魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

114 / 137
第百八話『帰還』

皇鬼の計らいによって解放陣に新たな力『鬼』が加わった。

それに伴い、武天十鬼の魂の一部と妖力で創造された武具一式も授かる。

 

それから自室に戻り、この時代で取り戻したり入手したモノを改めて検分する中、七煌龍の魂の結晶の欠片に変化が起きる。

 

………

……

 

・忍の部屋

 

七煌龍の欠片が一つとなり、目映い光を放つこと数瞬。

光量が下がり、やっと周りが視認出来そうなくらいに回復していた。

 

「ったく…なんだってんだよ…?」

 

忍がぼやけた目を開けると…

 

「………………」

 

目の前に見知らぬ美女(長身スタイル抜群+裸)が立っていた。

いなみにその容姿だが、腰まで伸びた銀髪と琥珀色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の綺麗な顔立ちに長身でそれに見合ったグラマラスな体型で、髪型はストレートだが、毛先が若干カールしている。

 

「…………………………あ?」

 

それを凝視してしまい、また間の抜けた声が出てしまう。

 

と…

 

「………忍さん!!///」

 

叫び声にも似た悲鳴を上げる領明と、忍の眼を隠すために背後から抱き着くような形になるシンシア。

どちらにしても厄介事が増えるのは明白だった。

 

 

 

その後…

 

「……むぅ…///」

 

「………………」

 

頬を染めてジト目で忍を睨む領明と、相変わらず表情はないもののシンシアもどこか非難めいた視線を送ってる…ような気がしてならなかった。

 

「なんで俺がこんな目に…」

 

解せない…と言わんばかりに簀巻きにされた忍が呟く。

 

「……女性の裸を凝視したからです…」

 

無慈悲な言葉である。

 

「いや、そりゃ悪いとは思ったけど…あんな光量の後じゃ仕方ないだろ?」

 

目が眩み、光に早く慣れるために目の前を凝視した。

そこにたまたま目の前に裸の女性がいただけ…なのだが、凝視した事実は変えようがなく、それが領明とシンシアには許せなかったようだ。

 

「………………」

 

そして、当の裸を見られた女性はというと…(何故か)チャイナドレス風の体のラインがくっきりと見え、スリットの深い服を着て正座していた。

ちなみにこの服は領明に『何か着てください!』と言われ、"龍気"で体を覆って服として形成したものである。

 

「まぁ、それはともかくとして…アンタは何者なんだ?」

 

簀巻きのまま忍は女性に尋ねる。

 

「我は…七煌龍が化身」

 

「七煌龍の化身……まぁ、欠片が集まって光ってそこに現れたからな…」

 

それは間違いないだろう、という結論に至る。

 

「じゃあ、名前は?」

 

「名は無い」

 

即答である。

 

「そりゃ困った…」

 

名前がないと呼びにくいなと考えていると…

 

「ならば、(あるじ)が付けてくれ」

 

女性がそのような提案をする。

 

「主、って…もしかして、俺?」

 

当然の質問を聞き返す。

 

「うむ。主以外、他にいない」

 

「急にそう言われてもな…」

 

色々と急展開だったので、頭がついていけていなかった。

 

「う~ん……七煌龍だし…しち、なな……なな? ふむ………『七海(ななみ)』ってのは、どうかな?」

 

それでも女性の名前を即席で考えてしまい、それでいいか確かめるように周りの反応を見る。

 

「七海……悪くない」

 

「……まぁ、悪くないと思います」

 

「………………」

 

女性陣の評価はまずまずといったところだった。

 

「じゃあ、今から七海って呼ぶことにするから…」

 

「わかった」

 

女性…七海は頷く。

 

「それで、七海は……どうして、現界したんだ?」

 

それから忍は、少し考えてから七海に問うていた。

 

「主が何も起きぬようなことを言っていたので、試しに起こしてみた。これは七煌龍の残留思念の総意である」

 

「………………」

 

やはり、忍の余計な一言が原因らしい。

 

「……やっぱり」

 

それを聞いて領明も呆れていた。

 

「しかし、やってみるものだな。まさか、本当に起きるとは、我々も予想外であった」

 

だが、一つの存在と化した七海もこの事態は予想していなかったらしい。

 

「意志の力はバカにならんからな…」

 

戦友の起こした意志の力による奇跡の数々を思い出し、忍はそんなことを漏らす。

 

「それで、七海は…何か能力は持ってるのか?」

 

「能力…」

 

「生前の能力が蘇ったとか、一つになったことで何か新しい能力に目覚めたとか…そういう感じはないか?」

 

忍の質問に七海は…

 

「残念ながら、やはり生前の能力などは失ったままだ」

 

「そうか…」

 

その答えに忍は少し残念そうにするも…

 

「しかし…恐らくだが、これは新しい能力…と言えるのだろうか?」

 

そう言うと七海は簀巻き状態の忍に近付くと…

 

ポワァ…

 

まるで憑依するかのように忍の中へと消える。

 

『このように主の体へと憑依することが出来る。しかし、特にこれといった技能や能力の発現などはない』

 

「なんだ、そりゃ…」

 

それを聞いて忍は何とも言えぬ表情となる。

 

七海は忍に憑依するだけで能力の発現がない。

果たして、これに何の意味があるのだろうか…?

 

「我にもわからぬ」

 

忍の中から出てきて七海もそう呟く。

 

「……それで…七海さんは、これからどうするのですか…?」

 

現界した七海自身、今後どうするのかを領明が尋ねる。

 

「とりあえずは主に付いていく。他に行く当てもない故」

 

「そうか。ま、よろしく頼むわ」

 

「うむ」

 

忍は改めて七海を歓迎することにした。

簀巻きのままだが…。

 

「で、俺はいつまでこのままなんだ?」

 

「……知りません…」

 

従姉妹のお怒りはまだ治まっていないようだった。

 

「おいおい…」

 

困ったようにシンシアの方を見ると…

 

「………………」

 

こちらはこちらで何故か簀巻きにされた忍に添い寝するような形で横になっていた。

しかも忍の顔をジッと見つめて…

 

「……なんだよ?」

 

改めて顔を見つめられ、忍は疑問符を浮かべる。

 

「………………」

 

「………………」

 

互いに無言で見つめ合ってるような感じになってると…

 

「……ゴホン…」

 

領明の咳払いが聞こえてくる。

 

「……七海さんだけでは飽き足らず、シンシアさんにまで色目ですか?」

 

言葉の節々から棘が感じずにはいられなかった。

 

「いや、あの…別にそういうわけじゃ…(汗)」

 

なんだか、今日は領明の地雷を踏みまくりな忍だった。

 

「………………やきもち…?」

 

シンシアがポーカーフェイスのまま領明に尋ねる。

 

「……やき…!? ち、違います!///」

 

シンシアはシンシアで遠慮というものを知らないらしく、その言葉に領明は慌てた様子になる。

 

「あとは…元の時代に戻るだけか。こればかりはどうしたもんかな…」

 

そんな領明とシンシアの様子を見ながら忍は最大の難題を口にしていた。

 

「元の時代?」

 

その言葉に七海が尋ねる。

 

「俺達は今よりも遥か未来からこの時代にやってきてしまったんだ。ほとんど事故みたいなもんだったからな…戻る術がないんだよ」

 

それを聞き…

 

「ふむ…」

 

七海は何やら考える素振りを見せる。

 

「どうした?」

 

そんな七海の様子が気になって尋ねると…

 

「時を渡る方法ならば、知っている」

 

「………………なに?」

 

思わぬ言葉に忍達の視線が七海に集まる。

 

「古代の大魔法『時渡(ときわた)り』。本来は過去へと渡る魔法だが、発動者の想像力次第で未来へと渡ることも可能とする禁術だ」

 

「……禁術…」

 

領明が少し難色を示す。

 

「うむ。発動させるには最低でも3人分の魔力供給源が必要であり、超越級の魔力を保持していなければならない」

 

「超越級……つまり、EX級の魔力保持が3人は必要なのか?」

 

「いーえっくす…?」

 

聞き慣れない言葉に七海は首を傾げる。

 

「つまりは超越級ってことだ」

 

「ふむ、そうか」

 

「話の腰を折って悪かった。それから?」

 

「魔力供給源を揃えた後に魔法陣を形成し、その上で発動者は行き先を頭の中で描き続けなければならない。ちなみに一度に時を渡れるのは最大で5人だ」

 

「5人、か…」

 

そう呟いて忍はこの場にいる人数を数える。

忍、領明、シンシア、七海…ギリギリな人数である。

 

「しかし、3人分で5人とは…それだけ超越級は常軌を逸しているのか…」

 

超越級…EX級の妖力を持つ皇鬼や武天十鬼はそれだけ常軌を逸してるということになる。

 

「……ですが、ここにはEX…超越級の魔力を持つ人が忍さん以外いません。残り2人分の魔力をどこから調達するんですか?」

 

領明とシンシアの魔力を掛け合わせてももう1人分くらいだろう。

しかし、それでは領明とシンシアが先に参ってしまう。

 

「……いや、俺達にはそれだけの魔力を引き出せる方法を持ってる」

 

だが、忍には何か考えがあるらしい。

 

「……忍さん? それってどういう…?」

 

領明は忍が何を指しているのかわからないようだったが…

 

「…………………これ?」

 

シンシアがピスケスを取り出して忍に問う。

 

「そうだ。幸いにもここには三機のエクセンシェダーデバイスがある」

 

「……ぁ」

 

言われて領明も気付いたようだ。

 

「魔力供給源という意味では、これほど適したものもないだろ」

 

『マスター達のお役に立てるなら、我々も善処しましょう』

 

『はい。元の時代に戻るためにも』

 

『任せて~』

 

アクエリアス、キャンサー、ピスケスの了解も得たことで、魔力供給源の目処は立ったと言ってもいい。

 

「あとは…万全を期すのであれば、満月の日が良いだろう」

 

「……月は魔力とも関係があると言われてます」

 

そう言う七海と領明だが…

 

「問題は、それだけの猶予があるかどうかだな…」

 

忍は別の心配をしていた。

 

次の大戦…皇鬼が出陣するということもあり、万全の態勢を取ることになるだろう。

しかし、敵…絶魔がその間に何もしてこない、という確証がなかった。

この機だからこそ、何かしらの行動を移す可能性もあった。

 

「ともかく、各自やれることをやろう。俺は皇鬼さんに話して、どこかいい場所を教えてもらう。七海は覚えてる限りでいいから魔法陣の書き出しを頼む。領明とシンシアは…いつも通りにしてくれればいい」

 

「御意」

 

「……わかりました」

 

「…………………」

 

こうして忍達は未来への帰還のために動き出す。

 

………

……

 

それから数日後のこと。

 

「…………………」

 

皇城のとある一部屋の窓際で、彼女は月を眺めていた。

 

「…………………」

 

『ねぇ、シンシアちゃん』

 

そんな彼女…シンシアに話し掛けるのは、相棒のピスケス。

 

「…………………」

 

『元の時代に戻ったら、またお仕事するの?』

 

シンシアの仕事…忍の暗殺。

それを再開するのか、とピスケスはシンシアに聞いていた。

 

「…………………」

 

『今の彼…シンシアちゃんじゃ勝てないかもよ?』

 

答えないシンシアにピスケスはそう言う。

 

「…………………勝つ必要なんて、ない。ただ…殺す、だけ…」

 

『そんなに苦しそうなのに?』

 

ピスケスにそんな風に言われ、シンシアは…

 

「…………………それが、私に課せられた依頼だから…」

 

そう、返していた。

自分ではわかっていないだろうが、なんだか辛そうな目をしながら…。

 

『シンシアちゃん…』

 

そんなシンシアを案じるピスケスでは何も出来なかった。

出来るとしても話し相手くらいだろうか…。

 

すると…

 

コンコン…

 

部屋に来訪者がやってきた。

 

「…………………」

 

ノックする相手なんてもう二択しかいなかったので、返事はしなかったが…。

 

「返事くらいしたらどうなんだ?」

 

そう言って入ってきたのは…さっきの話題に出た標的…。

 

「…………………」

 

なんだかムスッとしたような表情…にはなってないが、そんな雰囲気を出しながら忍を見る。

 

「お前も、もうちょっと感情を曝け出してもいいと思うけどな。ま、それでも前に比べたら俺も少しはわかるようになったけど…」

 

そう言って忍はシンシアの隣へと歩み寄ってから外を見る。

 

「なぁ、シンシア…」

 

「…………………?」

 

窓際に並んで佇むシンシアに忍は…

 

「元の時代に戻ったら…また、俺を狙うのか?」

 

そんな問いかけをしていた。

 

「…………………っ」

 

標的である本人から言われ、シンシアもバツが悪そうに顔を伏せる。

 

「正直なことを言えば…俺はお前とは戦いたくない。ここで一緒に生活してきて、そう思えるようになっちまったよ」

 

そんな様子のシンシアの状態を知ってか知らずか、忍は語り続ける。

 

「気配を消して突然現れたり、人の真似したり…そういうとこを見たせいかな。お前のことを敵と認識出来そうにない。これは俺からしたら致命的なことをお前に言ってるようなもんだ」

 

暗殺者に自らの認識の甘さを曝すことは、暗殺者に殺してくださいと言っているようなものだ。

だが、忍はそれを承知で話している。

 

「でも、まぁ…ここでの生活を通して、お前も普通にしてればちゃんと女の子なとこもあるんだなって考えると、どうにもな。お前は俺の命を狙ってるのに…」

 

「…………………っ…」

 

忍の言葉を聞いてるシンシアは顔を伏せたまま、自らの中に芽生え始めた感情に戸惑いを覚えていた。

 

「とは言え、お前のことを俺達は何も知らないんだよな…」

 

「…………………」

 

「こればかりはお前の気持ち次第だから、何とも言えない。でもな…」

 

忍はそう言うと、シンシアの頭を軽く撫でる。

 

「向こうに戻っても、いつでも遊びに来いよ。俺を狙う暗殺者としてじゃなく、領明の友人としてな…」

 

「………………ぁ…」

 

ポタッ…

 

その言葉にシンシアも知らず知らずのうちに涙を流していた。

 

「…………………っ…」

 

それを悟られまいと懸命に声を殺すが…

 

「……泣くことは、別に悪いことじゃない。お前も、もっと素直に生きればいいんだよ」

 

それに気付いたらしい忍に優しい言葉を掛けられる。

 

「…………っ………っ…」

 

シンシアは顔を伏せたまま、静かに涙を流し続けた。

 

「………………」

 

忍はそんなシンシアの頭を撫で続けていた。

 

その後、泣き疲れたのだろうシンシアを布団に寝かせてから忍は部屋を去っていた。

 

………

……

 

さらに数日後。

 

「はああぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

桃鬼の絶叫が木霊する。

 

「ふむ…そんなに驚くことかの?」

 

「そりゃいきなりんなこと言われたら誰でも驚くだろ…」

 

桃鬼の絶叫を前に皇鬼と忍は普通の会話をしていた。

 

「最終決戦を前に孫娘を嫁に送り出すとか……正直、本気だったのかと俺も未だ信じられん」

 

「儂はいつでも本気じゃよ?」

 

「そうかい…」

 

忍も一応当事者なのだが、前々から言われてた分、桃鬼よりは冷静だったりする。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、お祖父ちゃん! これから大事な大戦だってのに、あたしだけ逃げろって言うの!?」

 

桃鬼としてはとても承諾出来ない案件だった。

 

「しかも、なんでよりにもよってこいつが嫁ぎ先なのよ!」

 

そう言って桃鬼は忍を指さす。

 

「なんじゃ、不服か? なかなかの好条件を揃えた若者で、歳も近くて言いたいことを言い合える関係を築けそうな、儂の認めた漢じゃぞ?」

 

皇鬼からしたら褒めてるのだが、忍からしたら物件扱いにされてるような気分だった。

 

「そういう問題じゃなくて!」

 

「じゃあ、何が問題なんじゃ?」

 

皇鬼の問いに…

 

「こんな大事な時期にあたしだけが逃げるような真似が問題なんだって!」

 

桃鬼はそう答えていた。

 

「なんじゃ、そんなことか」

 

それを皇鬼は一蹴する。

 

「そんなことって…!?」

 

「戦において最悪の場合や万が一のことを考えるのは至極当然のこと。此度の場合、決戦ということもあって儂等は最大の戦力を前線に投入する。それが万が一、突破された時のことを考えての措置じゃ。ま、そう易々とは抜かせるつもりはないが…何が起きるかわからぬのが戦場故な」

 

皇鬼の説明に…

 

「そ、そんなのあたし一人でだって!」

 

桃鬼はそう反発するが…

 

「無理だ」

「無理じゃ」

 

忍と皇鬼が揃って否定する。

 

「なんでアンタまで否定すんのよ?!」

 

祖父である皇鬼ならわかるが、忍まで否定してきたことに驚く。

 

「よく考えることだ。前線を抜けられるってことはここが戦場になる可能性だってあるんだ。それはつまり、この城下町の住民のことも念頭に置いて戦うことになる。住民達を城へと避難させ、尚且つ防衛に専念せねばならない。それをたった一人で出来ると思うか?」

 

「うっ…」

 

「町を守る最低限の兵を置いていくとしても、それを指揮する者の判断一つでこの町の行く末が決まると言ってもいい。そんな大役をお前は務められるのか?」

 

「そ、それは…」

 

そこまで言われて桃鬼も事の重要さを知り、尻込みしていた。

 

「そのような及び腰では任せられんよ」

 

「うぐっ…」

 

トドメとばかりに皇鬼が桃鬼に伝える。

 

「よって桃鬼は忍達と共にこの城から退避するんじゃ。なに、儂等が負ける道理は無かろう?」

 

「それは…そうかもだけど……でも、だからって嫁に出すって!」

 

「忍は儂の継承者じゃ。そのまま勝ったとしても鬼神界の未来を共に担ってくれればそれでよい。儂もいい加減隠居したいのでな」

 

そんなことを笑って言う皇鬼を…

 

「………………」

 

忍は表情を変えずに見ていた。

 

「うぅ…なんか納得いかない…」

 

桃鬼はそう言って皇鬼の部屋から出ていく。

それを見てから少しして…

 

「これは…絶対に怨まれるな」

 

忍はボヤくように呟く。

 

「すまぬな。損な役回りをさせることになって…」

 

皇鬼も忍に謝っていた。

 

「別に…誰かが受け止めないといけないだろうしな…」

 

「お主達の逃げ場所は最後まで明かさぬ。向こうで、桃鬼のことを頼むぞ」

 

「あぁ…わかってるよ……だから、アンタも死に急ぐなよ?」

 

最後に忍は皇鬼に釘を刺していた。

 

「相手が相手じゃからな。確約は出来んわい」

 

「それでもだ」

 

「……わかった。無理はせんよ。じゃが、儂は儂の全力を以って奴等と相対する。それだけは譲れん」

 

「これでも戦士の端くれだ。それくらいはわかるつもりだ」

 

そう言うと忍は皇鬼に拳を向ける。

 

「なんじゃ?」

 

「互いの拳を合わせるんだよ。それが未来での…なんていうかな。男同士の約束や友情の証みたいなもんなんだよ」

 

「ほぉ、そういう習わしがあるのか…」

 

そう言って皇鬼も拳を忍に向けると、コツンと合わせる。

 

「武運を祈る」

 

「応。お主も達者でな」

 

これが…この時代、この世界における忍と皇鬼、最後の会話となった。

 

………

……

 

そして…

 

「いよいよか…」

 

満月の夜を迎えていた。

 

その間に皇鬼は武天十鬼や近衛、兵達を率いて最前線へと赴いていた。

皇城にも兵は残っているが、必要最低限の人員だけである。

 

忍達は皇城より北西に位置する山頂にいた。

そこが皇鬼から聞いた月の力を最も受け、魔の力を発揮するのに適していると聞いたからだ。

 

「こんなとこで何しようってのよ?」

 

あまり詳しく説明されていない桃鬼が忍達に尋ねる。

 

「ここから人間界に跳ぶんだよ」

 

「人間界まで逃げる必要なんてあるの?」

 

「だから何度も言ってるだろ? 万が一のためだ」

 

「うむむ…」

 

忍の言葉に桃鬼はあまり納得出来ていないようだった。

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

「うむ」

 

「……はい」

 

「………………(こくっ)」

 

忍、領明、シンシアはそれぞれのエクセンシェダーデバイスを身に纏うと…

 

「コアドライブ、最大稼働!」

 

キュイイィィィィ…!!

 

忍の言葉を切っ掛けに三機のエクセンシェダーデバイスからサファイアブルー、パールホワイト、スカイブルーの魔力粒子が迸り始める。

 

「結!」

 

さらに魔力が逃げないように結界を張り、魔力粒子を満たしていく。

しかし、この結界にはもう一つ役割があった。

 

「魔法陣、展開」

 

結界内の地面に七海が書き起こした魔法陣を展開していく。

 

「(あとは…俺のイメージ次第か…)」

 

忍が未来…智鶴達のいる現代の世界を思い描こうとした時…

 

ブォンッ!!

 

夜空が裂けるように亀裂が入ると、そこにある映像が映し出される。

 

「あれは…!」

 

「う、そ…」

 

そこは夜の戦場、月が赤く染まっている。

そして、その戦場の中心では上半身は四本腕を持つ異形の人型で、蛇のような尾で形成されたような下半身を持つ巨大な存在がその手に何かを握っていた。

 

『う、ぐぅっ…!』

 

『がぁっ!?』

 

その何かとは、皇鬼と月鬼であり、かなりの負傷をしているのが映像から見てもわかった。

さらにその尾元には地に伏せる武天十鬼の姿があり、何人かは既に…。

 

『聞くがいい。か弱き鬼共よ』

 

すると、巨大な存在が声を発する。

 

『神に刃向かう貴様らの愚かな希望は我が潰した』

 

その威容を見せつけるかのようにして巨大な存在は月鬼を地面に叩き付けるようにして投げつける。

 

『がっ!?』

 

『全ての生物よ。この光景を見て絶望せよ』

 

その言葉と共に映像の中で多くの絶魔が進軍していく。

 

「アレが…絶魔の神…!」

 

その巨大な存在が絶魔の神だと直感した忍だったが、その横では…

 

「お祖父ちゃんが…武天十鬼が…」

 

信じられないようなものを見たかのようにその場に崩れ落ちる桃鬼。

 

「っ!」

 

しかし、何かを思ったのか、その場から駆け出すように走ろうとするが…

 

ガンッ!

 

忍の張った結界がそれを阻む。

 

「なっ!? 出して! 出しなさいよ!!」

 

桃鬼が焦ったように忍に詰め寄るが…

 

「それは…出来ない。俺にもあの人との約束がある」

 

魔力供給を止めず、忍は転移先のイメージを固め始めていた。

 

「なにを……っ!? まさか…お祖父ちゃんもアンタも最初からあたしを…!!」

 

「………………」

 

ここにきて気付かれたことに忍は何も言わなかった。

 

「どうして…どうしてよ! あたしだって戦士としての訓練は受けてた!! いつでも死ぬ覚悟だって…!!」

 

泣き叫ぶようにして忍の胸倉を掴む桃鬼に…

 

「孫娘を…むざむざ死地に向かわせる祖父がいるもんかよ」

 

忍はそれだけ答えていた。

 

「それは…そうかもだけど…!! でも、あたしはみんなと一緒に…!!」

 

「お前が生きててくれれば…鬼神界の未来は、また一からでも作り出せる。だからこそ、あの人達は命を懸けたんだ。その決意と覚悟を無為にするな…!」

 

「でも…だけど!!」

 

桃鬼はそれが認められないらしい。

 

「怨むなら、俺を怨め…俺は、この結果を頭のどこかでわかっていたんだ…」

 

「なっ…!? じゃあ、なんで…なんで、助けようとしないのよ! アンタだってお祖父ちゃんに世話になってたんでしょ!!? それなのに、なんで!!」

 

「俺は…未来からきた人間だ。未来の知識を持つ俺が歴史を…これから起こることを変えちゃ、ダメなんだよ…それが例え、親しくなった人達を見殺すことになっても…!!」

 

それは忍にとっても苦渋の決断だった。

ここで未来を変えたら、忍の知らない別の未来になっているかもしれない。

現代に戻るためにはこのまま事実を受け止めなければならないのだと…。

頭では理解してても、やはり心は納得出来ないでいたが…。

 

「そんなの知ったことじゃない! 今からでも遅くない! あそこに行ってお祖父ちゃん達を…!」

 

「もう…時間切れだ…」

 

行き先のイメージは固まり、魔法陣に魔力も満ち満ちた。

そして、月の魔力の加味した『時渡り』が発動する。

 

時渡りが発動する中、夜空の映像に変化が起きる。

 

『うおおおおおお!!!』

 

皇鬼が絶魔の神の手を逃れ、血塗れになりながらも対峙していた。

 

『絶魔の神よ…儂はまだ健在じゃぞ?』

 

膨大な妖力を迸らせながら皇鬼は言葉を紡ぐ。

 

「皇鬼さん…!」

 

「お祖父ちゃん…!」

 

その姿に忍と桃鬼は揃ってそちらを見る。

 

『愚かな皇よ。身の程を知れ。そのような体で何が出来る?』

 

『愚かなのはお主よ。絶魔の神よ』

 

『何?』

 

『絶望が深ければ深いほど、希望というものが煌めくのじゃ。そして、儂等の希望は未来におる』

 

『未来? 笑止。貴様らに未来などない』

 

『それはどうかの? 遥か先の未来にて、お主を屠る者が現れる。儂はそう確信しておる』

 

『戯言を…』

 

『戯言かどうかはお主自身で確かめるのじゃな』

 

そう言うと、皇鬼は絶魔の神へと突貫していった。

 

『後は頼むぞ、忍よ。桃鬼よ、幸せにの…』

 

最後に小さく言葉を紡ぎながら…

 

「「ッ!!」」

 

その小さな言葉は、確かに2人の耳へと届いていた。

 

「皇鬼さぁぁぁぁん!!」

「お祖父ちゃぁぁぁぁん!!」

 

その最後の光景を目に焼き付けながら、忍達は未来へと時を渡り始めたのだった。

 

 

 

そして、この後…皇と武天十鬼を喪った鬼神界は程なくして滅亡を迎えた。

絶魔は勢力を伸ばすものの、遠征先のある惑星でそこにいた神によって絶魔の神は封じられる。

神を封じられた絶魔も数世紀に及んで勢力の後退を余儀なくされた。

 

しかし、現代という時間の中で再び絶魔は動き始めた。

だが、その絶魔を倒すべく、過去から希望が舞い戻ってくる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。