魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百五話『集結する力』

真狼に続き、龍騎士と吸血鬼…否、真祖の力を取り戻した忍。

しかし、真祖の力を掌握した忍の身に待っていたのは、その代償だった。

 

それは龍騎士と真祖を掌握して数日の間のことだった。

 

「げほっ…ごほっ…!!」

 

今日も今日とて忍は食事を口にした瞬間に戻してしまっていた。

ここ最近、そんなことが続いていて忍はまともな食事が出来ないでいた。

 

「はぁ……はぁ……くそっ…!」

 

出された食事を食べようにも真祖を掌握した影響で、口が受け付けてくれなかった。

 

「(まさか、ここまで酷いもんだったとは…)」

 

今まで食べれたものが食べられないという事実に、忍は頭を抱えるしかなかった。

 

「悪いな、せっかく作ってもらってるってのに…」

 

「……いえ…」

 

そんな忍に付き合うように領明が料理を担当して食事を持ってきているが、今の"普通の食事が出来ない"という忍の身を案じていた。

 

「吸血鬼ってのは…こんなにも不便なもんだったんだな…」

 

力を行使するだけならば問題もなかったろう。

しかし、今の忍はその力を掌握し、その特性までも取り込んでしまっていた。

皇城に入るにも一苦労し、城の主たる皇鬼に招待してもらう形で皇城に入り、自室として間借りしている部屋にやっと入れた状態だった。

しかも日中は酷い倦怠感に襲われ、意識してなかったが影もなかったという。

 

「(それとも、俺が完全に掌握してないからこんな状態になってるんじゃ…?)」

 

そんな風にも考えているが、あれからビー玉の中にある深層世界にいるだろう真祖・カーミラに接触していないので何とも言えなかった。

 

「(ともかく、後三つなんだ。それらを回収してからまた考えるか……それまでに体が保てばいいが…)」

 

食事抜き、日中での活動制限、精神的な負担を考えると早急に見つける必要性があった。

 

「……では、下げますね」

 

忍がもう食事をしないと察し、領明が食事を片付け始める。

 

「あぁ…すまんな…」

 

そう言って何気なく領明の所作を見ていると…

 

「………………」

 

徐々にだが、忍の瞳が琥珀と紫から真紅に変わり始めていた。

真祖の力は解放していない。

なら何故か?

 

「(欲しい……血が、欲しい…)」

 

まともな食事をしていなかったことから来るだろう吸血衝動。

無意識なのか、忍はゆらりと立ち上がると、領明の元まで歩いていく。

 

「……? 忍さ…」

 

忍の接近に気付き、領明も片付けの手を止めると…

 

くいっ…

 

「……え?」

 

その手を掴まれ、ゆっくり優しく上へと引き上げられると…

 

「領明…」

 

忍は領明の顔を覗き込むように見つめる。

 

「……え、ぇ?」

 

顔を見つめられ、困惑する領明だが…

 

「(眼が、紅く…?)」

 

忍の異変に気付く。

しかし、それでも魅入られたように身動きが取れずにいると…

 

カプッ…

 

忍が領明の首筋にその牙を立てる。

 

「……ひっ!?」

 

一瞬何をされたのかわからなかったらしいが、首から伝わる痛みに短い悲鳴を上げる。

 

「んくっ…こくっ…」

 

そんな領明の反応を意に介さず、忍は領明の血を飲んでいた。

 

「ちゅるっ…ちゅぴっ…」

 

領明に付けてしまった牙による傷痕から溢れる血を舐め取り、その傷痕をまるで慈しむかのように舐めて傷痕を塞いでいく。

 

「……ふ、ぁ……な、に…これ…?///」

 

忍に血を飲まれ、舐められているというのに…何故か、領明の体を変な感覚が駆け巡る。

 

「(……ダメ…これ、なんだかダメになる…)」

 

領明の意識が微妙に薄れつつあると…

 

「………………はっ!?」

 

眼の色が元に戻り、正気に戻った忍が慌てて領明の首筋から顔を離す。

 

「(俺は、何を…?)」

 

状況を未だ呑み込めずにいると…

 

「……し、忍、さん…」

 

弱々しくだが、領明の方から忍に話しかけていた。

 

「え、領明……俺は……………っ!?」

 

そして、先程まで自分が何をしていたのかを思い出し…

 

「領明、すまない! 俺はお前の血を…」

 

すぐに領明の意識を繋ぎ止めようと声を掛け、抱き寄せていた。

 

「……平気、です。でも…ちょっと体がほわほわしてますけど…」

 

「っ! 大丈夫だ。お前は絶対に離さない…意識をしっかりと保つんだ!」

 

「……は、い…」

 

それから領明の意識はなんとか繋ぎ止められていた。

 

「(暗七から聞いたが…吸血鬼に血を吸われた者の抵抗力が低いと…アンデッド化する。領明は、大丈夫なのか…?)」

 

こういうことに詳しい暗七がいればよかったかもしれないが、過去の世界にいるはずもなく吸血鬼のこともまだ完全に把握してない忍にとっては不注意な行動を取ってしまったと悔やんでいた。

 

「(これが吸血衝動……血を欲する、か…)」

 

ぎゅっ…

 

今の自分に恐怖してか、無意識に領明を抱き締める力が強くなる

 

しかし、そんな忍の状況などお構いなしに事態は動き出す。

 

………

……

 

「前線での絶魔の動きがやはりおかしい?」

 

朝の評定で皇鬼は氷鬼の報告を受けていた。

 

「はい。風鬼さんの報告でもありましたが…まるで何かを待ってるような動きというか…そんな感じが致しました」

 

水鬼と共に前線へと赴いた際に感じた違和感を報告していた。

 

「ふむ…水鬼よ、お主の見解はどうじゃ?」

 

皇鬼は一緒にいた水鬼の言葉も聞く。

 

「あたしも姉さんと同意見ですかね。ただ、あんだけ動きが遅いと逆に攻めていきたいところなんですけど…」

 

「それはなりません。前衛向きの炎鬼さんや雷鬼さん達ならともかく、私達がむやみに突っ込めばどうなるか…」

 

「わ、わかってるから…そう何度も言わないでよ…」

 

このやり取りで前線でも何度か水鬼が氷鬼に諫められたのがわかる。

 

「何かを待っておる、か…」

 

その言葉を聞き…

 

「忍。お主がどう見る?」

 

「……部外者が口を出してもいいのか?」

 

謁見の間の出入り口付近の壁に寄り掛かっていた少し顔色の悪い忍に皇鬼が尋ねるが、忍の方は"流石にこれ以上は国是に関わるのでは?"と思い、口出しを控えていた。

 

「構わん。奴らとの戦闘経験があるなら尚更じゃ」

 

「…………じゃあ、一つだけ」

 

一拍空けてから忍は…

 

「絶魔の原動力は…相手の絶望だ。だから、最悪の場合を想定すべきだと俺は思ってる」

 

それだけを口にしていた。

 

「最悪の場合、か…」

 

「あぁ…相手を絶望に陥れるためなら、どんな手段も厭わない。それが、俺の知る絶魔像だ」

 

それを言う忍の脳裏にはフィライトで皇帝ゼノライヤとその側近ギルフォードを無残にも殺害したノヴァ達の姿が思い起こされていた。

 

「(おそらく、絶魔の狙いは…武天十鬼)」

 

民の生活を守る鬼神界の要とも言える存在の抹殺。

それが絶魔の狙いだと忍は考えていた。

一人が欠けたとしても武天十鬼や皇鬼自体は揺るがないかもしれない。

しかし、民はそういうわけにもいかない。

民の不安は兵にも伝播し、その兵の不安はいずれ士気に重大な亀裂を与えるかもしれない。

それと武天十鬼を慕う兵達の怒りを買うだろうが、それも一時のことだろう。

心に付け込まれる可能性がある限り、絶魔はそこを突いてくるかも…。

 

そんな考えを忍が巡らしていると…

 

「ご、ご報告します!!」

 

そこに何やら慌てた様子の兵士が駆け込んできた。

 

「控えよ。現在は評定の最中であるぞ!」

 

その兵士を睨む鉄鬼だが…

 

「し、しかし、火急の事態でして…」

 

兵士も困ったように立ちすくんでしまう。

 

「よい。その場で報告せよ」

 

そこに皇鬼がその場でその報告を聞こうと声を出す。

 

「はっ!」

 

皇鬼の言葉を受け、兵士が報告をする。

 

「現在、この皇城に向かい、侵攻してくる集団があるとの報告が物見兵からありました!」

 

「なに…?」

 

ざわざわ…

 

兵士の報告に臣下達も騒ぎ始める。

 

「静まれぃ!」

 

皇鬼が一喝して臣下達を静めると…

 

「その集団の規模は?」

 

兵士に更なる情報を求めていた。

 

「はっ。それが物見からの報告ですと、紅蓮の装束を纏った男、白い着物を着た女、それと漆黒の巨大な虎といった混成で…」

 

「ッ!」

 

その報告を聞いて忍が反応を示す。

 

「たった2人と1匹でか?」

 

「はっ。それがどうもここに続く関所を次々と突破しているようでして…被害もそれなりに出ております。また、その2人と1匹の進路は真っ直ぐにこの皇城のようで、他の砦や関所には目もくれていない様子」

 

それを聞き…

 

「なら、出迎えねばならんのぉ。月鬼よ」

 

「はっ」

 

「儂は忍を連れてその者達を迎撃に向かうがよいかの?」

 

皇鬼はそんなことを言っていた。

 

「良いわけありません。が、言っても聞かないのでしょう?」

 

月鬼も皇鬼とは長い付き合い故にそういうとこが分かってしまっていた。

 

「うむ。残りの力が向こうから来たのじゃ。なら、一時の師とは言え、それを見届けるのが儂の務めじゃよ」

 

「はぁ…」

 

皇鬼の言葉に溜息がこぼれる月鬼。

 

「では、忍。見届けさせてもらうぞ」

 

「あぁ…わかってる」

 

既に頭を切り替えていた忍も皇鬼と共に皇城から出て、城下町の外に布陣するための準備をするのだった。

 

………

……

 

・城下町の外

 

「まさか、力の方から攻めてくるとはのぉ」

 

何やら楽しそうに忍に話しかける皇鬼。

 

「力にもそれぞれの意思がある。さらに七煌龍や牙の意思の影響もあるんだろう。それらが渾然一体となったのがそれぞれの現界した姿だと俺は推測している」

 

そんなことを言っていると、徐々にだが力が来るのを感知出来るようになってきた。

 

「俺は示さねばならない。あいつらに俺の今の力を…」

 

「気負うな、というのは酷じゃろうな。だが、今のお主に全力が出せるかの?」

 

真祖を取り込んでからの忍の状態は皇鬼も把握しているのだろう、それを案じての言葉だった。

 

「どんな状態でも…戦いってのは起きるんだ。だったら、その状態でもやらなきゃならんのが男でしょ?」

 

「かもしれんの」

 

昔を思い出してか、皇鬼も忍の言葉に頷いていた。

 

「それに…俺の戦友達はそんな泣き言も許しちゃくれないような相手とだって戦ってきたんだ。俺だって、やってやるさ」

 

「遥か未来の戦士達か。その者達とも会ってみたかったの」

 

「……縁起でもないことは言うもんじゃねぇよ…」

 

忍の仲間に会えぬことを少し残念そうにしているようだった。

 

「果たして、そうかの?」

 

「………………」

 

その言葉に忍も口を閉ざす。

 

「そうか…やはり、そういうことか…」

 

その沈黙で何かを悟ったらしい。

 

「なぁ、忍よ」

 

「なんだよ?」

 

「お主に桃鬼を託したいのじゃが…ダメかの?」

 

不意に皇鬼はそんなことを忍に持ち掛けていた。

 

「またか…」

 

その言葉にシルファーのことを思い出してか、そう漏らしてしまう。

 

「また?」

 

その呟きに首を傾げる。

 

「アンタの前にも自分の娘をやると言い出した別世界の女王陛下様がいたんだよ。それを最終的に承諾してしまった俺も俺だが…」

 

フィライトでの最終決戦前のシルファーやエルメスとのやり取りを思い出していた。

 

「その女王陛下というのもなかなかに目の付け所が良いな。それでお主…何人おる?」

 

「あ?」

 

皇鬼の質問の意味が分からぬとばかりに疑問符を浮かべる忍。

 

「お主ほどの者なら愛妾の一人や二人いるじゃろ?」

 

「あ、愛しょ…!?」

 

そういう言い方をされたのは初めてだったので、忍は驚いて息を呑む。

 

「どうなんじゃ?」

 

「そ、それは…」

 

皇鬼に詰め寄られ、忍は頭の中で改めて勘定し始める。

 

「(えっと…眷属、というか今現在の守りたい人のリストは…正妻、じゃなくて筆頭が智鶴になって、そこからカーネリア、暗七、フェイト、クリス、シア、吹雪、萌莉、朝陽、エルメス、ラト、シルフィー、ラピス、ティラミス、夜琉、オルタの眷属枠に加え、あとは残りの絵札の眷属候補として緋鞠、雲雀さん、領明…シンシアはまだわからんが…さらにそこに雪絵も加味するとなったら……)」

 

そこまで考えるとただでさえ悪かった顔色がますます悪くなっていく。

 

「に、21人…?」

 

「何故、疑問になる? というか、多いのぉ」

 

それを聞いて流石の皇鬼も呆れ果てていた。

 

「あ、いや、その…この人数なのは本心から守りたいと、そう思えて側にいて欲しいと考えてる数であって、決して無節操な訳じゃなくてだな……あと、まだその内の5人はまだ確定って訳じゃなくて候補というか、なんというか…」

 

そんな皇鬼の反応を受け、忍もしどろもどろになってしまう。

 

「それでも確定で16人か。どちらにせよ、多いわい」

 

「…仰る通りです…」

 

ズーン、という音が聞こえそうな感じで、がっくりと項垂れる忍だった。

 

「しかし、それだけの女子(おなご)を虜にする何かをお主は持っているのじゃろう。そうでなければ、二桁に達する時点で愛想を尽かされておるじゃろうて…」

 

「ソウ、デスネ…」

 

何故か片言で忍も相槌を打ってしまう。

 

「そう落ち込むでない。人を惹き付ける才能というのは意外と稀有なものじゃ。それ故にその才能を持つ者は多かれ少なかれ上に立つ立場に身を置くもの。儂もそうじゃったし、きっとお主もそうなるじゃろう。その時、王道を歩くか、覇道を歩むかはそれぞれの考え方や立場にもよる。儂の場合は、覇道であり王道でもあった」

 

「覇道であり王道でもある…?」

 

その言葉に忍は首を傾げる。

 

「うむ。戦乱時、儂は覇王の如く進軍を果たし、鬼神界を統一した後は王道のように政を進めてきた。その絶妙な塩梅が今の儂を形成しているのかもしれん。しかし、本来ならば両立することが難しい二つの道じゃ…それを出来る者などそうそういないし、儂が出来たのも天の巡り合わせに過ぎんじゃろう」

 

「………………」

 

忍は皇鬼の話を黙って聞く。

 

「忍よ。お主の道は…どちらかの?」

 

「俺の道、か…」

 

王道か、覇道か…どちらかを選ばなくてはならない時、忍は…。

 

「俺は…」

 

忍がその答えを言おうとした時…

 

「来たぞい」

 

前方から三つの力強い波動が迫ってきた。

 

「ッ!」

 

忍もすぐにそちらに意識を向ける。

 

そこには…

 

「………………」

 

「我が君…」

 

『ガオオォォォッ!!』

 

兵士の報告にあった通りの、紅蓮の焔を刀身に宿した刀を持つ紅蓮の装束を纏った朱堕似の男、冷気を纏う大きな弓を持つ白い着物を纏った雪女、前足の付け根の辺りに漆黒の曲刀を備えた漆黒の虎が忍の前にその姿を現していた。

 

「紅蓮冥王、蒼雪冥王、牙狼の闇…」

 

忍はその2人と1匹を見てそれぞれ力の化身だと確信を得る。

 

「顔色が悪いな、我が宿主よ」

 

「我が君。もしかして…その身に宿る吸血鬼を…?」

 

『ガルルルル…!!』

 

忍の様子を見て三者三様の反応だが、その眼には共通して忍への戦いを望んでるような色を示していた。

 

「貴殿の覚悟が健在か。そして、この力を扱うに相応しいか…改めて試させてもらうぞ?」

 

「我が君。あなたの力は重々承知しております。しかし、これから先の戦いを考えると不安になります。なので、今一度我が君の力を私達に見せてください…!」

 

『ガオオォォォッ!!』

 

2人と1匹はすぐさま臨戦態勢に移ると…

 

「あぁ、わかってる。今の俺がこれから通用するのかどうか。そして、お前達を再び取り戻すために相手をしてやるよ…!」

 

忍もまた真・瞬煌を展開して臨戦態勢となる。

 

「新たな技か。上等!」

 

先陣を切る紅蓮冥王は刀を振るって紅蓮の焔の斬撃を繰り出していた。

 

「獣牙天衝・裂!」

 

忍は両手に爪を展開すると、それをクロスさせて斬撃をやり過ごそうとする。

 

が…

 

ブォンッ!

 

忍と斬撃の間に黒い空間が現れると、斬撃を吸い込んでいき…

 

ブォンッ!

ズシャッ!!

 

次の瞬間には忍の背後に黒い空間が広がり、そこから吸い込んだ紅蓮の焔の斬撃が忍に襲い掛かる。

 

「ぐっ!?」

 

それをまともに受けてしまうも、真・瞬煌のおかげで多少の傷を負うに留まるが…

 

ギィンッ!!

 

今度は正面で獣牙天衝・裂と刀が衝突し合う。

 

「どうした、我が宿主。貴殿の力はこの程度か?」

 

「そんな訳、あるか…!」

 

忍が両腕を開くような形で紅蓮冥王を押し返すと…

 

ヒュッ!

 

「ちぃっ!?」

 

正確無比な精度で氷の矢が飛んできて忍の急所を射抜こうとするが、忍は真・瞬煌を両足へと炸裂させることで空中に跳んで回避する。

 

ジャキンッ!!

 

しかし、そこに鎖で繋がれた漆黒の曲刀が飛んできて忍を拘束してしまう。

 

「くっ!」

 

ドンッ!!

バキンッ!!

 

真・瞬煌を四肢に炸裂させ、その同時解放で鎖を破壊して脱出する。

 

「流石に三対一では分が悪いと見える」

 

距離を取って着地する忍を見て紅蓮冥王がそう漏らす。

 

「………………」

 

忍も体の不調と相俟ってか、苦しい表情をしていた。

 

「だが、容赦はせん。我が欲するはいつでも冴えのある技と如何なる戦場からも生き延びる術」

 

「我が君に求めるは確固たる決意と何に対しても挫けぬ精神力」

 

『ガオオォォォッ!!(強靭な肉体と鋼の魂)』

 

それぞれ求めるものは違えど、それらは心技体に通ずるものがあった。

 

「それを言われちゃ、応えないわけにもいかないか…」

 

体の不調がどうのなんて言い訳をしないため、忍はパンッと自らの両頬を叩いて気合を入れ直した。

 

「見せてやるよ。俺の新たな戦技…『覇神拳(はじんけん)』と『紅神流煌剣術(べにがみりゅうこうけんじゅつ)』を…」

 

そう言うと忍はファルゼンを取り出して起動させる。

但し、ネクサスは魔力粒子節約のために起動はさせてないが…。

 

「面白い…!」

 

それを受け、紅蓮冥王が飛び出す。

 

「『先駆(さきがけ)』!」

 

それに対応してか、忍もすぐさま霞の構えの取ると一気に飛び出す。

 

「そのような構えで何が出来る!」

 

紅蓮冥王が叫ぶと共に刀が一気に振り抜かれる。

 

「『地走(ちばし)り』!」

 

が、忍はその先を読んだかのように剣先から五気を放出して直前で紅蓮冥王の斬撃を避けると、放出した五気で加速させたファルゼンを半回転させるようにして振るい、切っ先が地面を走るような形で滑り、紅蓮冥王に斬り上げ斬撃を繰り出す。

 

「ちっ!」

 

紅蓮冥王もすぐさま後退して忍の斬撃を避ける。

 

「これは…叢雲流の技か!」

 

伊達に忍の中にいた訳ではなく、忍の使う技はある程度把握しているようだった。

 

「これは…叢雲流に加え、牙狼の紅流をミックスさせてこの一月で研磨してきたものだ」

 

『ガルルルル…』

 

牙狼の名を出すと虎が反応する。

 

「あいつの殺戮に特化した剣技を取り込むのはある意味で抵抗があった。が、俺が何かを守るための剣技に昇華させてみせると誓った。牙狼のためにも…」

 

ファルゼンを眼前の地面に突き刺すと…

 

「それはこの覇神拳も同じだ。烈神拳と邪神拳を掛け合わせることで新たな可能性を生み出すことを選んだんだ」

 

右腕に霊力を高めていく。

 

「『霊覇緋天朱雀(れいはひてんすざく)』ッ!!!」

 

真・瞬煌を炸裂させながら右腕を振り抜くと…

 

キュオオォォォッ!!

 

霊力が燃え猛り、その姿を火の鳥のような形として紅蓮冥王達に向かって飛翔していた。

 

「これは…!」

 

その攻撃に紅蓮冥王は口元を愉悦に歪めていた。

 

「紅蓮!」

 

「邪魔をするなよ、蒼雪! これは我が領分だ!!」

 

そう言うや否や…

 

「冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

紅蓮冥王が冥王スキルを発動させて忍の攻撃を吸収しようとする。

 

「やはり使えたか…!」

 

だが、それは忍も予想として織り込み済みである。

 

「ファルゼン、モード・斬艦刀!」

 

地面に突き刺していたファルゼンの柄にヴェルメモリーを装填し、一気に引き抜くと共に斬艦刀へと変形させる。

 

「っ! 我が君、やらせません!」

 

『ガオオォォォッ!!』

 

忍の邪魔をせんと蒼雪冥王と虎がそれぞれ弓矢と曲刀を用いて攻撃を仕掛ける。

 

「『妖覇玄武掌打(ようはげんぶしょうだ)絶甲(ぜっこう)』!」

 

今度は妖力が高まったかと思えば、まるで亀の甲羅のようなシールドが発生すると蒼雪冥王と虎の攻撃を防いでいた。

 

「なっ!?」

 

『グルッ!?』

 

たった一手で防がれたことに蒼雪冥王と虎は驚いていた。

 

「まずはお前だ。紅蓮冥王!」

 

再び霞の構えを取ると…

 

ドンッ!!

 

真・瞬煌を連続炸裂させ、まるで地面を滑るかのように滑走して紅蓮冥王へと向かう。

 

「ちっ…(まだ吸収が不十分だというのに…)!」

 

思いの外、霊覇緋天朱雀の熱エネルギーが多かったらしく、それを全て吸収するには至らなかったようだ。

 

「『牙皇閃烈斬(がおうせんれつざん)』!」

 

「(致し方なし!)『紅蓮鳳翼斬(ぐれんほうよくざん)』!」

 

霊覇緋天朱雀の軌道を逸らすと同時に忍の斬撃に合わせて紅蓮冥王も特大な焔の斬撃を繰り出す。

 

ギィンッ!!

 

斬艦刀と焔を纏った刀がぶつかり合うも…

 

グググ…

 

大きさの関係上、忍の方が僅かに押していた。

 

「ここに来て、力技とは…!!」

 

それを受け、紅蓮冥王はそのようなことを言うが…

 

「負けるわけにはいかないからな。だから、俺は…」

 

すると…

 

「紅蓮!?」

 

蒼雪冥王の叫びと共に…

 

キュオオォォォ!!!

 

ゴォォ!!

 

霊覇緋天朱雀が紅蓮冥王の背後より飛来し、その身を焦がす。

 

「ぐぉっ!? こ、これは先程の…!?」

 

「叢雲流の応用だ。これで技もある程度なら自由に動かせる」

 

そう話す忍は一度斬艦刀を引き、紅蓮冥王の腹を蹴って少しだけ距離を稼ぐ。

 

「我が、宿主…!!」

 

「終わりだ」

 

斬ッ!!

 

その一瞬の隙を突き、紅蓮冥王に十字閃を決める。

 

「見事だ…我が宿主……否、紅神 忍よ…」

 

焔に包まれ、斬撃をもらった紅蓮冥王は心なしか満足そうに笑っていた。

 

「我が元に還れ、紅蓮冥王よ」

 

「御意…」

 

ボアアッ!!

 

一際強い焔の煌めきを見せた後、紅蓮冥王は紅蓮の焔と共にビー玉と化し、紅蓮の水晶の欠片と牙を残して忍の元へと戻った。

 

「我が君…」

 

『ガルルルル…』

 

残った蒼雪冥王と虎は忍を見ながらそれぞれ二手に分かれるようにして包囲する。

 

「次は…お前だ。牙狼の闇…」

 

斬艦刀をその場に突き刺すと、狙いを虎へと定める。

 

『グル…!!』

 

虎もそれを察して身構えていると…

 

ブンッ!!

 

『ガルッ!?』

 

一瞬で距離を詰め…

 

「『気覇白虎乱撃(きはびゃっこらんげき)』ッ!!!」

 

両拳に高めた気を纏い、虎の体に無数の拳打を打ち込む。

真・瞬煌の炸裂作用も相俟って相当な破壊力を誇る。

 

『グルァ!?!?』

 

その攻撃を受け、虎が吐血する。

 

「お前の闇は…俺の闇でもある。だから、戻ってこい…!」

 

吐血して倒れそうになる虎を支え、忍はそう語りかける。

 

『グル、ルル、ル……』

 

その言葉が届いたのか、虎は最後には忍にその身を預けていた。

 

「いい子だ…」

 

虎の頭を軽く撫でると、虎は闇の粒子と化してビー玉となり、漆黒の水晶の欠片と牙を残した。

 

「………………」

 

それを見ていた蒼雪冥王は…

 

スッ…

 

弓を下げ…

 

「我が君…」

 

忍の前に跪いていた。

 

「蒼雪冥王…いや、雪女と呼ぶべきか?」

 

「どちらでも…我が君のお好きなようにお呼びください」

 

「なら雪女と呼ばせてもらう」

 

「はい…」

 

そんな短い問答の後…

 

「我が元に還ってこい」

 

「はい…」

 

ビュオォォッ!!

 

雪女を中心に軽い吹雪が巻き起こると、そこに残ったのは瑠璃色のビー玉と水晶の欠片、牙の三つだった。

 

「これで…全ての力が揃ったな…(まぁ、七煌龍と牙は一つずつ欠けてるが…)」

 

そんな呟きをしながらビー玉、結晶の欠片、牙をそれぞれ回収していると…

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

「ッ!?!」

 

忍の背後よりとてつもない重圧が襲ってくる。

 

その重圧を放っているのは、当然…

 

「いや、まだじゃよ」

 

そう言い放つ皇鬼であった。

 

「皇鬼、さん…?」

 

忍が恐る恐る背後を見ると…

 

「構えよ、忍…」

 

いつの間にか、その手に刀を持つ皇鬼の姿があり、その眼は…本気だった。

 

「何の、つもりだ…?」

 

「言った通りじゃよ。お主の力を巡る戦いは…まだ終わっておらぬ」

 

「何を言って…ッ!?」

 

皇鬼が振るった刀から放たれる"ただの斬撃"が衝撃波となって忍に襲い掛かり、それを忍は慌てて回避していた。

 

「六つの力が揃った以上、お主の真の力を見られるというもの。それを見極めさせてもらうぞい?」

 

「(あの人の眼は、本気だ。ずっと、この時を待っていたのか…?)」

 

当惑する忍を他所に…

 

「(もしも…儂の予想が事実だとして、忍に何か遺せるとしたら…"これら"しかあるまい。そして、忍には"儂等の力"を遺すだけの価値がある。それだけの器を秘めておる。ならば、それを少しでも育て上げるのが、儂の最後の望み…)」

 

皇鬼はそのような考えをしていた。

 

「忍よ。本気で来い。でなければ、死を覚悟してもらうぞ…!」

 

「ッ!!」

 

その言葉に忍もまた覚悟を決め、回収したビー玉を持つ手に力が篭る。

 

 

果たして、皇鬼の考える"これら"とは?

皇鬼は忍に何を遺すつもりなのか…?

 

全てはこの戦いの決着が着いた時にわかるのだろうか…。

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