聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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アフターストーリー
アフター1話 アリウスの戦後


 

 

 ――マダムが消えた。

 決戦の日、アリウスの支配者である彼女に連絡が付かなくなって……はや1週間が経過していた。瞬く間にアリウスを制圧したトリニティも、その日のうちに引き上げて居なくなって閑散としている。

 だが、手も足も出ずに簡単に制圧され、あろうことか我が物顔でアリウスをうろつかれた屈辱は忘れられない。しかも、アリウスに価値などないとばかりにさっさと去っていったのだ。たとえマダムが不在と言えど、降り積もった憎悪はなおも深くなった。

 

 上層部に位置する人間、だけは。

 

 既にアリウスのその他大勢に過ぎない生徒たちは限界を迎えていた。力を蓄えてあの日の雪辱を果たすだと? そんなことを考えているのは上の奴らだけだ。

 遺恨だの辛酸などどうでもいい、そんな贅沢なことなど考えていられない。

 

 なぜなら、下層に当たる生徒は今日何かを口に入れられるかしか考えてられないのだ。あの日にアリウスを切り捨てるつもりだったマダムのことだ、もう何も残っていなかった。

 ……まともに動くかも怪しい古い兵器が無数に転がるばかりで、食べ物などどこにもない。ぽつぽつと食料を探す元気もなく俯いている生徒ばかりが瓦礫の中でうずくまっている。

 無論、権力を持つ生徒は自分の食べる分は確保している。しかし、それも自分の分だけだ。分ければ1日分にもならないために、再興など遠い夢の有様でしかなかった。

 

 敗北して打ち捨てられた国で、浮浪児ばかりが彷徨っている飢餓地獄だった。

 

「……貴様ら、何をしている!?」

 

 肌艶の良い生徒が、がりがりに痩せ細った生徒をどつく。マダムに従い他の生徒を弾圧する、”偉い”立場の生徒だ。

 彼女たちはマダムが居なくなっても権力を振るっていた。

 

「――あ」

 

 座り込んだ生徒は殴られるまま倒れる。

 

「貴様ら、何を座り込んでいるか!? あの日の屈辱を忘れたか? トリニティは突然アリウスを進攻し、制圧した! 我々の抵抗をこともなげに粉砕し我らの土地を土足で踏み荒らしたのだぞ!」

 

 怒号を響かせる。それに理がなくても、人間は勢いと地位についていく生き物だ。それが今はいないマダムが保証したものでも、地位だけが一人歩きする。与えられたロール(役割)が本人の感情すらも歪めるのだ。

 その役割に支配されて本当にしたかったことも忘れて破滅へと邁進する。それが追い詰められた権力者というものの姿ゆえに。

 

「我らは誓ったはずだ! 復讐を! アリウスを舐めた奴らへの報復を! 必ずや――昔日に誓った恩讐を果たすのだ! そうだ、数年程度がなんだというのだ。アリウスは何百年もその機会を待っていたのだ……!」

 

 そして、踊る権力者の必定。仲間だったはずの人を、人間とも思わず切り捨てて、敵と戦う前に味方を疑って殺すようになる。

 追い詰められた状況に居る人間は、溺れて藁を掴むように手を差し述べた人間を殺していく。もはや、敵の姿さえ目に入ることもない。

 

「ゆえにこそ、我らには武器が必要だ! アリウスに残された装備を集め、復讐への足がかりとするのだ……!」

 

 その論理が破綻していることは、彼女では気付けない。集団心理というやつだ、残った偉い人間同士で集まって相談したのだから――悪い結果にならないはずがない。

 今のアリウスは追い詰められている。責任を取るべき支配者は不在で、食べ物も足りない。あるのは古い武器ばかり。

 

 そもそも、古い武器では駄目なのは分かり切っている。処分もできないから放置しているそれは、使うだけ味方が減る負債に他ならない。

 だからこそミカに頼ったのだ。武器が古いのでは、どんな精兵だって敵を倒すことはできないことは知っていたはずだから。それを使えば自滅するのが落ちだと、昔は分別が付いていた。

 

「集めろ! 我らアリウスは精兵、このキヴォトスで唯一の”人を殺す方法”を訓練した正真正銘の軍隊なのだ! 武器さえあれば負けるはずがない!」

 

 だが、溺れている者では自分の言っていることすら分からない。どうしてそんな馬鹿げたことを考えついたのか? それは、挽回不可能な状況から目を逸らすために他ならない。

 アリウスは詰んでいる。もはや未来はない、その状況を認めたくないがために目の前の落とし穴を視界から消して直進する。

 

「――ふざけるな!」

 

 だが、一人の兵が反抗の声を上げた。

 

「なっ!? 貴様、私の言うことに逆らうか? 私に逆らうということはマダムに逆らうことも同じと、分からないか!」

「そのマダムの姿はもうないじゃないか! トリニティに制圧されたあの日に彼女も負けたんだ!」

 

「な、何を意味の分からない事をほざく。マダムは健在に決まっているだろうが! いいのか、彼女はすぐに戻ってくるぞ!」

「なら、今すぐに私に罰でも与えてみせるがいい。前は、すぐに声が降って来たじゃないか!」

 

 声を荒げる生徒は銃口を口答えする生徒へと向ける。小突いてみるが、反逆の火はちっとも消せない。

 

「ぐぐぐ……反抗分子め。今すぐ処分してやろうか!」

「やれるものならやってみろ! 私のと違って状態がいい銃を持っているようだが、だけど弾はそこらで拾ったものだろ! そんな弾丸を撃てるかよ!」

 

 彼女は銃口から目を背けず、身体を逃がすこともせずに正面に立つ。そのうちに、銃を持っている方の手が震えてきた。

 

「ぎっ……貴様、本当に――マダムに、アリウスに反旗を翻すのか……!」

「さっきからそう言ってるだろ。さあ、肩を貸すから起き上がりな」

 

 反抗した彼女は、銃など無視して殴られて倒れた子に肩を貸して立たせてやる。

 

「あ。ああ――」

 

 彼女は、ストックか何かをがりがりとかじっていた。カロリーメイトか何かと空見したのだろうか。

 これがアリウスの現状だ。餓鬼のごとく、腹を空かせてうろつくばかり。

 

「ど、どこへ行くつもりだ! 止まれ!」

「もう付き合ってられない。私たちはここを出る」

 

「ふざけるな! 貴様の持つ武器はアリウスの財産だ。持ち逃げなどすれば重罪だぞ!」

「ならば返してやる! こんなの、トリニティに投降するのに邪魔だからな」

 

 銃を地面に叩きつけた。銃弾はともかく、銃はまだ使えるものだ。元を辿ればそれもミカからの支給品、弾丸の方は使い切ってしまったが。

 

「トリニティだと? 奴らはアリウスの敵だ! どんな扱いを受けるかも分からないんだぞ! 敗残兵がどのような扱いを受けるのか知らんのか!」

「飢えて死ぬより苦しいことにはならないだろ」

 

「……ッ!」

「それに、トリニティには聖園ミカが居る。私たちが裏切ってしまったけど、彼女なら……」

 

「馬鹿なことを言うな! 拷問でもされて知っていることを全てしゃべらされるぞ。……必ず、後悔することになる」

「私に話せることがどれくらいあるんだよ。一旦制圧したあと引き上げてったから、あっちに必要なものなんてもう残ってないだろ」

 

「うぐぐぐぐ……!」

「それに、スクワッドだってトリニティに降伏したじゃないか! いや、その前からエデン条約の時もゲヘナに協力を求めてた。……何がアリウスの誇りだ!? 結局、何も成し遂げられなかったじゃないか!」

 

「貴様……本当に撃つぞ! それだけじゃない、処刑してやる! まさか我らがヘイローを破壊する方法を知らないとは思っておるまいな!?」

「ふん、結局撃てないんじゃないか。撃たないなら私らは行くよ。おい、あんたら! 私たちはここから出る! 付いて来たい奴は付いてこい!」

 

 啖呵を切って、外を目指す。そいつは見えなくなるまでずっと銃口を向け続けて……撃つことはできなかった。

 

 

 ぞろぞろと後ろに付いて行く者が数人。やはりトリニティに行くのは恐ろしいようで、遠巻きに見守っている。

 啖呵を切ったその子は苦笑し、だが歩く足を緩めない。

 

「――大丈夫か? もうすぐトリニティに着く。きっと、聖園ミカなら私たちに食べ物をくれるだろう。だから、それまで耐えろ」

「ああ……うう――」

 

「まだそれを齧っていたのか? 捨ててしまえ、鉄の味しかしないだろ」

「あうう……」

 

 二人で光の下に歩いて行く。カタコンベを出ると、地上の光が眩しくて目を焼かれる。そのうちに、光の中に人影が走ってくるのが見えた。

 

「――こんにちは、アリウスの方ですね。お名前は?」

 

 優しい声が出迎えた。

 

「……天使?」

「はい? あ、私の名前はハナエです! 救護騎士団の朝顔ハナエですよ」

 

 出迎えたのはナース服姿の女の子だった。ニコニコした笑顔に、裏などは微塵も感じられない。

 

「聖園ミカ……の」

「はい! これはミカさんの希望でもありますし、ティーパーティーからの寄付も頂いていますのでご安心ください」

 

「そうなのか……」

「では、こちらへどうぞ。皆さん飢餓状態なので、最初は胃に優しい食事から召し上がってください。食べ終えましたら、向こうにお風呂が用意してあるので疲れを癒してくださいね。それが終わったら健康診断があるので受けてください。健康診断後にはなんと、ジュースも用意してあります!」

 

「え……? いや、それは本当に?」

「はい。――救護が必要な場に救護を。助けを求めて伸ばした手を振り払うなんて、したくありませんから」

 

 ハナエは彼女たちの手を取ってアリウス支援用に設営されたテントに連れていく。

 

 そして、残った僅かな警戒心も消し飛ばされるほどの歓待を受けた。もっとも、トリニティにとっては大したもてなしではなかったのだろう。

 それでも、アリウスに居た頃とは待遇が違いすぎた。

 空の胃におかゆとスープを流し込んだ。以前食べていたクズ米ではない、しっかり食感があって食べていて腐敗臭やえぐみを感じることもない。そしてシャワーを流し続けても怒られず、温かい湯にしっかり浸かって汚れと疲労を洗い流した。

 

「――ふう」

 

 いつも限界を生きていた彼女たちは目の前に降ってきた贅沢を堪能するのに夢中になっていた。

 日が沈んでようやく一息吐く余裕ができた。

 

「……ほわあ」

 

 一緒に連れてきた子は離されることもなく同じ部屋に居る。いつのまにやら用意されたホテルにまで連れてこられたことに気付く様子もない。

 経験したこともないこんな贅沢を味わい尽くすのに全神経を集中していた。

 

「すごいですねえ。トリニティって、こんなにすごいところなんだ。温かいお風呂に、あんなに美味しいご飯。それに、穴も開いてない天井! 柔らかいベッド! こんなの、マダムにしか味わえない贅沢だと思っていました」

「……そうね。アリウスの脱走兵に与えるには大層な御待遇――という訳でもないのでしょう。かわいそうな捕虜に、少しだけ色を付けた……それだけでこうできるほど、トリニティは豊かなのね。ええ、トリニティへの対抗なんて馬鹿げたことと切り捨てたけど、あいつらだってここまでとは思っていないでしょう」

 

 ちら、と彼女の方を見ると枕に顔を埋めてその柔らかさを満喫していた。

 

「おや、なんか良い香りが……すやあ」

「……? 確かに、妙な香り。けれど、不快ではないわね。――アリウスとは、大違い」

 

 口の端を歪める。苦笑だ。こんな状況でも『アリウスの兵士』として警戒せざるをえない自分の習性。そして、何をしたところで虚しくなるほどの格差。

 マダムが嫌ったもの。慈悲。”それ”でここまでしてくれるのは余裕があるから。それはそのままアリウスとの国力の差を示す。人殺しの方法を学んだ軍隊? 戦争の行方を決めるのは精神論ではなく金だろう。

 結局、アリウスごときにはトリニティと戦う手段などなかったのだ。

 

「パンフレット?」

 

 机の上に置かれたパンフレットを手に取ってみる。そこには「トリニティ入学の薦め」と書いてあった。

 

「ふふ。まさか、アリウスの兵士をトリニティに迎え入れてくれるとはな。だが、内から転覆させるだけの力もアリウスにはないか。……そもそもやるにしてもマダムが居なければ小さなアリウスが一丸となることもないだろう」

 

 そもそも降ると決めて来たしな、と一人ごちる。未来を想像できるほど教育は受けていないし、頭だって良くはない。

 だけど、こんな居心地のいい場所なのだからきっと前よりはマシな未来があるのだろうと微笑んでパンフレットをめくっていく。

 

「……む。問題集? 全然分からんが――え? これを解かないといけないのか? 勉強なんてしたことないぞ。うわ……何を書いてあるかもわからん……」

 

 ページをめくるにつれて頭を抱えた。それはトリニティに入学するためには前提として必要な学力らしいが、何も分からない。こんなものを解けるようになるのは無理があると絶望する。

 

「補習授業? あ、あの救護騎士団の人達に教えてもらえるのか。……うう。うん、がんばるしかないな……!」

 

 未来にちょっぴり暗いものを覚えながらも、しかしまあ――あの人たちが居るなら頑張れるかもしれないと苦笑した。

 

「――お前も頑張れよ。ま、今日は私も寝るとするか」

 

 柔らかいベッドに身を沈めて目を閉じる。難しいことは明日考えればいいかと思って。そして、明日のごはんはなんだろうと考えて笑みを浮かべた。

 

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

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  • セイアちゃん
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