魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百九話『牡牛座の強襲と牡羊座の台頭』

・現代

 

忍達が消えたクリスマスの夜から早三日が過ぎようとしていた。

 

明幸家では年末の大掃除の真っ最中だったりする。

 

「………退屈ねぇ…」

 

特に何をするでもなく中庭に面した縁側に座るカーネリアがボヤく。

 

「だったら少しは手伝いなさいよ」

 

「オメェも居候だろうが!」

 

暗七とクリスがそんなカーネリアに文句を言いつつも大掃除の手伝いをしていた。

 

「嫌よ。坊やもいないし、ホント退屈ねぇ…」

 

そう言ってゴロンと縁側に体を預けてしまう。

 

「ちょっと、そこに寝られると邪魔なんだけど?」

 

そう言うのは縁側の雑巾がけをしていた吹雪だった。

 

「はいはい。退けばいいのでしょう? 退けば…」

 

そう言ってカーネリアは堕天使の黒翼を展開して寝たままの状態で羽ばたく。

 

「羽を散らかすな!」

 

そのせいで何枚かの羽が散ってその場を汚してしまう。

 

「注文が多いわね…」

 

そう言うとふわりとスカートを翻しながら中庭に着地する。

 

「だったら手伝え!」

 

「嫌」

 

大掃除の手伝いを頑なに拒否するカーネリアは…

 

「そういえば、あの超内気な騎士ちゃんが来るんだったわね。そのお迎えにでも行こうかしら」

 

萌莉が来るのを思い出して、その出迎えに出掛けることにしていた。

黒のワンピースに紫色のショール一枚を羽織ってるだけという…何とも適当な格好だが…。

 

「じゃあ、後はよろしく」

 

そう言って手をひらひらさせながらカーネリアは悠々と門から外に出て行った。

 

「あいつもあいつで大概だよな…」

 

「自由というか何というか…忍がいないと余計に際立つわね」

 

クリスと暗七がそんなカーネリアの背を見送りながらボヤいていると…

 

「その忍だけどさ…」

 

「「?」」

 

吹雪が不意に…

 

「また…増えてないわよね?」

 

そんなことを口にする。

 

「「…………………」」

 

その呟きに対しての答えは…正直、2人も言いたくなさそうだった。

 

「……ごめん」

 

吹雪も詮無きことを聞いたと言いたげに雑巾がけに戻る。

 

「いや、まぁ…あいつ、行方不明になると何かしらが起きてる中心地にいるからな」

 

「そうね…難儀な体質だけど、付き合うこっちも大変なのよね…」

 

「赤龍帝の影響も少なからずあるんだっけ?」

 

「龍やドラゴンみたいな龍種は力を引き寄せる。龍騎士を取り込んだ時点で忍もその力が発動してるんだとしたら…相乗効果になってそうね」

 

「まだまだ厄介事は尽きないか…」

 

「ま、現在進行形であいつは何かやってるかもだけどな…」

 

中庭にいた3人はそんなことを話していた。

 

………

……

 

一方…。

 

「す、すみま、せん……荷物、一緒、に、持って、もらって…」

 

「ううん、気にしないで。私も明幸のお屋敷に行く途中だったし」

 

今日が大掃除だと聞き、何か差し入れでもということで萌莉は色々と買っていたら大荷物になってしまい、困っていたところにフェイトが通りかかり、一緒に荷物を持ってもらっていた。

 

『きゅっ♪』

 

いつもの如くファーストは萌莉に抱えられており、その肩にはセカンドとフォースがいて、腕にはサードが巻き付き、その横をフィフスが歩いているという萌莉にとっては普通な光景だった。

 

「相変わらず仲が良いんだね」

 

その様子を見てフェイトがそんなことを言う。

 

「は、ぃ…私の…大切な、家族…です、から…」

 

『きゅっ!』

 

そんな慈愛に満ちた眼差しをファースト達に向けていた。

 

「ふふっ…」

 

こういう時だけは萌莉も素に戻れるのか、微笑ましい姿にフェイトも笑みを浮かべる。

 

その時だった。

 

ブォンッ!!

 

突如として2人の周囲が結界で覆われていた。

 

『きゅっ!?』

 

その光景に驚き、ファースト達が震える。

 

「この子達、怯え、て…?」

 

その感情を機敏に感じ、萌莉はしゃがんでフィフスも抱き上げる。

 

「萌莉さん。ここは私が何とかするから…あなたは…」

 

「い、え…」

 

抱き上げたフィフスとファースト、両肩にいたセカンドとフォース、腕に巻き付いていたサードを1ヵ所に集めていた。

 

「この、子達が、怯えてる…つまり、相手、は…この子、達を、狙ってる…かも、しれない、から…私、も…!」

 

召喚獣達を守るために萌莉は自らの魔力を刀状にして正眼に構える。

 

「萌莉さん…」

 

萌莉の姿にフェイトは少し驚くが…

 

「わかりました。でも、萌莉さんはその子達を守ることに専念してください。私が前衛を務めますから」

 

すぐにフェイトは待機状態のバルディッシュを取り出すと、荷物を置いてから臨戦態勢へと移る。

 

「は、い…!」

 

萌莉もそれに応えて召喚獣達を守るべく剣を取る。

 

「(とは言え、解せない。この辺りには結界があるはずなのに、どうして結界の中で結界が…?)」

 

フェイトは周囲に展開された結界を見る。

 

「(この結界…私達の魔法体系に近い…?)」

 

それはつまり…ミッド、もしくはベルカの魔法体系ということになる。

 

「(まだ次元航行技術が確立されていない地球に一体何の目的が…? もし、本当に萌莉さんの召喚獣が狙いだとしたら…)」

 

ちらりと萌莉の方を見てから周囲の気配を探ると…

 

「(既に囲まれてる。なら…)」

 

フェイトはすぐさま足元に魔法陣を展開し…

 

「サンダーブレイド!」

 

気配を頼りに雷撃で形成された剣を複数作り出すと、気配のある場所へと向けて放つ。

 

ズドドドドドッ!!

 

気配だけで狙ったためにそのほとんどが壁などの遮蔽物に突き刺さる。

 

「ブレイク!」

 

しかし、フェイトは気にせず追加キーワードを発して剣を爆破し、その周囲に雷撃によるダメージを与えていく。

 

「ちっ…この世界に魔法を使える奴がいるなんてな!」

「事前情報にはなかったぞ!」

「でも、珍しいのの宝庫なのは違いねぇ!」

 

雷撃から逃れて出てきたのは、いかにも人相や服装、ガラの悪い人間達だった。

そいつらの視線は、萌莉の背にいる召喚獣達に向けられていた。

 

「やっ、ぱり…狙いは…この、子達…!」

 

それを知り、萌莉の眼が珍しく鋭くなる。

 

「まぁ、たかが女2人だ。さっさと片付けっぞ!」

「ゲヘヘ、にしても良い体してるじゃねぇか…あの動物共を確保した後に遊んでもいいかもな?」

「? てか、あの金髪…どっかで見たような…?」

 

そのなんとも言えない会話にフェイトと萌莉は少し鳥肌が立つ。

 

「行くよ、バルディッシュ!」

 

『了解』

 

フェイトがバルディッシュを起動させ、バリアジャケットを展開した姿を見せると…

 

「ッ!! 思い出した! あいつ、時空管理局の執務官じゃねぇか!?」

 

集団の一人が思い出したように叫ぶ。

 

「マジか?! なんで時空管理局がこんな世界にいんだよ!?」

「俺が知るかよ!」

「とにかく、相手が時空管理局の執務官だろうと、たった2人には変わりねぇんだ!」

 

どうやら集団は数の有利から勝つ気でいるらしい。

 

「やっちまえ!!」

 

その声を合図に集団が一斉に動き出す。

 

「トライデントスマッシャー!!」

 

左手から直射系砲撃が放たれ、それが左右に枝分かれして計三つの砲撃となって集団へと着弾する。

 

「「「ぐわああああ!?!?」」」

 

着弾時の雷撃の効果もあって一気に複数人を昏倒させる。

 

「オラァ!!」

 

正面じゃなく、側面からやってきていた剣を持った一人がフェイトに斬りかかる。

 

「危、ない…!」

 

しかし、それを魔力斬撃で萌莉が迎撃する。

 

「ぐぁ!?」

 

横っ面からの直撃にその一人も吹き飛ぶ。

 

「萌莉さん…!?」

 

萌莉が人相手に攻撃を仕掛ける。

少なくともフェイトは初めて見た光景だった。

 

「ぁ…わ、わた、し……」

 

対人攻撃をあまり良しとしない萌莉が体を震わせる。

 

「大丈夫! 萌莉さん、気をしっかり持って!」

 

『フォトンランサー・マルチショット』

 

そう言いながらフェイトは周囲に複数のフォトンスフィアを展開して高速戦闘を仕掛ける。

 

「(萌莉さんに負担はかけれない。私がなんとかしないと…!)」

 

そうしてフェイトの奮戦もあって集団は着実にその数を減らしていった。

 

だが…

 

「なんだなんだ、テメェら! たかがこんな楽な仕事に手間取りやがって!!」

 

そこに灰色の短髪と黄色い瞳を持ち、いかにも悪者っぽい顔立ちに体格はガッシリした筋肉質の持ち主が怒声をあげながら現れる。

 

「隊長! ですが、相手が時空管理局の執務官だなんて聞いてやせんぜ!?」

 

その現れた男に集団の一人が不満そうに言う。

 

「馬鹿野郎! 文句言ってんじゃねぇぞ! この世界は意外と金になるんだ! たかが管理局くらいで音を上げてんじゃねぇぞ!」

 

その言動からこの集団の隊長格らしいのはわかったが、フェイトはその顔を見てある資料を思い出していた。

 

「『クライヴ・エストラーデ』!? 密猟グループの幹部がどうして地球に!?」

 

その資料とは時空管理局が追っている広域指名手配犯の人相が書かれていたものだ。

 

「あぁ? 俺のことを知ってんのか? ったく、顔割れしてるとか面倒だぜ…」

 

そのフェイトの驚きの声が聞こえたのか、男…クライヴは面倒そうに顔を歪める。

しかし、驚いていたのはフェイトだけではなかった。

 

「ぁ…ぁぁ…」

 

萌莉が尋常ではない感じで震え出していた。

 

『きゅ、きゅう!』

 

それを宥めようとファースト達が萌莉の元へと駆け寄る。

 

「あぁ?」

 

クライヴはその鋭い眼光で萌莉を見る。

 

「ひっ…」

 

その萌莉の怖がりようと、ファースト達が群がる様を見てクライヴはあることを思い出していた。

 

「……テメェ、あの時のガキか?」

 

「っ!?!」

 

その問いかけに心臓が鷲掴みにされるような感覚に陥る萌莉。

 

「萌莉さん!?」

 

その様子に気付き、フェイトも萌莉の方へと少し下がる。

 

「メイリ? はっ! やっぱ、あの時のガキか!!」

 

萌莉の名を聞き、クライヴは面白そうな感じで笑い出す。

 

「隊長?」

 

「いや、なに…ちょっと昔の失敗談でな。だが、そうか…性懲りもなく、"また"保護してたか!」

 

部下に質問されるも、それを軽く流して愉快そうに萌莉に言葉を投げつける。

 

「(また?)」

 

クライヴの言葉に引っ掛かりを覚えていると…

 

「せっかくの再会だ! 派手に行くぞ!!」

 

そう言ってクライヴが取り出したのは、牡牛座のシンボルと髑髏の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のエメラルドを携えた白銀色のチェーンブレスレットだった。

 

「あれは!?」

 

「出てこいや! 『タウラス』!!」

 

カッ!!

 

クライヴの呼び掛けと共にチェーンブレスレットが輝き、その場に…

 

『ヒャッハー! 呼んだかい? クライヴ』

 

白銀の牛が出現していた。

 

「牡牛座の…エクセンシェダーデバイス…!!」

 

フェイトが冷や汗を流していると…

 

『はっ、アタイらのことを知ってんのかい?』

 

タウラスがフェイトに尋ねる。

 

「牡牛座の…? 他にもこいつの仲間がいるような言い方だな…?」

 

フェイトの言葉が気になり、そんなことを呟くと…

 

『あぁ。アタイの他にもエクセンシェダーデバイスはいるよ。アタイを含め12機、ね』

 

タウラスが今更のように説明する。

 

「あぁ? そんなの初耳だぞ?」

 

『そりゃ聞かれなかったからね』

 

「ちっ…このクソデバイスが!」

 

それを聞き、ガンッ!とタウラスを蹴るクライヴ。

 

『痛っ!? テメェ、何しやがる!!』

 

「うっせぇ! テメェがんな大事な情報を言わなかったのが悪いんだろうが!」

 

『んだと!?』

 

「あぁ? やんのか、ゴラァ!?」

 

未だ戦闘中にも関わらず、デバイスと喧嘩する所有者。

 

「(な、何なの…?)」

 

今まで見てきたエクセンシェダーデバイスとその所有者の関係とは異なる感じに困惑するフェイト。

 

「隊長! 喧嘩なら向こうとしてくだせぇ!」

 

そんな部下の声に…

 

「『うるせぇ!!』」

 

クライヴとタウラスが同時に怒声をあげ…

 

キュイィィィッ!!!

 

タウラスの背部にある2門の砲撃ユニットが急速チャージされていく。

 

「やべっ!?」

 

部下の方も身の危険を感じ、即座に退避するが…

 

『逃がすかよ! 行きな、ブレイクホイール!』

 

バキンッ!

 

牛の前足の肩に相当する部分に装着していた車輪型装備が外れ、それが部下を足止めする。

 

「ちょっ、待っ…俺、味方!?」

 

『知るかよ。んなこと』

 

そして、無慈悲にも…部下にチャージされた砲撃が放たれる。

 

「ぎゃあああ!?!」

 

砲撃を受けて吹き飛ぶ部下。

 

「なっ…味方を攻撃した!?」

 

その光景にフェイトも目を疑った。

 

「ったく、邪魔しやがって…」

 

そんな部下を尻目にクライヴは目標をフェイトと萌莉に移すが…

 

「隊長! なんか知りやせんが、ここに集まってくる奴らがいますぜ!!」

 

「あぁ? ったく、これからって時に……ッ!!」

 

が、クライヴはその場からすぐさま退く。

 

「あら、良い反応ね?」

 

そこに現れたのは…

 

「カーネリアさん!」

 

堕天使の翼を広げたカーネリアだった。

 

「~♪ こりゃ珍しいもんが見れたぜ。羽の生えた人間かよ…!」

 

口笛を吹いてクライヴはカーネリアを奇異の眼で見る。

 

「こんなのがたくさんいるとなると…いい狩場になりそうだな!!」

 

そう言いながらタウラスの横へと着地すると…

 

「テメェら、引き上げだ! 当分はこの世界で狩りを愉しめそうだ!!」

 

『ヒャッハー!!』

 

クライヴの声に応えるよう部下達も歓声を上げる。

 

「ま、待ちなさい!」

 

フェイトがクライヴ達を追いかけようとするが…

 

「撃てや、タウラス!!」

 

『あいよ!!』

 

タウラスの背部にある砲撃ユニットが火を噴き、フェイト達の足を止める。

 

「あばよ。今度はちゃんと手加減してお前の召喚獣を奪ってやるよ!」

 

そう言い残してクライヴの一団はその場を去っていた。

 

「っ!?」

 

その最後の言葉を聞き、ペタリとその場に座り込んでしまう萌莉。

 

『きゅ…』

 

「…………………」

 

心配そうなファースト達を無言で抱き寄せ、震えていた。

 

「萌莉さん…」

 

「さてはて…どうしたものかしらね?」

 

状況が呑み込めていないが、また厄介事になりそうだと察したカーネリアがそう漏らす。

 

その後、駒王町に配備された三大勢力のエージェントが駆けつけ、フェイト達は大まかな事情聴取を受けたのだった。

今年も後僅かだというのに、ここにきて牡牛座の襲来とは…。

 

だが、出現したのは何も牡牛座だけではないことを、この時の彼女達はまだ知る由もなかった。

 

………

……

 

牡牛座を持つクライヴの一団(密猟グループ)の襲撃からさらに三日経った大晦日。

 

明幸のお屋敷の大広間では幹部達が集まっての総会が開かれていた。

その席にはもちろん、智鶴の祖父である組長の姿もあった。

 

「この一年で…この駒王町の様相も随分と変わったものじゃ」

 

しみじみと、組長はそんなことを呟きながら天井を仰ぐ。

 

「今では三大勢力の和平の象徴と化しておりやすからね…」

 

幹部の一人もそのようなことを漏らしていた。

 

「儂が山に引っ込んでる内に色々な出来事が起きていたとはのぉ」

 

とは言え、組長が山で養生したのはここ数年での話。

まさか、ここに来てここまで情勢が変わるとは、誰もが思いもしなかったのは事実である。

 

「それもこれも…あの赤龍帝の小僧が覚醒してからでさぁ!」

 

「だが、誰があんな堅気の小僧に気付けた?」

 

「そりゃ、そうだがよ…」

 

イッセーが赤龍帝として覚醒し、悪魔に転生してから全ては動き出したとも言える展開に幹部達は意見を出し合っていた。

 

「それと並行して紅神の倅が頭角を現してきたのも驚きだったな…」

 

「あぁ、それは確かにな」

 

「あの貧弱な坊主が、今じゃ冥界の方で次元辺境伯だったか?」

 

「いつまでも泣き虫なガキじゃねぇってことか?」

 

イッセーの話題と並行して忍の話題も浮上してきた。

 

「ふむ…して、その紅神の倅の行方は?」

 

組長が忍の行方を幹部達に尋ねる。

 

「へい。それが依然として掴めてやせん。かの堕天使の元総督でも行方はわからないそうでして…」

 

「まったく…この一年で何度姿を消しゃ気が済むんだか…」

 

「………そんなに行方不明になっておるのか?」

 

幹部の言葉に組長もそんな感想を抱く。

 

「へい。まぁ、その度に何かしら得ているようでして…」

 

「女だったり、力だったりと…果たして、今回はどうなることか…」

 

「まぁ、お嬢の方も気が気でないようでして…」

 

そう言って幹部の一人が組長の隣で正座している和服姿の智鶴をチラ見する。

 

「余計なことは言わないでください…」

 

かくいう智鶴もその幹部を一睨みだけする。

 

「す、すいやせん…!」

 

その幹部もすぐさま智鶴に頭を下げる。

 

「ふむ…」

 

それを聞き、組長は思案していた。

 

「(この一年の激動は確かに赤龍帝が発端じゃろう。しかし、それに触発されたかの如く、あの小僧もまた中心に近しいところにいて、その度に何かしらを得てきたのじゃろう。その経験はいずれ上に立つ者にとって貴重なものとなるだろう。それに…智鶴が好いておるにも関わらず、他にも女に好かれている。これはあの小僧に何かしら惹かれるものがあり、それは上に立つ者に必要な素質じゃな。そういう意味では、やはり…)」

 

組長が真剣に何かを考えてる様子を幹部達が見守る中…

 

「あぁん? テメェは…っ!?」

「な、何故、ご子息が…?」

「本日はこの一年の締め括りとなる組長と幹部のみでの総会であってご子息の出席は…!」

 

何やら大広間の入り口の外が騒がしかった。

 

「なんだ?」

 

その場に一番近かった幹部が様子見のために入り口を開け放つ。

 

「おい、テメェら! 何事だ? 今、頭が考え事をしてる最中なんだぞ!? ちったぁ静かにしろってんだ!」

 

「あ、兄貴!? そ、それが…」

 

幹部の一人が出てきたことに下っ端らしい組員が驚き、騒ぎの原因となっている人物を見る。

 

「あぁ?」

 

下っ端の視線を追いかけて幹部もそちらを見ると…

 

「なっ!? なんでテメェが、ここにいやがる!?」

 

幹部の方も驚いたように声を荒げる。

 

「む?」

 

その騒ぎに組長も入口の方を見る。

 

「おい、明智(あけち)! なんで、テメェの倅が来てんだよ!!」

 

外を見に行った幹部が明智と呼ばれる幹部に食って掛かる。

 

「あぁ? 雅紀(まさき)が? なんかの間違いじゃねぇのか?」

 

明智という幹部がそう言うと…

 

「間違いじゃないさ。父さん」

 

入り口の方から一人の青年が顔を出す。

その青年はうなじが隠れる程度の黒髪とブラウンの瞳を持ち、凛とした雰囲気の二枚目な顔立ちに、中肉中背といった具合の標準的な体格をしていえ、駒王学園の制服を身に纏っていた。

 

「なっ?! ま、雅紀!! お前、何しに来やがった!!」

 

その姿を見て幹部・明智も驚きながらも息子に詰め寄っていた。

 

「何って…組長と幹部が集まって何か話をするっていうから、ちょっと興味が湧いてね。お邪魔しようかなって」

 

「お前にはまだ関係ない! さっさと家に戻れ!!」

 

「へぇ~。そんな大切な話なんだ?」

 

「いいからさっさと戻れ!!」

 

幹部・明智の剣幕に雅紀と呼ばれた青年は怯むことなく…

 

「うるさいなぁ…『アリエス』」

 

ズボンのポケットから牡羊座のシンボルと立方体の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のダイヤモンドを携えた白銀色のチェーンブレスレットを取り出していた。

 

「なんだ、そりゃ?」

 

幹部・明智が怪訝そうな表情をすると…

 

カッ!!

 

「うおっ!?」

 

突然、チェーンブレスレットが輝くと、周囲に目映い光を放ち、次の瞬間には…

 

『おう、呼んだか? マスター』

 

白銀の羊が雅紀の横に姿を現していた。

 

「っ!?」

 

その光景に智鶴は息を呑んでいた。

 

「そいつは…蔵にあった羊の置きもんじゃねぇか!?」

 

幹部・明智も驚いたように叫ぶ。

 

「それが置き物じゃなくて、デバイスって代物らしくてね。今はこの俺がその主人って訳さ」

 

『選定条件に合ったからな。だからこそ、俺はマスターに力を貸してる。ま、"ご同類"も近くにいることだし、な』

 

そう言ってアリエスは智鶴の方を見る。

 

「っ」

 

その視線に気づき、智鶴も身構える。

 

「そ、それがどうした!? そんなもん引っ提げったってここに来る必要性はないだろうが!!」

 

他の幹部が根本的なことを言い出す。

 

「そ、そうだ! それにどんな力があろうと、お前がここに来る理由にはならねぇぞ!!」

 

それに触発されるように幹部・明智もそう雅紀に言っていた。

 

「だから~、その子供にも黙ってる事情が知りたいんだって。アリエスを持っている以上、自分の身に何が起こるかわからないしさ…それに、いつまでも隠し通せるとでも?」

 

雅紀は自分の父親である幹部・明智に問うていた。

 

「な、何をだ?」

 

「二学期の頃、変な放送あったよね? 異世界がどうのとか、俺達の身近に悪魔や天使がどうのとか…俺も信じちゃいなかったんだけどさ。アリエスの存在が、ねぇ?」

 

そう言うと、雅紀はアリエスに視線を落とす。

 

『ま、この世界の技術じゃ、俺は作れないからな。その辺は少し話した。悪ぃな』

 

なんとも軽い感じでアリエスは答える。

 

「(くっ…余計なことを…)」

 

幹部・明智を含め、数人の幹部も同じようなことを考えていた。

 

「で、だ。こりゃ組長も含め、幹部もなんか知ってるな、と思って今日の総会に乗り込んできたわけだよ」

 

雅紀は堂々とした態度で言ってのける。

 

「それで? どんな話をしてたのさ?」

 

そして、不遜にもそんなことを聞いてくる。

 

「それは…」

 

幹部達が口を噤む中…

 

「はぁ…まぁ、いいじゃろう。デバイス、とやらも儂にはよくわからんが…裏事情を知るには十分な理由じゃ」

 

組長から鶴の一声があがる。

 

「ありがとうございます、組長」

 

雅紀は組長に頭を下げる。

 

「しかし、頭。本当にいいんですかい?」

 

「どうせ、いずれは知ることになるんじゃ。それが早いか遅いかの違いじゃよ」

 

「はぁ…頭がいいのなら、俺達も文句はありゃしませんが…」

 

組長の言葉というのもあって幹部達もそれ以上のことは言わなかった。

 

「さて…予想外にも明智の所の倅が来たが、特に変わりはせん。さっきの話は赤龍帝に関するところが大きかったしの」

 

「赤龍帝?」

 

組長の言葉に雅紀は首を傾げる。

 

「お前とお嬢が通ってる駒王学園の兵藤 一誠とかいうガキだよ」

 

「っ! あの変態三人組の兵藤がなんだって話題に?」

 

「赤龍帝。赤い龍をその身に宿した稀な存在だ。ま、今年の春ぐらいに覚醒したって話だが…それも悪魔に転生したって話だしな…」

 

「あ、悪魔に転生? わ、訳が分からない…」

 

当然ながら雅紀は話題に頭がついていっていなかった。

 

「ふんっ…詳しいことは父親から聞くのじゃな。さて…」

 

そう言い捨て組長は"あのこと"を切り出すことにした。

 

「皆、これより儂はこの組を次世代の若者に託そうと思うておる」

 

その組長の言葉に幹部達が沸く。

 

「おぉ! では、遂に後継者を!」

 

「いったい誰を頭の後継者にするんで?!」

 

幹部達の視線を一身に受け、組長は…

 

「そう急くでない。儂の後継者は…」

 

誰もが固唾を飲む中…

 

「(ふっ…そんなの分かり切ってる。あの人に相応しいのは、俺だけだ。俺は幹部だけに留まることはない。行く行くは組の未来を…)」

 

雅紀だけはそのように考えていた。

 

しかし…

 

「"紅神 忍"じゃ」

 

組長は忍の名を挙げていた。

 

「なっ!?」

 

「な、なんと…!?」

 

「は…?」

 

その言葉に幹部の誰もが驚き、雅紀も信じられないような顔をする。

 

「奴はクリスマスの前…智鶴と、友人達と共に儂の元へ来た。理由は…クレーリア・ベリアル嬢の件だ」

 

『ッ!!!』

 

その名を聞き、幹部達にも緊張が走る。

 

「(クレーリア・ベリアル…?)」

 

唯一わからない雅紀は再び首を傾げる。

 

「何故、今になってあのことを!」

 

「初代大王が、話したそうじゃ。そして、それに付随した智鶴の、両親のことも儂が話した」

 

幹部の一人が激昂する中、組長が真実を智鶴に明かしたことを言う。

 

「お、お嬢…!」

 

「これは、その…!」

 

「俺達は…!」

 

そして、数名の幹部は取り繕うように智鶴に弁解しようとするが…

 

「いいんです。今は…真相が知れただけでも…」

 

智鶴は智鶴で懸命に堪えていた。

 

「お、お嬢…」

 

「智鶴さん…」

 

幹部と雅紀はそんな智鶴を見てなんと声を掛けたものかと悩む。

 

「そこでじゃ…奴は、智鶴を娶ると言い、そして組の全権を譲るように言ってきおった」

 

そんな重たい空気の中でも組長は言葉を続ける。

 

「なんて大それたことを…!」

 

「いや、しかし…頭に真っ向から言葉を向けるとは…」

 

忍の行いを幹部達はそれぞれの見解を示していた。

 

「いずれにせよ、後継者は決めなければならん。だったら、儂は奴の眼を信じようと思う。覚悟を持った、あの眼を…」

 

クリスマス前の出来事で見た忍の眼を思い出すように組長は言葉を漏らす。

 

『…………………』

 

幹部達がその言葉で静まる中…

 

「その後継者様は何処にいるんです? この場にはいないじゃないですか?」

 

雅紀が声を発する。

 

「いない人間を後継者に、というのは現実的じゃありませんね」

 

この場にいない忍を…いや、遠回しに組長を非難するかのような物言いである。

 

「雅紀! テメェは黙ってろ!」

 

その尊大な態度に父親である幹部・明智が怒鳴る。

 

「嫌だね。こればかりは俺も譲れない。あんなどこの骨ともわからん奴に組の未来を預けるなんて…正気とは思えませんよ」

 

「なっ!?」

 

雅紀の言葉に誰もが驚く。

 

「テメェ、何様のつもりだ!?」

「明智の倅だからって容赦しねぇぞ!!」

「今すぐに頭に詫び入れろや!!」

 

雅紀に対して集中砲火である。

 

「うるさいよ。アリエス、邪魔者を閉じ込めろ」

 

『あいよ。キュービック、発動』

 

キィンッ!!

 

その瞬間、幹部達は立方体型の結界に囚われてしまう。

 

「------!!」

 

しかも結界内部からの声は聞こえない。

 

「これで少しは静かになるな。さて、組長」

 

雅紀はアリエスを従え、組長の前まで歩み寄る。

 

「雅紀君! それ以上、お祖父様に近付かないで!」

 

その雅紀の前に智鶴が立ちはだかる。

 

「未来のフィアンセにその態度はないでしょう?」

 

「何を、言ってるの…?」

 

雅紀の言葉の意味が分からず、智鶴も困惑する。

 

「組長。あいつが智鶴さんを娶るだって? 冗談はやめてくださいよ。智鶴さんは俺と結ばれるべきだ!」

 

そう言う雅紀の眼は狂気を孕んでおり、危険な色をしていた。

 

「…………………」

 

「ま、雅紀君…?」

 

組長は静かに雅紀の眼を見、智鶴は困惑の色を濃くしていた。

 

「だってそうでしょう? あいつは部外者だ! ただただ智鶴さんに気に入られただけの部外者に過ぎない! その点で言えば、俺は智鶴さんと同い年で組の関係者だ! あんな奴よりも俺の方がよっぽど彼女に相応しい!!」

 

狂気に支配された雅紀は忍よりも自分が智鶴に相応しいと言う。

 

「しぃ君のことを悪く言わないで! どうしたの、雅紀君? 今のあなた、おかしいわよ?」

 

普通じゃない様子の雅紀を心配するものの…

 

「しぃ君? 結局はあいつが優先ですか。ですが、俺は事実を言ったまで! 本来ならあいつがここにいること自体おかしいんですよ!!」

 

「っ!?」

 

「元側近の狼牙、でしたっけ? あいつが勝手にいなくなって置いていった孤児でしょうが! それを明幸が保護して育ててやっただけでしょう!? それなのに、組の未来を担う後継者? 思い上がりも甚だしい!!」

 

雅紀の言葉はある意味で正しいのかもしれない。

 

忍は…組長の側近として付いていたものの、流れ者であることには変わりない狼牙の息子で、組には本来関係ない出自の人物だ。

しかも狼牙と雪音が他の幹部によって別次元に跳ばされた際に難を逃れた…孤児である。

理由はどうあれ、それを明幸が保護して今まで育ててきた。

 

見方によれば雅紀のような考えを持つのも仕方のないことかもしれない。

 

「ふむ…一理あるのぉ」

 

冷静な組長は雅紀の話を聞き、そう漏らす。

 

「お祖父様!?」

 

「流石は組長。慧眼でいらっしゃる」

 

その言葉に智鶴は驚き、雅紀は笑みを浮かべる。

 

「智鶴。明智の倅が言うように、奴は本来ならこの家を出てもおかしくはない人間じゃぞ? それを繋ぎ止めているのは…お前じゃ」

 

「それは…ですが!」

 

「お前が突き放せば、奴もここにいる理由は無くなる。それに奴には他にも女がおるのじゃろう? 何を心配することがある?」

 

「うぅ…」

 

祖父の言葉に何も言い返せない智鶴。

 

「では、組長。あなたの後継者には自分を…」

 

雅紀がダメ押しとばかりに自分を推挙すると…

 

「それはならん」

 

組長は一蹴していた。

 

「なっ…!?」

 

「お主の眼の狂気…それはいずれ組を終わらせる危険なものじゃ。そのような奴を後継者に選ぶほど儂も耄碌したつもりはない…!」

 

そう言って雅紀に鋭い眼光を向ける組長。

 

「ぐっ…!」

 

それに怯んで一歩だけ下がった時だった。

 

キィィンッ!!!

 

組長と雅紀の間…いや、もっと正確に言うなら智鶴の目の前に見たことのない魔法陣が突然現れる。

 

「な、なんだ!?」

 

「これは…?」

 

「むぅ…?」

 

三者三様の反応を示していると、魔法陣から徐々に物体が浮かび上がっていき、次第にそれは人の形を成していく。

その数は…五つ。

そう…時渡りを行った人数と同じである。

 

パァンッ!!

 

そして、魔法陣から放たれる光が一際強く弾けた時…

 

「ぁ…」

 

智鶴はその人影を見て涙を零す。

 

魔法陣の光が消えると、そこには…

 

「…………………」

 

神妙な面持ちをした…忍が立っていた。

 

「しぃく…」

 

智鶴が抱き着こうとしたが…

 

スパンッ!!!

 

それよりも早く忍を叩く者がいた。

 

「え…?」

 

それに驚き、智鶴も動きを止める。

 

「今すぐあたしを鬼神界に帰せ! お祖父ちゃんや武天十鬼を…皆を助けに行かせろッ!!!」

 

忍の胸倉を両手で持ち上げ、正に鬼気迫る表情で涙をボロボロと流しながら訴える桃鬼である。

 

「それは…出来ない。俺にも男同士の約束がある」

 

「っ……ふざけんなぁっ!!!」

 

ズゴンッ!!

バコンッ!!

 

忍の言葉に激昂した桃鬼は右手を離し、拳を作って忍の顔を殴り続ける。

 

「この恩知らず!! なんで…なんで皆を助けに行かないんだよ!! なんで…なんでぇッ!!!」

 

「…………………」

 

「なんとか言いやがれぇぇぇぇ!!!」

 

妖力の籠った最大の一撃を忍に与えようとした時…

 

「……桃鬼さん! もうやめて!」

 

「…………………」

 

領明とシンシアの2人掛かりで桃鬼の右腕にしがみついて動きを止める。

 

「邪魔するな!!」

 

2人を振りほどこうと力を込めようとしたが…

 

「……忍さんだって、本当は辛いんです! 感情を押し殺して…桃鬼さんの怒りを受け止めてるんです!」

 

「それがなんだってんだ! こいつは恩を仇で返すような…!!」

 

「……違うんです…忍さんだって、恩師を目の前で失って本当は悲しいはずなんです。悔しいはずなんです…だって、忍さんの手…」

 

「手? 手がなん………っ!!?」

 

見ると、忍の右手からは(おびただ)しい量の血が流れていた。

握った拳の爪が手に深く食い込み、とめどなく血を流していたのだ。

 

「あ、アンタ…」

 

「…………………」

 

震える声を漏らす桃鬼に忍は何も答えず、周りを見渡す。

 

「総会の途中でしたか…当主、このような様で申し訳ありません。紅神 忍。ただいま帰還しました」

 

状況を把握したのか、神妙な面持ちから柔らかな笑みを浮かべると、忍は組長に謝罪と帰還の報告をしていた。

 

「う、うむ…よく戻った…(聖夜前に来た時よりも雰囲気がガラリと変わっておる。また、成長してきおったか…)」

 

その忍を見て組長もどこか可笑しそうに笑みを浮かべていた。

 

「智鶴。ただいま」

 

そして、忍は最愛の人に帰ってきたことを伝える。

 

「しぃ、君…」

 

智鶴はよろよろと忍に近寄り…

 

「お帰り、なさい…」

 

涙を流しながらも笑みを浮かべて忍の帰還を喜んだ。

 

「それで…この状況は? なんで、雅紀さんが牡羊座を持ってこの場に?」

 

「それはこっちの台詞だよ! どうしてこんなに血を流して……何があったの?」

 

それは…とてもじゃないが、一晩では話せる内容ではなかった。

 

『へぇ…スコルピアだけじゃなく、キャンサーにアクエリアス、ピスケスまでいるとはな』

 

『アリエス! 君も近くにいたのか!?』

 

アリエスの存在に驚くアクエリアス。

 

「貴様さえ…貴様さえ、いなければ…!!」

 

雅紀の怨嗟の声は忍の耳にも届く。

 

「場が混沌としてきた。明智の倅よ、今日の総会はこれまでじゃ。さっさと皆を解放せよ」

 

「は、い……ッ!」

 

組長の言葉に従いつつも雅紀は忍を睨んでいた。

 

 

 

こうして年末の総会は幕を閉じてしまった。

 

話の続きは翌日、年が明けてから改めて行うことになった。

そこで何が起きるのかは…誰にも予想が出来ないだろう。

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