魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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15.年末年始のタイムトラベル
第九十九話『新たな舞台』


クリスマスに起きた復讐劇はその幕を閉じた。

 

亜空間で行われたその復讐はノヴァの思惑とは別の形で終結しようとし、それを良しとしなかったノヴァによって翠蓮は異形の怪物となって暴走した。

それを娘が自らのエクセンシェダーデバイスのコアドライブを最大稼働させ、その命を賭けて母を止めようと試みた。

しかし、それを見過ごせなかった忍の介入によって亜空間内に残された4人の人物は時空の狭間へとその姿を消したのだ。

 

一方、亜空間から追い出されたデュリオは再度亜空間への突入を試みるも結界によって阻まれてしまう。

そこでデュリオは応援を要請したが、果たして間に合うかというところで亜空間で起きた時空の歪みの余波が通常空間に地震として発生する。

アザゼルの協力もあってパーティー会場にいたD×Dのメンバーが亜空間へと突入しようとした。

だが、亜空間は既に崩壊しており、中にいたであろう4人の人物は行方不明となってしまっていた。

 

彼らが今どこにいるのか?

それを知る者は誰もいない…。

 

………

……

 

~???~

 

とある次元世界。

ある皇城の一室にて…

 

「あれから、もう10年が経つのか…」

 

部屋にいる背中まで伸びた光沢のある白髪と金色の瞳を持ち、しわくちゃだが威圧感と威厳を感じさせるような顔立ちをしている老人……にしてはかなりの高身長にしてまるで衰えを知らぬというばかりに筋肉隆々とした野太い体格の持ち主が窓の外を見ながらそう漏らしていた。

また、その老人の頭には額の真ん中と頭の左右から太く立派な角が生えていた。

 

「あの出来事を機に徹底抗戦を宣言したが、状況は刻一刻とこちらに不利となっていくばかり…"奴等"め、一体どれだけの戦力を保有しておるのだ?」

 

老人は瞑目しながら今もこの世界に迫っている"敵"のことを考えていた。

 

「…この10年の戦いでも奴等の戦力は計り知れず、今もなお勢力を拡大していく始末。まったく、嫌になるわい」

 

すると、老人は…

 

「と、いかんの。今日は特別な日じゃった。あやつの祝いの席にこんな辛気臭い顔は似合わぬの」

 

思い出したようにそう呟いていた。

 

そう、この日は特別な日なのだ。

 

「このような状況であってもめでたい席には変わりないのだ。今はこの小さな幸福を天に感謝すべきかのぉ」

 

そんなことを言って老人が窓から空を見上げた時だった。

 

ピシリッ!!

 

空に亀裂が走ったのだ。

 

「む…?」

 

その奇怪な現象に老人も目を細めた。

 

次の瞬間…

 

バリィンッ!!!

 

亀裂が広がり、砕け散るとそこから次元の狭間が見え、そこから…

 

ゴオオオオッ!!!

 

巨大な白き流星が皇城に向かって降ってきたのだ。

 

キランッ!

 

流星が出現すると同時にその流星から六つの小さな流星が分離して各地に降り注いでいた。

 

「『皇鬼(すめらぎ)』様!!」

 

ドタドタと慌てた様子で兵の1人が老人のいる部屋に駆け込んできた。

 

「『武天十鬼(ぶてんじっき)』を招集せよ! あの流星を打ち砕く!!」

 

老人は慌てた様子もなく兵に命令を下す。

 

「はっ!」

 

老人の言葉に兵はすぐさま部屋を後にする。

 

「これは凶兆かの? それとも…」

 

空の亀裂から墜ちてくる流星を見ながら老人はそう漏らし、窓から皇城の屋根へと飛び出していた。

 

………

……

 

流星が現れる少し前…。

 

「あたしも今日で17か…」

 

皇城の城壁の近くを少女が歩いていた。

肘辺りまで伸ばした桃色の髪と蒼い瞳を持ち、可愛い系の綺麗な顔立ちにかなり豊かな体型で、額の左右に小さな角が2本生えていた。

 

「(この10年…あたしはあたしなりに強くなってきた。それもこれも"あいつら"を打ち倒すために…!)」

 

その場で立ち止まると、少女は拳を握り締めながら空を見上げる。

 

「(父さん、母さん…必ず仇は取るからね…!)」

 

少女の眼には、確かな復讐の炎が宿っていた。

 

すると…

 

ピシリッ!!

 

空に亀裂が走ったのだ。

 

「?」

 

その奇怪な現象に少女は首を傾げる。

 

次の瞬間…

 

バリィンッ!!!

 

亀裂が広がり、砕け散るとそこから次元の狭間が見え、そこから…

 

ゴオオオオッ!!!

 

巨大な白き流星が皇城に向かって降ってきたのだ。

 

キランッ!

 

流星が出現すると同時にその流星から六つの小さな流星が分離して各地に降り注いでいた。

 

「なっ!?」

 

いきなり空から流星が墜ちてきたのだから誰でも驚くというものである。

 

「なによ、あれは!?」

 

慌てふためく兵達の1人をとっ捕まえて少女は尋ねる。

 

「ひ、姫様! それが、その…あれは突然現れたとしか言いようがなく…」

 

「そんなの見りゃわかるっての! お祖父ちゃんはなんて?」

 

「はっ、武天十鬼の皆さまを招集し、迎撃するとのことです!」

 

「そう…ありがと。アンタも持ち場に戻って」

 

「はっ!」

 

少女から解放され、兵はすぐさま持ち場に戻る。

 

「ったく、とんだ日になったわね…」

 

少女もまた誕生日にこんなことが起きるとは予想だにしなかっただろう。

 

「(でも、なんだろう…なんだか、変な予感がする…)」

 

墜ちてくる流星を見上げながらそんな感覚を覚えていた。

 

………

……

 

一方で、皇城の屋根の上には続々と集結する影があった。

その数は、10人。

 

「皇鬼様。武天十鬼、揃いました」

 

その中の一人…背中まで伸びた光沢のある白銀色の髪と血の滴るような紅い瞳を持ち、厳格な印象を与える渋く壮年な顔立ちに体格は高身長に加え、線は太めだがシャープで無駄のない筋肉の持ち主が老人を前にそう言って跪く。

そのこめかみの部分に太く立派な角が2本生えている。

 

(かしら)ぁ! あの流星を砕くって話ですが、本気ですかい!?」

 

燃えるような赤い短髪と朱色の瞳を持ち、野性味に溢れたような顔立ちに線が細く見えるものの、中身は徹底して無駄な筋肉を削ぎ落したような感じの体格の男が老人に尋ねる。

その額から一本角が生えている。

 

「せっかくの飯の支度が台無しになるんだな…」

 

坊主刈りにした目が痛くなるような金髪と琥珀色の瞳を持ち、ぽっちゃりしたような顔立ちに体格は肥満型の巨漢であり、かなり線が太い男が何やらのんびりした口調で怒った様子だった。

その頭頂部に円錐状の一本角が生えている。

 

「一応、冷気で傷まないようにしてはいますが…」

 

腰まで伸ばした群青色の髪と空色の瞳を持ち、淑やかな雰囲気に溢れた綺麗な顔立ちに均等の取れたバランスの良い体型の女性が巨漢の男にそう伝えていた。

その頭の左側に一本角が生えており、それを隠すような感じで髪をサイドポニーテールに結っている。

 

「まったく、たまに表に出ればこれだ…」

 

うなじが隠れる程度の深緑色の髪と緑色の瞳を持ち、クールな雰囲気を纏った顔立ちに体格は全体的に線が細く、あまり筋肉はついていない男が愚痴っぽいことを言っている。

その額に丸っこいような一本角が生えており、黒縁の眼鏡を着用している。

 

「そう言わないの! せっかくの姫様の誕生日なんだから!」

 

腰まで伸ばした瑠璃色の髪と水色の瞳を持ち、活発な印象を与える可愛らしい顔立ちにバランスの取れた程良い肉付きな体型の女性が愚痴る男を叱るような言葉を投げる。

その頭の右側に一本角が生えており、それを隠すような感じで髪をサイドポニーテールに結っている。

 

「そういうこった! なら、せいぜいあの流星をデカい花火にでもしようかね!」

 

肩に掛かる程度に伸ばした黄緑色の髪と翡翠色の瞳を持ち、少し野性味のある綺麗な顔立ちに高身長に見合った抜群のプロポーションの持ち主の女性がそんなことを言い出す。

その額に一本角が生えている。

 

「………………」

 

黄土色の短髪と茶色の瞳を持ち、厳格そうな雰囲気の渋い顔立ちに体格は線が太く筋肉隆々としている男が無言で流星を睨んでいる。

その額の右側から太い一本角が生えている。

 

「皇鬼様、命令を…」

 

角刈りにした鋼色の髪と灰色の瞳を持ち、見る者を威圧するような厳つい顔立ちに体格は巨漢に並ぶ高身長でありながらスマートなフォルムをしている男が老人に指示を仰ぐ。

その額に鋭利な刃を思わせる一本角が生えている

 

「なんでもいいから、さっさと片付けようぜ? 俺、これから逢引なんだけどなぁ~」

 

背中まで伸びた紫色の髪と薄紫色の瞳を持ち、凛々しさを含んだ端正な顔立ちに体格は標準的で筋肉もそこそこといったところの男が面倒そうにそんなことを漏らす。

その額の左側の方に一本角が生えている。

 

何とも個性豊かな面々である。

 

「ふむ、花火か。それは妙案じゃの!」

 

黄緑の髪の女性の言葉を聞いた老人の身から高濃度の妖力が溢れ出す。

 

「これは…いかんな」

 

跪いていた白銀の髪の男がそれを悟ると…

 

「風鬼、風の壁を作って衝撃から城や城下町を守れ。重鬼は皇鬼様を宙に浮かせろ」

 

白銀の髪の男が黄緑の髪の女性と紫色の髪の男にそれぞれ指示を送る。

 

「あいよ!」

 

黄緑の髪の女性はそう答えると、風の壁を作り出して皇城を中心に城下町をも覆っていく。

 

「へ~い」

 

紫色の髪の男も老人に右手を向けて力を集中させると、その老人を風の壁の外側へと浮かせていた。

 

「では、行くぞい!!」

 

それを確認した老人は、その高濃度の妖力を右腕に収束していき…

 

ダンッ!!!

 

まるで空気の上を地面を踏みつけるようにして一歩踏み出すと…

 

覇王(はおう)弾劾拳(だんがいけん)ッ!!!」

 

轟ッ!!!!

 

右腕を一気に振り抜く。

そうすることで右腕に収束していた高濃度の妖力が拳圧と共に白き流星へと向かって放たれる。

 

その結果…。

 

ドガアアアアアアアアアンッ!!!!!

 

流星と妖力が衝突し、とてつもない大爆発を巻き起こすが、風の壁に阻まれてその衝撃波は地上に降り注ぐことはなかった。

 

「ふむ…?」

 

その大爆発を間近で見ていた老人はある違和感を覚える。

 

「これは…"人間"の気配、か…?」

 

老人が訝しげに大爆発の様子を見ていると、大爆発の衝撃でその中から出てくるように白銀の鎧を着た少女二人、かなりの重傷を負っていそうな女性、服がボロボロとなっている青年の計4人の姿を確認する。

 

「氷鬼と水鬼はあの鎧を着た女子(おなご)達を、風鬼は重傷の婦人をそれぞれ受け止めよ」

 

群青色の髪の女性、瑠璃色の髪の女性、黄緑の髪の女性に指示を出し、自らも青年の元へと跳ぶ。

老人に言われ、群青色の髪の女性と瑠璃色の髪の女性は鎧の少女、黄緑の髪の女性は重傷を負った女性の落下地点に急いで移動していた。

 

ムンズッ!

 

落下する青年の首根っこを摑まえると、その頭に角がないのを確かめていた。

 

「ふむ。やはり、人間か。しかし、何故流星からこのような者…いや、者達か? どちらにせよ、不可思議なことじゃ。それに…」

 

意識を失っている青年から感じる五つの波動を察知し、老人は目を細めた。

 

「こやつ…人の身にも関わらず、"五つの力"をその身に宿しておる。どういうことじゃ…?」

 

青年を不可解なものを見るような目で観察するが、今は目覚める気配もないため、老人は一先ず皇城の屋根へと降り立ち、回収した人間達の応急処置を指示していた。

 

青年と少女二人は大した怪我ではなかったものの、女性の傷は深くもうそれほど長くはないだろうと診断されてしまった。

 

………

……

 

その夜。

昼間の流星騒ぎが嘘のように皇城では盛大な宴が行われていた。

姫君の誕生日を祝う宴である。

堅苦しい挨拶もそこそこに宴は無礼講で盛り上がった。

 

 

 

そんな中、いち早く目覚めた者がいた。

 

「………………」

 

鎧を着ていた少女の片割れである。

 

「……………?」

 

上体を起こして周囲を見回し、ここが何処なのか首を傾げる。

自分の身を見れば、浴衣のような薄めの着物を着ていた。

状況がいまいち飲み込めない様子だ。

 

「………………」

 

しかし、自分のやるべきことは変わらない。

そういう目をしていた。

布団から起き上がると、何か武器になりそうなものがないかと部屋の中を物色し始める。

 

「………………」

 

しばらく部屋の中を探したが、武器になりそうなものはなかった。

だが、それでも構わない。

自分には魔法があるのだから…。

そう考えると、少女は気配を消して襖の戸を開いて廊下へと出る。

すぐ隣の部屋から感じる標的の気配を目指して…。

 

スーッ…

 

隣の部屋の襖の戸を開け、部屋の中へと侵入を果たす。

 

「………………」

 

そして、少女は標的である青年の姿を目視で確認する。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

青年は布団で寝ており、こちらに気付いた様子はない。

しかし、油断は出来ない。

この青年は既に二度、自分の襲撃を退けているのだから…。

 

「………………」

 

慎重に、だが迅速に青年の息の根を止めなくてはならない。

それが少女に課せられた依頼であり、生きていくために必要なことだから…。

例え、ここが何処かもわからない場所だとしても、こうして標的がいるのならば遂行しなくてはならないからだ。

 

「………………」

 

眠る青年の横まで気配無く移動すると…

 

ギチィ…!

 

バインド系の魔法を展開し、青年の四肢と首を絞め始める。

 

「……っ……っ……」

 

寝息を立てていた青年は苦しそうに息をしたそうに口をパクパクとさせ、四肢に力を入れて暴れようとするも動きを封じられてそれも叶わない。

 

「………………」

 

このままいけば今度こそこの青年を殺せる。

そう、少女が確信した。

 

その時だった。

 

トンッ!!

 

「っ!?」

 

少女の首筋に衝撃が加わり、少女の意識は黒く染まってしまう。

 

バタリッ!

 

青年の上に覆いかぶさるように倒れる少女。

その影響で青年を縛っていたバインド系の魔法も解ける。

 

「……っ……はぁ……はぁ……」

 

拘束が解けると青年も息が出来るようになる。

 

「やれやれ、少し様子を見に来てみれば…まさかこのような場面に出くわすとはのぉ」

 

倒れた少女の背後には老人が立っており、困った様子で少女を見下ろしていた。

 

「この小僧。この女子に命を狙われているのかの? しかし、なんでまた……それにさっきの術は…」

 

謎が謎を呼ぶ此度の事態、老人は何か思うところがあったのか…。

 

………

……

 

翌朝。

 

「んっ…くっ…」

 

窓の隙間から差し込む朝の陽射しに顔を照らされ、その意識を覚醒させる青年。

 

「こ、こは…?」

 

見知らぬ木造の天井が視界に飛び込んできて上体を起こす。

 

「これは…?」

 

見慣れぬ生地の浴衣のような着物を着させられており、布団に寝ていたという状況。

 

「………………」

 

何やら強烈に嫌な予感がした青年は身を起こして窓を開け放つ。

そこに広がる景色は…

 

「………………」

 

まるで戦国時代を思わせるような木造の家屋が軒を並べる城下町らしきものが見える。

そして、少し窓から身を乗り出して周囲を見ると、小高い丘の上に木造式の立派な城が(そび)え立っており、今彼がいるのはその城の中腹くらいの場所の一室だろうか。

 

「あぁ…またか…」

 

その風景に青年は盛大な溜息を吐いてしまっていた。

 

「あの最後の一撃を放った時に何らかの作用が働き、亜空間を維持していた次元の壁が崩れ、また別の異世界に飛ばされた、って感じかな?」

 

青年は冷静に自らに起きた現象を分析していた。

 

「それに着替えさせられているということは…一応、保護されたってことでいいのだろうか?」

 

ともかく情報が少ないな、と思ってネクサスを探すが…

 

「押収されたか。まぁ、風景を見る限りこの世界では機械とかが珍しいのかもしれないし、誰か来たらそれとなく聞いてみるか…」

 

部屋にないことからそう考えていた。

 

「あとは…彼女達か…」

 

匂いからして近くにいることは確かなのだろう。

しかし、その匂いにも違和感があった。

 

「この世界…大気中の魔力が少ないのか? それにこれは妖力、か? なら、ここは妖怪か、それに属するか、もしくは類する世界の可能性もあるか……ともかく、早く智鶴達に無事を知らせないとな。ネクサスやアクエリアスがあれば、次元間通信も可能だろうし」

 

伊達に何度もこんな状況に陥っている訳ではないらしく、何とも冷静…過ぎる気もしないでもないが…。

 

すると…

 

スーッ…

 

「おや? 目覚めたのかの、小僧」

 

襖の戸が開き、そこから老人が現れる。

その後ろには白銀の髪の男と群青色の髪の女性が供として控えていた。

 

「ん? あぁ、おかげさまで……爺さん達が助けてくれたのか?」

 

青年のその何気ない一言で…

 

「っ!」

 

「貴様…!」

 

群青色の髪の女性と白銀の髪の男から殺気に近しいものを向けられてしまう。

 

「(あ、もしかしてなんかマズった?)」

 

今更ながら相手の素性を考えずに素で対応してしまったことを少し後悔する。

 

「ほっほっほっ、月鬼に氷鬼よ。よいよい」

 

「しかし、皇鬼様」

 

白銀の髪の男が何やら不満げにしていると…

 

「構わん。こやつには色々と聞きたいこともある故な。あまり堅苦しくされても息が詰まるわい」

 

「はっ…」

 

白銀の髪の男が老人の言葉に大人しく引き下がる。

 

「(もしかして…)」

 

そのやり取りを見て青年は…

 

「すみません。もしかしなくても、あなたがこの城の主ですか?」

 

そう老人に尋ねていた。

 

「うむ、如何にも。儂がこの城の今の主じゃ」

 

それを聞き、あちゃ~、と言いたげに顔を左手で覆う青年だった。

 

「(シルファー様もそうだが、どうして俺の周りの王様系ってこうも活動的なのかね?)」

 

そして、指の隙間から老人達を観察し、一つ気になったことがあった。

 

「(というか…角?)」

 

老人達は人の姿をしているが、頭に角が生えていたのだ。

 

「儂等の顔に何か付いておるかの?」

 

その視線を感じ、老人が青年に尋ねる。

 

「あ、いや…つかぬことをお聞きしますが…あなた達の"種族"を教えていただけませんか?」

 

そんな青年の問いに…

 

「種族…?」

 

「貴様、何を言っている?」

 

群青色の髪の女性と白銀の髪の男が青年の言っていることがわからないとばかりに首を傾げる。

 

そんな中…

 

「"鬼"じゃよ」

 

老人だけが青年の言葉を理解したように答える。

 

「鬼…」

 

「うむ。儂等は鬼じゃよ。"人間"の小僧よ」

 

老人の言葉に…

 

「え…?」

 

「"人間"、だと…?」

 

群青色の髪の女性と白銀の髪の男がまたも驚いたような声を漏らす。

 

「この世界に、人間っていないんですか?」

 

「隣の世界にはおる。が、儂等は必要以上に接触はしておらんからの。人間という言葉を知っておってもその姿を見た者は少ない。この者達もそうじゃ。まぁ、興味本位で隣の世界に渡る者もいるがの」

 

そう語る老人はまるで自分は見てきたかのような物言いだった。

 

「……ちなみにその隣の世界というのは?」

 

「儂等は"人間界"と呼んでおる。じゃが、必要以上の接触をしておらんから詳しいことまでは知らぬがの…」

 

「必要以上ってことは少しは接点があるということでは?」

 

「この世界に迷い込んできた人間を送り帰すくらいじゃよ。だから向こうの事情なぞ知らんわい」

 

老人の言葉に青年も考え込む。

 

「(地球、の可能性もなくはない、か……いや、ここはいっそ聞いてみるべきか)」

 

青年は思い切って質問することにした。

 

「その"人間界"って、『地球』って星だと思うんだが…どうだろうか?」

 

そんな青年の言葉に…

 

「「「?」」」

 

老人達はキョトンとしたような表情をする。

 

「(あれ…?)」

 

青年もまたその反応に首を傾げる。

隣の世界…つまり次元間の話が出たということは星の話も通じると思ったからだ。

しかし、老人達の反応は違った。

 

「星…天に煌くあの星かの?」

 

「バカバカしい。星に人間が住んでいるとでも言うのか?」

 

「そもそも、星に名前が付いてることも初耳ですけど…?」

 

そんな感じの反応だった。

 

「い、いや、ちょっと待ってくれ! さっき"隣の世界"って言ってたよな?」

 

なんか反応が予想と違い、慌てて聞き直す。

 

「うむ、言ったの」

 

「それって、"次元間の繋がり"のことを知ってるんじゃないのか!?」

 

「じげんかんのつながり…?」

 

「多次元世界のことだよ! 世界は一つや二つじゃない。いくつもの世界が次元という壁に隔たれて存在するって話なんだけど…」

 

青年が必死に語るが…

 

「「???」」

 

老人の供は意味が分からないような反応で、青年の顔を見て"こいつ、大丈夫か?"的な視線を送っていた。

 

「多次元世界……聞いたこともないのぉ」

 

老人もまたそのような反応をするが…

 

「しかし、なるほど。世界は儂等の住むこの世界や人間界…そして、"奴等のいる世界"だけではない、か…」

 

一定の理解を示していた。

 

「(奴等?)」

 

老人の言葉に青年はちょっとした違和感を覚えた。

 

「少なくとも、儂等は既にその"多次元世界"とやらの理を"知っておる"ことになるの」

 

「え!?」

 

「皇鬼様。それは(まこと)なのですか?」

 

老人の言葉に後ろの2人が驚く。

 

「うむ。要するにこの小僧は『外敵の(ことわり)』のことを言っておるのじゃ」

 

「外敵の理?」

 

聞き慣れない言葉が出てきて今度は青年が首を傾げる。

 

「外敵の理……まさか、あれにそのような意味があったとは…」

 

白銀の髪の男が信じられないような面持ちで声を出す。

 

「あの、外敵の理ってのは?」

 

「簡単に言ってしまえば、侵略者じゃ。今までもこの世界には別の世の理を持つ存在が度々攻め込んできたのじゃよ。それを儂等は『外敵の理』と呼んでおる。中には話し合いに応じた世界もあったようじゃがの。そして、"今現在もこの世界は外敵の理を持つ存在と戦っておる"」

 

青年の質問に老人はそう答えていた。

 

「次元を越えての侵略、か…(なんか、どっかで聞いたことがあるような…)」

 

青年が何となく理解していると…

 

「って、ちょっと待て。"今現在も戦っている"?」

 

「うむ。今、この世界は戦時中じゃ。本来ならば防衛戦に徹していたかったがの。此度の敵対勢力に使者として送り出した息子夫婦を殺されてしまっての。徹底抗戦を宣言したのじゃよ。それが約10年前の話じゃがな」

 

「なっ?!」

 

サラッと告げられた現実に青年はギョッとする。

 

「じゃが、状況は芳しくなくてのぉ」

 

「皇鬼様。だからこそ我が出陣するのです。我が前線に出ることで兵の士気を高め、我が力を持って奴等…"絶魔"の勢力を削ぎ落してご覧にいれましょう」

 

白銀の髪の男が老人にそう進言していると…

 

「絶魔だと!?」

 

青年もかなり驚いた様子で声を出す。

 

「む? 小僧、どうかしたのかの? もしやお主、絶魔を知っておるのか?」

 

「知ってるも何も…多次元世界間での戦争。つまり、次元大戦を引き起こそうと裏で暗躍している勢力だ。俺の仲間達も追っている最中で、その所在を今も探してるとこなんだ」

 

老人の言葉に青年はそう答えるが…

 

「しかし、解せん。絶魔が直接戦争を仕掛けている? それも10年前から…? それならどこかしらの勢力が気付いてそうな気もするが、そんな情報は一切ないぞ…?」

 

青年も青年で困惑している様子だった。

 

「ふむ…事情は知らぬが、そちらもそちらで色々あるのじゃろう。少し頭を冷やすがよい」

 

「あぁ…そうさせてもらいたいが、そうも言ってられない。俺の身に着けていた装飾品の類はどうなってる? 出来れば、返してもらいたいんだが…」

 

今の状況を皆に報告しなくてはならない。

あと、自分が無事であることも…。

 

「あの奇妙な箱やら何やらかの?」

 

「多分、それだ。あと、俺の他にここに来た人達はどうなってる?」

 

押収されたものが早めに戻ってきそうな予感を抱きつつ、彼女達のことを尋ねる。

 

「女子達に関してはまだ目覚めておらんよ。まぁ、片方は昨夜お主の命を奪おうとしていたがの」

 

「なっ…こんな時でも暗殺かよ!」

 

「本当にどんな事情があるのやら…」

 

老人が何やら呆れていると…

 

「ん? "女子達に関しては"…?」

 

その言葉に引っ掛かりを覚える。

 

「うむ。もう一人、重傷を負っておった婦人がおっての。そちらは残念ながら長くは持たんじゃろう…」

 

「っ…そう、か…(だが、復讐から解放することは出来たんだよな…?)」

 

今はそれだけでも良しとしようと踏ん切りをつけたところで…

 

「そういえば、お主。名は何と申す? いつまでもお主では不便じゃからな」

 

今更のように老人が尋ねる。

 

「あ~…そういや、まだ名乗ってなかったか」

 

青年も青年で名乗ってなかったことに気付く。

 

「俺は、忍。紅神 忍だ」

 

青年…忍は己の名を名乗る。

 

 

 

この時、忍は知る由もなかった。

 

この世界が、単純に次元転移で訪れた異世界ではないということに…。

それを知った時、忍はどのような選択をするのだろうか…?

 

歯車は止まらない。

これもまた必要な過程なのだと…いずれ知る時も来るだろう。

その時、後悔の無いように彼は歩んでいけるのだろうか…?

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