聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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サイドストーリー・ライブイベント:第3話 アビドス

 

 

 いつの間にやらプロデューサーの真似事をすることになってしまったマリーは困って先生を訪ねたが、先客が居るようだった。

 

「こうしてると、久しぶりに会った気分だね」

「そう? よくモモトークをくれるからそんな気分にはならないかなあ」

 

「分かってないなあ、先生は。会って話すのとモモトークはまた別なの。……いい?」

「はは、そうだね。来てくれてうれしいよ、ミカ」

 

 ミカさん? いえ、人の話を盗み聞きすることは良くないですねとマリーは悩む。とはいえ引き返すことなどできないし、いつまでも通路に立ち呆けする訳にもいかない。

 

「先生は大分忙しいようで。まったく、どんな頼みも引き受けてると大変だね」

「……まあね。でもやりがいはあるし、君たちも手伝ってくれる。ナギサやセイアとも仲良くやれてるみたいじゃないか」

 

「仲良くねえ。私、セイアちゃんに激辛シューと激苦シューを食わされたんだけど」

「逃げようとしたセイアに激苦シューを食べさせたんだろう? ……こう言ってはなんだけど、普段は神秘的な雰囲気のあるセイアがあんな顔をするとかわいらしいものじゃないか」

 

「え? 私、写真なんか取ってないけど。ナギちゃんか。私ももらおーっと。ぽちぽち」

「しかし、いいのかい? トリニティは忙しい時期じゃないか。謝肉祭、招いてくれたからには私も行かせてもらうけど」

 

「あはは、だいじょーぶ。なんせ、トリニティが忙しかったのって言ってしまえば内輪もめでさ。撃たない戦いみたいな感じで、そりゃ暇なんてないよね。――誰も彼もを疑ってかかるんだもん」

「互いを信用できたから、そんなくだらないことに精を出す必要が無くなった?」

 

「そういうこと。あ、あと私たちの出し物もねえ……」

「ミカがアイドルライブに出るのかい? 是非行かせてもらうよ」

 

「ううん。ま、聞いてもらえると嬉しいけどね」

「おや、微妙かな」

 

 聞き逃せない話題にマリーはいけないと思いつつも聞き耳を立ててしまう。

 

「昔懐かしの聖歌なんだよね。別に努力しなくても子供のころに習わされたからさ、そつなくこなすだけなら楽勝なんだよね。あと、この制服でやるって話だし。先生に見せるにはちょっと華が足りないかなって」

「普段の姿でもお姫様みたいに綺麗だよ、ミカは。舞台で歌声を聞けるのは嬉しいな」

 

「……そ、そう。じゃあ、がんばる」

 

 赤面してうつむいてしまった。あいかわらず、素直に褒められると弱い。

 

「うん、がんばって。そういえば、謝肉祭では他に何をやるのかな」

「え? あ、うん。……有志で屋台をやったり、部活単位で教室を借りてお店をやったりもするから回るだけでも楽しめるよ。それと、アイドルライブで主になるのは――扉の向こうの子に聞くのが早いんじゃない?」

 

 マリーの肩がビクリと震えた。

 

「お客さん? 入っておいで、扉は閉めていないから」

「は、はいっ。申し訳ありません、立ち聞きなどという真似を……」

 

 慌てて転びそうになりながら扉を開けて頭を下げる。

 

「まあまあ、落ち着いて。先客が居るから入り辛かったんだよね? ――私にはそういう遠慮とかは分からないけど」

「はは……ミカならそうかな。それで、もしかしてマリーもアイドルを? かわいい衣装を着たりするのかな。もちろんシスター服も似合っているけど。アイドル衣装を着たマリー……楽しみだね」

 

「――先生?」

「落ち着いて、ミカ。アイドル衣装のことはセイアとナギサが決めたことだろう? 私が我儘を言うわけにはいかないじゃないか。もちろん、ミカのアイドル衣装だって見れるものなら見たいに決まっている」

 

「そういうことにしておいてあげる。で、もしかしてマリーちゃんは着ていくアイドル衣装について相談を?」

「ミカ様は分かっていますよね!? アイドルをするのはサクラコ様とミネ様です!」

 

「えっ!? そんな、マリーはアイドルをしないのかい……?」

「……うぅ。そんな顔をしても出ませんよ。そもそもイメージアップのためなんですから、私のことなんて誰も知りませんよ」

 

「そんなことはないと思うけど。ま、マリーちゃんがそう言うなら口出ししないけどさ。どうするの、先生?」

「そうだね……詳しい人に聞きに行こうか」

 

 そういって電話をかけて、二三言しゃべって電話を切る。

 

「もしかして、今のって……」

「そうだね。ミカも来るかい?」

 

「あの、何をおっしゃっているのですか?」

 

「餅は餅屋って訳でもないけど……先達に倣うのが近道だから」

「あの子、ずっと後輩をアイドルにしたがってたしね」

 

 あっけらかんと言う二人に、少し不安が差すマリーであった。

 

「――本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

 などと思っても、先に歩き出してしまった二人についていくしかないマリー。そもそもアイドルライブをやるために何が必要かすらも分からないから先生を頼りに来たのだ。

 慣れた様子で電車を乗り継いで行く先生に遅れないようについていく。マリーが歩きやすいようにさりげなく気配りしてくれるのを見て温かい気持ちになる。

 

「あ、お団子売ってる。映えるね☆」

 

 この人さえ居なければ二人きりなのになあ、と思って――いけないことを考えてしまったとぶんぶん首を振る。

 

「ミカ、私は鯖味で。マリーは何にする?」

「あ、いえ。私は……え!? 鯖!? 先生、本当にそれを食べるんですか?」

 

「一度は食べてみるといいよ。後悔するから」

「後悔しちゃうんですか!? ミカ様、食べたことあるんですか?」

 

「いや、食べたって子から聞いただけ」

「チャレンジャーですね。あ、先生……どうですか? ――本当に鯖が乗ってる」

 

 先生が手に持っていたのは鯖の欠片とみたらしらしきタレがかかった団子だった。躊躇する様子もなくパクリと食べる。

 

「……うっ!」

 

 顔色が青くなった。

 

「先生!? だから言ったじゃないですか!」

「あはは。本当に食べちゃうなんて、先生おもしろーい」

 

 ミカはスマホを手にしながらケラケラ笑っている。抜け目なく写真に納めていたらしい。

 

「はは。いやあ、すごい味だ。マリーもどうだい?」

「え……」

 

 間接キスだと躊躇してしまった、その瞬間に。

 

「いただき。……マズっ! あははははっ! これ、まずーい! いや、笑い止まらないって。マリーちゃんももらったら? こうなったら道連れだよ☆」

 

 ミカに横取りされてしまった。そればかりか、先生の手を握ってその闇の物体を近づけてきた。

 

「ちょっ。待ってください、ミカ様。……むむ――パクっ。あううっ」

 

 先生からのあーんだなどと感傷にひたる暇もなく、差し出されたそれを断ることもできずに口にしてしまう。

 

「うぐぅっ!」

 

 団子の心地よいもちもちした噛み心地があり、あまいタレが調和している。その直後に鯖が舌に触れる。

 ざらざらした食感は異物そのもので、甘みと塩みが奇跡的な喧嘩を演じる。しかも、それが来た次の瞬間に甘い香りに隠れた生臭みが襲来した。

 

「あはは。酷い顔」

「だ、だめ……! 撮らないでください、ミカ様」

 

「心配性だね。さすがに女の子相手にそんなことはしないよ」

「そ、そうですか」

 

「はは。こういうのも思い出だよ。さ、行こうか」

 

 そんな一幕があって、別の学校まで足を運んだ。

 

 

 

「砂に埋もれた学園……?」

 

 そこはアビドス。トリニティの中で生きているマリーには縁遠い世界だった。だが、出し抜けに銃撃音が聞こえてくる。

 

「きゃっ。え、学校の中で銃撃戦なんて。中で何が起こっているのでしょうか」

「ううん、なんだろうね。ちょっと見に行ってみようか」

 

「ちょっ、危険ですよ。ミカ様も先生を止めて……」

「何をはしゃいでるんだろうね、あの子達」

 

 二人して学校の中に入って行ってしまった。そこで出迎えた人物は。

 

「おや、お久しぶりですね。先生、それとミカさんも」

 

 母性の塊のような人物だった。柔和な笑みを浮かべて、にこやかに挨拶される。まあ、銃撃音がすぐそこから聞こえてくるので場違いではあるのだが。

 

「お久☆ これ、おみやげ」

「ノノミ、久しぶり。ちょっと頼らせてもらいにね」

 

 ミカと先生は何食わぬ顔で会話を続けている。

 

「そうですか、歓迎しますよ」

「ところで、何の騒ぎ?」

 

「ああ、あれは……」

 

 ノノミが視線をやった先で、小柄な生徒が倒れる。時折銃弾が飛んでくるのも構わず彼女に近づいたミカは、見下ろしながら話す。

 

「もう、おじさんはダメ……」

「ホシノちゃん。なにカマトトぶってるの? 最上級生の威厳はどうしたの」

 

「いやあ、もう年でねえ」

「それ、私も同じ年になっちゃうんだけど?」

 

 困惑するマリーは先生に尋ねる。

 

「あの、先生。この方たちは……?」

「アビドスの子だよ。この子達もアイドルライブに参加するんだ」

 

「ああ、だから……」

「それで、参加する子がちょっと――」

 

 タイミングよく向こう側から声が聞こえてくる。

 

「こんなの、絶対認めないわよ!」

「そうです。アイドルなんて……!」

 

「でも、アイドルやってくれるって言ったじゃないですかー!」

 

 ノノミが大声で返した。

 

「だからって、あんな服は聞いてない……!」

「そうですよ。あんな……あんな露出の高い服!」

 

「アイドルだから仕方ありません!」

 

 反論の声は首謀者には届かなかったようだ。というか、あの人が首謀者なのかとマリーは驚いた。

 

「こうなれば――実力行使よ」

「あはは。アヤネちゃんがヘリまで持ち出すとは思いませんでした。先生、協力をお願いし出来ませんか?」

 

「……あまり一方に肩入れしない方がいいんだけどね。でも、セリカとアヤネのアイドル姿のためなら仕方ないか!」

 

「ちょっと、先生! 鼻の穴を伸ばしてるんじゃない!?」

「だ、ダメです。あんな服は先生には見せられません!」

 

 銃撃戦が再開する。

 

「マリー、まずは前に出て!」

「えっ!? 私も戦うんですか。……分かりました。あの、避けてくださいね」

 

 デザートイーグルをぶっ放すが。

 

「どこに向かって撃ってるのよ!」

「一瞬注意を逸らせればそれで十分だよ。ノノミ!」

「はい、行きますよー♧」

 

 ノノミの持った機関銃が蹂躙していく――その一瞬前に。

 

「ホシノ先輩が沈んだ今、メインの火力はノノミ先輩しかいません。読んでいましたよ!」

「くっ。アヤネちゃん……!」

 

 ヘリの機銃がすでにノノミを捉えていた。銃弾が放たれる。その前に。

 

「――駄目だよね? 先生が居るのに、危ないことをしちゃ……!」

 

 ミカの物理が小賢しい策を真正面から叩き潰す。愛用のサブマシンガンを撃つとヘリが沈む。

 

「……え?」

 

 アヤネが呆然と沈んでいくヘリを見る。

 

「ちょっ。ミカさんは反則……!」

 

 セリカが歯噛みする。

 

「お仕置き」

 

 二発の発砲音が響いて、後輩二人を沈黙させた。

 

 そして、正座で並ばせる。

 

「……はあ。ミカさんまでそっちに着いたら逆らえないわよ」

「そうですね。……あの服を着なきゃいけないんですよね。いえ、アビドスのためなら……」

 

 ぶちぶちと文句を垂れていた。

 

「別にノノミちゃんに聞いた訳じゃないけど、どんな服?」

「こんなのですよー」

 

 スマホで見せる。

 

「へえ。うん……カッコいいじゃん。イイと思うよ」

「ですよね。こんなに素敵な服なのに」

 

「恥ずかしいのよ、そんな服!」

「露出度も高いですし……」

 

「え、なになに。どんな服!?」

「ふふ。先生には秘密です。本番を楽しみにしておいてくださいね」

 

「そんなあ」

 

「やっぱり先生にも見られるのね……」

「覚悟を決めるしかありませんね……」

 

 二人してがっくり落ち込んでしまった。

 

「うーん。そんなに嫌? 私なんてこれで舞台に立つんだよ」

「おや、ミカちゃんもアイドルライブに出るの?」

 

 倒れてたのか寝てたのか分からないホシノが口を出す。

 

「協賛の方だからちょっと違うけどね。伝統ある聖歌ってのをやらなきゃいけないんだよ」

「あはは。立場ある人ってのも大変だあ」

 

「ホシノちゃんさ、ホシノちゃんがこれ着て歌ってもいいんじゃない?」

「はっはっは。残念だけど、私の体型じゃ二人の服を借りても大きすぎて脱げちゃうさ」

 

「いえいえ! ホシノ先輩もやるなら用意しますよ!」

「ノノミちゃん、ぐいぐい来るね……もしかして狙ってた?」

「あははっ。私もホシノちゃんのアイドル姿みたいなー。ほら、私もステージには立つし? ホシノちゃんだけやらないのはズルイって言うか? ね、先生?」

 

「うん。ホシノのアイドル姿も楽しみだね」

「ちょっと先生!? 私もやるなんて決まったわけじゃないよ! ノノミちゃんだってやらないでしょ!」

 

「おやおや。これは……私もやらないといけませんかね?」

「無理でしょ。予算ないもの」

「というか、この服の分でもけっこう無理してますね……」

 

「セリカちゃんとアヤネちゃんの言う通り! あーあ、残念だなあ。アイドルできなくて残念だなー」

「……私がお金出しますよ? みんなとアイドルできるなら」

 

「勘弁してよー。シロコちゃんも黙ってないで何か言ったら?」

「え、私? ええと、アヤネちゃんもセリカちゃんも、その服似合うと思うよ」

 

 きょとんとした顔で的外れなことを返したシロコに、皆が笑った。

 

「あはは。皆は仲良しだねえ」

「はい、仲良しですよ♧ それで、そちらのシスターさんは何か御用で? アイドルイベントに参加されるんですか?」

 

「ああ、それそれ。マリーちゃんはプロデューサーをすることになったんだけど、右も左も分からないみたいでさ。先生と一緒に教えてもらいに来たんだよ。ちなみに私は面白そうだからついて来ただけ☆」

「ああ……では、衣装の制作会社のアドレスをお教えしますよ。でも、マリーさんもアイドルになればいいのに。絶対に似合いますよ」

 

「そ、そんな私なんかアイドルだなんて……あ、アドレスありがとうございます」

「うんうん。それでさあ――」

 

 話しているうちに各々が椅子に座ってくつろいでいる。恐縮したマリーだけが先生の後ろに立っている状況だ。

 真ん中におみやげの団子が置かれていて、お茶も出してもらっている。

 

「なんでサバに誰も手を付けないの?」

 

 マリーがせきこんだ。

 

「いや……絶対にマズイでしょ。誰か食べない?」

 

 セリカがうんざりした顔で見渡すが、全員が目を逸らした。

 

「持ってきてもらったものだけど、遠慮しないでどうぞ」

 

 ホシノがミカに向かって押しやった。

 

「いや、私は食べたから」

 

 ミカは押し返した。

 

「え……うそでしょ? どうだった?」

「こんな感じ」

 

 青い顔をしているマリーを指差した。

 

「ますます食べたくなくなってきたなあ」

「じゃ、用事も済んだし帰ろうかなあ。謝肉祭、楽しんでね。少しなら私も顔出せると思うし。あと、ステージは賓客席で見させてもらうよ」

 

 ミカは席を立ってバイバイと手を振る。

 

「あ、ちょっと待って。これを処理してから帰って……。先生、助けて?」

「ごめんね。サバと団子の組み合わせはトラウマになったんだ、ついさっき」

 

 先生もそれについていく。

 

「さ、マリーも帰ろう」

「はい。皆様、お世話になりました」

 

 ぺこりとお辞儀をして去っていく。

 

「……これ、どうすんのよ」

 

 残されたのは、団子のような悼ましいナニカだった。

 

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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