魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百六話『忍vs皇鬼~覚悟と決意の再確認~』

真狼、龍騎士、真祖、紅蓮冥王、牙狼の闇、雪女。

離散していた全ての力が忍の元へと還ってきた。

 

だが、それも束の間。

 

今度は皇鬼が忍の前に立ちはだかったのだ。

その理由を多くは語らぬ皇鬼。

訳分からずも、その圧倒的な重圧を前に忍も覚悟を決めて皇鬼に挑もうとしていた。

 

………

……

 

・城下町の外

 

「これぞ、我が牙。そして…」

 

皇鬼は刀を見せつつ、懐から純白の結晶の欠片を取り出す。

 

「それは…!?」

 

その結晶の欠片を見て忍は驚く。

 

「そう。お主の言っておった七煌龍。その内の一つじゃな」

 

「なんで、アンタがそれを…!?」

 

「蔵で七煌龍について調べておったら、声が聞こえたような気がしての。その方角を調べてみたら、これがあった」

 

「(灯台下暗し…まさか、そんな身近にあったとは…)」

 

「しかし、肝心の七煌龍についての情報は皆無。ただで渡してもよかったのじゃが…いい機会じゃ。お主の全力を見極めてから渡そうと思う」

 

「(どっちにしろ、本気ってことかよ…)」

 

今の問答の間、皇鬼は一切の隙を見せず、忍に相対していた。

 

「ま、生きておればの話じゃがの…」

 

再び結晶の欠片を懐に仕舞うと、刀を構え…

 

「目覚めよ、我が牙よ」

 

カッ!!

 

短く声を紡ぐと同時に刀が光り輝く。

 

「くっ!?」

 

その光量に腕で目を覆ってやり過ごすと…

 

「これを用いるのも久々じゃな」

 

そう言う皇鬼の持つ刀は円盤型の盾の左右に大剣並みの刀身を2本備えた特殊な純白の盾剣へとその形を変化させていた。

 

「では、行くぞ?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

 

圧倒的なプレッシャーを放ち、皇鬼が一歩一歩ゆっくりと忍へと進撃していく。

 

「ッ!!?」

 

そのプレッシャーに押し潰されそうになるのを必死で堪えながら、忍は…

 

「真…瞬煌…!!」

 

再び真・瞬煌を身に纏い、未だ斬艦刀状態で放置していたファルゼンを引き抜いていた。

 

「そのような得物で儂を止められるかの?」

 

ブォンッ!!

シュッ!!

 

そう言いながら軽く振るった盾剣の風圧が鎌鼬となって忍を襲い、その服を切り裂く。

 

「(おいおい…風圧だけで鎌鼬が発生するとか…)」

 

薄皮一枚くらい忍の肌も切れたのか、血が少しだけ滲んでいる。

 

「(出し惜しみするなってことか…)」

 

そう考えるとすぐさま深紅のビー玉を取り出す。

 

「ほぉ、お主の日常を壊した力を早速使うか」

 

それを見て皇鬼は目を細める。

 

「(真祖の力がどこまで通用するかわからない…しかも妖力は相手の方が格上…あまり条件はよろしくないが、やるしかない)」

 

ピンッ、とビー玉を弾くと深紅の光が忍を包み込む。

 

「真祖、解放ッ!!」

 

髪は銀髪、両目は深紅と化し、背中から蝙蝠の翼を生やした姿となる。

 

「来いッ!!!」

 

「うおおおおおッ!!!」

 

斬艦刀を携え、一気に皇鬼との距離を詰めると…

 

「斬艦刀・地走り!!」

 

先の紅蓮冥王との戦闘で見せた剣技を皇鬼に向けて放つ。

先程と違うのは通常の刀よりも巨大な斬艦刀で行うためにかなり大振りなのと、それに見合った威力であるということだろう。

さらにそこに真祖による怪力を加味すれば並みの相手なら容易に両断出来うる斬撃となる。

 

が、しかし…

 

ガキンッ!!

 

相手は鬼神界最強の皇、皇鬼である。

その巨大な斬撃を盾剣の盾部分を用いて簡単に防いでしまう。

 

「ッ!?」

 

「そのような力任せに大振りな攻撃、避けるまでもないわい」

 

ギンッ!

 

皇鬼は斬艦刀を軽く押し返すと…

 

「むんっ!!」

 

盾剣を持っていない左拳で忍を殴りに行く。

 

「妖覇玄武掌打ッ!!」

 

それに対抗すべく忍も咄嗟に右手を斬艦刀から離し、覇神拳の『四神奥義(しじんおうぎ)』の一つを繰り出す。

 

ゴオォォッ!!!

 

「腰が入っておらん!!」

 

衝突した瞬間、そう叫びながら皇鬼の拳が忍の掌打を真正面から吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

斬艦刀を左手に持ちながら忍の体も吹き飛ぶが…

 

ズザアァァッ!!

 

背中の蝙蝠の翼を用いて姿勢制御を行い、上手い具合に地面を滑るようにして着地する。

 

「(くっそ…今ので少し麻痺した…)」

 

右腕に妖力を流し、無理矢理麻痺を治していると…

 

「余所見などしている場合かの?」

 

ゴォッ!!!

 

「カハッ!?」

 

瞬時に間合いを詰めてきた皇鬼の拳を腹部にもろに受けて再び吹き飛ぶ。

その一撃で意識も飛びそうになるが、必死に繋ぎ止める。

 

ガガガガガガッ!!!

 

「(たった一撃で…ここまで吹き飛ぶもんかよ!?)」

 

斬艦刀を地面に突き刺すことで無理矢理吹き飛ぶ勢いを殺しながら、そんなことを考える。

 

「この程度では、準備運動にもならんわい」

 

そう言い放つ皇鬼はまだまだ余裕がありそうだった。

 

「っ…はぁ…はぁっ…!」

 

忍はよろよろと立ち上がりながら漆黒のビー玉を指で弾く。

 

「行くぞ、闇の力…!」

 

髪が銀髪から漆黒に変わり、瞳の色も深紅から翡翠色へと変わる。

牙狼から得た闇の力とは…?

 

ボアァッ!!!

 

斬艦刀の刀身に黒焔が宿る。

 

「『斬艦刀・黒焔斬(こくえんざん)』!」

 

斬艦刀を横一閃に振るい、黒焔の斬撃を皇鬼に放つ。

 

紅蓮の焔とは違う、忍の新たな焔『黒焔』。

本来なら牙狼の憎しみを糧に燃えていたものだが、力が忍に宿ったことによりその様相も変わっていた。

牙狼が憎しみを糧にしていたのに対し、忍は強さへの渇望を糧にしていた。

これは牙狼が本来持っていただろう心の強さを求めることで忍は黒焔を燃やしていた。

だから、今の黒焔には特殊な力は備わっていない。

しかし、いずれは忍の想いに応えてくれるかもしれない…。

そんな願いも籠っていた。

 

その黒焔の斬撃を…

 

「温いわ!!」

 

ゴゥッ!!!

 

皇鬼は盾剣の一振りで掻き消していた。

 

だが…

 

キュオオォォォッ!!

 

その斬撃を隠れ蓑にして漆黒の朱雀が皇鬼に迫っていた。

 

「『霊覇緋天朱雀・黒曜(こくよう)』…!!」

 

斬撃後、すぐさま霊力を収束して撃っていたらしい。

 

「無駄な小細工を…」

 

それを皇鬼は詰まらなそうにして振り払おうとしたが…

 

「(ここだ!)開け、『黒点(こくてん)』!」

 

すると、皇鬼と朱雀の間に漆黒の穴が発生し…

 

「吸い込め!」

 

漆黒の穴が朱雀を吸い込み…

 

「むっ?」

 

皇鬼の拳が空を切る。

 

「再び開け、黒点」

 

ブォンッ!!

 

皇鬼の周りに複数の漆黒の穴が現れると…

 

キュオオォォォッ!!!

 

その複数の穴から漆黒の朱雀が現れて皇鬼に襲い掛かる。

 

「むぅ…!」

 

流石の皇鬼も一度に多くは捌き切れないのか…いや、単に捌かなかったのか…?

これすらも皇鬼にとっては児戯なのか…?

 

黒焔に包まれた皇鬼は…

 

「熱さが足りんわい! それに小賢しいわ!!」

 

ゴォッ!!!

 

自らの妖力を爆発させることで黒焔を吹き飛ばしていた。

 

「ちっ…!」

 

忍はすぐさま紅蓮のビー玉を弾いて次の解放形態を展開する。

髪と瞳が焔髪灼眼と化し、背中から4対8枚の紅蓮の翼が生えた紅蓮冥王となる。

 

「冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

吹き飛ばされた黒焔の熱エネルギーを吸収していく。

 

「『魔覇青龍鱗衝(まはせいりゅうりんしょう)紅蓮弾(ぐれんだん)』ッ!!!」

 

その熱エネルギーを加味させた魔力を主体にした五気の砲撃、さらにそれを一つの砲弾へと収束して放っていた。

 

「さっきよりはマシじゃが…」

 

ズガガガガッ!!!

 

再び盾剣の盾部分で忍の砲弾を受け止めると…

 

「むんっ!!」

 

それを力技で軌道を上へと打ち上げてやり過ごす。

 

「まだまだ練り方が足りん!」

 

今の攻撃も皇鬼にとってはまだ足りないらしい。

 

「まだだ!」

 

右手を空に向け、紅蓮弾を理力の型で操作する。

 

「爆ぜろ!」

 

ドンッ!!

 

紅蓮の砲弾が複数の小型砲弾へと姿を変えると、皇鬼を包囲するように散らばる。

 

「紅蓮包囲弾ッ!!」

 

後はこの包囲網を一斉に皇鬼に向けて放つだけ、だが…

 

「この程度で包囲とは、笑止ッ!!」

 

皇鬼は盾剣を頭上に掲げ…

 

ビュオォォッ!!

チュドドドドドッ!!!

 

回転させることで旋風を巻き起こして包囲していた紅蓮の小型砲弾を破壊していた。

 

「くそっ…!」

 

たった一手で攻撃を防がれてしまい、忍は思わず舌打ちする。

 

「さっきお主がやったことじゃよ」

 

雪女と虎の攻撃を同時に防いだことを言っているのだろう。

 

「ッ!!」

 

爆発の煙に紛れる形で気配を消すと、一気に皇鬼に肉薄し…

 

「『猛牙墜衝撃・無拍子(むびょうし)』ッ!!」

 

近距離からのほぼノーモーションで打ち込む猛牙墜衝撃を皇鬼に放つ。

 

ズゴンッ!!!

 

忍の拳には確かな手応えがあった。

 

「ぐっ…!?」

 

しかし、忍は苦悶の表情を浮かべている。

何故なら…

 

「良い奇襲ではあったが、儂には届かんよ」

 

皇鬼は己の妖力を濃密なオーラのように纏い、その身を守っていたから忍の攻撃をまるで蚊に刺された程度で済ませていた。

 

「(まるで闘気じゃねぇかよ…)」

 

質は違えど、それはまるで闘気と同じだった。

 

「ほれ、休んでる暇なぞない、ぞ!」

 

ドゴンッ!!

 

「がっ!?」

 

皇鬼の蹴りが忍の腹に入り、忍の体を再び吹き飛ばす。

 

「この程度でよく飛ぶわい」

 

吹き飛ばした本人はそんなことを呟いているが…

 

「アンタの力が強過ぎんだよ…!」

 

何とか空中で姿勢を取ったやられた本人としてはそう言うしかなかった。

 

「(長期戦はこちらの不利なのは理解してるが、決定打がない…!)」

 

そう思いながらも次のビー玉…雪女の力を取り出していた。

 

すると…

 

「何故…力を一つずつしか使わない?」

 

不意に皇鬼からそのような指摘が飛び出す。

 

「なに…?」

 

いきなりの指摘に忍も手を止めてしまう。

 

「五つの力を一つにする術を得ておるお主が、何故力を小出しにしているのか、と問うている」

 

「そ、それは…」

 

確かに力を複数発動すればこれまで以上の戦法を獲得出来るだろう。

さらに発動させる力の組み合わせはそれこそ多岐に渡る。

それぞれの長所を伸ばしつつ短所を補っていくことも可能となるだろう。

 

しかし、忍は以前にも似たようなことをしているが、その時は体内にある力の境界線を破壊して新たな器を必要とする事態に陥った。

さらに翠蓮と領明を救うために解放したこともあるが、その時はほぼ無意識に近くもう一度やるとなると難しいと考えていた。

それに後者の場合、時空転移後に力が散らばってしまった。

 

だからこそ、今の忍は力は一つずつしか使えないと勝手に思い込んでいる。

再び力を同時に使ったら今度はどうなるかわからない、という恐怖にも似た感情によって…。

 

「(お主がその壁を乗り越えない限り、儂には勝てんぞ?)」

 

そう思いつつも一切の手加減をしないつもりでいる皇鬼は忍に向かって歩き出す。

 

「くっ…(どうする…?)」

 

皇鬼に言われるまでもなく、忍は複数の力を同時に解放することも考えていた。

しかし、前述の通り、それをやる度に何かしらの…よくない出来事が起きてきた。

だから、忍は能力の同時解放には消極的になり、今もやる踏ん切りをつけられないでいた。

 

「注意散漫じゃな」

 

「しまっ…!?」

 

あれこれ考えてる内に間合いに入られ…

 

ドゴンッ!!

 

「ガハッ!?」

 

皇鬼の拳を顔面に受け、その勢いまま地面に叩き付けられる。

 

「むんっ!!」

 

拳を即座に解放し、忍の顔面を掴みながら地面を滑らせダメージを蓄積させていくと…

 

ブンッ!!

 

空中へと勢いよく放り投げる。

 

「これで終い、かの?」

 

忍の落下に合わせ、盾剣を構えて一気に振り下ろそうとする。

 

「ぐぅっ!!?」

 

忍は何とか斬艦刀を構えて直撃を避けるも、ただの一振りでも必殺に近い一撃を受けてはただでは済まず、もう何度目かとなる吹き飛びを経験していた。

しかも今回は頭から地面に落ちてしまい、意識が朦朧としていた。

 

「(この、ままじゃ…)」

 

薄れゆく意識の中、忍は考える。

 

「(だが、あの人に勝つには…それしかない。わかってる…わかってるつもりだが…)」

 

また、何かよくないことでも起きたら…と考えるだけで忍は一歩前に踏み出せないでいた。

 

「(こんな…自分のことしか考えれない状態で、誰かを守るなんて…)」

 

そこでふと気付く。

 

「(守、る…?)」

 

そこで過去二回の同時発動の際の出来事を思い出す。

 

「(そうだ……牙狼の時も夜琉と牙狼を助けたくて……伯母さんや領明を助け出そうとした時も、2人を救いたくて……俺はその力を解放してきた……その時、こんな損得勘定みたいな考えなんてしなかった…)」

 

そこで忍は狼夜達に言ってきた自分の言葉を思い出す。

 

「(全てを守ろうなんて思わない。俺の手の届く範囲で、俺の大切な人達を守り、目の前の命を救ってみせる、と…!!)」

 

グッ…!

 

それを思い出すと共に忍は右手に力を入れてよろよろと立ち上がる。

 

「むっ…?」

 

その様子に皇鬼も歩を止めていた。

 

「(後のことなんて考えるな……それに、未来は自分の手で切り開くもんだしな…!)」

 

立ち上がり、見開いた忍の眼には確かな覚悟が宿っていた。

 

「行くぞ! ダブル冥王!!」

 

瑠璃色のビー玉を弾くと共に更なる変化が起きる。

紅蓮の4対8枚だった翼が、左半分が瑠璃色へと変色していき、焔髪灼眼も前髪辺りに白銀のメッシュが入り、左の瞳が瑠璃色へと変色していた。

紅蓮冥王と蒼雪冥王の同時解放である。

 

「ほぉ…やっと壁を乗り越えおったか…」

 

それを見て皇鬼も感心したように呟く。

 

「じゃが、たかが二つの力で何が出来る?」

 

紅蓮冥王の能力は先程見せている。

しかも皇鬼は紅蓮冥王達との戦闘も見ているから、おそらくは予想も出来ているだろう。

 

「たかが二つと侮るなかれ!」

 

斬艦刀を傍らの地面に突き刺すと…

 

「冥王スキル『アイス・エイジ』!」

 

左手を皇鬼に向けると…

 

ピキピキ…!!

 

周囲の地面が凍てつき、空気が一気に冷めて雪結晶を作り出す。

 

「む?(体が妙に寒く感じる…これも能力の一つか?)」

 

冥王スキル『アイス・エイジ』。

それは周囲の温度を下げることで物質を凍結させる能力。

その応用で相手の体温を下げ、相手の動きを制限させることも出来る。

 

「急激な温度の変化は綻びを生む」

 

「ッ!」

 

「同時発動、冥王スキル『イグニッション・アグニ』!」

 

右手を後ろに向け、前方の凍結から逃げてきただろう熱エネルギーを吸収し…

 

「『魔覇青龍鱗衝・爆焔砲(ばくえんほう)』!!」

 

それを今度は前方に向けて一気に解放する。

 

「むぅ…ッ!!」

 

さしもの皇鬼も急激な温度変化には対応出来なかったのか、両腕をクロスして耐えていた。

 

シュゥゥ…ッ!!

 

その皇鬼から少し煙が上がる。

 

「(好機!)」

 

その様子を見て忍は神速で一気に皇鬼の懐へと飛び込む。

 

「『気覇白虎乱撃・咬鎧(こうがい)』ッ!!」

 

そして、怒涛の連撃を見舞って皇鬼の纏うオーラを削り取っていく。

 

「調子に乗るでない!」

 

ブォンッ!!

 

クロスした両腕を広げながらその風圧で忍の威勢を挫こうとする。

 

「ッ!」

 

それを理力の型で予知した忍は即座に後退する。

 

「(始龍。今こそ、アンタの力を借りる…!)」

 

黄金のビー玉を弾くと、忍の体を龍の意匠をした白銀の鎧が覆う。

それでいて髪や瞳、翼の色は変化していない。

 

「龍の力か…」

 

それを見て皇鬼もそれを悟る。

 

「あぁ…だが、ただの龍じゃねぇ…」

 

右手に熱気、左手に冷気をそれぞれ収束させると…

 

「行け、蒼龍、焔龍!!」

 

熱気と冷気が龍の形となって顕現し、皇鬼へと放たれる。

 

「ふんっ、この程度…!」

 

皇鬼が牙で龍を薙ぎ払おうとすると…

 

ブンッ!!

 

それは空振りに終わる。

 

「なんと…!」

 

2匹の龍はまるで意思を持ったかのように、するりと皇鬼の斬撃を避けていた。

そして、2匹の龍は忍と皇鬼の周囲を物凄い勢いで渦巻いていく。

 

「むぅ…これは…!」

 

熱さと寒さ…その温度差の連鎖が皇鬼の肉体を襲う。

 

「さぁ、行くぜ!」

 

そこにさらに深紅のビー玉を弾いて真祖の力も展開する。

髪と瞳、翼の色は変わらず、鎧も変化しなかったが、その両肩後部辺りから蝙蝠の翼が生え、それがマント状に変化し、八重歯が少し肥大化して瞳孔は縦に鋭くなっていた。

 

「うおおおおッ!!!」

 

神速で一気に皇鬼の間合いに入ると、拳打、蹴り、掌打、回し蹴りなどのあらゆる体術を一撃一撃の合間を開けないコンボのようにして叩き込み…

 

「破ぁぁッ!!!」

 

最後に五気の塊を皇鬼に放ち、その体を上空へと吹き飛ばす。

 

「儂を吹き飛ばすとは…!」

 

吹き飛びながらも次に来るだろう一撃に備え、盾剣を構える。

 

「来い! 蒼龍! 焔龍!」

 

渦巻いていた2匹の龍が忍の呼応に応じて忍の元へと集まり、さらに収束して1匹の龍となる。

 

真覇(しんは)轟撃烈破(ごうげきれっぱ)ッ!!」

 

その龍と共に忍が皇鬼へと飛び出して蹴りによる渾身の一撃を叩き込む。

 

「ぐぅっ!」

 

盾剣で受け止めるも、その勢いと力強さに皇鬼もさらに吹き飛んでしまう。

 

「追撃する!」

 

そう言って漆黒のビー玉を弾くと、白銀の鎧に漆黒の刻印のようなものが浮かび上がっていた。

 

「霊覇緋天朱雀・黒曜! プラス『煌翼(こうよく)』!」

 

右腕から紅蓮の朱雀、左腕から漆黒の朱雀をそれぞれ放つと共に忍も空を駆けるように飛び立つ。

 

キュオオォォォッ!!!

 

紅蓮と漆黒…2羽の朱雀が追撃とばかりに皇鬼に迫る。

 

「この程度で!」

 

2羽の朱雀を盾剣で軽く斬り裂く。

 

「ちぃっ…!」

 

2羽の朱雀を即座に斬り捨てられ、舌打ちするも忍は接近を緩めない。

 

「『妖華螺旋撃(ようからせんげき)』!!」

 

そして、皇鬼よりも上の空に位置すると、マントを翻して螺旋状に渦巻くとそのまま一気に落下するようにして突撃する。

 

「ちぃっ!!」

 

それも盾剣で防ぐが、攻撃を逸らした勢いの余り盾剣を手放していた。

 

「むんっ!!」

 

手放してしまった盾剣を無視し、妖力の籠った一撃で忍を殴り飛ばす。

 

「くっ…!!」

 

その一撃を受けて忍も落下するが上手く着地する。

皇鬼もまた上手く着地すると、忍と対峙するように仁王立ちとなる。

 

「さぁ、最後の力を見せてみろ!」

 

「あぁ、そのつもりだ…!」

 

その言葉を受け、最後の…真狼を封じた白銀のビー玉を弾く。

 

カッ!!

 

髪は白銀のメッシュが入った焔髪から黒の混ざった銀髪へ、灼眼と瑠璃の瞳から右が琥珀、左が真紅の瞳へと変化すると、その頭と臀部から髪と同色の狼の耳と尻尾が生える。

 

「これが、今の俺の全力の姿だ」

 

今ある力の全ての要素を兼ね備えた忍の姿を見て…

 

「(なんという神々しさ…まるで古の伝説にあったとされる覇を唱えたという鬼神じゃな…)」

 

皇鬼はそのようなことを考えていた。

 

「真・神速!」

 

ブンッ!!

 

真狼の速度よりも速い動きで一気に皇鬼の間合いへと迫ると…

 

「ッ!!(儂の反応速度を上回るか!!)」

 

皇鬼の反応が若干遅れるほどの速さを見せた忍は…

 

「『牙皇瞬撃破(がおうしゅんげきは)』ッ!!!」

 

その一瞬の隙に全ての力を注ぎ込んだ拳による神速の一撃を放っていた。

 

「ぐっ…がっ…!」

 

忍の一撃を受け、少し後退った後に片膝を着く皇鬼。

 

「ふっ……片膝を着くなんぞ、もういつ以来かの…?」

 

その事実に皇鬼はなんだか嬉しそうな声を漏らしていた。

 

「そんなの、俺が…知るかよ…」

 

あの一撃でも片膝を着かせるだけかと思った忍は肩で息をしながらそう返していた。

 

「ふぉっふぉっふぉ…いいじゃろう。此度のお主の実力を測る戦い…儂の負けを認めてやろう」

 

そう言いながら皇鬼はその場で胡坐を掻いて座り込む。

 

「そりゃ、どうも…」

 

バタンッ!!

 

それを聞いてから忍は背中から地面に大の字になって倒れ込む。

それと同時に解放していた力もビー玉に戻ってその場に散らばる。

 

「あ~…流石に疲れた…」

 

紅蓮冥王達を取り戻す戦いから、皇鬼との戦いで忍の疲労はピークに達していた。

 

「だらしないのぉ」

 

そう言いつつも皇鬼もその場から動かない辺り疲れたのだろう。

 

「時に忍よ」

 

「あぁ? なんだよ?」

 

互いに疲れていても回復するまで話し相手は欲しいらしく、何気ない会話を始める。

 

「その力の玉の総称は何という?」

 

「総称? あ~、特に決めてないんだが…」

 

そういえば、力の総称なんて決めてなかったな、と思いながら答える。

 

「なんじゃい。だったら、儂が良い名を送ってやろうか?」

 

「どんなだよ…?」

 

皇鬼がどんな名を与えてくれるのか、気になったので聞いてみた。

 

「『解放陣(かいほうじん)』、というのはどうじゃ?」

 

「解放陣、か……悪くないな」

 

「気に入ったようなら、これからはその名を名乗るがよい」

 

「そうさせてもらう」

 

忍の力の総称…『解放陣』。

その名を胸に忍は更なる力の研磨を誓った。

 

「そうじゃ…約束通り、七煌龍の欠片は渡すぞ。儂の牙と共にな」

 

「え? でも、牙はアンタが所有者なんじゃ…」

 

「時代は移り変わる。牙の持ち主もな……それにもう一本渡したい刀もあるしの」

 

「なんか、貰ってばかりだな…」

 

「儂から物を貰えることを光栄に思うのじゃな」

 

「はいはい…」

 

そんな会話をしていると…

 

「それと、桃鬼のことも頼むぞ」

 

「はぁ!? それをまだ言うか!?」

 

「お主にしか頼めんことじゃよ…」

 

それを言われてしまうと忍としても答えに困っていた。

 

「……あいつが簡単に頷くとは思えんがな…」

 

「なに、いずれ来たる時のことじゃよ…あやつもわかってくれるじゃろう」

 

「…………そうだと、いいがな…」

 

それから2人は回復まで他愛ない話を続け、体が動く程度に回復すると皇城へと帰還していった。

 

 

 

皇鬼の言う『いずれ来たる時』とは…?

 

そして、揃う七つの牙と龍の欠片…。

果たして、これで何が起こるのか?

はたまた、何も起きないのか…。

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