アビドスとの協力によりアイドル衣装の発注を取り付けたマリー。サクラコとミネの方からは練習場所を予約できたと連絡があり、ほっとしたのも束の間。
そのマリーはトリニティへの帰路の途中、知った顔を発見する。
「あ、ハナコさ――」
喫茶店の野外席で談笑する彼女の姿。隣にはコハルが、正面にはヒフミとアズサが居る。なぜかコハルが怒っている様子が見えるのだが。
ハナコの、いつになくおだやかな顔を見て声をかけるのを躊躇してしまう。邪魔をするのはよくないですね、と前を歩く先生の背中を見つめ。
「やっほ。久しぶり」
ミカが手すりに肘を乗せて身体を乗り出した。人懐こいというか、強引というか――その大胆さに呆れてしまう。
「え? ミカちゃん……お久しぶりです!」
「ミカさん……ですか。先生と――それと、マリーさん?」
ニコニコ返しているのはヒフミだけで、ハナコは表情で「何をしに来たんでしょう」と言っている。
アズサは何を考えているのか分からないニュートラルな表情で、コハルはただ偉い人が現れて恐縮している。
マリーは観念してハナコに声をかける。
「あ、どうも。その……お久しぶりです……ね?」
「そうですね。マリーちゃんとも、それと先生もお久しぶりですね。もっと補習授業部に来て授業してくれてもいいのですよ?」
「ごめんね。行けるなら行くんだけど、忙して」
「まあ先生も忙しいのは分かっているので、許してあげます。しかし――ミカさんはマリーさんと何を? もしやシスターフッドが問題のある演目でも? サクラコさんが生徒からの風評を気にして暴走しましたか? 例えば、そう”覚悟”の要る服を……」
「違いますっ!」
食い気味に否定したマリー、ハナコはニヤニヤと笑っている。もう涙目だ。
「しかし、あれこそシスターフッドの最終兵器なのでは……?」
「あんな服、私は着ませんから……っ! 着れませんからぁ……ッ!」
「そんなことを言って良いのですか? あれは伝統ある……」
「絶対にあのようなハイレグ衣装になんてしませんからね。先生もニヤニヤ顔しないでくださいっ!」
必死なマリーだった。まあ、あれはハイレグなんてものを超えた、それこそ”勇者”の衣装だ。まあ、悪目立ち必至のあの服を着るのは蛮勇と呼ぶべきだろう。
「ニヤニヤなんてしてないよ!」
「ま、先生の伸びた鼻の穴はどうでもいいとし、て……!」
「ミカ、見えないところでつねらないで。ちぎれちゃうよ……?」
「手加減してるもん。それで、補習授業部は何をするの?」
「私たちが、ですか? でも、補習授業部はあくまで落ちこぼれを集められただけで。何かをする部活って訳ではないですよ」
「んー、まあナギちゃんの思惑が大きかった成立の経緯はあるけどさ。ほら、名前なんてなんでもいいじゃん。仲のいい子で何かをすると楽しいよ。マリーちゃんみたいにアイドルイベントに参加するのでもいいし、屋台を出してもいい。ちょっとくらいの無理なら聞いてあげられるよ、補習授業部には皆が感謝してるんだから」
「まあ、アイドルを……!」
「いえ、ハナコさん。参加するのはサクラコ様とミネ様ですから……!」
一瞬巡らせた政治的な考えを脇に置いて、ハナコはマリーをからかう。
それを横目にしつつ、ミカはヒフミの誘導にかかる。それは、面白そう以外にも、アリウスに居場所を作ってあげられればと言う気持ちもある。ヒフミならアズサ本人よりも操りやすい。
「でさ、ヒフミちゃんには何かやりたいこととかないの? アズサちゃんも、やりたいことがあれば言って欲しいな。せっかく、トリニティに来てくれたんだからね」
「ミカさん。そう言ってくれるのは嬉しい。だが、私にできることは戦うことくらいで……頭も悪いし。私は……スカルマンのようにはなれない」
「スカルマン? ええと、モモフレだっけ?」
「そうです。とても紳士的な方ですよ」
「ですが、カーニバルには来れないみたいなのでこうして慰めていたのですよ」
「ああ、そういうことなのね。ありがと、ハナコちゃん。……そっか。あこがれの人? が来れないんだ。ね、じゃあさ――なっちゃったら? 一緒に踊れば、きっと楽しいよ」
くすくすといたずらっ子な笑みを浮かべながらとんでもない発言をする。キヴォトスにも著作権はあるのだ。
「はい? それは、どういう……」
「ちょうど四人居るんだから、ハナコちゃんとコハルちゃんにペロロとスカルマンをやってもらえばいいと思うよ。許可ならいくらでも取ってこれるよ――ナギちゃんが」
「そ、そんな……ペロロ様と一緒に踊れるなんて、なんて畏れ多い……!」
「ヒフミちゃんは、いや?」
「そ、それは――」
ヒフミは見るからに餌に食いついている。否定しているのも態度だけだ。
「……」
「えへ」
ハナコはミカに呆れた目を向けると、ぺろりと舌を出す。
政治的に考えれば、ちょうどいい。補習授業部の我儘を聞いてあげたというポーズに加えて、アリウス――アズサとの融和イベントとしても働く一石二鳥だ。
とはいえ、あまり面白くないので援護はしない。
「えと、ハナコちゃんとコハルちゃんはそれで良いですか?」
「ちょっと待ってよ、なんで私が着ぐるみなんかを着て踊らなきゃならないのよ!」
「そうだよね、せっかくなら可愛い服を着たいよね?」
「そもそもステージに立ちたくないって言ってるの! ……です」
「ハナコも何か言ってやってよ」
「あらあら、まあまあ。これはどうしたものでしょうか」
ちらりとアズサに視線をやる。考え込んでいるようだった。重々しく口火を切る。
「その……アイドルイベントに参加したらサオリ姉さん達、それと他の子も見てくれるだろうか?」
「約束するよ。まあ、あまりいい席は用意できないだろうけど」
コハルは唸る。どう見ても旗色が悪かった。それに、行き違いもあった恩師に元気な姿を見せてあげたいみたいなことを言われては反対できない。
「――ヒフミ、やろう」
「アズサちゃん……! はい、がんばりましょうね」
もう情勢は決まりかけていた。それでもコハルは音を立てて飲み物を啜って、反対を表明する。
「コハルちゃんだって、参加できない訳じゃないでしょ? 正義実現委員会でも出し物はやるけど、でも主役になるのって2年の子でしょ。あそこの3年組は警備に回るから、次期トップとかを出してくるのが恒例なんだよね」
「あ、あう……確かにちょっとした手伝いと、あとは警備しかやることはないですけど。しかも、その警備にしたって会場担当でもないですし……」
もう少しで崩せると見たミカは真剣な表情を作る。
「アリウスの子はね、まだトリニティになれてない。兵士として育てられた彼女たちの価値観は必ずしも私たちのそれと噛み合う訳ではないから。アズサちゃんはね、”特別な子”なの」
「え……」
「でも、アズサちゃんが歌って踊る姿で、その子達にも戦争以外にも世界にはたくさんのきらきらしたものがあるって教えてあげられると思うんだ。――どうかな?」
「あう……そこまで言われたら。その、がんばり……ます」
とうとう降参した。
「なんて! 先生の前なので恰好付けてみちゃった。私はそんな殊勝なこと考えるキャラじゃないじゃんね」
「……ミカちゃん。あの、先生」
「うん、分かってる。ミカは変なところで照れ屋だからね」
「もう! 違うって。ヒフミちゃんも、先生も」
ふふ。と笑い合った。いつの間にかアイドルライブに参加することになってしまったコハルは呆然とそれを眺めていた。
一方、その頃ナギサとセイアは正義実現委員会を訪れていた。
「こんにちは、ハスミさん。ツルギさんは外ですか?」
「これはどうも、ナギサさん。セイアさんも。ツルギは部屋で出し物の準備をしていますよ」
ハスミがにこやかに出迎える。
とはいえ、謝肉祭の出し物に加えて準備期間中は犯罪が多くなる。お茶を出す暇もないので、委員会の建物の前で立ち話だ。
「……ツルギさんが? 正義実現委員会では演劇をやると聞いていますが」
「ええ。実は台本を作ったのはツルギなのですよ。あれで意外と乙女なのです。それで、今は演技指導などを」
建物の一室を指差す。耳を澄ますと練習の声が聞こえてくる。やる気も十分で、楽しそうだ。
その中で一番張り上げている声がツルギのものだとは、実際にその声を聞いても信じられない。
「そんなことができたのですか? あまりものを書いている姿は想像できませんが……いえ、報告書は書いていただいていますね」
「ええ、言ってはなんですが私も意外でした。中々に堂が入った脚本でしたし、演じる子もかなり動ける子なので期待していただいて構いませんよ」
「そうですか、是非見させていただきましょう」
「あまり期待値を上げるようなことを言うべきではないね。こういうのはしょうもないことが災いして本来の力を発揮できなくなるものだから」
セイアが悪い笑みで水を差した。
「……セイアさん。それは予言ですか?」
「いや、予言の力はなくなった。だが、よく聞く話だからね。重要人物が膝に銃弾を受けて涙を呑んだということが」
「気を付けておきましょう。それで、今日はどんな話を?」
「少し雑談に来ただけですよ。謝肉祭実行委員として、主だった部活には顔を見せて置く必要があると思いまして」
「……なるほど。変わりましたね」
「そうですか?」
「まあ、以前のティーパーティーからは想像できないだろうさ。私は病弱だったし、君だって無為の散歩で襲撃されるリスクを犯すことはなかった」
「愚行……。ですが、そうですね。私はいつも呼びつけてばかりでしたね」
「ですが、ティーパーティーのお二人だけで出歩くのは危険ですよ。護衛を寄こしましょうか?」
「いや、不要だよ。これからミカちゃんと合流するからね」
「あまり戦力として扱うとスネてしまいますけどね。何かを倒すならともかく、誰かを守るのは苦手な子なので」
「それはミカさんらしいですね。目立つのを好む方ですし、いやがる姿が目に浮かびます。そういえば、ティーパーティーでは謝肉祭では何か派手なことでも?」
「いいえ、地味なことを。あの子の好きなことばかりやらせては政治などは立ちいきませんから。……古式ゆかしき聖歌を、学生の正装で歌わせてもらいますよ」
「そうですか。ですが、お三方なら素敵な演目になりますよ」
「ありがとうございます」
「君だって聞き飽きた聖歌なのだがね。お耳汚しにならなければ幸いだ。出番は初めの方だから、寝ると目立つかもしれないね?」
「……まったく、セイアさんは。そうだ、三人で回られるとのことですが私もご一緒しても?」
「それは構いませんが、なぜでしょう」
「君の手を煩わせるまでもないと思うがね。私たちにも企んでいることなどないさ」
「ミカさんと話したくなっただけですよ。私にも企んでいることなどありませんから」
「ツルギのことは見ていなくて良いのかな?」
「むしろ、私が居ても邪魔になるだけですよ――セイアさん。演目についてはツルギに頼りきりですから。その分、治安維持の方をがんばらないといけませんが」
「なら、ここでしゃべっていて良いのかい?」
「最近は治安もいいものですから、後輩に任せています。救援が入ったらそちらを優先させていただきますね」
「そうですか、大丈夫ですよ。……そろそろ行きましょうか。ミカさんを待たせると文句を言われてしまいますからね」
揃って歩き出す。日が沈み始めていたが、本番も間近なこの時期はまだまだ昼間のような活気が満ちていた。
20万PVの同人誌は誰がいい?
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ナギサ様
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セイアちゃん
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ミカ(二冊目)