邪龍戦役の最終盤。
イッセーやヴァーリ達が日本近海やヨーロッパで激戦を繰り広げていたのと時を同じくしてブルートピアに赴いていた海斗達にも動きがあった。
ネオアトランティス王国の首都『ネオアトランダム』。
夜の大通りを堂々と歩く海斗一行。
向かう先は王城。
「まさか、堂々と乗り込もうなんてね」
「………………」
奈緒の呆れたような言葉に海斗は答えず、王城へと続く大通りを進んでいく。
そして、王城を囲む城壁の門へと辿り着くと…
「止まれ! こんな時間に何者だ!?」
当然ながら門番が海斗達の行方を阻む。
「私達の顔を忘れましたか?」
そう言って唯と奈緒が前に出ると…
「こ、これは騎士団長様。しかし、こんな夜分遅くに…」
門番が少したじろぎながら疑問符を浮かべる。
「王の帰還です。道を開けなさい」
「……は?」
唯の言葉が理解できずにいると、海斗が前に出てきて…
「我が名はカイト。カイト・アトランタ・アクエリアスだ」
右腕に宿る蒼き龍の痣…その頭部を門番に見せつける。
「そ、その痣とお名前は!?」
門番の驚いたような反応を見つつ、海斗は王城へと歩を進める。
「か、開門! 急いで開聞しろ!!」
門番の大声で王城へと続く道が開かれる。
「行こう」
「はい」
海斗の言葉に応えながら唯が続く。
「随分と強引ですね…」
「いいんでしょうか?」
薫とアリアが海斗の強引な進み方に疑問を抱いていると…
「ま、このぐらい強引な方が今はいいかもね」
奈緒がそんなことを言いながら海斗を追い掛け、薫とアリアもその後を追う。
突然の海斗の来訪。
城は大いに混乱した。
そして、それは国王代理の耳にも届く。
「カイトが戻ってきた、だと!?」
「はっ。既に城内に入り、謁見の間へと向かわれているとのこと」
「ちっ…今になって戻ってくるとは…!」
ダンッ!!
机を叩き、忌々しそうに海斗の名を呼び捨てる。
「如何なさいますか?」
「行かぬわけにもいくまい! 行くぞ、グラッセ!」
「御意」
執事服を身に纏った老執事であり使い魔でもある『グラッセ』を引き連れ、国王代理『カイル・アトランタ・アクエリアス』が謁見の間へと向かう。
謁見の間。
夜遅くということもあり、謁見の間に臣下はおらず、海斗一行とカイル、グラッセしかいなかった。
立ち位置としては玉座にカイルが座り、その傍らにグラッセが控え、対する海斗はカイルに対峙するように謁見の間の中間辺りに立ち、その傍らには唯と奈緒、薫、アリアが控えている。
「久しいな、カイト」
「お久し振りです、カイル叔父さん」
甥と叔父…肉親であるものの、2人を取り巻く空気は…まるで敵同士のものだった。
とても再会を喜び合うような関係ではない。
「今更、どの面下げて戻ってきたんだ? 王座を取り戻しに来たのか?」
「………………」
「だんまりか?」
カイルが海斗に声を掛けるが、海斗は静かに周りを見て思う。
「叔父さん。ここはこんなに煌びやかでしたか?」
そして、その思いを疑問としてカイルにぶつけた。
「お前がいないせいで、俺が国王代理だったんだ。この程度の見栄は必要だろう?」
「父は…先王は質実剛健でした。だから無駄なことに注力しない。このように見栄を張らなくても…」
「それはお前達親子の価値観だ。俺は違う。俺は国王代理だからな。ある程度の見栄が必要だったんだ!」
「だから…謁見の間がこのように煌びやかなのですか?」
「そうだ! お前のいない間、俺がどれだけ苦労したと思っている!?」
そう言いながらもカイルの表情は、海斗に向けた憎悪に満ちていた。
「……父が突然、崩御したんです。何かあると警戒するのは当然では?」
「それならば、すぐに戻ってくればよかったのだ! お前には痣がある!」
「それを口実に俺が操り人形のようになるのを避ける必要もあったはずですが?」
「だが、兄貴亡き後、すぐに王子も消えたのだ。今更、民がお前を王と認めると思うのか!?」
「難しいでしょうね」
「ならば、王位を俺に譲れ! そうすれば、今までのように俺が統治して…」
「それで、民が安心するのであれば、そうしましょう。ですが…」
海斗はカイルに鋭い視線を向け…
「父を…先王を暗殺した者が明らかになるまで、俺は王位継承権を破棄することはあり得ません。何より…それでは、父に顔向けできないし、民を守る義務を放棄するつもりもない!」
そう言い放っていた。
「今更、民を守るだと!? どの口が言うのだ! 今まで、ネオアトランティス王国の民を守ってきたのは俺だぞ!?」
「確かに…今まで国を空けていた俺が言っても無駄でしょう。ですが…これからは違う。俺はこうして戻ってきた。先王…『カイバ・アトランタ・アクエリアス』の息子として、務めを果たすために」
「ッ…!!」
カイルは海斗の今の立ち振る舞いに先王の姿を重ねていた。
それを感じ、カイルは激しい憎悪の感情を抱く。
「どこまで邪魔な親子なんだ…!」
そして、小さく怨嗟の声を漏らす。
「兄貴の忘れ形見め。兄貴と似たようなことを言いやがって…!!」
そして、その憎悪が激しくなるにつれ、カイルの言動が狂い始める。
「そうだ。兄貴と同じように、お前も消えれば、痣は俺を選ぶはず…そうすれば、俺が真の国王として君臨できる…!!」
国王ではなく、国王代理としてネオアトランティス王国を纏めてきたが、やはり求心力は先王には劣り、権力や財に目が向きがちな性質だった。
そうして肥大化した欲望は、狂気へと変じていく。
その狂気に付け入る者も当然いた。
『もし、あなたにとっての障害が現れたのなら、これをお使いください。きっと、お役に立ちますよ?』
その者の言葉をカイルは思い出し、いつも持ち歩いていた小瓶を取り出す。
「そうだ…邪魔な奴等は全員…消えてしまえばいい…。兄貴も殺せたんだ…その息子だって…!!」
取り出した小瓶の中身…黒い液体をその場で飲み下すカイル。
「カイル様!?」
「叔父さん? 何を!?」
突然のカイルの行動に傍に控えていたグラッセも驚き、海斗も何事かと声を上げる。
「ゲハハハハハ!! カイトぉぉ!! お前も兄貴の後を追わせてやるぅぅぅ!!!」
狂喜に満ちた高笑いを出した後、カイルの身体に異変が起きる。
ボコボコと音を立ててカイルの肉体のあちこちが膨張していき、肌も黒く染まっていき、異形の化け物へと変貌させていく。
「カイル、様…!?」
主の変貌にグラッセも面食らっていた。
「叔父さんが…化け物になった!?」
「カイト様! お下がりください!」
その状況に唯と薫が海斗よりも前に出て迎撃態勢に移る。
奈緒はアリアの近くにいて、そちらの護衛をするようだった。
『力ガ…力ガ漲ルゥゥゥ!!!』
変貌したカイルが吠えると、黒い靄のような波動が謁見の間に広がる。
「ライブラ!」
『あぁ、我が愛しくも美しいマスター』
「こんなことになるなんて…!」
薫がライブラを身に纏い、唯も帯剣してた細身のレイピア状の剣を抜く。
「なんて…憎悪に満ちた波動でしょう…」
アリアが苦しそうな表情を浮かべる。
「大丈夫?」
そんなアリアを奈緒が支える。
「叔父さん…!」
そんな叔父の姿を見て、海斗も腹を括ることにした。
「アクア・ブレット!!」
海斗はすぐさま水球を展開し、牽制するようにカイルに向けて放つ。
『無駄ダァァァ!!!』
しかし、カイルは肥大化した拳でもって海斗の水球弾幕を軽々と打ち落としていく。
「ハッ!!」
アリアを連れて退避する奈緒が棒手裏剣のようなものを投擲していた。
キンッ!!
だが、それも硬化したらしいカイルには傷一つついていなかった。
「くっそ!」
「あの…これを…」
奈緒が悪態を吐いていると、アリアがどこから取り出したのかわからないダガーを渡してくる。
「アンタ…いつの間にこんなものを…?」
「これには光属性が付与されています。もしかしたら…」
「……ま、物は試しか」
奈緒がアリアの持つダガーに驚いていると、アリアがそのように説明してきた。
なので、奈緒も一旦アリアの事情を脇に置いておいて、ダガーを試すことにした。
「己の罪に縛られなさい!!」
『ジャッジメント、並びにスキルキャンセラーシステム起動』
薫がライブラの固有魔法『ジャッジメント』を起動させ、それによってカイルを拘束し、異能を封じようとする。
「ハッ!!」
その隙を突いて奈緒が光属性を付与したというダガーをカイルに投擲する。
グサッ!!
『グオオオオオ!!?』
それは見事にカイルの胸に突き刺さり、苦しみ出した。
「効いたの!?」
「………っ」
奈緒が驚いていると、アリアも意を決したように祈るポーズをして…
「主よ。我が行いをお許しください…」
バサリ…
アリアの背から純白の翼が広がる。
「転生天使!?」
海斗がアリアの正体を推理するが…
「皆さん、これらをお使いください」
アリアは気にした様子もなく、翼から羽が抜け落ち、それが光属性を纏った剣やダガーといった武具へと変化していく。
「神器!?」
「今はとにかく、あの方を…」
「姉さん!」
薫も驚く中、奈緒が剣を持って唯へと投げる。
「これでなら…!」
身動きが十分に取れないカイルに唯、奈緒、薫が攻勢を仕掛ける。
『調子ニ乗ルナァァァ!!!』
だが、カイルの咆哮と共に黒い靄の波動が広がって近くにいた唯と薫を吹き飛ばす。
「きゃっ!?」
「くっ!?」
2人は謁見の間の左右の壁に激突する。
「姉さん!?」
「薫さん!?」
奈緒とアリアが声を上げると…
バキンッ!!
ジャッジメントを力づくで引きちぎったカイルが視線を奈緒とアリアに向ける。
「させるか!」
己の力を封じていた枷を外し、海斗がカイルの前に立ち塞がる。
『カイトォォォォ!!!!』
カイルが両拳を海斗に向けて振るう。
「ぐっ…!!?」
その両拳を海斗は真っ向から受け止めるが、体格差と異常な力によって両足を中心に床を陥没させていた。
海斗にも吸血鬼としての血が流れているから、多少は拮抗したものの、力を使うことに慣れていないというのもあってすぐに押し戻されていたのだ。
『潰レロォォォ!!!』
そのままカイルは海斗を圧し潰そうとするが…
「俺は、今度こそ守ると誓ったんだ…」
海斗はその重圧を踏ん張って耐え…
「だから、こんなところで負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」
そして、復讐のためじゃなく、今度こそ約束や民を守ると誓い、戦うことを選択した。
その時…
『ガオオオオオオ!!!』
まるで獅子の咆哮のような雄叫びが響いてきた。
「なに!?」
突然の雄叫びに誰もが驚く。
『この雄叫びは…まさか!?』
さらにライブラがその咆哮を察していると…
ドガァァァンッ!!!
謁見の間の入り口を破壊し、白銀の影が姿を現す。
『汝に王の資質を見出したり』
そこにいたのは、白銀の獅子だった。
『貴様は…レオ!?』
『ライブラか。久しいな』
白銀の獅子…ライブラの言が正しいなら、『レオ』はライブラを身に纏う薫を一瞥してから海斗に視線を向け…
『邪魔だ、下郎』
そう言ってレオが一咆哮すると…
『グオオオオオ!!?』
カイルの体表が、まるで爆発でもしたかのように炸裂し、カイルの身体を吹き飛ばしていた。
『相変わらずの凄まじさだ』
ライブラがそんなことを言う中、レオは海斗の元まで歩いていくと…
『汝、名は?』
「…カイト。水神 海斗。もしくはカイト・アトランタ・アクエリアス…」
『ほぉ、この世界の王族か』
それを聞き、レオはしばし海斗を注視する。
『先王が存命ならば、我が選定者に選んだものだが…良い眼をしている』
実はこの世界でレオが見つかったのは先王カイバが崩御してからだ。
カイルが発見したレオは、宝物庫に安置されていたが、ずっと己の選定者を見つけるべく世界を観察していた。
『未来の王よ。我が力を欲するか?』
「……力は力でしかない。使う人間次第で変わると、俺は考えている。そんな俺に、あなたを使う資格があるのか?」
『ふむ。ならば、質問を変えよう。汝、己の誓いを果たす覚悟はあるか?』
「二度と誓いを違いたくない。そう考えているが…俺は未熟過ぎる…また過ちを犯したら…」
『………………』
海斗のネガティブな答えを聞き…
『随分と甘いが、将来性を考えれば素養は十分か。いいだろう』
レオも決断した。
『カイト・アトランタ・アクエリアス。汝を今より、我が選定者として認めよう』
「なに…?」
『だが、努々忘れるなかれ。我が力に溺れれば、我は汝を即座に切り捨てる』
「………………」
『返答は如何に?』
「あぁ…わかった。あなたの名は?」
『我が名は「マジェスティ・レオ」。獅子座を冠するエクセンシェダーデバイス也!』
バキンッ!!
レオの身体がバラバラとなり、それが海斗の身体に鎧状となって装着されていく。
『カイトォォォォ!!!!』
それと同時にカイルも起き上がり、海斗に怨嗟の眼差しを向ける。
『一度に全ての武装を使う必要はない。今はこれだけを使うがいい』
そう言ってレオが目元を覆うバイザーに二つの武装情報を提示する。
「マジェスティキャリバー、マジェスティブラスター」
武装名を呟き、その情報を即座に目を通した海斗は…右手のバスタードソード型の長剣『マジェスティキャリバー』を強く握る。
「ロイヤルブルー・スラッシュ!!」
マジェスティキャリバーを横一閃に振るい、蒼く澄んだ斬撃をカイルに向けて放つ。
『グウゥゥゥゥ!!?』
カイルが防御の姿勢を取って耐えるが…
「マジェスティブラスター、ブレイカーモード!」
そこに海斗は加速して懐近くに入り込むと、左手のライフルの銃口を先に放った斬撃に合わせる。
「大海に沈め…オーシャン・ブレイカー!!」
ライフルの引き金を引き、瞬時に収束砲撃並みの砲撃を撃ち込み、斬撃の威力も合わせてカイルの身体を横半分に引き裂く。
『ガアアァァァァッ!?!?』
カイルが絶叫を上げ、下半身が仰向けになるように力なく倒れ、上半身もうつ伏せになるようにその場に落ちる。
『俺、コソガ…王ニ…!!』
それでも執念と呼ぶべきか、カイルは海斗に近寄ろうとして…
「さよなら、叔父さん…」
それを見た海斗は、それだけポツリと漏らすと…
グサッ!!!
マジェスティキャリバーを逆手に持ち直して、その切っ先をカイルの頭部へと突き刺していた。
『ガ…ガガ………ガ…ガ……』
それを最期にカイルは黒い灰のようになって消滅していった。
「カイル様…」
それをずっと見ていたグラッセは疲れ果てたようにその場に跪いていた。
こうして邪龍戦役の最終盤と時を同じくした海の世界の、ちょっとした戦いは終わりを告げた。
後日、グラッセから事情を聞いた海斗による演説があり、ネオアトランティス王国に新たな王が誕生することになる。
そして…
「ふふふ…遂に、全てが揃いましたか…」
変異フロンティアにてノヴァがおかしそうに笑っていた。
「12の星座が揃い、それぞれの選定者を得た。素晴らしいことです」
未だ完成を見ぬ『13番目の白銀の鎧』を前にノヴァは言う。
「さぁ、ここに"最後のエクセンシェダーデバイス"を完成させましょう。そのためには…」
にたり、と笑みを浮かべるノヴァの視線の先には、"とある世界で平凡に過ごす少女"が映っていた。