聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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連合軍編2話 連合軍結成

 

 

 長年の抗争の歴史を紡いできたゲヘナとトリニティ。抗争を終わらせる和平のエデン条約継続は絶望的、そんな状況の中でナギサは両者の連合軍結成を提案する。

 

「正義実現委員会と風紀委員会による連合軍――ミカも参加するの?」

「ええ、当然。ティーパーティーは後方支援担当、もっとも私は前に行くけど」

 

 ニィと笑う。自分が強いということは自覚している。今まで前線に立つことがなかったミカが表に立つ。

 それは状況が変わったから。ティーパーティーはそれぞれ互いへの報復手段を有していた。ナギサは政治、セイアは未来予知、そしてミカは己の強さで。

 RPGで魔王が魔王城の椅子を守っているのはちゃんと理由があるのだ。勇者を始めの村で殺してくれるなら、その隙に別働部隊が城を焼けばいい。王様が席を外せば城が堕ちるから、逆説的に城を離れられないのがその真相。

 

 ――信頼できる仲間が居る今は、魔王城の椅子を守る必要はない。

 

「そちらの錠前サオリは?」

「私は指示に従うのみだ。だが、ミカが前に出るならスクワッド全員でそのサポートに付くだろう」

 

 サオリはただ己を兵士として律している。

 ティーパーティーと交わした裏取引、責任を負うことがあれば自分一人で引き受ける。その代わりにスクワッドの仲間の身分を保証してもらっている。

 

「ふふ、豪胆ですね。相手の方を気になさらないので?」

 

 ナギサはふわりと微笑む。

 ヒナはもう共同戦線を引き受けるような体で話を進めているが、敵の詳細どころか名前すらも聞いていないのだ。

 

「私とミカが組むのなら敵は居ないと思うけど。……けれど、私たち二人で終わらせては共同戦線の意味もないわね。振り下ろす拳は巨大だけど、向け先は?」

「ま、相手になるのなんかそうそう居ないよね。ただ規模だけで言うならカイザーなら戦いにはなるかな? まあ、殲滅まで何分持つかってだけだけどね」

 

 やれやれと肩をすくめるミカ。最強でごめんねとでも言わんばかりの舐め切った態度である。

 カイザーはあれでも世界を席巻する大企業だ。キヴォトス最大のトリニティすらも上回るだけの勢力を持っているのにも関わらず。

 

「カイザーを消滅させるのはさすがに困るわ、ミカ」

「いやいやいや、カイザーを攻めるのはさすがにまずくないですか委員長!?」

 

「ええ。カイザーを消滅させては自治区の機能が停止しかねません。小賢しいことに、彼らが居なくては維持できないインフラもありますので」

「ですよね!?」

「それで、ナギサさん。誰を相手に選んだの? あなたのことだから、選定は済ませてあるのでしょう」

 

「はい、もちろんです。目標はアビドス――『デカグラマトン』。ヒトの手によらずして存在する機械、ヘイローを持つ”人間の敵”です」

「『デカグラマトン』……『虚妄のサンクトゥム』で戦った敵ね。けれど、あれは『ビナー』と言ったかしら。ええと」

 

 ヒナが空中に視線をさまよわせる。

 いくら多忙なヒナと言えど忘れがたい記憶はある。キヴォトス全域を覆い尽くした赤い空。そして、同時に倒さねばならない6つの災厄はもっとも厄介だった仕事の一つだ。

 6つの中の一つがそれだった。

 しかし、虚妄のサンクトゥムはただ再現して利用しただけだ。それはずっと昔から人間の脅威として存在し続けていた。

 

「ま、そういうことだね。今回の相手は『ビナー』だよ、サンクトゥムが生み出した複製じゃなくてオリジナル。どうやら『デカグラマトン』ってのは、アビドスのアレ以外にも居るらしくてね。ま、情報はないけど」

「ミカ、カイザーの情報を?」

 

 ヒナは言葉少ないながらも頭は高速回転させている。それのことをデカグラマトンと呼び、そして交戦データを持つところは一つ。カイザーだ。

 アビドス砂漠で”世界を支配する兵器”を発掘している最中に交戦の履歴があったのは、ゲヘナの情報部でも掴んでいる。もちろん、目的に関しては先生とのあれこれで初めて分かったことだけど。

 

「便利な奴が居てね。ま、毎回ぶっ飛ばされてるから参考にならないんだけど。あいつら、我が物顔で通り去ったのを撃退したって報告書に書くからねえ。一匹残らず蟻を踏み潰す理由は向こうにはないじゃんね☆」

「そうね、やりそうだわ。そして、オリジナルが相手ならば……一度戦った敵とも言えないのでしょうね」

 

 とはいえ、戦闘データがあると言えどもカイザーでは雑魚過ぎて参考にならない。ちゃんとした敵でないと使わない武装も当然あるはずだ。

 

「はい。シャーレのデータは、あくまで『虚妄のサンクトゥム』が展開した複製体です。姿を始めとしてオリジナルと共通する部分があるとはいえ、予断をもって臨むのは危険でしょう」

 

 さらに言えば、虚妄のサンクトゥムで一度倒したとすら言いづらいのだ。変質したあれと同じと油断すれば、待つのは敗北だろう。実際、あれは『色彩』に汚染されていた。

 結論すれば、データがあっても信用に足らない。そしてただ強いということだけは分かっている難敵だ。

 

「確かにゲヘナとトリニティが手を組むに値する敵ね。……イオリ、懸念点があるようね。言ってみなさい」

「あ、はい委員長。そのビナーが存在するのはアビドス自治区近くですよね? 政治的なことは大丈夫なんですか?」

 

 とはいえ、イオリは別のことが気になる様子だ。風紀委員がよく揶揄されることは、ヒナだけの風紀委員。ヒナは別格なほどに強いから。

 だからこそ、相手の強さより別のことが気になった。まあ、ここに居ないチナツの代わりを果たそうとしているところもあるだろうけど。なにより、今は銃ではなく頭を動かす場面だ。

 

「あはは。ちょっと観点が違うかなあ」

 

 とはいえ、まだまだ不足とミカは指を振る。それではまだまだ政治家の視線には至っていないと。

 

「ええと……ミカさん? どういうことでしょう?」

「政治家にとって『真実』なんてないのさ。あるのは『事実』と誘導したい『世論』。世界を変えるのは勇気でなく詭弁だよ。アビドスが第三者(先生)の下に自治区として許可を出すことで実効支配の事実を作るの」

 

 戦闘員にとって世界が『暴力』であるのなら、政治家にとっての世界は『詭弁』だ。言葉が世界を決める。

 アビドスは借金漬けでカイザーに支配権を奪われかけているのは事実。自治区内で戦闘を許可する『権利』はもはや”ない”。だからシャーレの権威をもって強行するのだ。強者の威を借りて道理を無理で押し通す。

 

「それを先生は?」

「すでに話は通してあります。ヒナさんが良ければ実行可能です」

 

「いえいえ、委員長。それにしても……その、アビドスに有利すぎませんか? そもそも実際の権限は及んでないってことですよね……」

「それもそうかもしれないわね」

「けれど、ゲヘナとトリニティが共同で拳を振り下ろせる相手というのは中々いません。トリニティにしてもゲヘナにしても、どちらの自治区でも部隊を展開すればマコト議長に利用される恐れがあります。彼女は贈り物でアフロになる馬鹿ですが、愚かではありません」

 

「なら他の自治区は……普通は他自治区の作戦行動など許さないな。それは侵略行為だ。そもそも敵だって中々見つからない」

「確かに、『ビナー』は都合の良さそうな敵ね。アビドスでなら無茶もできる。作戦は?」

 

「あれは特殊な信号を発していますので、位置特定は容易です。トリニティからはミカちゃんとスクワッドを、ゲヘナからはヒナさん――それと必要であればもう一名を選出してもらって、突入部隊としてファーストコンタクトを担当してもらいます」

「なら、イオリを連れていくわ」

 

 イオリの肩がビクっとなるが反論はしない。いや、自分でも肩を並べるには不足があると思うのだが、それはゲヘナの人員不足を白状するようなものだ。

 ヒナのおまけなど言わせないぞと、一人無言で気合を入れる。

 

「そうですか。では、イオリさんも一緒にビナーを足止めしてもらいます。そこに急行した戦車部隊で対象を撃滅します。……サオリさん」

「『ビナー』はヘイローを所持している。そして、通常ではありえない強度と攻撃力を持ち合わせることは判明している。……そう、生徒と同様に。ならばヘイローの破壊は我々こそが専門家だ、今回の目的は撃退ではなくヘイローの破壊だと聞いているゆえにな」

 

「……」

 

 先生の負傷事件を思い出して、ヒナが少し怖い顔をした。とはいえ、あれが実際には血のりを使った狂言だと後で知ったから何かを言うことはないけれど。

 

「ヘイローを破壊する手段としては銃撃よりも身体機能を攻める方が望ましい。が、機械に溺死その他が通じるとも思えない。ゆえに過剰な飽和砲撃の維持によって対象の息の根を止めるのが現実的だと判断する」

「……過剰な飽和攻撃? それも砲撃を維持すると言うの? どれだけの火力をつぎ込む気?」

 

「普通の生徒でも、拘束した上で長時間の飽和攻撃を行わなければヘイローの破壊には至らない。もっとも、そのまま放置すれば消耗して餓死することもあるが。しかし、ビナーを逃せば自らを修復される恐れがある。息の根を止めるつもりで挑まねば倒すことはできないと考えている」

「そうね。それだけの敵だから、私たちが手を組むのですものね」

 

「ま、そういうことさ――ヒナちゃん。お相手はナギちゃんの言う”人類の敵”だ、生半な覚悟じゃこっちが食われる。生き残るのは生徒か機械か、期限切れの砲弾消費と思ってるとヘイローが砕けるのは私たちの方ってわけじゃんね」

「そうさ。人類の敵と言うからには、それだけの力を持っていると言う訳さ。『デカグラマトン』とは、伊達ではないのだろうから」

 

「……セイアさん。デカグラマトンを知っているの?」

「そのような単語はトリニティの歴史には存在しない。だが、畏れ奉り――口にすることすら慎むべき聖四文字を”テトラグラマトン”と称された。デカとは10、それもその一つがビナーとなれば、それは生命の樹を示すものであるのだろう」

 

「ふーん。セイアちゃん、生命の樹ってなあに?」

「……生命の樹はトリニティの教義の中にも存在するのだがね。それは10の王冠にして、無限を昇り詰めるための10の階梯。永遠の命を得るための、エデンの園にあるリンゴのことだよ」

 

「――エデン!」

 

 ヒナががたりと立ち上がる。まさに不気味な符号だった。そして、連邦生徒会長の経歴を考えれば、それは妙に現実味のある懸念だった。

 いくつもの事件を乗り越えて信じることの大切さを知った? 絶賛行方不明中の生徒会長をどう信用しろと言うのだ。

 

「あは。これはあれかな? 姿を消した連邦生徒会長はここまで知っていたのかな? まさか、10の試練を乗り越えろとか言わないよね」

「さて、私ですらあの人の考えは理解不能だった。空崎ヒナ、君は会ったことがあるかは知らないが――おそらく万魔殿のマコト議長も同じ見解だろう。あの瞳に何を見ていたのか、それを考えると寒気がしてくる」

「……直接の面識はない。だけど」

 

「あの、委員長? そんなとんでもない人だったんですか、連邦生徒会長って」

「あはは。それは会ったことがないからそう言えるんだよ、イオリちゃん。あの人は違うよ。何がとかそんなんじゃなくて、ただ”違う”んだ」

 

 ミカですら、連邦生徒会長を思うとぶるりと震える。

 

「ミカも会っているの?」

「これでも生徒会長だからね。機会はあったよ、興味もあったし」

 

「しかし、やらなければなりません。連邦生徒会長が何かを企んでいるのなら、その打算ごと砲火で撃ち砕く以外にありません。ともに手を取り合うために、今は戦いましょう」

「そうね。マコトに動きを悟られても面倒だもの。――すぐに準備をして向かいましょう。今のキヴォトスでは、悠長に準備する贅沢は許されていないわ。きっと」

 

「はい。ヒナさんがよろしければ明日にでも。かつてのサンクトゥムも、あるもので何とかするしかありませんでしたからね」

「そういうことね。準備が必要な武器は使えないわ。さっさと済ませましょう。それと、先生は来てくれるの?」

 

「もちろん。シャーレとして総監督、そして突入部隊の指揮を兼任していただきます」

「そう。……ついてくるの?」

 

「いいえ、もちろん同行ではなく私やセイアちゃんと一緒に指揮所に滞在していただきます。まあ、先生は行きたがっていましたけどね。ですが、砲弾が雨あられと降り注ぐ中に先生を行かせるなんてできませんから」

「安心したわ。それと指揮所にはアコを行かせる。……いい?」

 

「はい、承りました。ああ、指揮所にはアビドスの小鳥遊ホシノさんも参加します。他のアビドスの方は不測の事態を警戒して学園に残るそうですね」

「小鳥遊ホシノが……いいえ、私には関係のないことね。分かったわ。――イオリも、いい?」

 

「はい、足手まといにはなりません! トリニティの奴らに舐められる訳には……むぐっ!?」

 

 気合十分に口を開けたところ、そこにマカロンを放り込まれてむせてしまう。

 

「あはは、まあ気楽に行こうよ。何かあっても、私かヒナちゃんがサポートするからさ☆」

 

 下手人のミカはいたずら気な笑みを浮かべている。

 

「サオリちゃんもいい加減に座ったら? 言いにくいけど……壁に背を預けて黄昏ても、そんなに恰好は付いてないよ。ほら、木の棒くわえるくらいはしないと。あ、タバコはダメだよ」

「――聖園ミカ。誰が中二病だ。まったくお前は人の神経を逆撫でしなければ気が済まんのか」

 

 どっかと座ってマカロンを口に放り込む。もちろんサオリも出席者のひとりなので席はある。

 

「ヒナさんもいかがです? 今日の紅茶は私が淹れたものなんですよ」

「そうなの。……おいしいわね」

 

「んぐっ。委員長、いいんですか?」

「どうせ作戦は明日だもの。紅茶とお菓子をいただいてから帰っても遅くないわ」

 

「はあ。……あ、おいし」

 

 イオリはため息を吐いて、マカロンを食べてみる。すぐに顔がほころんだ。

 

 

 





本編ストーリーだと、先生はビナーとかをエイミと二人だけで相手したみたいに見えますがどうなんでしょうね? システム的にバイトで何人か連れていったんでしょうか。

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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