魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第九十五話『残酷な真実と復讐の魔女』

紫藤局長が邪龍の毒を受け、天界へと移送される直前のこと。

 

紫藤局長は襲撃者、八重垣のことを集まったD×Dのメンバーに話していた。

彼が元部下であり、教会側によって粛清されて既に亡くなっていたことを…。

その切っ掛けとなったのが…上級悪魔との禁じられた恋だったということを…。

その上級悪魔の名は…『クレーリア・ベリアル』。

 

紫藤局長が天界に移送された後、集まっていたD×Dのメンバー(グレモリー眷属+イリナ、紅神眷属+紅崎姉妹、神宮寺眷属)の中でグレモリー眷属とイリナだけが冥界、グレモリー城へと赴いていた。

 

その応接室にて彼らを待っていたのは…大王バアル家初代当主『ゼクラム・バアル』であった。

まさかの超大物の出現に言葉を失う一行。

そこでゼクラムは駒王町や前任者・クレーリアの時に起きたことを語る。

 

駒王町は元々、グレモリーとバアルが共同で管理していた地域であった。

しかし、一時は駒王町は上流貴族の子息子女の経験のために短期間貸し与えていたことがあるらしい。

その中の一人が前任者のクレーリア・ベリアル。

レーティングゲーム現王者『ディハウザー・ベリアル』の従姉妹だった。

 

クレーリア・ベリアルの運営は順調だったが、彼女はある人間の男性と通じてしまった。

それが当時、教会の戦士であった八重垣 正臣だった。

悪魔と教会…双方はそれぞれの立場からクレーリアと八重垣の説得を試みた。

しかし、2人の仲は既に深いところまで行っていたらしい。

2人の仲を強引に引き裂こうとし、悪魔と教会は結束したという。

それぞれの体裁を守るために…。

 

結果的に2人は粛清…亡くなった。

しかし、それは業を煮やした教会側、もしくは悪魔側…今でこそ真偽は不明だが、2人に手を出して互いの不備を正したのだ。

 

悪魔側は一時的に駒王町を縄張りにする悪魔がいなくなり、主を守ろうとした眷属悪魔も始末され、生き残った悪魔も十分な"褒美"を受け取って僻地へと飛ばされたという。

 

教会側は人事異動という整理が行われ、ある者は恩賞によって役職を得、ある者は自らの手で仲間を粛清したために自己の正義と神への信仰の狭間で苛まれて心を崩したという。

 

その話はグレモリー現当主であるリアスの父も初耳だという。

そして、ゼクラムは早めに後任者を決めなければいらぬ邪推も飛び交う可能性があったと語る。

たとえ、今回のように事件が明るみになっても有望な若手悪魔ならその事件を上書きする程の功績を立てるだろう、と…。

事実、リアスは駒王町で輝かしい実績を積み重ねており、それに加えてあの地は三大勢力の和平の場としての意味合いも強かった。

過去の出来事を上書きするには過分とも言える功績である。

 

ちなみにこの事実は既にサーゼクスには伝えてあるという。

妹への愛情とバアルの意思との狭間で葛藤した上で、サーゼクスは妹に過去の出来事を隠し、あの地を預けた。

その事実にリアスを語気を強めて反論めいたことを言う。

それをゼクラムは若いと称する。

 

その際、ゼクラムはイッセーに対し、『将来、魔王でもやってみたらどうだね?』と言っていた。

当然ながらイッセーも困惑した。

魔王のポジションはあのサイラオーグ"ですら"狙えると言い、イッセーの人気も鑑みて"出来る"と言い放っていた。

 

その後、ゼクラムは悪魔の在り方…『悪魔』とは、古くから伝わる上級悪魔の血縁者を指し、それ以外は眷属…下僕であり、本当の悪魔ではない…平民と転生者であると語る。

リゼヴィムやユーグリットが語る邪悪である必要性はないとも語り、貴族社会を未来永劫存続させることが『悪魔』のすべきこと、だと…。

 

そうして、ゼクラムの話は終わり、彼は退席していった。

その際、リアスはハッキリとイッセーを愛しているのだと宣言。

ゼクラムもまたイッセーに対し、上級悪魔になるべきだと伝えていた。

そして、こうも付け加えていた。

『アグレアスは何としても奪取した方がいい』、と…。

一体、あの空中都市には何があるというのか…?

 

………

……

 

ゼクラムの話の後、リアスの父とも今後の話をした。

ともかく、まずは迫りくる危機を迎え撃たねばならない。

過去の詮索はそれからでも遅くはないという結論に達していた。

リアスの父は事情を話してもらうようにベリアル家と交渉するつもりらしい。

 

その後、イッセー達はグレモリー城を後にして駒王町に戻り、事の顛末をD×Dのメンバーに話していた。

 

「和平前はな…どうしようもない出来事なんて、割りとよく起こってたよ…」

 

その話を聞き…アザゼルが一言、そう漏らしていた。

 

「もしかしたら…お祖父様も知っていたのかしら…?」

 

智鶴は祖父の名を挙げていた。

 

「そうか。明幸家は…ここを古くから拠点としてる極道の一族…この件に関与してる可能性も…」

 

「少なくとも、悪魔側に寄ってたから…知らないはずはないと思うけど…」

 

「俺達の知らない間に起きた悲恋、か…」

 

「お祖父様にも事情を聞かないといけないかもしれないね…」

 

忍と智鶴がそのような話をしていると…

 

「それなら、私も同行するわ」

 

「私も行きます!」

 

リアスとイリナが同行を申し出ていた。

 

「なら、お祖父様に会いに行くのは私としぃ君、リアスちゃん、兵藤君、イリナちゃんだけでいいかしら? あまり大勢で行くとお祖父様の体に障るし…」

 

「御屋形様はご病気だったかしら?」

 

「「(御屋形様!?)」」

 

リアスの『御屋形様』呼ばわりにイッセーとイリナは内心で驚いていた。

 

「えぇ…今は敷地の山奥にある離れで療養中なの」

 

それを気にする様子もなく智鶴は頷いていた。

 

「なら、早いところ行きましょう。あまり遅くなっても迷惑でしょうし…」

 

「そうね」

 

そうして智鶴の先導で忍、イッセー、リアス、イリナは一路、明幸の敷地内にあるという山奥の別荘へと武空くのだった。

 

 

 

そして…

 

「ここが、離れ…」

 

一行が山奥へと登った先にあったのは木造建築の一階建ての離れだった。

 

「今はここにお祖父様が暮らしているの」

 

そう言って智鶴が離れの呼び鈴を鳴らすと…

 

「お祖父様。お久しゅうございます。智鶴です」

 

離れの中に聞こえるように声を掛けていた。

 

すると…

 

『おぉ、智鶴か。よく来たな』

 

玄関に設置されたスピーカーから老人にしては貫禄のある声が聞こえてきた。

 

「突然の来訪、申し訳ありません。今日はお祖父様に聞きたいことがあって参上しました」

 

『聞きたいこと?』

 

「この駒王町、リアス・グレモリーの前任者…クレーリア・ベリアルについてです」

 

怪訝に思う祖父に対し、智鶴は堂々と言い切っていた。

 

『……………ッ!? 智鶴、何故その名を…!!』

 

驚いたように祖父が言うと…

 

「その問いは…客人の顔ぶれを見ていただければお分かりになるかと…」

 

『……………』

 

その答えに祖父はしばし考えてから…

 

『…………わかった。客人も一緒に通しなさい』

 

「はい、お祖父様」

 

カチッ!

 

智鶴が返事をすると玄関の鍵が開く音がする。

 

「さぁ、行きましょう」

 

「えぇ…」

 

「は、はい」

 

「…………」

 

「うぅ、なんか緊張するな…」

 

智鶴を筆頭にリアス、イリナ、忍、イッセーの順に離れに入っていく。

 

そして、一番奥の部屋の前に着くと…

 

「入りなさい」

 

気配を察したのか、中から老人の声が聞こえてくる。

 

「失礼します」

 

智鶴を先頭に忍達も部屋の中に入ると…

 

「ようこそ、いらっしゃいましたな。リアス嬢」

 

ベッドに横たわっていた老人…智鶴の祖父が上体を起こしてリアスに挨拶していた。

 

「えぇ、ごきげんよう。御屋形様」

 

リアスもまた智鶴の祖父に挨拶していた。

 

「して、智鶴。そちらの3人は?」

 

リアスはともかく、忍とも面識がありそうだが、智鶴の祖父は見覚えがなさそうに首を傾げる。

 

「ご無沙汰しております。お会いになるのは今年の年始以来ですね。紅神 忍です」

 

その場に正座し、佇まいを正すと忍はそう挨拶していた。

 

「なんじゃと!? あの小僧だというのか!?」

 

「この数ヵ月で色々あり、こうしてご報告が遅れたこと、申し訳なく思っております」

 

「むぅ…」

 

未だ信じられない様子で智鶴の祖父は忍を見る。

 

「あ、えっと…俺は兵藤 一誠です。リアスの兵士をやってます」

 

「紫藤 イリナです。転生天使です」

 

忍に続くようにイッセーとイリナも挨拶すると…

 

「紫藤、だと…?」

 

イリナの姓に聞き覚えがあったのか、反応する。

 

「やはり、ご存知でしたか?」

 

「む…」

 

しまった、というような表情をするが…

 

「ここに来る前にゼクラム・バアル様より大まかな話を聞いております。前任者と、教会の戦士の悲恋も…」

 

リアスがそう口にする。

 

「………そうか。もう、ご存知でしたか…」

 

諦めたように智鶴の祖父はそう漏らす。

 

「お祖父様は、ご存じだったのですか? その前任者、クレーリア・ベリアルさんのことを…?」

 

「あぁ…少しだけ世話をしたのを覚えておる。そして…その後の顛末と、"あの悲劇"も…」

 

そう語る智鶴の祖父は悲しそうな表情となる。

 

「あの、"悲劇"…?」

 

智鶴がその単語に首を傾げると…

 

「そのバアルの者が語ったのがどのような内容かは知りませぬが…きっとそれはまごうことなき事実だ。それを我々もまた秘匿してきた」

 

「そう、でしたか…」

 

智鶴の祖父の言葉にリアスもそう呟いていた。

 

「だが、よもやあのようなことも起きようとは…」

 

「一体、何が起きたのですか?」

 

智鶴の祖父の呟きにリアスが尋ねる。

 

「あの時…クレーリア嬢を守って散ったのは…何も悪魔だけではなかった」

 

「それって…どういう…?」

 

智鶴の祖父は意を決したように孫の顔を見て言い放つ。

 

「智鶴。お前の両親もまたクレーリア嬢を守ろうとして、この世を去ったのだ」

 

「え…?」

 

その言葉に智鶴は頭を工具で殴られたような衝撃を受ける。

 

「え……だ、って……え…?…お父様とお母様は、事故で死んだって…」

 

「すまない…それは嘘なのだ。本当はクレーリア嬢とあの若者を庇って死んだのだ…」

 

「う、そ…」

 

「「智鶴!?」」

 

その場で崩れ落ちそうになる智鶴を忍とリアスが支える。

 

「当時、あの件に関わることを儂は頑なに禁じていた。悪魔と教会の問題だ。そこに首を突っ込めばただでは済まされないことは目に見えていた。だからこそ、儂は悪魔側の要請もあって見て見ぬふりを決め込んでいた。だが、それを娘夫婦は良しとは思わなんだ。それに娘夫婦はクレーリア嬢と個人的な繋がりを持っていたようでな…」

 

その様子を見ながらも智鶴の祖父は更なる真実を語り始める。

 

「だからかもしれん。あの時のあやつらは儂の命に背き、クレーリア嬢の元へと駆け付けていた。"友"を、助けたいと思ったからかもしれん。だから、儂は信頼を置く者…狼牙と共にあの場へと駆け付けた」

 

「親父も…知っていたっていうんですか?!」

 

「あぁ…当時、儂の側近で悪魔と対等に渡り合える強者は狼牙しかおらんかったからな。だが、儂と狼牙が駆け付けた時にはもう…全てが終わった後だった。その時、当時の教会の戦士の一人、紫藤と出会った」

 

「パパと…」

 

「うむ……結局、クレーリア嬢とあの若者は粛清され、それを庇った者も死んだとそやつから聞かされ…儂は…後悔した。あの時、もっと強く言い含めておれば…あの時、娘夫婦にクレーリア嬢を紹介しなければ…そんなことを考えていたよ」

 

智鶴の祖父はその拳を強く握り締めていた。

 

「だが、結果として智鶴から両親を奪ってしまった事には変わりなかった。そのことで悪魔や教会に報復しようかとも思った時期もあった。しかし、それと同時期に狼牙もその妻と一緒に行方がわからなくなっての。真相を知る者が減ったことで儂も悪魔側の要請に従うしかなかったんじゃ。それだけ自分と悪魔との決定的な差というものを知っておったのでな…」

 

それはつまり…その時、狼牙がいたらまた違った結末になっていたかもしれない、ということだろうか?

たかだか人が悪魔に喧嘩を売るとなると…それ相応の戦力と覚悟がいるだろう。

しかし、智鶴の祖父は…生きることを選んだ。

 

「儂は…娘夫婦の死は事故死ということにした。そして、智鶴に真実を告げぬまま今日まで生きてきた。しかし、クレーリア嬢のことを聞きに来たお前達を目の前に…儂もいつまでも隠し通すことが出来ないと思ったんじゃ。だからこそ、今ここで話をしたんじゃ」

 

「………………」

 

「まさか、このような日が来るとは……いや、いずれは暴かれる真実だった。もしかしたら、今日まで孫を欺いてきた報いなのかもしれんな…」

 

まるで自嘲するかのように呟きながら智鶴の祖父は目を閉じる。

 

「当主。一つ、願いがございます」

 

リアスに智鶴を任せた忍は、智鶴の祖父の前へと移動する。

 

「しぃ、君…?」

 

「なんじゃ?」

 

智鶴と智鶴の祖父が怪訝に思っていると…

 

「智鶴を…俺の"嫁"にすることをお許しください。そして…」

 

忍は…

 

「明幸組の全権を俺にお譲りください」

 

そう申し出ていた。

 

「っ!?」

 

「なっ…」

 

忍の申し出に智鶴と智鶴の祖父は言葉を失う。

 

「小僧。その言葉がどういう意味か、わかって言ってるんだろうな?」

 

「無論です」

 

智鶴の祖父の問いに忍は一切の迷いなく言い切る。

 

「………………」

 

智鶴の祖父は忍の眼を見る。

 

「………………」

 

それを忍は真っ向から受け止める。

 

「…………いずれにせよ、儂の後継者は決めねばならぬ、か…」

 

その眼に覚悟を見た智鶴の祖父は…

 

「………いいだろう。次の年末年始の総会にて儂の後継者としてお主を指名しよう。智鶴の…夫として、な…」

 

そう静かに承諾していた。

 

「ありがとうございます…!」

 

そう言い、忍は頭を下げる。

 

「じゃが、お主は未だ学生の身。卒業か、成人するまでの間は儂が当主で居続けよう。何よりも…曾孫をこの目で見るまでは、な…」

 

「お祖父様…!」

 

「智鶴よ。これが儂に出来る償いなのかもしれぬ……虫のいい話かもしれぬがな…」

 

そう告げて智鶴の祖父はその身をベッドに預けていた。

 

「なんだか、とんでもない場面に出くわしたな…」

 

「私達、完全に空気になってたよね…」

 

イッセーとイリナがそのようなことを言ってこの訪問は幕を閉じるのだった。

 

………

……

 

その帰り道。

 

「すっかり遅くなっちゃったわね」

 

離れから出て数分、すっかり暗くなった山道を歩く一行。

 

「…………」

 

その中で智鶴は少し沈んでいた。

 

それはそうだろう。

ずっと事故死だと思っていた両親の本当の死が今回の件に関わっていたなんて思ってもみなかったのだから…。

 

「智鶴…」

 

その智鶴を気遣い、智鶴の側を歩いている忍。

 

「それにしても…あの忍の発言には驚かされたわ」

 

暗い雰囲気をどうにかしようとイッセーがさっきのことを話す。

 

「確かに…ちょっと憧れちゃうかも」

 

「俺もあれくらい言えた方がいいのかな…?」

 

そんなことを真剣に悩むイッセーに…

 

「あら、だったら私の両親に言ってみたら? きっとお二人も喜ぶと思うのだけれど…」

 

「え……そ、それは…」

 

リアスの思わぬ言葉にイッセーは一瞬固まってしまう。

 

「し、忍はどう思う!?」

 

「え…? やっぱり、決める時は決めた方がいいと思うけど…?」

 

いきなり振られた話題だが、聞いてたらしく忍はそう返していた。

 

「そりゃ、お前はもう決めたからいいけどよ…!」

 

「まぁ、ガンバ?」

 

「なんで疑問形なんだよ!?」

 

そんなことを言い合っていると…

 

ブォン…!

 

山道を歩いていた一行の周囲を謎の結界が張られる。

 

「クリフォトか…?」

 

「もしかしたら、明幸先輩のお祖父さんを狙って…?」

 

「だったら、もっと早い段階で狙ってきそうなものだけど…」

 

イッセー達が警戒している横では…

 

「ッ!?」

 

結界が発動した瞬間、忍の体に異変が起きる。

 

「(なんだ…この、妙に息苦しい感覚は…?)」

 

「しぃ君…?」

 

自分の胸倉を掴む忍の姿に智鶴が怪訝な表情をする。

 

そんな中、前方より二つの影がやってくる。

影からして背の高い方と低い方がいるのがわかる。

 

「5人、ですか」

 

声を発した背の高い方の人物は、肩に掛かる程度の青みがかった銀髪と藍色の瞳を持ち、冷たい印象の綺麗な顔立ちに引き締まった体型の女性だった。

 

「………………」

 

逆に黙っている背の低い方の人物は、腰まで伸ばした赤みがかった銀髪を細長い青いリボンでツーサイドアップに結い、薄紫色の瞳を持ち、小動物のような愛らしさを持った可愛らしい顔立ちに線が細く華奢でスレンダーな体型の少女だった。

ただ、無表情ではあるものの、顔色が忍と同じくらい優れていないのが傍目からでもわかる。

 

「何者?」

 

リアスが警戒しながら尋ねると…

 

「あなた達悪魔や天使に用はありません。用があるのは…」

 

そう言った瞬間、女性から圧倒的な敵意と憎悪が忍を射抜く。

 

「俺…?」

 

その憎悪を向けられた忍は訳が分からなかった。

 

「………"黒い狼"…」

 

「?」

 

「"あいつ"の、仲間…!!!」

 

女性が声を荒げると…

 

「死になさい! 狼ッ!!」

 

問答無用で忍に向かって特大の魔力弾が放たれる。

その攻撃に対して…

 

「くっ…」

 

忍はその場で膝を着いてしまう。

 

「しぃ君!?」

 

「忍!?」

 

いつもの忍なら回避や防御出来るはずの攻撃だが、この結界が発動してから忍の様子がどうにもおかしい。

 

「ちっ!」

 

即座に禁手化したイッセーが前に出ると、女性の放った魔力弾を殴り飛ばす。

 

「邪魔立てするか、赤龍帝!!」

 

女性の視線を受けながらも、まだ多少の距離がある余裕から…

 

「おい、忍! らしくないぞ! これくらいお前なら…」

 

イッセーが忍に叱責するようなことを言うが…

 

「智鶴やイッセー君達は…平気なのか…?」

 

忍は苦しそうにそう呟く。

 

「は? 何が?」

 

何のことかわからないイッセー達も困惑する。

 

「この結界が発動してから…どうにも息苦しくてな…正直、今にもぶっ倒れそうなんだよ…」

 

「え…? でも、私達は…」

 

何ともない、そう言いかけた時…

 

領明(えりあ)。赤龍帝を足止めなさい。私はその間に狼を…!!」

 

「………うん、"お母さん"…」

 

女性を"母"と呼ぶ『領明』と呼ばれた少女がイッセーに向かって突撃する。

 

「なっ、イッセー相手に1人だなんて…!」

 

「私達もいるのに、いくらなんでも無謀だよ!」

 

リアスとイリナがイッセーに加勢しようとするが、相手が1人…それも女の子ということもあって少し躊躇してしまう。

しかもイッセーを相手に少女をぶつけるとは…正気とは思えなかった。

 

だが、女性も何の勝算もなく少女をぶつけた訳ではない。

その理由とは…。

 

「………『キャンサー』」

 

そう呟いた瞬間、少女の前に"白銀の蟹"が現れる。

 

『は~い、お呼びでしょうか? マイマスター』

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

何とも和やかな声の蟹の出現に一行も驚く。

 

『……っ!?』

 

『キャンサーだって!?』

 

スコルピアとアクエリアスもかなり驚いていた。

 

『あら~、スコルピアにアクエリアスではありませんか。ご無沙汰しております』

 

スコルピアとアクエリアスに気付き、キャンサーも手短な挨拶をする。

 

「………キャンサー、アーマー…」

 

『はいはい。かしこまりました』

 

少女の声にキャンサーは即座に鎧となって少女の身に装着される。

 

「………」

 

少女は腰に帯刀した二刀を抜き放つと、イッセーに斬り掛かっていた。

 

「ちっ!?」

 

その二刀を両腕の籠手で受け止める。

 

「(軽い! この娘、もしかしたら…近接系じゃない…?)」

 

そう思った矢先…

 

ダンッ!

 

少女の背中に備わった歩脚の一番下が魔法陣を作り出し、それを蹴ってイッセーの頭上へと移動すると…

 

くるんっ…

 

「………クレッセイション…」

 

イッセーの頭上で素早く一回転した少女はイッセーの背後からクロスした魔力斬撃を至近距離から放っていた。

 

「ぐわっ!?」

 

その軽業師のような一撃にイッセーも少しよろめく。

 

「イッセー!?」

 

「イッセー君!?」

 

リアスとイリナが声を上げるが…

 

「大丈夫! それほど騒ぐことでもない! それよりも2人は忍を…!」

 

イッセーはそう言ってリアスとイリナを忍達の方へと行かせようとする。

 

「………行かせない…」

 

シュッ!

 

言うが早いか、少女は背部の一番上の歩脚から魔力鋼糸を照射し、リアスとイリナを捕まえる。

 

「なっ!? これって…!?」

 

「魔力鋼糸!?」

 

魔力鋼糸によって拘束された2人を見て…

 

「2人を放せ!」

 

振り向き様にイッセーが少女を殴ろうとする。

 

「………っ…」

 

少女はそれを二刀をクロスさせることで防ぐも、後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

『まぁまぁ、乱暴なこと』

 

それに合わせるようにしてキャンサーが魔力鋼糸で捕まえた2人をイッセーに向かって投げ飛ばす。

 

「「きゃっ!?」」

 

「うぉっ!?」

 

その2人を受け止めながらイッセーも少し後退ってしまう。

 

「………水よ…結界となれ…」

 

その隙を見逃さず、少女は魔力と霊力を混ぜた水の結界をイッセー達の周りに張る。

 

「くそっ…これじゃあ、忍が…!」

 

そう言ってイッセー達が忍の方を見ると…

 

「お前が…お前達がぁぁぁ!!」

 

「くっ…!?」

 

忍を庇うようにして智鶴がスコルピアを纏ってスティンガーブレードを盾に魔力バリアを展開してるが、攻撃の隙を与えぬが如く女性の多彩な攻撃魔法を繰り出していた。

 

「智鶴! 無茶はよせ。俺なら何とかなるから…!」

 

「でも、それだとしぃ君が…!」

 

忍が前に立とうとするのを智鶴が止める。

2人の間にある確かな絆を見て…

 

「(ギリッ)!!」

 

結果的に女性の憎悪に油を注ぐことになる。

 

「ふざけるな…ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなっ!!!!」

 

「「っ!?」」

 

狂気にも似た憎悪に忍と智鶴が驚くと…

 

「何が支え合いだ。何が愛だ。何が絆だ。そんなものが無かったから、私は…私の母と祖母は!!!!」

 

怒りと憎悪から口の端から血を流し、本物の血涙を流す女性。

 

「"狼殺結界"、効力最大!!!」

 

『っ?! いけません! そんなことしたらマイマスターまで!?』

 

女性の声にキャンサーが止めの言葉を放つが…

 

「………キャンサー、私の事は気にしなくてもいい…」

 

『ですが!?』

 

「………お母さんのためなら、私は…」

 

『マイマスター…!』

 

そんなキャンサーと少女の反応から…

 

「(どういうこと?)」

 

リアスは怪訝に思う。

 

「苦しみながら死ね! 狼の血族!!!」

 

ズンッ…!!

 

「ぐぶっ…!?!」

 

「………がっ…!?」

 

結界内の重圧が変わると同時に忍と"少女"が同時に苦しみ出す。

 

「しぃ君!?」

 

「どうしてこの娘まで!?」

 

『狼殺結界』。

名前からして狼種の動きを封じるか、何かしらの作用で殺すために設計された結界と推測。

その効力は狼種のみを苦しめる類だと思われる。

そう考えると、忍はわかる。

霊狼の直系である忍に効果が及ぶのは必然だからだ。

しかし、だったら何故…娘の少女までも苦しむのか?

その答えは意外と単純なのかもしれない…。

 

「彼女も…狼の血族…?」

 

リアスがそう漏らす。

 

「アハハ…アハハハハハハハ!!!」

 

狂気に満ちた嗤いを上げる女性。

 

「自分の娘諸共、紅神君を殺すつもり!?」

 

「彼女はあなたの娘じゃないの!?」

 

「知ったことじゃない! あの"黒い狼"を殺せるなら、私はなんだってやってやるわ!!!」

 

リアスとイリナの声に女性はそう返していた。

 

「"黒い、狼"」

 

苦しみながらも忍は懸命に頭の中でこの場の匂いとそのワードを結び付けようとする。

 

「(この匂い…それにあの娘から感じる面影…そして、"黒い狼"…)」

 

忍は覚えていた。

この匂いを発していて…黒い狼…その正体を…。

 

「(まさか…!?)」

 

その答えに行き着いた時、忍は信じられなかった。

 

「狼夜、伯父さん…のことか…?」

 

「それって…」

 

「邪狼!?」

 

忍の言葉にイッセー達も驚く。

 

「その名を口にするなああああああ!!!!」

 

それを聞き、女性は魔力砲撃を準備する。

 

その時だった。

 

ヒュッ!!

ビキビキッ!!

 

外部からの攻撃で結界が破壊されようとしていた。

 

「ちっ…! 後少しのところで!!!」

 

「………っ、はぁ…お母さん…」

 

それを見て少女もまた女性の側に移動していた。

 

「今回は退きます。ですが、次があなたの最期です…!!」

 

そう言い残し、女性は転移魔法陣を作り出すと少女と共にその場から消え去った。

 

バリィンッ!!

 

それと同時に結界も破壊された。

 

「帰りが遅いから迎えに来てみれば、何か面白い事でもあったのかしら?」

 

そして、そこにやって来たカーネリアがそのように聞いてきた。

 

「あんま…面白くも、ないけど、な……ぐっ…」

 

さっきとは逆に智鶴に支えられる忍だった。

 

 

 

新た現れたエクセンシェダーデバイスの選定者と、その母。

狙いは今は亡き邪狼こと狼夜らしいが、死者に復讐が果たせえるとは思えない。

ならば、何故彼女達は今になって狼の血縁を狙ったのか?

 

その真相がわからぬまま、彼らは天界へと向かうことになる。

そこで彼らを待つ真実とは…?

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