なんか刀剣男士を顕現したら召喚士(大英雄)ってやつに勘違いされました。 作:薬師審神者
「主、気を付けて行ってくるんだよ」
「はーい」
私―――
今から私は友達の本丸に行って、誕生日パーティーを行う予定なのだ。
その友達は審神者になる時も一緒で、小学校も中学校も同じだったし、何かと仲良くしてくれてる。
何より、同じオタク女子であることから、本丸の皆に隠れてこっそりコミケに行ったり、2.5次元を浴びて来たり、推しの聖地巡礼に行ったりそれはもうかなりの付き合いである。
そんな我が友だが、初期刀や本丸の運営方針はまったく違って、私と友達では戦力が大幅に違っていた。例えば私の極短刀ちゃんが今レベル50くらいなら、彼女はレベル70くらいだ。わお凄い。
「あれ、転移ゲート、なんかいつもと違う…?」
いざ、友の本丸へ!という時、どこか転移ゲートに違和感を感じた。
見た限り故障もしていないし、転移ゲートにはどこにも異変がない。
しかし、なぜか違和感を感じる。うーん、気の所為?気の所為ならいっか。
「それじゃ行ってきまーす」
辺りが激しい光に包まれた。
◆◆◆
ウオオオオオオオオ
どこからかものすごい雄叫びが聞こえてくる。
…なんだろう?友達の刀剣男士が相撲大会でもやっているのだろうか?
パーティー前に相撲大会だなんて、なんてパワフルな本丸なのだろうか。
……………………………。
現実逃避は止めよう。私。
うん。やっぱりあの違和感は気の所為ではなかった。
絶対ここは友達の本丸じゃない。
ほぼ豪邸の友達の本丸にこんなだだっ広い草原があるわけないし、西洋風の鎧を来た騎士がいるわけない。
それに槍やら斧やら弓やら持ってる人もいるし、騎馬兵もいればペガサス(?)みたいなのに乗っている人もいる。うわお、完全武装ですな。コワイコワイ。
変に冷静になる私も私だが、普通に考えればこの状況はヤバい。
お供の1人はつけろとこんのすけに言われたけど、私が変に意地を張ったせいで我が身1つで出かけたのはまずかった。くそ、あの時の反抗期の私!
とりあえず、この状況をどうにかしなければならない。
んー、横に抜けてみる?いや、あの弓に貫かされそう。死ぬのは嫌だ。推しのライブをまだ見れていないし、イベントの周回も出来てない。
とはいえ、隙だらけであの軍隊に突っ込むわけにもいかないし、じっとしているわけにもいかない。
…神様、なぜ私をこんなところに?
いや、考えろ私!この状況を打破する方法を!
あ、そういえば、審神者って確か緊急時に刀剣男士を召喚することが出来るんだっけ。見習いの時に馬鹿みたいに霊力を使うと先輩に言われた記憶があるんだけど…。
いや、思い立ったら吉日。物は試し。やってみなきゃ分からない。
って、どうやってやるの?なんか適当に呪文でも祝詞でも唱えてたらいいのかな?間違えて何も起こらなかったらそれはそれで恥ずかしいけど、まあなんでもいっか。
「刀に宿りし付喪神よ、今ここに顕現せよ!」
思ったよりショボイセリフになったけど、何とかなるだろう。
その証拠に私の霊力がどんどんと消耗されていく感覚がする。
そして、私の周りにブワッと桜の花びらが舞い散り、よく見た背中が現れた。
「あんた、大丈夫か」
「まんばちゃん…!」
「俺もいるよー」
「まったく、これはどういうことかね」
「加州に歌仙!」
「こりゃまっこと面白い場所に来たのう」
「うむ。俺たちの成果が試される所だね」
「むっちゃんに蜂須賀!」
ぶっちゃけ1振りだけかと思ったら初期刀組5振りがやってきたようだ。これは驚き。
この5振りだけかと思うと、後から遅れてまた桜の花びらが舞い散る。
その花びらの中から青い狩衣の装束を来て烏帽子を着けた、まるで儚い皇帝みたいな人が現れる。
「三日月宗近…参る」
三日月宗近が刀を抜いた。それが合図かのようにまんばちゃん達も刀を抜く。
いや、うん。あの、すごい。語彙力皆無。
まるで夢なんじゃないかと思わされるけど、戦場みたいな雰囲気と血なまぐささによって現実へと引き戻される。
「主、あんたは後ろに控えてろ」
「お荷物だってことですね。分かりましたよー」
本当はそう思ってはいないんだろうけど、まんばちゃんとは冗談を言い合う仲だ。私はお荷物ではない。…きっと。多分。恐らく。
まんばちゃん達が騎士の大群に突撃していき、金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
…まんばちゃん達はこんなことで折れたりしないだろうけど、ちょっと心配だ。
「君、こちらに」
ふと、後ろから声を掛けられる。
振り向くと、そこには紺色の髪をしたイケメンと金髪の美少女と赤毛の女性が鎧と武器を持って立っていた。
…なんか、まさに王道ファンタジーって感じがする。
「そこは危ないわよ。ここは私達にまかせて、後ろで待ってなさい。…シャロン、この子の護衛をお願いできる?」
「わっかりましたー!アンナ隊長!」
「ありがとう。アルフォンス、行くわよ」
「ああ」
何が何だか分からないんだけど。にしてもあのアルフォンスって人イケメンやな。
紺色髪のイケメン(アルフォンス)と赤毛の女性(アンナ隊長)がまんばちゃん達の所へ向かうと金髪美少女(シャロン)が私に話しかけてくる。
「あのー、どうして急に戦場のど真ん中に現れたんですか?」
いや、それは私も知りたいよ!
と、心の中で突っ込みつつ、私は言葉を濁す。
「いやー、それが私にも分からなくて…」
「ですよねー。だって、あなた、急に出てきたんですもん!」
何それ。キノコみたいにニュっと生えてきたってこと?
まあ、確かに、転移ゲートからやってきたわけだし、到着地点ではそんな感じになるのかな…?
「あと、さっきの花びらブワワワってやつ凄いですね!色んな人を召喚してましたよ!何かの魔術なんですか?」
「あーいやー、その、それは…。ご、極秘情報です」
「そうなんですね。あんな風に人を召喚できたらかっこいいですよね!」
シャロンさんのマシンガントークに若干引きつつ、私は戦場で戦っている、まんばちゃん達を見る。
こちらの方が押しているようだ。頑張れ!皆!
◆◆◆
敵もあらかた片付いた頃、戦っていたまんばちゃん達がこっちにやってきた。
…傷もなし。重傷者もなし。よし、手入れはいらなさそう。
「ったく、めんどくさいことになったな」
まんばちゃんが明らかに面倒くさそうな顔をしてそう言う。
いや、私もここに来たくて来たわけじゃないんだから!
「君…、いや、君達は一体誰だい?見るからにアスクの人ではなさそうだけど…」
戦いを終えたアルフォンスさんがやってきて、少し警戒した声で話しかける。
…なんで、警戒されてるんだろ?私、変な事した?…いや、したか。
「待って。アルフォンス。もしかしたら、彼女はさっきの召喚で呼びだした英雄かもしれないわ」
「ええ?」
召喚?英雄?
なんのことかさっぱり分からないけど、アンナさんは私達のことを敵視していないことは分かる。
私は混乱してまんばちゃんの方を見ると、こちらもまた訳が分からないという顔をしていた。
「召喚が失敗したのかと思っていたけど、すでに戦場にいただなんてね。さすがは伝説の大英雄!」
「は????」
で、伝説の大英雄?
私はそんなことを言われて困惑してしまう。だって、私はそんなにすごいことをしてないし。
貝殻を集めたり、検非違使を狩ったり、兎を追いかけたり、大阪城の地下を掘ったりはしていたけど、それは英雄がしたことに当てはまるのか…?
「あのー、人違いじゃないですか?私、英雄って言われる筋合いは…」
「何言ってるの?あなた、さっき異界の英雄達を召喚してたじゃない。桃色の花びらを散らしながらね」
…あ。もしかして、あれの事?
異界の英雄というか、三日月宗近with初期刀組を顕現させたやつ?
た、確かに人(というか付喪神)を召喚するのは只者ではないよね…?周り審神者ばかりだから感覚が麻痺してた。そりゃ、英雄って言われるわ。
しかし、英雄って呼ばれる筋合いもなく。こちとらさっさと本丸に帰りたい。それは多分まんばちゃん達もだろう。
ちらりとアンナさん達のほうを見る。明らかに帰さないという謎の視線を感じた。あ、これ帰れないタイプだ。
「私はアンナよ。アスク王国の特務機関の隊長なの。あなたの名前は?」
「な、名前?え、えーと」
名前?ここで真名を言うのはさすがになぁ。
適当に審神者でいっか。
「審神者って呼んでください」
「審神者ね。よろしく。こちらはアスク王国の王子、アルフォンス。で、こっちはアスク王国の王女、シャロンよ」
「伝説の召喚士、君の事を待っていた。ぜひ、僕たちに協力してくれ」
「伝説の大英雄がここにいるだなんて夢みたいです!一緒に戦える日がくるだなんて!」
アルフォンスさんもシャロンさんも私の事を歓迎してくれているようだ。一応。
しかし、アスク王国とか特務機関とかよく分からない。なるようになってるが、何も知らないまま、アンナさん達のところにいるのはちょっと…。
「ちょっと待て。アスク王国とか特務機関というのはどういう事だ?」
すると、まんばちゃんが私の聞きたかった事を、全部聞いてくれた。ナイス、まんばちゃん。
「そっか。あなた達は審神者に召喚された異界の英雄だものね。一旦拠点に戻りましょう」
◆◆◆
「つまり、俺達は異世界にいるってことかー」
加州がアンナさんの話を聞きながらそうぼやく。
アンナさんの話から察するに私達は異世界転移したらしい。
しかし、あんな戦場のど真ん中に転移されるのもどうかと思う。優しくない異世界転移だ。
「ちょっと思ってたんですけど、審神者さんと山姥切さん達ってお知り合いなんですか?てっきり初対面かと思っていましたけど…」
シャロンさんがそんなことを聞いてきた。
まあ、確かに異界の英雄がうんたらかんたらって言っていたから、私達がそれぞれ違う世界から来たのかと思われていたのかも。
「私とまんばちゃん達は主従関係なんです」
「へえー!確かにそう言われればそうかもしれません!」
そう言われればそうってなんやねん…。私達が主従に見えないってこと?それはそれでちょっと悔しい。
まあ、私も超ガチガチの主従はお断りだけど。
私達はなんやかんやで双方の状況を共有し合い、とりあえず、アスク王国の敵であるエンブラ帝国をぶっ飛ばしていくことになった。
「それじゃ、俺達は出陣かな」
「ちょっと待って、蜂須賀。まず、審神者に召喚の仕方を教えないと」
「召喚?」
あれ、さっきまんばちゃん達を呼び出した方法じゃ駄目なのかな?
でも、あれってエグいくらい霊力を持っていかれるからな…。
「召喚石を利用する召喚の方法よ。審神者がさっきやった召喚は審神者に負荷がかかるっぽいからね」
「え?ど、どうして…」
「だって顔色が悪いもの。審神者にはこれからビシバシ働いてもらうから、倒れてもらったら困るしね」
ああ…。なるほど。ここもブラックなんですね。いや、時の政府はそこまでブラックではないけど。
というか、私の顔色が悪いことを見抜けたの凄いなぁ、アンナさん。確かに霊力が持ってかれて体がダルいけど、まあ、これは鍛刀キャンペーンの時と同じやつなのでそこまで気にならないし。
召喚の仕方を教えてもらうため、私と付き添いのまんばちゃんはアンナさんについていく。
着いた先は遺跡みたいなところで見た目はギリシア神話に登場しそうな神殿だ。
「召喚にはオーブという物を使うの。5個必要だから、この碑にはめてみて」
「はい…」
アンナさんに言われ、真珠のでっかい版みたいな物を目の前の碑にはめると、その碑から光が溢れ出し、気づいたらオーブがそれぞれ4種類の色の石になっていた。
「なにこれ…」
「この中から1つを選んで英雄を召喚するの。今回はこの灰色のものを選びましょう」
この4色は何か意味でもあるのだろうか。ポ○モンのタイプ的な?
私が灰色の石を手に取ると、そこからブワアアと桜の花びらが飛び散った。あれ、まだ霊力込めてないんだけど。
花びらが散っている中から1人の青年の影が見える。
この人が…英雄?
「白夜王国の王子、タクミだ。一応…風神弓を継承してるよ。僕だって強いんだからな」
私が召喚した英雄は和装や鎧が特徴的な青年だった。
しかも白夜王国?っていう国の王子様らしい。なんか思ったり凄い感じの人呼んじゃった?
「タクミ、召喚してそうそう悪いけど、戦場に出てくれないかしら。あなたの協力が必要なの」
「別に構わないけど…。あんた達は誰?」
「歩きながら説明するわ」
私達は皆の所に向かいつつ、タクミさんに今の状況を伝える。アンナさんの説明でタクミさんも自身が異世界転移したのだと納得したようだ。…飲み込み早っ。
「で、あんたが伝説の召喚士ってやつ?」
「はあ、まあ、一応…」
「…もしかして、白夜の人なんじゃないの?あんたみたいな人が白夜にいたら暗夜相手に無双できそうじゃん」
「申し訳ないですけど、私、白夜王国出身ではないです」
「ふーん。残念」
怖い!王子様怖い!
いやしかし、タクミさんって和装着てるし、名前も日本っぽい名前だし…。ちょっと親近感が湧く。怖いけど。
「で、そっちの山姥切が僕と同じ審神者に召喚された英雄なの?」
「あ、ああ…。おおむねそんなところだ」
私とタクミさんの後ろを歩いていたまんばちゃんが急に話を振られ、返事が曖昧になってしまう。わ、こんなまんばちゃんもカワイイ((
そんなこんなで皆のところに着き、出陣の準備を始めることにした。
出陣メンバーが丁度10人なので、先鋒がアンナさんと蜂須賀と歌仙、次鋒がタクミさんと加州、中堅がシャロンさんとむっちゃん、副将に私とまんばちゃんで大将はアルフォンスさんと三日月だ。
加州と歌仙がなぜ私が大将じゃないのかと文句言ってきたけど、まあ現在このメンバーで一番大将にふさわしいのはアルフォンスさんだろう。アスク王国の王子なんだし。
…あれ、なんか成り行きだけど、私が決めちゃってない?大丈夫?私、戦未経験者なんですけど。
「それ、武器なんじゃないの?」
「はい?」
タクミさんにそんなこと言われて手元を見ると、いつの間にか私の手には銃みたいな武器があった。
「な、何これ?!」
「ちょ、主!」
私はびっくりして、思わずその武器を放り投げてしまう。
うわごめん。だってびっくりしたもん。
放り投げられた武器は加州によってナイスキャッチされ、なんとか傷が付かずに済んだ。
「主、例え銃であろうと物を粗末にしてはいけないよ」
「はぁーい…」
刀である歌仙達にそう言われてしまうと妙に納得してしまう。うん、この子は大事にしよう。
「それ、審神者さんの武器じゃなかったんですね。使った事もないんですか?」
「いや、そんなことは決して」
「即答ですね…。もしかして、審神者さん戦えないんですか?」
「はいそうです」
「ああ。そうだな」
ほぼ同時に私とまんばちゃんが答えると、シャロンさんがええ?!と驚いた顔をする。
「はあ、伝説の英雄さんなのでてっきり戦えるのかと…じゃ、今回が初陣ってことですか?」
「主は戦う必要ない。歌仙、こっちに移ってくれないか」
「ああ。分かったよ」
いやぁ、すいませんね。ご迷惑をおかけします。
とはいえ、本当に戦えない。審神者だし。
たまに戦う審神者さんとかいるけど、あれは例外だ例外。気にしたら負け。
「あんた、戦えないんだ」
「え?」
する事もないのでボーッとしてたら、用意が終わったのかタクミさんが話しかけてきた。
改めて見るとタクミさんもイケメンだ。ここ、イケメンしかいないところなのかな?
「僕、この戦が終わったら、あんたを白夜の軍に勧誘しようと思ってた」
「はあ…」
「でもさ、あんたが戦えないと聞いて、僕失礼なこと言っちゃったかなって…」
「そ、そんな!」
ぶっちゃけると、冗談かと思ってた。本気だったのかこの人。
隣のタクミさんを見るとどこか彼は落ち込んでいるように見える。…なんか罪悪感。
「じゃ、こうしませんか?」
「ん?」
「この戦いが終わったら、私、タクミさんの世界に行きます!私達もう仲間だし、わざわざ勧誘する必要もないですよ!」
思いつきで言った言葉でなんとかタクミさんを励まそうとする。
まあ、実を言うと、和装をするタクミさんというか白夜王国が気になるのだ。
めちゃめちゃ中世ファンタジーみたいな異世界に着物とか兜とかあったら親近感湧きすぎて泣きそうになる。
一方、タクミさんは驚いて目を見開いていた。まるで狐につつまれたような顔だ。
「…別にいいけど。それに、"さん"はいらないから」
「はい!タクミ、頑張ってきてください!応援してます!」
◆◆◆
皆が出陣してしまうと私はお城で一人ぼっちだ。することもないので、散策をする。あとついでに召喚もする。
アスク王国のお城は広い。迷子になりそうで怖い。いや、もうしてるかもしれない。
通りすがりの兵士さんに誰だコイツみたいな目で見られつつ、私はついさっき召喚した、ベレスさんとマルスさんを引き連れて、城内をぶらぶらする。
「やけにお城が静かだね」
「ここの王子であるアルフォンスさん達が出陣中なんですよ。マルスさんも一足はやかったら、皆と戦えましたよ」
ふふそうだねというイケメンスマイルを直射に浴びつつ、辺りをキョロキョロしているベレスさんに声をかける。
「ベレスさん、どうしましたか?」
「いや、戦いに出ていたとしてもとても静かだなって…。人がいなさすぎる」
「なら呼びましょうか?」
「え?」
オーブで見ず知らずの人を召喚する事も考えたけど、どうせなら見知った顔がいいよね。
私は頭の中で召喚するメンバーを思い浮かべる。どうせなら、このメンバーで無双してもらった方がいいだろう。
「ベレスさん、マルスさん、ちょっと離れてくれますか?」
「何をするんだい?」
「召喚します」
え?と驚く二人をよそに、私は召喚の準備を整える。
よし、今度こそはかっこいい祝詞を言うんだ!
「祓えたまえ、清めたまえ、神ながら守りたまえ、幸えたまえ、今ここに刀の付喪神を現せたまえ」
霊力がごっそり持ってかれると同時に辺りに桜の花びらが飛び散る。
マルスさんとベレスさんがポカンとしている間、飛び散る花びらから、六人、いや六振りの刀剣男士が現れる。
「僕の子供殺法を見せる時ですね!」
「主のお側は決して離れません。…たとえ異世界でも」
「へへっ。ぼくたち、ばびゅーんときましたよ!」
「よーし、ド派手に決めるか!」
「ボクと一緒に乱れよっ」
「主君のために!」
毛利、平野、今剣、太鼓鐘、乱、秋田が花びらを纏って召喚された。
いつものメンバー、いつもの雰囲気だ。やばい、泣きそう。
私は感極まって、皆に抱きつく。うう〜、やっぱり安心するよ〜。
「おいおいどうしたんだよ、主」
「だいじょうぶですか?だれかにいたいことされましたか?」
「違うの!皆に会えて嬉しいの!」
「主がご無事でよかったです」
私が皆と再会を喜びあっていると、完全に蚊帳の外なマルスさんとベレスさんが声を掛けてきた。
…ごめん、お二人のこと忘れてた。
「えーと、審神者、この子達は誰なんだい?まだ子供に見えるけど…」
「簡潔に言うと、私の部下みたいなものです。立ち話もあれですから、部屋に戻りましょう」
◆◆◆
「え!?王子様だったんですか!?」
「そんなこと言われたのは君が初めてだよ」
た、確かに言われてみれば王子様かもしれない。
でも、王子様と言われたら、金髪のイメージなんだよね…。
「で、ベレスさんは…。どこかの神様ですか?」
「うーん…。まあ、一応教師だよ」
「教師!?」
わ、わあ…。異世界ってスゴイ。
こんな美人で派手な服装の教師だったら授業妨害になりそう。失礼だけど。
「主君ー!」
「主さーん!」
ドアの向こうからおつかいに行ってくれていた秋田と乱の声がした。それに加えて、複数人のガヤガヤとした声も聞こえる。
ということは、私の思惑通り、上手くいったのかな?
「主君、たくさんの方が来てくれましたよ!」
ドアを開けると同時にたくさんの人が部屋に入ってきた。
こんなに来るとは思ってなかったけど、賑やかになるのでよし。
小さい子供から、ちょっと露出のあるお姉さんまで多種多様だ。
「えーと、審神者、これは…?」
「あのですね、御札に私の霊力を込めてそれで英雄達を召喚するっていうのを実験してたんですよ。丁度初回無料の召喚があったからそれも兼ねて。これが出来たら、めちゃめちゃ便利だよねって思ったんです。秋田、乱ありがと」
「君…、すごいね…」
「ありがとうございます」
と言いつつ、実は本丸でもやってた裏技だ。
お出かけの日とか、どうしても手が外せない用事がある時はこうやって刀剣男士に頼んで顕現してた。
だけど、ここでも通用するなんてねー。霊力って凄い。
とはいえ、一気に人が来たなぁ。アンナさんに怒られないだろうか。
「失礼します!」
和気あいあいとしている所、切羽詰まった兵士さんが部屋に入ってきた。
…。嫌な予感。
「アルフォンス様率いる部隊が帰還いたしました!ですが…」
「…?」
「一人、重度の怪我をおおっています!」
「!」
私はそれを聞いて、思わず立ち上がった。
ま、まさか、まんばちゃん達じゃないよね…?いや、それよりもアルフォンスさんを心配すべきか?
いや、それどころじゃない。まんばちゃん達なら、私が手入れしてあげないと!
「すいません、私をアルフォンスさん達の所に連れていってくれますか?」
…皆、無事でいて!
◆◆◆
「主!」
アルフォンスさん達の所に着くと、私はまんばちゃん達の無事を確認した。
…皆、無事だ。良かった。
ん?ということは…
「主、タクミが重傷になっちゃったんだけど!手入れで治してくれない?!」
「待って、加州。タクミは人間だから手入れで治らないよ」
加州…。とても混乱してるね。
というか、それどころじゃない。まさかのタクミが重傷だなんて!
どうすればいい?救急車を呼ぶ?ワンチャンこの異世界でも救急車あるかも?
「審神者、杖の技を持つ英雄を召喚してくれないかしら。その人ならタクミを助けられるかもしれない」
「つ、杖?!」
わ、分からない。
もしかしたら、さっき大量に召喚した英雄達に一人はいるかも。
飛行機の中でお医者様はいらっしゃいますかー?みたいな感じだが。
「そういうことだろうと思って、審神者。姉上を連れてきたよ」
「ま、マルスさん?!」
突然の声に私は振り向く。
そこにはいつの間にか、マルスさんがそこに居て、隣にはマルスさんに似た女性が立っていた。
ワ、美人…。
「アリティアの王女、エリスと申します。あの方に治癒をしたらいいのですか?」
「あ、はい…。よろしくお願いします」
私は戸惑いすぎて固まっていたが、エリスさんは慣れたようにタクミに持っていた杖をかざす。
「“レスト”」
エリスさんの杖から光が溢れ、タクミの体を包み込む。
異世界ってすごい…。The異世界じゃん…。
だけど、タクミの傷はなかなか消えない。それほどの重傷だったのか。
敵ってそんなに強かったの…?
「できるだけの努力はいたしましたが…」
「異界の英雄よ、治癒をありがとうございます。後は、彼の回復力に任せるしかないですが…」
アルフォンスさんが若干悔しそうな顔をしてそう言った。エリスさんもあまり貢献できなくて悲しそうである。
「とりあえず、部屋で寝かせよう。それから俺達の手で手当てだ」
まんばちゃんのその声で私達はうなずいた。
◆◆◆
「タクミ…」
医務室で私はタクミの目覚めを待っていた。
一応、手当てはされているが、目覚める気配もない。
「大将、そろそろ部屋に戻ったらどうだ?」
私はその声で顔を上げた。
そこには私がさっき呼んだ薬研藤四郎が私の顔を覗き込んでいる。
「でも…」
「大丈夫だ。俺っちがタクミの様子を見てるからな。もう夜も遅いし、大将も大将で休まねえといけないぜ?」
薬研の言う通りだ。
現在、夜の10時半である。いつもの本丸なら静まり返っているけど今はどことなくざわざわしていた。
「審神者、もう寝よう。ここは薬研に任せたほうがいいと思う」
「ベレスさん…」
相変わらず神秘的な雰囲気をまとっているベレスさんにまでそう言われてしまった。
でも…。
私、本丸にいた時でも誰かが重傷になった時はこうやってずっとそばにいてあげてた。
タクミも刀剣男士じゃないとはいえ、私が顕現したみたいなもんだし、ほっておけない。
せめて、治癒の霊力だけは込めておこう。
これをしておいたら、本丸の皆は必ず目覚めてくれたから。
「…」
私はタクミの手を握る。
傷だらけの手は激戦が行われていたことを物語っていた。
タクミ、頑張ったんだな。
だからこそ、死んで欲しくない。
もう死なせるのはあの子で最後だと決めたんだから。
霊力を込め、私は目を閉じる。
どんどん霊力が吸い込まれていくのが分かった。
一瞬、視界がグラリと揺れる。…大丈夫。まだいける。
「…ん?こ、ここは…?」
「タクミ!」
しばらく霊力を注ぎこんでいると、ついに、タクミが目を覚ました。
よかった、目を覚ましてくれて。
「審神者?…と、あんた達誰?」
「私はベレス。君が出陣していった後に召喚された。こっちは薬研藤四郎だよ」
ベレスさんの紹介にタクミはペコリと会釈する。
意外と礼儀正しいんだなこの人。
「すまねぇ、タクミ。ちょっと怪我の方見せてもらってもいいか?元気になったとはいえ、怪我はまだ完治してないからな」
「別にいいけど」
薬研はタクミの体中に巻いてある包帯を解いていき、傷の方を確認する。
「…。怪我も全部綺麗さっぱり治ってるな」
「そう?なら良かった。別に痛いところもないし」
「なら、良いんだが…。大将、まさか…」
薬研の言葉の途中、私の視界がグラリと大きく揺れた。
あ、ヤバい。これ。
最後に目に映ったのは、緊迫した顔の薬研とベレスさん、タクミだった。
◆◆◆
「やあ、我が親友よ」
目を覚ますと、目の前に仁王立ちした友達がいた。
あ、そういえば、誕生日パーティーがあったんだっけ。めっちゃ忘れてた。何してたんだろう、私。
「ああ、我が親友よ。誕生日パーティーならもう終わってるわ。いろんな意味で」
「はい???」
こ、こいつ、何を言ってるんだ。いや、もとから変な感じの友達ではあるけど。
「そんなことより、さっさと現実に戻りなさぁぁぁぁい!!!
「えええええええ?!」
いきなり友達にビンタされ、私はそこで気を失った。
◆◆◆
「うわああああ」
あいつ、なんて事してくれる!後々、仕返ししてやるぞ!
そんな復讐の念で始まった一日の朝。
私はいつもの通り巫女服に着替えようと、ベッドから降りる。
………………ん?
あれ、うちの本丸、ベッドなんてないんだけど?
えーと、何か忘れているような…。
「審神者!」
ふと視界に緑色の髪をした美女が現れる。うわ、神々しくて直視できない!
……………………。
あー…。そう言えば異世界転移したんだった。
なんか成り行きで伝説の召喚士ってやつに勘違いされて、成り行きでまんばちゃん達が出陣して、成り行きでタクミの手当てをしたんだっけ。
タクミが復活したのは覚えているけど…。
あの後の記憶がないんだが。
「審神者、目を覚ましてくれて良かった。みんな、君のことを心配していたよ」
「お騒がせして申し訳ないです…」
私が何をやらかしたか全くとして覚えてないのだが…。
とりあえず話を合わせとこう。
「一旦、薬研の所に行こう。体調が回復したら、彼の所に連れて行くよう言われているんだ」
ふむふむ…。薬研の所か。
………………………。
なんだろう。嫌な予感がする。
「あの…。ベレスさん…。やっぱりちょっと調子が悪いような…」
「そうか。じゃあ、薬研を連れてくるよ」
「いや、何でそんなに薬研を会わせたがるんですか!」
思わず大声でツッコミを入れてしまい、ハッと口を抑える。
うわあ、やらかした。
恐る恐るベレスさんの方を見てみると、彼女は少し驚いたかのようにキョトンとしていた。
ベレスさんはしばらく私の顔を見つめると、顔を和らげて私の手を取る。
あれ、これは強制連行?
「………そんなに元気なら、大丈夫だね」
「すいません、ベレスさん!薬研に会うのはちょっと嫌な予感が!」
いや、ちょっとどころではないと思う。かなりの嫌な予感がする。
「おう、大将。俺っちがどうかしたか?」
…。
「逃げるが勝ちって言うよね!」
「逃がさないぜ、大将」
ヤバい、ヤバい、ヤバい。
これは私がやらかした時の薬研だ。
というか、私、何かやらかした?記憶にございませんが。
もしここで薬研に捕まったら、二時間ほどのお説教が続く。
とにかく逃げろ。ちなみに私は極短刀相手に鬼ごっこで勝ったことがある!
私は咄嗟に部屋から飛び出し、まだ薄暗い廊下を全速力で走る。
…どこか、匿ってもらえる人はいないだろうか。くそ、この時に長谷部か鶴丸がいてくれたら!
「さ、審神者?!」
「タクミ!ちょっと今は取り込み中!」
全速力で走る私に驚くタクミをよそに私はとにかく逃げる。
えーと、マルスさんかアルフォンスさんなら庇ってくれるだろうか。知らんけど。
というか、ここどこ?
「おーい、タクミの旦那!大将を捕まえてくれ!」
ずっと後ろから薬研のそんな声が聞こえてきた。
ちょっと、ちょっと。余計なことしなくてもいいよ!私はお説教を回避したいだけなんだから。
曲がり角に差し掛かった時、後ろからヒュウと風を切る音が聞こえてきた。え、なに?
振り向いてみたら、1本の矢がこちらに向かって飛んできていた。
「ちょ、ちょっと?!」
飛んでくる矢をなんとか避けた。しかし私はその場で尻もちをついてしまう。地味に痛い。
「つーかーまーえーた」
嫌な予感がする声が聞こえ、私は顔をあげた。
その瞬間、私は一瞬で青ざめる。
「あんた、病み上がりのくせに全速力で走ってバカなの?自分の体を大事にしたら?」
「ひえええ」
目が笑ってない!目が笑ってないよタクミ!
私がタクミに怯えて震えていると、カツカツとわざと足音をならせてタクミの後ろから薬研がやってきた。
腕を組んで、仁王立ちをし、目が笑っていない笑みを浮かべてこちらを見ている。
…オワタ。
「大将、一旦話をしようぜ」
今までに聞いたことがない、どす黒い声色に私は震え上がる。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙長谷部助けてぇぇぇぇ、、
…………その後私は二時間ほどのお説教をくらうこととなった。
◆◆◆
「ああ…。散々な目にあった…」
「随分長かったな。パンいるか?」
「ありがと、まんば…」
私は薬研からのお説教をくらったあと、まんばちゃんとともに中庭で朝ご飯を食べていた。いや、朝ご飯というより朝ご飯の残り物だけど。でも、残り物には福があるっていうし、何もツイてないというわけじゃない。
「まあ、でも、薬研も血相変えて心配してたからな。主が倒れることなんてなかなかない」
「健康体で悪うございましたね」
「主が倒れた時の訓練になったしいいんじゃないか?」
いや、あれは訓練ではなく、本番だと思うんですけど…。
私は心の中でそうツッコミながら、固くなったパンをかじる。
コッペパンみたいな感じだが、焼いてから時間が経ったせいであまりおいしくない。
「異世界転移だなんて、本当にあるんだな…」
ノベルでしか読んだことないおとぎ話。
まさか、本当に異世界転移してしまうだなんて。
「とにかく、今はアスク王国に協力しつつ、本丸への帰り方を探さないといけない。そろそろ本丸に残ってる皆が気付き初めているかも知れないからな」
「政府に連絡いってるといいんだけど」
「そうだな」
私は空を見上げる。
この空も本丸の空と繋がっているといいな。
「審神者ー?どこー?」
アンナさんが呼ぶ声がした。
私は立ち上がって、まんばちゃんと一緒に城に戻る。
今日も、召喚の時間だ。