魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百話『母の願いと衝撃の事実』

忍達は絶魔と10年もの間、戦争状態にあるという次元世界に飛ばされていた。

その世界では『鬼』という種族が住んでおり、過去にも似たような別次元からの侵略者が幾度となく攻め込んできたという。

それをこの世界の住民は『外敵の理』と呼称していた。

 

そして、此度の外敵の理は…絶魔。

それは忍にとっても因縁浅からぬ敵の名であった。

 

 

 

皇城の忍に当てられた部屋では…

 

「紅神 忍、か……この世界ではとても珍しい名じゃな。人間界じゃと、そうでもない気がするがの」

 

「(やはり、人間界とは地球の事、なのか? だとしたら不幸中の幸いか。この分なら早く戻れる)」

 

その可能性が捨て切れない以上、帰還法も意外と容易なのかもしれないと考える。

 

「それであなた達の名は? こっちもこっちで名前がわからないとずっとこの調子なんだが…」

 

「よかろう。名乗られたからには名乗らんのも失礼じゃしな」

 

忍の言い分に老人は快く頷く。

 

「儂の名は『皇鬼(すめらぎ)』。この『鬼神界(きしんかい)』を統べておる皇じゃ。そして、儂の後ろに控えておるのが我が鬼神界の精鋭『武天十鬼(ぶてんじっき)』。その筆頭の…」

 

「『月鬼(げっき)』だ」

 

「同じく武天十鬼に属しています、『氷鬼(ひょうき)』と申します」

 

老人、白銀の髪の男、群青色の髪の女性の順番にそれぞれ名乗っていた。

 

「武天、十鬼…?」

 

「左様。我が鬼神界の守りの要であると同時に儂が信頼を置く臣でもある10人の精鋭達のことよ」

 

そんな皇鬼の言葉に…

 

「(正直、この人達がここに来た時から凄い妖力の匂いがしてたが…間違いじゃなかったか。しかも、この感じ…氷鬼って女性の方でも狼夜伯父さんや親父の霊力と同等、残る2人はそれ以上な感じがするんだよな……つまり、こんな化物級があと8人もいんのか!?)」

 

内心でかなり驚いていた。

 

「……して、忍よ」

 

何やら神妙な面持ちで尋ねてくる皇鬼。

 

「な、なんだよ?」

 

その神妙な面持ちにも驚いて忍は少し後退る。

 

「お主、本当に"人間"かの?」

 

「ッ…(それを、聞くか…というか、気付かれたか…)」

 

直球な質問をされ、忍も生唾を飲み込む。

 

「皇鬼様。それはどういう…?」

 

「………………」

 

氷鬼が皇鬼に尋ねる一方で、月鬼は変化した忍の顔を見ていた。

 

「言った通りの意味じゃよ。こやつからは魔、気、霊、妖、龍…五つの波動を感じるでの」

 

「まさか!?」

 

皇鬼の言葉に氷鬼は信じられないような表情で忍を見る。

 

「だが、こいつは動揺している。それは事実なのだろう。本当に人間であるならそれは異常な状態だ。では、何故そんな状態でも無事でいられるか? 答えは一つ。こいつは人間ではないかもしれない、と…」

 

そんな氷鬼に月鬼は己の導き出した見解を述べる。

 

「勝手に人の話題で盛り上がらないでもらいたいがね。ま、事実っちゃ事実だから否定はしないけどな」

 

隠し事をしても得策ではないと判断した忍はそう答えていた。

 

「では、お主は…お主の言うところの、何という種族、なのかの?」

 

「俺は…混血だ。元は霊狼って狼の種と雪女って妖怪のハーフだったんだがな。変な学者に冥族とヴァンパイア…要は吸血鬼って種族の血を投与された。その後、俺はある出来事で相対したある龍種の血肉を衝動に駆られるまま食らった。それが五つの力を手にした経緯さ。これで満足か?」

 

皇鬼の問いに忍は簡潔にそう答えていた。

 

「お主も破天荒な人生を送っておるようじゃのう?」

 

「ま、いつも必死だけどな…」

 

そう答える特に気負った様子のない忍を見て…

 

「ふむふむ。よいのぉ、実によい塩梅じゃ…」

 

キラリ、と皇鬼の眼が光ったような気がした。

 

「…これって」

 

「はぁ…また、いつもの悪い癖が…」

 

氷鬼は月鬼の様子を窺うように視線を向けると、月鬼もまた呆れたような溜息を吐いていた。

 

「???」

 

その意図がわからず、忍も首を傾げる。

 

「忍よ。お主、儂の元で修行してみんか?」

 

「…………はい?」

 

皇鬼の突然の申し出に忍も生返事してしまう。

 

「善は急げという。今から始めるぞい!」

 

「ちょっ!?」

 

そう言うや否や皇鬼は忍の胸倉を掴んで部屋から出て行ってしまう。

 

「今回はいつまで持つか…」

 

「皇鬼様にも困ったものです…」

 

月鬼と氷鬼は揃って深い溜息を吐くのであった。

 

………

……

 

皇城近くにある演習場。

そこへと強制的に連れて来られた忍は…

 

「とりあえず、お主がどれだけ出来るかを確かめてみようかの」

 

「いや、だからってこんな格好で…?」

 

寝間着姿のような格好で皇鬼の修行とやらに付き合わされることとなっていた。

 

「着物なんぞに振り回されるようならそれだけの実力じゃて」

 

「なんか、釈然としねぇ…」

 

そんな会話の後…

 

「さぁ、どこからでも打って来い!」

 

「はぁ…」

 

とは言え、仁王立ちしていても隙らしい隙が見当たらない皇鬼相手にどうせい言う話なのだが…

 

「(こうも隙が無いと逆に攻めにくいんだよな…)」

 

困って頭を掻く仕草をすると…

 

「(ま、言っても仕方ないか。なら…)」

 

瞬時に霊鎧装と瞬煌を掛け合わせた術式を展開する。

 

「(俺の性じゃないが、正面からぶつかってみるか…!)」

 

ドンッ!

 

両足に力を送り、一気に加速して皇鬼の間合いへと入り…

 

「激龍衝ッ!!」

 

瞬煌の瞬間炸裂で威力を底上げした掌底を繰り出す。

 

「(ほほぉ、五つの力をそのように使うか。やはり、良い逸材のようじゃの!)」

 

皇鬼は自分の眼に狂いがないのを確認したように笑みを浮かべ…

 

「むんっ!!」

 

濃密な妖力を右腕に纏い、忍の一撃を迎え撃つ。

 

ゴオオオオッ!!!

 

両者の激突で大気が震える。

 

「(嘘だろ、おい!?)」

 

五つの力を用いた掌底を妖力のみの拳で相殺され、忍は信じられないような表情になる。

 

「ほっほっほっ、老骨に対してちと遠慮がないのぉ?」

 

「ッ!!」

 

ドンッ!

バッ!!

 

忍は即座に掌底からエネルギーを炸裂放出させ、空中で一回転しながらその場から離脱する。

 

「ブリザード・ファング!」

 

そして、十八番の中距離拡散氷結魔法を繰り出す。

 

「ふむ」

 

ダダダダダ!!

 

それを皇鬼は拳打のみで弾き返していた。

 

「(まるで鎧型禁手と相対してる気分だな…)」

 

そう思いながらも主だった攻撃を隠れ蓑に別地点に収束させていた魔力球体の後ろに移動すると…

 

「ブリザード・ファング・エクシード!」

 

これもまた忍の十八番と言える収束風の砲撃を瞬煌の瞬間炸裂で威力を底上げして放つ。

 

「ほほぉ、あの砲撃に紛れ込ませてそのような大技を放つ、か」

 

そう言いつつも忍の収束風砲撃(威力底上げ仕様)を片手で受け止める。

 

「マジかよ!?」

 

その光景に思わず忍も叫ぶ。

 

「ほれ、余所見をするでない!」

 

その受け止めた砲撃を逆に利用して忍に返していた。

 

「くっ!?」

 

左手から炸裂させた力を解き放ち、それを利用して側転するように回避する。

 

「(無茶苦茶だ、この爺さん!?)」

 

そう考えながらも着地すると同時に…

 

「冥王スキル、アイス・エイジ!!!」

 

何かを取り出す仕草をしてから、そう叫ぶものの…

 

し~ん…

 

何も起こらない。

というか、何かを取り出そうとしてもその"何か"が無かったというか…。

 

「む?」

 

「………………あ、あれ?」

 

皇鬼も忍のその奇行に首を傾げ、忍もまた何かを探すように着物のあちこちをまさぐる。

 

「あの、皇鬼さん」

 

「なんじゃ?」

 

「その、つかぬ事をお聞きしますが…俺が発見された時、近くに小さなガラス玉みたいなの、ありませんでした?」

 

「がらすだま?」

 

忍の言葉にさらに首を傾げる皇鬼。

 

「このくらいの…宝石もどきというか、そんなに価値がない水晶というか…そういうのです」

 

とりあえず、身振り手振りと言葉で説明する。

 

「いや、そんなものは知らんの」

 

「え? そ、そんなはずは…」

 

皇鬼が嘘を吐いてるようには見えず、余計におかしく思う忍。

 

「(おかしいな…確かにあの時、力を一時的に解放して、それで………………あれ?)」

 

そこで自身の記憶も曖昧だということに気付く。

 

「……………どうしよ…マジでどうしよ…」

 

あのビー玉が無いと解放形態への移行が出来ないということは先の戦闘で実証されたと言ってもいい。

つまり、この世界でビー玉の行方も探さなければならない。

 

すると…

 

「ふむ。もしかすると…"アレ"、かの?」

 

皇鬼が意味深な言い方をする。

 

「なんか知ってるなら教えてくれ!」

 

それを聞き、忍も皇鬼に詰め寄る。

 

「確証はないがの。あれはお主達を見つけた時のことじゃ。お主達は天の裂け目から墜ちてきた白き流星から吹き飛ぶように現れたのじゃが……その直前に、流星から六つの小さな光が分散し、各地に落ちるのを見た」

 

「………………ん?」

 

何か色々と引っ掛かる言い方に忍は思考が停止する。

 

「(なんか、とんでもない現れ方をしたのでは…?)」

 

その辺りをもう少し詳しく聞きたかったが、今は藁にも縋る気持ちだったので、その気持ちを呑み込んで数を確かめた。

 

「六つ。確かに"六つ"だったんだな?」

 

「うむ。間違いないじゃろう。後で武天十鬼にも確認してもよいぞ?」

 

それを聞き…

 

「そうか…それならいい。あと、大まかな方位だけでもわからないか?」

 

さらに詳しい情報を聞くものの…

 

「方位か…そうじゃな……ちと難しいじゃろう。城下町の住民に聞き込みをしなければ詳しいとこまでは流石にのぉ」

 

「そ、っか…」

 

それ以上は流石にわからずじまいであった。

 

「それほどまでに大切な物なのかの?」

 

忍の落乱ぶりを見て皇鬼が尋ねる。

 

「あぁ…俺の、"力"を封印した水晶玉でな。ある戦いでちょっと無理して、人間としての存在以外が俺の体内に居座れなくなったから外部に新しい器を用意しろって俺の中の存在に言われたからそれ用に調達してな……今は力を安定させるために解放は控えてたんだけど、先の戦いの中で敵だったはずの人を助けるために一時的に解放しちまって…」

 

「ほほぉ、興味深い話じゃの。しかし、解せんこともある」

 

忍の話に興味を抱いていた皇鬼は一つだけわからないことがあった。

 

「なんだよ?」

 

「何故、敵だった者を助けようとした?」

 

それがあまり理解出来ないようだった。

 

「あの人は…復讐に囚われてただけなんだよ…」

 

「ッ!」

 

それを聞き、皇鬼も目の色を変える。

 

「その復讐の種もわかってた。だが、俺の手では救えなかった。でも、俺の仲間が…あの人に大切な心を取り戻させてくれた。それなのに…」

 

ギリッと歯が軋む音がする。

 

「"あいつ"が…その心を取り戻した人を無理矢理に異形の怪物へと変化させた。それが復讐のために身を犠牲にしようとあの人が望んでたことだとしても…俺は、助けずにはいられなかったんだ」

 

「しかし、話を聞く限り、そやつの行動は全て自業自得だったんじゃろう? それをお主が助ける道理はあるまい?」

 

当然な話だ。

身から出た錆、とでも言うのか…確かに自業自得だったとも言える。

そんな敵だった者を助ける道理はない。

 

しかし…

 

「それでもだ。俺は全てを救えるなんて思っちゃいない。ただ、目の前で繰り広げられた悲しい現実で命を落とす人を助けたかっただけだからな…」

 

忍は後悔のないような顔で言い切っていた。

 

「それは…偽善じゃよ」

 

「わかってるさ…それが俺の独り善がりなことだってことくらいはな…」

 

皇鬼の言葉にも自嘲を含んだように答えていた。

 

「それに…"復讐"なんてのは、どんなに綺麗事を並べたって虚しいだけだからな…あの人の復讐は、もう終わったんだ」

 

「まるで経験があるような物言いじゃな?」

 

忍の言い方にそのような感じ方をした皇鬼はそう聞く。

 

「俺自身はない。だが、俺の魂には"その記憶と体験"が刻まれてるからな…」

 

「どういうことじゃ?」

 

牙狼のことを話すとなるとまた長くなりそうだな、と思い…

 

「話せば長くなる…」

 

そう答える。

 

「なに、そのくらいの時間は…」

 

皇鬼が言いかけた時だった。

 

「皇鬼様~」

 

演習場に駆けてくるのは、瑠璃色の髪の女性だった。

 

「水鬼か。どうかしたのか?」

 

「どうかした、じゃないですよ! やっと他の人も目を覚ましたっていうのに、その内の1人を勝手に連れ出して…姉さん達も困ってるんですからね!」

 

瑠璃色の髪の女性が皇鬼に苦言を呈すように言い放っていた。

 

「うむむ…そうは言ってものぉ」

 

「ともかく、早くその人も連れてきてください! そんな寝間着姿のままじゃ色々不便でしょうし、いいですね!?」

 

瑠璃色の髪の女性の言われ…

 

「はぁ…わかったわかった。すぐに向かうわい」

 

皇鬼もやれやれと言わんばかりに溜息を吐いていた。

 

「他の皆も謁見の間で待ってますからね。それじゃ!」

 

そう言って瑠璃色の髪の女性はその場を去っていく。

 

「今の人は?」

 

「あやつも武天十鬼の一人での。名は『水鬼(すいき)』といって氷鬼の妹じゃよ」

 

「へぇ~(これで後7人、か…)」

 

そうして忍は皇鬼に連れられて部屋へと戻り、用意された服に着替えたのだった。

 

………

……

 

~皇城・謁見の間~

 

忍が一足先に謁見の間へと着くと…

 

「あっ!」

 

先に来ていたであろう水鬼が何か驚いたように声を上げ…

 

「よっ、と!」

 

次の瞬間、忍は自分に仕掛けてきた少女を組み敷いていた。

 

「っ……」

 

「狙ってくるかもしれないから一応匂いに気をつけて構えてたが、こんな状況でも本当に仕掛けてくるとはな…アンタのその仕事熱心さには頭が下がるね」

 

そう言いつつバインド魔法を使って少女を拘束する忍だった。

 

「随分と手際が良いな」

 

それを見ていた月鬼からそのような言葉を貰うが…

 

「だが、畏れ多くもここは謁見の間だ。次に騒いだら…わかるな?」

 

次の瞬間には殺気を放たれてしまう。

 

「肝に銘じます」

 

「………………」

 

忍と並んで暗殺者の少女が謁見の間の中央に移動させられる。

 

それから少しして…

 

「……お母さん、大丈夫?」

 

「えぇ…なんとか…」

 

領明の手を借りて翠蓮もやって来た。

 

「あ…」

 

「どうも」

 

先に来てた忍達に気付き、少し気まずいような雰囲気となる。

 

すると…

 

「鬼神界の皇、皇鬼。ご出座である!!」

 

鋼色の髪の男性が謁見の間全体に響くように叫ぶ。

 

『………………』

 

それと同時に謁見の間にいた忍達以外の者が頭を下げていた。

 

「どうにも堅くて敵わんわい…」

 

謁見の間の奥に姿を現す皇鬼はやれやれと言った感じで玉座に腰掛ける。

 

「皆、先日はご苦労だったの」

 

『はっ』

 

とは言え、ほとんど皇鬼一人で流星を砕いたようなものであるが、何事も形式というものが必要らしい。

 

「して、此度の流星騒ぎで保護した人間達のことじゃが…」

 

ざわざわ…

 

"人間"という言葉に臣下達は少しばかり物珍しそうな目で忍達を見る。

 

「「「「………………」」」」

 

その視線をそれぞれ受け、あまり居心地の良さそうではない忍達だった。

 

「これこれ、見世物でもあるまいし、あまり見るんじゃない。客人に失礼じゃろう?」

 

皇鬼に言われ、臣下達も見るのをやめる。

 

「客人達よ、申し訳ないの。なにせ、戦争が起きてからあまり心休まる日がないのでの」

 

「いえ…」

 

「そちらにも事情があるのでしょうから仕方ありません」

 

皇鬼の謝罪に翠蓮と忍がそれぞれ答える。

 

「して、お主らはこれからどうするのじゃ? 必要とあれば人間界へと送り帰すが…」

 

皇鬼の問いに…

 

「それは…叶うのでしたら…そのようにしていただいた方が…」

 

翠蓮が控え目に言う一方で…

 

「俺は残ります。この世界に散らばった力を取り戻すために」

 

忍は堂々とした態度でそう答える。

 

「ふむふむ……そちらの女子達はどうする?」

 

翠蓮と忍の意見はわかったが、領明と暗殺者の少女の意見を聞くために再度問う。

 

「……私は…お母さんと一緒にいられれば、それで…」

 

「………………」

 

領明は翠蓮と共にいられればいいらしいが、暗殺者の少女は忍をじっと見るだけだった。

 

「ふむ。忍とそちらの女子は明確な理由があってこの世界に残るというのじゃな?」

 

「あぁ。まぁ、力を取り戻したら俺も人間界に戻るが…」

 

「………………」

 

皇鬼の問いに忍はそう答え、少女もこくりと頷く。

少女の場合、理由が理由なんだが…。

 

「あい、わかった。なら、その身柄はしばしの間、儂が預かろう」

 

ざわざわ…!

 

「皇鬼様!」

 

臣下を代表して月鬼が皇鬼に意見しようとするが…

 

「年寄りの我儘じゃよ。それくらい許せぃ」

 

「しかし…!」

 

「それに人間にしては見所のある若い者だしの。少し鍛えてやるだけじゃよ」

 

「あなたという人は…」

 

心底困ったように頭を抱える月鬼を他所に…

 

「しかし、じゃ…」

 

皇鬼はしばし躊躇った様子だったが、改めて翠蓮と領明を見て…

 

「酷なことを言うようじゃが、そちらの女子の願いはあまり長くはないじゃろうな」

 

そう言っていた。

 

「………………」

 

「……お母さん?」

 

その言葉に領明が母を見るが、翠蓮も娘の視線から目を逸らす。

 

「やはり、言っておらなんだか…」

 

その様子に皇鬼も悪いことをしたと思ったのだろうが…避けては通れない道だと思い…

 

「その婦人はの。もう、長くないのじゃよ」

 

そう、告げていた。

 

「!?」

 

その言葉に領明は目を見開く。

 

「……そ、そんな…」

 

その事実に愕然とする領明をよそに…

 

「……いいんですよ、これで…」

 

翠蓮は静かにそう漏らしていた。

 

「……お母さん!?」

 

翠蓮の言葉に領明が泣きそうな顔で見る。

 

「私は、それだけのことをしてきました。もちろん、あなた達に怨まれてもおかしくはないくらいに…」

 

そんな翠蓮の独白に周りもまた静まり返っていた。

 

「私は、手を出してはいけないものにも手を出してしまった…これはその報いなのでしょう」

 

絶魔因子の投与による命を削った復讐を果たすために…。

 

「ただ、心残りがあるとしたら…娘の領明のこと…」

 

そこで翠蓮は忍へと視線を向ける。

 

「私の復讐に付き合わせ、命まで狙っていた相手に頼むのは都合のいいことだとわかっています。ですが…あなたにしか頼めません。この娘と、同じ血を引くあなたにしか…」

 

「………………」

 

忍は黙って翠蓮の眼を見る。

 

「どうか…どうか、この娘のことを…守ってあげてください…お願いします…」

 

そう言って翠蓮は忍に頭を下げる。

 

「そんな身勝手な願い…俺が聞くとでも?」

 

「……………」

 

「元々は伯父さんの蒔いた種で、俺からしたら理不尽な理由で命を狙われたんだ。それを今更になって娘を頼むだって? 確かに都合が良過ぎるよな…」

 

流石の忍も今回の件については都合が良過ぎると思ったらしい。

 

「…っ…あなたは…!」

 

忍の言い方に領明も飛び出そうとするが…

 

「よしなさい、領明」

 

翠蓮に止められる。

 

「……でも…!」

 

「いいのよ。わかっていたことだもの…」

 

翠蓮も無理を承知で頼んだのでその結果には仕方ないと考えていた。

 

ただ…

 

「一つだけ確認したい」

 

忍が確認をする。

 

「なんでしょうか?」

 

「アンタの復讐は…もう、終わったんだよな?」

 

「…………えぇ…」

 

その問いに翠蓮はしばし考えてからそう答える。

 

「ならいい。それが聞ければ十分だ」

 

「……?」

 

その問いの意図がわからないでいると…

 

「"父方の従姉妹"を路頭に迷わせたくもないし…その願い、聞き受けるさ…"伯母さん"」

 

忍はそう告げていた。

 

「っ!?」

 

思いがけない言葉に翠蓮も驚いて顔を上げる。

 

「伯父さんの忘れ形見で、伯母さんの大切な娘…それがわかってるなら、俺から言う事は何もない。伯母さんが余命短いとしても、今この時を大切に悔いのないように過ごしてくれれば、俺は伯母さんの願いを叶える。ただ、それだけだよ…」

 

その答えを聞き…

 

「…ぁ、ありがとう、ございます…」

 

翠蓮は人目も憚らず、涙を零す。

 

「話は終わったかの?」

 

話が一区切りしたところで、皇鬼が声を掛ける。

 

「あぁ、とりあえずはな」

 

それに忍が答える。

 

「なら、そちらの2人もしばらくこの世界に滞在するということでよいかの?」

 

「はい…ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

 

その問いに袖で涙を拭った翠蓮が答える。

 

「うむ。わかった。皆も聞いての通りじゃ。しばらくの間、この客人達を城で世話するでの。そのつもりでおるように」

 

『はっ!』

 

臣下達は皇の決定に従っていた。

 

「では、武天十鬼以外は退室してよいぞ。なに、ちょっとした世間話をするだけじゃし、武天十鬼がいれば安心じゃろ?」

 

「……では、解散!」

 

鋼色の髪の男の声を皮切りに謁見の間から皇鬼、武天十鬼、忍達を除いた臣下達が退室していく。

 

そして、残った者達は…

 

「え~、これから町の女の子と逢引だってのに…」

 

不満を持つ紫色の髪の男。

 

「んぁ? 終わったのか?」

 

どうも寝てたらしい赤い髪の男。

 

「あ~、腹減った~」

 

ぐぅぅぅ!

 

腹の虫を盛大に鳴らす金髪の巨漢。

 

「やれやれ、たまに来てみれば…面倒なことだ」

 

何やら面倒そうな深緑色の髪の男。

 

「お前達という奴は…」

 

怒りが顔に出ている月鬼。

 

「それにしても坊主! なかなかの度量じゃねぇか!」

 

忍に近寄って背中をバシバシと叩く黄緑の髪の女性。

 

「「………………」」

 

その様子を傍から黙って見る鋼色の髪の男と、黄土色の髪の男。

 

「なんだろうね、姉さん?」

 

「さぁ?」

 

皇鬼の待機命令に首を傾げる水鬼と氷鬼の姉妹。

 

で、その場に残った者に言い渡された皇鬼の言葉は…

 

「まぁ、今後の付き合いもあるじゃろうし、それぞれ自己紹介しておけぃ。特に忍は食客として扱いたいしのぉ」

 

というものだった。

 

「なんか私情が混じってるな…だが、自己紹介ね。確かに世話になるんだから名前くらい知っておいても損はないか」

 

そんなことを言うと…

 

「紅神 忍。見ての通り、人間っぽいが実際は色々と混じってる混血なんで…魔、気、霊、妖、龍の力が使えます。あと、俺の身につけてた装飾品とか返してくれたら嬉しいです」

 

忍はそう自己紹介していた。

当然、持ち物の返還も要求していたが…

 

「紫牙 翠蓮と申します。娘の領明と共に暮らせる時間を与えてくださり、ありがとうございます」

 

忍に倣い、翠蓮もそのような自己紹介をしていた。

 

「……紫牙 領明…です…」

 

領明はあまりこういうのに慣れてないのか、名前以外は特に言わずに終わってしまう。

 

「………………」

 

人間側の最後の一人…暗殺者の少女は頑なに口を開かなかった。

 

「はぁ…仕方あるまい。武天十鬼が筆頭、月鬼。次、炎鬼」

 

言葉少なめに語る月鬼は次を指名する。

 

「応よ、旦那! 武天十鬼の特攻隊長! 炎鬼様とは俺のことよ!」

 

何とも暑苦しい限りの赤い髪の男『炎鬼(えんき)』が名乗る。

 

「オラは雷鬼って言うんだな~。飯の事なら任せておけ~」

 

金髪の巨漢『雷鬼(らいき)』は何とものんびりした様子だった。

 

「わたくしは氷鬼と申します。この城の筆頭侍女でもありますので、何かあればお声をかけてもらえれば幸いです」

 

礼儀正しくお辞儀する氷鬼。

 

「あたしは水鬼。いつもは姫様の護衛してるわ。今日はまだお部屋から出てきてないみたいだけど」

 

氷鬼とは対照的にはつらつと答える水鬼。

 

「僕は樹鬼。しがない植物学者だ」

 

忍達に興味がなさそうな態度を示しながら律儀にも挨拶をする深緑色の髪の男『樹鬼(じゅき)』。

 

「あたしゃ、風鬼ってもんだよ。ま、よろしく頼むわな♪」

 

そう言って腰に下げてた徳利から酒を飲む黄緑の髪の女性『風鬼(ふうき)』。

 

「…………地鬼…」

 

名前だけを口にする黄土色の髪の男『地鬼(ちき)』。

 

「我が名は鉄鬼。今は聖上に命を預ける武人だ」

 

お堅く武人然とした鋼色の髪の男『鉄鬼(てっき)』。

 

「女の子となら仲良くしてもいいけど、野郎とはご勘弁。だから女の子は俺のことを重鬼って覚えてくれると嬉しいな~」

 

このなんともチャラいのも武天十鬼の一人なのだと疑いたくなるような紫色の髪の男『重鬼(じゅうき)』。

 

「お主も名乗るくらいしたらどうじゃ?」

 

「………………」

 

皇鬼は暗殺者の少女に向かって口を開くが、当の本人は沈黙を続けていた。

 

「やれやれ…」

 

「はぁ…」

 

その沈黙に皇鬼と忍が溜息を吐く。

 

「それにしても…現代でも戦国時代みたいな世界があるもんなんだな…」

 

何気に呟いた忍の一言に…

 

「げんだいに、せんごくじだい? また、何の話をしておる?」

 

皇鬼がそのように尋ねる。

 

「え? だって、人間界って今は現代だろ? 20XX年だよな?」

 

「「「(こくこく)」」」

 

同じ時代で生きていた翠蓮、領明、暗殺者の少女も忍の言葉に頷く。

 

「20XX? 何を言うちょる。確か、今の人間界の暦は……"太陰暦"のはずじゃぞ?」

 

皇鬼はにべもなくそう言い放つ。

 

「「「「………………」」」」

 

それを聞き、固まる忍達は…

 

「「「……………え?」」」

 

「………………?」

 

暗殺者の少女以外、何を言われたのかわからないように声を漏らす。

 

「儂は変なことを言ったかの?」

 

「いえ、特に問題はないかと。報告された人間界の暦はそれで間違いないと記憶しております」

 

皇鬼の言葉に月鬼はいつか聞いただろう僅かな情報を思い出して答えていた。

 

「あははははは! 何言っちゃってんの?! 20XXとか…意味わかんないんだけど!」

 

忍の言葉を重鬼が笑い飛ばす。

 

「え、え~っと…」

 

頭の回転が追いつかない忍は…

 

「あの、今現在敵対してる絶魔に"神"という存在はいますか?」

 

そんなことを聞いていた。

 

「"神"か。忌々しい事じゃが…宣戦してきた者は自らを神を自称していたと記憶しておるわい」

 

「ッ!?」

 

その事実に忍は頭をハンマーで叩かれたような衝撃を受ける。

 

「ま、マジか…」

 

以前、深層世界で聞いた狼夜の話と、今の皇鬼の言葉の食い違いが忍をある結論に至らせる。

 

「紅神さん…?」

 

「……?」

 

忍の様子に翠蓮と領明も不安げな様子だった。

 

「俺達は……太古の世界に飛ばされた…?」

 

「「っ!?」」

 

「……………!?」

 

その言葉に翠蓮と領明、さらに暗殺者の少女もまた驚いていた。

 

 

 

なんと、あの時空の亀裂によって過去に飛ばされていた可能性が出てきた。

 

絶魔の神が存在してる。

それは忍が聞いた情報とは異なる。

何故なら忍が狼夜から聞いた話では、絶魔の神は霊狼の始祖が仕えていた神によって封印されたはずなのだから…。

その事実がない以上、この世界は太古の世界ということになりうる。

 

未来という可能性もないわけではないが、その場合だと次元世界や機械を知らないのが納得できない。

それに皇鬼の言った"太陰暦"は太古に使われていた暦である。

そう考えると、過去の可能性の方が高いのだ。

 

はたして、忍達は無事に元の世界…いや、元の時代に戻れるのか?

そして、忍の散らばった力の行方は…?

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