聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

8 / 108
第8話 深夜のひそひそ話

 

 

 正義実現委員会を訪れた日の夜、ミカは自室のベッドの上でスマホを手にしていた。

 

「おはよう☆ これからお仕事の時間? 見回りは暇でしょ? おしゃべりしない?」

 

 モモトークで煽りとしか思えない言葉を送りつけていた。

 

「こんばんは。ミカさんはおやすみの時間じゃなーい? 目にクマを作って人前に立ってもいいのかなー?」

 

 送り付けられた先はホシノだった。

 彼女はアビドスメンバーにも告げずに、一人で深夜の見回りを実行していた。人気も失せた砂漠地帯だが、更に夜と来れば悪いことをやりたい放題だから。

 まあ、被害者が少ない分大したことにはならないが、それでもやるのとやらないのでは大違いだ。……それに、人が居ない分だけ音がよく響く。ただのチンピラでは、アビドス本校の近くでは悪さを働けない。

 

「ちょっと用事を済ませた後にお昼寝しちゃったから目が冴えちゃってさ。お昼寝って気持ちいいよね。私の秘密の場所、ホシノちゃんにも紹介してあげよっか?」

「うへ、トリニティに行くことがあったらお願いしようかな。行けたら行けたで、みんな、ショッピングとかに夢中になりそう。おじさん若い子にはついていけないよー」

 

「あは。ホシノちゃん、私と同い年でしょ。でもホシノちゃんはとってもかわいいし、着せ替えのし甲斐がありそう。奢ってあげるから、一度どう?」

「……トリニティこわい。トリニティこわい。おじさんは、絶対そんな魔窟には近づきませんよ」

 

「あはは。人の都市を魔境みたいに言わないでよ」

 

 そこで一旦会話は途切れる。

 

「ありゃ、アイスブレイクは終わりかな? 何か真面目な話をしようと思ってたり?」

「昨日の夜、セリカちゃんがさらわれちゃった。助けに行くため昼間起きてたから、眠くってさ」

 

 があん、と頭を殴られたような心地がした。セリカちゃんのことは心配かと言えば、どうでもいいというのが本音だった。

 というか、アビドスはそんな魔境だろう。だからトリニティに入るかと聞いたのだ。

 

 ぞくりとするような悪寒。氷柱を背中に差し込まれたかのようなおぞましい恐怖は、それが理由じゃない。

 理由は……

 

「せんせ」

「先生は無事だよ」

 

 震える手でタップができない。やっとのことで3文字だけ送って。……答えが返ってきた。

 ほっとして――ため息を吐いて。そこで気付いた。

 

「なんで私の聞くことが分かったの? 見てからタップする速度じゃなかったよね」

「だって、ミカさんの考えることはわかりやすいもの。先生は、浚われた生徒をそのままにしておける人じゃないしねー」

 

「……うん、そうだね。あは、そんな分かりやすいかな?」

「うへ。隠すつもりあったの?」

 

「あはは……」

「うん。まあ、ガールズト-クはこれくらいにしておいて。セリカちゃんを助けたときに撃破したヘルメット団でちょっと見つけてさ……」

 

「うん? 変なのでも混じってた? 有名な子とか?」

「生徒じゃなくて戦車。あいつら、Flak41を持ってたんだ。対空砲を喰らったセリカちゃん、戦闘後は保健室でおねんねしてたよ」

 

「Flak41? そんな大層なものをヘルメット団ごときが持ってたの? それとも動けば儲けものの中古をバリケード代わりに?」

「いやいや、うちのセリカちゃんが対空砲喰らったって言ったでしょ。完品で、ちゃんと動いたよ。撃破しちゃったから乗って帰れもしなかったけど」

 

「そっか。あんなの食らわされたんだねえ、セリカちゃん大丈夫? ま、私だったら弾を殴り返したけど☆」

「うへ。ご冗談を。ま、明日にはまた元気な姿を見せてくれるよ。で、その戦車だけどさ……気にならない?」

 

「ううん……ま、出所はブラックマーケットかな? たぶん違法武器でしょ。まともな整備ができるかはともかく、1日2日くらい動かすだけならどうにでもできるだろうからね。お金さえあれば」

「……それ、詳しく聞かせてもらえる? おじさんもアビドスの外にはあまり詳しくなくてさ。アヤネちゃんに調べてもらってるけど、こりゃ始めからミカさんに聞いておけば良かったかな」

 

「ま、今からでも知らせてあげて。違法武器を取引するならあそこだから、色々と情報が落ちてるんじゃないかな」

「おじさんにもう一声ちょうだい」

 

「あは、ホシノちゃんの頼みなら仕方ないね。でも、私もそれ以上のことは知らないよ。連邦生徒会長が失踪してから違法武器の流通が2000%増加したって話だし。……ブラックマーケットはとっても広いゴミ捨て場、ゴミが出て来たなら十中八九そこだけど、そこから特定するのは大変だと思うよ」

「ううん……ま、そこから先はアヤネちゃんにお任せかな? おじさんにはもうネットだの最新テクだのよく分からないよー」

 

「うん、それでいいんじゃないかな」

「ま、これでチンピラがアビドスを狙ってくる理由もわかるかもしれないし、ふんばりどころかなー。おじさんはお昼寝してるけど!」

 

「……夜の巡回のために?」

「ミカさんってば、それは言わない約束ー。じゃ、おやすみ。夜更かしするのは悪い生徒だよ」

 

 そこでモモトークの返信が止まってホシノは少し焦る。地雷を踏んだかと。

 

「――私は悪い子だし。それに……」

 

 それだけ返事が返ってくる。本当に地雷を踏んでいたらしい。

 

「うへ。ま、そっちはそっちでがんばって。チンピラの件が解決すれば後はアビドスの問題、先生もトリニティに行く余裕が出るはずだから」

 

 返して……やっぱり返事は返ってこない。

 

「じゃ、じゃーね。ミカさんも先生に会いに来るならチンピラとかに気を付けてね!」

 

 終了した。スマホをしまって巡回に行ってしまったのだろう。まあ、耳を澄ませた上で画面を注視していたながら作業。逃げたといった方が正しい。

 

 ミカも、スマホをしまう。

 

「……どうしよう」

 

 ”先生がトリニティに行く”。それを聞いて思考が止まった。先生がトリニティに来てくれる、それはーー嬉しいはずだった。けれど計画を頭の中でうまくつなげることができない、不安ばかりが渦巻いて未来を描けない。

 どちらにせよ補習授業部のためには呼ばなければならない。そうでなければアズサが『平和の象徴』になれない。彼女の心を開くためには必要なことだ。

 

「――だけど」

 

 そう、だけど。思い出すのは未来の記憶。あの時に思い出した未来の一片。とても苦しくて、涙が出てしまうけど……それを思い出さない訳にはいかない。

 それに、あれは誤解だった。セイアちゃんは私のことを許してくれると知ってはいても。

 

「ミカ……君のせいだ。君が……先生を連れてきてしまったせいで……」

 

 そう言った。

 

「セイアちゃんは、私を許してくれる。今は、ミネちゃんが守ってくれてる。生きてる、生きてる……!」

 

 言葉に出さなければ心が砕けてしまいそうだけど、折れてはいられない。

 

「先生が……でも、先生でも……」

 

 先生が来てくれれば、セイアもナギサも救われる。そのはずだ。だけど……アビドスは先生が来てくれるだけでは”何とかなって”はいない。

 砂嵐は相変わらず襲ってきている。チンピラも相変わらず襲ってきている。撃退できているだけだ。

 

「先生にも……限界は……ある……!」

 

 そうだ、本当に何でもできるわけじゃない。凄い力を持っているけど、できないことだってある”大人”だ。

 彼を、トリニティに呼べば。”本来”より早く呼び寄せれば?

 

「駄目……! セイアちゃんは先生をトリニティに呼んではいけないって言ってた。そういうわけにもいかないけど、早めるわけには行かない」

 

 断腸の思いだが、それは仕方ないことだった。未来を知ってしまうと、歴史を変えるというのはとんでもない決断力が必要になる。

 何か悪いことが起こるかもと、及び腰になってしまう。ただでさえ、間違えて間違えての繰り返しだったのだ。自分の判断に自信が持てるわけがない。

 

「先生が早めに来てしまえば、それだけ”彼女”に先生を狙うチャンスが増える。あの時、でなければ……!」

 

「うん。先生を呼ぶのは補習授業部の時で。そうじゃなきゃいけない。本当の敵は錠前サオリじゃない。サオリを操る”彼女”――あいつを倒すためには、記憶通りに計画を進めないと……!」

 

 血を吐くような思いだった。そんなことはしたくない。そして、ミカはしたいことをして生きているような人生だった。

 セイアを殺してからは歯車が狂ったけれど……そこは共通した部分だった。でも、それは捨てなきゃいけない。

 

「……魔女、かあ。うん、やっぱり私は魔女なのかもしれないね。これは償いの機会かもしれないけど、やり直しじゃないんだ。――セイアちゃん、ナギちゃん。ごめんね。でも、後で絶対、先生が助けてくれるから……!」

 

 ぽろぽろと涙がこぼれる。歴史通りにものごとを進める、それはどんなにか心が痛いだろう。セイアを探す行動もしているが、それもやめなければならない。

 会うのは、記憶をなぞったあの時にやらないと。

 

 目を覚まさないとしても、ただ一目でも会いたかった。でも……

 

「そんなことも許されないんだね。……そうだね、サオリ。私たちは厄病神で、大切だったはずの人を不幸にしてばかりで。――それでも、死んでほしくないから戦うんでしょう? ねえ、サオリ」

 

 泣きはらした目は真っ赤になってる。鏡を見れば魔女の顔が拝めるだろう。だが、やると決めた。

 大切な人のために、何をしてでも歴史通りに進める。必ず、ナギサとセイアを救うために。

 

 かすかにひっかかることがある。そう、あれはセイアが言っていた。

 

「未来を知る、というのは呪いの一種に等しい。予言者は言ってみれば運命の奴隷なのだ。そのようになるべきが未来であるのだから、当然かもしれんだね。殉教者のごとく痛みを背負ってなお茨の道を歩まねばならぬと、その者は知っているのだ。その苦悩はいかほどか、殴れば全てが解決すると思っている君には分かるまい……なあ、ミカ」

 

 一つ、嘆息して。

 

「相変わらず、セイアちゃんはよくわからないことを言うよね。でも、大好きだよ……必ず助けてあげる。……だから、私のことを許してね……!」

 

 覚悟は決めた。後は、実行していくだけだ。

 

 





 セリカのメイン回はありません! ブルーアーカイブはキャラがいっぱい居るにもかかわらずキャラが立っていて良いですが、さすがにSSではごちゃごちゃしすぎるので存在感を消します。
 ホシノと、あと一人くらいノノミを(恋の)ライバルキャラとしても良いかと思いましたが、ノノミは口調の☆が被ってる……! そういうわけで、ノノミもぽい。
 信頼できない大人から、頼れる大人の人になって思いをよせるホシノ。そして対するは自己主張が激しい癖にすぐ私なんかがと言い出すミカ。たぶんこのミカは浮気しても、私なんかに構ってくれるだけで私は幸せだから……と口では言いつつ悲しい顔をするんですね。そして、キス一つで機嫌を直してくれる安い女。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。