第百十七話『王の駒、王の証、集う痣、そして…』
クーデター派との一件が片付いた後のこと。
ライザー・フェニックスのレーティングゲーム復帰戦があった。
対戦相手は王者ディハウザー・ベリアル。
しかし、そこで問題が発生する。
ゲーム終盤、ライザーとレイヴェル、王者が忽然と姿を消したという。
しかもその少し前にゲーム運営側の緊急用プログラムが発動したとのこと。
このプログラムはゲーム中に不正行為があった可能性を示唆していたらしく、兵藤家のVIPルームに集められた駒王町にいたD×Dのメンツはこの情報に様々な感情を見せていた。
そんな中、アザゼルは何か知っていそうな雰囲気であったが、詳しい説明をせずに信じてほしいと言っていた。
一体、何があったのだろうか?
それから数日後。
三者面談という学生にとって進路について親も交えて相談する大切な日だ。
生徒は順番が来るのを校内で待機しており、部活がある生徒もそちらでの待機となる。
オカ研は旧校舎で待機していて、忍や海斗、シルトも旧校舎にお邪魔しており、親御さんも旧校舎に集まるようになっている。
そんな中、最初に来たのはこちらに用事があったイリナの父である紫藤局長、次いでシスター・グリゼルダもやってきた。
イリナと紫藤局長の親子漫才やらゼノヴィアとシスター・グリゼルダの面談時に話す内容の再確認などが行われている横で…
「そういや、忍や海斗んとこは誰が来るんだ?」
イッセーが木場とギャスパーにした質問を忍と海斗にも尋ねていた。
「ん~…一応、前は組の誰かに頼んでたんだけど…こっちでは蒸発した扱いの親父と母さんが見つかった訳だし、そっちに来てほしいんだけど…次元を隔てたストロラーベから地球に来てもらうのも手間だしな、と思ったり…」
要するに要請はしたが、確実に来るのかはわからないといった感じだ。
「忍も大変だな…」
そんな忍の答えにイッセーが苦笑していると、海斗が次いで答える。
「俺とシルトはアルカが親代わりとして来てくれる予定だよ」
海斗とシルトはアルカが保護者役なので、アルカが両方を担当するらしい。
イッセーとアーシアと似たようなものだった。
「出来れば、親父が来てほしいもんだ…母さんだと何を口走るか…」
忍は忍で雪音の来訪でないと祈っていた。
「忍の母さんってどんな人だよ?」
「ん~…俺と交流があった頃にはいなかったし…確かにどんな人か気になるね」
そんな忍の様子を見てイッセーと海斗が尋ねてくる。
イッセーに関してはアウロス学園の時に面識を持ってそうだが、事件のこともあってか意外とその辺はまだ直接会っていなかったりする。
「勘弁してくれ。あの人は、わりと天然で爆弾を落とすような人だからな…面談中にあの件に触れられてもみろ…俺の社会的な地位は死ぬ」
「「あの件?」」
「……失言だ。気にしなくていい…」
身内だけの話(雪絵関係)を思い出して口を滑らせてもいいものではないと、忍も2人に気にしないでくれと言う。
「「?」」
イッセーと海斗が顔を見合わせて同時に首を傾げる、
すると…
「お前なぁ。ちっとは雪音を信用してやれ」
部室の扉から狼牙が入ってくる。
「親父!」
「よぉ、三者面談は俺が来てやったぞ。むせび泣いて喜べ」
「誰が泣くか」
そんなことを言い合いながら互いに相手の服装を見る。
「お前も、もうこんな立派になったんだな」
「うるせぇよ。つか、スーツて…」
「そっちこそうるせぇよ。これでも組のもんにも久々に挨拶しときてぇからな。そのついでだ」
「そうかよ」
まるで口喧嘩のように聞こえるが、これがこの親子のスタイルだ(……多分)。
「……なんか妙な迫力あるね」
「……だよな」
イッセーはアウロス学園の事件の際にちょっと挨拶してたからいいが、海斗は初見のために驚いていた。
「おう、お前が海斗ってのか? 倅が世話になってんな」
絡み方が極道の流儀になってるような…気がしないでもない?
「あ、いえ…世話になってるのは俺達の方なので…」
「そうか。ま、面倒事に巻き込まれたら忍を頼れよ」
「えぇ、その時は力を借りますよ」
などと会話していると、アルカやイッセーの母もやってきてそれぞれ思い思いの時間を過ごして面談の時を待つ。
イッセー達の面談が終わり、忍達に順番になる。
・忍の場合
「紅神君の希望進路先は、駒王学園大学部への進学でしたね」
「はい」
学園での態度や成績などを話した後に進路についての話が始まった。
「それで、紅神君はその先…大学部を卒業した後のことは何か決めてるかな?」
「えぇ、まぁ…今も厄介になってる明幸先輩の家に恩返しが出来たらなと…そのために自分で事業を始められたらと思っています」
「そ、そう。明幸さんの…」
明幸家も地域密着型の極道だ。教師にもそれなりに知られている。だから担任の先生も微妙な表情をしていたが…。
「お父さんの方はどうですか? 今の息子さんの希望を聞いて…」
「ん? そうですな。ずっとほったらかしにしてきて虫の良い話かとも思いますが、俺も元々は明幸家に世話になった身ですから…倅がやりたいことを応援したいと思ってますよ」
「そ、そうなんですか…」
どっちも極道に連なるのだろうか、と担任の先生が微妙に不安がっていると…
「大丈夫ですよ、先生。倅はそんな人の道を外れたことなんてしませんから」
「親父、それあんまフォローになってねぇよ」
「あはは…」
こうして忍の面談は微妙な雰囲気で終わったのだった。
・海斗の場合
途中までは忍やイッセー達の内容と同じで、大学部から先のことを聞かれた際…
「俺は…卒業したら故郷に戻って家業を継ごうと思っています」
「それはどんな家業なのかしら?」
「一般的な会社みたいなことですね。社員に仕事を割り振ったり、会議をしたり…そういったことを纏める立場になると思うので…」
「そう…」
海斗の答えに担任の先生は"社長の御曹司かな?"とも思ったが、それは口にせず頷くだけだった。
「お姉さんはどう思いですか?」
「海斗が本気で目指す気ならあたしは全力で応援しますよ」
「ふむふむ」
こうして海斗側も面談を終えていった。
ちなみにシルトは海斗の傍で支えたいといった内容を答えていた。
………
……
…
その日の夕食時のこと。
兵藤家では、イッセーが将来のことをしっかり考えていたことが母から父に伝わり、それに喜んだ父がイッセーのことを肴に酒を飲み、それをイッセーが内心で恥ずかしがっていたりとしていた。
時を同じくして明幸家では…
『ろ、狼牙の兄さん!!?』
「よぉ、テメェら。元気にしてたか?」
明幸家に下宿している組員の何人かが狼牙の来訪に驚いていた。
「兄貴、誰なんですか?」
新米の下っ端達を代表して1人の若者が驚く組員に尋ねる。
「バカ野郎! 狼牙の兄さんは、蒸発してたと思われてた坊ちゃん…じゃなく、若の親父さんだ! しかも現当主の側近としても活躍してた方だぞ!」
「そ、そんな凄い人が……でも、なんで蒸発なんて?」
「それは知らん!」
「え~…?」
狼牙の件に関しては事情が事情だったので、組内でも限られた人間にしか知られていなかった。だから下っ端組員が事情を知らなくても仕方ない。
「まぁ、色々とあってな。ようやくこっちに戻ってこれたわけよ。で、倅の面談にも顔を出した訳だ」
「おぉ! では、坊ちゃん…じゃなく、若の進路相談に!?」
「そういうわけだ。まぁ、表向きは進学と将来の応援をすると言ってあるから大丈夫だろうよ」
「表向き、ですかい?」
「あぁ。お嬢との婚約は俺としても嬉しいが、極道を継ぐとなると一般の周りがうるさいからな。そこは上手く合わせてやったよ」
「流石です、兄さん!」
「よせよせ。つか、お前らも部下を持つような身分になりやがって!」
「それなりに時間が経ちましたからね」
「あぁ、そうだったな。それで、棟梁は元気か?」
「へい。坊ちゃん…じゃなく、若が成人するまでは頑張ると…」
「そうか…直接会って詫びも入れなきゃな。勝手に居なくなった上に、今まで倅の面倒まで見てくれたわけだし」
「組長もきっと喜びますよ」
「どうだかな」
狼牙を慕っていたのだろう組員が周りに集まり、色々と話し込んでいた。
「……親父って、結構人望あったんだな」
「えぇ。狼牙の兄さんは、戦闘面も凄かったですが、面倒見も良かったですから慕ってた奴は多いんですよ」
「へぇ~」
そんな風に忍に説明したのは狼牙の側近時代を知る組員だった。
「なら、俺も親父に負けないようにしないとな」
「坊ちゃん…じゃなく、若なら大丈夫ですよ」
「そういうもんかね。あと、呼び方は別に直さなくても…」
「いえ、こういうことはしっかりしておかないと。いつまでも坊ちゃん呼びは嫌でしょう?」
「まぁ…一応、次期当主として認められたしな」
「なら、若というのにも慣れて頂かないと」
「わかったよ」
そんなこんなあって明幸家でも狼牙が帰ってきたことで夕食時はプチ宴会状態となっていた。
………
……
…
それから四日後の休日のこと。
面談の翌日にはライザーとレイヴェルの無事が確認されていた。
身柄を保護していたのは、魔王アジュカ・ベルゼブブ。
そして、アジュカの打診で2人の身柄はD×Dが受け取ることになっていた。
ただ、当日イッセーは父から釣りに行かないかと誘われていたが、事が事だったために断ってしまった。この返答があのような結果になるとは、この時は誰も想像していなかった。
ちなみに兵藤家の地下室の転移陣に集まったのはオカ研、シトリー、シスター・グリゼルダ、忍、紅牙、アザゼルだ。
デュリオは天界の警備、鳶雄さんも別の任務で外し、ヴァーリチームも別行動を取っている。
紅神、神宮寺の眷属達は王以外はそれぞれ自由に動いている。
そして、集まった彼等が転移陣で指定された空間へと赴くと、そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。
「ここは…?」
見れば、周囲は夜の帳が降りた砂浜であり、海が細波を打っていた。
だが、注目すべきは空…月と思しきものが"二つ"あった。
「ここは『異世界』…多次元世界の内の一つとされる別次元の一部を再現させたフィールドだ」
そのように言ってきたのは、アジュカ・ベルゼブブ。
彼の近くにはベッドがあり、そこにはレイヴェルが眠っていた。
ライザーの身柄も既にフェニックス家に移送されており、その護衛に刃狗チームが派遣されていた。
2人の身柄と無事は確認出来た。
しかし、アジュカの話はこれで終わりではなかった。
「これを見てほしい」
そう言ってアジュカが懐から取り出したのは…悪魔の駒だ。
しかし、兵士、僧侶、騎士、戦車、女王の駒とは違う。
そして、D×Dの面子は、その形状にちょっとだけ覚えがあった。
それは…
「王の、駒?」
それは眷属の駒を受け取った忍と紅牙が取り込んだ『王の駒』にそっくりということだ。
「そう。既に次元辺境伯君に渡した時に見せてしまったから知っていると思うが、これは正真正銘、悪魔の駒の王の駒だ」
『ッ!?』
その説明に皆が驚く。
「悪魔の駒の王は登録制であったし、俺達冥族用に特別に形だけを取ったものだと思っていたが…」
アジュカの説明に紅牙が頭を抱えながらそんなことを呟く。
「原型もちゃんとあったんだよ。それに悪魔の駒のシステムは敢えて登録制にしてある。それは王の駒を表に出さないためと、眷属が昇格して王の駒を得た場合、既にある駒との重複と融合を危険視してね」
「なら、王の駒の特性は?」
「単純な強化だね。ただ、その数値は二倍、三倍程度ではなく、十倍から百倍以上の強化だ。流石にそれは危険だと判断して禁止にしたよ。力を得ることで暴走する輩が出ても困るし、絶大な力は眼を曇らせてしまう」
アジュカはさらにレーティングゲームの現トップランカー達の真実…王の駒の使用によって実力を向上させた純血の上級悪魔達のこと、レーティングゲームの運営の闇までも告白していた。
その事実にリアスやソーナを始めとした悪魔達は言葉が無かった。特にソーナの夢にとっては猛毒に近い情報だった。
「ちなみに言うと…眷属の駒の王の駒は悪魔の駒の転用した物だ」
「「なっ!?」」
アジュカの追加情報に忍と紅牙が胸に手を当てて驚く。
「安心してほしい。君達の今の実力はちゃんと君達自身が研磨し、磨き上げてきたものだ。眷属の駒に改修した際、幾重もの封印術式を織り交ぜているから、よほどのことがない限りは君達の力が強化されることはない。もっとも、次元辺境伯君の方は少し調整し直す必要があるかもだが…」
安心していいのかどうか、凄く悩ましい問題だった。
その後、アジュカはディハウザー・ベリアルに関しても話した。
彼は生粋の、己の力で王者までのし上がった本物であること、ベリアル家の特性『無価値』のこと、王の駒のことを公表し、真実を求めるためにリゼヴィムに協力していることも判明した。
王者がテロに加担していることにリアスは憤りを感じていたが、それでもアジュカは彼を目聡いと評していた。
「アジュカ。現存する王の駒の数は?」
そして、アザゼルはアジュカの王の駒の現存数を確認していた。
「生産ライン自体は初期ロットで停止してます。製造方法は知らせていないどころか、俺にしか出来ないため、新たに作り出すことは不可能ですね。したがって、現存しているのは初期ロットで製造した分の余り。俺が把握してる限り、残りはこの手にある分を含めて九つでしょう。王者の分は俺が受け取りました。俺の手元にあるのは全てで四つありました。二つは今も俺の手元にありますが、残りの二つは次元辺境伯君と紅の冥王君に使った分ですね」
「つまり、残り五つは上役共の手の内か…」
アジュカの返答にアザゼルは険しい表情をする。
「俺は、数千年かかろうとも回収する気でいますけどね。製造した手前、そのくらいはしますよ」
そう言うアジュカの瞳には強い決意が見て取れた。
「それと、王の駒はあまりにも強過ぎる者や特異な能力を持つ者が使用すると、オーバーフローを起こして命の危険が生じることもある。だから、次元辺境伯君は細心の注意を払ってほしい。君は後天的に色々と混ざっているからね」
「………はい」
アジュカの言葉に忍も素直に頷くのだった。
それからアジュカはアザゼルへも忠告していた。
自分が敵なら真っ先に狙うのは、アザゼルだからだと…。
そこはアザゼルも気にしていたらしく、自衛の対策も取っているらしいが…。
また、アジュカは残る神滅具『蒼き革新の箱庭』と『究極の羯磨』をとあるゲームを通じて捉えているとアザゼルは聞くが、それは自分の領域だとアジュカは伝える。
アジュカ曰く『この世界の理の外』だからだとか…。
そこでアジュカにホットラインが繋がれる。
オーフィスが邪龍に襲われたらしい。
さらに悪い報告は続く。
イッセーのご両親が…クリフォトに拉致られたのだった。
それを聞き、イッセーの中で何かが弾けた。
………
……
…
事態が悪い方へと流れていた同時刻。
駒王町でも動きがあった。
「あなたまで来なくてもよかったのよ。奈緒」
「そうはいかないって…我らが真の王様を出迎えるのに団長様だけってのもね」
そう言って駒王町を歩くのは、長袖ロングスカートのワンピースを身に纏った少女と、逆に半袖短パン風のラフな格好をした少女だ。
どちらも季節外れな服装なのと、美少女であることからかなり目立っている。
「唯様」
と、そこへ長身の執事服を着て右手に革手袋を着けた男性がやってくる。
「あの方は?」
「使い魔と思しき2人と共にいるのを確認しました」
「そう。ありがとう」
「………………」
ワンピースの少女が執事の男性にお礼を言うと、執事の男性も一礼していた。
「行きましょう」
「うん」
「………………」
ワンピースの少女が先頭を歩くと、それに付いて行くようにラフな少女と執事の男性も歩いていく。
一方…。
「助けていただきありがとうございます、先輩」
「いえ、気にしないでください。困ってる人を助けるのは当然のことですから」
シスター服を身に纏った少女と、長袖のセーターにロングスカートを身に纏った少女が共に歩いていた。
彼女達が出会ったのはついさっき。
シスター服の少女がナンパに遭っているのをセーターの少女が助けたのだ。
セーターの少女は何か武術の心得でもあるのか、少しだけナンパしていた男の手を捻っていたが…。
そして、少し話して分かったことだが、シスター服の少女は日本に来たばかりで、駒王学園に転校する予定だとか。
セーターの少女も駒王学園に通っており、今は高等部卒業を待つ身で大学部への進学を控えているらしい。
「日本には来たばかりで色々とわからないことが多くて…」
「そうなの。それにしても日本語が上手なのね」
「ありがとうございます」
そのように会話しながらセーターの少女がシスター服の少女を駒王町を案内しているのが今の状況だ。
「海斗さん、アルカさん。今晩の夕食はどうしましょうか?」
「シルトの料理なら何でもいいさね」
「アルカ。シルトが困るからもうちょっと具体的な献立を言おうか」
そんな2人の少女達の前から海斗達が歩いてきていた。
その二組が擦れ違う際…
ズキッ!
「「「っ!?」」」
海斗と、2人の少女の右腕に痛みが走り、咄嗟に3人は自らの右腕を左手で押さえる。
「海斗?」
「海斗さん!?」
その様子にアルカとシルトが声を上げる。
「な、なんでもない。なんでも…」
海斗はそう答えるが…
ズキッ!
「ッ!?」
海斗はさらに右腕…正確には右腕に宿っている蒼き龍の痣に痛みが走るのを感じる。
すると…
「お迎えに上がりました。カイト…様」
海斗や今しがた擦れ違おうとした2人の少女達とは別の方向から声が掛けられる。
そこには右腕を押さえるワンピースの少女と、ラフな少女がおり、近くには執事の男性も控えていた。
「お前等は…!」
その気配を敏感に察したアルカは海斗の前に出て庇うような形になる。
「海斗さん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…シルト、大丈夫だよ」
海斗とシルトの親しげな様子に…
「-----」
ワンピースの少女の表情は少しだけ険しく、それでいて悲しそうにしていた。
「(姉さん…)」
そんなワンピースの少女の様子をラフな少女は心配そうに見ていた。
「君達、は…?」
「………………」
今の海斗の反応にワンピースの少女の眼は悲しみに満ちるが、表情は元の真剣なものへと変える。
「私達はブルートピアから来た…先王派の者です」
「先王派…?」
「はい。そして…」
首を傾げる海斗にワンピースの少女は右腕側の長袖を捲り上げ、ラフな少女も自身の右腕を見せる。
「そ、それは…!?」
「はい。私達は…痣の継承者です」
「ブルートピアに、いたのか…」
海斗もまた右腕の包帯を解き、蒼き龍の痣を見せる。
すると…
「その痣は…!」
「まぁ…」
先程、擦れ違おうとしていたシスター服の少女とセーターの少女が驚いたように右袖を捲り上げると、そこには海斗達と似た蒼い痣が浮かび上がっていた。
「なっ…!? 痣持ちが全員揃った!?」
この偶然とも言える状況にアルカが驚愕の声を漏らす。
「僥倖だね。あたし達以外の痣持ちが地球に居たのは驚きだけど…現王代理派に属してないのはラッキーかな?」
ラフな少女がそんなことを言う。
「どういうことなのですか?」
理解が追い付かないのか、シスター服の少女が困惑の表情を海斗達に向けてくる。
「あなた方は…この痣の意味を知ってるのですか?」
セーターの少女もまた海斗達に説明を求めていた。
「もう、何が何やらだね…」
アルカが頭痛を抑えるように片手で頭を抱える。
こうして出会った蒼き龍の痣を持つ者達は、海斗が住まうグレモリーが管理しているマンションへと場所を変えていた。
そこで最初に行われたのは…
「俺は海斗。水神 海斗。一応、駒王学園の高等部二年生で、もうすぐ三年生に進級予定だよ」
自己紹介だった。
「私は、『灰原 唯』と申します。若輩者ですが、マリンナイツの団長を務めさせていただいております」
「同じくマリンナイツに所属してる『灰原 奈緒』よ」
「これはご丁寧に。私は『アリア・クラシエル』と申します。三学期でもうすぐ卒業式があると聞きましたが、私もあるお方の口添えで駒王学園の高等部一年生に転校することになりました。とは言っても、もうすぐ二年生に進級することになると思います」
「『久瀬 薫』と申します。駒王学園高等部三年生ですが、もうすぐ大学部へと進学する予定でもあります」
海斗に続き、ワンピースの少女『灰原 唯』、ラフな少女『灰原 奈緒』、シスター服の少女『アリア・クラシエル』、セーターの少女『久瀬 薫』の順番で簡単な自己紹介を行っていた。
「あたしはアルカ。海斗の使い魔兼護衛さ」
「私はシルトです。海斗さんの使い魔です」
「……『ハイネ』と申します。唯様の使い魔として付き従っております」
さらにアルカとシルト、執事の男性『ハイネ』もまた簡単な自己紹介を行っていた。
「使い魔…悪魔や魔法使いが使役すると言われている存在ですか?」
アリアが首を傾げながら尋ねる。
「まぁ、広い意味じゃ似たり寄ったりかね? あたしらはだいたいが海洋系の生物だけど…」
その問いにアルカがそのように答える。
「人にしか見えませんが…?」
薫もアルカ達が使い魔ということに半信半疑といった具合だ。
「そういう風に化けてるだけさね。流石にこの部屋じゃ本来の姿にはなれないけど…」
アルカはそう言って海斗に視線を投げる。
そろそろ本題に入った方がいいというアルカなりの合図だろう。
「さて…では、この俺達の右腕に宿った痣についてだけど…」
それを受け、海斗も痣についての説明を行うことにした。
「まず、俺や灰原さん達の故郷…出身世界とも言えるが、ブルートピアと呼称されている次元世界だ。そこはネオアトランティス王国という一つの国が治めている世界の九割が海で構成されている世界なんだ」
「「次元世界…」」
「そう。俺達はそこに住む人間。堕天使元総督殿の言葉を借りると、海に住む人間『海人族』と呼称されるのが適切かな?」
「ブルートピアでは人間として生きてきましたから、あまり馴染みのない言葉ではありますが…」
「まぁ、でも…言い得て妙かもね」
ブルートピア出身の灰原姉妹も『海人族』呼ばわりにそこまで強く突っ込まなかった。
「まぁ、種族のことはともかく…この痣の持つ意味だったね。この痣…蒼き龍の痣は俺に宿った頭部を含めて五つあり、他はそれぞれ逆鱗、背鰭、腹鰭、尻尾という具合になっている。で、この痣はネオアトランティス王国の初代国王がブルートピアを守護している伝説の守護龍と契約した神聖と絆の証であり、代々の国王にはこの頭部の痣が宿るんだ。そして、他の四つの痣の持ち主も国王が変わる度に代変わりをしてきた。頭部以外の痣を持つ者は臣下になりうる存在と言われているけれど…俺は、仲間として迎え入れたいと考えているんだ」
海斗の説明の後…
「つまり、この痣はそのネオアトランティス王国の国王の臣下に与えられるものであると?」
「まぁ、有り体に言えば…」
「選定方法や宿る条件などは?」
「蒼き龍の導き、としか言えませんね」
薫が質問し、海斗がそれに答えていた。
「なるほど…この痣にはそのような意味があったのですね」
「(これは、ミカエル様にお伺いを立てないとですね)」
薫は釈然としないものの、一応の納得の意を見せ、アリアも内心でミカエルに伝えるべき案件だと思っていた。
「それで? 正統な王位継承権を持つ王子様としては、これからどうすんの?」
「奈緒。カイト様に対して不敬ですよ」
奈緒の発言に姉の唯が注意する。
「だって、いずれは"
「奈緒!!」
妹の不必要な言葉に唯が怒りだす。
「え…?」
「ぇ…?」
海斗とシルトがその奈緒の発言に衝撃を受けていた。
「はぁ…王子様は薄情なんだね。姉さんが"婚約者"だって…覚えてないの?」
「………………」
「え、っと…それ、は…いったい…」
奈緒の言葉に唯は無言で睨み、言われた海斗は動揺してか言葉が無かった。
「そんな凄んでもあたしは引かないよ、姉さん。姉さんが言わないならあたしがハッキリ言う。王子様。アンタと姉さんはれっきとした婚約者だよ。家の父さんが前の逆鱗の持ち主で、先王陛下との親交もあった。そこで王子様と姉さんの婚約が決まり、小さい頃はお付きとして遊び相手もしてた。けど、王子様は母君と共に地球へと渡った。本来なら姉さんもお付きとして行くはずだったけど、どうにもキナ臭く感じた父さんがブルートピアに留まることを決めた。それから姉さんは王子様のことをずっと想い続けていた。それなのに、肝心の王子様と言えば…姉さんのことなんて忘れたみたいな振る舞いだし、姉さんのことを思い出した様子もない。そんな人が誰かを幸せになんて出来っこない。あたしは…姉さんの想いを踏みにじるような奴との婚約なんて反対だよ。王子様には今日初めて会ったけど、それだけは譲らないし、認めない」
「奈緒…!?」
唯の怒りにも引かない妹の姿勢に唯は驚く。
「………………………………」
奈緒に言われたい放題の海斗だが、珍しく思考が追い付いていないようで、視線を唯へと向ける。
「申し訳ありません、カイト様。妹には私から厳しく言っておきますので…何卒、ご容赦を…」
しかし、肝心の唯も自らの心を律するような立ち振る舞いに海斗はますます動揺する。
「俺、は…」
海斗が意気消沈する中…
「(ま、そりゃ…王子なんだから婚約者くらいいるのは当然か…)」
「(いずれ、こういう時が来るとは思っていましたが…この気持ちを否定してしまうのは…)」
アルカはあまり触れてこなかった話題に達観した姿勢を見せ、シルトは苦しくなる胸の痛みに表情を歪めていた。
「(カイト…)」
「(灰原…唯…)」
この出会いで、新たな運命の歯車が回り出す。
海斗の歩む道に寄り添う者…それは誰なのか…?