ある日、ヒフミは困っていた。
「ああああ~。どうしましょうどうしましょう。ハナコちゃんはシスターフッドに呼び出され、コハルちゃんは正義実現委員会の仕事があるとのこと。これではメンバーが足りませんよう」
人目もはばからず、路上で泣きわめいていた。
「問題ない、ヒフミ」
「……アズサちゃん?」
「私が3人分になる」
真面目腐った顔で、ベースとキーボードを抱えている。もしや、これでマイク担当もやるつもりだろうか。
「ああああ~。これでは、ペロロ様に申し訳が立ちません~」
頭を抱えた。
「おやおや、そこに居るのはヒフミちゃん。どうしたのかな?」
声をかけてきたのは。
「その声はミカちゃん。……ミカちゃん?」
「あはは。有名税って大変だよね。人気過ぎて困っちゃう☆」
帽子を被ってサングラスをかけたミカだった。それに、横に居る人物も同じ格好をしている。
まあ、有名な理由が理由だが。トリニティの市民達、その一番の関心はナギサとミカに複数人の大穴を交えたどろどろの恋愛模様にあるのだから。
「あ……ナギサ様も居たのですか」
「ええ。なぜかミカちゃんと一緒に出かけたりすると噂を立てたりする方が多いのです。そればかりか、むしろ他の方とご一緒していると……その……殺気が立ったり……」
なお、一番苦労しているのはナギサだったりする。まあ一番気にしいではあるのだが、ホストだけあって陰謀論の主にするのは恰好の立場であるため悪く書かれることも多い。監禁だとか、人に襲わせたりとか。
「ナギサ様も苦労しておられるのですね」
「ヒフミさんも、他人事ではないはずですが……」
ナギサは同情の視線のヒフミにじと目で返す。噂の2大巨頭はナギサとミカだが、三つ巴となるとヒフミとセイアが対抗馬なのだ。
「なんの事です?」
だが、ヒフミはあくまできょとんとした顔でまったく自覚がなかった。
「あはは。心強いボディガードが居るからかな? いや、考えてみると前からヒフミちゃんってステルス性能高かったよね。ねえ、色々してた私より暗躍の才能があったりしない……?」
「何を言ってるのですか、ミカちゃん? ヒフミさんにそのようなことをする理由がありませんよ」
「……いや、まあそれは良いとして。で、ヒフミちゃんは何に悩んでたのかな?」
ああナギちゃんってヒフミちゃんのことを妄信してたよねと苦笑して、話を逸らすために元に戻した。
「聞いてくださいよ。お二人とも。……お二人とも?」
こっくりと首を傾げるが、良いことを思いついたとばかりに手を打った。
「どうかしたのですか、ヒフミさん」
「ううん。少し嫌な予感がしてきたかも。ま、でも面白そうかな」
私に任せてくださいと自慢気なナギサと、苦笑しつつもからかうように笑うという器用なことをやっているミカ。
「ミカちゃん、ナギサ様! 私と一緒にライブしてください!」
「……え?」
「あはっ。いいよ、手伝っちゃう☆」
「って、ミカちゃんはそんな気軽に請け負って。演奏ともなれば練習と入念なリハーサルを積まなければならないのですよ」
「あはは。そんな弱気にならなくてもナギちゃんはうまいこと演奏できるって。今もピアノのお稽古は続けてるんでしょ」
「まあ、手習い程度には。それでミカちゃんは何をするつもりなんです?」
「自慢じゃないけど、私って声綺麗って褒められるんだよねー。それにカラオケだって99点取ったことがあるんだよ」
「……カラオケの採点方法は別に上手下手が反映される訳ではなく、機械独自の基準を守った歌い方ができるかどうかにかかっていると思うのですが」
「ああもう、うっさいなー。で、見たところヒフミちゃんはギターね。私は歌うとして、アズサちゃんは何だったの?」
「私はベースの練習をしていた」
「じゃ、ナギちゃんはキーボードじゃんね。丁度いいじゃん」
「いえ、ピアノとキーボードは違う楽器ですからね。まあ、手習い程度ならば弾けなくもないでしょうが――」
「で、ヒフミちゃん。曲は決まってる?」
「はい。すぐに演奏の時間なので……行きますよ!」
「えっ!? 話が急すぎませんか? それに、準備が全く足りていませんよ」
「あははっ。ナギちゃんがあたふたしてる~♪」
「よし。では、いざ戦場へ」
「アズサさん? 私、まだ覚悟が出来ていないのですが……」
引きずられるように連れていかれてしまった。
「って、演奏だと言うからなんだと思えばお遊びではないですか」
ナギサがため息を吐く。連れてこられたのはデパートの屋上、即興のステージとテープで作られた野ざらしの観客席だった。
「いいえ。例え前座であろうと、私は魂を燃やし尽くす勢いで盛り上げて見せるのです」
「そうそう。ちゃんとしたコンサートの舞台じゃないけど、たくさんの観客が見に来てくれてるんだよ」
「……そう、ですね。なんだか見たことのある気がする方も居ますし。トリニティの生徒も何人か来ているのでしょう。まあ、こんな開けた場所では音響の良し悪し以前も問題。技術がどうのよりも、ただ騒げれば良いレベルでしょう。ええ、覚悟を決めました。まあ、ミカちゃんの歌声もあれば聞けない曲にはならないでしょうから」
「長い長い。こう言うのは理屈じゃなくて、場の雰囲気で楽しめばいいんだよ。……ヒフミちゃん、アズサちゃん。準備はいい?」
「もちろんです」
「常在戦場、常に心構えは出来ている」
四人でこくりと頷き合って。
「では、次はトリニティ総合学園から参加の『ペロロ大好き』さんです!」
「行きましょう!」
「え? ちょっと待って。そんなダサい名前にしてたのヒフミちゃん?」
「……まあ、細かいことは気にせずに。行きましょう、ミカちゃん」
こけた振りをするミカを放って三人はステージに上がってしまう。
「ああ、もうめちゃくちゃだよ。でも、ま――それもらしいか」
くすりと笑って、先に歩いて行った仲間を追いかける。
「さあ、私の歌を聞けえ!」
それは技術もへったくれもない勢い任せのライブ。そもそも教養のあるナギサも、数分前に聞いたばかりでは準備もできずに真価を発揮することは難しい。
それでも、楽しかった。その楽しさは伝染するように観客にも伝わり――
大成功と言えるほどに盛り上がった。
「うーん、色々と音程どころか歌詞ミスった。これ、録音されてたら顔から火が出るかも☆」
「……いえ。それはない……でしょう。……と思いたい……」
その後、関係者用の席で後に続くライブを見ていた。ミカとナギサはそのライブを聞き飛ばしながら語り合う。
ヒフミとアズサは演奏が終わっても元気で、物販の方に飛んで行った。
「今のご時世、誰かがアップしちゃうんじゃないかなあ。ま、正体がバレなきゃいいけどね」
「別に私たちは生徒会長であってアイドルではないので……」
数分で終わるたった一曲。それでも凄まじい体力を消耗して汗もかいている。まあ、消費した体力だけが原因ではないけども。
上気してほんのり赤くなった顔で、二人並ぶ。
「でも、なんかそれっぽく思われてない? というか、最近のトレンドじゃないかな。アイドル大統領……ゲヘナはもうそんな感じでしょ。あそこは衆愚政治だからかね?」
「選ばれ方が違ってもそんなロールが求められるようになるのでしょう。向こうが歌って踊れるなら、こっちも受けて立たないといけませんからね。投票で選ばれる訳でもないホストとて、民意は無視できません」
「むしろ私達から圧かけちゃう? セイアちゃんも巻き込んでアイドルユニットやろうよ☆ 万魔殿なんかにピアノ弾けるような教養はないでしょ」
「……セイアさんが聞いたら面白がりそうです。ですが、これ以上仕事は増やしてほしくありませんね。今は私がホストなのであなた達以上の仕事を担当していますが、いずれミカちゃんにもその番が回ってくるのをお忘れなく」
「――私の番、かあ。そうだね。……あるんだよねえ、それ」
思ってもみなかったことを言われて、ミカが遠い目をする。本当に、思ってもみなかった。それを回避するために努力してきたはずなのに、いざ達成すると何をしていいやら不安になってくる。
「ミカちゃん?」
「え? あはは。今でも手が攣りそうなのに、これでお仕事増えられると窓から投げ捨てたくなるなー☆って」
「別にやってもいいですが、倍以上になって帰ってくるだけですよ」
「この世は本当にままならない……!」
動揺を悟られないように、あえてコミカルに大げさに嘆いて見せる。
「はいはい。あ、ヒフミさんのお目当てが来るようですね」
知ってか知らずか、ナギサは話を変える。ナギサの視線の先を追うと、いつのまにやらヒフミとアズサが最前線に詰めかけていた。
「ああ、うん。ペロロとやらのライブね。これだけだと盛り上がりに欠けるから、前座に有志のライブを募ってたのが今回の顛末だったって訳だね」
「ええ。まあこうして雑談しても誰の耳にも入らない程度には皆さん熱狂しているようなので、成功と言って問題ないかと」
「いや、前座ってヤじゃない? やるなら本命でしょ」
「……本命を張るなら、事前に練習したいところです。それに、そんなイベントを二人でやればセイアさんが頬を膨らませますよ」
「かわいいじゃん、ハムスターみたいで」
「機嫌を取るのは私ですから……」
「ま、これで終わりなんだし――せっかくだからナギちゃんもペンライト振ろうよ」
「ペンライト? これはどう使うんですか」
「さあ? あんな風にじゃない?」
指し示した先では、ヒフミが踊り狂っていた。
「なるほど、アズサさんのように曲に合わせて振れば良いのですね」
「そっちに行っちゃう? ま、私もさすがにあそこまではっちゃけられないかなあ」
ライブを堪能して、それぞれ帰路に着くのだった。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)