魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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祝・PC復活!

オリジナルを始めたという時にタイミング的に最悪かもしれないけど…
まぁ、それはそれ、これはこれ、ということで…。

スマホでオリジナルは続けますが…。
まぁ、亀更新になるでしょう。
ともかく、久々の再開です。


第百一話『決断』

現代から太古の世界へと飛ばされてしまったということに気付く忍達。

実際問題として、帰還の目処が立たないというのもある。

次元間航行の術はあっても、並行世界に通ずる時空間や過去・現在・未来という時間を行き来する術はないのだから…。

 

しかもここは過去の世界。

どう逆立ちしても過去の技術で未来へと行く方法は確立出来ない。

八方塞がりである。

 

 

 

それから忍は自分達が遥か未来よりこの世界に来てしまったことを皇鬼達に伝えるのだが…

 

「ふ~む…にわかには信じがたいのぉ」

 

流石の皇鬼も困惑していた。

 

「未来から過去へとやってきただと? ふざけているのか?」

 

「ふざけてなんかない! そうとしか説明のしようがないんだよ!」

 

月鬼の疑いの眼差しを受けても忍は断固として主張を変えないでいた。

 

「(こやつの眼は嘘を吐く者のそれとは違う。だとしたら、真実かもしれぬ。じゃが、そうだとしてもそれを確かめる術を儂等は持っておらん。堂々巡りじゃな…)」

 

忍の真剣な眼を見て皇鬼は内心で困ったことになった、と頭を捻る。

 

「俺達が身につけてた装飾品もこの世界から見たら未来の産物なんだ! 今すぐ返却を求める!」

 

忍がそう要求すると…

 

「まぁ、道理じゃの。樹鬼よ。確か、お主に任せておったな。今すぐ取りに向かうがいい」

 

皇鬼がそれに応じる。

 

「? どういうことっすか?」

 

皇鬼の迅速な対応に重鬼が頭を傾げる。

 

「仮に忍の言が正しいものだとしよう。そうすると、あの装飾品類は何らかの技術が盛り込まれておる可能性が高い。事実、あれらは鎧から装飾品に姿を変えたしのう。それらは今の時代には過多な技術やもしれぬ。高度な技術は時に我が身を滅ぼす。それを恐れて忍は早急に返却を求めておるんじゃよ」

 

「なるほど。しかし、それは逆に言えば、我等の戦力になるのでは?」

 

それに樹鬼は頷くが、そういう可能性もあると指摘する。

 

「愚問だぞ、樹鬼。先程、皇鬼様も仰っていただろう。高度な技術は我が身を滅ぼす、と…」

 

「…失言でした。では、取りに向かいますか」

 

月鬼に言われ、樹鬼もすぐに理解して忍達が身につけていた装飾品を取りに向かう。

 

「そんな大層な代物なんすかね~?」

 

樹鬼の後姿を見ながら重鬼が怪訝そうに言う。

 

「少なくとも、儂は忍の言を信じようと思うでの」

 

「買い被り過ぎじゃないっすか~?」

 

やけに忍に突っかかるような発言をする重鬼。

 

「くどいぞ、重鬼」

 

「へ~い」

 

月鬼に窘められるも反省の色はなかった。

 

「雷鬼。お前、今の頭達の話、わかったか?」

 

「うんにゃ、サッパリだ~」

 

「だよな~」

 

炎鬼と雷鬼はそんな会話をしていた。

 

「お前達はもう少し頭を使え!」

 

そうこうしていると…

 

「お持ちしましたよ」

 

樹鬼が装飾品を入れた籠を持ってきた。

 

「では、それらを返却するでの」

 

皇鬼の言葉に樹鬼は籠を忍に手渡す。

 

「……キャンサー!」

 

その中からキャンサーのチェーンブレスレットを取ると…

 

『あぁ、マスター。ご無事で何よりです』

 

そのキャンサーから音声が響き…

 

『っ!?』

 

皇鬼や樹鬼を除く武天十鬼達が周囲を見回して警戒する。

 

「アクエリアス。異常はなかったか?」

 

『えぇ。丁重な扱いをされましたので、それほど問題はありません。ただ、この世界の魔力は微弱ですので、我々の動きも制限される可能性が高いかと…』

 

「やはり、そうか。ということはネクサスやブラッドシリーズもあまり役に立たなそうだな…」

 

『面目次第もございません』

 

「いや、気にするな。それならそれでやりようはある」

 

そんな武天十鬼をよそにアクエリアスのチェーンブレスレットと会話する忍。

 

『"シンシア"ちゃ~ん』

 

「………………」

 

ピスケスのチェーンブレスレットを無言で取ろうとする暗殺者の少女。

 

「"シンシア"? それがこの娘の名前なのか?」

 

ひょいっ、とピスケスのチェーンブレスレットを忍が先に取り上げて尋ねる。

 

『そだよ~』

 

その問いに軽い感じで答えるピスケス。

 

「………………」

 

若干ムスッとしたような眼でピスケスを見る暗殺者の少女こと『シンシア』。

 

『あ、でも、これ内緒だったっけ~?』

 

「いや、知らんがな…」

 

『ねぇねぇ、シンシアちゃ~ん。これ、ダメなやつだった~?』

 

「………………」

 

とにかく、忍からピスケスを奪還しようとするシンシアだった。

 

「ちょうどいいから色々と聞かせろ。特に俺を狙う理由とか」

 

『え~、でも~、守秘義務? ってのもあるし~』

 

「この世界でそんなもの、もう意味をなさないだろ」

 

ピスケスの言葉に忍はそう言っていた。

 

『どういうことでしょうか? マスター』

 

事情がわかっていないエクセンシェダーデバイス達に…

 

「信じがたいことだが、この世界は…俺達のいた時代よりも遥か昔の時代の世界なんだよ」

 

そう答えていた。

 

『『『っ!?』』』

 

さしものエクセンシェダーデバイス達も驚いていた。

 

すると…

 

「お前達は、一体何と会話している?」

 

月鬼が異様なものを見るような目で忍達を見ながら聞く。

 

「あぁ、これは失礼しました。これは意思を持った道具でしてね。意思疎通が出来るんですよ」

 

「そんな…バカな…!?」

 

信じられないような目で忍達の手にしているチェーンブレスレットを見る。

 

「ふむ…確かにこの時代には過ぎた代物のようじゃのぉ」

 

「えぇ…意思のある道具など…伝承に語られるものくらいしか我々は知りません。それが当たり前という反応は、この世界では異質でしょう」

 

皇鬼の言葉に樹鬼も同意していた。

 

「こうなると、忍を食客にしようというのも見送らねばならんのぉ…」

 

心底残念そうに言う皇鬼だった。

 

「どういうことでしょうか?」

 

今度は氷鬼が尋ねる。

 

「未来の人間が不必要に過去へと干渉してはならない。その結果、未来にどのような影響が出るかわからないからな…」

 

その問いに答えたのは忍だった。

 

「例えばの話じゃ。過去に死ぬべきだった者を救えば、そやつが生き残った世界と死んだ世界とで未来が枝分かれる。そうした場合、過去にやって来た者は未来へと帰る時にその者が死んだ世界へと帰るが、一方でその者が生き残る世界も生まれてしまうということじゃよ」

 

「そういう現象を未来では『タイムパラドックス』、分岐した別の未来の形として並行世界『パラレルワールド』と呼んでる」

 

皇鬼と忍の説明に…

 

『????』

 

武天十鬼の大半は疑問符を浮かべていた。

 

「仮の話じゃが…もし、10年前…覇鬼達を絶魔への使者に送ったりなどしていなかったら、今この場にいる皇は覇鬼となっていたかもしれん。ということじゃよ」

 

「なるほど…」

 

「そういう可能性もあったという訳ですか…」

 

武天十鬼の中ではかろうじて月鬼と樹鬼がその解釈を理解していた。

 

「しかし、皇鬼さんはよく理解出来てるな…」

 

「なに、伊達に歳は食っておらんしの。それに人間界でもそういう考えを持つ者は少なからずおったでの。その者達の受け売りじゃよ」

 

「アンタ、本当に何者だよ…」

 

皇鬼に関心するやら呆れるやら、そんな複雑な感情を抱く忍だった。

 

「(それにしても…"鬼神界"、なんて世界は聞いたことがない。地球と隣接してる世界なら何かしら文献にも残ってる可能性が高いが…もしかしたら…)」

 

その中で、忍は一つの可能性を考えたが、詮無いことだと切り捨てる。

 

「(考えても仕方ない。ともかく、俺は俺のやるべきことをやるだけだな…)」

 

各地に分散した力を取り戻す。

今はそれが最重要だろう。

未来への帰還は、この際二の次に考えるべきだと…。

 

「(だが、その前に…)」

 

横目でちらっとシンシアを見る。

 

「(この娘をなんとかしないとな…)」

 

力を探してる最中に暗殺しに来れられても困る、という感じで溜息を吐く。

 

「(とは言え、どうするかな…)」

 

情報が名前以外に何にもない上に対策らしい対策が思いつかないのも事実だった。

 

「(このピスケスを返したが最後、また雲隠れされそうで怖いしな…)」

 

彼女自身の気配遮断能力もそうだが、ピスケスの透明化や幻術魔法を使われるのも厄介であるのは、以前捕縛した時に痛感していた。

 

「(う~ん…せめて彼女の身の上でもわかれば、また違うんだろうが…)」

 

そんな簡単に話してもらえるような内容でもないし、彼女自身無口なのもあって聞ける気がしなかった。

 

ヒュッ!

 

というか、さっきからピスケス奪還よりも忍の暗殺にシフトし始めていた。

それを理力の型を用いて巧みに避ける忍も忍だが…。

 

「(見える分には…こう、対処も出来るが…)」

 

気配を遮断され、見えないともなると理力の型もあまり意味を為さないのだ。

 

すると…

 

「てか、元の世界に戻る方法もわからないのに俺を暗殺しても意味あんのか?」

 

今更の疑問のように呟いた一言に…

 

「………………」

 

シンシアの手も止まる。

 

「………………」

 

そして、少しばかり思考を巡らす仕草をしてから…

 

「………報酬…出ない?」

 

「いや、まぁ…送り先がここにいるしな…。いくらなんでも過去に報酬は持ってこれないだろ」

 

その言葉に…

 

「………………」

 

シンシアはしばしポカンとしていた。

 

「お~い…?」

 

やや放心状態のシンシアに声をかけるが…

 

「………………」

 

反応がない。

というかあったとしても非常にわかりづらいだけかもしれないが…。

 

「まぁ、ともかく…報酬は諦めろ。俺も死にたくないし…」

 

「……………はぁ…」

 

忍の言葉にシンシアも心底ガッカリしたような、そんな溜息を吐いていた。

正直、今のが彼女の心情を一番表したのではなかろうか?

 

「(なんか…初めて彼女から感情というものを感じた気がする…)」

 

失礼かもしれないが、それもまた事実なので黙認してくれるとありがたい。

 

「(この際だし…聞いてみるか)」

 

そして、忍は意を決して聞くことにした。

 

「君は、どうして暗殺者なんてしてるんだ?」

 

「………………?」

 

何を言ってるのかわからないような…無表情だが…気分的にそんな感じの表情で見てくるシンシアに…

 

「その、他にも生き方があったりとか…しなかったのか? ご両親も知ってたりするのか?」

 

「………………」

 

それを聞き…

 

「…………私、親とか、いないから…」

 

シンシアはそう答えていた。

 

「え…?」

 

その思わぬ答えに忍も驚く。

 

「………………」

 

その後、シンシアも口をつぐんでしまい、沈黙が続く。

 

「あ~、その…なんだ……悪い…ちょっと不躾だったな」

 

その沈黙に耐えかねて忍から謝罪する。

 

すると…

 

「おっほん」

 

「あ…」

 

皇鬼の咳払いに忍もここがどこだか思い出す。

 

「まぁ、お主らにもお主らの事情があるじゃろうから、今宵ゆっくりと語り合うがよい。それまではそれぞれ好きに行動するがよい。何なら城下に出てもいいしの」

 

その申し出に…

 

「皇鬼様…何もそこまでしなくても…」

 

月鬼が異議を申し立てる。

 

「よいよい。少しは気晴らしも必要じゃろうて…」

 

そんな言葉の後…

 

「では、そろそろ解散しようかの。皆、時間を取らせてすまなかったの」

 

「いえ」

 

この場での邂逅は終わりを告げたのだった。

 

「じゃあ、俺は城下に降りてみるか…少し頭も整理させたいし…」

 

「あまり出かけられる状態でもありませんから部屋に戻らせていただきます」

 

「……私は、お母さんと一緒にいます」

 

「……………」

 

忍達もそれぞれ行動を決め、謁見の間から出ていくのだった。

 

「(紅神 忍、か。もしかしたら、あの娘の"復讐心"も何とかしてくれるやもしれんな…)」

 

皇鬼は謁見の間から出ていく忍の背中を見て密かに期待していた。

 

………

……

 

・城下町

 

「戦時中にしては活気があるな」

 

皇鬼の許可も得ていた忍は早速城下町に繰り出していた。

当然ながら自分以外は皆、鬼であるが…種族の違いなどは些細なことだろうと忍は思っていた。

 

「(ま、こんな時だからこそ明るいというか…あの皇に武天十鬼なんてのもいたら、そりゃ安心なんだろうか?)」

 

城下町の様子を見ながら忍は思案していた。

 

「(だが、絶魔…それも神がいるとなると、その戦力はわからないからな……それに神がいるということは俺達の祖先の星はこの後に侵攻されるってことだろうし…それを踏まえて考えるとかなり複雑極まりないというか……最悪の事態も考えるべきだろうな…)」

 

そんな思考を巡らせた後…

 

「で、お前は何してんだ?」

 

すぐそばから漂ってくる匂いに忍は振り返りながら尋ねる。

 

「………………」

 

そこにはシンシアがいた。

どうも城下町に降りてからずっと忍の後を追ってきたらしい。

 

「………………返して」

 

忍に掌を見せる。

 

「あん?」

 

「………………ピスケス」

 

「あ~、そうだな…」

 

そういえば、ピスケスを持ったまま出掛けてたことを思い出し…

 

「(このまま返して雲隠れされても困るしな…)」

 

とりあえず…

 

「返しても雲隠れしないって約束するなら返してやる」

 

そう言ってみた。

 

「………………」

 

シンシアもしばし考えた後…

 

「………………ん」

 

頷いていた。

 

「………………」

 

いまいち表情が読めない娘だが…

 

「わかった。今は同じ異邦人同士だし、信じるからな?」

 

忍もそれを信じ、ピスケスをシンシアへと返還していた。

 

「………………」

 

ピスケスを受け取ると…

 

「………………ありがと」

 

そう言っていた。

 

「あ、あぁ…」

 

お礼を言われたことに少しばかり驚いてから…

 

「じゃあ、また夜にな」

 

そう言って忍は歩き出す。

 

「………………」

 

それを見送る…

 

スタスタ…

 

訳でもなく、忍についていくシンシア。

 

「………………」

 

ぴたりと忍が立ち止まれば…

 

「………………」

 

シンシアもまた立ち止まる。

 

「………………」

 

忍がまた歩き出せば…

 

「………………」

 

シンシアもまた歩き出す。

 

「………………」

 

「………………」

 

それを何回か繰り返すと…

 

「なぁ」

 

流石に気になって話し掛ける。

 

「………………?」

 

首を傾げるシンシアに…

 

「お前さん、何がしたいの?」

 

忍は至極当然な質問をしていた。

 

「………………ついてく」

 

何とも簡潔した答えに…

 

「いや、まぁ…それは別にいいんだけどな? せめて隣に来るとかしないか? 後ろにべったりつかれても俺も対応しにくいんだが…」

 

忍は困ったようにそう言っていた。

 

「………………」

 

「あと、周りからの視線もそれとなく痛いんだよ…」

 

さっきの繰り返しを周りの人達は奇妙なものを見るような目で見ていたりする。

 

「だからな。ついてくるなら隣を歩いてほしいんだよ」

 

こんな所で無用な騒ぎを起こしたら皇鬼達に迷惑をかけてしまうとも思ったからだ。

 

「……………ん」

 

それを承諾したのか、シンシアは忍の隣に移動する。

 

「(とは言え、俺も行き先なんて特に決めてないしな…)」

 

そう思いながら適当に歩くこと数分。

 

「………なぁ、聞いていもいいか?」

 

特に会話もなかったが、忍から話を切り出す。

 

「……………?」

 

忍の隣を歩くシンシアが忍の顔を見て首を傾げる。

 

「城でも聞いたが…どうして暗殺者なんかしてるんだ?」

 

「………………」

 

その問いにシンシアは無表情を貫いていた。

 

「まぁ、別に答えたくないなら答えなくてもいいけどな…」

 

そう言って忍はシンシアの頭をポンポンと撫でていた。

 

「……………?」

 

今の忍の行動(頭を撫でる行為)に首を傾げる。

 

「ん?」

 

すると、忍が鼻を少し動かす。

 

「(この匂いは…?)」

 

なんだか皇鬼の匂いに近しく一際強い妖力の匂いと、さっき顔を合わせた武天十鬼の誰かの妖力の匂いを感じ…

 

「ちょっと行ってみるか…」

 

そう呟くと興味本位でその匂いを辿ることにしていた。

 

「……………?」

 

そんな忍についていくシンシア。

 

………

……

 

それから忍とシンシアは城下町の少し外れにある荒れ地に到着していた。

 

「あれは…」

 

その荒れ地には先客がおり…

 

「………………」

 

地鬼と名乗っていた寡黙な鬼が腕組しながら荒れ地の中心に立ち…

 

「でやあぁぁぁっ!!!」

 

その地鬼に向かって一人の鬼の少女が突貫していた。

 

「………………」

 

地鬼は微動だにせず…

 

ズドドドドッ!!

 

地鬼の周囲の荒れ地の地面から無数の土で出来た槍が発生して少女の行く手を阻んでいた。

 

「ちぃっ!」

 

しかし、少女は自らの四肢に妖力を纏っており、その身体能力は向上している事が窺える。

しかも少女は逆に土で出来た槍を足場にして地鬼へと接近している。

 

「………………」

 

そんな状況でも地鬼は身動き一つせずにいた。

 

「このぉっ!!」

 

少女は土の槍の合間から地鬼に向かって氷柱を撃ち出す氷の妖術を繰り出す。

 

ズンッ!

ピキンピキン…ッ!!

 

地鬼の周囲に今度は土の壁が現れ、氷柱を防いでいく。

 

「……………姫様」

 

ずっと無言だった地鬼が少女に話しかける。

 

「なによ?」

 

「……………客人が参ったようです…」

 

そう言って地鬼は視線を忍達の方へと向ける。

 

「客?」

 

地鬼に『姫様』と呼ばれた少女もその視線を追って忍達を見つける。

 

「………誰…?」

 

が、少女は首を傾げる。

 

「……………先日の謎の流星より現れた人間達です。水鬼からは何も…?」

 

「人間…」

 

地鬼の言葉を聞き、戦闘の手を止めた少女は忍達の方へと歩いていく。

それを見て地鬼も少女を追いかける。

 

こちらにやってくる少女と地鬼を見て…

 

「邪魔したかな?」

 

忍はシンシアに話を振るが…

 

「………………」

 

「なんか言ってくれ…」

 

相変わらずの無反応だった。

そうこうしている内に少女が忍達の元へと辿り着き…

 

「ふ~ん…これが人間…」

 

背丈的には忍と同等くらいの少女は興味深そうに忍とシンシアを観察する。

 

「鍛えてはいそうだけど…なんか貧弱そうね」

 

そして、失礼極まりない一言を漏らす。

 

「……………姫様」

 

「(姫…?)」

 

地鬼の言葉に忍も少女の方を見る。

 

「なに?」

 

「……………客人に対して些か礼を失しているかと…」

 

「だって素直な感想なんだもん」

 

悪びれた様子もなく少女は地鬼の言葉にそう返していた。

 

「………………」

 

やれやれといった具合に地鬼は首を振る。

 

「それで、その姫様とやらがこんな所で何してんだよ?」

 

武天十鬼である地鬼の態度から目の前の少女を本物の姫だと判断した忍はそう尋ねていた。

 

「あたしは今、地鬼と話してるんだけど?」

 

「そりゃ失礼しましたね」

 

「なんか生意気な物言いね」

 

「そうですか?」

 

互いに軽い言葉のジャブを仕掛ける。

 

「………………」

 

「………………」

 

そして、互いに少し睨み合った後…

 

「鬼神界の皇、皇鬼が孫娘、『桃鬼(とうき)』よ」

 

「…紅神 忍だ」

 

お互いの名を名乗り合う。

 

「さっきの答えだけど、見ての通り実戦訓練よ」

 

少女…桃鬼はさっきの忍の問いに対してそう答えていた。

 

「…ここの姫は最前線で戦う気なのか?」

 

「相手があいつらに限っては、ね…」

 

そう言う桃鬼から憎しみの妖力が立ち昇る。

 

「(これは…復讐の匂い…)」

 

ごく最近に翠蓮から同じ匂いを感じていたため、即座に目の前の桃鬼が復讐のために力を求めていると理解してしまった。

 

「(事情は知らない。が、しかし…)」

 

忍が何か言おうとした時だった。

 

「姫様~!」

 

城下町の方から水鬼が走ってきた。

 

「げっ、水鬼…」

 

なんだか、あからさまにマズいといった表情で水鬼から逃げるようにその場から走り去ってしまう桃鬼。

 

「あ、ちょっと! なんで、逃げるんですか! 姫様~!」

 

それを追って水鬼もその場を突き抜けていく。

 

「「「………………」」」

 

残された忍達はそれを見送るしか出来なかった。

 

ただ…

 

「(皇鬼さん…アンタは、孫娘を復讐者にするつもりなのか…?)」

 

あれほどの人物がそれを望んでいるのか、それが疑問として忍の中に芽生えていた。

 

………

……

 

その後、地鬼と別れて皇城へと戻った忍とシンシアは夕餉まで時間を潰し、翠蓮と領明と共に夕餉を馳走になっていた。

そして、翠蓮の部屋へと赴き、今後の話をするのであった。

 

「俺、しばらく皇鬼さんの修行とやらを受けることにするよ」

 

開口一番、忍はそんなことを言っていた。

 

「……あなたの、能力探しは…?」

 

忍のその言葉に驚いたように領明が尋ねる。

 

「それももちろん並行してやる。が、ちょっと気になることが出来たんでな。あの人の考えに触れたいんだよ…」

 

忍は先の接触で桃鬼のことが気になっていたようだ。

 

「その気になることというのは…?」

 

今度は翠蓮が尋ねる。

 

「別に大したことじゃないよ。伯母さんは領明と一緒にいることを考えてくれれば…」

 

忍がそこまで言うが…

 

「そうはいきません。死期が近いとはいえ、この中では私が年長者なんですからあなた達の保護者も同然です。それに…今ではあなたも私の大切な親族…甥なのですから、少しくらい頼ってもいいのですよ?」

 

翠蓮は布団から上体を起こしてそう言っていた。

 

「……お母さん…」

 

「伯母さん…」

 

翠蓮の言葉に領明と忍は何と言っていいかわからなかった。

 

「シンシアさん、今はあなたもそうなのですよ?」

 

「……………?」

 

矛先が自分に向けられ、シンシアも首を傾げていた。

 

「私は、あなたに何があって裏の世界に入ったのかまでは聞きません。でも、忍さんを狙うのはもうおやめなさい」

 

その言葉に…

 

「……………報酬…」

 

シンシアはそう漏らす。

 

「なら、今は私達を頼りなさい。ここは私達のいた元の世界じゃない。元の世界の諍いを引きずっても仕方ないのよ。だから、今はあなたも一人の女の子としてこの世界を見てみなさい」

 

「………………」

 

翠蓮の言葉を聞いてもシンシアは正直よくわからないでいた。

今まで暗殺者として生きてきたため、他の生き方というのが本当にわからないのだ。

 

「………………」

 

そんな風に無表情で困っていると…

 

「なら、まずは…あの氷鬼って人の下で色々と手伝ってみたらどうだ?」

 

忍がそんなことを言っていた。

その一言に三人の視線が忍に集まる。

 

「別にあの人に限らなくてもいいが…とにかくここでしばらく厄介になるんだから、手伝いくらいしないとだろ? シンシアもそうだが、領明もやっておいて損はないと思うぞ?」

 

そんな忍の発言に…

 

「そうね。この子達には必要なことかもね…」

 

翠蓮も概ね賛成のようだ。

 

「……ぇ…で、でも…」

 

領明が不安そうに翠蓮を見る。

 

「大丈夫。あなたがいない間に死んだりなんかしないから…」

 

翠蓮はそう言って微笑む。

 

「………………」

 

シンシアはシンシアで最後まで無表情だったが…。

 

「じゃあ、明日。俺から皇鬼さんに伝えておくよ」

 

「えぇ、お願いね」

 

こうして忍達の相談は終わり、忍とシンシアはそれぞれの部屋へと戻った。

 

………

……

 

翌朝。

謁見の間にて…

 

「して、昨夜は語り合えたかの?」

 

「えぇ、一通りは話し合えました」

 

玉座に座る皇鬼を前に忍は堂々としていた。

 

「それはよかった。で、結論は?」

 

余計な話を省いていきなり本題に入る皇鬼。

 

「俺達をしばらくの間、ここで生活させてほしい。そして、俺は皇鬼さん…アンタの修行を受けることにする」

 

ざわざわ…

 

その言葉に臣下達もざわめく。

 

「ほぉ…?」

 

忍の言葉に皇鬼は嬉しさ半分、疑問半分といった表情を見せる。

 

「あと、シンシアと領明もここに滞在している間、侍女の手伝いとして使ってくれて構わない」

 

「まぁ、今は人手がいくらあっても足りないくらいじゃからのぉ。しかし、いいのかの?」

 

それは最終確認であった。

 

「構わない。あの二人にはもっと自分の世界を広げてもらいたいからな」

 

それに対して忍は頷いていた。

 

「じゃあ、そちらは氷鬼に任せるかの。じゃが、お主は自ら志願したのじゃ。生半可な覚悟であった場合は…儂も容赦しないでの?」

 

「覚悟の上だ」

 

そう答える忍の眼は本気であった。

 

「………あい、わかった。なら、お主の身柄、この皇鬼が預かろう」

 

「よろしくお願いする」

 

皇鬼の言葉を聞くと、忍は深々と頭を下げていた。

 

 

 

その日から忍は皇鬼の指導を受けることになった。

領明とシンシアも侍女見習いとして皇城で働くことになった。

 

そして、散らばった忍の力の行方は…?

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