魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百三話『満月の夜に煌めくは…』

忍と桃鬼が手合わせしてから、二週間が経った頃のこと。

 

遂に、別れの時が訪れていた。

 

「ぐすっ…ひっぐ…」

 

「領明…」

 

翠蓮の横たわる布団の前で泣く領明の肩に忍はそっと手を置いていた。

 

「ここまで、生きられたことに…感謝しないと、ね…」

 

布団の中で寝ている翠蓮の表情はとても安らかなものだった。

 

「お母さん…お母さぁん…」

 

母を呼ぶ娘は涙で顔をくしゃくしゃにしていた。

 

「泣かないの…私は、あの人と共に…あなたを見守ることにするわ。大丈夫…きっと和解してみせるから…」

 

そう言いながら翠蓮は弱々しくなった手で領明の頭を撫でる。

 

「伯母さん…」

 

「忍さん…領明のこと、よろしくね。この娘、本当は寂しがり屋だから…」

 

領明の頭を撫でながら忍に領明のことを託していた。

 

「はい…」

 

それを忍はしっかりと頷いていた。

 

「あぁ…私は本当に…人生の大半を愚かな行為で、費やしてしまったのですね…」

 

今更ながら翠蓮は己の行為を悔いていた。

 

「心残りがあるとするなら…領明の幸せを見れないことと……一度でいいから、生きていた時にあの人のことを…"あなた"と、呼んで…親子3人で過ごしてみたかった…」

 

もう叶わぬ夢であったとしても、翠蓮は一筋の涙を零しながら領明と狼夜への想いを吐露していた。

 

「伯母さん…」

 

「お母さん…!」

 

もう、時間もないのだろう…。

 

「シンシアさん…」

 

翠蓮がその名を呼ぶと…

 

「………………」

 

忍達の後ろに控えていたシンシアも前に出てきた。

 

「シンシアさん…領明と仲良くしてあげてくださいね」

 

「……………それは、依頼…?」

 

その言葉を仕事と勘違いしているのか、シンシアはそう聞き返す。

 

「依頼ではないわ。お願いよ」

 

「……………お願い…?」

 

翠蓮の言葉に首を傾げる。

 

「そう…聞いてくれるかしら?」

 

「………………」

 

しばし思考を逡巡させると…

 

「……………ん」

 

翠蓮に向かって頷いていた。

 

「ありがとう、シンシアさん…」

 

翠蓮はシンシアに向かって微笑んでみせる。

 

「時間を超えた先で逝っても…あの人に、会えるかしら…?」

 

そんなことを呟いた後、翠蓮はその目をゆっくりと閉じていき…

 

「………………………………」

 

そして、その息を引き取るのであった。

 

「お母、さん……っ…」

 

静かに、だが安らかに永眠した翠蓮の枕元に顔を埋める領明…。

 

「領明…」

 

そんな領明を忍はただ見ることしか出来なかった。

 

「………………」

 

それはシンシアも同じだった。

 

しばらくして領明が泣き疲れて眠ってしまい、そのまま翌日になるまで起きなかった。

 

………

……

 

そして、その翌日。

 

「いいんだな?」

 

翠蓮の遺体を前に忍は領明への最終確認をしていた。

 

「……はい」

 

表情は悲しみに満ちているが、その瞳は覚悟が出来ているのが見て取れた。

 

「………わかった」

 

ボアァ!

 

その決意を確認し、忍は右手に紅蓮の焔を発生させる。

 

「では、始める…」

 

そう言って紅蓮の焔を翠蓮の遺体へと燃え移らせ、その遺体を骨ごと灰へと還す。

残った灰は皇鬼に用意してもらった壺の中へと魔法を使って全て入れる。

 

「これで簡略だが、火葬は済ませた。あとは…元の時代に戻ったら、俺の部屋に置いてある伯父さんの遺灰と共に小さな墓を作って一緒に埋葬しようか…」

 

「……うん」

 

忍の提案を受け入れつつ壺を受け取り、抱き抱えるようにする。

 

「ここにいる間は領明が持ってるといい」

 

「……ありがと」

 

「なに、気にするな。それにお互い…ここではやることがあるだろう?」

 

忍は更なる高みを目指した修行と能力の捜索、領明は侍女見習いとして皇城のお手伝いがある。

 

「……私も、手伝う?」

 

「気持ちだけ貰っておくよ。なんせ、能力はビー玉に封じてあるからな。城の手伝いしながら探すには範囲もわからないし、一苦労するだろ?」

 

そう言って忍は領明の頭を撫でる。

 

「……そう…」

 

そんな領明は少し残念そうな表情をする。

 

「…別に頼りないって思ってる訳じゃないぞ? 従妹に俺の苦労を手伝ってもらうのが悪いと思ってるだけだ」

 

その表情を見てか、忍は頭を掻きながらそう答える。

 

「……水臭い…」

 

領明は領明でそう返していた。

 

「……………かもな」

 

それを受け、少し驚いたような表情をしてからそう漏らす。

 

………

……

 

それからさらに一週間が経ち、忍達が過去の世界にやってきて実に一月が経とうとしていた。

 

「なんだかんだ言って、もう一月も経っちまうのか…」

 

自室として借りている部屋の窓から夜空の月を見上げ、忍はそんなことを呟いていた。

 

「(過去と未来との時間経過が一緒とは考えたくないが……皆、どうしているだろうか…?)」

 

今は離れ離れになっている眷属達や仲間達のことを考える。

 

「(敵対していたとは言え、今は蟹座と魚座が共にいる。シンシアはどうかわからんが、蟹座を持つ領明は俺が責任持って預かると伯母さんにも約束したからな。戦力として数えるのもおかしな話だが、これでエクセンシェダーデバイスの内、五つがこちら側にあるか…)」

 

そう思考を巡らせ、現在のエクセンシェダーデバイスの状況を改めて考える。

 

忍の持つ水瓶座、智鶴の持つ蠍座、紅牙の持つ射手座、ユウマの持つ乙女座、そして領明の持つ蟹座の五つが味方にいる。

現世の神ことグレイスの持つ双子座、今も何を考えているのかイマイチわからないシンシア魚座の二つが中立にいる。

ノヴァの持つ山羊座が敵側にいる。

残る牡羊座、牡牛座、獅子座、天秤座の四つは未だ所在不明。

 

「(エクセンシェダーデバイスの所在が分かり、だんだんと集まってきたということは、何かの兆候なのか?)」

 

嫌な予感を感じていた。

 

「(ま、わからないことを考えても埒が明かんか…)」

 

そう結論付けていると…

 

「……………ん」

 

近くで忍に盃を差し出す影があった。

 

「あぁ、すまん…」

 

それを受け取り、口をつけると…

 

「…………………ん?」

 

そこで違和感というか…何故、盃が?という疑問が出てきて差し出された方を見ると…

 

「………………」

 

徳利が2本載ったお盆を持った侍女姿のシンシアがいた。

 

「んくっ…相変わらず気配を消すのが上手いよな、お前って…」

 

盃の中身を飲み下すと、忍は呆れたようにシンシアを見る。

 

「てか、これ…酒だろ?」

 

「……………ん」

 

その問いに軽く頷くシンシアであった。

 

「確かに月見酒には良い頃合いだがな…」

 

「……………?」

 

「一応、未成年……って言ってもここじゃあんま関係ないのか…」

 

そんなことを愚痴り、額に指を押し当てて困ったような顔をする。

事実、ここ一月の間に何度皇鬼に酒を飲まされてきたことか…。

そのおかげか、忍に酒に対する耐性もついたが…。

 

ついでに言うなら、シンシアがこうして忍の元にやってくるのも今日に限ったことではなかった。

暗殺はしてこなくなったが、代わりに気配もなく近づいてくることが多くなった。

その度に何かしら持っていたりするのだが…。

 

すると…

 

コンコン…

 

控えめに部屋の戸をノックする音がする。

 

「(この匂いは…)領明か。入ってもいいぞ」

 

匂いで判別出来るので先にそう言っていた。

 

スーッ

 

「……失礼します」

 

戸を開け、正座していたらしい侍女姿の領明が忍の部屋に入ってくる。

そして、また正座すると戸をゆっくりと閉めていた。

氷鬼の教育もあるのだろうが、一月もあればそれなりの所作や仕草を身に着けたようだ。

 

「……シンシアさん。また、忍さんの所に来てたんですね…」

 

部屋に入り、シンシアを見つけると領明は困ったような声を出していた。

 

「しかも酒まで持ってきてな…」

 

「……はぁ…」

 

その言葉に領明も溜息を吐く。

 

「どうする? 領明も一献、どうだ?」

 

「……私はまだ未成年…」

 

「そら俺もなんだがな……ここじゃ通用しんらしい」

 

そう言ってシンシアの持つお盆から徳利を取ろうとすると…

 

「……………給仕」

 

忍が取るより先にシンシアがお盆を床に置き、徳利の一つを持って空になっていた盃に酒を注ぐ。

 

「……………」

 

領明がジト目で忍を見る。

 

「そんな目で見ないでくれ…酒が不味くなる…」

 

と言いつつも盃を傾ける辺り、この一月の間も似たような状況が何度かあったのだろう。

 

「……………一緒にやる?」

 

そんな領明を見てシンシアがそんな風に誘う。

 

「……!? し、知りません…!///」

 

何故か少し顔を赤くしてプイっとそっぽを向く領明だった。

 

「(ま、一月前に比べて少しは感情豊かになったと思えば、格段の成長か…)」

 

そんな領明の様子を見て忍は少しだけ笑みを零す。

 

「……なんですか? その笑みは?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

少しむくれ気味の従妹に忍は逃げるように顔を背けて月を見る。

 

「満月、か」

 

それほど遠くない過去の記憶を呼び起こす。

 

「……………?」

 

「……満月が、どうかしましたか?」

 

事情を知らないシンシアと領明は忍に尋ねてみた。

 

「いや、昔は満月が嫌いだったな、と思い返してな…」

 

今でこそ普通にしているが、昔の忍…当時と言ってもまだ銀狼としての力に目覚める前までは狼に追いかけられる夢を満月の夜に見ては怖がっていたというのを2人に話していた。

 

「……………意外」

 

「……そう、ですね…」

 

これには2人もビックリしたような表情をする。

シンシアに関してはポーカーフェイスなのであまりわからないが…。

 

「人は誰しも得手不得手があるもんなんだよ。まぁ、今はそんなことはないがな」

 

余計なことを言ったかな、と思いつつ忍は満月を見上げる。

満天の星空に浮かぶ鬼神界の満月は煌々と煌めいていた。

 

「(俺の解放形態を封じたビー玉は一体何処へ行ったのやら…)」

 

そんなことを考えていると…

 

ウォオオオオン……!!

 

狼の遠吠えのような鳴き声が忍の耳に入る。

いや、正確には脳に直接響くような…そんな感じだ。

 

「っ!」

 

それを聞き、忍は窓から身を乗り出す。

 

「……………?」

 

「……忍さん?」

 

どうやら2人にはその鳴き声が聞こえなかったようで、忍の行動が不思議がる。

 

「今のは…まさか…」

 

そう呟きつつ窓から外を見渡していると…

 

「あれは…?」

 

城下町の外に点在する山々の一つ、その麓辺りにまるで満月の光を受けて淡く輝いているような現象が起きていた。

 

「あそこは…?」

 

その一点を見つけ、なんだ?と首を傾げる。

 

「……………光ってる?」

 

「……この力は…霊力?」

 

そんな忍の両隣から顔を覗かせるシンシアと領明はそれぞれ抱いた感想を述べていた。

特に領明は術式系が得意なのもあってか、微かに感じる力の波動で判断しているようだった。

 

「あぁ、確かにこの匂いは霊力だ。しかも、"俺の匂い"がする…!」

 

それは、つまり…

 

「……………探してる力?」

 

シンシアが忍に問う。

 

「その可能性が高い。しかもこの感じは…おそらく真狼だ」

 

それは忍が持つ解放形態、その筆頭とも言える能力だった。

 

「(だが、おかしい…微かにだが、他にもなんかの匂いが混じってる…?)」

 

距離があるために正確な把握は難しいが、忍は微かな匂いで違和感を感じていた。

 

「……行ってみますか?」

 

領明が忍に尋ねると…

 

「やっと見つけた手掛かりだ。行くしかないだろ?」

 

その目は既に獲物を狙う狼のようなものに変化していた。

 

………

……

 

夜中、ある山の麓で月の光を受けて何かが淡く光るという現象を見つけた忍達は夜中の皇城を抜け出していた。

シンシアは持ち前の技術で普通に抜け出していたが、忍はともかく領明はそんな技術がないので忍がお姫様抱っこして神速の歩法を用いて衛士達の目を盗んで皇城から抜け出していた…………のだが…。

 

「何故、お前がいる?」

 

既に領明を降ろしている忍が額に指を当てながら隣を歩く人物に問う。

その人物とは…。

 

「なによ? あたしがいちゃ都合が悪いわけ?」

 

桃鬼だった。

三週間前の忍との戦いの際に負った左肩の怪我は既に樹鬼の作った薬草を用いて回復させていたので心配はないが…。

 

「悪いというか、なんというか…いいのか? 姫がこんな夜分に城を抜け出して…」

 

忍はそんな疑問を口にしていた。

それに何かあった場合、きっと忍に責任があるとか言われそうである。

ただでさえ先の桃鬼との戦いで武天十鬼…特に氷鬼と水鬼からは目の敵にされているというのに…。

 

「いいのよ。いつまでも怪我人扱いとか、気が滅入るし」

 

「やれやれ…」

 

桃鬼の言葉に忍も呆れていた。

 

「で、なんで俺達に付いてくるんだよ? というか、何故気付いた?」

 

事実、夜中ということもあってか、外への警戒はしてても中から抜け出すことに関してはあまり警戒されてなかったのもあり、忍達は神速と気配遮断を使って容易に抜け出しに成功したのだが、何故か同行者の中に本来はいないはずの桃鬼が混じっている。

これはどういうことなのか…?

 

「なんでって…そりゃ、たまたま見つけたから?」

 

「俺の神速とシンシアの気配遮断をたまたま見つけただと…?」

 

一瞬、『なんつう野生の勘だ』と思ったが、決して口にはしなかった。

 

「まぁ、お祖父ちゃんや月鬼も気付いてると思うけどね」

 

「確かに…あの2人は別格だからな…」

 

最初に会った時から匂いで他の武天十鬼とは別格だと思っていたので、そこは同意せざるを得なかった。

それにこの一月は皇鬼に修行をつけられていたので、それをより実感したというのもあった。

 

「ん? てことは…もしかしなくても泳がされてる?」

 

ふとそんなことを口にいてしまった。

 

「じゃないの?」

 

にべもなく桃鬼はそう言い放つ。

 

「……………」

 

本当に頭が痛くなってきたらしい忍だが…

 

「まぁいいや。やっと見つけた手掛かりだしな」

 

目的地に近付くにつれ、匂いも鮮明になってきてより精度の高い判断材料が手に入っていた。

 

「(にしても、おかしい…何故、俺の霊力と共に"知らん龍気の匂い"と"なんか錆びたような匂い"がする?)」

 

それに疑問に抱いていると…

 

ちょんちょん…

 

「ん?」

 

後ろから裾を引っ張られる感覚で意識を元に戻す。

 

「……………そろそろ着く」

 

「……はい。この先から強い霊力を感じます」

 

シンシアはポーカーフェイスで、領明はちょっと緊張した面持ちでいた。

 

「あれ? この先って確か…」

 

隣を歩いていた桃鬼もなんだか首を捻っていた。

 

そして、一行が行き着いたのは…

 

「社?」

 

古ぼけたような、でも立派な社が建っていた。

 

但し…

 

「なんか知らんが、結界が張られてるな。しかもこの匂いからして、中に何かいるな…」

 

社の周りに結界が張られ、その中に得体の知れない何かが存在しているらしい。

 

「……どうします?」

 

「……………強行突破?」

 

「鬼が出るか、蛇が出るか…っと鬼はここにいたな」

 

そう言って桃鬼を見る。

 

「は?」

 

「いや、何でもない」

 

桃鬼が間抜けな声を上げると忍もそれ以上のことは言わず…

 

「さて…じゃあ、入るか」

 

まずは結界内に入ることにしたらしく、忍は結界へと足を踏み入れる。

 

「「…………………」」

 

シンシアと領明も黙って忍についていく。

 

「ん~…なんだったかな……って、ちょっと待ちなさいよ!」

 

考え事をしていたらしい桃鬼も遅れて結界へと足を踏み入れる。

 

と…

 

『グルルルル…!!!』

 

社の前には巨大な、全長が3、4m近くはあるだろう黒の混ざった白銀の毛並みと右は琥珀、左は真紅の瞳を持つ狼が威嚇するように睨んでいた。

その口には何やら刀身が錆び付いた古ぼけたような刀が咥えられていた。

 

「真狼…!」

 

その姿と力の波動、そして匂いで忍は即座にそれが散り散りになった力の一つだと確信した。

 

「あの刀って……まさか!?」

 

真狼が咥えている刀を見て桃鬼も驚きの声を上げる。

 

「………………?」

 

「……あの、ボロボロの刀が何か?」

 

桃鬼の驚いた様子に2人がそちらを向く。

 

「いや、多分だけど…アレ、伝説の武具って言われる七振りある刀の内の一振り…だと、思う…」

 

そんな桃鬼の発言に…

 

「「……アレが?」」

 

忍と領明が真狼の咥えるボロ刀を見て一言聞き返す。

 

「………み、見た目で判断するな、ってことでしょ!?」

 

伝説の武具と謂われているものがボロ刀などとは桃鬼も信じられないのだろう。

 

「……………来る」

 

シンシアはピスケスを構えながら呟く。

 

「「っ!?」」

 

それを聞き、慌ててキャンサーを取り出す領明と、構えを取る桃鬼。

 

「………………」

 

しかし、忍は敵意を向けてくる真狼に向かってゆっくりと歩いていた。

 

「……忍さん?!」

 

「ちょっ、危ないわよ!?」

 

「………………っ!」

 

すぐにでも飛び出しそうな3人を背中越しに…

 

「手出しは無用。これは…俺自身の問題だ」

 

忍は静かに、だが力強い言葉で制していた。

 

「……で、でも…」

 

それを受け、領明は躊躇しているようだ。

 

「見つけるのに、一月も待たせてしまったからな……そりゃ怒りもするよな……悪かったな」

 

そんな風に真狼に向かって謝罪するかのようなことを言いつつ…

 

「真・瞬煌」

 

即座に真・瞬煌を纏い、背中と両肩の衣服が弾ける。

 

「……え?」

 

「は?」

 

「………………?」

 

その忍の動作に3人は首を傾げる。

さっきの忍の言葉は…一体なんだったんだろうか?、と言いたげな反応だった。

 

「だが、俺の力の一つ…それも大元の片割れでありながら、その訳わからずの力に侵食されて牙を剥けるとはな…少し俺の力を再確認させてやるよ…!」

 

ブォンッ!!

 

忍から濃密なオーラと共に重圧なプレッシャーが広がる。

 

「っ…(こいつ、また強くなってる…?)」

 

「……忍さん…」

 

「………………」

 

その後ろ姿を見た3人はそれぞれの感想を抱いていた。

 

『グルルルル…!!』

 

その忍のプレッシャーを受けても真狼は怯む様子はない。

いや、むしろ敵意が増してきたか?

 

「………………」

 

忍もまた真狼を睨んでいた。

 

次の瞬間…。

 

ブンッ!!

 

風を切るような音と共に忍と真狼の姿が消え…

 

ドドドドドドドドド…!!!

 

大気が震え、激しくぶつかり合う音がそこらじゅうで木霊する。

 

「……!?」

 

「………………」

 

「は、速い!?」

 

もはや3人の目では視認することが不可能な領域であった。

 

ベチャッ!

 

さらにそこらにはどちらのかわらかないが、血が飛び散っていた。

 

ドォンッ!!

 

すると社の前辺りの地面に何かが盛大な音と共に叩き付けられていた。

 

「大人しくしろ!!」

 

『ガアアアッ!!』

 

見れば、血塗れの忍がこれまた血塗れの真狼の喉元を右手で掴み、抑え付けようとしていた。

しかし、真狼の方も暴れ回っており、そう簡単に組み伏せられそうにない。

 

すると…

 

カッ!!

 

真狼の咥えていた刀が瞬間的に煌々とした光を発光する。

 

「くっ!」

 

それを受け、忍も真狼から手を放して一旦下がる。

 

「なんだ…?」

 

刀の光が収まると、そこには…

 

『グルルルル…!!』

 

『ガルルルル…!!』

 

先程の真狼よりも一回りだけ小さくしたような白銀の毛並みと真紅の瞳を持つ狼と、漆黒の毛並みと琥珀の瞳を持つ狼という2匹の狼がそれぞれ別々の刀を咥えて忍の前に並び立っていた。

 

「銀狼に、黒狼だと…!?」

 

2匹となった狼の姿に忍は何が起きてるのか、困惑していた。

 

ブンッ!!

 

忍が困惑している間に銀狼と黒狼の2匹は同時に忍へと仕掛ける。

 

「ちっ、考える暇もないか…!」

 

そう愚痴ると忍も神速を用いて2匹を相手取る。

 

「(にしても気のせいか? あの刀、さっきよりも切れ味が増してるような…?)」

 

その攻防の中、忍はそんな違和感を覚えていた。

 

「(それに…なんか見てくれも変わってるような…?)」

 

よくよく見ると、銀狼の持つ刀はその毛並みと同じように白銀に輝き、黒狼の持つ刀もまたその毛並みと同じような漆黒に輝いていた。

 

「(訳わからずの刀に、訳わからずの龍気、そして俺の力…それらが合わさり、この狼達になっている…?)」

 

その様子と今までの感じ方からそんな推測をしてみる。

 

「(ということは…他の力も、同様に…?)」

 

真狼以外の力…紅蓮冥王、蒼雪冥王、吸血鬼、龍騎士(+始龍)、牙狼の闇の五つが該当するが、それらもまた真狼と同じような状態になっているのだろうか?

断定は出来ないが、否定も出来ない状況であった。

 

「(どれも一筋縄ではいかない力だからな……少なくとも真狼と蒼雪冥王が揃えば、俺の大元は回収出来たと言えるし、残り四つに関しても何とかするしかない訳だが…)」

 

銀狼の速さに追従しつつ、時折迫ってくる黒狼の奇襲をいなしながら考えを纏める。

 

「(……………よし、小難しいことは後で考えるか)」

 

そこまで逡巡してから目の前の狼達に思考を戻す。

 

「ッ!!!」

 

狼達が同時に仕掛けてくるタイミングをわざと作ると…

 

ガシッ!!

 

『『ッ!?!』』

 

狼達の口を真正面から同時に鷲掴みにする。

 

「我は、真なる狼なり…!!」

 

ギラリッ!

 

瞳孔が鋭くなる。

 

「その証たる銀狼と黒狼よ。我が命に従い、我が元に還れ…!!」

 

『『ッ!!!』』

 

ゴオオォォォ!!!

 

その瞬間、忍を中心に光の柱が発生する。

 

………

……

 

・真狼の深層世界

 

「ここは…」

 

そこは、目の前に広がる広大な草原と小さな丘、その後ろには夜空に浮かぶ満月を背に丘に佇む一匹の狼がいた。

 

「そうか。ここは真狼の深層世界だったな…」

 

そう言って丘の上にいる狼を見る。

 

『………………』

 

その狼も忍をじっと見つめていた。

 

「すまなかったな。随分と待たせて…」

 

その視線をしっかりと受け、忍は狼に謝っていた。

 

『………………』

 

フルフル、と首を横に振る狼。

 

「そうか。ありがとな…」

 

それだけで狼が何を言っているのか伝わるらしく、忍は微笑んでいた。

 

「それで、あの龍気と刀の正体は?」

 

『………………』

 

狼は満月の浮かぶ夜空を見上げる。

 

「?」

 

狼の視線を追いかけて忍も夜空を見上げると…

 

『………………』

 

こちらを見下ろすようにして西洋の龍を思わせる白銀の鱗と真紅の瞳、そして6色(紅蓮、瑠璃、深紅、黄金、漆黒、純白)に輝く6枚の色鮮やかな翼を持つ龍が佇んでいた。

 

「おいおい…ここに入り込んだのか?」

 

『………………』

 

忍の疑問にこくりと狼は頷く。

 

「相当な力があると見て間違いないか…」

 

そんなことを呟いていると…

 

『我が名は…"真龍(しんりゅう)"。"七煌龍(しちこうりゅう)"が一柱であり、盟主なり』

 

自らを『真龍』と名乗る龍が口を開く。

 

「七煌龍…?(始龍の眷属、七源龍みたいなものか? いや、盟主というからには龍による同盟のようなものなのか?)」

 

そんな考えをしていると…

 

『如何にも。しかして我等、既にこの世の肉体はなく、魂もまた欠片なり』

 

真龍がそのように語る。

 

「うん? それはつまり…既に死んでるってことか? 七煌龍、全員?」

 

『うむ』

 

忍の問いに頷く真龍。

 

「にも関わらず、ここにいるということは…残留思念の類か?」

 

『そう捉えて相違ない』

 

「それがなんでまた俺の力の…しかも深層世界の中にいるのかね?」

 

少し頭が痛くなったらしい忍が頭上の真龍に尋ねる。

 

『波長が合った。それ故に間借りさせてもらった』

 

「そ、そんな理由で…(てか、"波長が合う"ってどういうことだ?)」

 

そこでふと疑問に思った。

 

「じゃあ、俺を襲ってきたのはなんでだ? しかも真狼の姿やらなんやらで攻めてきやがって…」

 

間借りしてる程度なら別に襲ってくる必要性はないのでは?

そんな疑問に真龍は…

 

『それは…かの刀に宿った意思と、我が意思だ。そこな狼は最後まで反対の姿勢だったがな』

 

「そうか。つまり、真龍とその刀とやらは俺が本当に真狼の器として相応しいか試した訳か」

 

『少なくとも我が意思は其方の言う通りだ。が、刀の意思はわからぬ』

 

「わからない?」

 

真龍の言葉に忍は首を傾げる。

 

『我と狼、刀は別々の意思を持っている。狼は最初から其方を信頼していた。我は間借りしている関係上、その意には従おうと思っていたが、これだけの存在が信頼する者を我は試したかった。それは刀も同じだったようだが、我とは少し違うものも含まれているようだった』

 

「違うもの、ねぇ…」

 

すると…

 

『左様』

 

ドォンッ!!

 

満月の方から刀が降り、忍の眼前に突き刺さっていた。

 

(それがし)は牙。古の鬼神界で生まれ、数多の使い手の牙となりしもの』

 

龍の次は刀が語りだす始末。

 

「牙、ね。その割にはボロボロだったが…?」

 

『それは、ここ数百年の間、使い手が見つからなんだからな。ただ一振りを除いては…』

 

「どういうことだ?」

 

『某等、七つの牙にはそれぞれ力が宿っている。それを解放出来る者こそが代々の継承者になるのだが…その血もほとんどが絶えた。故に某等は祀られていたのだが…』

 

「そこに何の因果か、俺の力と、真龍の魂の欠片が来たって訳か」

 

そう推察する忍だった。

 

『うむ。そして、我等三位の相性はこの上なく合致していた』

 

『某の力をここまで発現出来るのは初代の使い手以来だ。それだけ狼殿と真龍殿の力が強かったのだろう』

 

「ふむふむ…それでその狼の器である俺を試したと? なかなか迷惑な話だが……で、それぞれ評価は?」

 

わかりたくないが、何となく事情を察してしまった忍は結果を聞くことにした。

 

『我は既に其方を認めた故、これ以上の意見は控えよう』

 

『某も新たな使い手として貴殿を認めようと思う』

 

真龍と刀は先の一戦で忍の実力を認めたようだ。

 

「そうかい」

 

やれやれといった感じで忍が肩を竦めていると…

 

『認めたついでに依頼をしたい』

 

真龍が何やら言ってくる。

 

「なんだよ?」

 

意見しないと言った割にはすぐに何か言ってきたので怪訝に思った。

 

『我が盟友達の魂の欠片を集めてほしい。さすれば、我等は其方の力になろう』

 

「また、なんでそんなことを…?」

 

『これだけ波長の合う存在に巡り合えたのだ。もはや欠片となりし我等だが、集まれば何かの役に立つだろうと思ってな』

 

「それは…俺としても助かるが、いいのか?」

 

『うむ。盟友達に遭遇したら我も口添えしよう』

 

「アンタがそれでいいならこれ以上は無粋か。いいだろう。アンタの盟友ってのも探してやるよ」

 

真龍との会話が終わると…

 

『某達のことも頼むぞ、新たな使い手よ』

 

「おいおい…刀も集めろってか?」

 

『そうは言わん。だが、相まみえた時は相手をしてもらえると助かる。一振り以外はおそらく使い手がおらぬしな』

 

「はぁ…なんかまた面倒事を任された気分だ…」

 

龍は力を引き寄せる。

それはイッセーに言われた言葉だが、忍にも十分該当するようだった。

 

「と、そうだ。牙、お前の銘は?」

 

『銘はない。代々の使い手に牙と称されてきた故、そう名乗っている』

 

「そうか…」

 

それを聞き…

 

「でも七本もあると区別がしにくくないか?」

 

当然の疑問を口に出す。

 

『ふむ、言われてみれば…確かに使い手は某等を"牙"とだけ呼んでいたからな。まぁ、使い手が認識していれば問題なかったしな』

 

「それでいいのか…?」

 

『事実、問題なかったからな』

 

「………………」

 

それを聞いてますます頭が痛くなったらしい。

 

「ともかく、アンタらの身柄(でいいのか?)は俺が預かる。一先ず、ここから現実世界に戻るぞ」

 

『………………』

 

『承知した』

 

『御意』

 

忍の言葉に三者は頷く。

 

そして、忍は現実の世界へと戻る。

 

………

……

 

・現実世界

 

バリンッ!!

 

「……………」

 

光の柱が割れると、そこから髪が黒の混ざった白銀に染まり、その色と同じ毛並みの狼の耳と尻尾を生やした忍が現れる。

 

「……………」

 

ゆっくりとその眼を開ければ、右の琥珀の瞳はそのままに左の瞳は真紅に変わっていた。

 

チャキッ…

 

そして、その右手には漆黒の刀身が煌めき、柄は白銀の装飾が施された刀、左手には白銀の鞘を持っていた。

 

ゾクリッ…

 

「「「!?」」」

 

その忍を見て3人の少女は息を呑むのと同時にその神々しさを感じる姿に魅入ってしまわれていた。

 

「これでやっと一つ目、か……先はまだ長そうだな…」

 

そう漏らす忍が夜空を見上げれば、そこに社を中心に張られていた結界は無く、満月が顔を覗かせていた。

 

キラリッ…

 

忍の足元にはその月光を受けて輝く白銀の欠片があった。

きっと、これが真龍の言っていた魂の欠片なのだろう。

 

 

 

こうして忍は解放能力の一つにして大元の片割れ、真狼を取り戻した。

しかも何やらお土産付きだったが…。

ともかく、これで能力探しも進展したことになる。

 

残りは五つ。

 

果たして、何処で忍を待っているのか…?

そして、残りの力にも七煌龍や牙は宿っているのだろうか?

いずれにせよ…鬼神界での生活もまだまだ続きそうである。

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