なんか刀剣男士を顕現したら召喚士(大英雄)ってやつに勘違いされました。   作:薬師審神者

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審神者と軍師と軍師の刀と【短編】

「うーん。全然敵が動かないっ」

 

アスク王城の片隅、軍議室にて私――審神者は一人作戦会議をしていた。

なぜ、一人でしているのかというと、皆出陣にだしてしまったため。

私は本丸にいた頃はすべて脳筋で、戦闘も皆におまかせしていたのに、こっちに来てからなんか戦闘の指揮をすることになってしまった。なんてこったい。

戦闘中くらい自分で戦えよ!とツッコミたくなるが、仮にも相手はこの国の王子様だ。失礼な事を言って恥はかきたくない。

 

「お、大将。行き詰まってるのか?」

「厚!」

 

一人でうんうんうなっていると、厚が差し入れを持って部屋に入ってきた。

厚は本丸では遅めにきた刀剣男士だが、今は修行を終えてたくましい姿となっており、たくさんの英雄さんからも頼られている。

相変わらず気が利くなぁと思い、私は遠慮なく差し入れのお菓子を頬張り始めた。

 

「で、どうしたんだ?俺で良ければ聞くぜ?」

「敵が全然動かないだよー。こっちの攻撃範囲に入ってないからおびき出してそこをアタックしようと思ってるのに」

 

異界ファンタジーにはあまりにも似合わなさすぎる超ハイテク端末(しかも空中に浮かぶ)を厚に見せ、私はそう嘆く。

今回の敵はおなじみのエンブラ帝国の皆さんで、ほとんどの敵が魔術持ちだ。

近距離が得意なこちらとしてはややこしい相手なんだよね。

厚はしばらく考える素振りを見せ、しばらくすると端末の画面を触り出す。

 

「だったら、魔術に体制がある奴を危険範囲内にいれて、そこからおびき出したらいいんじゃないか?例えば…、セネリオさんとか」

 

厚がセネリオさんを模したマークを正面の林に動かす。

確かに、そこだったら青色の魔術師さんの攻撃を受け止めれるし、反撃も可能だ。

すごい、さすがは私の刀。

 

「いや、そうより…」

 

ふと、聞き慣れない声がする。

すると、私の後ろからニュっと腕が伸び、私の端末を触り始めた。

 

「“速さの先制”を持つベレスをここに置く。そうしたら相手に攻撃されるより前に先制できるし、この辺りは林だから歩行には不利で、飛行には有利だ。剣士やマムクートといった近距離の敵もいないし、味方もこちらに動けば、敵はおびき出せると思う」

 

急にイケメンボイスで耳元で喋られたかと思うと、その内容は戦闘に関する内容だった。

突然すぎてほとんど内容が頭に入ってきてないが、とりあえずアドバイスしてくれたということは分かる。

…しかし、誰だ。こんな人特務機関にいたか?

 

「ああ。すまないね。僕はルフレ。伝承の英雄と呼ばれている。僕の策を君のために役立てよう」

 

ニコリと笑ったその顔はとてもイケメンで、直視できない。

特務機関、どんどん顔面偏差値高くなってないか??

 

「えーと、私のことは審神者と呼んでください。こっちは…」

「厚藤四郎だ。アツなりアツシ好きに呼んでくれ」

「審神者、厚、よろしく。同じ軍師として仲良くしよう」

 

いや、軍師じゃなくて審神者と元軍師の刀なんだけどね…。

まあ、細かいことはいいとして私は早速ルフレさんの言う通りに皆に指示を出した。

すると、一気に敵が動き出し、その大半をベレスさんがやっつけていく。

 

「いやーすごい。ものすごく早く倒せましたね。良かった良かった」

 

ほぼベレスさんが無双し、ベレスさんがうちもらした奴を三日月達がカバーしていく感じで戦闘は終了した。

まだ体力的に余裕があると思うのでこのまま次の戦場へ行く。

 

「…俺の策、どこが駄目だったんだ…?」

 

そんな傍ら、厚が少し悔しそうな声で呟いた。

…まあ、いきなり見知らぬ人にダメ出しされたら、困惑するのは分かるよ…。

厚は

 

「あの策では、セネリオが弓にやられる可能性が高かった。セネリオは魔防がある分、防御が低く、騎馬の弓兵に一発でやられてしまうかもしれないからね」

「なるほど…」

 

やはり、元々軍師の刀だけあって、こういうのには興味があったりするのだろうか。

厚は熱心にルフレさんの話を聞いており、しまいには紙とペンを取り出して、メモをし始めた。

 

「“引き戻し”があればセネリオでもいいんだけどね」

「“引き戻し”か…。誰かに相談して、覚えてもらうか」

ダメだ、全然分からない。

今までの脳筋戦闘では頭が追いつかない。しかもどんどんハードな話になってきている。

 

「そんな細々とした策より、この私がまとめて虫けらを消し去ったほうが早いです」

 

そろそろ思考放棄してきたころ、まるでノベライズの悪役令嬢のような声が聞こえてきた。うわ、こんな声の人なんていたんだ。初めて聞いた。

そんなどうでもいい事を思っていると、その声の主は私のほうに歩み寄り、値踏みするように私を見つめる。

 

「ふん…。なかなかの人間ですね。私の邪魔をしなければ小間使い程度にはしてやってもいいですよ?」

「あの、スカウトはありがたいんですけど、どちら様ですか?少なくとも異界の英雄ですよね?」

「…。私はギムレー。破壊と絶望の竜です」

 

…。厨二病かな?

チラリと隣の厚を見ると、なんやこいつみたいな顔をしていた。分かる。同感だ。

一方、ルフレさんは険しい目をして、魔導書みたいなのを構えている。

もしかして、知り合い?あ、言われてみれば、ルフレさんとギムレーさん、双子みたいだ。髪色同じだし。

 

「なぜ、ここに…」

「当然、世界を滅亡に導くためです」

 

…。何言ってんだこいつ。

これは美人系厨二病というやつだろうか。

それより、異世界にも厨二病ってあったんだな。なるほどなるほど。

 

「この世は破壊されるためにあるのです。それをするのがこの私、邪竜ギムレー。まだゴミような思考をしている“私”にここで出会うなんて、とんだ悪運ですね」

 

うわぁ。なんか凄いこと言ってる。

……。ん…?“私”…?

 

「…審神者達の邪魔をするようなら、僕は容赦しないよ」

「ええ、構いませんよ。誰も私に適う者なんていませんから」

 

ルフレさんとギムレーさんが今にも闘い始めそうな雰囲気で私は厚と一緒になんだこれはと見合う。

多分、一触即発のシーンなんだけど、なぜか私にはあまり危機感を感じない。ギムレーさんを厨二病だと思ってしまったせいなのだろうか。

 

「ああー!ここにいたー!」

 

そんな中、いつも聞く声が廊下のほうから聞こえてきた。

ドタドタと足音がし、勢いよく、加州清光が部屋に入ってくる。

加州は息をゼェゼェと切らし、ギムレーさんを睨みつけた。

 

「あんた、急にいなくなってさ。とんだ迷惑なんだけど!あと、足早いっ」

「この私をあんた呼ばわりするなど、あなたは何様ですか?せめて、ギムレー様と呼びなさい」

「めんどくせええええ。とにかく、俺に着いてきて!軍に関する事とか説明があるんだから!」

「あなたに指図されるつもりはありません」

「だああああ!ああ〜!もう、無理やり連れていくからね!…あ、主。この人になんかされてない?大丈夫?」

「うん。なんか個性的な人が来たね。亀甲や村正に負けないくらいの」

「おかげで新人担当の俺とラインハルトが痛い目あってるよ。主、もっと人増やして〜」

 

そう言われてもなぁ。戦闘にだすメンバー優先だし。

時間遡行軍を倒す時みたいにじゃなくて、これは戦争だから、なるべく人員は戦場に割いたほうがいいと思う。…多分。

 

「何をごちゃごちゃ言っているのですか。私に大人しく従っておけばいいものを」

「はいはい。行きますよー。ギムレー“様”」

 

と、加州はギムレーさんを無理やり引っ張りながら、部屋を出ていった。

いやはや、ものすごい人でしたな。加州、ラインハルト、頑張れ。

 

「それじゃ、軍議始めますか」

「ああ」

「そうだね」

 

私達は次の戦のため、軍議を再開した。

…あのギムレーさんがルフレさんのもう1人の自分だと知らずに。


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