聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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サイドストーリー・ライブイベント:第5話 ヴァルキューレ警察学校

 

 

 次の日、マリーはシャーレへの道を急いでいた。待ち合わせまでは時間はある。あるのだが――少しでも早く着きたいという気持ちがマリーを急がせていた。

 

(いけませんね。待ち合わせの時間に遅れると言う訳でもないのに……こんなに急いでいては。他の方に見られて、なにかあったなどと妙な誤解を招いてもいけませんし)

 

 そう自戒しても、足は止まらない。早く早くと気持ちばかりが急いていた。

 

(――はっ! い、いえ、いけません。汗などかいている姿を先生に見られるわけにはいきませんね。……それに、汗臭く思われてしまったら恥ずかしいです)

 

 みっともない姿を見せてしまうことを恐れて足を緩める。まあ、先生は汗をかいていた方が喜ぶかもしれないが――マリーにはそんなことに思い至らない。

 とうとうシャーレにまでたどり着いて、扉を開く。

 

「昨日ぶりですね、先生。忙しい先生のお手を取らせてしまって申し訳ありませんが……ふふっ。先生とお出かけできると思うと、嬉しい気持ちもあります」

「うん、私もマリーと一緒にお出かけできて嬉しいよ」

 

 にこやかに出迎える先生。だが、そこにもう一つ声が被せられる。

 

「ふふふ、時間より早いねシスター。私がお邪魔してしまっていて申し訳ないと思うよ」

「いえ、そんなことは……。えっ!? な、なぜあなたがここに――セイア様!?」

 

 そこにいたのはいけしゃあしゃあと我が物顔で座るセイアだった。勝手知ったると言う様子で馴染んでいる。

 どころか、書類をトントンとまとめて整理までしている。

 

「そんなに驚くことかな? トリニティは先生に多大なる恩があるからね、お仕事を多少なりとも手伝わせてもらうのは当然のことだろう。まあ今回は謝肉祭についてちょっとした相談もさせてもらったが」

「うん。いつも助けてもらってるね。……うん、すごいよね。ミカやナギサも、少し手伝ってくれるだけで書類の山が減っていくんだ。いやあ、生徒に教わることがあるのは重々承知していたけれど、これはどうやって習ったものかな……」

 

「それは先生が書類仕事に慣れていないからさ。重要なものとそうでないもの、それと紛れ込んだゴミを見分けられれば早くなる。重要なそれは先生に返しているし、そこに時間を使うのが書類仕事のノウハウというものだね」

「……あはは。いやあ、アドバイスはありがたいのだけど――それが実行できるかは別問題だよね。情けないけど」

 

「先生はシャーレの顧問だ。苦手ならばいっそのことすべて任せるという手もある。我々だけでそこをカバーしてしまってもいいし、ミレニアムの生徒だって居る。どんと構えて……は先生には無理だろうけど、外回りに集中できるようお手伝いくらいはさせてもらうよ」

「ああ、うん。おかげでマリーとおでかけできるというのもあるね。……そう、あれは着任直後のこと、アビドス出張の後に帰ってきたときは書類に埋もれて死んでしまうことを覚悟したものだよ」

 

「ミカちゃんの言っていたあれだね。二人で泣きながら徹夜したという……」

「はは……はぁ」

 

 中々に仲のよろしそうな二人の様子を見て……マリーは少し腹が立ってしまった。ツーカーと言わずとも、気心の知れた様子だ。

 疎外感を覚えたマリーに、先生は優しく声をかけてくれる。

 

「さて、マリー。今日はヴァルキューレ警察学校の子に話を聞きに行こう。詳しい話は聞いていないけど、どうもアイドルイベントに参加するそうでね。参考になると思う」

「はい。ありがとうございます、先生」

 

「私もついて行ってよいかな?」

 

 ニヤニヤと笑っているセイア。

 

「……」

 

 セイアの言葉に少し――顔を曇らせるマリー。

 

「ああ、もちろん。しかし、何か興味のあることでもあったかな? セイア達の方は本番のことは決まっているんだろう?」

「ああ、アイドルイベントのことではないさ。少しヴァルキューレ警察学校のことを見てみたくてね。……このような機会でもないとトリニティを出る機会がないのだよ」

「……あの、ここはトリニティではなくてシャーレですが。えと、そもそも大丈夫なのですか? セイア様は、その――お体が」

 

「ああ、体調について心配してもらう必要はない。救護騎士団の元で療養し、他にあった出来事もあり今は恢復している」

「あ……はい。なら良かったのですが」

 

 ちらりと先生の方を見て頷いたのを確認する。セイアが意図的にぼかしたことも分かってはいるけれど。

 とはいえ、生来の善性もありそこで納得する。秘密を探るという発想もない。

 

「まあ出発しようか。そういえば、マリーもD.U.は初めてかな?」

「はい、そうですね。連邦生徒会のお膝元と聞いていますが……」

 

 歩き出す二人、そこにセイアもついてくる。

 

「トリニティほどの隆盛を誇る訳ではないね。可もなく不可もなくといったところらしい。もちろん目にしたことはないが」

 

 話しながら三人で電車へ向かった。

 

「い、いえ――D.U.も悪いところではないと思いますよ……?」

「悪くはないと言っているだろう? 少なくとも、先生を一人で出歩かせても――まあ問題のない範囲だね。正直、あまり一人で出歩いて欲しくはないのだが」

「はは。まあ、機会次第でね?」

 

「先生? あの……先生は銃弾一発が危険なので、護衛もなく外を出歩くのは。それと、セイア様もそれは同じことではないでしょうか……?」

「おや、マリーもそう言うのかい? 大丈夫だよ、皆良い子だからね――そんなに心配することはないさ」

「そう言う訳さ、マリー。こういう危なっかしい人だから、この先生は目を離せない。まあ今さら誰かの目が離れるようなこともそうそうないのだけどね」

 

「セイア様、それはどういうことですか? それと、私の名前をご存じでしたか」

「シスターフッドの中心人物の一人の名を知らぬはずがないだろう? あと、先生のことならキヴォトスを救った英雄で。そしてミレニアムにゲヘナ、それに今から行くヴァルキューレ警察学校にも知り合いを作っている。有名税が一人になることを許してくれないさ」

「……はは。有名税と表現されると、少し気分が落ち込むね。まあ出歩いていると色々な子が話しかけてくれるのはありがたいよ」

 

 先生は苦笑している。

 

「そして今から訪れるヴァルキューレ警察学校、そこは万年赤字で装備更新も遅れているらしいね。かつて『災厄の狐』と呼ばれるテロリストを確保したSRT特殊学園が編入されているということだが……主戦力は離反したとのことだ。さて、彼女たちの行方を先生は知っているのかな?」

「――みんな元気にやっているよ」

 

「なるほど、素性まで掴んでいるのだね。さすがは先生。……ああ、所属なしの彼女達がそうだったか」

「……セイア様?」

「ううん、別に答えてあげたいんだけど――向こうの都合もあるからねえ。あまり刺激しないであげてね?」

 

「それはもちろん。実を言うとそれほど興味は持ってない。今日は、あの連邦生徒会長のお膝元を見てやろうというのと――ちょっとした意地悪さ」

「……ッ!」

「そ、そう。お手柔らかにね? それが誰に向いてるのかはよくわからないけど」

 

「ふふっ。それはもちろん……諸々さ」

 

 会話で情報を抜いたり、色々と不穏なことはあったものの――三人はヴァルキューレ警察学校に着いて、先生がアポイントを取った人物の元まで歩いて行く。

 

 

「……ふむ。設備が老朽化しているね。それに装備もあまり良くないようだ」

「あの、セイア様……そういうことはもう少し小声でお願いします……」

「予算不足で苦労してるらしいからね……」

 

「練度も……SRTの彼女たちに比べると雲泥の差……いや、それはミカちゃんと正義実現委員会の子を比べるようなものか? しかし……」

「……へ、平和で良いのでは?」

「凶悪犯もあまり出ないらしいし」

 

「しかし『災厄の狐』が暴れまわったとのことじゃないか。先生にとってはハスミと初めて会ったときのことだろう」

「そ、そんなことが!?」

「まあ……あそこまでのことは滅多にないし。それに、なにかあればSRTの子も手伝ってくれるから」

 

 小声で内緒話をしつつ、部屋に通された。

 

「こんにちは、先生! それとシスターさんと……えと、かわいらしい方ですね!」

「ああ、こんにちは、キリノ。こっちはマリーで、こっちはセイアだ。よろしくしてあげて」

 

 先生が挨拶をして、紹介し合う。

 

「本官は中務キリノであります。以降お見知りおきを!」

「あっ。伊落マリーです。よろしくお願いします!」

「……こう扱われるのも慣れないね。私は――」

 

 セイアが自己紹介しようとした瞬間に驚愕の声が遮った。

 

「まさか、百合園セイア……!?」

「フブキ……? まさか、彼女を知っているのでありますか?」

 

「そっちこそなんで知らないんだよ、有名人だよ。姿を消していたトリニティの生徒会長、その理由は病床についていたからって話だけど……」

「おや、セイア殿はご病気だったのですか。大丈夫ですか? 辛ければ椅子を持ってきましょう」

 

「ああ、今は恢復したから気にしないでくれ。それと、立場のことは気にしなくて良いよ。君たちはヴァルキューレの生徒なのだから」

「そうですか、では特に気にせず」

「それで済むの、アンタは大物だね……」

 

「それで、先生から伺った話ではアイドルのことを聞きたいと言うことですが」

「うん。アイドルについてマリーに教えてあげて欲しいんだ。とりあえず、衣装だけは当てがついたんだけどね」

 

「ああ、なら良かった。気付いたら衣装が来てたもんね~。そこを頼られても私たちにはどうしようもないよ」

「あ、ここからは本官がご説明します! 実は私たちがアイドルイベントに参加する理由は、民間企業から支援要請が入ったからなんです」

「……民間企業? どこかな?」

 

「本官とフブキがよく利用するドーナッツ屋さんから、宣伝のためにアイドルをやってほしいと言われまして……」

「それでアイドルに!?」

「あまりリターンの期待できる話ではないね。購買意欲を煽る効果は低いと見える。お祭り騒ぎに参加したかったのかな」

 

「あはは。はい、そんなところだと思います」

「おかしな話でしょ? なんでドーナッツ屋さんお宣伝しなきゃいけないのさ……しかもアイドルの格好で……」

「私は見たいよ? キリノとフブキのアイドル衣装」

 

「光栄であります。では、見ていかれますか?」

「……まじ? てか、もう届いてたっけ?」

 

「あちらに届いたものがありますよ。せっかくなので、皆さんも一緒に見てみましょう」

「ああ、うん――」

 

 そして、キリノが大きな箱をもってきた。そこらへんにあったカッターナイフで開梱していく。

 その中にあった衣装は――

 

「わあ、かわいいですね」

「はは、前言撤回だ。なるほど、これなら宣伝になるね」

「……すごいね!」

 

 無責任なことを言う三人と。

 

「「……」」

 

 絶句して立ち尽くしている当事者の二人だった。3秒ほどして再起動すると、キリノが電話をかけて二人で話せるようにテレビ通話モードにする。

 

「局長! 私たちがドーナッツ屋の宣伝をする件ですが!」

「ああ、そうだな。その届け出は受けている」

 

「衣装がこんなのなんですが!?」

「………………かわいいじゃないか」

「局長、あなただったらこんなの着れますか?」

 

「……あーあーあー。そちらの声が聞こえない。どうやら通信状態が悪いようだー」

「いや、嘘でしょ」

「あ、ちょっと局長。待ってください!」

 

 ブツリと電話が切れた。絶望に染まった顔の二人が先生を見る。

 

「がんばって!」

 

 親指を立てられた。

 

「く……ふふ……! いやいや、本当にがんばってくれ。まあ、本気でやれば笑いものにはならないさ。本番で無様に転ぶようなことがあれば、まあ伝説になってしまうかもしれないがな」

「セイア様! あの、素敵な衣装だと思いますよ。お二人はどんなライブをするのですか?」

 

「ああ、では見せて差し上げましょう! やりますよ、フブキ!」

「え~、ここでやるの~?」

 

「それでは、ミュージックスタート!」

 

 キリノが踊り始めると、続けてフブキも踊り出す。大部サマになっているダンスだ。

 

「おお、すごいすごい」

「……はい、本当にすごい――」

 

 先生は無邪気に喜んでいるし、マリーは真剣な表情で1秒たりとも目を離さない。

 

「――ふむ」

 

 セイアは微妙な表情をしていた。賞賛には値しないが、しかし口を挟むのもよくないと思っている。

 二人が踊り終わる。

 

「こんな感じですね。参考になったら幸い……っ!? 警報が!」

 

 突如鳴り響く警報音。キヴォトスでは毎日のように発生する事件だ。

 

「近いですね。行きますよ、フブキ!」

「えっ!? いや、私たちはアイドルやるから通常業務は免除――」

 

「警察官としての義務を果たさなければなりません!」

「私も行くよ。少しは力になれるかもしれないし」

 

 走り出したキリノと先生。

 

「ああ、もう……! 仕方ないなあ」

「私もなにか力になれれば」

「先生に何かあってもことだしね」

 

 フブキが、そしてマリーとセイアも追っていく。その先で起きていた事件は。

 

「こっちには人質が居る! 逃走用の車両を用意しろ!」

「お前はドーナッツを寄こせって言ってんだよ!」

「だから店長が居ないと出せないんですよう!」

 

 件のドーナッツ屋で、人質事件が起きていた。

 

「これは……どうしましょう」

「う~ん。もう皆集まってるし、私たちが出しゃばる必要はないんじゃ……」

 

 人質がこちらを見て指を差す。

 

「あっ、フブキちゃん。助けに来てくれたの!?」

「あ~もう、やらないわけにはいかなくなった……!」

「ですが、犯人は二人います。同時に制圧しなければあの方が危険です」

 

 駆け付けた警官二人は人質とコントしている。

 

「……ふむ。ヴァルキューレというのはたかが二人を相手に動けなくなるのか」

 

 セイアは冷静にこの警察組織の練度を測っていた。

 

「――ッ!」

 

 そして、一方のマリーは飛び出していった。

 

「……ッ! ッ! ――ッ!」

 

 先ほど目にした振付のラーニング。シスターなどと侮るべからず、『シスターフッド』はティーパーティーに対するカウンター。それはミカに苦渋を飲まされたとはいえ戦闘組織だ。

 その中で存在感を示す存在が、一芸の一つや二つ持っているのは当然のことだった。

 

 恵まれた身体能力と集中力が、素人であっても”見れる”だけのダンスを可能とする。またあまりにも場違いな行動が全員の目を釘付けにした。

 

「お、お前――シスターが何をやってる!?」

「……じっ」

 

「じ?」

「じ――」

 

「だからなんだよ!?」

「時間を稼いでいますっ!」

 

 コントに見えるが当人は必死。犯人はまんまとしてやられたと唇を噛み締め、しかし行動を再開させる。

 

「くそっ。人質は――」

「……今のうちっ」

 

 目を離した隙に人質は逃げてしまっていた。

 

「おやおや、まったく。規律など存在しえないお粗末な動きだね。こんな挙句で何かをできると、本当に思っているのかい?」

 

 そして、その場所には代わりにセイアが居る。

 

「なんだ、テメエ。トリニティのお仲間かよッ!?」

「鈍い」

 

 下ろしてしまった銃を今一度押し付けようと上に持っていく、その銃をセイアに押さえられた瞬間に。

 

「な――っ!? がッ!」

 

 まるで自分でそうしたかのように頭を地面に叩きつけてしまい、気絶した。その原理としては合気道、相手の力すら利用して思い通りに振り回す技だ。

 まるで手品のような一蹴に。もう一人の犯人は戦慄を禁じ得ない。

 

「お前、何を……!」

「少し力の方向を変えてやっただけさ……」

 

 恐怖を感じた犯人が一歩後じさる間にセイアは彼女に肉薄する。その小さな身体で指の一本を握りしめ――

 

「あいでででっ……!」

 

 そこから信じられないほどの激痛が登ってくる。少しでも逃れようと楽な方向に動いていると、気付いた時には後ろ手に拘束された姿勢になってしまう。

 

「さて、これで解決かな」

「ひっ……!」

 

 抵抗できなくなった犯人をセイアが撃つ。気絶した。

 

「あとはヴァルキューレに任せよう、マリー」

「……え? あ、はい。そうですね。あの――お強いんですね?」

 

「なに、まだミカちゃんには負けてあげるつもりもないのでね――鈍らせない程度に、これくらいはね」

「はい、ミカ様に……え、ミカ様に? ミカ様と同じくらいに強いと……?」

 

 マリーは絶句する。シスターフッドにとってはミカこそが地上最強でいつか倒すべき相手だった。いや、マリーは倒すべきとか考えていなくても。

 それと同クラスどころか、強いと言ってしまえるなんて……

 

「ああ、うん。キリノは忙しくなりそうだし……マリーも、ダンスがサマになっていたよ。ここはお暇させてもらうことにしようか」

「あ、はい……そうですね。そのまま使う訳にも行きませんし、少しネットも見てみます」

「そうするといい。パクリとリスペクトの違いだ、まさか謝肉祭に完コピを披露するにもいくまい」

 

「ああ……著作権。いや、キヴォトスだとあまり守られてないんだっけ」

「訴状の代わりに銃弾を叩き込む輩が多いからね」

 

「……物騒だ」

 

 先生は頭を抱えた。こんなんばっかか、と。

 

「そのようなことにならないように気を付けますね」

 

 ふわりと微笑むマリーだが、先生の悩みはちょっと違った。

 

「あの、先生。私にはまだアイドルというものが分かりません。だから……」

「ああ、明日もよろしく。マリー」

 

「はいっ! こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 今日一番の花が咲くような笑顔を見せたのだった。

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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