聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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デカグラマトン VS 3大校連合編
連合軍編1話 風紀委員長とお茶会


 

 トリニティの駅前でどよめきが起きている。ただ二人で並んで歩いているだけの人が、遠巻きにしている群衆から猜疑の目で見つめられている。

 ――ゲヘナの人間がトリニティを歩くにはまだ隔意があるのだ。とはいえ、ただ見られるだけで因縁をふっかけられるどころか声をかけられることすらないのだけど。

 

 その異様な空気の中を空崎ヒナは迷わず突き進み、イオリは慌てて追いかける。

 

 まあ、地図などスマホを見れば分かるのだ。別に駅前は機密でもなんでもないし。そして仮想敵国の人間と言えど、出歩くことを禁じる法はない。

 彼女がトリニティを歩くことに不思議はないし、咎められる謂れもない。

 

「――やっほ、ヒナちゃん。早いね」

 

 そこに、親し気に声をかける人間がいた。

 

「ミカ、迎えに来てくれたの? 別に道が分からないことはないわよ」

「いや、ほら……ナギちゃんの前じゃ無駄話しにくいじゃん? あの子、初めからシリアス全開で行く気だよ?」

 

 しれっと二人に合流したのは聖園ミカ。彼女が来たことで猜疑の目線は消えていく。ミカが居るなら、トリニティにとって悪い事にはならないだろうという空気がある。

 

「いえ……その方が都合がいいと思いますが……?」

 

 イオリがおずおずと聞く。今日は付き人としてヒナについてきた。

 

「分かってないなあ、イオリちゃんは。アイスブレイクもなしの協議なんて宣戦布告と変わりないじゃんね」

「宣戦布告ではないと思うわ」

「――聖園ミカ、こういう人だったんですね……」

 

「うん? キュートでかわいいって?」

「誰もそんなことは言ってないわ」

「こんな人だったんですね……」

 

 馬鹿話などをしながら優雅に歩いて行く。もっとも、周囲の目はものすごいことになっていたけども。

 

「――まさか、ゲヘナの子と通じてた……? そんな、そんなことがありえるの? ……後ろを付いて行く子は……まさか3P?」

「いいえ、見てごらんなさい。あの小さくてかわいらしく、けれど威厳のあるお姿。きっとあの方はゲヘナのお姫様で、後ろの方は騎士なのよ……!」

「……はっ! では――BSS……?」

 

「知ってるの、雷電?」

「雷電じゃないわ。BSS、僕が先に好きだったのに――きっと、あの騎士様はお姫様に恋をしていたの。けれど、お姫様は別の国のお人に惹かれてしまったのね。ほら、騎士様が気まずそうな顔をしてる」

「ゲヘナのお姫様……! そんな、禁じられた恋が二人を燃え上がらせてしまったと言うの……? まるでロミオとジュリエット……!」

 

「待ちなさい。そんな……それじゃ、ナギサ様との熱愛は……? お屋敷の中でずっと待ち続けて……?」

「いえ、ミカ様はヒフミさんと――」

「違うわ。ミカ様にとって女は駄菓子なのよ。たくさんつまみ食いなされて……」

 

 妙に――べったりとした熱い視線が集まっていた。

 女の子はコイバナが大好きなものだから、ミカの噂は尾ひれがついて拡散されてとんでもないことになる。

 人のうわさも75日と言うが、また新たな噂が生まれた瞬間だった。

 

「あの、委員長? なんか変な目線を感じるのですが」

「なんのこと? まあ、ゲヘナの人間は珍しいのでしょう」

「そうかな? いつもこんなもんだよ」

 

 まあ、なんのかので3人はトラブルもなく学園にまでたどり着く。

 

 

 

 そして、ナギサとセイアが待つお茶会に出席する。なぜわざわざトリニティにまで直接足を運んだかと言うと、このためだった。

 

「わざわざ足をお運びいただきありがとうございます、ヒナさん。ミカちゃんは迷惑をかけませんでしたか?」

「お招きいただきありがとう、ナギサさん。いえ、緊張をほぐしてもらえたわ」

 

 お茶会は和やかに始まった。

 結局は失敗に終わったエデン条約、それを推し進めていたのはナギサとヒナだ。ミカがアリウススクワッドと繋がっていたとするなら、ナギサにとってのそれはゲヘナ風紀委員だ。

 もっとも、微妙な政治問題になることもあって大手を振って茶会に呼んだのは初めてのことだが。

 

「そうですか、それは良かった。お忙しいヒナさんの手前、お手間を取らせるわけにはいきませんからね。単刀直入に行きましょう」

「――エデン条約についてね」

 

 空気が緊張する。イオリでさえも、緊迫した空気に唾を飲み込んだ。

 和平条約とも言えるエデン条約。別に蹴られたからと言って、すぐにゲヘナとトリニティで戦線が切って落とされるわけではないけれど。

 しかし、一度は失敗に終わったそれを引き合いに出すのは並大抵のことではない。

 

「その通りです。トリニティにエデン条約の再開を拒む理由はありません。ですが――」

「ゲヘナには。……万魔殿にはその気がない。私も親書を破り捨てたと聞いているわ」

 

「しかし、それは筋を通すためで色好い返事を期待したものではありませんでした。それと言うのも、万魔殿のマコト議長はアリウスと繋がりがありましたので」

「――」

「なんだと!? そんなこと、証拠があるのか!? ……あ、あるんですか?」

 

 ヒナが静かに目を伏せたが、イオリはたまらず叫んだ。

 トリニティにミサイルがぶち込まれた。それは良い。いや、よくはないのだがキヴォトスの治安の悪さを思えば大したことではない。

 問題は、そこに”先生”が居たこと。あまり頭を使わないイオリでも分かる、それはマズイ。先生に危害を及ぼした、となれば――ゲヘナを世界の敵(パブリック・エナミー)として世界に向けて偏向報道されかねない。すべての自治区を相手に、孤立無援で戦う未来が見えてくる。

 

「ええ。――サオリさん」

「ああ、私から証言しよう」

 

 ナギサが呼びかけると、壁際に背を預けていたサオリが絶っていた気配を現した。

 

「なっ!? お前、いつからそこに!?」

 

 イオリが睨みつけ、銃を構える――寸前で止める。お茶会で、相手が銃を構えてもいないのに銃を抜くのはダメだという理性はあった。

 とはいえ、イオリの認識では彼女は未だ敵だ。エデン条約を破壊した張本人は万魔殿ではなくアリウススクワッドなのだから。

 

「あはは。イオリちゃん、びっくりしてるじゃん。というか、座ればいいのにさ」

「ミカ、私はここでいい。それに、空崎ヒナは気付いていたぞ。そう、”始めから”な」

 

「……始め、だと?」

「彼女は駅前からずっと私たちに付いてきていたわ。ミカと一緒に来た。護衛、というわけではないでしょうけど」

 

「――まさか」

 

 イオリは愕然とサオリを見る。監視……いや本当に監視かはともかく、そういうことをされて気付かなかった。

 実力が違うと歯噛みする。

 

「ま、彼女は生き証人なわけさ。なにしろ、スクワッドとしてアリウス実働部隊のトップを張ってたんだから」

「……実働部隊? 彼女は生徒会長ではないの?」

 

「肩書なら生徒会長と言ってもいいだろう。だが、私は指示を受けて動いていただけの立場だ。糸を引いていたのは大人――マダムだ」

「その話も後で詳しく聞かせて欲しいけれど」

 

「ああ、まずは羽沼マコトのことだ。彼女には事前にミサイルについても話を通していた。そもそも撃墜された飛行船はアリウスが贈ったものだ――爆弾付きでな」

「…………そう、マコトらしいわね」

「いやいや、委員長!? それでいいんですか? あの事件の片棒を担いでいたんですよね。さすがにそれは大事件ですよ!」

 

「ま、安心するといいよ――イオリちゃん。こんなの表に出せる情報じゃない。というか、事前に関係が切れたとはいえ私だってサオリとつながっていたんだもの。さらには本人までここに居るんだから、トリニティにしたって藪蛇なんだ。こんなのリ-クしたら、自分の首まで締まる」

「そうですか。それなら安心……できる訳がないでしょう!?」

 

 叫んだ。

 バラせば互いに都合が悪いから報道機関にチクったりはできない、と言うのはイオリにとってはまったく”安心できる”状況などではない。

 

「あはは。イオリちゃんって面白いねえ。まあ、そんな訳でエデン条約の再開は絶望的なのさ。いくらマコト議長が馬鹿だからって、もう一度ミサイルをぶち込むために調印式参加なんてする訳ないじゃんね」

「……あ、そうですね。言葉巧みに騙すのも――無理そうな気が」

「ああいう手合いは自分の失敗を認めたくないがために、そういうものをすべて否定するわ。エデン条約と名のつくすべてを却下する」

 

「はい。この話をするためにも、ヒナさんをお茶会に呼ばせていただきました」

「そうね、こんな話は通信では無理ね。それで、ナギサさんはどうするつもり?」

 

 滝のような汗をかいているイオリと違い、ヒナは素知らぬような涼しい顔をしている。まあ、それは何かあれば叩き潰せばいいという脳筋思想だろう。

 ナギサとミカのことを信頼しているから、戦争にはならないと確信していることもある。

 

「あは。ヒナちゃんは前向きだね」

「ナギサさんはこんなことでは諦めない人だと知っているもの。手を変え、品を変え――名前がどうなったとしても、目的は達成する人だわ」

 

「ううん……友情――というよりもなんかライバル心? 認め合う好敵手みたいな雰囲気を感じるよ。でもナギちゃんは詭弁で人を騙すけど、ヒナちゃんは結果で人を黙らすタイプじゃんね。そんなタイプが違う子が好敵手になったりするかな?」

「――そう、かしら……?」

「……」

 

 疑問を浮かべるヒナと、無言で頷くイオリだった。

 

「ミカちゃん、私は誠心誠意お話をしているだけで、決して人を騙すことはありませんよ」

「うんうん。オハナシをしているうちに考えを変えられるんだよね。みんな、確固とした意思がある訳じゃないしねえ」

「ナギサさんは誠実な人だと思うわ」

 

「だって。良かったね、ナギちゃん」

「ミカちゃんが話に加わると脱線するので黙っていてください」

 

「最初からずっと置物になってるセイアちゃんみたいに?」

「私はミカちゃんと違って、口を開くべき時というものを弁えているだけだがね」

 

「さて、ヒナさん。エデン条約の継続は絶望的な状況です」

「ええ」

 

 ミカは懲りずに「強引に話を巻き戻したよ」などと言うが、当然誰も反応しない。

 

「なので、発想を転換します。エデン条約は長年に渡るトリニティとゲヘナの抗争状態に対する和平の象徴になるはずでした。ですが、結局キヴォトスの治安状況を考えれば銃撃戦程度は織り込まなければなりません。そこで私たちが防ぐべき最悪の事態とは何でしょうか?」

「テロが起こるくらいはゲヘナでは日常。トリニティでも他自治区の生徒と銃撃戦が起こっていないことはないでしょう。ならば防ぐべきは戦争の開戦……正義実現委員会と風紀委員会の全面戦争ね」

 

「はい、その通りです。協力体制を築けるところまで行けば理想ですが、最低限のラインとして互いに関わらない協力の仕方ができればそれで構いません。犯罪者の取り合いや小競り合いは些事なのです」

「そのとおりね。平和を宣言し、協定を結ぶことでそれを実現するのがエデン条約だったわ。だけど、それは叶わなくなった。……どうするつもりかしら?」

 

「ティーパーティーと万魔殿のエデン条約は立ち消えた。なら、正義実現委員会と風紀委員会が”仲良くなれば”よいのです。そうなれば、馬鹿な上や無責任な聴衆が何を言おうとも最悪の状況には至りません」

「みんな、お互いのことを知れば仲良くなれる。戦争なんてしなくていい――なんてことは夢物語だけど。それでも、付き合ってみて分かることもあるから」

「――ナギサさん、ミカ。……そうね。仲良くなることはいいことかもね。正義実現委員会の委員長は剣先ツルギさんだったかしら」

 

「ええ、ですが委員長だけでは意味がありません。部員の一人に至るまで、友好を結ぶことができれば……」

「エデン条約などよりもよほど強い絆になるわね。正義実現委員会と風紀委員で交流を持つか。――それで」

 

「はい。連合を組み共同戦線と参りましょう」

 

 さらりと差し込まれた言葉。治安維持組織の本質は暴力団体だ、誰よりも強い力を持つからこそ国体を保つことができる。

 戦いに生きる者同士、真の友誼を結ぶには会食などでなく戦争の場でしかないだろう。

 

「共同戦線……!」

 

 イオリが驚いて立ち上がった。

 

「――」

 

 ヒナは冷静にナギサのことを見返している。

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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