魔導騎士物語~覇王と称された狼~   作:伊達 翼

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第百十九話『天秤が揺れ、新たな王は目覚める』

一つの戦いが終わっても、また次の戦いの火蓋が切られた。

リゼヴィムを見限り、邪龍達は己の戦いを始めた。

そのリゼヴィムも死んだが、その悪意だけは未だに健在だった。

 

復活を果たした『666』、そしてそれに追従する偽赤龍帝の鎧軍団。

リゼヴィム亡き後、それらを用いて邪龍達の進撃が始まったのだ。

 

『666』復活後、邪龍軍は堕天使の世界と天界に攻め入り、グレゴリの主要施設を、天界の第六天までを破壊っし、蹂躙し尽くしていた。

その中で堕天使幹部やセラフメンバーは重傷を負い、戦死者も大勢出た。

また、四大セラフのラファエルは片足を失い、ウリエルもまた片目と片腕を失ったらしい。

ただ、不幸中の幸いとでも言うべきか、天界の第七天を死守することには成功していた。

しかし、その代償はあまりにも大きく、数多くの天使が亡くなっている。

 

これが『666』復活から僅か2日で起きた事柄だ。

そして、3日目からの邪龍軍の標的は、北欧の世界だ。

北欧の世界は三階層に分かれていて、最下層の死の国『ヘルヘイム』や氷の世界『ニヴルヘイム』が存在し、最上層に神々の住むアースガルズ…ヴァルハラが存在していた。

邪龍軍は最下層から1日毎に上層へと上がっていき、復活から5日目でそのヴァルハラに到達しようとしていた。

 

その様子を見ていた冥界側の首脳陣…悪魔と堕天使はそれを目の当たりにして戦慄していた。

黙示録の獣の脅威を…。

そして、それらを駆使して侵略を繰り返す邪龍軍の脅威を…。

 

この状況にD×Dのメンバーもまた北欧の世界にて『666』や邪龍軍と戦っていた。

しかも3日間だ。

他にも懸念すべき事柄がある中で、この戦いは熾烈を極めていた。

 

そんな中、北欧戦線に増援が来る。

インド神話の神々だ。

しかし、その増援をもってしても黙示録の獣は傷一つつかないという事実が残る。

 

だが、そんな戦闘も意外なことにあっさりと幕が降ろされる。

邪龍軍が突如として撤退したのだ。

北欧戦線を防衛した同盟軍は勝鬨の声を上げるが、首脳陣の中には疑念を抱く者もいた。

邪龍軍の手に渡ってしまった聖杯絡みだろうか…?

 

しかし、この貴重なインターバルに首脳陣は動き出す。

さらにある計画も密かに準備が進んいた。

その事実を知る者は、計画に参加する者と、極々一部の者のみの…最終計画を…。

 

………

……

 

北欧戦線から帰還したD×Dのメンバーはそれぞれの部署に戻り、行動を開始する。

 

ただ、今回の北欧戦線にイッセーの姿はない。

理由はリゼヴィムとの戦いで行った龍神化。

その後遺症によって生命の危機に陥っていたからだ。

今はアザゼル考案の施術で復調したらしく、首都リリスにあるセラフォルー記念病院に入院していた。

だが、そこで驚愕の事実が判明する。

イッセーの力の源…『おっぱいドラゴン』の象徴…女性の胸を認識出来ないという事実が…。

さらに悪いことに、その胸のことを考えるだけでイッセーは苦しむ事態にも陥っていた。

 

 

 

イッセーがそのようなことになっていた一方で…。

 

忍は海斗の元を訪れていた。

アグレアス奪還作戦時、忍不在の間に駒王町で起きた出来事を改めて聞く必要があったのと、今の海斗の状態を知りたかったから北欧戦線から帰還してすぐに駒王町に戻ってきたのだ。

そのはずなのだが…。

 

「海斗に会わせられないだと?」

 

「これはあたし達の問題だから、部外者は引っ込んでて」

 

海斗の部屋に訪れた忍は、部屋から出てきた奈緒によって海斗本人と会うことが出来ないでいた。

 

「今は火急の事態なんだ。いいから、海斗に会わせろ!」

 

「生憎と、知らない奴をあの人に会わせる訳にもいかないのよ」

 

「俺はあいつの親友だ!」

 

「その証拠は?」

 

「なんだと…?」

 

「親友って言うなら…なんで、あの場に駆け付けなかったの?」

 

奈緒の忍に向ける眼は批難しているようにも見えた。

 

「それは…こっちにもこっちの都合ってもんが…!」

 

アグレアスの重要性を知らない奈緒にそれを言っても詮無いことだとわかっていても、こうも突っ張られ続けると、忍も少々冷静でいられなくなっていた。

 

「海斗! 俺だ、忍だ! 話があるから、出てきてくれ!」

 

その場に結界を張り、部屋の中へと届くように忍は声を張り上げる。

 

「うるさいわね! 近所迷惑よ!」

 

結界に気付いていない奈緒がそのように文句を言うが…

 

「海斗!!」

 

忍は構わずに海斗の名を呼ぶ。

 

すると…

 

「………………」

 

まるで幽鬼のような、静かな殺意を滾らせた海斗が出てきた。

 

「海斗…お前…!?」

 

親友の変わり果てた姿に忍は少し驚く。

しかもその姿を、忍はよく知っていた。

 

「忍か…何の用だ?」

 

いつもの海斗ではない。

復讐の念に取りつかれている。

それが忍には手に取るようにわかった。

 

「俺は…お前のそんな姿を見に来たわけじゃない」

 

「………………」

 

忍の言葉に海斗は何も反応しない。

ただただ、憎い相手を捜しているような…。

 

「海斗。聞かせてくれ…俺達がアグレアスで戦っている間に一体何があったのかを…」

 

「何があったか、だって?」

 

「…お前の口から聞きたいんだ」

 

「………………」

 

忍はそれでも海斗の口から真実を聞きたいと伝える。

 

「アルカと、シルトが…連れ去られた。俺の…目の前で…」

 

「あの2人が…」

 

「相手は剣を使って…シルトを串刺しにし、アルカの脳天を貫き、俺の砲撃の盾にした。そして、2人を物のように扱って連れ去ったんだ…!!」

 

「相手の特徴は?」

 

「眼帯の男だった。無数の双剣や変なレイピアなんかを使った…」

 

「…ロンドか」

 

その特徴に一致しうる人物に心当たりがあった忍は、裏にいる存在のことも考え、苦い表情を作る。

 

「(ここに来て、絶魔勢の介入…一体何を考えてやがる?)」

 

忍がロンドの名を口にした途端…

 

「知っているのか!? あいつのことを!!」

 

忍の胸倉を掴み、海斗がまるで鬼の形相の如く怒りに満ちた表情で問い質す。

 

「……俺があいつのことを知ってたとして…無力なお前に何が出来る?」

 

「なに!?」

 

「海斗…別に(いか)るな、とは言わない。大切な…家族も同然の2人を目の前で傷つけられ、連れ去られたんだ。その心中は…」

 

「お前に何がわかる!?」

 

忍の言葉を聞き、海斗が声を荒げる。

 

「わかるんだよ。俺には…」

 

そう言う忍の瞳には僅かに悲しみの色が見えていた。

 

かつて、もう1人の自分…パラレルワールドで起きたことを海斗が知る由もないが、忍には大切な人を亡くした記憶と体験が魂に刻まれている。

そして、太古の時代にて恩師を目の前で切り捨てなければならなかった事実もある。

まぁ、その話をしている時間も今は惜しいため、伝えないが…いずれは話す機会もあるだろうと忍は考えていた。

 

「忍…?」

 

その僅かな悲しみの色を、海斗は忍から読み取った。

いくら怒りで目が曇っていようが、親友の瞳の色を間違えるほど、海斗も愚かではない。

それがどのような理由かまではわからない。

ただ、親友の…その言葉を否定することが出来なかった…否、したくなかったのかもしれない。

 

「海斗。今、世界は邪龍軍によって混沌と化している。絶魔勢も動いているとなると、俺も無視はできない。だが、だからと言って怒りで我を忘れちゃ駄目だ。こういう時こそ冷静に…その怒りは、今は胸の内にしまっておけ。ここぞという時に、解放してぶつけてやればいい。それに…お前は王になるんだろ? 一時の感情で全てを台無しにするな。必ず、反撃出来る時はくる」

 

「………………」

 

忍の言葉に、海斗は忍から手を離し、ギュッと拳を握り締める。

 

「海斗…」

 

「俺には…為すべきことがある」

 

顔を上げた海斗の瞳には、確かな決意の炎が灯っていた。

 

「行くのか?」

 

「こんな時に悪いけど…行かないとならない」

 

「いいさ。お前は俺の親友なんだ。その親友が、行くってんなら…止めはしない」

 

「……ありがとう、忍」

 

海斗は忍に一礼すると、部屋へと戻り…

 

「唯」

 

中にいた唯に声を掛けていた。

 

「はい」

 

事の成り行きを見守っていた唯は静かに頭を下げる。

 

「本当に申し訳ない。覚えがないと言ってしまえば、それまでだが…俺は君の想いをずっと裏切り続けていたんだね。そのことについては…謝る他ない」

 

「カイト、様…」

 

「都合がいいのは承知の上だ。君の気持ちに応えられるかどうか…今はまだ正直わからない…」

 

「っ!」

 

それを近くで聞いてた奈緒はあからさまに嫌な表情を浮かべるが…。

 

「それでも、今は俺の責務を果たしたい。この痣に恥じないように…俺は、カイル叔父さんに会いに行く」

 

「………………」

 

「そして、この…第二の故郷を守りたい。それが俺の…今の、偽ることのない気持ちだ」

 

「御意」

 

「行こう、ブルートピアへ…!」

 

こうして、海斗は故郷…ブルートピアへと向かうことになった。

 

 

 

邪龍軍の進撃が再開するまでの時間は残り少ないと思うが、海斗もこの世界を守りたいと、行動を開始した。

 

………

……

 

海斗がブルートピア行きを決める少し前…。

 

「お忙しい時に申し訳ありません。ミカエル様」

 

『あなたから連絡をくれるとは珍しいですね、アリア』

 

駒王町の教会にてアリアが天界で復興作業の陣頭指揮を執っているだろうミカエルに連絡を入れていた。

 

「はい。実は、以前よりご相談していた痣の件でご報告が…」

 

『あなたの右腕に表れたという例の痣ですか。何かわかったのですか?』

 

「はい。この痣は…」

 

アリアはミカエルに海斗から聞いた情報を伝えていた。

 

『なるほど。その痣は、異世界由来のものでしたか。ふむ…』

 

「私は、どうしたらよいのでしょうか?」

 

アリアはミカエルにそんな風に尋ねていた。

 

『……アリア』

 

「はい」

 

『あなたのやりたいようにやりなさい』

 

「私の…?」

 

『えぇ。あなたの心の赴くままに…自由に羽ばたいてください。あなたの翼は、そのためにあるのですから』

 

ミカエルは優しい笑みを浮かべながらそのように伝えていた。

 

「自由に…」

 

『では、私はまだ復興作業があるので、失礼しますね』

 

「はい。貴重なお時間をありがとうございます」

 

『お気になさらず』

 

そうしてミカエルとの通信が終わる。

 

「私の、やりたいように…」

 

アリアは静かに目を閉じ、しばらく考え込む。

 

そうして、アリアの出した決断は…

 

………

……

 

「………………」

 

借りている部屋の中で正座をしながら瞑想に耽る薫。

 

『あぁ、我が愛しくも美しいマスターよ。何を悩んでいるのかな?』

 

そんな彼女に誰かが声を掛ける。

いや、声を掛けるというよりかは音声が聞いてきたといった方がいいか…。

 

「あなたですか。今は息を潜めているのではなかったのですか?」

 

『つれないなぁ。まぁ、状況が動きつつあるからね。久し振りにこの僕の力も必要になるんじゃないかな?』

 

「………………」

 

『ふふ…"僕ら"が揃い始めてきた。これは何を意味するのかな?』

 

「"僕ら"?」

 

『そういえば、マスターには言ってなかったね。まったく、不本意ながら僕らは全部で12機あるんだ。もちろん、姿形や性格は異なるけどね。僕的には彼等と一緒のカテゴリーというのが不本意でならないんだけどね。まぁ、美しい同胞もいるから多少は我慢してるけど』

 

「あなたみたいな存在が12機…」

 

『そう、僕ら"エクセンシェダーデバイス"は黄道が由来だからね』

 

どうやら声の正体はまだ未確認のエクセンシェダーデバイスのようだ。

 

「何故、黄道が…」

 

『さぁ? そこまでは僕も理由を知らないかな』

 

「………………」

 

『最近までに僕が感じただけでも、ひぃ、ふぅ、みぃ……少なくとも7体は確認したかな』

 

「よく向こう側に気付かれませんでしたね」

 

『休眠状態でもそのくらいは察知できるさ。ま、活動してないと、互いの存在は確認できないと思うけどね』

 

「なるほど。となると、今は察知されてるのでは?」

 

『最低限の機能しか使ってないから、よほど近くにいないと勘付かれないよ』

 

「そうですか…」

 

薫がそのように納得していると…

 

『それで? 最初の質問に戻るけど、マスターは何を悩んでいるのかな?』

 

「私自身の在り方を…」

 

『ほぅ?』

 

薫の言葉にエクセンシェダーデバイスが興味深そうに声を漏らす。

 

「私は実家から逃れるために、この町に来ました。ですが…三大勢力の和平に伴い、賞金稼ぎも難しくなっていたのも確かです。そこにきて、この痣の正体が知れたのは僥倖です。でも、王の臣下。それも異世界の、となると…意味が分かりません。何故、私が選ばれたのか…妹の命で生き長らえている、私が…」

 

『………………』

 

「私は…」

 

薫が自問自答を繰り返そうとすると…

 

『マスター』

 

「?」

 

『あなたは僕が選んだマスターだ。あの家の誰でもない。あなただからこそ、僕はあなたに力を貸しているんだ。それを忘れないでおくれよ』

 

「……肝に銘じておきます」

 

エクセンシェダーデバイスの言葉に、薫はそのように答えると、スクールバッグの中からそれなりに小綺麗な箱を取り出す。

 

「では、私も私なりの流儀を通しましょう。行きますよ、『ライブラ』」

 

薫は箱の中から、天秤座のシンボルと十字架の意匠を施し、外装を白銀色の金具で覆った2種類のカーネリアンを携えた白銀色のチェーンブレスレットを取り出した。

 

『もちろんだ。我が愛しくも美しいマスター』

 

駒王学園の制服に着替え、右腕にライブラを巻くと薫は部屋を出た。

 

ライブラ…天秤座が今、動き出す。

 

………

……

 

そして、海斗が唯と奈緒、ハイネを引き連れてブルートピアへ向かう途中のこと。

 

「ホントにあの2人は置いてくの?」

 

奈緒が薫とアリアについて海斗に尋ねていた。

 

「元々、こちら側の人間なんだ。俺達の国の事情に巻き込むわけにもいかないだろう」

 

「カイト様がそう仰るのなら…」

 

「でも、あの2人は痣の持ち主であって全くの無関係ってわけでもないでしょ?」

 

海斗の言葉に唯は従順っぽく頷くが、奈緒の方は難色を示していた。

 

「それでも、だ。特にクラシエルさんはおそらく三大勢力に属してる。そうおいそれとは抜け出せないだろう」

 

「三大勢力?」

 

「こちらの宗教的な勢力だ。他にも色々あるが、今はこの三大勢力が中心に他の勢力と和平を結んでいるんだよ」

 

「ふ~ん…」

 

奈緒の疑問に海斗が答えていると…

 

「ですが、その同盟勢力も邪龍軍の変則的な動きのせいで機能していないようです」

 

「今は沈黙を保っていますが、それも時間の問題でしょう」

 

シスター服を身に纏ったアリアと、駒王学園の制服を着た薫が現れる。

 

「久瀬先輩に、クラシエルさん…?」

 

2人の登場に海斗も目を丸くしている。

 

「どうして、ここに?」

 

実は駒王町にもブルートピアへ向かうための次元の裂け目があったりする。

 

「アザゼル様より、駒王町のいくつかの地点に不審な歪みがあると聞きました。その内の一つに水神様達が向かうとエージェントの方に聞き、ここまで来ました」

 

アリアはそのように説明したが…

 

「私は…あなたの正義を計りに来ました」

 

薫の目的は違うようだった。

 

「俺の、正義…?」

 

「はい。そのために…私はここに来ました」

 

そう言って薫は白銀のチェーンブレスレットを巻いた右手を海斗に向ける。

 

「目覚めなさい。エクスキューター・ライブラ!」

 

『いいとも。我が愛しくも美しいマスターよ』

 

カッ!

 

一瞬の閃光の後、駒王学園の制服の上から白銀の鎧が装着される。

 

「なっ!?」

 

「「「!!」」」

 

その姿に海斗が驚き、唯と奈緒、ハイネが臨戦態勢を取る。

 

「邪魔立て無用!」

 

薫が素早く腕を横一閃に振るうと…

 

『ジャッジメント、発動!』

 

ジャキンッ!!

 

突如として、海斗、唯、奈緒、ハイネの身体に鎖が巻かれていく。

 

「拘束系の魔法!?」

 

「たかが鎖程度、で!?」

 

「!?」

 

「な…? 身体が、重く…!?」

 

拘束された4人は、まるで何か重い物でも持たされたかのような錯覚に陥り、身動きが取れなくなっていた。

 

『ふふっ、無駄だよ。僕の固有魔法は相手の罪の数と質によって拘束した相手の重さが変わるのさ。それは連帯責任でも有効。数と質が多ければ多い程に、罪の重さは君達に重くのしかかるのさ』

 

自らの固有魔法をライブラが得意げに話す。

 

「完全無欠の清廉潔白な人間など、この世には極少数しかいないでしょう。罪の意識があるからこそ、人は自らを律するのです。罪を罪と認めている。それは人として正常です。しかし、時にそれは残酷でもある」

 

そう呟きながら薫は両肩からロッドを1本ずつ両手に持つと、それらを組み合わせて棍状にする。

 

「王となるのなら…この程度の重さは耐えてみなさい。それが上に立つということ…!」

 

ガンッ!!

 

「がっ!?」

 

薫は海斗にのみ攻撃を加える。

 

「カイト、様…!」

 

「くっ…この…!」

 

重く感じる身体のせいで上手く動けない唯と奈緒が藻掻く最中…

 

「そして、向き合ってみなさい。己の罪と…!!」

 

ボァ!!

 

赤い炎が棍の両先に灯り、それを海斗に叩き付けようと鋭い突きを放つ。

 

「くっ!?」

 

拘束されていても魔法の行使は可能だと踏んだ海斗がシールドを張るが…

 

「無駄です!!」

 

ドンッ!!

 

シールドに突きが衝突した瞬間、まるでシールドが脆くなったように簡単に貫通し、海斗の胸に突き刺さる。

 

「がはっ!?」

 

その突きに海斗は成す術もなく吹き飛ぶ。

 

「(なんだ、今のは…?)」

 

ただ炎が灯っただけで刃状にもなっていない棍の突きが、海斗のシールドを貫通した。

この事実に、海斗は混乱した。

 

「あなたに、休む暇があるとでも?」

 

根を突き刺したまま、僅かに棍を持っていた手を緩め、反対側の先を叩くと、突き刺していた方の先が上昇し、海斗の顎にクリーンヒットする。

 

「っ!?」

 

回転しながら上に飛ぶ棍を無視し、新たに背中から2本ずつのロッドを取り出すと、それらを組み合わせて今度はトンファー状の形態にする。

 

「しっ!」

 

再び赤い炎をトンファーに纏わせた薫が海斗に殴り掛かる。

 

「ティア・シューター!」

 

これ以上、貰うわけにはいかないと判断した海斗が水属性の誘導弾を周りに展開し、発射するが…

 

「ふんっ!」

 

カンフー映画もビックリのトンファー捌きで全ての水弾を弾いてしまった。

しかも気のせいか、赤色だった炎が橙色へと変化しているようにも見えるが…?

 

「(炎の色が…?)」

 

海斗もそれに気付いたようだが、向かってくる薫に対して今度は砲撃を撃つことを選択していた。

 

「アクア・バスター!!」

 

水属性の砲撃を撃つ。

 

「………………」

 

それを薫は両腕をクロスし、トンファーに灯った炎の色を緑色へと変えて防御の構えを取る。

 

「(また、色が…?)」

 

ゴオォォ!!

 

「この程度ですか?」

 

防御した薫は少しだけ下がったようだが、それでも大したダメージにはなっていないようだった。

 

「ぐっ…!」

 

海斗はなんとか立ち上がろうとするが…拘束され、重くなった身体では思うようにいかないらしい。

 

「王を自称するなら、清濁併せ呑む度量を見せてください。それが出来ないのなら…」

 

ザッ…。

 

そう言って薫は海斗の目の前に立つと…

 

「あなたに王の資質はないでしょう」

 

いつの間にかトンファーをロッドに戻して背中に収納していた薫は頭上から落ちてきた棍状のロッドを手にし、海斗の眼前に突きつける。

 

「………………」

 

「………………」

 

しばしの間、静寂がその場を支配する。

 

「………………」

 

しかし、海斗の眼はまだ死んでいなかった。

 

「諦める気はない、と?」

 

その眼を見て薫は尋ねる。

 

「えぇ。俺は諦めたくない。王になることを…」

 

「この状況でも?」

 

「そうです。確かに俺は罪を犯してきた。でも…それでも、俺は…王子として、あの世界に戻らなければならないんです」

 

「それは何故? 血筋や痣を理由にするのであれば…」

 

「違う!」

 

「………」

 

「確かに、俺の血筋は前王の系譜だ。痣もあるから正統性だってある。けど…それだけじゃ駄目だ。俺が目指すべき王の姿は…あの背中を…偉大な背中を超えたいからだ!」

 

その時、海斗の眼の奥には前王として、父として、男として…その思い出は少ないが、何よりも厳しかったあの人を超えたいという願いの炎が灯っていた。

 

「もう会うことも、教えを乞うことも出来ないが…俺は、俺なりの方法で、前王を超える…!」

 

その瞬間…

 

カッ!!

 

海斗、唯、奈緒、薫、アリアの右腕に宿る痣が輝きだしたかと思えば、それぞれの右腕から消失し、海斗の背へと収束していき、海龍神の姿を模した痣が浮かび上がる。

 

そして…

 

バサリッ!!

 

変化はそれだけに留まらず、海斗の背中から瑠璃色の4対8枚の翼が広がり、髪も白に近い水色から澄んだ蒼へ、瞳もエメラルドグリーンから鮮やかな深紅へと変貌を遂げる。

 

「な!?」

 

『魔力量、急激に増大!? 一体何が…!?』

 

その現象に薫とライブラが困惑する。

 

「………………」

 

この変貌には海斗自身もまた驚いているが、不思議と頭の中はクリアになっていた。

そして、自身に何が出来るのかも…。

 

「ライブラ!」

 

『スキルキャンセラーシステム、起動!』

 

「これであなた達の異能の力は振るえない!」

 

だが、薫もすぐに相手の能力を封じることを決めていた。

ただ…何故、最初からそのシステムを起動しなかったのか…。

使っていれば、文字通り封殺していたのに…。

 

「問題ありません」

 

しかし、今の僅かな時間に海斗は既に手を打っていた。

いや、正確には…

 

「ッ!!」

 

バキンッ!!

 

内側から力づくで鎖を打ち破るようにして引きちぎる。

 

「なっ!? 異能は封じたはずなのに!?」

 

「封じられる前にちょっと力を込めました。既に発動し、残留した力までは無効化出来ないようですね」

 

なんてことないように聞こえるが、あの一瞬でそこまで思考が巡るものか…?

 

『バカな! 完璧な僕のシステムにそんな穴があるはずがない!!』

 

「実際、こうしてどうにか出来た。それが答えでは?」

 

『貴様…!!』

 

海斗の挑発にライブラがいつになく感情的になるが…

 

「落ち着きなさい、ライブラ」

 

『ぐっ…!』

 

薫がライブラを諫める。

 

「ですが、状況が五分になっただけ。まだ勝敗がついたわけでは…」

 

「いえ、この時点で俺の勝ちです」

 

海斗は静かに目を閉じていた。

 

「え…?」

 

その意味が分からず、薫が足を動かすと…

 

チャプッ…

 

「?」

 

まるで水に足を取られているような感覚に陥り、自らの足元を見ると…

 

「な…?」

 

何故か、水気のなかった場所にまるで川か池、湖…いや、海があり、そこに足を取られているかのような…

 

「冥王スキル『ハザード・オーシャン』」

 

海斗がそう口にした瞬間…

 

ブンッ…!

 

海斗と薫を取り込むように大量の水が出現し、球体状となって2人を包み込む。

海人族である海斗は問題ないが…

 

「ごっぽ!?」

 

普通の人間である薫は突然の水中に取り乱したようだった。

 

「これでおしまいです」

 

海斗はそう言って薫の意識を刈り取るべく彼女の首筋に手刀を決める。

 

「っ!?」

 

薫が意識を手放した直後、海斗と薫を包み込んでいた水が消える。

 

「っと…」

 

水から解放され、地面に衝突しそうになる薫を海斗が抱き留める。

 

「アクア・ブレイク」

 

ガキンッ!!

 

さらに海斗は水を凝縮した小型球体で唯、奈緒、ハイネのジャッジメントを破壊する。

 

「時間が惜しい。急ごう」

 

「………………」

 

唯はちょっと羨ましそうな視線を薫に向けるが、すぐに佇まいを直して気を引き締めたような表情に戻る。

 

「(姉さん…)」

 

その僅かながらも微妙な変化を妹は察したが、多くは言うまいと口を閉ざしていた。

 

「あ、待ってくださ~い」

 

さっきからずっと蚊帳の外だったアリアも正気に戻ると、海斗達を追い掛けるのだった。

ちなみに海斗の背に集まっていた痣はそれぞれの右腕に戻っていたりもする。

 

 

 

こうして、海斗達はブルートピアへと赴く。

 

だが、事態は刻一刻と変化していた。

冥界では暴徒鎮圧に駆り出されていたサイラオーグや匙がレーティングゲームのトップランカーと戦い、勝利を収めていたりもした。

 

そして、邪龍軍の動きも再開の兆しを見せつつあった。

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