魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百十二話『目覚める娘と再会の風神と雷神』

翌日の放課後。

 

イッセー達は三年生のリアスと朱乃、選挙活動をしているゼノヴィアなどと久々に集まり、海鳴市方面へと繰り出そうとしていた。

その中には忍や智鶴、萌莉、海斗、シルトといった面子もいた。

 

皆でわいわいと海鳴市へと向かっている途中のこと。

 

『っ!!』

 

一行は言い知れぬプレッシャーを感じ、萌莉やシルト以外が身構える。

 

そこへ…

 

「Buon giorno。悪魔の子らに異種の子らよ」

 

祭服を身に纏った身長2mはありそうな巨漢の老人が前方に現れる。

しかもこの老人、顔はしわくちゃだがその下が年齢と比較してあり得ないくらい体が図太く若々しかった。

 

だが、次の瞬間、老人はまるで瞬間移動したかのように消え去り…

 

「ッ!?」

 

イッセーの背後に現れてその両手をイッセーの肩へと置いていた。

 

しかし、それと同時に動いた者もいた。

 

「ほぉ、異種の子よ。何故、私がここに移動すると分かった?」

 

驚いたように巨漢の老人は自らの背後に陣取る者に尋ねる。

 

「…………………」

 

それはライト・フューラーを手に巨漢の老人へとその銃口を向けた忍である。

 

「しぃ君!?」

「紅神!?」

 

その行動に智鶴やゼノヴィアも驚いたようだった。

 

「前にアンタと似たような雰囲気の人…いや、"鬼"と出会ってたんでな。見た瞬間、もしかしてとヤマを張ったまでだ」

 

巨漢の老人の問いに忍は静かにそう答えていた。

 

「ほぉ、"鬼"…それも私と似たような雰囲気の…」

 

「体格とか雰囲気も似ているが…それよりも"何かやりそうな空気"も漂ってたからな。それを踏まえての行動だ」

 

そう言いながらも忍は銃口を下げる気はさらさらないようだった。

 

「ふふ、いやはや見事だ。異種の子…いや、戦士よ。その齢で私を捉えるとはなかなかどうして…将来有望ではないか」

 

そんなことを言いつつも巨漢の老人はまだまだ余裕そうであった。

 

「そういえば、まだ名乗ってもらってないが…ここまでの"人間"、いくらか想像はつくな」

 

忍の言葉に…

 

「ふふ、では名乗らせてもらおう。私はヴァチカンから来たヴァスコ・ストラーダというものだ」

 

巨漢の老人…ストラーダ猊下はそう名乗っていた。

 

「(やはりか…)」

 

その正体を知り、事情を知らない海斗とシルト以外は警戒の色を濃くする。

 

「そう慌てるな。今日はこれを渡しに来ただけよ」

 

ストラーダ猊下は懐から封筒を取り出すと、それをリアスに向けた。

 

「こ、これは…?」

 

恐る恐る受け取りながらリアスが尋ねると…

 

「挑戦状だ。私達は貴殿ら…D×Dに挑戦状を叩き付けさせてもらおうと思ってな」

 

『ッ!!』

 

その言葉にその場の殆どに緊張が走る。

 

「じょ、冗談じゃないわ! 今がどういう状況かわかってるの!?」

 

リアスもその言葉には反発を覚えたらしく声を荒げる。

 

「魔王の妹よ。若い…若過ぎる」

 

リアスの言葉にストラーダ猊下はそう言って右手の指を左右に振っていた。

 

「ッ!!」

 

その行為に我慢出来なかったのか、イッセーが間に入り…

 

「この人には触れさせないぜ…アンタが誰であろうとな…!」

 

ストラーダ猊下を睨みながら言い放つ。

 

「いい目だ、悪魔の子よ」

 

そんなイッセーを最初はきょとんとした表情で見ていたストラーダ猊下だが、満面の笑みを浮かべてイッセーの頭を豪快に撫でた。

 

「ッ!!」

 

バカにされたと思ったイッセーはその手を払い除けようとするも、それよりも早くストラーダ猊下は動いており、既にイッセー達からかなりの距離を取っていた。

 

「さぁ、レグレンツィ猊下。宣言をお任せ致します」

 

ストラーダ猊下の言葉を受け、現れる一つの影。

しかし、その影は小さく、現れたのは小学校高学年程度の黒髪の少年だった。

その少年はストラーダ猊下と同様に祭服を身に纏っていた。

 

「(この匂い…まさか…)」

 

少年の匂いを嗅ぎ、忍も驚いたような表情になる。

 

「私は…エクソシストとしての権利と主張を守る! そなた達が例え『良い』悪魔だったとしても…この世には断罪せねばならない『悪い』悪魔や吸血鬼もいるのだ! その任を彼らから奪うなど…主や大天使ミカエル様の意に反するとしても、納得出来ないことなのだ!」

 

その間にもレグレンツィ猊下は緊張していても強い瞳を持ってそのような宣言を下していた。

そして、それに呼応するかのように周囲から無数の戦意が取り囲むように現れだした。

 

「(妙に不自然な匂いを感じると思ってはいたが…こういうことだったか…)」

 

取り囲んでいたのは猊下達に付き従ってきた教会の戦士達だった。

 

「ストラーダ猊下…」

 

その中でゼノヴィアがエクス・デュランダルを明空間から取り出して構える。

 

「戦士ゼノヴィア。デュランダルは使いこなせているかね?」

 

その問いに答えることなく、ゼノヴィアはストラーダ猊下に突貫する。

 

「なるほど。言葉よりも行動か…。いいぞ、デュランダルの使い手はそうでなくてはな!」

 

そう言ってストラーダ猊下は真正面からゼノヴィアの一太刀を受け止めようとしていた。

 

結果、ゼノヴィアの一太刀は…ストラーダ猊下の指一本で止められていた。

 

「っ!!」

 

「まだまだのようだな」

 

この結果にゼノヴィアは歯軋りするくらいに悔しがり、ストラーダ猊下も首を横に振っていた。

 

「ゼノヴィア! 猊下! 失礼を承知でいかせてもらいます!」

 

そこにイリナがオートクレールを構えて突っ込む。

しかし、そこに黒髪の中年男性が間に入ってイリナの攻撃を軽く受けていた。

 

「っ!? クリスタルディ先生!」

 

この中年男性が残る首謀者の一人…エヴァルド・クリスタルディということになる。

そして、彼は…元エクスカリバーの使い手である。

 

「視野を狭めてはいけないな。戦士イリナよ」

 

彼の手には聖なるオーラを纏った剣が握られていた。

 

「いざ、勝負!!」

 

そこに木場が聖魔剣を創り出して参戦していた。

 

「聖魔剣。君が聖剣計画の生き残りか。良い波動を放つ」

 

木場の攻撃を最小限の剣捌きと体捌きで全て回避し流していき、最後に剣を木場に向かって振り下ろす。

 

ドォンッ!!

 

「ぐっ…!?」

 

その一撃で木場は路面に叩き付けられ、その余波で軽くクレーターも生じてしまう。

 

「が、しかし…私をフリードのような下の下と一緒だとは思わないことだ」

 

そう言い放つクリスタルディ猊下は木場を見下ろし、剣を鞘へと戻す。

それを見て、イッセーとリアスが歩みだそうとするが…

 

「グレモリー先輩。ここは矛を収めましょう」

 

ライト・フューラーを待機状態に戻した忍がそう提案していた。

 

「次元辺境伯の名は伊達ではないようだ。グレモリーの姫君。私達は戦争をしに来たのではない。ただ最後の訴えをしに来たのだ。それをわかってもらいたい…」

 

ストラーダ猊下がそう言った途端、囲っていた戦士達が退いていくのが気配でわかる。

 

「……わかったわ」

 

リアスもそれに応じ、ここでの戦いは回避の流れとなる。

 

「では、再び見えよう。若き戦士達よ」

 

その言葉を残し、クーデター組もこの場から去る。

 

………

……

 

その日の夜。

 

兵藤家のVIPルームへと集まるD×Dのメンバー。

オカ研、生徒会、シスター・グリゼルダ、デュリオ、紅神眷属、神宮寺眷属といった主に駒王町を拠点にしている面々だ。

 

『申し訳ありません。立て続けにこちらの関与する事件に巻き込んでしまって…』

 

通信用魔法陣に投影させるミカエルの立体映像が開口一番、謝罪の言葉を紡いでいた。

 

『彼らの要求は「D×D」との一戦です。特に駒王町に住まうあなた達との戦いを所望しているようです』

 

曰く駒王町は各同盟のスタート地点となった場所である。

その切っ掛けとなった事件に関わった者達との戦いを望んでいるんだと…。

 

同盟が無ければエクソシスト達の任務の制限もなかった。

クーデターに参加している者の殆どは悪魔や吸血鬼などに家族を奪われたり、人生を狂わされたりしており、復讐、或いは自分達のような悲劇を繰り返さないために剣を取った者達でもある。

 

そして、首謀者の一人…テオドロ・レグレンツィは『奇跡の子』でもあった。

奇跡の子…つまり、天使と人間との間に生まれたハーフである。

奇跡の子の中でもレグレンツィ猊下は能力が最も秀でており、それ故に枢機卿に抜擢された経緯があるという。

 

総括としてクーデター組の挑戦は受けることとなった。

D×Dからはグレモリー眷属、シトリー眷属、紅神眷属、神宮寺眷属、ジョーカー・デュリオ、イリナ、シスター・グリゼルダが参戦する。

さらにこの地に派遣された天界のスタッフもバックアップするとこのこだった。

また、裏方要員として『刃狗』も回してくれるらしい。

 

決戦は…三日後となった。

 

………

……

 

その翌日。

 

明幸家のとある一室。

 

「…………………」

 

そこには去年から休眠状態にあるオルタが静かに眠っていた。

 

「そろそろ目覚めてくれてもいいんだがな…」

 

その様子を見に来た忍が少しボヤくように呟いていた。

 

「…………………」

 

「ま、これで起きてくれたら世話ないか。今はゆっくりと待つか」

 

安定しているように見えるオルタの様子を確認出来ただけでも良しとしようとして忍が退室しようとした。

 

その時…

 

「……ぉ……と…ぅ……さ、ん…」

 

オルタの口から言葉が発せられる。

 

「っ?!」

 

その声に驚き、忍が振り返ると、そこには僅かに目の端に涙を浮かべて眠るオルタの姿があった。

 

「オルタ…」

 

その姿を見て忍は再びオルタの側まで近寄ると…

 

「獄帝、解放」

 

牙狼の闇の力を顕現させた解放陣の一つ『獄帝』を解放していた。

 

「(少しでもあいつの雰囲気に近付けば…もしかしたら…)」

 

そんな淡い期待を胸に忍は獄帝となった手でオルタの手をそっと握った。

 

すると…

 

トクンッ…

 

握った手を通して確かな脈動をオルタから感じた。

 

そして…

 

「………ん………」

 

僅かにオルタの眼が開く。

 

「ぉ…父、さん…?」

 

その僅かに見開いた眼が忍を捉えると、そのような言葉を漏らしていた。

 

「っ……おはよう、オルタ」

 

目頭が熱くなるのを感じつつもそれを堪えて忍は琉他の目覚めを祝福した。

 

「……ぁ…」

 

そこでオルタもそれが本当の父ではなく、その存在を同じくする並行世界の人物だということを認識した。

 

「おはようございます…"主様"」

 

そう認識した以上は前のような呼び方をする必要があると思ってすぐに訂正していた。

 

「別に好きに呼んでいいんだぞ? お前は本来あいつと桐葉さんの娘な訳だし…あの2人も気にするような人達でもあるまい。まぁ、羨ましがられる可能性はあるが…」

 

そんなオルタの反応を見て忍は苦笑しながらそう答える。

 

「ですが…ご迷惑ではないでしょうか? このような大きな娘がいるなんて…」

 

それに対してオルタは気を遣っているようだった。

 

「俺は気にしないさ。皆にもちゃんと事情は話してるしな。まぁ、家の中限定でならの話になるが…」

 

流石の忍も外でオルタの『お父さん』呼びは恥ずかしいのか、それとも世間を気にしてなのか、躊躇しているようだった。

 

「それはそうと、身体の方は大丈夫か? ずっと休眠状態だったんだから、すぐには動けないだろう?」

 

呼び方は後でもどうとでもなると考えた忍は、オルタの体のことを心配していた。

かれこれ数ヵ月近くは眠って過ごしていたのだ。

いくら人と体の構造が根本的に違うとはいえ、目覚めたばかりで身体機能がどれくらい機能するか気になっていた。

 

「そう、かもしれません…」

 

「試しに今握ってる手を握り締めてみてくれないか?」

 

「はい…」

 

忍に言われ、きゅっ、と弱々しい感じで忍の手を握るオルタ。

 

「ふむ…とりあえず、支えてやるから起き上がってみろ」

 

「ぁ、はい」

 

忍に支えてもらいながら布団から上体を起き上がらせる。

 

「食事はいるか?」

 

「いえ、私は人造魔導兵器ですので…主様からの魔力供給を糧に生きていけますから…」

 

忍の質問にオルタはそう答える。

 

「そういうものか?」

 

「はい。ですから、私に食事という概念は必要ないかと…」

 

「う~ん…」

 

それを聞いて少し頭を悩ます忍。

 

「いや、この際だから食事の楽しさを覚えていくのもいいだろうさ」

 

だが、すぐに思考を切り替えてオルタにそう告げる。

 

「食事の、楽しさ…?」

 

「あぁ」

 

その後、忍は獄帝を解除すると部屋を出てオルタが目覚めたことと"あること"を明幸家にいる眷属メンバーに伝えた。

 

 

 

そして、その夜のこと。

 

「大丈夫か?」

 

「はい。なんとか大丈夫です」

 

オルタは寝巻のまま忍の支えもあって居間へと移動してきていた。

 

すると…

 

パンッ!

パパンッ!!

 

「ふぇ…?」

 

突然、クラッカーが鳴り響き、オルタも驚いたように目の前を見る。

 

そこには…

 

『祝☆ オルタちゃん、快復!』

 

という文字の書かれた垂れ幕があり、豪勢な食卓が広がっていた。

 

「ここまで派手でなくてもいいだろうに…」

 

予想以上の豪華さに忍も若干の苦笑いを浮かべていた。

 

「何を言ってんのさ。やっとその子が起きたんだから」

 

そう言うのは…同じ並行世界にいた夜琉だった。

 

「あ、義叔母様…」

 

「誰が義叔母様だって!?」

 

それを聞いて夜琉が半ばキレる。

まぁ、一応…夜琉は牙狼の義理の妹であるから、オルタからしたら義理の叔母、という認識になる訳であって…。

 

「ははは…」

 

その様子を見て忍が笑う。

 

「義兄さん! そこ、笑うとこじゃないからね!?」

 

「はは、すまんすまん」

 

夜琉の怒りを受けても笑って受け流す忍だった。

 

「"お父さん"が好きに呼べばいいと仰ってましたので…」

 

しゅんとした感じでオルタがそう言うと…

 

『"お父さん"…?』

 

気の強い部類に入る眷属(眷属ではない雲雀や桃鬼も含む)が眉を顰めて忍を睨む。

 

「この子…オルタは本来なら牙狼と桐葉さんの娘として生を受けるはずだったんだ。それはいくらか歪んでしまったが、それでも牙狼と同化した俺にとってもある意味で娘も同然だろう? だから、俺のことは好きに呼んでいいと言ったのさ。もちろん、外では別の呼び方にしてもらうつもりだが…」

 

「そりゃそれで面倒じゃねぇのか?」

 

忍の言葉にクリスがそんなことを言う。

 

「まぁ、それはそうなんだが…出来れば、そこはオルタの好きにさせてやりたいんだよ」

 

そう言いながら忍はオルタの頭を優しく撫でる。

 

「アンタって、意外と過保護なのかもね」

 

「誰かさんのせいじゃないの?」

 

朝陽の言葉に緋鞠が智鶴の方をチラ見しながら付け足す。

 

「それよか早く食べましょう? いつまでもそこで話し込んでたらせっかくの料理が冷めるわよ?」

 

暗七に言われ、各々席に座っていく。

主役のオルタは上座の真ん中で忍と智鶴に挟まれる形で座っていた。

 

「それじゃあ、オルタの回復を祝って…乾杯!」

 

『乾杯!』

 

忍の音頭と共に皆グラスを手にして乾杯する。

 

「オルタ。遠慮することはないからな?」

 

「えっと…?」

 

忍の言葉にオルタは少しだけ首を傾げる。

 

「好きなものを好きなだけ食べていいんだよ」

 

「好きなもの…」

 

智鶴にも言われるが、牙狼と共にいた時からあまりまともな食事というものをしてこなかったためか、少し戸惑いを感じていた。

 

「ま、百聞は一見に如かずとも言うからな。まずは何でもいいから食べてみな」

 

「はい…」

 

おそらく箸は使えないだろうという忍の配慮でスプーンとフォーク、ナイフがオルタの前にはある。

とは言え、色々な料理があるから目移りしてしまうのも仕方ないことだろうが…。

 

「(って言っても困るだけだよな。なら、手本を見せないとか…)」

 

そう考え、手身近にあった唐揚げに箸を伸ばすといくつかを取り皿に取り…

 

「はむ…」

 

それを一口食べてからご飯をかき込む。

 

「……………」

 

忍の食べる様子を見ていると…

 

「食べてみるか?」

 

その視線に気づき、取り皿にある唐揚げを一つ、オルタの取り皿に移す。

 

「えっと…」

 

これからどうすべきか少し考える素振りをする。

 

「ふむ…そういえば、牙狼との旅は野宿が多かったな……しかもあいつ、あまり食器とか使わなかったっけ…」

 

牙狼の記憶を思い出し、そう漏らすと…

 

「なら、まずはこのフォークを使いましょうか」

 

それを聞いたらしい智鶴がオルタにフォークを持たせて…

 

「これの先端で食べ物を刺して、口に運ぶのよ」

 

オルタにそう説明していた。

 

「はい」

 

言われた通りにフォークで唐揚げを刺すと口まで運び…

 

「あむ…」

 

唐揚げを一口食べる。

 

「どうだ?」

 

初めて食べるだろう食事の感想を尋ねる。

 

「……美味しい…です…」

 

人造魔導兵器と言えど、ちゃんと味覚もあるようでそのように呟いていた。

 

「これが、"食事"…」

 

少しばかり感動しているようにも見えるオルタの姿に…

 

「ふふ、気に入ったのなら良かった」

 

智鶴が優しげな笑みを浮かべてオルタの頭を撫でる。

 

「ぁ…」

 

撫でられ、若干嬉しそうにする。

 

これだけ見るなら、オルタは紛れもない年相応の少女であり、人造魔導兵器などというのもとてもじゃないが信じられない程だ。

それほどまでにオルタの表情は自然体となっていた。

出来ることならば、このまま平穏な生活を送ってほしいとも考える。

 

だが…

 

「(俺は…覇王の気質が強いのかもな…)」

 

以前、皇鬼にも言われた王道か、覇道か…。

その答えは、後者なのかもしれない、と忍は考えていた。

 

このように自然と笑えるようになったオルタでさえ、己の戦力の一部として換算している自分がいることに気付き、自らを軽蔑すると共に納得もしてしまっていた。

 

「(牙狼、桐葉さん…すまん…)」

 

心の中で2人に謝罪するのであった。

 

 

 

忍がそのような考えをしているなど露知らず、宴は夜遅くまで盛り上がっていったのだった。

 

………

……

 

そのさらに翌日。

 

兵藤家では珍しい客が訪問していた。

元龍王であるタンニーンの来訪だ。

 

話によれば、龍種の中でも希少種である『虹龍(スペクター・ドラゴン)』の卵が産まれたが、冥界の風では孵化に悪影響がありそうであり、人間界…つまり駒王町の地下空間で預かってもらえないかというものだった。

だが、駒王町も百パー安全ではないのだが、そのリスクを承知で頼み込んできたのだ。

その話をリアス達は了承し、卵を持ってくる者を待った。

 

しかし、その卵を持ってきたのは…邪龍クロウ・クルワッハ(人型)であった。

 

話によると、今現在のクロウ・クルワッハはタンニーンの食客という立場で冥界にあるドラゴンの里に世話になっているそうで、そこでドラゴン達のことを見て回っているのだとか…。

 

そんなこんなで兵藤家が大変(?)な時、ある場所では…

 

 

 

場所は海鳴市の海鳴臨海公園。

そこで神宮寺眷属の戦車枠である識上 秀一郎は"とある人物達"と待ち合わせをしていた。

 

「あいつら、元気にしてっかな?」

 

私服姿でベンチに腰掛けている秀一郎は久々に会うその人物達のことを考えていた。

 

そもそもその人物達と再会しようとした切っ掛けは紅牙にあった。

 

先日の鳶雄さんとの会話で秀一郎の話題が少し出たのだが、鳶雄さんは本人から聞いたらいいとしてその場は聞けずじまいだった。

そこで、紅牙は思い立ったら即実行に移し、同じマンションに住む秀一郎の元に向かい、直接話を聞きに行ったのだ。

 

 

 

ちなみにその時の会話は以下の通りである。

 

『おま、それ誰から聞いた?!』

 

『「刃狗」からだが?』

 

『鳶雄ぉぉぉ!!!』

 

一応、秀一郎よりも年上なのだが、鳶雄さんの方から呼び捨てを許してもらっていた。

 

『で、気になることも呟いていてな』

 

『気になること?』

 

『"彼女達"がどうの…』

 

『ぶっ!!?』

 

『汚ねぇな…』

 

噴き出された唾を魔法でガードしながら紅牙が問い詰める。

 

結果として、秀一郎は紅牙には最近は会ってないと答えたものの、久々に会って近況を聞くのもいいかもしれないと思い至ったのだった。

そして、主が主なら眷属も眷属であり、秀一郎も即行動に移して久々の連絡回線を開き、音声のみでやり取りしてその人物達と会うことにしたのだ。

 

 

 

場面は戻る。

 

「(音声だけにしたから姿までは見えなかったが、声からしたら元気そうではあったな。若干怒ってそうなきもしないでもなかったが……まぁ、アイツだしな…)」

 

そんなことを考えながら空を見上げていると…

 

「ホント、しつこいんだけど…」

 

「そ、その…こ、困ります…!」

 

「いいじゃんか。ちょっとくらい付き合ってもさ~」

 

「そうそう。俺らと来れば絶対に楽しいからさ」

 

うんざりしたような少女の声と、なんだかおっかなびっくりしたような少女の声、さらにチャラそうな男の声が二つが秀一郎の耳に聞こえてきた。

 

「あぁ?」

 

見れば、チャラい男2人が少女達をナンパしている。

 

「(ったく、んなとこでナンパなんてしてんじゃねぇよ…)」

 

呆れながらも放っておくのも出来なかったため、ベンチから立ち上がり…

 

「オラぁ!」

 

問答無用で男の一人に膝蹴りをかます。

 

「ぐぼらぁ!?!?」

 

見事に男の一人が吹き飛ぶ。

 

「な、ななな…!?」

 

それに対してもう一人のチャラ男が驚いていると…

 

「おい、テメェ…さっさと仲間連れて失せろや。こっちも暇じゃねぇんだよ」

 

もう一人の男の胸倉を掴み上げ、そいつを睨みながら脅す。

 

「ひ、ひぃぃ!?!?」

 

どうもその秀一郎の凄みに当てられ、手を離された瞬間に蹴られた男を担いで逃げ去っていく。

 

「ちっ…ったく、胸糞悪いったらありゃしねぇ」

 

そう言いながら少女達の方に向き直り…

 

「お前らもお前らだ。ああいうのはさっさと撒けばいいものを……ま、たまたま俺の視界に入ったのがあいつらの運の尽きか。ほら、お前らもさっさとどっかに行くんだな」

 

なんとも愚痴るように少女達に文句を言いつつベンチへと戻ろうとした時…

 

「あ…えっと、どうもありがとうございます…」

 

一人の少女が秀一郎の背にお礼を言っていると…

 

「……もしかして…シュウ?」

 

もう一人の少女が秀一郎に声を掛ける。

 

「あ?」

 

「え…?」

 

その言葉に秀一郎と、お礼を言った方の少女が驚く。

 

「おい、なんで俺の………つか、その愛称を呼ぶってことは…」

 

振り返りながら少女の顔をまじまじと見る秀一郎に対して…

 

「ねぇ、人の顔をジロジロと見ないでくれる? あと、その失礼な反応からしてやっぱりシュウなのね」

 

呆れたように少女は肩を竦める。

その少女は背中が隠れるくらいに伸ばした黒髪と紺色の瞳を持ち、ツンとした雰囲気の綺麗で整った顔立ちをしており、標準的且つ平均的な体型をしていた。

髪はストレートにし、服装もそれなりにオシャレで美少女と言っても過言ではない程である。

 

「やっぱ、お前…藍香、か?」

 

「そうだけど…何か文句あるの?」

 

そう尋ねる秀一郎に『藍香(あいか)』と呼ばれた少女は秀一郎を睨んでいた。

 

「いや…お前、そんなしゃれっ気あったか?」

 

「むっ」

 

その言葉にムンズ!と秀一郎の足を思いっきり踏みつける藍香。

 

「い゛っ!?!?」

 

口は災いの元とはよく言ったもので…。

 

「ホント、アンタってデリカシーが無いわね」

 

「~~ってぇな! つか、相棒はどうした?」

 

文句を言いつつ秀一郎は藍香に尋ねる。

 

「はぁ…アンタの眼は節穴? ずっと隣にいるでしょ」

 

そう言って藍香は隣の少女を見る。

 

「うぅ…///」

 

その少女は恥ずかしそうにハンドバッグで顔の下半分を隠しつつも秀一郎を見ていた。

そっちの少女は肩にかかるくらいの藍色の髪と緋色の瞳を持ち、凛とした雰囲気の可愛らしくもあどけない顔立ちをしており、標準的だが、少し肉付きの良い体型をしていた。

服装も今時の女の子らしくしていた。

 

「あ? さ、翔霧…なのか?」

 

以前…というか数年前に見た時よりも女性らしい体つきになっていた(らしい)ので、秀一郎も驚いていた。

 

「う、うん…久し振り、秀一郎…///」

 

翔霧(さぎり)』と呼ばれた少女はまだハンドバッグで顔を隠しながら秀一郎に挨拶する。

 

「おま…"いつもの格好"じゃねぇのかよ!?」

 

「だ、だって…久し振りに秀一郎に会うんだし…少しくらいオシャレしろって、藍香が…///」

 

「ちょっ! それは言わなくていいのよ!///」

 

翔霧の言葉を少し頬を染めた藍香が遮る。

 

「(相変わらずみたいだな……しかし…)」

 

わいのわいの言い合う2人を眺め…

 

「? どうかしたの?」

 

頬の赤みが引いた藍香が秀一郎に尋ねると…

 

「ん? いや、大したことじゃないんだが…お前ら、綺麗になったなって」

 

「「っ?!////」」

 

その秀一郎の何気ない一言に同時にボンッと言いそうなくらい顔を真っ赤にする藍香と翔霧。

 

「? どうかしたか?」

 

しかし、悲しいかな…秀一郎は鈍感な部類に入るらしい。

 

「(この朴念仁…)////」

 

「(うぅ…やっぱり、いつもの格好で来ればよかったかも…)////」

 

勝手に赤面してるのが恥ずかしくなりつつも…

 

「で、結局私達に何の用なのよ?////」

 

顔が赤いままあいか藍香が本題を切り出す。

 

「いや、大した用事は無いぞ? 強いて言うなら通信でも言ったが、久々に顔が見たくなったからな。あと、近況でも聞ければなって」

 

「………え?」

 

その答えに藍香が固まる。

 

まさか、本当にそれだけの理由で?

アレから今まで連絡の一つも寄こさなかったくせに?

 

という具合に藍香が思っていると…

 

「いやぁ、鳶雄の野郎が今の雇い主…まぁ、主って言った方がいいのか?…に昔話をちょこっとしたらしくてな。お前らのことも言いやがって。それでそういや、どうしてっかなって思ってよ。それでこの間、連絡して会えないか聞いた訳だが…」

 

秀一郎がそこまで言うと…

 

「………ちょっと待って。アンタ、まさか…その時まで私達のことを忘れてたんじゃないでしょうね?」

 

今の話の流れからしてその可能性が高そうだと判断し、そう尋ねると…

 

「いや、別に忘れてた訳じゃねぇんだけどさ。俺も仕事で忙しくってよ。いつ連絡したらいいのか考えてたんだが、なかなか時間が無くてな。で、今回ちょいと時間も出来たし、"ついでに"って」

 

秀一郎は何の気なしに言うが、これがいけなかった。

 

「ねぇ、藍香…」

 

「えぇ、翔霧」

 

何故か互いの拳…藍香は左拳、翔霧は右拳…にそれぞれ魔力変換した雷と風を纏い…

 

「(あれ…なんだか嫌な予感が…)」

 

秀一郎が悪寒を感じると同時に…

 

「「それを忘れてたって言うのよ、バカぁぁぁ!!」」

 

ドッガッ!!!

 

2人の拳が秀一郎の顔面と鳩尾に突き刺さる。

 

「ぐぼっ!!?」

 

それを無防備に受けた秀一郎だったが…

 

「ってぇぇな、おい!? 何しやがる!?」

 

踏ん張っただけでその同時攻撃を耐えていた。

これも紅牙から受け取った戦車の駒の影響で防御力が高まっており、尚且つD×Dでの修行で更なる力を手にしていた成果でもあった。

 

「なっ!?」

 

「嘘!?」

 

その結果に藍香と翔霧も目を見開いて驚いていた。

それもそのはず、前の秀一郎なら確実に今ので吹き飛んでいたはずだし、互いに知らぬ内に成長したのを加味したとしてもそこそこ本気だった2人の拳を受けて耐えたのだから驚かない方がおかしかった。

 

「つか、顔面と鳩尾とか…お前ら、マジだったろ? 俺じゃなきゃガチで危なかったからな…?」

 

それでもダメージは通っているのか、若干苦しそうではあった。

 

「シュウ…アンタこそ、そこまで強かったっけ?」

 

「私と藍香の攻撃を受けてピンピンしてるなんて…」

 

信じられないといった感じで秀一郎を見る。

 

「伊達に鍛えてる訳じゃねぇしな…(それと駒との相性が良かったからか…)」

 

2人の攻撃を受けられたのが駒の力もあると感じ、秀一郎としては微妙な気持ちだった。

 

「それで…近況って何よ?」

 

これ以上の攻撃はしないと言いたげに藍香が秀一郎に切り出す。

 

「あぁ…それは…」

 

そうして、秀一郎は2人に話すことにした。

今、自分が置かれてる状況と、そして…。

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