アリウスに讃美歌が響いた。それはマダムの生徒に強いた憎悪と軽蔑を否定する歌。その奇跡を潰すため、マダムはミカに最大限の攻勢をかける。
対するミカは、ここが正念場と駆けて――コケた。
「やっぱり、私は駄目だったんだね。ごめ……」
その絶望した瞬間に。
「謝らないでください」
ミカを取り押さえようと迫る聖徒会を、拳銃の弾丸が貫いていく。
「そうだ、君は謝らなくていい……!」
そして走る小さな影。バルバラは迎撃のためにカノンを振り上げて――その影が触るとボールのように撥ね飛ばされてしまった。
「ナギちゃん、セイアちゃん……なんで、ここに?」
ミカは呆然と二人を見る。信じられなかった。自分と言うものがこんなに幸運でいいのかと思ってしまうほどに。
予知はミカに深い影を落としていた。魔女と呼ばれたトラウマは、まったく治ってなどいないのだから。
「当たり前でしょう。一緒に戦うと言ったではないですか」
毅然と立つナギサ。ここまで来たのだから、自分が鉄火場に立つことに躊躇はない。唯一無二の友と共に戦うために。
「それに、私たちは親友だろう? 友の危機に呑気に寝てなどいられないさ」
かすかに微笑むセイア。諦観に沈む彼女だが、友と居ることを諦めなどしない。この世が苦界で、いつか終わるものだとしても――抗うと決めたのだから。そのための足跡こそがかけがえのない友情の証だ。
「うん……!」
ミカは涙を拭う。
「でも、危ないよセイアちゃん。病弱なんだから気をつけないと」
くすりと笑ったミカが襲い掛かる聖徒会達を掃射する。セイアはニヤリと笑い返す。
「……ふ。そんなことは、私に一度でも勝ってから言いたまえよ」
バルバラに感情はない。恐怖も感じない機械のように突っ込んできたそいつの勢いを受け流して今度は地面に沈める。
凄まじい力により地面がひび割れた。バルバラ自身はすさまじいまでの力を持っている。最強と呼ばれる生徒であっても時間稼ぎしかできない――それをセイアは子供扱いだ。
「はあ。相変わらずだね、セイアちゃん。バリツだっけ?」
「それは架空の武術だね。だがそう変わらないね。これは合気に柔道など色々織り交ぜたオリジナルだよ。一流になるには1万時間の練習が必要などと言うが、こと私に限れば時間は無限にあったようなものだからね」
その強さのカラクリを紐解けば、それは努力の『奇跡』と言えるだろう。予知の能力は未来世界を夢として垣間見ると言うものだが――その体感時間は現実の比ではない。たったの一日で数ヵ月をさまようこともあったのだ。
この世界の強者がどれだけの時間を鍛錬に費やせるか。最強と呼ばれる御剣ツルギを例にとっても業務に圧迫されて、さほどの時間も取れやしない。一方でセイアは未来世界でやることもないからと修行を続けた結果が”これ”だった。
「なりません!!」
不意にマダムの声が鳴り響く。向こうでも佳境を迎えているようだ。
「生徒は憎悪を軽蔑を……呪いを謳わなければなりません! お互いを騙し傷つけ合う地獄の中で、
これは先生と、そして苦渋を舐めさせられたティーパーティーへ対する呪いの言葉だった。
けれど両者ともに恐れはしない。信じる人と一緒だからお前だって倒せると、まっすぐに前を向く。
「黙れ」
その先生の言葉は、三人には届かなくても。
「そう、だから戦うんだよ」
「傷つけ合うよりも、手を取り合うことの方が大切なはずだから」
「――ゆえに元凶を断とう。なに、陰謀は貴様の専売特許ではない。全ての罪を押し付けて、その呪いごと闇に葬ってくれる」
戦う気持ちは一緒だった。
「よくも、私にそのような言葉をぉ――」
更に聖徒会が増殖する。バルバラも跳ね起きる。ここまでやってなおバルバラの動きに陰りは見られない。
弾き飛ばして行動を止めることは出来ても、倒すなど夢のまた夢だった。
「誰に向かってそんな言葉をほざくのかな?」
小さな影が飛び出て、盾でバルバラを弾き飛ばした。
「さてさて、誰に断ってうちのシークレットメンバーに手を出してくれてるのかね。おじさん、久々にちょっと怒っちゃったかな」
そこから銃撃、バルバラを更に後方に弾き飛ばした上に更に追い打ちがかかる。援軍で来た四人の連携が、バルバラに反撃の暇すら与えずに文字通りに削って行く。
「うへ。ミカさん、水臭いよ。大変なことがあるなら言ってくれなきゃ。……でもね、苦しがってるなら何も言われなくても助けるのが仲間ってものでしょ!」
アビドス、覆面水着団が来た。予知世界とは違う、ミカが紡いだ絆だ。巻き込むわけにはいかないと遠ざけていたのだが、勝手に来てしまったらしい。
「そして、私たちも来たのです!」
大砲の一撃が聖徒会をまとめて吹き飛ばす。
「……ヒフミちゃん!?」
補習授業部も来た。
「ごく普通の女の子の私ですが、大切なお友達のためなら相手が誰であろうと引きません!」
彼女たちはナギサに翻弄された面々で、ヒフミ以外は実際には友達などと思っていないかもしれない。そもそも少しばかり話しただけでは友達とは言わないだろう。
けれど、友達の友達を助けるのに理由なんていらないから……ここに居る。お前達を許さないと攻勢をかける。
「正義実現委員会の方々も外で頑張ってくれています! 外の聖徒会をここにたどり着かせなんてしません」
予言ではミカが一人で押しとどめた。いや、トリニティ戦力の侵攻があったから全てとは言い難いけど。
けれどここに居る戦力は、ミカがたった一人で食い止めていた。
だから、目の前の光景がとてつもなく頼もしすぎて。
「さあ、行きなよ! あの声の奴をやっつけるんでしょ」
「ここはアビドスと補習授業部が受け持ちます! ずっと悩んで、苦しんできたこと――決着をつけてきてください」
出会えたこと、そして話して分かり合えた巡り合わせに感謝する。大切な仲間は、こんなにも温かくて。
「……ホシノちゃん、ヒフミちゃん。うん、ありがとう」
一筋の涙が流れる。それは、コケた時とは別の意味の涙で。
「任せるよ、お願い」
ミカは踵を返す。
「行こう。ナギちゃん、セイアちゃん。……私たちを弄んだ運命へ、決着を付けよう」
先生とスクワッドが行った先を見つめる。
「ええ、私たちの未来のために」
「例え空虚のうちに終わるものだとしても、結んだ絆は虚しいものなどではないのだから」
三人で、走り出した。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)