たくさん居るね。もう何体倒したのかも分からなくなっちゃったよ。呆れるほど、本っ当にたあっくさん。嫌になるねえ」

 

 ミカは逃げ惑うように見せつつも、聖徒会への襲撃を繰り返す。それをミスれば敵を処理しきれずにバルバラに追い込まれる。

 バルバラは強いが、それだけだ。強い敵が一体いて、それが何も考えずに自分のことを追いかけているのだからむしろ容易い作戦だった。

 

「とはいえ、マダム……気付いてる? 全ての兵力をもって私を仕留める。まあ、私はとってもキツいけどさ。でも、足止めするって言ってた奴に全兵力差し向ける間抜けがいる?」

 

 こんなものは終わりの見えないフルマラソンと変わらない。聖徒会が10体や20体程度であれば、アリウスに無数に落ちている武器で撃退するのなど作業と変わらない。

 

「っきゃ! わわっ。痛タタタ……もう、少しは手加減してほしいなあ」

 

 とはいえ、やはりバルバラは強く明らかにヤバいリボルバーカノンを避けるためにバルカンの方は何発も喰らわざるを得なかった。

 さすがにマダムの本拠地、テロでひっかきまわすのも簡単ではない。

 

「うぅ……痛い。疲れた……」

 

 そして、ミカは何やら見覚えのある場所にまで流れ着いた。逃げるために縦横無尽に駆けまわったら、そこにもいつかは当たる。

 そこは教室。……それも、聖歌隊室だった。

 

「でも……まだ大丈夫。聖歌隊室だね、うん、そうだった。オルガン、楽譜、蓄音機……やっぱり動かないかぁ」

 

 苦笑する。どう操作したかなど記憶になかった。適当に弄って、放置する。多分音が鳴ってくれるだろう。

 

「私はあなた達を赦すよ。けれど、あなた達の傷が癒えることを(こいねが)ったりしない。やっぱり慈悲を乞うのは嫌いなんだよねえ。だからこそ、次の機会があれば――未来を掴むのは自分なんだ」

 

「互いが公平に不幸であることよりも、ね。もっと良い結末を共に掴もうよ、サオリちゃん。私たちが本当に希ったのは、自分のためなんかじゃなかったはずだから」

 

 言葉を舌にのせて吐き出すと、心の奥底から勇気が沸き立ってくる気がする。自分の本心ほどよくわからないものもないからこそ、言葉にして初めて分かることがある。

 

「あははっ。やっぱり鳴るんだね」

 

 そして、ほどなく聖歌が響き始めた。疲労に喘いで下を向いていた顔を、真正面に引き戻して皮肉気な笑みを形作る。

 

「これは……慈悲を求める歌。あなたの嫌いな歌だよ、マダム。けれど、もうあなたには私に関わっている余裕も無くなったみたい」

 

 なだれ込んでくる聖徒会どもは、焦っているようにも見える。アリウスで暴れまわるミカにほぼ全兵力を投入していた。

 そもそも聖徒会に自分で考える頭はない。攻撃されたから反撃する、その単純なロジックを元に地の果てまでミカを追いかける。……マダムの手助けに向かうこともなく。

 

「あは☆ 何をそんなに急いでいるのかな?」

 

 だからこそ、ミカも踏ん張りどころだ。ここで自分が倒れれば、この敵たちは先生へと向かう。

 予知で見た通りならばマダムは負ける。だから、その予知を実現させるためにミカはここで敵を釘付けにする必要がある。

 

「あなた達は通れないよ。この先にあるのは、救済の戦いを繰り広げる”主人公の舞台”。私達みたいな悪役には許されていないの」

 

 宣言し、クラウチングスタートの姿勢を取る。

 

「さあ、先生――あの子たちを救ってあげて。ここは私が食い止めるから……!」

 

 バルバラはやはり強敵だ。そして、バルバラという強敵が居るからこそ聖徒会とて馬鹿にできない。

 蹴散らすために一手を使えば、その隙にバルバラが攻撃をねじ込んでくる。

 

「……ッ!」

 

 だからこそ、ヒットアンドアウェイの綱渡りを成功させ続ける必要がある。使い捨ての武器で取り巻きを蹴散らして、次の瞬間に離脱する。

 このヒットアンドアウェイに加えて雑多に集まった聖徒会への襲撃を数えきれないほど繰り返して、今まで敵を引き付けてきた。

 

 今度も、と――走る。けれど、今回ばかりは訳が違った。

 

「あ……ッ!」

 

 こけた。

 

「嘘……!」

 

 それは疲れからか。それとも、名前も覚えていないティーパーティー傘下の少女の憎悪が叶ったのだろうか。

 もしくは、現実とは物語のようにうまく行かないということかもしれない。

 

「ダメ……無理……!」

 

 無様に顔面から突っ込むようなことにはならない。無理やり筋力で立て直すことはできる。できるが、それまでだ。

 ヒットアンドアウェイの突撃力が失われたならば、それは敵の目の前で的になるのと変わらないのだから。

 

「そんな……ナギちゃん、セイアちゃん」

 

 この期に及んで決定的なミスをした。もはやここから立て直す術はない。無数の聖徒会の攻撃を喰らい、そしてバルバラがミカを始末するのだ。

 宣言通りに、八つ裂きにされてしまう。ミカが死ぬまで、常識外れの夥しいまでの量の弾丸を浴びせられるだろう。この数の敵だ、耐えて反撃など望めるはずもないのだから。

 

 だから、ミカは。

 

「やっぱり、私は駄目だったんだね。ごめ……」

 

 目から一筋の涙を流して、その瞳を閉じた。

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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