神宮寺眷属がその戦力を補強した翌日の夜。
教会のクーデター派との決戦の幕が上がろうとしていた。
兵藤家地下に続々と集まるD×Dに名を連ねるメンバー達。
オカ研メンバー、シトリーメンバー、紅神眷属、神宮寺眷属、シスター・グリゼルダ、デュリオ。
ただ、紅神眷属と神宮寺眷属の二組は人数がそれなりに多いため、王以外はそれぞれ指名したメンバーでの参戦となっている。
ちなみに紅神眷属からは忍を筆頭に緋鞠、領明、オルタが、神宮寺眷属からは紅牙を筆頭に秀一郎、藍香、翔霧がそれぞれ参戦することとなった。
忍の方は絵札の眷属を連れてきたことになるが、殺さない喧嘩となるとシンシアには少々厳しい条件だろうと外されていた。
サポートにはアザゼルや天界のスタッフ、『刃狗』こと幾瀬 鳶雄が裏で動くようだ。
そんな中、アザゼルが一歩前に出て作戦概要を改めて説明する。
「いいか、お前ら。今回の一戦は教会のクーデター派とのある種の喧嘩だ。場所は急遽用意したレーティングゲーム用のバトルフィールドだ。この地よりも多少は暴れられるが、殺しは厳禁だ。それを理解してほしい。なお、向こう側もこのバトルフィールドでの戦闘に同意してくれている」
そこにソーナが言葉を続ける。
「深夜零時ちょうどに戦闘が始まる予定です。相手側もこちらの用意した転移型魔法陣でやってくることになっています」
その言葉にシトリーメンバーの中から匙が疑問を投げかける。
「それにしても、相手もよく承諾されましたね? 何かしらの罠があるんじゃないかって、普通なら考えますよね?」
匙の言葉に、アザゼルが苦笑交じりに答える。
「じゃあ、逆に聞くが…お前等はその罠ってのを考えたとして、実行に移したか? 一応、俺も色々と考えちゃいたが、実行には移さなかった。それが答えさ。あっちもあっちでこっちがそんな無粋な真似をしないって踏んでいる。これは生死を賭けた戦闘じゃねぇ。喧嘩なのさ。だからこそ、この喧嘩で人死には避けないとならん。それをやると禍根がもっと深くなって残っちまうからな。喧嘩ってのはストレートに応えりゃいいんだよ。両陣営共、クーデター派に退路がないのは重々承知なんだからよ」
相手を信じる。
それがどれだけ難しいことか…。
「お前らばかりが貧乏くじを引いていて申し訳なく思う。だが、ストラーダ、クリスタルディ…この両名がただイタズラに不満を抱いた戦士達を連れてきてはいないだろう。戦士達が俺達にその憤りをぶつけたいのは本音だろうが…枢機卿三名の真意は他にある。ヴァチカン本部から、ある程度の情報は得ている。あいつらは…本当の大馬鹿野郎だったってことがわかった」
アザゼルはそう続けていた。
アザゼル自身は苦笑していたが、その眼にどこか呆れているような、それでいて悲哀の色も宿していた。
『………………』
それを見たからか、この喧嘩に参戦するメンバーは神妙な面持ちで頷いていた。
そして、話は喧嘩の内容へと戻り、ソーナの目配せで椿姫が魔力で出来た鏡を作り出し、そこにバトルフィールドの全体図を映し出した。
「フィールドのモデルは駒王町となっています。駒王学園を中心に半径10kmの周辺地域を再現したものです。また、今回のフィールドの形成にはロスヴァイセ先生のご協力もありました」
「例のトライヘキサ用に研究中の封印術を応用したものを今回のバトルフィールドに反映させています。良い結果が得られればいいんですけど…」
椿姫の説明にロスヴァイセも補足するように説明していた。
「相手の戦力ですが…中隊規模の部隊を二つに分けるとのことです。主にエヴァルド・クリスタルディと、ヴァスコ・ストラーダをリーダーとした二つの部隊となります」
椿姫の報告に続いてソーナがこちら…D×D側の編制を発表する。
「それに伴い、私達も二つのチームに分けます。編制は、エヴァルド・クリスタルディ側に『ジョーカー』デュリオ・ジェズアルドさんを中心として、シスター・グリゼルダさん、紫藤 イリナさん及び『御使い』の参戦メンバー、そこにサジ以外の私達シトリー眷属と紅神君の率いる眷属の絵札チームの三名がサポートとして入ります」
「え、忍達がそっちなんですか?」
その編制を聞いてイッセーが思わず、ソーナに尋ねる。
「えぇ、今回はこちらを手伝ってもらいます。何か不都合でも?」
「あ、いえ…あの爺さんと出会った時、対応出来たのが忍だけだったんで…」
挑戦状を叩き付けられた時のことを思い出し、イッセーが頬を掻きながら答える。
「その話はリアスからも聞いています。私も紅神君はそちらに編制しようかと思いましたが、紅神君からの要望もあって今回はこちら側で動いてもらうことになりました」
「忍からの要望?」
そんなソーナの言葉に一同が忍を見る。
「あぁ。今回は殺し合いが目的じゃない喧嘩だ。なら俺はこの際、まだ慣れてない能力や剣術系の熟練度を上げようかと思ってな。それでサポートに回ることにした。ま、俺もエクスカリバーの使い手には興味あるから、そっちに加勢するかもだが…」
不慣れな能力…つまり、鬼の力であろう。さらに忍は七本の刀『七星狼牙』を帯刀しており、それらを使った刀術の鍛錬を今回の戦闘で行おうとしているのだろう。
「ということは、私達グレモリー眷属と匙くん、それと神宮寺眷属がヴァスコ・ストラーダ氏の部隊と戦うことになるのね?」
「えぇ」
リアスの確認にソーナも頷く。
「ついでに言っとくと、黒歌、ルフェイ、刃狗が裏でのサポートに入る」
そこにアザゼルからも追加の情報が入る。
と、そこで一歩前に出る者がいた。木場 裕斗だ。
「ソーナ前会長。僕もジョーカー側に付いてもいいですか?」
『っ!』
その言葉に誰もが驚き、それと同時に察する。
「……エクスカリバー、ですね?」
「はい」
ソーナの問いに木場も頷く。
「クリスタルディ氏は元エクスカリバーの使い手として聞いていますが…」
「はい。現役を退いたとは言え、数少ない天然のエクスカリバー適合者です。あの方が若かりし頃の話ですが、一時期3本のエクスカリバーを同時に使いこなしていたと聞いています」
ソーナがシスター・グリゼルダに尋ねると、そのような逸話が返ってきた。
「エクス・デュランダルの製法の過程で作ったエクスカリバーのレプリカを教皇聖下から賜った唯一の御方でもあります」
シスター・グリゼルダはさらに続けてそのように伝える。
「エクスカリバーのレプリカ?」
イッセーの疑問にリアスが思い出すように答える。
「話では、一応7本揃った訳だから、解析してその力を再現したレプリカを作り上げた、と聞いてるわ。確か、本物の五分の一にも満たない力しかないとか…」
「ストラーダ猊下も同様に聖下から賜ったデュランダルのレプリカを所有しているはずです」
リアスの言葉に続くようにシスター・グリゼルダも情報を伝える。
「……戦わせてください。僕はもう一度…エクスカリバーを、エクスカリバーの使い手を超えたいと思っています。これは復讐ではありません。挑戦なんです…!」
「(物は言い様だなぁ…)」
木場の言葉に忍は少しだけ苦笑していた。
すると…
「やらせてあげてもよろしいのでは?」
そこにアーサー・ペンドラゴンが現れて肯定の言葉を発していた。
「剣士の拘りは、剣士にしか癒せませんよ。ねぇ、木場 裕斗君?」
「………………」
それは剣士にしかわからない矜持なのかもしれない。
「代わりと言ってはなんですが、私がヴァスコ・ストラーダとの戦いに参戦致しましょう。長年、興味がありましたので。最強のデュランダル使いと称されたご老体の力に、ね」
アーサーの言葉を聞き…
「……ソーナ。そちらに入れてあげてちょうだい」
リアスも折れたのか、ソーナに頼んでいた。
「いいのですか? リアス」
ソーナの確認にリアスは、木場に向き直ると…
「裕斗。今度こそ、あなたの気持ちに決着を着けなさい」
「はい。ありがとうございます!」
木場は感謝と共に戦意に満ちた剣士の決意が見て取れる、勇ましい顔つきでリアスの前に跪いていた。
周りからもそのような感じで見られていただろう。
「………………」
ただ、1人…イッセーを除いては…。
その後、作戦についての確認を取り、バトルフィールドに向かう零時までの残り時間は最後の休憩に当てられていた。
「鳶雄、テメェ…よくも紅牙のやつに藍香と翔霧のことを言いやがったな!?」
「いいじゃないか。こうしてまた組めるようになったんだし…何より久し振りに会って秀一郎だって嬉しいだろう?」
「別に嬉しかねぇよ!」
「それは地雷だと思うけどな」
などと言って秀一郎が鳶雄さんに食って掛かる。まぁ、秀一郎の背後には今の発言を聞いて怒りのオーラを纏った藍香と翔霧がいるわけだが…。
「お久し振りです。鳶雄さん」
「久し振りね。ちょっとシュウを借りてもいいかしら?」
丁寧に鳶雄さんに挨拶する2人は秀一郎の首根っこを掴んで連れ去ろうとする。
「ちょ、待てお前ら!? 戦闘前に何を…!?」
「あはは、相変わらずだな」
そんな光景に笑みを浮かべる鳶雄さんだった。
「何をしているんだか…」
やれやれと紅牙が呆れていると…
「紅牙。眷属を増やしたんだな」
忍がやって来てそう聞いてくる。
「あぁ。今後のためにも戦力を補強しようと思ってな」
「で、あの2人が新人さん?」
「秀一郎の連れだ。昨日の模擬戦では早紀と紗奈の2人を早々に降していたらしい」
「へぇ~。てか、模擬戦してたのか…」
「休息は十分に取ってるから安心しろ」
そんなことを言った後、紅牙が視線をイッセーへと向けていた。
「周りへの気配りが出来ているようだな」
イッセーは何やら木場へと話し掛けていたようだった。
「イッセー君にも王としての資質が表れてきたのかもな。それにイッセー君は木場君の親友だし、何か俺達よりも察せることがあったのかも…」
「そうか。そうかもしれんな」
その後、イッセーはアーシアにも話し掛け、ゼノヴィアとイリナの様子を見たり何かを思って悩んだり、そんなイッセーの元に色んな人がやってきて話し掛けたりと、それなりに有意義な時間を過ごしていたようにも見えた。
そして…
「時間です」
クーデター派との喧嘩の時間がやってきた。
参戦する者達が転移型魔法陣の中心に集い、バトルフィールドへと転送される。
………
……
…
転移型魔法陣からバトルフィールドに移り、数分が経過した。
御使いとシトリー眷属、紅神眷属、そして木場のチームは、かつて堕天使レイナーレが拠点としていた廃墟と化した教会周辺にやってきていた。
ここがエヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームとの戦場になるようだ。
「また、アンタと共闘することになるとはな」
「クリスマスの時以来だね」
忍とデュリオが会話していた。
「あの時は途中で退場させられちったからね。最後まで付き合えずにすまないと思ってた」
「いえ。もし一緒だったら最悪過去の世界に誰かしら取り残されてた可能性もありましたし…」
「過去の世界、か…一応、リーダーだし、報告は聞いてるけどさ」
「なかなか信じにくいですよね」
「そりゃね。ま、元気そうで何よりだよ」
そう言ってデュリオが忍の肩をポンポンと叩く。
「さて、ちょっと俺は木場きゅんと話してくるよ」
「えぇ、それでは」
そう言ってデュリオが木場の元へと行くのを見て、忍も自らの眷属の元へと向かう。
「オルタ。大丈夫か?」
「はい、主様。身体機能に問題はありません」
「そういうことじゃないんだが…まぁいい」
気を取り直してオルタの視線に合わせるようにしゃがみ込むと…
「すまないな。本来なら平穏な暮らしをさせてやりたいとこだが…」
オルタの頭を撫でながら謝罪の言葉を紡いでいた。
「いえ。私の本質は人造魔導兵器…戦いにこそお役に立てるかと…」
「そういうことは考えなくてもいいんだがな…」
なら何故連れてきたのか…?
「ともかく、オルタは後衛で援護に徹してくれていい。緋鞠、領明、オルタのことを頼む」
「それはいいけど…」
「今更ですが、本当によかったのですか?」
緋鞠も領明もまだ賛成しかねているのか、表情が複雑だった。
「絵札の本質を知るにはちょうどいいと判断した。だからこそ、絵札眷属であるお前達を連れてきたんだ」
絵札の概要はまだ完全に把握した訳ではない。だったら、この際に解き明かしていこうという魂胆なのだろう。
そして、奇しくも今回連れてきた眷属の見た目は皆、ロリ、もしくはスレンダー系だったりする。
肉感的な身体を持つ者が多めの紅神眷属内では、少々珍しい部類だろう。
「……なんか今…凄く失礼なこと言われた気が…」
緋鞠がそんな独り言を呟いていると…
「来たか…」
忍の鼻が教会の戦士達の匂いを察知する。
両チームが対峙する。
少数精鋭のD×Dに対し、エヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームはざっと100人近い人数だった。
そんな中、デュリオがまず対話を試みていた。
だが、その対話は互いに譲れないものがあるという事実だけが残る結果となる。
こうしてエヴァルド・クリスタルディ率いるクーデター派チームと、D×Dとの戦いの幕が上がる。
クーデター派チームの初撃…光力による銃弾や神器による遠隔攻撃の一斉射撃がD×Dへと襲い掛かる中、ソーナの的確な判断で、椿姫と由良の2人のおかげで防ぎ切ることに成功する。
その後、クーデター派チームの前衛に対し、D×D側もアタッカー(忍、木場、仁村、巡、ベンニーア、ルガール、転生天使数名)をぶつけることで応える。
但し、クーデター派の戦士達が本気で倒しに来るのに対し、D×D側は相手を殺さずに抑える、ある種の『手加減』を強いられているが…。
そんな中、防御に徹していた椿姫から合図があり、ソーナもそれを承諾してアタッカー陣を下げさせる。
そして、発現する椿姫の神器『
発動条件は追憶の鏡で一定数カウンターすることで、その能力は『異能を有した魔物を鏡の中から出現させる』ものだった。
その能力で現れた3体の魔物『
その戦闘光景を見てか…
「下がれ」
ずっと静観を決め込んでいたクリスタルディ猊下がエクスカリバー・レプリカを握って前線へと赴く。
その進路を邪魔しないように戦士達も道を開けていた。
「人の身で、ここまでのプレッシャー、か…」
木場の元までやってきた忍がそのように呟く。
「木場きゅん、狼君。聞いてるだろうけど、クリスタルディ先生は元エクスカリバーの使い手なんだよね。んで、アレがレプリカ。一応、七つの力を有してる。イメージしてる最強の聖剣使いの四つ上は覚悟しておいてほしい」
さらにデュリオも合流すると、そのように警告してきた。
『引き続き、戦士の相手は私の眷属と御使い、紅神君の絵札眷属に任せてください。エヴァルド・クリスタルディの相手は…今まで待機してもらっていましたデュリオ・ジェズアルドさんを筆頭に、イリナさん、グリゼルダさん、木場君、紅神君の5名に担当してもらいます』
「「「「「了解」」」」」
ソーナからの指示もあり、5人の天使・悪魔・狼が1人の人間を迎え撃つ。
「………………」
クリスタルディ猊下が近付く中、それは唐突に起きる。クリスタルディ猊下が無数に分身してみせたのだ。
これは当然エクスカリバーの力…しかし、天閃による高速移動による分身か、夢幻の力による幻影による分身なのか…?
初見では判断がつかなかった。
「クリスタルディ先生、行かせていただきます!」
その中で最初に動いたのはシスター・グリゼルダであり、無数の光球を分身したクリスタルディ猊下に撃ち出していた。
シスター・グリゼルダの攻撃は分身を貫き、その形を崩して無へと帰す。
つまり、この分身は夢幻による力だと判明する。
その中の1人が光球を剣で弾き、そのまま突撃してくる。
「「ッ!!」」
木場とイリナがそれを本物と判断したようで2人揃って仕掛けたが…
「それは擬態だッ!!」
デュリオの叫びに木場はその場から横に飛び退く。が、イリナはそうはせずに勢いのままオートクレールを擬態とされた分身体に一太刀入れる。
しかし、その分身体は形を崩してヒモ状となり、シスター・グリゼルダが倒して四散させた幻術の中から、ハッキリとした姿を見せるクリスタルディ猊下。ヒモはクリスタルディ猊下の手元に戻ると、一本の剣へと再構築され、イリナへと仕掛ける。
「割り込み御免!」
ギィンッ!!
そこに忍が割り込み、7本も帯刀していた刀の一本『武天牙』を抜いて防いでいた。
「ッ!!」
しかし、防ぐのをわかっていたのか、クリスタルディ猊下は破壊の力を加えて忍を地面に縫い付けようとした。
「ストラーダ猊下を捉えた戦士か。確かに良い腕をしているようだな」
「そいつは、どうも!」
武天牙でエクスカリバー・レプリカを弾いてクリスタルディ猊下を吹き飛ばすも、クリスタルディ猊下はすぐさま次の手を打つ。懐から出した複数の十字架を取り出し、天に放る。さらにクリスタルディ猊下が念じると共に十字架はクリスタルディ猊下と相対している5名を囲うような結界を作り出していた。
「祝福の特性で十字架の結界を底上げしている。そこのシトリー家の悪魔でもそう易々とは近付けまい。さらに言えば、天使でもそう簡単に打ち破れはしない。つまり、高速で逃げることも、空を飛んで距離を取ることも無理だということだ」
「俺達を分断するだけじゃなく、俺と木場君の足封じに、転生天使組の制空権まで奪いやがったのか…」
そんなクリスタルディ猊下の説明に忍もまた嫌な汗を流していた。
「では、続きといこうか」
そう言うとクリスタルディ猊下は聖なる波動を飛ばしてきた。
それに対し、木場、イリナ、忍がそれぞれ波動と魔力斬撃を放って相殺しようとするが、クリスタルディ猊下の放った波動には幻術も混ざっており、それらを回避しようにも支配の特性を使って飛ばした波動を操作するという技を見せられ、翻弄されてしまう。
そこにデュリオの援護もあって、一旦忍、木場、イリナはクリスタルディ猊下から距離を置くが、限定されてしまった空間ではそれぞれ別方向に下がる必要があった。
「たとえレプリカであろうと、私がエクスカリバーを握れば、これぐらいは造作もないのだよ」
そう言うと、クリスタルディ猊下は予備動作なしで姿を消す。
「(くっそ、匂いが全部同じだから判別出来ねぇ!)」
クリスタルディ猊下の使う夢幻の特性は、忍の嗅覚でも判別が難しい代物のようだった。
そのため、忍も木場とイリナ同様に気配と視線で周囲に気を配る。
だが、次の瞬間、3人の横合いから複数のクリスタルディ猊下が現れ、それぞれが迎撃行動に移るが…。
ガキンッ!!×3
「「「ッ!?」」」
どれも質量を持っており、高速剣技の後、それぞれが相手を斬り伏せると、それが霧散する。
「質量を持った残像!?
木場が思わずといった感じで叫ぶ。
「天閃と夢幻の組み合わせだ。高速と幻術、それによって質量を持った残像は作れるのだよ」
その声は木場の背から聞こえてくる。
「木場君!」
「くっ!?」
木場も咄嗟に聖魔剣を消して聖剣創造の禁手を発動させて騎士甲冑を召喚するが、それを斬り伏せてクリスタルディ猊下が木場に肉薄する。
「君達のような強力な悪魔にはあまり効果がない聖水だが…」
聖水の小瓶を木場の頭上で叩き割って、聖水が木場に降りかかるのを確認してからクリスタルディ猊下が念じると…
ズキッ!!
「ッッ!!!!」
祝福の特性で底上げされた聖水の力が木場を襲う。
「先生ッ!」
木場を助けようとイリナがオートクレールから波動を飛ばす。
ザシュッ!!
「え…?」
オートクレールの波動によってクリスタルディ猊下の首から上が飛び、それを見てイリナが狼狽する。
「甘いな。紫藤 イリナ」
が、それは幻術であってイリナの背後から現れたクリスタルディ猊下がエクスカリバー・レプリカを振り下ろす。
「っ!?」
それをイリナは何とか受け止めるが、破壊の特性が発動して破壊の重圧がイリナに襲い掛かる。
「俺のこともお忘れなく!」
クリスタルディ猊下に対し、デュリオが炎の球体と氷の槍を同時に放つ。が、それはクリスタルディ猊下に直撃する寸でのところで軌道を変えて横に逸れていく。
デュリオはそれを気にせず、イリナに当たらぬように周囲一帯に鋭い氷柱を発生させるが、クリスタルディ猊下の周囲には氷柱は現れなかった。
「まさか…支配したというのですか!? ジョーカーの攻撃を…?!」
その光景にシスター・グリゼルダが叫ぶ。
「支配の力を以ってすれば神滅具であろうとも…」
が、よく見れば、クリスタルディ猊下の衣装の一部が氷柱によって貫かれている。
「と言いたいところであったが、流石に攻撃を逸らすだけで精一杯のようだ。天使化の恩恵に救われたな、デュリオよ」
そう言ってからクリスタルディ猊下は忍を見る。
「それで? そんな御大層な刀をぶら下げておいて使うのは一本だけなのかな?」
「………すぅ………ふぅ…」
それを聞き、大きく息を吐くと忍は武天牙を一旦鞘へと収める。
「出し惜しみしてる場合でもないか。それに実戦で使えるかも確かめておきたかったしな」
そう言うと、忍は七星狼牙の一本『真狼牙』を抜くと、その柄を口に咥え始める。
「? 東洋人は刀を口に咥える風習でもあるのか?」
「いや、俺がちょっと特殊な使い方をするだけだ」
そう答えると、残りの六本の刀を両手で一気に抜き放つ。
「紅神流煌剣術『
口に咥えた一本と、両手の指の間に挟み込んで三本ずつの刀をまるで爪のように持った忍の刀術の新たな形。
「なんとも破天荒な…」
その様子に思わず苦笑してしまうクリスタルディ猊下。
「なんとでも言ってくれ。変則七刀流の力を見せてやる…!」
そう言うと、忍はクリスタルディ猊下との距離を詰めて攻撃を仕掛ける。
「むっ…!」
それをクリスタルディ猊下は天閃と夢幻の特性を用いて再び質量を持った分身体を作り出して忍の背後と横合いから襲い掛かる。
ガキンッ!!×3
忍もすぐさま振り向くと、口に咥えた一刀で右側、右手に持った三刀で左側、左手に持った三刀で正面を同時に防いでいた。
「その態勢では迎撃も難しいだろう」
そこにもう一体、背後に現れると、忍に向かって斬りかかる。
「紅神君!?」
木場が叫ぶ中…
「破ッ!!」
腕を広げるような動作と共に分身体を吹き飛ばすと、その勢いのまま回転し、奇襲してきたクリスタルディ猊下の剣を口に咥えた一刀で防ぐ。
「ッ!!」
だが、クリスタルディ猊下は慌てずに破壊の重圧を与える。口で咥えているだけの一刀だけならこれで外れるだろうと確信しての行動だった。
「ぐっ…!!」
だが、忍は口に咥えた一刀で耐えてみせた。
「なに…!?」
「これで…どうだ!」
驚くクリスタルディ猊下に、両手に持つ六刀で斬りかかる。
「ちっ…!」
クリスタルディ猊下は破壊の重圧を解き、天閃の特性でその場を飛び退く。
「やっぱ、まだ慣れないことはするもんじゃねぇな……ペッ…」
六刀を鞘に戻し、口に咥えてた一刀も手に持って鞘に戻してから血の混じった唾を吐く。
「末恐ろしいことだ」
そんな忍に対してクリスタルディ猊下はそう漏らす。
「そりゃこっちの台詞だっての。人間でも技術を極めればここまでのものになるのかよ…」
忍もまたクリスタルディ猊下の技量に舌を巻いていた。
そんな中、聖水のダメージから多少回復した木場がよろよろと立ち上がると宣言する。
「グラムを使います。いくらエクスカリバーと言えど…」
それを聞き、待ったを掛ける者がいた。
「それはダメだ」
そうハッキリと言ったのは、デュリオだ。
「命、削るつもりなんだろう? そんなのはダメだって。これは身内同士の肉体を使った会話みたいなもんだよ? お互いの不満を拳に乗せて殴り合う場だ。そこで君が命を削る必要なんてないだろう?」
「ッ! しかし、相手は本気だ! あなたは味方の不満を全て受け続けるというのか!?」
そのデュリオの言葉に木場も不満を爆発させる。
「いやいや、ちゃんと俺だって殴るさ。『この大馬鹿野郎』ってね。でもね、君が命を張ってその魔剣を使うべき相手は…クリフォトだ」
そんな木場をデュリオは諭すように抱き寄せる。
「木場きゅん…いや、裕斗。確か、元は教会の施設の出身だろう? なら、俺の弟も同然だ。兄ちゃんとして、弟の無茶は容認出来ないってね。まぁ、俺に任せておきんしゃい。伊達にリーダーを張ってる訳じゃないんでね」
そう言うと、デュリオは木場から離れ、クリスタルディ猊下の前に立つ。
「デュリオ。教会最強と称された男は、何のために戦う?」
クリスタルディ猊下の質問にデュリオは…
「皆が平穏無事に暮らすために。それが唯一絶対の理由でいいじゃないっすか」
とびっきりの笑顔でそう答えると、デュリオは天使の10枚の白き翼を広げ、黄金のオーラをその身に纏いながら両手で輪を作り、息を吹きかけていた。
「これは…あの時の…!」
その技をクリスマスの日に見ていた忍は、デュリオがこれから行うことを察した。
デュリオの『虹色の希望』。
そのシャボン玉が戦場に広がり、それに触れた者は皆、大切な者と大切な者を思い出させる。
戦場が無力化しつつある中…
「……だとしてもだ! 一応の決着を着けなければ、我等の決起は無駄になるのだよ!! デュリオッッ!!!」
クリスタルディ猊下もまた涙を流しながらも、その強靭な精神力でエクスカリバー・レプリカを握っていた。
迎える最終盤面。
木場とイリナが再び立ち上がってクリスタルディ猊下に向かって進撃する。
その中で木場の聖魔剣とクリスタルディ猊下のエクスカリバー・レプリカが交差する。
すると、不思議なことにエクスカリバー・レプリカの聖の波動を聖魔剣の魔の力が吸い取り、聖の力を高めていたのだ。
聖魔剣の新たな一面が発見された瞬間だった。
そして、聖魔剣がエクスカリバー・レプリカの聖の波動を吸い取った直後、イリナがオートクレールの浄化の力を解放する。
だが、それでもなお戦意を喪失させないクリスタルディ猊下。
そこにシスター・グリゼルダの光の矢…天使の力を高める、それをイリナに放ち、オートクレールの浄化の力を底上げさせてエクスカリバー・レプリカを無力させていく。
そして、デュリオによる最後の一撃がクリスタルディ猊下を呑み込むのだった。
この場での戦闘は終結しつつあった。
デュリオのシャボン玉、クリスタルディ猊下の敗北によってほとんどの戦士達が戦意を喪失させたからだ。
そして、クリスタルディ猊下は罰を求めたが、デュリオはそれを否定した。
彼曰く『先生を倒したら、そっちの方が恨まれるに決まってるでしょう? それに、生きてりゃ美味いもん食い放題っす。世の中、それがdpれだけ尊いか知らない奴が多すぎるんすよ』とのこと。
その言葉を聞き、クリスタルディ猊下は苦言を呈しながらも涙を浮かべていた。
「狼君、裕斗、イリナちゃん。行きなよ。こっちはもう大丈夫。イッセーどん達の方に行ってきなよ。俺は、もう少しクリスタルディ先生と話しでもしてるからさ」
その申し出に忍、木場、イリナは頷きながらイッセー達の元へと向かうのだった。
その際、クリスタルディ猊下から一言、忠告があった。
「ストラーダ猊下は…正真正銘の怪物だ」
手練れであろう5人を相手取った人間から、そのようなことを言わしめさせる。
果たして、ストラーダ猊下という人物とは…?