ある日、ミカがほっつき歩いていると。
「……うわ」
何かを探しているらしきミネ団長を見かけてしまった。いや、言い訳ではないが適当に歩いているだけでもミカは仕事になるのだ。
たった一人でも一つの組織を壊滅させてしまうほどの戦闘力を持ち、しかもそれが作戦行動ならどこにスクワッドが隠れているかも分からない。ティーパーティーに反抗する組織から見れば、FOEに等しいだろう。要するにラスボスが歩き回っているのだから、悪だくみどころではない。
「ううん……」
これがツルギあたりであったら絡みに行くのだけど。けれどミネ団長の思考回路はミカにとっても、それどころかナギサやセイアにとっても想像の範囲外だ。
本人に悪意はないのだけど、そのよくわからない正義感――救護とやらからどんな行動を起こすものやら分かったものではないので二の足を踏んでしまう。
「ま、私も暇だったしねえ」
少し苦笑を浮かべてそちらの方に歩いて行く。
「やっほー、ミネ団長。お散歩? 今日は散歩にはちょうどいい日和だよね。ま、でもちょっとお日様が強すぎて日差しに注意かな。私は帽子被ってるけどね」
「……ミカさんですか。いえ、私は救護の最中です」
「へえ。あ、そうだ。アリウスのことありがとね。他の子達は今もあの子たちのお世話をしてくれてるのかな。大変でしょ? 先生もたまに応援に行ってるけど、頭悪くて」
「そのように言うものではないですよ。アリウスという劣悪な環境に置かれて勉強どころではなかったのです。その遅れを取り戻している最中なのですから」
「あはは。ま、そうだね。あの子達が一日でも早くトリニティに馴染めるようになることを祈ってるよ。……そう言えば、ヒフミちゃんとアズサちゃんも手伝いに行ってるんだっけ? ま、サオリちゃんの方は自分のことで手一杯だけどねえ」
とりあえず、話したいことは終えたとばかりにきびすを返して振り向きざまに手を振って去ろうとするミカ。
「お待ちください。実は――」
そして、逃げるのに失敗したと舌を出すのだった。
「実は救護騎士団にSOSが届いたのです。この地区に監禁されている方が居るのだと」
「……ええと、イタズラ電話じゃない? それが本当なら正義実現委員会にかけるでしょ、普通。救護騎士団にかけるとしたら身内くらいじゃないかな」
「はい、電話をかけてきたのは聞き覚えのない声でした。確かにイタズラの可能性が大きいことは認めます。ですが、信じるのが救護だと思っておりますので」
「……へえ、そっか。頑張ってね」
「――」
「……あ、そうだ! 私、この後会議が入ってるんだった。ちょっと走らなきゃいけないかなー?」
じっと見つめるミネ団長を置いて今度こそ逃げようとした、その時に。
〈ドドン。ズズズズズ……〉
凄まじい爆発音が連続して響いた。続いて地響きのような音が響いてくる。
「これは……爆弾!?」
「それだけじゃない。けっこうな威力だよ、これ。――ビルが崩落する!?」
音の方向を見ると、今にも折れて崩れようとしている10階建てのタワー。しかも商業施設だった。
中から客が我先にと逃げ出しているが、2階から上はとんでもなく危険な状況になっている。この崩壊は、巻き込まれれば怪我では済まない。
「――救護が必要な場に救護を!」
ミネがまったくためらうこともなく、周囲の人だかりを飛び越えてそのタワーの中に入っていった。
「おやまあ、若いことで。ちょっとナギちゃんにあのビルを調べてもらおうかな。ああ、それと……救護騎士団は――アリウス用の施設だから遠いね。正義実現委員会の子達をかき集めてもらおうかな」
ふう、とため息を一つ吐いて矢継ぎ早に電話をかけていく。
しばらく経つと。
「ミカさん、そこに居るなら受け止めてください!」
出し抜けに叫び声と、そして悲鳴が聞こえてきて――
「は!? なになに? って、こんな無茶苦茶……!」
まるでボールのように被災者を投げてしまった。放物線を描いて飛ぶそいつを受け止めなければ、酷いことになってしまっただろう。
それこそ、ビル崩落に巻き込まれた方が良かったかもしれないレベルの怪我を負ってもおかしくはない。まあ、どちらにせよ死にはしないのだが。
「ああ、もう! 少しは相談してほしいなあ!」
だが、まあ――その戦闘能力も強靭な身体能力任せのミカだ。なんなく空中でキャッチして被災者の山を作り上げていく。
……被災者本人としてはたまったものではないだろうけど、それでも怪我しないだけマシだろう。
その間にもビルはきしむような不気味な音を立てながらあっちにこっちにとふらふら揺れている。
建造物と言うのは思いのほか丈夫で簡単には崩れ落ちたりしないが、しかし見るからに崩落秒読みの様子は不安を煽る。
「だあああ! 何人居るの、もう!」
「残りは屋上だけです!」
そして、ミネ団長は屋上まで目につく被災者を外にぶん投げて保護していたのだが。たどり着いた屋上の先で待っていたのは被災者ではなかった。
「お早い到着で。しかし、聞きしに勝るその活躍。さすがはトリニティ成立の際に中心となった分派の一つ、『ヨハネ分派』を束ねるだけのことはあります」
「……あなた方がこのテロを起こしたのですか?」
そいつらは様子が違った。完全武装で屋上に通じるドアから出てくる者に狙いを定めていたのだ。
明らかに臨戦態勢、一目瞭然でクロだ。しかも救護騎士団ではなく分派の名前まで持ち出してくるとあれば。
「ええ、その通り。今のティーパーティーは盤石、だがトリニティの誰もが認めていると思うなよ! まずはヨハネ分派を叩き、内紛を誘発させる。新しいトリニティの秩序、その礎となるがいい、蒼森ミネ!」
「――ですが、私を狙うならここまでする必要はなかった! どこかの森や荒野ででも私を呼び出せば良かったはず!」
「は! さすがにそんな待ち伏せを仕掛けたらバレるだろう! 普通に考えて! それに、歪んだ貴様の顔は見物だったよ」
「ここに居る方々はティーパーティーなど関係のない一般市民です! ビルを爆破までする必要がありましたか!? その地位を狙うなら、何の罪もない人々を脅かすなどできないはず! このようなことをしでかす方が人の上に立てるものですか!」
「む……いや、これは支援者の要望でもあるしな。それに、過去の遺恨を忘れ去った愚かなブタどもだ、どれだけ犠牲にしたところで心は痛まん。さて、救助にどれだけ体力を……体力を?」
「……」
こくりと首を傾げるミネ。多少は息が乱れている。だが、どちらかと言うとそれは怒りによるものだろう。
疲れた様子などまったく伺えなかった。
「少しは疲れた素振りをしてみろ、モンスターめ! いいさ、ならば力をもって撃破するまで! 我々はアリウスの遺志を継ぐ者……彼女たちと同じく歴史の闇に消された者。この虚飾に塗れた偽りの
「――トリニティ発足当時、最後まで抗ったアリウス。けれど、弾劾を受けて膝を屈した者達も居た。その者達の末裔と言うことですか……! それが、ティーパーティーになり代ろうと」
エキセントリックな言動が目立つものの、ミネは政治だってできる。相手の主張を理解することなど容易い。
そう、結局奴らの主張はアリウスのパチモンだ。最後まで敵対し雲隠れしたアリウスと違って旗色が悪くなったから降った。不利になったからと旗色を変える者はいつだってつまみ者だ。
ゆえにテロなどやらかしてなり上がろうと――そんなことなどお見通しだ。
「あ、そ。下らないね。それは結局、あなた達の頭が悪いだけでしょ?」
だが――ミカは斟酌することなどない。ミネと連絡を繋げたままにしていたから相手の主張は聞こえていた。
それを聞きながら揺れるビルの壁を登って相手の背後から奇襲を仕掛けたのだ。銃弾が閃き、虚を突かれたテロリストたちは倒れていく。
「――なに!? 聖園ミカ、だと! ティーパーティーが、なぜ……ッ!?」
「あはっ。ちょうど暇してたんで茶飲み話をね! 仲良くするのはいいことでしょ? 誰にも見つからず、外に出ていくことも許されないアリウスならともかく――あなた達は違う。そもそも隠しておいてなんだけど、過去の遺恨なんて現代じゃ誰も気にしていないんだよ」
ミカは悪意をもってけらけらと嗤う。
彼女たちは救うべき犠牲者ではなく、単に田舎者が逆恨みで暴走しただけとみなした。……マダムに支配されていたアリウスとは違う。いくらでも選択肢があったはずなのに、ただ恨みごとを吐くだけで行動しなかった結果がこれだ。
「なんだとォ!? そのような、過去の過ちを闇に消すのが貴様らのやり口だろうが。……ティーパーティーが自らの権益のために――」
「じゃ、あなたも入れば良かったのに。うん、もちろんコネ枠もあるけどね。ただ、今となっては別に過去の学校区なんて問題にならないんだよ、私入部書類にそれ書いてあるの見たこと無いからね。とりあえず勉強してたら、それなりの地位に就くのは難しくなかったのにねえ」
「……黙れ! 我々は貴様らの専横を許さない! トリニティの支配者面をして、市民から搾り取り私腹を肥やすことしか考えない貴族気取りどもめ……!」
「あなたの主張は分かりました」
ミカを親の仇のように睨みつけていたボスに、ミネが至近距離で声をかける。その距離が近すぎて、ボスは反射的に引き金を絞りながら向き直る。
「――ッ!」
だが間に合わない。ダダダ、と銃弾が見当違いの方向に飛んで行くのみ。ミネの拳がそいつの顔を殴り飛ばした。
「過去は過去、今は今です。ティーパーティーがトリニティを専横しているのは事実、けれどその治世は悪いものではないと思っています。聖人君子では人は生きられないのですから」
一度顔を伏せ、そして上げた時には覚悟が宿っていた。
「ま、待て。私たちはこうさ――」
「救護を実行します」
残った敵の仲間たちはミネに殴り倒された。
「……で、どうしよっか。私たちは別に飛び降りてもいいけど。こいつらこのまま置いてって後で回収する? ほら、後は解体会社の人に任せようよ」
「ミカさんはそうしてください。私は階段で帰ります。私は救護を諦めません」
やれやれと肩をすくめるミカに対し、ミネは迷いのない態度で倒したテロリストで人間タワーを作り始める。
「ええ……もしかしてそれで帰るの? 地上に着くまでに崩落しないかも賭けだし、そもそもそれで動ける? あ、動いてるね」
積み重ねた人間タワーを縄で固定して背負った。ミネは1秒でも惜しいとばかりにずんずん扉に向かって歩を進めていく。
「……はあ。まあ、好きにしたらいいと思うよ。健闘を祈るね☆ おっさきー」
ミカは屋上から飛び降りた。
「――ふん!」
そして、ミネが1Fの壁を蹴り破って姿を現した。へし曲がって、ガラスが飛び散った出入口よりかはよほど安全で早かったが乱暴だった。
「おかえり。もう正義実現委員会の子が来てるから、後はそっちに任せて」
「……しかし、治療しなければなりません」
「軽傷でしょ? 舐めときゃ治るよ。それより、事件の黒幕に興味はないかな?」
「どういうことですか」
ミカが皮肉気に笑って踵を返して歩き出す。
ミネがしぶしぶと人間タワーを下ろしてついていく。それを見てミカは堂々と探偵気取りで真相を口にする。ナギサが調べたことなのに。
「実はさ、このビルってカイザーの所有なんだ。しかも、数日前に保険をかけ増ししてる」
「……それは」
ミカは迷いなく歩いていく。
「あいつら口が滑って支援者なんて言ってたね。つまり、焚きつけた奴が居るんだ」
「――」
「まあ、普通に考えて保険金のかけ増しはお金が目的だよね。ああ、多分そっちはついででティーパーティーが3派閥で相争うのを止めたのに気付いて焦ったんだと思うよ。皆から目の敵にされてる巨大企業、実際にうちも仮想敵国として扱ってる」
「確かに今のトリニティは外部勢力にとってはこれまでになかった脅威に見えるでしょう。……ゲヘナの干渉でさえ昔に比べれば弱まっています。一つにまとまったティーパーティーはそれだけの力を持っている」
「私とナギちゃんとセイアちゃん。三人で共謀できるようになった今、その力は以前の比ではないからね。あわよくば不和の種を撒き、それでなくても中央と地方の溝を広げて力を削ぐ作戦だ。とにかくうちには今まで通りに内紛してもらわなきゃ困るんだね、敵さんは」
「……合理的ではありますね」
「ま、そこに保険金詐欺で1石3鳥を狙って尻尾を出しちゃうあたりがカイザーらしいポンだよねえ」
「ポンとは?」
「証拠がなければしらばっくれられると思ってるんだろうね。実際、うちに内紛の種を撒いてる奴らは両の手じゃ数えきれない」
「――救護が必要ですね。今回、糸を引いたのはどなたですか?」
「本体ではないはず。手足が勝手にやったことですトカゲのしっぽ切りで責任は取りました、があいつらのやり方だもんね。指示を出したのは、あくまで下の人間だよ」
「ですが、部下ではないでしょう。トップでなくてもそれなりの地位に着く者の仕業であるはず……違いますか?」
「だから聞きに行くのさ、知ってそうな奴にね」
「……銀行ですか? まさか、ここの保険がかけられていたと」
「いや、それは違うね。というか、自分の会社を相手に詐欺をしても意味がない」
「ということは、ここはカイザーの系列……」
到着したその銀行に、ミカは勝手知ったる我が家とばかりに入っていく。
「やっほー。今日はあいつ居る? ちょっと聞きたいことがあってさー」
「……はい? どちら様ですか? アポイントメントはお持ちでしょうか?」
受付のロボットを相手にずい、と顔を近づけてサングラスを外す。
「この顔を忘れた? 頭の悪い受付は要らないと思うけどなあ。君はどう思う? 出来の悪いロボットは、一体どこの担当に回すべきかなあ」
「ヒッ。わ、分かりました。すぐに連絡しますのでお待ちください……!」
そいつは慌てて内線を取った。
「ええと……応接室、〇〇〇番へどうぞ。そこへ向かわせますので」
「そ。ありがと」
「……ミカさん。誰を呼び出したのですか?」
「さあて」
応接室にどっかと座って出された紅茶を飲んでいると、どたばたと足音が聞こえてくる。
「貴様……聖園ミカ! 今度は何の用で来た!?」
「あは。久しぶりだね、元理事。営業はできてる? 君ってけっこうぶっきらぼうなところがあるし、前の仕事とも違うだろうから心配でさ。ほら、営業なんて私みたいに黙ったら死んじゃうような人種がやるものでしょう?」
ぜえぜえと、機械の身体のくせに身体を上下させている。今となってはトリニティという一国の支配者の一人と、営業に飛ばされたただ一人の社会人。過去対等に渡り合った二人が、今や大きな差が付けられていた。
「……そのようなやり方もあれば、別のやり方もある。ここではおしゃべりが良いように働くとは限らない。なんだ、嫌味でも言いに来たのか?」
「いや、これはティーブレイクだから。ちょっとくらい他愛もないおしゃべりを挟んだ方が口が回るでしょ?」
「私はお前と同じ空気など1秒も吸いたくない。本題を話せ」
「ちぇー、付き合い悪いなあ。ビルの崩落、あれってカイザーの策略でしょ。誰がやったの?」
「――先のニュースか。カイザーの仕業である根拠は?」
元理事の目の色が変わる。どっかと座り込んだ身体を前に出す。
彼もカイザーの一員、だが企業の中では他の者の失点が自分のプラスに働くことがある。そして、それを積極的に狙ってこその上昇思考だ。誰かを蹴落として上がる手腕があってこそ、元理事はその地位まで登りつめたのだから。
「カイザーの所有するビルで、数日前に保険がかけられてた。他に証拠は必要?」
「いや。だが、罪を問うには弱いな」
「別にそこは詐欺られた保険会社の話だから私には関係ないし。誰がやったのかだけ知りたいの」
「……なるほどな。やりそうな者を一人あげるとすれば、それはジェネラルになるだろう」
「ふうん、ジェネラルとなら。御大層なお名前だねえ。ええと、そいつカイザーPMCの社員だっけ? 理事じゃないよね」
「そうだ。理事が直接口を出すような作戦ではないからな。うまく行くか不透明だが、その分リスクも低い作戦。しかし成功していれば理事からの覚えもよくなっていただろう。もっとも、貴様に興味を持たれた時点でその目論見は崩壊しているが」
「あはは。謀略は悪いことだからねえ。悪いことをすれば悪い因果が返ってくるものだよ。手柄が欲しくて他人を犠牲にする。けれど、それで得た地位は他の誰かさんのしっぽ切りで失うものだと思うけどね☆」
「地位を追われると? ……私のように、とでも言いたげだな。ああ、返事する必要はない。で、ジェネラルにはどう落とし前を付けさせる気だ?」
「ううん。私は特に何も」
「特に何も? 余計な事ばかりやる貴様が今回に限っては何もしないだと。何を考えている?」
「ええ……何を考えてるかって。だって、もう行っちゃった人が居るし」
元理事がミカの隣に目を向けると、ミネは消えていた。
「……は?」
「ま、今回の顛末はそんな感じかな。じゃ、お仕事がんばってねー。また来るよー」
二度と来るなと言う言葉さえ紡げずに呆気にとられる元理事を置いて、ミカは白々しい顔をして帰って行った。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)