トリニティを騒がせたアリウスの陰謀、その決着を付けて数日後のこと。
ミカはアリウスの出口で脱アリウスをした兵士たちを待っていたのだが、1日で飽きてその場は救護騎士団に任せるようになった。
実際、他に仕事があってずっとそこに居るわけにも行かなかったのだが遊びに出かけているあたり言い訳でしかないだろう。
「やっほー、ホシノちゃん。待った?」
「うへ、ミカさん。こんにちは……今日は悪いね」
とある駅で二人は会うことになっていた。遅れて来たミカがホシノに声をかけて、声をかけられたホシノが苦笑する。
なにせ、ミカは髪型を変えた上にしゃれた帽子にサングラスまでかぶっている。妙なことで有名になったものだから、アイドルのように身バレ対策が必須なのだ。……不倫などと噂になっても困る。
「ううん。声かけたの私だしね☆ トリニティに新しく出来た水族館の視察用にチケットを貰っちゃったから。まあブッチしちゃっても良かったけど、せっかくならホシノちゃんとゆっくりお話してみたいなって」
「……よく私が水族館が好きなの知ってたね」
そこらへんの事情はホシノも知っているので、流しておしゃべりに興じる。互いに重かったり重くなかったりする国家機密を抱える身だ。
胸を張って友人とは言えるけど、じゃあ互いのことを知っているかと言うと微妙な関係。だから、今日はデートのようなものだ。
「あはは。おしゃべりな後輩ちゃんを持ったものだね? トリニティだと大変なことになってたよ」
「なんか闇を感じるなあ。……漏らしたのはアヤネちゃんかな? それともセリカちゃんがぽろっと?」
「ううん。ノノミちゃんだね」
「――ああ。そっか、うん……気を使わせちゃったかな」
ホシノが苦笑する。よりにもよってそこだとは、少し気分が重くなった。自分が上げた二人なら茶目っ気で済むが、ノノミではお願いしたも同然だ。
最近ちょっと気分が落ち込んでいるようなので……などと言っている姿が目に浮かぶ。
「気にしない気にしない。どうせ今日のチケットはタダだし☆」
「あはは。そういうのを聞くと、ミカさんは本当に偉い人だったんだって感じるよ」
「いや、ホシノちゃんだってアビドスの生徒会長じゃん」
「いやいや、私は副会長だから違うけど」
「……あ、うん。ま、そういうのは今日はいいや。もっと女子高生らしい話をしようよ。どんなクラゲが好きかとかさ☆」
「そうだね。ホームページの目玉になってるチョウクラゲって知ってる? おじさん、今日はそれ見たいなって」
「なにそれ? ちょうちょみたく飛ぶの? 海の中で」
「もちろん海の中に決まってるよ。袖状突起と呼ばれる袖のような部分でね、蝶が羽ばたくように動かして力強く泳ぐんだよ。でね、この袖状突起には黒褐色の斑点がある個体もいてねえ、今日は見れるかなあ。ああ、光るって言ってもクラゲの光り方は二種類あってね。このチョウクラゲは櫛板っていうのを持ってるの。そこに光があたると反射して虹色に光って、それが綺麗なんだ。あとは生物発光って言って、自分で光を作り出せるクラゲも居るよ。体内に発光細胞っていう特殊な細胞があって、それが化学反応を起こして光るんだよ。光るのはありがちだけど、やっぱりこれがまたすごいんだよね。なんで光るんだろうって考えちゃうけど、敵から身を守るためとか、仲間とのコミュニケーションに使われてるんだって。それだけじゃなくて、クラゲはゆっくりした動きも素敵だよね! まるで夢の中を漂っているみたいな……」
「――うえ? あ、ああ。そうだね」
「ん? どうしたのミカさん」
ミカは宙を仰ぎ見て、ホシノちゃんってクラゲのことになると滅茶苦茶しゃべりだすなあと口の中で呟いた。
「……さ、行こ。解説は現物の前でやってくれると嬉しいな。あ、それと好きなクラゲとか言ったけど私はクラゲの種類なんて知らないよ。ええと、今から行くところにいるのがチョウチョクラゲだっけ?」
二人揃って歩き出す。特にべたべた触れあったりもしない、友達の距離感だった。これがナギサならくっついてくるし、面白がったセイアもしなだれかかってくる。
「チョウクラゲだよ。他にもたくさんクラゲが居るし、サメだって居る。あと、たくさんの魚が泳ぐのをトンネルの中から見れたりだってするんだ」
「そういえば、なんか開店記念で特別展示があるんだって?」
「うん。伝説の雷イルカだって」
「イルカ? 電? どっち?」
「雷を放つイルカらしいよ。雷に撃たれるとその日一日幸運に包まれるとかなんとか」
「そのショーってけっこう遅い時間じゃなかったっけ?」
「……19時からスタートだね」
「あ。でも5時間は時間をつぶす必要があるのか」
「まあ、そこはそういうものだってことで。うん、着いたね。さすがトリニティ、建物もご立派。さ、お望みの通り現物を前に解説してあげますよ」
「うん、お願いね☆」
適当にだべりながら歩いて行くと水族館に着いた。そこは言葉の通りに豪勢で、丸一日かかけても回り切れないほどに大きかった。
そして、大興奮するホシノを微笑ましく見守りながらその解説を聞いて順路を巡る。まあ、ミカとしては水生生物などに興味はないのだ。それでも、友達の知らない面を見ながら一緒に巡るのは楽しいものだった。
ホシノの方はもう言う必要もない。時間も忘れて子供のようにはしゃぎまわりながら、飼育員顔負けの解説をして巡っている。
「ねえ、ホシノちゃん。お腹空かない? もう18時だよ」
「え? もうそんな時間? まだ14時とかだと思ってたのに」
「いや、待ち合わせが13時だからそれは盛りすぎ」
「じゃあレストランでも……混んでそう」
「あ、あっちに屋台があるよ。歩きながら食べよ」
「――はしたないなあ」
「そんなことやったらナギちゃんに怒られるから、今がチャンスじゃんね」
「あはは。まあ、私もそんな姿は後輩には見せられないしなあ。……やっちゃう?」
くすくすと、二人で悪い事をして笑い合う。こういう悪友じみた行為がこの上なく楽しかった。
「あ、クレープ見っけ」
「いや、手にたこ焼きまだ持ってる……」
「かわいいベビーカステラ!」
「これ、二人で分けてるけど食べきれなくなるんじゃ……?」
「魚をまるごと揚げてハンバーガーに? 面白そう!」
「クレープの次にたこ焼きでベビーカステラ、それでハンバーガー? ちょっと待って、おじさんお腹いっぱいになりそう」
「おやおや、ホシノちゃんは食が細いなあ。もっと食べなきゃ大きくなれないぞ?」
「……くう。反論できない……でも、屋台ものは油がきつくておじさん胃がもたれるんだよう」
「え? ホシノちゃん、本当におじさんだったの?」
「その本当に心配してる顔が傷つく……」
「ああ、ごめんごめん。あ、次は唐揚げも悪くないね☆」
「ミカさん!?」
そんなこんなで食べ歩きを続けていると19時に近くなってきたので、ショーの場所に移動する。
広いステージと、輪をかけて巨大な観客席。前の方は客でごった返していた。
「……あれ? なんかざわざわしてるね。ショーが遅れるのかな」
「いや、これは違うね。――荒事の気配だ」
「おやおや、ホシノちゃん歴戦の戦士って感じ。でも、関係ないんだからここの人に任せれば? ま、伝説の何とやらが見れなかったのは残念だったね」
「けれど、雷イルカを何のために……? 売るにしても美術品じゃないんだから、そんな特殊な伝手を持ってる犯罪者なんてそうそう居るはずないのに」
裏のバックヤードに耳を済ませていると「食べる」だの「美食」だのが聞こえてきた。
「……美食。……ゲヘナの美食研究会かな。言われてみれば、薄汚い気配を感じるような」
「雷イルカを食べる? どんな生き物でも、死んだら終わり。貴重な生き物を食べてしまおうだなんて……許せない」
二人、目を見合わせた。理由が違っても、許せないと言うことだけは同じだ。そして、理由は合わせる必要はない、友達だから。
「――やっちゃう?」
「やろう!」
「じゃ、はい」
「え? 紙袋?」
「正体バレても面倒なだけでしょ?」
「うへ、じゃあやっちゃおうか。ダブルファウスト」
さすがに異常が伝わってきたのか客席までざわめきだす。その中を紙袋を被って顔を隠した二人が跳躍してその頭を飛び越えてバックヤードに突入する。
「……うわ、増援!? って、なによコイツラ。紙袋被った犯罪者が来たわ!」
顔も隠さずに雷イルカを盗もうとしている犯人達を発見。顔も隠さずに強盗してる犯人が犯罪者などとおかしなことを言う。
だが、それなりに場数は踏んでいる。驚くのもそこそこに、すぐに銃を向けた。
「犯罪者はあなたたちでしょ? ゲヘナども……!」
突入したミカは後から抜いて、銃を向けてきた者――ジュンコを射撃して倒す。後の先とかけったいなことではなく、ただ迷いのなさと肉体性能の暴力だった。
「びえぇーん! こんな落ち!?」
とりあえず一人は倒した。だが、倒れたそいつを置き去りにせっせと水槽を運び出す残った三人。
先に落としたジュンコ以上に犯罪に手慣れている。
「あなた達の目的は雷イルカでしょ。やらせないよ」
ホシノが当てないように威嚇射撃をするが。
「ふっふっふ! あなた達はこの雷イルカを守るのが目的! けれど、私たちを撃って水槽に穴が開けばイルカは死んでしまいますわ!」
「でも、さっさと締めないと私たちも逃げにくいのでは?」
「愚問ね! 私たちは美食研究会、締めたてをいただくのがもっとも美味しいに決まってますわ!」
「じゃ~ね~」
「くっ」
ホシノが歯噛みする。ギャグ集団にしか見えないのに意外とガチだ。この水族館の関係者も何とか二人が来るまで持ちこたえていたが、しかし今はダウンしていて彼女たちを追う戦力は残っていない。
このまま逃がすしかないのかと見送る、その横で。
「待ちなさい! この子がどうなってもいいの!?」
ミカがジュンコを人質にした。今は紙袋を被っているから、どっちが悪者が分からない構図だった。
「――仕方のない犠牲ですわ!」
「えええッ!?」
しかし、容赦なく見捨てた。――その瞬間。
「そりゃあ☆」
「ひィっ!?」
ミカはジュンコを砲弾代わりに思いっきり投げる。
「なァッ!? 邪魔ですわ、こっちに来ないでくださいまし!」
「わああああ!? 受け止めてよ! ぎゃん!」
水槽を持っているというのに見事に避けてみせたハルナ。だが――
「やっぱりボスの目が塞がれると何もできないよね。ねえ、3年生の鰐渕アカリちゃん……?」
「うそ。しまっ……!」
それは囮。相手の行動を潰し、最高峰に位置する戦闘力で最短距離に突っ込めば敵は居ない。
懐に潜り込み、腹に複数の銃弾を叩き込んでアカリを撃破した。
「なら! デラックスチョコハンバーガー!」
懐から取り出したハンバーガーを一口で丸のみにして、イズミが奇跡で自らにバフをかける。
こうも一瞬ではハルナの対応も期待できない。自分がやるしかないと、水槽を手から離して迎撃を試みるが――
「軽いねえ。……トリニティを舐めないでほしいなあ」
弾丸を受けてなお小揺るぎもしないミカ。お返しとばかりにイズミに向けた銃に、寒気がするほどの奇跡が集まっていく。
「お、お腹が空いてきたからちょっと失礼……」
「していいと思ってる?」
文字通りの一撃必殺を受けてイズミは沈んだ。
「……うへ。ミカさんはやっぱり滅茶苦茶するなあ」
一方でホシノはと言うとミカがジュンコを投げた瞬間にスライディングの要領で水槽をキャッチしていた。
三人でやっと持っていた水槽でも、一人で支えられるくらいには鍛えている。とはいえ、水槽を持っていると戦力外なのだが。
「あらあら。ええと、実はわたくしこの方達に脅されて――」
「そんな下手な嘘が通じると思うの? あなたのことは知ってるって言ったでしょ、黒舘ハルナ」
残ったハルナは降参とばかりに両手を上げていた。
「……ふう。では、お優しくお願いしますわ」
「うん、いいよ☆ ファウストβが赦したらね」
「え? じゃあそっちがα? まあ、なんにせよ――反省しなさい」
その場にゆっくりと水槽を下ろし、ショットガンを構えなおして発砲した。
「きゃいんっ!」
ハルナが倒れ、騒動は収めた。
そして、二人は何食わぬ顔で客席側に戻ってきた。
「さて……準備が整うまで、もう少し待ってよっか」
「そうだね。まったく妙なことになっちゃったけど、終わり良ければすべて良しかな」
この後、雷イルカのショーを見て帰った。なお、どちらも雷は当たらなかった。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ミカ(二冊目)