魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百四話『力の代償』

忍が真狼の力を取り戻した翌朝。

 

「探していた力を取り戻したようじゃな?」

 

朝の評定で謁見の間に忍を呼び出した皇鬼がそう問うていた。

 

「まだ、一つ目だけどな」

 

そう答えて白銀のビー玉を見せる。

 

「それがお前さんの力を封じた水晶か。確かに小さいのぉ」

 

「だが、これで俺の戦術の幅が広がる。というよりも元に戻りつつある、と言った方が適切か。それと…」

 

ビー玉を引っ込めると…

 

「こんなものも一緒に入手したんだが…」

 

そう言って見せたのは…白銀の結晶の欠片と、鞘に収まった白銀の刀だった。

 

「それは…もしや、"牙"か…!」

 

皇鬼は刀を見て驚いたように声を上げる。

 

ざわざわ…!

 

その言葉に臣下達も驚いている様子だった。

 

「何故、貴様がそれを持っている?」

 

そんな中、月鬼が当然の疑問を口にする。

 

「さてな。俺も成り行きとしか言いようがないんだが……強いて言うなら巡り合わせ、かな?」

 

「巡り合わせ、だと…?」

 

その言に月鬼は眉を顰める。

 

「あぁ。そして、こっちの欠片は七煌龍っていう存在の魂の欠片らしい。知ってるか?」

 

「七煌龍…?(はて、どこかで聞いたような聞かないような…)」

 

忍の質問に皇鬼は古い記憶を辿っているようだった。

 

「ともかく、その牙は我等鬼神界のもの。直ちに返却願おうか」

 

そう言って月鬼が忍の持つ刀に手を伸ばそうとすると…

 

「待て、月鬼よ」

 

それを皇鬼が制す。

 

「皇鬼様?」

 

皇鬼が止めたことを怪訝に思う月鬼。

 

「牙は己の意思で持ち主を決める。おそらく、その牙は既に忍を認めておるよ」

 

「なっ…?!」

 

皇鬼の言葉に月鬼を始め、他の臣下達も驚きの目で忍を見る。

 

「馬鹿な! 皇鬼様以外に牙に認められる者など…!」

 

「(つまり、皇鬼さんが七振りの内の一振りを持ってるってことか…)」

 

薄々感じていたのか、月鬼の言葉で忍は確信を得ていた。

 

「しかし、鬼神界の太古より存在する由緒正しい武具である牙をこやつに預けるなどと…!」

 

「武具は飾り物ではないからのぉ。使い手が現れたのなら有効に活用せんとの」

 

「それは…! しかし…」

 

皇鬼の言葉に月鬼は納得がいかないようだった。

 

「皇鬼さん、一つ聞きたいんだけど…」

 

「なんじゃ?」

 

「他の牙の所在で、何か異常なことは起きてないか?」

 

真正面から問うていた。

 

「ふむ…それを聞いてどうする?」

 

それは…暗に何か起きている、というのを言っているようなものだった。

 

「確かめに行く」

 

「何をじゃ?」

 

「そこに俺の力が介在していないかを、だ」

 

問われて忍はそう答えていた。

 

「………………」

 

「………………」

 

しばし視線が交差した後…

 

「いいじゃろう。確かに小規模だが、牙の所在地を中心に異常気象やら不思議な現象が起きておるのは事実だしの」

 

皇鬼は忍を向かわせることを許可する。

 

「皇鬼様…!?」

 

小さな報告だったからか、武天十鬼でも月鬼にだけ知らされていた情報を開示したことに月鬼も驚いていた。

 

「うむ。まぁ、修行の成果を試す良い場にもなろうしな」

 

「実際、真狼の時も少なからず戦闘はあったからな…良い機会と言えば、そうだが…」

 

話がとんとん拍子に決まってしまい…

 

「ならば、せめて監視役をお付けください」

 

僅かながらの抵抗とばかりに月鬼が進言する。

 

「当然じゃな。しかし、誰がいいかのぉ…?」

 

流石に戦の最中であり、鬼神界の要たる武天十鬼を付けるわけにもいかない。

しかし、他の臣下ではもしもの時に忍を抑えることが出来ない可能性もあるので困っていた。

 

「それは…」

 

それは月鬼も重々承知なのか、少し険しい表情になっている。

 

すると…

 

「なら、あたしが行くわ」

 

謁見の間に声が響く。

 

「皇女…!?」

 

「姫様!?」

 

そこには桃鬼の姿があった。

 

「桃鬼、か……ふむ」

 

その申し出に皇鬼はしばし思考を逡巡させる。

 

「良かろう。忍のことはお前に任せよう」

 

「ありがとう、お祖父ちゃん」

 

そのやり取りを見て…

 

「待ってください! なんでよりにもよって姫様がそんな奴の監視なんて…!!」

 

水鬼が立ち上がって異を唱える。

 

「水鬼、控えなさい。御前ですよ」

 

すぐさま氷鬼が水鬼を止めに入る。

 

「でも、姉さん!」

 

「少しは抑えなさい」

 

「くっ…!」

 

氷鬼に言われ、水鬼も黙るが…

 

「ですが、私も賛成は出来ません。姫様に任せるくらいなら、武天十鬼の誰かにして頂きたいです」

 

氷鬼も納得は出来ていないらしく、そう申し出ていた。

 

「そうは言うがの。他の武天十鬼もそうじゃが、お主達にも任務があるじゃろう?」

 

「姫様はこの鬼神界を統べる次世代の器。その御身を守ることを優先すればこそ、このような些事は私達に回していただきたいのです」

 

珍しく氷鬼が皇鬼に対して意見を言っていた。

 

「まぁ、言いたいことはわかるがのぉ…」

 

いつもは控えにいる氷鬼が前に出てきたことに皇鬼も困ったような声を出す。

 

「ふむ…」

 

氷鬼と水鬼は忍と桃鬼が戦った場にいたため、桃鬼の身の安全を心配してこんな申し出をしている。

それをわかっているので、皇鬼も無下には出来ないといった感じなのだ。

 

「氷鬼も水鬼も心配し過ぎ。あたしだってもう子供じゃないんだから」

 

桃鬼が姉役の2人にそう言うも…

 

「ですが…」

「でも…!」

 

2人は2人で何か言いたげだった。

 

すると、今度は…

 

「いいじゃないのさ。姫様が行きたいってんなら行かせりゃ」

 

風鬼が謁見の間に現れてそう言っていた。

 

「風鬼の姐さん!」

 

つまらなそうにしてた重鬼が風鬼の登場に目を輝かせる。

 

「風鬼さん! また、そんな勝手なことを…!!」

 

「氷鬼も水鬼も過保護なんだよ。姫様だってもういいお年頃なんだ。好きにさせりゃいいのさ」

 

氷鬼の言葉をのらりくらりと躱しながら風鬼は悠然と皇鬼の前にやってきて跪く。

 

「御大将。風鬼、ただいま戻しやした」

 

「うむ。して風鬼よ。前線の様子はどうじゃった?」

 

どうやら風鬼は絶魔と交戦してる最前線に出張っていたらしい。

 

「はっ。依然、膠着状態が続いてますが…どうも絶魔は何か様子を見てるような気がしてならんのですわ」

 

「様子見、じゃと?」

 

「えぇ。まぁ、あたしの勘でしかありませんが…」

 

「そうか…」

 

風鬼の報告に皇鬼も口を噤んでしまう。

 

「それはそうと、坊主の監視の話ですけど…何なら姫様と一緒にあたしが受け持ちましょうか?」

 

重苦しい空気を変えようとしてか、風鬼がそのような提案をしていた。

 

「風鬼さん!?」

 

まさかの提案に氷鬼が驚く。

 

「どうせ、次の出陣までは休養も同然なんだ。だったら手の空いてる内に坊主の監視をすりゃいい。姫様が行くってんならその護衛も兼ねてね。違うかい?」

 

「それは…」

 

風鬼の言葉に氷鬼も言い返せないでいた。

 

「俺は反対っす! なんで風鬼の姐さんがこんなんの監視なんてしなきゃならないんすか!?」

 

そこに重鬼が猛反対とばかりに抗議する。

 

「(なんてわかりやすい奴…)」

 

女遊びが激しいくせに本命にはちょっかい掛けないとか…と思いつつ忍は重鬼の態度をそう分析する。

 

「とは言え、他に手の空いてる者もおらんしの。今は風鬼の提案が最良か」

 

皇鬼はそんな重鬼の心情を知っているのか、わざとらしくそう言ってみせる。

 

「だったら私が…!」

「あたしだって!」

 

そこに氷鬼と水鬼が名乗りを挙げるが…

 

「いや、お主達には任務があるとさっきも言ったじゃろう?」

 

皇鬼がバッサリと切り捨てる。

 

「くっ…」

 

「うぅ…」

 

事実を言われ、ぐうの音も出ない様子の2人に対し…

 

「………………」

 

重鬼は何も言えずにいた。

"男の監視なんぞやってたまるか"という気持ちと、"風鬼が監視に付くぐらいなら…"という気持ちがせめぎ合っているのだろう。

 

「では、忍の監視には桃鬼と風鬼を付ける。但し、風鬼はいつでも招集に応じれるようにしておけ」

 

「あいよ、御大将」

 

片手を挙げて答える風鬼を見て…

 

「では、今朝はこんなもんかの」

 

今朝の評定はこれにて終了と判断したらしい。

 

「一同、解散!!」

 

鉄鬼の掛け声と共に臣下達も謁見の間から下がる。

 

………

……

 

その後、忍は皇鬼の執務室、もしくは書斎と呼ばれる場所に連れてかれると…

 

「して、何処から回るつもりじゃ?」

 

机に地図を広げた皇鬼が尋ねてくる。

 

「近場から…と言いたいが、もしも被害が出てるならそこから行きたいと思う」

 

「わかった。なら、この辺りじゃな」

 

そう言って地図で指したのは皇城からかなり離れた辺境の地だった。

 

「遠いな…」

 

「この辺りの集落一帯では今、住民が謎の失踪と共に何かを食い散らかされた痕跡が出ておっての。兵の派遣を検討しておったところなのじゃ」

 

忍の言葉を無視し、皇鬼はそこで起きていることを簡潔に説明する。

 

「食い散らかす、か…(となると、龍騎士の可能性が高いか。しかし、そこは始龍も抑えてる………いや、七煌龍の龍気も加わって増大した力が暴走してる可能性もあるか……もしくは…)」

 

その説明を聞き、忍は二つの力を思い起こす。

 

「心当たりがあるのか?」

 

「俺の力の中でもまだ全てを把握してない力と、制御に苦慮してる力があるからな。そのどちらかと踏んでる」

 

素直にそう答えると…

 

「はた迷惑なことじゃな」

 

皇鬼は困ったように呟く。

 

「……すまない」

 

「まぁ、過ぎたこととは言え、これには人命も関わっておる。早急に手にするのじゃな」

 

「あぁ、わかった」

 

そう答えると忍は立ち上がる。

 

「地図は貸してやるから、桃鬼か風鬼に道案内をさせるんじゃな」

 

皇鬼は印を付けた地図を丸めると忍に放り投げる。

 

「わかった。あと、領明とシンシアのことだが…」

 

地図を受け取りながら2人を任せようかとも思って口を開くと…

 

「おそらくは無理じゃろ。好きにさせてやればいい」

 

先手を言われてしまい…

 

「…………はぁ…」

 

溜息を吐いてしまった。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「武運を祈るぞい」

 

忍が退出するのを待ってから…

 

「さて、少し文献を漁ってみるかの…」

 

忍の口から出た『七煌龍』について調べるため、皇鬼は蔵の方へと向かうのだった。

 

………

……

 

皇鬼の執務室を出て少ししたところで…

 

「で、何か用なのか?」

 

忍は見向きもせずにそう問うていた。

 

「………………」

 

柱の後ろから重鬼が現れる。

いつもはチャラい重鬼だが、今回に限っては本気の殺気を忍に放っていた。

 

「男に絡むなんてのは俺の性じゃないんだがな」

 

「そりゃこっちの台詞だ」

 

重鬼の言葉に忍も『面倒だな…』と思いつつ返してしまう。

 

「テメェ、風鬼の姐さんに手を出したらどうなるかわかってんだろうな?」

 

「あぁ? やっぱ、そんなことかよ」

 

案の定の言葉に忍は脱力する。

 

「そんなことだぁ!?」

 

忍の一言に重鬼が激昂する。

 

「うるせぇよ、このヘタレが…」

 

「ヘタ…?」

 

忍の言った言葉の意味が分からず、首を傾げる。

 

「要は根性なしってことだ」

 

「なっ…!?」

 

「本命すっぽかして女遊びなんてしてるからそんな風になるんだよ」

 

「ななな…!?」

 

忍の一方的な言葉に重鬼は後退ってしまう。

 

「そんなに本命が大事なら、さっさと告白でもなんでもしやがれ。玉砕する覚悟もないから女遊びなんて逃げの一手になってんだよ」

 

そう言って振り向き様に重鬼に指を突き付ける。

 

ただ…

 

「(なんか、言ってて虚しくなるのは…気のせいだろうか…?)」

 

忍自身もまた自分の言葉で微妙に傷ついていた。

 

とは言え、忍は女遊びなんてしていないし、しないだろう。

仮にしようものなら、きっと簀巻きにされたり、燃やされたり、蜂の巣にされたり、根切りにされたり…と色んな罰が待っていること間違いなしである。

というか、自分なりに本気で行動した結果、好かれるようになったので下手すりゃこっちの方がもっと質が悪いかもしれない。

 

「て、テメェに俺の何がわかるんだよ…!!」

 

そんな忍の心中を知らずに重鬼は前に一歩踏み出す。

 

「確かに知らん。だが、同じ男として最低だということだけはわかる」

 

「ぐぬぬっ…!」

 

が、言い返せないのか、すぐにその一歩を引っ込めてしまう。

 

「話が終わったのなら、俺は行くからな」

 

そう言って踵を返す。

 

「こ、の、野郎…!!」

 

怒りで周りが見えなくなった重鬼が手を伸ばして、忍を重力で圧殺しようとするが…

 

「重力の相手には慣れてんだよ」

 

紅牙との戦いで重力には慣れているのか、悠然とその場を後にした。

 

「ちっ、くしょうが…!!」

 

バキッ!!

 

自身の重力が効かなかった事実に重鬼は床に拳を叩き付けていた。

 

………

……

 

そんな重鬼との一幕があった後、忍は領明、シンシア、桃鬼、風鬼と共に目的地へと出発していた。

目的の辺境地には風鬼の操る風を用いて空を飛ぶようにして移動していた。

風鬼に時間がないのもそうだが、人命に関わる被害が出てる以上、迅速に事を納めなければならないのだ。

 

「(アステリアがあればなぁ…)」

 

現在は地球の明幸の屋敷の車庫にあるはずの愛車を思い浮かべていた。

 

「(まぁ、無い物強請りしても仕方ないか…)」

 

それに空を飛ぶのにも慣れていたので問題はない。

 

「「………………」」

 

領明やシンシアもエクセンシェダーデバイスを用いて空を滑空していた。

 

「ホントに便利な絡繰りだねぇ」

 

「どういう仕組みなのよ?」

 

風で空を飛ぶ桃鬼と風鬼もその様を見て呆れるのやら何なのか…。

 

「ま、俺達からして見ても未知の技術なんだよ」

 

かく言う忍は桃鬼と風鬼と同じように風で飛んでいる。

アクエリアスは鎧型なので、蟹座や魚座のように変形機構は持ち合わせていないのだ。

 

 

 

そうこうしてる内に…

 

「見えてきた。あの辺だよ」

 

目的地に到着したようだった。

 

「………………」

 

到着した途端、忍は自分に向けられる突き刺さるような殺気を感じていた。

 

「……忍さん?」

 

「いやがるな…この殺気は…」

 

低い体勢を作りながら忍は匂いを確かめる。

 

「この匂い…龍騎士か!」

 

そう叫んだ瞬間…

 

『グオオォォォッ!!!』

 

近くから獣…いや、それよりも強い存在の咆哮が聞こえる。

 

「っ! この咆哮…ただもんじゃなさそうさね」

 

風鬼が警戒の色を強くしていた。

 

「……なに? この龍気の禍々しさは…?!」

 

近くから発せられる邪悪な龍気に領明は寒気を感じていた。

 

「風鬼さん、3人を頼む」

 

「そいつはいいが…坊主は?」

 

忍の頼みに風鬼はそれを聞くと…

 

「ちょっと奴と死合ってくる…!」

 

忍はギラギラした目で近くの気配を探る。

 

「(まるで獣だね…)」

 

その様子を見て風鬼は内心でそう思っていた。

 

忍がしばしの間、気配を探っていると…

 

『グオオォォォッ!!!』

 

ドドドド…!!

 

雄叫びと共に龍騎士が地中から現れていた。

 

「っ……真・瞬煌!」

 

地中から現れたことは想定外だったらしく、少しだけ傷を負いながらも即座に後ろに下がると真・瞬煌を発動させていた。

 

『グオオォォォッ!!!』

 

人間大の大きさをしたどす黒く赤い体色に狂気に染まった黄金の瞳を持つ人型ドラゴン、その身には灰色の鎧を纏っており、その右手には刀を握っていた。

 

「ちっ…やっぱり、牙持ちかよ!」

 

ある程度の予想はしていたとは言え、実際に目にすると他の力にも関与してそうに思えてならなかった。

 

『ガアアァァァッ!!!』

 

龍騎士は忍に捕食されたことを覚えてるのか、刀をその場に突き刺して殺気をばら撒きながら忍へと一直線に向かってくる。

 

「俺だって、あの時とは違うんだよ…!」

 

その殺気を受け止めながら忍は真・瞬煌で高めた身体能力を用いて龍騎士と近接戦を演じる。

 

バキッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

『グガッ!?』

 

開幕の合図はクロスカウンターから始まり…

 

「ま、だ、まだぁ!!」

 

ドンッ!!

 

真・瞬煌のオーラを炸裂させて拳のインパクト時に威力を上乗せさせ…

 

「お、らあぁぁぁぁ!!!」

 

ゴォンッ!!

 

力任せに龍騎士の顔面を殴り飛ばしていた。

その光景はさながらグレモリー眷属vsバアル眷属の最終試合でイッセーが見せた攻撃にも似ていた。

 

『グギャッ!?!』

 

思わぬ攻撃に龍騎士は空中で体勢を整える。

 

「ブリザード・ファング!!」

 

そうはさせまいと忍十八番の魔法を繰り出す。

 

『グウウゥゥゥッ!!?』

 

真・瞬煌で威力を上げたブリザード・ファングを受け、龍騎士の鎧が凍結していく。

 

「ブリザード・ファング・エクシードプラス・ゼロシフト!!」

 

動きが鈍った龍騎士の眼前まで神速で移動すると、同じ眼前に溜めていた氷属性の魔力球に向けてアッパーカットを繰り出すかのように拳を振るい、龍騎士の体を打ち上げながら収束風の砲撃をゼロ距離で見舞う。

 

『グガアアァァァッ!?!?』

 

打ち上げられた龍騎士からは苦悶の声が上がる。

 

「お前も俺の中にいたのなら覚悟を決めろ。俺に従い、その力を委ねる覚悟を…!!」

 

ドクンッ!!

 

『グゥッ!!?』

 

その言葉に龍騎士の中の何かが鼓動する。

 

「聞こえてるなら答えろ、始龍! もうお前も俺の一部なんだ!! そして、七煌龍! テメェら纏めて、俺が面倒見てやるよッ!!!」

 

その言葉をトリガーに…

 

『グガアアァァァッ!!!??!?』

 

龍騎士が苦しみだす。

 

「我が元に、来いッ!! 我が力となりし龍達よッ!!!」

 

忍の力強い言葉と共に手を伸ばすと…

 

『ガアアァァァッ!!!!』

『グオオォォォッ!!!!』

『ウオオォォォッ!!!!』

 

龍騎士の口から普通ではあり得ない"三つの雄叫び"がその場に木霊する。

 

その龍騎士に対して忍は手を伸ばしながら一歩一歩近づいていき…

 

「はああぁぁぁッ!!!!」

 

伸ばした手で龍騎士の顔を鷲掴みにすると、龍騎士の龍気と己の龍気を同調させ…

 

ゴオオォォォッ!!!!

 

その存在と同化する。

 

「ぐっ…うぅぅ…!?」

 

同化すると忍が苦しそうに顔を歪める。

 

「……忍さん!」

 

「待ちな」

 

領明が前に出そうになるのを風鬼が止める。

 

「男を信じてやるのも良い女の条件さね」

 

そんなことを領明に言って風鬼も忍の様子を見る。

 

「ぐぅっ…!!」

 

一気に三種の龍気を取り込んだためか、急激な力に体が対応出来ていないようにも見えた。

 

「(これが…暴走の原因か…?)」

 

忍は自らに起きていることを感じることで龍騎士がなんで暴走気味になって近隣の村に住む人を襲ったのか、それを感覚的に理解しようとしていた。

 

つまるところ、こうだ。

始龍の龍気で抑えられた龍騎士の龍気だが、そこに新たに七煌龍の龍気を加わったことで力の均衡が崩れてしまい、龍騎士の力が七煌龍の力で増大して始龍でも抑えが利かなくなってしまったのだ。

その影響で力が暴走し、周囲にあっただろう血肉を欲した。

それがこの被害に繋がったのだろう。

 

そして、今…

 

「ぐ、おおおぉぉぉぉぉ…!!!」

 

忍はその力の権化とも言える三種の龍気を支配下に置こうとしていた。

その眼は妖しく赤く光り輝き、忍の理性を今にも吹き飛ばそうとしていたが、忍の精神力もまた成長しているのでそう簡単には吹き飛ばせないでいた。

 

「があああぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

忍を中心に膨大な龍気が放出される。

 

「(熱い……体が、熱イ…!!)」

 

忍は内側から湧き上がるような熱を感じるも…

 

「(だが! この衝動に、呑まれてたまるか…!!)」

 

赤かった眼の輝きは徐々にだが、黄金色に染まっていく。

 

「(そうか……これが、始龍本来の…)」

 

それを知覚した時、忍の髪が銀髪と化し、前髪の一部に紅いメッシュが入り、その両の瞳が黄金色に染まり、背と臀部から白銀の鱗を纏った龍の翼と尻尾が生え、その身には龍を模した銀色の鎧が纏われ、顔には龍を模した銀の仮面を着けていた。

しかし、鎧は以前と違って灰色で罅割れた状態ではなく、ちゃんとした防具としての機能を持ったものへとなっていた。

但し、胸部、両肩、両手の甲、両膝の七か所にある宝玉は石化したままだったが…。

 

ブンッ!!

 

無造作に振るった右腕が滾っていた龍気を霧散させ、より洗練された濃密なオーラとなった龍気が忍の体を包んでいた。

 

「これは、また…」

 

その忍の変容に風鬼は冷や汗を流していた。

 

「……さっきまでの禍々しさが、消えてる…」

 

領明もまたその光景に眼を見開いていた。

 

「これで二つ目か…」

 

キィンッ…

 

忍は龍の力を解くと、右手に黄金色のビー玉と結晶の欠片が収まっていた。

 

キラッ…

 

「七煌龍が一柱…『皇龍(おうりゅう)』か」

 

結晶の欠片が微かに輝いたかと思うと、最低限の情報が頭に流れてきた。

 

「(真龍もそうだったが、始龍と違って七煌龍は生前の能力がないのかもしれないな……いや、始龍が特殊なだけか…?)」

 

そんな考えをしていると…

 

くい、くい…

 

「ん?」

 

「………………」

 

シンシアが忍の服の裾を引っ張っていた。

 

「なんだ?」

 

「………………あれ」

 

シンシアが指差す方には龍騎士が地面に突き刺したままの牙がある。

 

「2本目の牙、か…」

 

牙の前まで行くと…

 

「ふっ…!」

 

無造作に牙を引き抜く。

 

「……………」

 

そして、それが自然かのように龍気を纏った左手で刀身の表面をなぞるように滑らせていく。

 

キィンッ…

 

すると不思議なことに刀身が黒い輝きを放つ刀へと変化し、その場にはなかった鞘も現れる。

黄金色の柄と鞘に黒い刀身の牙が忍の手にある。

 

「嘘だろ……牙が…一人の、それも人間の手に…2本も…?!」

 

牙の伝承がどの程度、認知されているかは知らないが、これは異例なことなのだろう。

 

「(御大将。こいつ、本当に何者なんですかね…?)」

 

風鬼は忍を見てそんな疑問を浮かべていた。

 

………

……

 

龍騎士・始龍・皇龍・第二の牙を入手した忍だったが、移動と戦ってる間にそれなりの(とき)が過ぎていたようで、夕刻となっていた。

なので、今晩は近くの集落にある空き家に泊めてもらうことになった。

その空き家も本来なら住民がいたのだが、龍騎士の被害で帰らぬ人となってしまったのだ。

 

そして、その深夜にその出来事は起きた。

 

「ッ!」

 

その気配を察知し、布団から飛び起きる忍。

 

「この気配……まさか!」

 

その覚えのある気配に忍は部屋から飛び出していた。

 

だが、忍が飛び出して外に出ると、そこには…

 

「ふふっ…久しいの、小童」

 

扇情的な真紅のドレスを身に纏った銀髪紅眼の妖艶な美女。

その八重歯は不自然なほど尖っており、さらにその四肢には不釣り合いで特徴的な真紅の篭手と足具を装着していた。

そして、何よりも…その瞳には明確な殺気が宿っていた。

 

「吸血鬼、なのか…?」

 

その姿は深層世界で見た時と異なるものの、ほぼ吸血鬼の化身そのものであった。

 

「如何にも。じゃが、情報はより正確に伝えるとしようかの」

 

そう言うと…

 

「妾の名は『カーミラ』とも呼ばれておる吸血鬼の祖。所謂、『真祖』じゃな」

 

吸血鬼…真祖・カーミラはそのように名乗っていた。

 

「なっ…!?」

 

その言葉に忍は耳を疑う。

 

「真祖、だと…?」

 

「そう名乗ったが…信じられないのかのぉ?」

 

妖しい笑みを浮かべながら忍の反応を愉しむかのようにする。

 

「(おい、それが本当なら…洒落になんねぇぞ…)」

 

忍は以前、暗七から聞いた情報を思い出す。

 

『吸血鬼ってのはこの人間界の闇と共に古くからる種族よ。ただ、悪魔以上に頑固で純血絶対主義とでも言うのかしら、そんな風な格差社会が出来上がってるって話よ。ドクターがどういった経緯でそんな血液を入手したかなんて今となっちゃわからないけど…かなり危ないわよ?』

 

『そうなのか?』

 

『今は実感が湧かないだろうけど、吸血鬼って本来は弱点やら制約が多いの。それこそニンニクやら十字架、銀、聖水が苦手で、招かれないと建物に入れない、流水なんかも渡れない、自分の棺で寝ないと回復だって満足に出来ない』

 

『…………マジか?』

 

『冗談でこんなこと言わないわよ。それにその血が真祖とかにより近かったりなんかしたらもう最悪ね』

 

『どう、最悪なんだ…?』

 

『まず普通の食事が出来ない。味覚がおかしくなるのよ。それこそ血液以外を受け付けないくらいに……それと日光よね。日中ってだけでかなり動きに制限が掛かるんじゃないかしら?』

 

『そこまでか?』

 

『自覚症状が……いえ、この場合、まだ完全に掌握出来てないのが幸いなのか…まだ、そんな予兆は出てない。でも、覚悟してなさい。いずれ、アンタがその血を掌握した時…自分の身に何が起きるのかを…』

 

『………………』

 

そんな会話をしたのが、吸血鬼と判明してすぐのことだったか…。

 

「(よりにもよって…真祖とか…)」

 

その事実は計り知れないものかもしれなかった。

 

「(もし、俺がこいつを完全に掌握したら…)」

 

元の生活を送れるかどうか…。

そんな疑念を知ってか…。

 

「ふふっ、揺らいでおるな。結構結構」

 

真祖・カーミラは忍の様子を見て笑みを零す。

 

「くっ…」

 

「そんな揺らいだ心で妾を愉しませられるかの?」

 

そう言った瞬間…

 

ドンッ!!

 

真祖・カーミラがいた地点が一瞬にして陥没すると同時に忍の間合いへと近づく。

 

「なっ…!?」

 

深夜になって何度目の驚きだろうか…。

 

「ふっ!!」

 

その驚きの間も逃さず、真祖・カーミラは篭手を纏った右拳で忍へと殴り掛かる。

 

「ちっ!!」

 

すぐさま真・瞬煌を発動し、両腕をクロスして防ぐ。

 

が…

 

メキメキッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

真・瞬煌を纏っているにも関わらず、真祖・カーミラの拳は忍の両腕の骨を砕かんとしていた。

 

「(この力…単なる妖力だけじゃない! 龍気を混じってやがるのか!?)」

 

そもそも五気を掛け合わせることを教えたのはこの真祖・カーミラである。

つまり、真祖・カーミラも忍の中に居続けたことでそれを感覚的に習得した可能性が高かった。

それに加え…

 

「(この篭手に宿ってる力も何かしら作用してる可能性もある、か…!!)」

 

無理に受け止めるのをやめると、忍は後方に跳んで真祖・カーミラの攻撃を流すことにした。

 

「ふむ。"牙"とやらの力もさほどのものではないのう」

 

そう言いながら篭手の具合を確かめるように呟く。

 

「牙、だと…?」

 

忍は改めて真祖・カーミラを見るが、牙らしき刀は持っていない。

あるとしたら篭手と足具くらいだが…。

 

「なんじゃ、知らぬのか? 牙は刀という仮初の姿から真なる姿へと変化するのじゃよ。まぁ、妾もこの世界で牙と龍の力を以ってして受肉を果たした際に知ったことじゃが…」

 

「なんだと!?」

 

初めて知る情報に忍は困惑する。

 

「(つまり、あの篭手と足具は牙の真の姿ってことか…?)」

 

言われてみれば、最初の牙…真狼と共にあった牙も戦闘中に二刀となったことを思い出していた。

 

「しかし、小童といい、この牙といい…良い塩梅じゃな。妾ももう少しギアを上げても問題なかろう」

 

ゴオオォォォッ!!!

 

真祖・カーミラを中心にして濃密な妖力のオーラが立ち昇る。

 

「これが…真祖の妖力…」

 

今まで底を見せてなかった、吸血鬼…その本来の妖力なのだろう。

その膨大な妖力の波動を忍もピリピリと肌で感じていた。

 

「思わぬ形で受肉を果たした今、小童という器はもういらぬ。妾は妾の好きにさせてもらうぞ?」

 

「………………」

 

真祖・カーミラを今の自分が止められるかどうかを考える忍に対し…

 

「そうさの。まず手始めに妾の下僕となる眷属を作らねばな。差し当たっては、そこな小娘共でよかろう」

 

真祖・カーミラは忍の後方に目を向けていた。

 

「っ!?」

 

目の前の真祖・カーミラに意識を向け過ぎて周囲へ意識を向けるのを怠っていた忍はその一言で後ろを見る。

 

そこには…

 

「……忍さん」

 

「………………」

 

領明とシンシアの2人がいた。

 

「領明、シンシア…」

 

「狼の血が混ざっているのは、この際仕方なかろう。どちらも人間には違いないしのぉ」

 

「ッ!!」

 

真祖・カーミラがそう言った瞬間…。

 

ゴオオォォォッ!!!

 

忍の内から膨大な五気が溢れ出してきた。

 

「ほぉ…?」

 

「あの2人に手を出してみろ。ただじゃおかねぇぞ?」

 

忍の変貌に目を細める真祖・カーミラは…

 

「妾を喰らう覚悟が決まったか?」

 

挑発的な言葉を紡いでいた。

 

「もう、ああだこうだ考えるのはやめだ。まずはテメェの力を掌握する。その後のことなんて、後で考えればいい…!」

 

「くくっ…それでこそ、妾の器よ…!」

 

吹っ切れた忍と愉しそうな真祖・カーミラは互いに強烈な一撃を放ち、拳同士がぶつかり合って衝撃波を周囲に撒き散らす。

 

「……っ」

 

「………………」

 

その衝撃波を受け、怯む領明と相変わらず表情を変えないシンシア。

 

「な、何事よ!?」

 

「夜中だってのに、騒がしいねぇ…って、こいつはまた…派手にやってまぁ…」

 

そこに飛び起きたらしい桃鬼と風鬼も合流していた。

というか、今の今まで寝てたのだろうか…?

 

一方で、忍と真祖・カーミラは互いの拳をぶつけ合ったままの状態が続いていた。

それは互いに譲れぬものがあり、押し通す覚悟を見定める戦い。

引けば、それ即ち負けを意味する。

 

「小童、お主の力はこの程度かの?」

 

まだ余裕がありそうな真祖・カーミラが忍に尋ねる。

 

「んなわけあるかよ…!」

 

真・瞬煌を背中と右腕だけに限定展開し、その密度を底上げしていた。

 

「そうでなくてはの!」

 

「負けてたまるかよ…!!」

 

ブオォォッ!!!

 

互いの力がぶつかり合い、それが衝撃波となって周囲の物体を破壊しようとする。

 

「っと、これ以上の被害は勘弁願いたいね」

 

その衝撃波を風鬼が風を操って相殺していたが…

 

「(流石に長時間の維持は厳しいか…)」

 

予想以上の力の衝撃波に風鬼も表情を厳しくする。

 

状況は一進一退に見えるが…

 

グググ…

 

徐々にだが、忍が押され始めていた。

 

「(このままでは…押し負ける!)」

 

「やはり、所詮器は器に過ぎぬか…まぁ、妾を受け止めれるかも不安だったが…この際、もうどうでもいいことよ」

 

残念そうなものを見るかのような視線を忍に送りつつ…

 

「満月は過ぎてしまった故、しばし待つことになるが妾の下僕となることを誇りに思うがよいぞ、小娘共」

 

既に勝利を確信したようなことを言う。

 

「ふ、ざけんな…ッ!!!」

 

踏ん張るもそれ以上の力が忍を抑え込む。

 

「(ダメなのか…? 真祖に負け、領明達を…)」

 

弱気なことを考えるだけで押される力が増す感覚が襲ってくる。

 

だが…

 

"領明のこと、よろしくね"

 

「(ッ!!)」

 

ドンッ!!

 

もうひと踏ん張りするが如く、地面に足を踏みしめていた。

 

「む?」

 

まさか、持ち直すとは思わずに真祖・カーミラが眉を顰める。

 

「負けるわけには、いかねぇんだ…」

 

ギラリッ!

 

そんな低い声音と共に忍の力が増していき、その瞳孔が鋭くなっていく。

 

「俺には…まだまだ、やらなきゃならねぇことがあるんだ…」

 

「ッ!」

 

グググ…!!

 

「だから、ここで止まる訳にはいかねぇんだよ…!!」

 

ドドドンッ!!

 

真・瞬煌のオーラを連続炸裂させてその力を一気に高めていき…

 

「お、りゃああああああ!!!!」

 

「むぅっ!?」

 

忍の拳が真祖・カーミラの拳を押し返し…

 

ドゴンッ!!

 

最後には後方へと吹き飛ばしていた。

 

「はぁ……はぁ…っ…はぁ…」

 

息を整えようとしながら忍は真祖・カーミラの元へと歩いていく。

 

「見事じゃな…器よ…」

 

風鬼の操る風に激突していた真祖・カーミラはそう漏らしていた。

 

「俺の勝ちだ。俺の一部になってもらうぞ…」

 

そう言って忍は右手を真祖・カーミラに向ける。

 

「じゃが、本当に良いのだな? 妾を取り込むということは…お主はもう普通な生活を送れぬということ…」

 

「百も承知だ」

 

「そうか。なら、これ以上は無粋よな…」

 

パアァァ…

 

その答えを聞いて満足したのか、真祖・カーミラは光の粒子と化していき、忍の手元で真紅のビー玉と結晶の欠片、そして刀となって消えていた。

 

「これで、俺も本格的な人外、か…」

 

三つ目の力を取り戻した忍だったが、その代償は思いの外…いや、かなり大きかったようだった。

 

 

 

残る力は…紅蓮冥王、蒼雪冥王、牙狼の闇の力…。

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