魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百十話『新たな道を…』

大晦日の夜に行われた明幸組の総会。

しかし、事態は思わぬ方向へと流れていく。

 

明幸組の幹部の一人、明智の一人息子『明智 雅紀』が牡羊座のエクセンシェダーデバイス『キュービクル・アリエス』を持って総会に乱入。

過去の世界から忍達の帰還。

 

事態が事態だけに大晦日の総会はお開きとなり、翌日の元旦へと持ち越されていた。

 

………

……

 

大晦日の総会が終わり、幹部達も解散した直後。

 

「さて、と…」

 

大広間には智鶴と組長、帰還した忍達が残っていた。

ちなみに雅紀は父親である幹部に首根っこを掴まれて引きずられるようにしてこの場を去っていた。

 

「しぃ君…」

 

心配そうな表情で忍を見つめる智鶴。

それ以上に智鶴はさっきの雅紀の言葉で動揺しているので、今すぐにでも(すが)りたいのだが、忍が想像以上の体験をしてきたのだろうと察して懸命に堪えていた。

 

「智鶴…」

 

そんな様子に気付いたのか、桃鬼の手から抜け出すと忍の方から智鶴を抱き寄せる。

 

「ぁ…」

 

智鶴からしたら、たった六日しか会ってないだけなのに、忍はまた一回り大きくなってきたような…そんな感覚を覚えていた。

 

「無理はしないでほしい…君は、俺の大切な人なんだから…」

 

「しぃ君……しぃ君…!」

 

ポロポロと涙を流しながら智鶴も忍の胸に顔を埋める。

 

「帰って、これたんだな…」

 

忍はその実感がやっと持てたようだった。

 

「まったく…保護者の前で堂々と…」

 

組長は何とも変な気分だったという。

 

「ふぅ…儂はもう休む。小僧、明日その身に何があったか説明せよ」

 

「はい、わかっています」

 

「うむ」

 

そう言い残して組長も大広間から姿を消す。

残ったのは忍達だけとなった。

 

「………ッ!」

 

桃鬼はこのやり切れない気持ちをどこにぶつければいいのか、わからなかった。

 

「……氷鬼さん…水鬼さん…」

 

領明もまたお世話になっていた氷鬼や水鬼の死にどう反応していいのか、わからなかった。

 

「…………………」

 

シンシアもまた…一時とは言え、親しくなった人達との別れをどう受け止めていいのか、わからずにいた。

 

「して、主よ。ここが未来なのか?」

 

そんな中、七海が忍に尋ねる。

 

「未来…?」

 

智鶴が七海の言葉に疑問符を浮かべていると…

 

「あぁ、そうだ。俺や領明、シンシアが過ごしてきた…未来の地球、人間界だ」

 

忍は七海の問いにそう答えていた。

 

「待って、しぃ君。何のお話をしてるの? それにこの娘達って…」

 

『……キャンサーとピスケスとは、敵対してたはず…』

 

智鶴が堪らず会話に割り込み、スコルピアもまた警戒の色を濃くしていた。

 

「それと…そっちの2人は、誰なの?」

 

智鶴の視線が桃鬼と七海を捉える。

 

「……眷属の皆は集まってるか?」

 

一拍置いてから忍は智鶴に尋ねる。

 

「え? えぇ…一応、居間の方に皆いるよ。雲雀さんや緋鞠ちゃんも一緒にいてもらってるけど…」

 

「そうか。なら、そこで話すよ。少し…長くなるけど…」

 

そう言って忍は懐かしい匂いを感じながら皆がいる居間へと歩き出す。

 

………

……

 

そして、忍が居間へと入ると…

 

『忍(君)(さん)(様)!?』

 

忍の登場に誰もが驚いていた。

 

「皆、"久し振り"だな」

 

忍の何気ない一言に…

 

「久し振りって…忍君がいなくなってまだ一週間も経ってないよ?」

 

「大体、約六日くらいかしらね?」

 

フェイトと暗七がそのように言う。

 

「六日、か。こっちではそれだけしか経ってなかったのか…」

 

それはまるで、自分達はそれ以上の日数を過ごしてきたかのような言い方だった。

 

「? 忍様? それは一体どういう…?」

 

エルメスが忍の言葉を問おうとした時、居間の入り口から領明とシンシアが姿を現す。

 

「お前らは…!」

 

「なんで、ここに…!」

 

クリスと朝陽がそれぞれイチイバルとセイバーを起動させようとしたが…

 

「いいんだ。彼女達はもう敵じゃない…」

 

その間に割り込むように忍が立ち塞がる。

 

「はぁ!? お前、正気かよ!!」

 

「アンタの命を狙ってた奴等よ? それでも引かない気?」

 

クリスは言葉は強めだが、イチイバルを展開するのを躊躇した。

しかし、朝陽は一切の躊躇を見せずにセイバーを起動させ、その切っ先を忍の喉元に向けていた。

 

「あぁ…それでも、だ…」

 

そう言って朝陽の眼を見る忍。

その眼には…反論は許さない、という強い意志が宿っているようだった。

 

「……っ」

 

その眼を見て朝陽も珍しく怯んで剣先を鈍らせる。

 

「(あの朝陽さんが…)」

 

「(剣先を鈍らせた…?)」

 

その様子を見ていた他の眷属達も驚いていた。

 

朝陽はこの眷属の中でも結構強い部類に入り、意志も強くちょっとやそっとじゃ揺らがない。

それなのに、忍は視線だけで朝陽の剣先を鈍らせたのだ。

彼女達からしたら、この短期間に何が起きたのか、詳しく聞きたいところであったが、それとは別にやはり領明とシンシアにはあまりいい感情が持てなかった。

どちらも忍の命を狙った…いや、シンシアは今も狙ってるかもしれないというのに、いい感情を持てるはずがなかった。

 

そのことを忍も承知してるのか…

 

「皆の心配もわかる。だが、ここは俺を信じてくれないか? これでも領明やシンシア達とは"一月以上、一緒に暮らしてきた"からな」

 

そう言ってこの場を収束させようとするも…

 

「「「一月以上!?」」」

 

良識あるシアを始めとしたフェイトやエルメスが驚きの声を上げる。

 

しかし…

 

「一緒に暮らしただぁ!!?」

「どういうことさ!?」

「なんて、羨まし…じゃなくて、破廉恥な…!」

 

むしろ、後半の"一緒に暮らしていた"発言に食いつく眷属の方が多かった。

 

「あ、あれ?」

 

「私達、間違ってたかな?」

 

「ど、どうなのでしょう…?」

 

他の眷属の反応を見て若干自分達がおかしいのではと思い始める3人だった。

 

「ま、間違、って…ない、と…思い、ます…」

 

そんな3人を同じく良識的な方の萌莉がフォローする。

 

「つまり、私達にとって六日でも、あなた方にとっては一月以上の時が流れていたと?」

 

それに見かねて生真面目を地で行く雲雀が会話の流れを強引に持っていこうとした。

 

「えぇ、そうです。しかも、俺達は…過去の世界に飛ばされましたから…」

 

雲雀の問いに忍は答えつつも、その事実を伝える。

 

「過去の世界ぃ!?」

 

緋鞠が素っ頓狂な声を上げる。

 

「あぁ…遥かな過去…『鬼神界』と呼ばれる人間界に隣接した次元世界に、俺達は飛ばされたんだ」

 

「鬼神界…聞かない世界ですね」

 

雲雀を始めとした次元世界にそれとなく知識を持つ者は皆一様に首を傾げていた。

 

「鬼神界は…俺達があの世界を発った後に、絶魔によって滅ぼされたからな…」

 

ギリッという歯軋りの音をさせながら忍は答えていた。

眷属の前だからか、その表情は悔しさに満ちており、再び右手を強く握り締めて血を流していた。

 

「っ!? 忍様、血が…」

 

エルメスが忍の手を手当てしようとするが…

 

「俺は…そこで出来た恩師を、親しくなった人達を…見殺しにしてきたんだ…!!」

 

今まで抑えてきた感情を吐露する。

 

「未来の知識を持つ者が過去に干渉したら未来が分岐し、帰ってこれなくなる可能性もあった。理屈ではわかってる。だが、俺は…本当は見殺しに何かしたくなかった!!!」

 

「っ!?」

 

そんな忍の声を聞き、居間の入り口の方から息を呑む人の気配がする。

 

「本当ならあの場に駆け付けたかった! 男同士の約束を蹴ってでも! だが、それでは俺達は…帰ってこれなかった可能性だってあるのはわかってた!! それでも、俺は…皇鬼さんとの約束を優先したんだ!! 感情を殺して、どんなに辛くても、あの人達の覚悟を見届けて…!!!」

 

ボロボロと大粒の涙を流しながら忍はその場で膝を着いてしまう。

 

『…………………』

 

忍がここまで感情を露にするのが珍しく、そして今まで見たこともなかった姿に眷属の誰もが押し黙ってしまう。

 

「くっ…ぅぅっ…!!」

 

居間の入り口の方でも何やら泣き声が聞こえてきた。

 

………

……

 

「…………………」

 

ひとしきり涙を流した後…

 

「すまないな。みっともない姿を曝して…」

 

そう言って忍はいつもの様子に戻っていた。

 

「そういえば…忍君。なんで、そんなに刀を持ってるの…?」

 

「あと、結構髪が伸びてるよね」

 

「それに…力の流れも洗練されてるような…?」

 

眷属達は今の忍の姿や雰囲気を観察し、それぞれ思ったことを口にしていた。

 

「あと、そっちの気配…2人かしら? その正体も教えてちょうだい」

 

居間の入り口の方で姿がちょうど見えない位置にいるのもあり、気配だけで察知した朝陽が2人の正体を知りたがる。

 

「あぁ、それも含めて今から説明する。桃鬼、七海もこっちに来てくれ」

 

「「…………………」」

 

忍に言われるまま目元を少し腫らした桃鬼と、周りの景色が物珍しいらしい七海が居間に入ってくる。

 

「また女かよ!!」

 

その姿にクリスが叫ぶが…

 

「角?」

 

ラトが桃鬼の頭に生えた角に気付き…

 

「それにこの波動…そちらは龍種、かしらね?」

 

カーネリアも七海から発せられる龍気を感じ取っていた。

 

「じゃあ、改めて紹介する」

 

忍は眷属の前で領明達の紹介することにした。

 

「まずは…紫牙 領明。俺の、"父方の従姉妹"だ」

 

「………………」

 

領明は居心地が悪そうでも忍の隣に移動してお辞儀する。

 

「父方の従姉妹…」

 

「領明は…邪狼時代の狼夜伯父さんが…あの魔女、翠蓮さんの無理矢理犯して生まれた子なんだ」

 

『なっ…』

 

その言葉にその場の女性陣(しかいないが)は言葉を失う。

 

「あの戦争屋…そんなことまでしてたの!?」

 

「……最低」

 

そして、眷属達から嫌悪感が溢れ出る。

 

「その、翠蓮さんという方は…?」

 

帰還した中に翠蓮の姿がなかったことに気付いたフェイトが尋ねる。

 

「過去の世界で…亡くなったよ。遺体は骨ごと俺が遺灰に変えて領明に託した」

 

「そう、なんだ…」

 

それを聞き、場の空気が重くなる。

 

「だからと言って、邪狼のやったことは許されないよ!」

 

「そうですね。女性の尊厳を踏みにじったその行為は許容出来るものではありません」

 

そんな中、ラトとラピスが未だ嫌悪感バリバリと放ちながら言葉を発する。

 

「だが、伯母さん…翠蓮さんは最期には伯父さんのことを想って逝ったんだ。死後の世界で会えることを…願いながら…」

 

「し、信じられねぇ…」

 

その言葉にクリスが目を丸くして疑う。

 

「だからこそ…俺はあの2人が会えるように、遺灰を同じところに埋葬してやりたいと思ってる」

 

忍の部屋にある狼夜の遺灰と、領明が持っている翠蓮の遺灰を同じ場所へと埋葬することを忍は決めていた。

 

「それは…」

 

眷属達がお互いの顔を見合わせていると…

 

「王が決めたことだし、別にいいんじゃないの?」

 

珍しくカーネリアが忍の意見を後押しする。

 

「カーネリアさん…」

 

「アンタが忍の言葉を肯定するなんて珍しい」

 

フェイトと暗七がカーネリアの発言に驚く。

 

「そうかしら?」

 

飄々としながらもその視線は忍に注がれていた。

 

「次は…桃鬼。俺達が飛ばされた鬼神界…その皇であった皇鬼さんの、孫娘だ」

 

「ふんっ…」

 

忍の紹介に対して桃鬼はそっぽを向くだけだった。

 

「彼女は絶魔に両親を殺されててな。そのせいか、復讐に染まっていたのを俺が見かねて力で捩じ伏せた。その後に改心したかはともかくとして…」

 

「うるさい。アンタの勝手なお節介でしょうが…」

 

そっぽを向いたまま桃鬼が棘のある言葉を投げつける。

 

「その、スメラギさんって…?」

 

ラトが挙手して尋ねる。

 

「皇鬼さん…俺の鬼神界での恩師だ。覇王でもあり賢王でもあった。本当に破天荒な人だったが、その実力は…おそらく神にも匹敵しただろうな…」

 

忍の言葉に…

 

「神クラス…!?」

 

「へぇ…」

 

「まさか…」

 

暗七、カーネリア、雲雀が反応する。

 

「だが、実際は…絶魔の神に重傷を負わされていた。だが、あの後…あの人は最後の最期まで抵抗を続けたんだと思う。それが…あの人なりの意地の通し方だろうからな…一矢報いずに死んでなどいないさ」

 

「当たり前じゃない! お祖父ちゃんは…あたしの自慢の…鬼神界の誇る最強の皇なんだから…!」

 

忍の言葉に桃鬼は…涙ながらに肯定する。

 

「その最強でも絶魔の神は倒せなかった。それが事実なのでしょう?」

 

しかし、冷静な雲雀からの一言に…

 

「えぇ、残念ながらそれが事実です。だからこそ、俺達は未来に逃げてきた、とも言えますが…」

 

「くっ…」

 

忍は雲雀の一言に怒るでもなく冷静に事実を受け止めていた。

桃鬼の方は悔しさからか、歯を食いしばってしまったが…。

 

「ですが、鬼神界での一月以上の生活は全く無意味ではなかった。そう感じています」

 

「………………」

 

雲雀に忍のその言葉を否定する材料は持ち得なかった。

何よりも…今の忍から感じる力強い波動…それが忍の言葉を物語っているようにも感じたから、雲雀もそれ以上のことは言わなかった。

 

「次に、七海だ」

 

「七煌龍が化身。主から頂いた名を七海という。以後よろしく頼む」

 

領明と桃鬼とは違い、堂々とした名乗りを挙げる。

 

「七煌龍…?」

 

今度は暗七が首を傾げる。

 

「俺達が飛ばされた鬼神界よりも過去に存在していた7体の龍のことを指す。簡単に言えば、龍同士の同盟みたいなもんだな。鬼神界の時点では既に肉体は滅び、魂の欠片が結晶体となって遺ってたくらいだったんだが……七つの欠片が一つになったことで顕現したのが七海なんだ」

 

忍が七煌龍と七海について簡潔に説明する。

 

「うむ。残留思念であった我等七煌龍の総意により、今は主の力となることを決めている」

 

「まぁ、感覚としては眷属というよりも使い魔に近いけどな…」

 

そう言って忍は最後に紹介する人間を見る。

 

「…………………」

 

そこには相変わらず無表情のシンシアが立っていた。

 

「ありがとな。逃げないでくれて」

 

忍はシンシアが逃げなかったことに感謝していた。

 

「………………ぁ…」

 

お礼を言われ、どう返していいのかわからずにいたが…

 

「…………………別に…」

 

それだけ言葉を発していた。

 

「最後に、魚座の暗殺者こと、シンシアだ。ま、名前以外、俺もわかってないんだが…」

 

忍がそう言ってシンシアを紹介すると…

 

「………………シンシア…"ルミナス"…」

 

シンシアがおもむろに口を開き、その単語を発する。

 

「え…?」

 

領明も驚いたようにシンシアを見る。

 

「……それが、フルネーム…なのか?」

 

それは忍も同様だったようで、そう聞き返していた。

 

「………………ん…」

 

シンシアはそれにこくりと小さく頷く。

 

「そうか。『シンシア・ルミナス』…良い名前じゃないか」

 

「………………ありがと…」

 

暗殺者として名前を明かすことなく、身近な存在もいなかったために名前を褒められたことなんてなかったシンシアだったが、お礼の言葉は出てきた。

 

「領明と桃鬼は伯母さんや皇鬼さんとの約束もあるから保護することにしてるんだが…シンシアは、どうしたい?」

 

シンシアの今の気持ちを知りたくて、忍は少し意地悪な質問をする。

 

「………………私は…」

 

そのシンシアの心も少し揺れていた。

 

この一月以上の鬼神界での生活で、忍との力量差がついてしまったと判断している。

それは暗殺に成功する確率が低くなるのを意味する。

そして、何よりもシンシア自身にそんな自覚はなくとも、今の…忍や領明と共にいる生活を心のどこか居心地が良いと感じ始めていることだ。

暗殺者として感情を殺して生きてきた彼女にとって、これはある種の致命的な心の揺れとも言える。

 

「………………私は…」

 

そうやって思い悩むシンシアの心の揺れを知ったのか、忍は…

 

「なら…明日の総会が終わるまでに決めてくれて構わない。逃げてもいいし、残ってもいい。その間、シンシアは客人として扱う。領明の、大切な友人だしな…」

 

忍はそんな決断を下していた。

 

「いいのかよ! こいつ、またお前を狙うかもしれないんだぞ!?」

 

「そうだよ! シノブが危険な目に遭うのは反対!」

 

「……流石に不用心…」

 

クリス、ラト、シルフィーが眷属の総意を代弁するかのように反対する。

 

その懸念は正しい。

忍はシンシアに対し、今の心境ではアクションを起こせないと鬼神界で告げている。

それに付け込み、シンシアが懐まで入り込んでその刃を突き立てるなら…忍と言えど危ないことには変わりはない。

 

しかし…

 

「いいんだ。それはシンシアが決めることだからな」

 

今の忍には"きっと大丈夫だ"という確信があった。

 

「(鬼神界とやらで過ごした一件で坊やは…更なる成長をしたのね。それが言動の節々から見て取れる…そして、それは…)」

 

忍の言動を観察し、カーネリアは忍の在り方を見極めていた。

 

「流石に質問攻めは疲れるな。明日のこともあるし、俺は休ませてもらうよ。智鶴、4人に空き部屋を手配してくれないかな?」

 

「え…えぇ、わかったわ」

 

今の忍の姿を見て直感的に何かを察したのか、智鶴も生返事をしていた。

 

「じゃあ、皆…おやすみ。それと、明けましておめでとう」

 

時計を見れば既に大晦日は過ぎ、新たな年へと移行していた。

 

………

……

 

元旦。

 

オカ研メンバーは伏見稲荷大社へと初詣へと出掛けていた。

 

アザゼルはトップ会談とかで席を外しているが、場は混沌と化しているそうだ。

 

そして、午前中から明幸の屋敷の大広間では昨夜の総会の続きが行われていた。

今度は忍や雅紀も最初から参加している。

そこで忍は自らの身に起きたことと、今は滅びて名前も残らなかった過去の鬼神界での出来事を話した。

それと同時に絶魔の危険性も…。

 

「……以上が、俺の身に起きた出来事と、絶魔を危険視する理由です」

 

その堂々とした発言の仕方に幹部達は…

 

「(まさか、ここまで化けているとは…)」

「(あの気弱な小僧が…信じられん…)」

 

忍の変貌ぶりに驚いていた。

 

「(紅神ぃ…!!)」

 

忍の態度を見て雅紀が怨嗟の眼差しを送っている。

 

「ふむ…理由はどうあれ、その絶魔とやらは世界を滅ぼすだけの力がある、か…」

 

「はい。実際にその瞬間を見たわけではありませんが、鬼神界という名が人間界から消えてるのがその証かと…」

 

「ふむ…」

 

組長は忍の話を聞き、目を細める。

 

「時に…紅神と明智の倅達よ」

 

「はい」

 

「は、はい」

 

組長は忍と雅紀に…

 

「お主達は、この組をどう発展させていくつもりじゃ?」

 

そのような問いを掛ける。

 

「それは、今まで通りこの地域に密着しつつも人々との関係を維持していく感じですか?」

 

そんな質問を質問で返すような感じの雅紀に対し…

 

「人だけではなく他種族との交流にも重きを置き、表事情や裏事情を逐一把握。その上で良好な関係を築きます。それが叶わなかった場合は、武力を用いた対話を提案させてもらいます」

 

忍はそのような解答をしていた。

 

『ッ!!?』

 

忍の迷いなき答えに幹部達はまたも驚く。

 

「ほぉ、武力を用いた対話、か…」

 

「えぇ。言語だけが対話の道ではありません。力でものを言う輩も少なからずいます。それを武力を以って対話という枠に収めます」

 

「馬鹿か! 負けたらどうする気だ?!」

 

忍の言葉にカッとなった幹部の一人がそう言うと…

 

「負けなければいいんですよ。もちろん、勝つ必要もありませんけど…」

 

そう返していた。

 

「負けることなく、相手に俺達の力を認めさせ、矛を引かせる。それも負けたことにはなりません。勝てば、それはそれで遺恨が残りますしね」

 

「しかし、相手が勝敗に拘ってきたらどうする?」

 

「その時は勝たせてもらいます。勝ちを譲るなんて失礼なことはしませんよ。まぁ、全力を出して負けたら…そこは諦めてください」

 

そんなことを平然と言ってのける忍に…

 

「ククク…」

 

組長は可笑しそうに笑いだす。

 

「か、頭…?」

 

幹部の一人が組長に声を掛ける。

 

「いや、あの小僧がそこまで考えているとは思わなんでな……つい、笑ってしまったわい」

 

そう言ってから…

 

「紅神の倅よ」

 

忍を呼ぶ。

 

「はい」

 

忍も姿勢を正して組長に向き直る。

 

「お前は…孫を幸せに出来るか?」

 

「します。いえ、してみせます」

 

その問いに忍はハッキリと答える。

 

「………………」

 

「………………」

 

その答えを聞き、組長は忍の眼を見る。

忍もまた眼を逸らさない。

 

「………いいじゃろう。孫のことはお前に任せ、組の未来も預ける」

 

「では…」

 

「うむ。これより紅神 忍を儂の後継者…次期当主として迎え入れよう」

 

組長の言葉にザワザワと幹部達も驚く中…

 

「ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる忍の姿があった。

 

「………………ッッ!!」

 

一方の雅紀は狂気を孕んだ怨嗟の眼差しを忍に送っていた。

不満そうではあるが、流石に組長の決定が下った後に騒ぐほど愚かではないようだ。

しかし、この狂気は危険である。

その視線に気付きつつ忍もその警戒度を引き上げるのだった。

 

………

……

 

そうして総会は程なくして終わり、新年の挨拶と共に幹部達は帰路へと着く。

その中には当然、雅紀もいたが…挨拶をしただけで即刻帰ってしまった。

本人は無自覚だろうが、憎悪のオーラをその身に宿して…。

総会が終わった後、組長もまた離れに戻っていった。

 

屋敷に残った忍と智鶴は眷属達の元へと行き、忍が正式に明幸組の次期当主になったことを話した。

 

「そういうわけで無事、後継者の座につくことが出来た」

 

そう言う忍だったが…

 

『…………………』

 

眷属達の反応は…嬉しさ半分、複雑半分といった面持ちだった。

 

「(まぁ、そうなるよな…)」

 

忍も何となくわかっていた反応だった。

 

これは実質、智鶴とくっついた宣言にも等しい。

忍も眷属の皆が少なからず自分を慕ってきてるのを知ってるし、それにも出来るだけ応えようとしてきた。

しかし、此度の件…明幸組の次期当主の座についたことで智鶴との関係が明確化してしまった。

その明確化した関係を…今度は眷属達にもしなくてはならないのだ。

 

「(とは言え…どうしたものかな…)」

 

序列を付けるなんてことはしたくない忍は盛大に悩んでいた。

 

すると…

 

「…………………」

 

黒いローブを纏ったシンシアが姿を現す。

 

「逃げなかったのか?」

 

それを見て忍が尋ねると…

 

「………………依頼放棄…と、見なされたみたい…」

 

そう答えていた。

 

要するに、シンシアの腕は確かで今まで仕事も早かったのが災いしたのか、時間を掛け過ぎた(と思われたらしい)ために依頼放棄と見なされて、忍への暗殺依頼が白紙になったらしい。

それを今朝方、依頼主に確認をしたところによるとそういうことになっていたらしい。

 

「そうか。ならちょうどいいかもな」

 

「?」

 

忍の言葉に首を傾げるシンシアに…

 

「これをお前に託す」

 

そう言って取り出したのは……眷属の絵札『暗殺者』だった。

 

「それと、雲雀さんと緋鞠にも…」

 

さらに雲雀には『剣の騎士』、緋鞠には『弓の騎士』の絵札をそれぞれ渡していた。

 

「領明にはこれだ」

 

そして、眷属に混じってた領明にも『魔術師』の絵札を渡していた。

 

「おいおい…敵だった奴を眷属にする気かよ?!」

 

クリスの批判的な言葉に…

 

「そのつもりだ。絵札の効果が未だわからない状況だが、戦力の補強はしておきたい。何より…彼女達もまた守りたい対象なんでね」

 

忍はそう返していた。

 

「見くびらないでください。私にそのようなものは必要ありません」

 

だが、雲雀は渡された絵札を忍に押し返そうとするが…

 

「この先、何があるかわかりません。少しでも地力を上げるためというだけでも持っててください」

 

忍は逆にそう言って雲雀に渡したままにする。

 

「地力を上げる?」

 

「えぇ…少なくとも眷属の駒でも悪魔の駒と同じ効果があるんです。その絵札をきっと持ってても損はありませんよ?」

 

「………………」

 

それを聞き、少しだけ考える雲雀は…

 

「騙されたと思って持っていますが…逆に私が誰かに渡すことになっても知りませんよ?」

 

そう言って絵札を懐に仕舞う。

 

「雲雀さんがそんなことをしないって信じてますから」

 

「………ふんっ」

 

雲雀は鼻を鳴らして壁に寄り掛かる。

 

「緋鞠、領明、シンシアはどうだ?」

 

視線を雲雀から残りの3人に向ける。

 

「あ、あたしは……まぁ、別に眷属になってもいいけど…」

 

「……私も、これからは忍さんについていくと決めてますから…」

 

「………………眷属になったとして…何があるの?」

 

緋鞠と領明は承諾気味だが、シンシアが質問してくる。

 

「そうだな。もう依頼は受けられなくなるが、代わり毎日領明と一緒にいられるぞ。あと、生活費もお小遣いとして払ってもいいし…ただ、眷属として戦闘にさんかしてもらわないといけないが…」

 

シンシアの問いにそう答えると…

 

「…………………」

 

しばし考え込む仕草をしてから…

 

「…………………ん…」

 

軽く頷いていた。

 

「そうか。ありがとう」

 

それを肯定と取った忍がお礼を言うと…

 

トクン…(×3)

 

それぞれの絵札が持ち主の中へと入り込んでいった。

しかし、絵札を受け取った3人はオルタのように昏睡状態には至らなかった。

やはり、オルタが特別な存在だからなのだろうか…?

 

 

こうして忍は新たな立場と眷属を得た。

牡羊座もこのまま静観したままではないのは総会でも感じたところ。

また、忍はまだ知らないが牡牛座も動き出している。

クリフォトや絶魔もまた水面下で何かを企んでるかもしれない。

そして、教会の戦士達の不穏な動き…。

 

これから何が起こるのかは…まだ、誰にもわからない。

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